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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B |
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管理番号 | 1412985 |
総通号数 | 32 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2024-08-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2023-06-19 |
確定日 | 2024-06-27 |
事件の表示 | 特願2021−192151「インク組成物」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 2月 3日出願公開、特開2022− 22288〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2018年(平成30年)1月18日(先の出願に基づく優先権主張 平成29年1月18日、平成29年6月28日)を国際出願日とする出願である特願2018−525630号の一部を、令和3年11月26日に新たな出願としたものであって、令和5年1月30日付けの拒絶理由の通知に対し、同年2月28日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年4月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。 第2 本件補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正前の請求項1に係る発明 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、次のとおりである。 「 (a)ポリチオフェン化合物 (b)1種以上の金属酸化物ナノ粒子; (c)1種以上のドーパント;及び (d)1種以上の有機溶媒を含む液体担体 を含む、正孔注入層又は正孔輸送層形成用非水系インク組成物であって、 前記金属酸化物ナノ粒子が、ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、テルル、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、ニオブ、タンタル及びタングステンの酸化物、またはこれらを含む混合酸化物のナノ粒子であり、 前記ポリチオフェン化合物(a)が下記式(I): 【化56】 [式中、R1及びR2は、それぞれ独立に、H、アルキル、フルオロアルキル、アルコキシ、フルオロアルコキシ、アリールオキシ、−SO3M、又は−O−[Z−O]p−Reであるか、あるいは、R1及びR2は、一緒になって−O−Z−O−を形成する(式中、Mは、H、アルカリ金属、アンモニウム、モノアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、又はトリアルキルアンモニウムであり、Zは、任意選択的にハロゲン又はYで置換されていてもよいヒドロカルビレン基(ここで、Yは、炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルコキシアルキル基であり、該アルキル基又はアルコキシアルキル基は、任意の位置がスルホン酸基で置換されていてもよい)であり、pは、1以上の整数であり、そして、Reは、H、アルキル、フルオロアルキル、又はアリールである)] で表される繰り返し単位を含む、 正孔注入層又は正孔輸送層形成用非水系インク組成物。」 (2)本件補正後の請求項1に係る発明 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、次のとおりである。 「 (a)ポリチオフェン化合物 (b)1種以上の金属酸化物ナノ粒子; (c)1種以上のドーパント;及び (d)1種以上の有機溶媒を含む液体担体 を含む、正孔注入層又は正孔輸送層形成用非水系インク組成物であって、 前記金属酸化物ナノ粒子が、ケイ素の酸化物ナノ粒子であり、 前記ポリチオフェン化合物(a)が下記式(I): 【化56】 [式中、R1及びR2は、それぞれ独立に、H、アルキル、フルオロアルキル、アルコキシ、フルオロアルコキシ、アリールオキシ、−SO3M、又は−O−[Z−O]p−Reであるか、あるいは、R1及びR2は、一緒になって−O−Z−O−を形成する(式中、Mは、H、アルカリ金属、アンモニウム、モノアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、又はトリアルキルアンモニウムであり、Zは、任意選択的にハロゲン又はYで置換されていてもよいヒドロカルビレン基(ここで、Yは、炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルコキシアルキル基であり、該アルキル基又はアルコキシアルキル基は、任意の位置がスルホン酸基で置換されていてもよい)であり、pは、1以上の整数であり、そして、Reは、H、アルキル、フルオロアルキル、又はアリールである)] で表される繰り返し単位を含む、 正孔注入層又は正孔輸送層形成用非水系インク組成物。」 2 補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「金属酸化物ナノ粒子」の範囲について、「ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、テルル、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、ニオブ、タンタル及びタングステンの酸化物、またはこれらを含む混合酸化物」から、「ケイ素」の酸化物以外を削除するものであり、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。そうすると、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 3 本件補正発明 本件補正発明は、前記1(2)に記載したとおりのものである。 4 引用文献 (1)引用文献10 ア 引用文献10の記載事項 原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先権主張に係る先の出願前に頒布された引用文献である、特表2007−531807号公報(以下「引用文献10」という。)には、以下の記載事項がある。なお、引用発明の認定及び判断に用いた箇所に下線を付した。 (ア)特許請求の範囲 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 少なくとも1つのドープした導電性ポリマーと少なくとも1つのコロイド形成ポリマー酸とを含む非水性分散物を含む組成物であって、前記導電性ポリマーがポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、およびそれらの組合せから選択されることを特徴とする組成物。 … 【請求項13】 ポリマー、染料、カーボンナノチューブ、金属ナノワイヤー、金属ナノ粒子、カーボンナノ粒子、カーボン繊維、カーボン粒子、グラファイト繊維、グラファイト粒子、コーティング助剤、有機および無機導電性インクおよびペースト、電荷輸送材料、半導性または絶縁性無機酸化物ナノ粒子、圧電性、焦電気性、または強誘電性酸化物ナノ粒子またはポリマー、光導電性酸化物ナノ粒子またはポリマー、分散剤、架橋剤、ならびにそれらの組合せから少なくとも1つ選択される追加の材料をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。」 (イ)技術分野 「【0001】 本発明は、ドープした導電性ポリマーとコロイド形成ポリマー酸との非水性分散物に関する。 【背景技術】 【0002】 導電性ポリマーは、発光ディスプレイでの使用のためのエレクトロルミネセンス(「EL」)デバイスの開発においてなど、様々な有機電子デバイスで使用されてきた、導電性ポリマーを含有する有機発光ダイオード(OLED)などのELデバイスに関して、かかるデバイスは一般に次の構造を有する。 陽極/バッファー層/EL材料/陰極 … 【0004】 バッファー層は典型的には導電性ポリマーであり、陽極からEL材料層への正孔の注入を容易にする。バッファー層はまた、正孔−注入層、正孔輸送層とも呼ばれることができ、または二層陽極の一部として特徴づけられてもよい。…」 (ウ)発明が解決しようとする課題 「【0005】 良好な加工性および増加した導電性の改善された導電性ポリマーに対するニーズが存在する。」 (エ)課題を解決するための手段 「【0007】 少なくとも1つのドープした導電性ポリマーと少なくとも1つのコロイド形成ポリマー酸との非水性分散物を含む新規組成物であって、ドープした導電性ポリマーがポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、およびそれらの組合せから選択される組成物が提供される。」 (オ)発明を実施するための最良の形態 「【0012】 一実施形態では、少なくとも1つの導電性ポリマーと少なくとも1つのコロイド形成ポリマー酸との非水性分散物を含む組成物であって、導電性ポリマーがポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、およびそれらの組合せから選択される組成物が提供される。 【0013】 本明細書で用いるところでは、用語「分散物」は、微粒子の懸濁を含有する連続液体媒体を意味する。「連続媒体」は非水性液体を含む。本明細書で用いるところでは、用語「非水性」は、かなりの部分の有機液体を有する液体媒体を意味し、一実施形態ではそれは少なくとも約60重量%有機液体である。有機液体には、1つまたは複数の有機化合物が含まれる。本明細書で用いるところでは、用語「コロイド」は、連続媒体中に懸濁された微粒子であって、ナノメートル−スケールの粒度を有する微粒子を意味する。本明細書で用いるところでは、用語「コロイド形成」は、非水性液体に分散された時に微粒子を形成する物質を意味する、すなわち、「コロイド形成」ポリマー酸は、使用される特定の液体媒体に可溶ではない。」 (カ)ポリチオフェン 「【0015】 本新規組成物での使用を考慮されるポリチオフェンは下の式I 【0016】 【化1】 【0017】 (式中、 R1は各出現で同じまたは異なるものであるように独立して選択され、水素、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アルカノイル、アルキルチオ、アリールオキシ、アルキルチオアルキル、アルキルアリール、アリールアルキル、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリール、アルキルスルフィニル、アルコキシアルキル、アルキルスルホニル、アリールチオ、アリールスルフィニル、アルコキシカルボニル、アリールスルホニル、アクリル酸、リン酸、ホスホン酸、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、エポキシ、シラン、シロキサン、アルコール、ベンジル、カルボキシレート、エーテル、アミドスルホネート、エーテルカルボキシレート、エーテルスルホネート、およびウレタンから選択され、または両R1基は一緒になって、その環が任意選択的に1つまたは複数の二価の窒素、硫黄もしくは酸素原子を含んでもよい3、4、5、6、もしくは7員環の芳香族もしくは脂環式環を完成するアルキレンもしくはアルケニレン鎖を形成してもよく、そして nは少なくとも約4である) を含む。」 (キ)ドーパント 「【0034】 導電性ポリマーは少なくとも1つのアニオンでドープされる。本明細書で用いるところでは、用語「ドープされる」は、ドーパント上の負電荷が導電性ポリマー上の正電荷とバランスしているイオン対の形成を意味する。」 (ク)コロイド形成ポリマー酸 「【0038】 本新規組成物での使用を考慮されるコロイド形成ポリマー酸は、非水性液体媒体に不溶性であり、非水性媒体へ分散された時にコロイドを形成する。…」 (ケ)非水性液体媒体 「【0051】 本新規組成物の非水性液体媒体は、少なくとも60重量%の有機液体と、40重量%未満の水とを含む。一実施形態では、液体媒体は少なくとも70重量%の有機液体を含む。一実施形態では、液体媒体は少なくとも90重量%の有機液体を含む。好適な有機液体の例には、エーテル、環式エーテル、アルコール、ポリオール、アルコールエーテル、ケトン、ニトリル、スルフィド、スルホキシド、アミド、アミン、カルボン酸など、ならびにそれらの任意の2つ以上の組合せが挙げられるが、それらに限定されない。…」 (コ)バッファー層 「【0067】 一実施形態では、本新規組成物は堆積されて電子デバイス中のバッファー層を形成する。用語「バッファー層」は本明細書で用いるところでは、陽極と活性有機材料との間に使用することができる導電または半導電層を意味することを意図される。バッファー層は、有機電子デバイスの性能を手助けするためのまたは改善するための他の態様のうちで、下位層の分極、正孔輸送、正孔注入、酸素および金属イオンなどの不純物の捕捉を含むが、それらに限定されない、1つまたは複数の機能を有機電子デバイスで成し遂げると考えられる。 … 【0070】 一実施形態では、本新規組成物の乾燥した層は、それらがそれから形成された水または非水性液体に一般に再分散できない。一実施形態では、本新規組成物から製造された少なくとも1つの層を含む有機デバイスは多数の薄層でできている。一実施形態では、該層は、有機電子デバイスの層の機能性または性能への実質的な損傷なしに、異なる水溶性または水分散性材料の層でさらに上塗りすることができる。」 (サ)他の材料 「【0071】 別の実施形態では、液体媒体に可溶であるまたは分散できる他の材料でブレンドされた、少なくとも1つのドープした導電性ポリマーと少なくとも1つのコロイド形成ポリマー酸とを含む非水性分散物から堆積されたバッファー層が提供される。材料の最終用途に依存して、添加することができる材料のタイプの例には、ポリマー、染料、コーティング助剤、カーボンナノチューブ、金属ナノワイヤーおよびナノ粒子、有機および無機導電性インクおよびペースト、電荷輸送材料、圧電性、焦電気性、または強誘電性酸化物ナノ粒子またはポリマー、光導電性酸化物ナノ粒子またはポリマー、分散剤、架橋剤、ならびにそれらの組合せが挙げられるが、それらに限定されない。…」 (シ)水性溶液または溶媒から塗布された導電性ポリマーの層 「【0088】 本新規組成物を含む有機電子デバイスでの層は、水性溶液または溶媒から塗布された導電性ポリマーの層をさらに含む。導電性ポリマーは電荷移動を容易にし、そしてまたコーティング性も改善することができる。好適な導電性ポリマーの例には、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸、同時係属中の米国特許公報(特許文献19)に開示されているものなどのポリアニリン/ポリマー酸コロイド、同時係属中の米国特許公報(特許文献20)に開示されているものなどのポリチオフェン/ポリマー酸コロイド、ポリピロール、ポリアセチレン、およびそれらの組合せが挙げられるが、それらに限定されない。かかる層を構成する組成物は導電性ポリマーをさらに含んでもよく、また、染料、カーボンナノチューブ、カーボンナノ粒子、金属ナノワイヤー、金属ナノ粒子、カーボン繊維および粒子、グラファイト繊維および粒子、コーティング助剤、有機および無機導電性インクおよびペースト、電荷輸送材料、半導性または絶縁性無機酸化物粒子、圧電性、焦電気性、または強誘電性酸化物ナノ粒子またはポリマー、光導電性酸化物ナノ粒子またはポリマー、分散剤、架橋剤、ならびにそれらの組合せを含んでもよい。これらの材料は、ドープした導電性ポリマーとコロイド形成ポリマー酸との組合せの前か後かおよび/または少なくとも1つのイオン交換樹脂での処理の前か後かのいずれかに本新規組成物に添加することができる。」 イ 引用発明 引用文献10の記載事項(ア)に基づけば、引用文献10には、請求項1の記載を引用する請求項13に係る発明として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「 少なくとも1つのドープした導電性ポリマーと少なくとも1つのコロイド形成ポリマー酸とを含む非水性分散物を含む組成物であって、前記導電性ポリマーがポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、およびそれらの組合せから選択され、 ポリマー、染料、カーボンナノチューブ、金属ナノワイヤー、金属ナノ粒子、カーボンナノ粒子、カーボン繊維、カーボン粒子、グラファイト繊維、グラファイト粒子、コーティング助剤、有機および無機導電性インクおよびペースト、電荷輸送材料、半導性または絶縁性無機酸化物ナノ粒子、圧電性、焦電気性、または強誘電性酸化物ナノ粒子またはポリマー、光導電性酸化物ナノ粒子またはポリマー、分散剤、架橋剤、ならびにそれらの組合せから少なくとも1つ選択される追加の材料をさらに含む、組成物。」 (2)周知技術 ア 引用文献11の記載事項 原査定の拒絶の理由で、周知技術を示す文献として引用され、本願の優先権主張に係る先の出願前に頒布された引用文献である、特表2011−529115号公報(以下「引用文献11」という。)には、以下の記載事項がある。なお、周知技術の認定に用いた箇所に下線を付した。 (ア)特許請求の範囲 「【請求項1】 少なくとも1種類の高フッ素化酸ポリマーでドープした少なくとも1種類の導電性ポリマーの水性分散体と、 無機ナノ粒子と を含む、組成物。 … 【請求項13】 前記無機ナノ粒子が絶縁性である、請求項1に記載の組成物。 【請求項14】 前記ナノ粒子が、酸化ケイ素、酸化チタン類、酸化ジルコニウム、三酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化サマリウム、酸化イットリウム、酸化セシウム、酸化第二銅、酸化第二スズ、酸化アンチモン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項13に記載の組成物。」 (イ)技術分野 「【0002】 本開示は、一般に、無機ナノ粒子を含有する導電性ポリマー組成物、および電子デバイス中でのそれらの使用に関する。」 (ウ)発明が解決しようとする課題 「【0005】 改善された緩衝層材料が引き続き必要とされている。」 (エ)課題を解決するための手段 「【0006】 少なくとも1種類の高フッ素化酸ポリマーでドープした少なくとも1種類の導電性ポリマーの水性分散体を含み、その中に分散された無機ナノ粒子を有する組成物を提供する。」 (オ)無機ナノ粒子 「【0099】 4.無機ナノ粒子 本発明の無機ナノ粒子は、絶縁体または半導体であってよい。 【0100】 ある実施形態においては、無機ナノ粒子は金属硫化物または金属酸化物である。 【0101】 半導体金属酸化物の例としては、アンチモン酸亜鉛類などの混合原子価金属酸化物、および酸素欠損型三酸化モリブデン、五酸化バナジウムなどの非化学量論金属酸化物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。… 【0102】 絶縁性金属酸化物の例としては、酸化ケイ素、酸化チタン類、酸化ジルコニウム、三酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化サマリウム、酸化イットリウム、酸化セシウム、酸化第二銅、酸化第二スズ、酸化アンチモンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。」 (カ)ドープした導電性ポリマー組成物の調製 「【0109】 本発明の新規導電性ポリマー組成物は、最初にドープした導電性ポリマーを形成し、次に無機ナノ粒子を加えることによって調製される。 … 【0111】 無機ナノ粒子は、ドープした導電性ポリマー分散体に固体として直接加えることができる。ある実施形態においては、無機ナノ粒子を水溶液中に分散させ、この分散体をドープした導電性ポリマー分散体と混合する。… 【0113】 本明細書に記載の新規導電性組成物から作製されるフィルムを、本明細書では以降「本明細書に記載の新規フィルム」と呼ぶ。これらのフィルムは、連続技術および不連続技術などのあらゆる液相堆積技術を使用して作製することができる。… 【0114】 こうして形成されたフィルムは、平滑で、比較的透明であり、1.4を超える屈折率(460nmの波長において)を有し、10−7〜10−3S/cmの範囲内の伝導率を有することができる。」 (キ)緩衝層 「【0115】 6.緩衝層 本発明の別の一実施形態においては、本発明の新規導電性ポリマー組成物を含む水性分散体から堆積される緩衝層を提供する。… 【0116】 本発明の新規導電性ポリマー組成物の乾燥フィルムは、一般に水中に再分散しない。したがって、緩衝層を複数の薄層として適用することができる。さらに、緩衝層には、損傷を引き起こすことなく異なる水溶性または水分散性の材料の層を上塗りすることができる。 【0117】 本発明の新規導電性ポリマー組成物を含む緩衝層は、驚くべきことに、改善されたぬれ性を有することが分かった。…」 (ク)電子デバイス 「【0119】 7.電子デバイス 本発明の別の一実施形態においては、2つの電気接触層の間に配置された少なくとも1つの電気活性層を含み、本発明の新規緩衝層をさらに含む電子デバイスを提供する。… 【0125】 緩衝層120は、本明細書に記載の新規導電性組成物を含む。HFAPをドープした導電性ポリマーから作製された緩衝層は、一般に有機溶媒に対して非ぬれ性であり、1.4未満の屈折率(460nmの波長において)を有する。本明細書に記載の緩衝層は、より高いぬれ性になることができ、そのため非極性有機溶媒から次の層がより容易にコーティングされる。本明細書に記載の緩衝層は、1.4を超える屈折率(460nmにおいて)を有することもできる。通常、緩衝層は、当業者に周知の種々の技術を使用して基体上に堆積される。…」 (ケ)実施例 「【0148】 実施例2 この実施例では、TFE(テトラフルオロエチレン)と過フッ素化ポリマー酸であるPSEPVE(過フッ素化3,6−ジオキサ−4−メチル−7−オクテンスルホン酸)とのコポリマーの水性分散体の存在下で製造されるポリピロール(PPy)の水性分散体の調製を示す。このPPy/ポリ(TFE−PSEPVE)の水性分散体は、PPYポリ(TFE−PSEPVE)固体フィルムの有機溶媒とのぬれ性に対するシリカナノ粒子の影響を示すために使用される。… 【0150】 …スピンコーティングによって形成されたPPy/ポリ(TFE−PSEPVE)固体フィルムの接触角は、シリカが含まれる場合には、p−キシレンの場合でもアニソールの場合でも大幅に減少していることがデータから明らかに示されている。」 イ 引用文献12の記載事項 原査定の拒絶の理由で、周知技術を示す文献として引用され、本願の優先権主張に係る先の出願前に頒布された引用文献である、特表2011−510484号公報(以下「引用文献12」という。)には、以下の記載事項がある。なお、周知技術の認定に用いた箇所に下線を付した。 (ア)特許請求の範囲 「【請求項1】 少なくとも1つの高フッ素化酸ポリマーでドープされた少なくとも1つの導電性ポリマーを含む第1層と、酸化物、硫化物およびそれらの組み合わせからなる群から選択される無機ナノ粒子を含む第2層と、を含む緩衝二層。 … 【請求項13】 前記ナノ粒子が、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、三酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化サマリウム、酸化イットリウム、酸化セシウム、酸化銅、酸化第二スズ、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の二層。」 (イ)技術分野 「【0002】 本開示は一般に、緩衝二層および電子デバイスにおけるそれらの使用に関する。」 (ウ)発明が解決しようとする課題 「【0005】 10-3〜10-7S/cmの範囲の低い導電率を有する導電性ポリマーが、ITOなどの、導電性アノードと直接接触した緩衝層として一般に使用される。 【0006】 改善された緩衝層が引き続き必要とされている。」 (エ)課題を解決するための手段 「【0007】 少なくとも1つの高フッ素化酸ポリマーでドープされた少なくとも1つの導電性ポリマーを含む第1層と、 この第1層と接触した第2層であって、酸化物、硫化物、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される無機ナノ粒子を含む第2層と を含む緩衝二層が提供される。」 (オ)緩衝二層の第2層 【0118】 3.緩衝二層の第2層 緩衝二層の第2層は、第1層と直接接触している。第2層は、酸化物、硫化物、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される無機ナノ粒子を含む。ある実施形態においては、第2層は本質的に、酸化物、硫化物、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される無機ナノ粒子からなる。無機ナノ粒子は、絶縁性または半導性であることができる。本明細書において使用される場合、用語ナノ粒子は、蛍リン光体などの、放射性材料を含まない。 … 【0122】 絶縁性金属酸化物の例としては、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、三酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化亜鉛、酸化サマリウム、酸化イットリウム、酸化セシウム、酸化第二銅、酸化第二スズ、酸化アルミニウム、酸化アンチモンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。」 (カ)緩衝二層の形成 「【0138】 4.緩衝二層の形成 本発明の新規緩衝二層は、 少なくとも1つの高フッ素化酸ポリマーでドープされた少なくとも1つの導電性ポリマーを含む第1層と、 第1層と接触した第2層であって、酸化物、硫化物、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される無機ナノ粒子を含む第2層と を含む。 … 【0141】 緩衝二層は、ドープされた導電性ポリマーの層を先ず形成することによって形成される。これは次に処理されて無機ナノ粒子の不連続第2層を形成する。 … 【0144】 第2層は次に、第1層の上に、それと接触して形成される。第2層の製造方法としては、酸化物または硫化物ナノ粒子の下塗り、金属ターゲットの反応性スパッタリング、金属酸化物または硫化物の熱蒸着、金属酸化物の有機金属前駆体の原子層蒸着などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。 … 【0146】 ある実施形態においては、第2層は、液体媒体中のナノ粒子の分散液の液相堆積によって形成される。液体媒体は、水性または非水性であることができる。… 【0150】 フッ素化酸でドープされた導電性ポリマーの水性分散体から製造された緩衝層は、…以前に開示されている。しかし、これらの緩衝層は非常に低い表面エネルギーを有し、デバイスを形成する場合にそれらの上に追加の層をコートすることが困難である。本明細書に記載される緩衝層は、より高い表面エネルギーを有し、より容易にコートされる。… 【0151】 一実施形態においては、本明細書に記載されるような緩衝二層は、第1層単独上での第1の液体との接触角より少なくとも5°低い同じ液体との接触角を有する。ある実施形態においては、緩衝二層は、50°未満の;ある実施形態においては、40°未満のトルエンとの接触角を有する。」 (キ)電子デバイス 「【0152】 5.電子デバイス 本発明の別の実施形態においては、2つの電気接触層の間に配置された少なくとも1つの電気活性層を含む電子デバイスであって、新規緩衝層をさらに含むデバイスが提供される。… … 【0159】 緩衝層120は、本明細書に記載される新規な二層である。…HFAPでドープされた導電性ポリマーから製造された緩衝層は、一般に有機溶剤によってぬらすことができない。本明細書に記載される緩衝二層はよりぬらすことができ、従って非極性有機溶剤からの次の層でより容易にコートされる。」 (ク)実施例 「【0180】 実施例3 本実施例は、PPy/Nafion(登録商標)−ポリ(TFE−PSEPVE)の第1層とコロイド状シリカの第2層との不連続二層の製造を例示する。それはまた、PPy/Nafion(登録商標)表面のぬれ性への酸化物層の影響を示す。 … 【0182】 …この定性的試験は、ぬれ性がコロイド状シリカを使用して形成された第2層で向上することを示す。」 ウ 周知技術 上記引用文献11及び引用文献12の記載に基づけば、以下の周知技術が記載されているといえる。 「酸化ケイ素などの無機ナノ粒子を有する組成物を含む分散体から堆積される緩衝層は、異なる水溶性または水分散性の材料の層を上塗りすることができ、改善されたぬれ性を有すること。」 5 対比 本件補正発明と引用発明とを対比する。 (1)ポリチオフェン化合物及びドーパント 引用発明の組成物に含まれる「導電性ポリマー」として選択される「ポリチオフェン」は、本件補正発明の「(a)ポリチオフェン化合物」に相当する。 また、引用発明の「導電性ポリマー」は、「ドープ」したものである。引用文献10の記載事項(キ)における「用語「ドープされる」は、ドーパント上の負電荷が導電性ポリマー上の正電荷とバランスしているイオン対の形成を意味する」との記載からみて、引用発明の「ドープした導電性ポリマー」は、ドーパントを含んでいるといえる。そうすると、引用発明は、「導電性ポリマー」は、本件補正発明の「(c)1種以上のドーパント」を含むとする要件を満たしている。 (2)金属酸化物ナノ粒子 本件補正発明の「金属酸化物ナノ粒子」は、「ケイ素の酸化物ナノ粒子」である。そうすると、引用発明の組成物に含まれる「半導性または絶縁性無機酸化物ナノ粒子」、「圧電性、焦電気性、または強誘電性酸化物ナノ粒子」及び「光導電性酸化物ナノ粒子」は、本件補正発明の「(b)1種以上の金属酸化物ナノ粒子」に相当する。 (3)液体担体 引用発明の組成物は、「少なくとも1つのコロイド形成ポリマー酸」等を含む「非水性分散物」を含むものである。そして、引用文献10の記載事項(オ)における「用語『非水性』は、かなりの部分の有機液体を有する液体媒体を意味し、一実施形態ではそれは少なくとも約60重量%有機液体である。有機液体には、1つまたは複数の有機化合物が含まれる。」との記載からみて、引用発明は、「コロイド形成ポリマー酸」により形成されたコロイド等を分散させるための1種以上の有機液体を含んでいるといえる。 したがって、引用発明は、本件補正発明の「(d)1種以上の有機溶媒を含む液体担体」を含むとする要件を満たしている。 (4)非水系インク組成物 本願の段落【0080】には、「本明細書に使用されるとき、『非水系』は、本開示のインク組成物中の水の総量が、インク組成物の総量に対して0〜2重量%であることを意味する。」と定義されている。 引用発明の「組成物」は、「導電性ポリマー」である「ポリチオフェン」、「半導性または絶縁性無機酸化物ナノ粒子」を含む「非水性分散物を含む組成物」であるものの、組成物に含まれる水の総量が明らかでない。そうすると、本件補正発明の「非水系インク組成物」と引用発明の「組成物」とは、「インク組成物」である点で共通する。 (5)一致点及び相違点 以上より、本件補正発明と引用発明とは、 「 (a)ポリチオフェン化合物 (b)1種以上の金属酸化物ナノ粒子; (c)1種以上のドーパント;及び (d)1種以上の有機溶媒を含む液体担体 を含む、 インク組成物。」 である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。 [相違点1] 本件補正発明の組成物は「正孔注入層又は正孔輸送層形成用」であるのに対し、引用発明は用途を特定していない点。 [相違点2] ポリチオフェン化合物が、本件補正発明は、式(I)で表される繰り返し単位を含むのに対し、引用発明のポリチオフェンは、式(I)で表される繰り返し単位を含むとされていない点。 [相違点3] 金属酸化物ナノ粒子が、本件補正発明は「ケイ素の酸化物ナノ粒子」であるのに対し、引用発明はケイ素の酸化物とされていない点。 [相違点4] インク組成物が、本件補正発明は「非水系」、つまり、水の総量が、インク組成物の総量に対して0〜2重量%であるのに対し、引用発明は「非水性分散物を含む組成物」であるものの、組成物の総量に対する水の総量が明らかでない点。 6 判断 (1)[相違点1]について 引用文献10の記載事項(コ)には、「一実施形態では、本新規組成物は堆積されて電子デバイス中のバッファー層を形成する。用語「バッファー層」は本明細書で用いるところでは、陽極と活性有機材料との間に使用することができる導電または半導電層を意味することを意図される。」と記載されている。また、引用文献10の記載事項(イ)には、「バッファー層は典型的には導電性ポリマーであり、陽極からEL材料層への正孔の注入を容易にする。バッファー層はまた、正孔−注入層、正孔輸送層とも呼ばれることができ、または二層陽極の一部として特徴づけられてもよい。」と記載されている。 上記記載事項に基づけば、引用発明は、バッファー層、つまり、正孔注入層又は正孔輸送層の形成に用いることができるものといえる。 したがって、引用発明の組成物は、本件補正発明における「正孔注入層又は正孔輸送層形成用」とする要件を満たすものであるから、[相違点1]は実質的な相違点とはいえない。 (2)[相違点2]について 引用文献10の記載事項(カ)には、「本新規組成物での使用を考慮されるポリチオフェン」が、以下の式Iを含むと記載されている。 「【化1】 (式中、 R1は各出現で同じまたは異なるものであるように独立して選択され、水素、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アルカノイル、アルキルチオ、アリールオキシ、アルキルチオアルキル、アルキルアリール、アリールアルキル、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリール、アルキルスルフィニル、アルコキシアルキル、アルキルスルホニル、アリールチオ、アリールスルフィニル、アルコキシカルボニル、アリールスルホニル、アクリル酸、リン酸、ホスホン酸、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、エポキシ、シラン、シロキサン、アルコール、ベンジル、カルボキシレート、エーテル、アミドスルホネート、エーテルカルボキシレート、エーテルスルホネート、およびウレタンから選択され、または両R1基は一緒になって、その環が任意選択的に1つまたは複数の二価の窒素、硫黄もしくは酸素原子を含んでもよい3、4、5、6、もしくは7員環の芳香族もしくは脂環式環を完成するアルキレンもしくはアルケニレン鎖を形成してもよく、そして nは少なくとも約4である)」 例えば、引用文献10に開示された式Iにおいて、2つのR1が、独立して、水素、アルキル、アルコキシであった場合、本件補正発明の式(I)の要件を満たすこととなる。そうすると、引用文献10には、引用発明のポリチオフェンが、本件補正発明の式(I)の要件を満たすものとすることが示唆されていたといえる。 したがって、引用文献10における示唆にしたがい、引用発明のポリチオフェンを、本件補正発明の式(I)の要件を満たすものとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。また、引用発明のポリチオフェンとして、[相違点2]に係る本件補正発明の構成を採用したことにより、格別な効果の差異が生じるともいえない。 (3)[相違点3]について 前記4(2)ウに記載したとおり、「酸化ケイ素などの無機ナノ粒子を有する組成物を含む分散体から堆積される緩衝層は、異なる水溶性または水分散性の材料の層を上塗りすることができ、改善されたぬれ性を有すること」は周知技術である。 引用文献10には、引用発明における「半導性または絶縁性無機酸化物ナノ粒子」、「圧電性、焦電気性、または強誘電性酸化物ナノ粒子」、「強誘電性酸化物ナノ粒子」について、具体的な酸化物ナノ粒子を開示していない。しかし、これらの「半導性または絶縁性無機酸化物ナノ粒子」等は、組成物によって形成されるバッファー層(緩衝層)に含まれることになるものである。また、引用文献10の記載事項(ウ)の「良好な加工性…に対するニーズが存在する。」との記載に基づけば、引用発明は、加工性を良好とすることを課題とする発明である。また、引用文献10の記載事項(コ)には「本新規組成物から製造された少なくとも1つの層を含む有機デバイスは多数の薄層でできている。…異なる水溶性または水分散性材料の層でさらに上塗りすることができる。」と記載されていることから、引用発明の組成物で形成されるバッファー層は、さらに上塗りすることが予定されたものであって、良好な加工性を有するように、改善されたぬれ性が求められるものである。 そうすると、引用発明の「半導性または絶縁性無機酸化物ナノ粒子」等として、バッファー層(緩衝層)を形成した際に改善されたぬれ性を有することが知られた「酸化ケイ素などの無機ナノ粒子」を採用することは、当業者であれば当然試みることである。したがって、引用発明において、周知技術に基づいて本件補正発明の[相違点3]に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。 審判請求人は、審判請求書において、「本願発明にいう正孔注入層又は正孔輸送層形成用非水系インク組成物という、引用文献10にいうバッファー層を形成するための組成物に、金属酸化物ナノ粒子を含ませることが、そもそも引用文献10に開示されているといえるのか疑問がある」(第12頁)と主張している。 しかし、引用文献10の記載事項(サ)には、「材料の最終用途に依存して、添加することができる材料のタイプの例には、…圧電性、焦電気性、または強誘電性酸化物ナノ粒子…、光導電性酸化物ナノ粒子ならびにそれらの組合せが挙げられるが、それらに限定されない。」と記載されており、様々なナノ粒子を含む添加材料を含めることが開示されている。そうすると、引用文献10の請求項13に係る発明における「半導性または絶縁性無機酸化物ナノ粒子」等が、「本新規組成物を含む層」と他の層とを混同して記載したものということはできない。 また、審判請求人は、審判請求書において、「引用文献11及び12の技術的内容(シリカが有機溶媒のぬれ性を向上させるために用いられている)を参酌すれば、…ケイ素の酸化物ナノ粒子が周知技術であったとしても、かかる特定材料を選択することを、当業者が動機付けられることはなく、阻害要因があるものと考える。」(第12〜13頁)と主張している。 しかし、周知技術として知られる「酸化ケイ素などの無機ナノ粒子を有する組成物を含む分散体から堆積される緩衝層」が示す「改善されたぬれ性」は、緩衝層とは「異なる水溶性または水分散性の材料の層」を上塗りして形成する際のぬれ性である。引用発明において形成される緩衝層は、既に述べたとおり、「異なる水溶性または水分散性材料の層でさらに上塗りすること」を予定したものであるから、形成される緩衝層のぬれ性を改善する動機付けは当然存在する。 なお、引用文献12は、緩衝層であるものの、「導電性ポリマーを含む第1層」とは別の「第2層」が無機ナノ粒子を含んでいるが、引用文献11のように、導電性ポリマーを含む層に無機ナノ粒子を含む場合と同様に、ぬれ性が改善されている。このことから、当業者であれば、導電性ポリマーの種類や存否にかかわらず、酸化ケイ素などの無機ナノ粒子を含むことにより、ぬれ性を改善する効果を奏すると理解する。また、引用文献12の記載事項(カ)における「第2層は、液体媒体中のナノ粒子の分散液の液相堆積によって形成される。液体媒体は、水性または非水性であることができる。」との記載から、当業者であれば、緩衝層を形成する際に用いる溶媒の種類を問わず、酸化ケイ素などの無機ナノ粒子を含むことにより、ぬれ性を改善する効果を奏すると理解する。したがって、審判請求人が主張するような阻害要因が存在するとはいえない。 さらに、審判請求人は、審判請求書において、「ケイ素の酸化物ナノ粒子材料を選択して用いることで、本願実施例に示されているような高い透明度の薄膜形成、それに伴う優れた電流効率および外部量子効率という、引用文献10〜12からは期待できない効果を奏する。」(第15頁)と主張している。 しかし、引用文献11の記載事項(カ)には、「形成されたフィルムは、平滑で、比較的透明であり、1.4を超える屈折率(460nmの波長において)を有し、10−7〜10−3S/cmの範囲内の伝導率を有することができる。」と記載されている。無機ナノ粒子を加えることで、屈折率を調整でき、透明度の高いバッファー層(緩衝層)を形成できること、伝導率が改善することで電流効率も優れたものとなること、透明度の向上及び伝導率の改善によって、外部量子効率が優れたものとなることは、従来より知られていた効果に過ぎない。 また、本願の明細書の記載を参照しても、ケイ素の酸化物ナノ粒子材料を選択したことで、他のナノ粒子を選択した場合と比べて格別な効果の差異が生じるということもできない。 以上のとおりであるから、審判請求人の主張は、いずれも採用できない。 (4)[相違点4]について 引用文献10の記載事項(ケ)には、「一実施形態では、液体媒体は少なくとも90重量%の有機液体を含む。」と記載されている。また、引用発明に含まれる「コロイド形成ポリマー酸」について、引用文献10の記載事項(オ)には、「用語『コロイド形成』は、非水性液体に分散された時に微粒子を形成する物質を意味する、すなわち、『コロイド形成』ポリマー酸は、使用される特定の液体媒体に可溶ではない。」と記載されている。 これらの記載事項に基づけば、引用発明の組成物に含まれる液体には、「コロイド形成ポリマー酸」を可溶な成分を含まず、有機液体の含有割合が高いものであることが示唆されているといえる。 そうすると、引用発明の組成物を構成する溶媒について、組成物の総量に対する水の総量を少ないものとし、水の総量がインク組成物の総量に対して0〜2重量%の範囲のものとすることは、当業者が適宜最適化し得ることである。 7 むすび 以上のとおり、本件補正発明は、引用発明、引用文献10の記載事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本件発明 1 本件発明 本件補正は、前記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1〜27に係る発明は、令和5年2月28日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1〜27に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、前記第2の1(1)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由の概要は、この出願の請求項1に係る発明について、本願の優先権主張に係る先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献10〜引用文献12に基づいて、その優先日前にその発明の属する次述の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 なお、引用文献10を主引用発明が記載された文献として引用し、引用文献11及び引用文献12を周知技術を示す文献として引用している。 <引用文献等一覧> 引用文献10:特表2007−531807号公報 引用文献11:特表2011−529115号公報 引用文献12:特表2011−510484号公報 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献及びその記載事項は、前記第2の4に記載したとおりである。 4 対比・判断 本件発明は、前記第2の2で検討した本件補正発明の「金属酸化物ナノ粒子」について、選択肢を追加した発明に該当する。 そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含み、さらに「金属酸化物ナノ粒子」の選択肢を限定したものに相当する本件補正発明が、前記第2の5〜7に記載したとおり、引用発明、引用文献10の記載事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、引用発明、引用文献10の記載事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
審理終結日 | 2024-04-19 |
結審通知日 | 2024-04-23 |
審決日 | 2024-05-13 |
出願番号 | P2021-192151 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H05B)
|
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
神谷 健一 |
特許庁審判官 |
本田 博幸 宮澤 浩 |
発明の名称 | インク組成物 |
代理人 | 弁理士法人 津国 |