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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1412990
総通号数 32 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2024-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2023-06-21 
確定日 2024-07-25 
事件の表示 特願2019−44274「画像復号装置、画像復号方法、及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔令和2年9月17日出願公開、特開2020−150338〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成31年3月11日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和4年 2月28日 手続補正書の提出
令和4年10月24日付け 拒絶理由通知書
令和4年12月 2日 手続補正書及び意見書の提出
令和5年 3月14日付け 拒絶査定
令和5年 6月21日 審判請求書及び手続補正書の提出
令和5年 8月 4日付け 前置報告書

第2 令和5年6月21日付け手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
令和5年6月21日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、令和4年12月2日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1〜13を、本件補正による特許請求の範囲の請求項1〜13に補正するものであって、本件補正前の請求項1を本件補正後の請求項1とする以下の補正を含むものである。(下線は、本件補正により補正された箇所を示すために当審が付したものである。また、記号「A」〜「G2」は、分説するために当審が付したものであり、記号「A」〜「G2」に対応する発明特定事項を、以下「構成A」〜「構成G2」という。)

(1) 本件補正前の請求項1
「【請求項1】
A 複数のブロックを用いてビットストリームから画像を復号することが可能な画像復号装置において、
B 前記ビットストリームから、量子化変換係数に対応するデータを復号する復号手段と、
C 量子化マトリクスを用いて、前記量子化変換係数から、周波数成分を表す変換係数を導出する逆量子化手段と、
D 前記逆量子化手段によって導出された前記変換係数に対して逆変換処理を実行することによって、前記変換係数から予測誤差を導出する逆変換手段と
E を有し、
F 復号対象のブロックがP×Q画素(P及びQは整数)の第1のブロックである場合、
F1 前記逆量子化手段は、N×M個(NはN<Pを満たす整数、かつ、MはM<Qを満たす整数)の要素を有する量子化マトリクスを用いて、N×M個の量子化変換係数からN×M個の変換係数を導出し、
F2 前記逆変換手段は、前記N×M個の変換係数と、M×Qの行列との乗算を行うことで、N×Q個の中間値を導出し、さらに、P×Nの行列と、前記N×Q個の中間値との乗算を行うことで、前記N×M個の変換係数から前記第1のブロックに対応するP×Q個の予測誤差を導出し、
G 復号対象のブロックが前記第1のブロックより小さい第2のブロックである場合、
G1 前記逆量子化手段は、前記第2のブロックと同じサイズの量子化マトリクスを用いて、前記第2のブロックと同じサイズの量子化変換係数から、前記第2のブロックと同じサイズの変換係数を導出し、
G2 前記逆変換手段は、前記第2のブロックと同じサイズの前記変換係数と、前記第2のブロックと同じサイズの行列とを少なくとも用いた乗算を行うことで、前記第2のブロックと同じサイズの予測誤差を導出する
A ことを特徴とする画像復号装置。」

(2) 本件補正後の請求項1
「【請求項1】
A 複数のブロックを用いてビットストリームから画像を復号することが可能な画像復号装置において、
B 前記ビットストリームから、量子化変換係数に対応するデータを復号する復号手段と、
C 量子化マトリクスを用いて、前記量子化変換係数から、周波数成分を表す変換係数を導出する逆量子化手段と、
D 前記逆量子化手段によって導出された前記変換係数に対して逆変換処理を実行することによって、前記変換係数から予測誤差を導出する逆変換手段と
E を有し、
F 復号対象のブロックがP×Q画素(P及びQは整数)の第1のブロックである場合、
F1’ 前記逆量子化手段は、N×M個(NはN<Pを満たす整数、かつ、MはM<Qを満たす整数)の要素を有する量子化マトリクスを用いて、N×M個から成る、前記第1のブロックのための量子化変換係数から、N×M個の変換係数を導出し、
F2 前記逆変換手段は、前記N×M個の変換係数と、M×Qの行列との乗算を行うことで、N×Q個の中間値を導出し、さらに、P×Nの行列と、前記N×Q個の中間値との乗算を行うことで、前記N×M個の変換係数から前記第1のブロックに対応するP×Q個の予測誤差を導出し、
G 復号対象のブロックが前記第1のブロックより小さい第2のブロックである場合、
G1 前記逆量子化手段は、前記第2のブロックと同じサイズの量子化マトリクスを用いて、前記第2のブロックと同じサイズの量子化変換係数から、前記第2のブロックと同じサイズの変換係数を導出し、
G2 前記逆変換手段は、前記第2のブロックと同じサイズの前記変換係数と、前記第2のブロックと同じサイズの行列とを少なくとも用いた乗算を行うことで、前記第2のブロックと同じサイズの予測誤差を導出する
A ことを特徴とする画像復号装置。」

2 補正の適否について
本件補正は、上記1の(2)のとおり、本件補正前の請求項1に係る発明の「画像復号装置」の発明特定事項である構成F1のうち、「N×M個の量子化変換係数」という部分を、「N×M個から成る、前記第1のブロックのための量子化変換係数」へと限定するとともに、「量子化変換係数から」という記載の後に「、」を挿入するものといえる。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正といえ、また、請求項1に係る補正は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすものである。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下検討する。

3 本件補正発明
本件補正発明は、上記1の(2)に記載したとおりのものである。

4 引用文献に記載された事項、及び引用発明
(1) 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1である、国際公開第2018/008387号には、以下の記載がある(下線は強調のために当審で付したものであり、以下同様。)。


「[0032] MPEG2(Moving Picture Experts Group 2(ISO/IEC 13818-2))やAVCなどの旧来の画像符号化方式では、符号化処理は、マクロブロックと呼ばれる処理単位で実行される。マクロブロックは、16x16画素の均一なサイズを有するブロックである。これに対し、HEVCは、符号化処理は、CU(Coding Unit)と呼ばれる処理単位(符号化単位)で実行される。CUは、最大符号化単位であるLCU(Largest Coding Unit)を再帰的に分割することにより形成される、可変的なサイズを有するブロックである。」


「[0037] <CUへのTUの設定>
TUは、直交変換処理の処理単位である。TUは、CU(イントラCUについては、CU内の各PU)をある深さまで分割することにより形成される。図3は、図2に示したCUへのTUの設定について説明するための説明図である。図3の右には、C02に設定され得る1つ以上のTUが示されている。例えば、TUであるT01は、32x32画素のサイズを有し、そのTU分割の深さはゼロに等しい。TUであるT02は、16x16画素のサイズを有し、そのTU分割の深さは1に等しい。TUであるT03は、8x8画素のサイズを有し、そのTU分割の深さは2に等しい。

[0038] 上述したCU、PU及びTUといったブロックを画像に設定するためにどのようなブロック分割を行うかは、典型的には、符号化効率を左右するコストの比較に基づいて決定される。」


「[0160] 図24に示されるように画像復号装置200は、蓄積バッファ211、復号部212、逆量子化部213、逆直交変換部214、演算部215、フィルタ216、後処理バッファ217、および後処理部218を有する。また、画像復号装置200は、イントラ予測部219、フレームメモリ220、インター予測部221、および予測画像選択部222を有する。

[0161] 画像復号装置200には、例えば伝送媒体や記録媒体等を介して、画像符号化装置100等が生成した符号化データが例えばビットストリーム等として供給される。蓄積バッファ211は、その符号化データを蓄積し、所定のタイミングにおいてその符号化データを復号部212に供給する。」


「[0173] 画像復号処理が開始されると、ステップS251において、蓄積バッファ211は、画像復号装置200に供給される符号化データを蓄積する。ステップS252において、復号部212は、復号処理を行う。つまり、復号部212は、ステップS251の処理により蓄積バッファ211に蓄積された符号化データを取得し、復号し、量子化係数を得る。

[0174] ステップS253において、逆量子化部213は、復号部212により符号化データから得られた、シーケンスパラメータセット(SPS)若しくはピクチャパラメータセット(PPS)またはその両方に格納されるスケーリングリストと、各TUのスケーリングリスト指定情報を取得し、それらに基づいて、処理対象のTUに対するスケーリングリストを選択する。

[0175] ステップS254において、逆量子化部213は、ステップS252の処理により得られた量子化データを、ステップS253の処理により得られたスケーリングリストを用いて、逆量子化して直交変換係数を得る。ステップS255において逆直交変換部214は、ステップS254の処理により得られた直交変換係数を逆直交変換して復元された残差データを得る。

[0176] ステップS256において、イントラ予測部219、インター予測部221、および予測画像選択部222は、符号化の際の予測モードで予測処理を行い、予測画像を生成する。例えば、処理対象のブロックが符号化の際にイントラ予測が行われたブロックである場合、イントラ予測部219がイントラ予測画像を生成し、予測画像選択部222がそのイントラ予測画像を予測画像として選択する。また、例えば、処理対象のブロックが符号化の際にインター予測が行われたブロックである場合、インター予測部221がインター予測画像を生成し、予測画像選択部222がそのインター予測画像を予測画像として選択する。

[0177] ステップS257において、演算部215は、ステップS255の処理により得られた復元された残差データに、ステップS256の処理により得られた予測画像を加算し、再構成画像を得る。

[0178] ステップS258において、フィルタ216は、ステップS257の処理により得られた再構成画像に対してデブロッキングフィルタ等のフィルタ処理を行い、復号画像を得る。」


「[0205] 図32に示されるように、画像符号化装置400は、画像符号化装置100のスケーリングリスト記憶部115の代わりにスケーリングリスト記憶部415を有する。」


「[0234] <9.第9の実施の形態>
<QTBT>
CU,PU、およびTUは、JVET-C0024,“EE2.1: Quadtree plus binary tree structure integration with JEM tools”に記載されているQTBT(Quad tree plus binary tree)のCU,PU、およびTUであってもよい。

[0235] QTBTの場合、CUのブロック分割では、1つのブロックを4(=2x2)個だけでなく、2(=1x2,2x1)個のサブブロックにも分割することができる。即ち、この場合のCUのブロック分割は、1つのブロックを4個または2個のサブブロックへの分割を再帰的に繰り返すことにより行われ、結果として四分木(Quad-Tree)状または水平方向もしくは垂直方向の2分木(Binary-Tree)状のツリー構造が形成される。

[0236] その結果、CUの形状は、正方形だけでなく、長方形である可能性がある。例えば、LCUサイズが128x128である場合、CUのサイズ(水平方向のサイズw×垂直方向のサイズh)は、図36に示すように、128x128,64x64,32x32,16x16,8x8,4x4といった正方形のサイズだけでなく、128x64,128x32,128x16,128x8,128x4,64x128,32x128,16x128,8x128,4x128,64x32,64x16,64x8,64x4,32x64,16x64,8x64,4x64,32x16,32x8,32x4,16x32,8x32,4x32,16x8,16x4,8x16,4x16,8x4,4x8といった長方形のサイズである可能性がある。また、この場合のPUとTUは、CUと同一である。

[0237] ただし、量子化サイズは最大32x32までとなり、幅(width)と高さ(height)のいずれか一方または両方が64以上である場合、32x32内に収まる低域のみを伝送する。それ以外の部分に関してはゼロとなる。

[0238] 例えば、図37の左側に示される128x128のTUの場合、左上の32x32の領域が量子化され、それ以外の領域はゼロとなる。同様に、図37の右側に示される16x64のTUの場合、16x32の領域が量子化され、それ以外の領域はゼロとなる。

[0239] したがって、量子化に用いられるスケーリングリストの形状は、32x32,32x16,32x8,32x4,16x32,8x32,4x32,16x16,16x8,16x4,8x16,4x16,8x8,8x4,4x8,4x4のいずれかとなる。つまり、これらのサイズのスケーリングリストが候補としてスケーリングリスト記憶部415に用意される(予め記憶される)。」




」(図36)




」(図37)

(2) 引用発明の認定

上記(1)のウの段落0160には、「画像復号装置200は、蓄積バッファ211、復号部212、逆量子化部213、逆直交変換部214、演算部215、フィルタ216、・・・を有する。また、画像復号装置200は、イントラ予測部219、・・・インター予測部221、および予測画像選択部222を有する。」という記載がある。
したがって、引用文献1には、「蓄積バッファ、復号部、逆量子化部、逆直交変換部、演算部、フィルタ、イントラ予測部、インター予測部、及び予測画像選択部を有する画像復号装置」、が記載されている。


上記(1)のウの段落0161には、「画像復号装置200には、・・・画像符号化装置100等が生成した符号化データが例えばビットストリーム等として供給される。蓄積バッファ211は、その符号化データを蓄積・・・する。」という記載があり、また、上記(1)のエの段落0173には、「復号部212は、・・・蓄積バッファ211に蓄積された符号化データを取得し、復号し、量子化係数を得る。」という記載がある。
したがって、引用文献1には、「画像復号装置には、画像符号化装置が生成した符号化データがビットストリームとして供給され、復号部は、蓄積バッファに蓄積された前記符号化データを取得し、復号し、量子化係数を得る」こと、が記載されている。


上記(1)のイの段落0037には、「TUは、直交変換処理の処理単位である。」という記載があり、また、同段落0038には、「上述したCU、PU及びTUといったブロック」という記載があり、さらに、上記(1)のエの段落0173には、「ステップS252において、復号部212は、復号処理を行う。つまり、復号部212は、・・・復号し、量子化係数を得る。」という記載があり、その上、同段落0174には、「ステップS253において、逆量子化部213は、復号部212により符号化データから得られた、・・・スケーリングリストと、各TUのスケーリングリスト指定情報を取得し、それらに基づいて、処理対象のTUに対するスケーリングリストを選択する。」という記載があり、加えて、同段落0175には、「ステップS254において、逆量子化部213は、ステップS252の処理により得られた量子化データを、ステップS253の処理により得られたスケーリングリストを用いて、逆量子化して直交変換係数を得る。」という記載がある。
ここで、段落0175に記載された「ステップS252の処理により得られた量子化データ」とは、段落0173に記載された「ステップS252において」得られた「量子化係数」を意味することが明らかである。
したがって、引用文献1には、「逆量子化部は、復号部により符号化データから得られた、スケーリングリストと、直交変換処理の処理単位のブロックである各TUのスケーリングリスト指定情報に基づいて、処理対象のTUに対するスケーリングリストを選択し、また、量子化係数を前記スケーリングリストを用いて逆量子化して、直交変換係数を得る」こと、が記載されているといえる。


上記(1)のエの段落0175には、「ステップS254において、逆量子化部213は、・・・直交変換係数を得る。ステップS255において逆直交変換部214は、ステップS254の処理により得られた直交変換係数を逆直交変換して復元された残差データを得る。」という記載がある。
したがって、引用文献1には、「逆直交変換部は、逆量子化部により得られた直交変換係数を逆直交変換して復元された残差データを得る」こと、が記載されているといえる。


上記(1)のエの段落0175には、「ステップS255において逆直交変換部214は、・・・復元された残差データを得る。」という記載があり、また、同段落0176には、「ステップS256において、イントラ予測部219、インター予測部221、および予測画像選択部222は、符号化の際の予測モードで予測処理を行い、予測画像を生成する。」という記載があり、さらに、同段落0177には、「ステップS257において、演算部215は、ステップS255の処理により得られた復元された残差データに、ステップS256の処理により得られた予測画像を加算し、再構成画像を得る。」という記載があり、その上、同段落0178には、「ステップS258において、フィルタ216は、ステップS257の処理により得られた再構成画像に対して・・・フィルタ処理を行い、復号画像を得る。」という記載がある。
したがって、引用文献1には、「演算部は、逆直交変換部により得られた復元された残差データに、イントラ予測部、インター予測部、及び予測画像選択部により生成された予測画像を加算して再構成画像を得、フィルタは、前記再構成画像に対してフィルタ処理を行い復号画像を得る」ことが記載されている、といえる。


上記(1)のアの段落0032には、「符号化処理は、CU(Coding Unit)と呼ばれる処理単位(符号化単位)で実行される。CUは、最大符号化単位であるLCU(Largest Coding Unit)を再帰的に分割することにより形成される、可変的なサイズを有するブロックである。」という記載があり、また、上記(1)のオの段落0205には、「画像符号化装置400は、・・・スケーリングリスト記憶部415を有する。」という記載があり、さらに、上記(1)のカの段落0235〜0239には、「QTBTの場合、・・・CUの形状は、正方形だけでなく、長方形である可能性がある。例えば、LCUサイズが128x128である場合、CUのサイズ・・・は、図36に示すように、128x128,64x64,32x32,16x16,8x8,4x4といった正方形のサイズだけでなく、・・・64x32,・・・32x64,・・・32x16,32x8,32x4,16x32,8x32,4x32,16x8,16x4,8x16,4x16, 8x4,4x8といった長方形のサイズである可能性がある。また、この場合のPUとTUは、CUと同一である。ただし、量子化サイズは最大32x32までとなり、幅・・・と高さ・・・のいずれか一方または両方が64以上である場合、32x32内に収まる低域のみを伝送する。それ以外の部分に関してはゼロとなる。例えば、図37の左側に示される128x128のTUの場合、左上の32x32の領域が量子化され、それ以外の領域はゼロとなる。・・・したがって、量子化に用いられるスケーリングリストの形状は、32x32,32x16,32x8,32x4,16x32,8x32,4x32,16x16,16x8,16x4,8x16,4x16,8x8,8x4,4x8,4x4のいずれかとなる。つまり、これらのサイズのスケーリングリストが候補としてスケーリングリスト記憶部415に用意される・・・。」という記載がある。
その上、上記(1)のクの図37からは、TU128x128の場合は左上の32x32の領域のみ、またTU64x64の場合は左上の16x32の領域のみcoeffを伝送し、それ以外の領域は強制的にzeroとなることが読み取れ、ここで、「coeff」は「coefficient」の略であり「係数」を意味することが当業者にとって自明である。
そうすると、段落0237〜0238に記載された「幅・・・と高さ・・・のいずれか一方または両方が64以上である場合、32x32内に収まる低域のみを伝送する。それ以外の部分に関してはゼロとなる。例えば、図37の左側に示される128x128のTUの場合、左上の32x32の領域が量子化され、それ以外の領域はゼロとなる。」という記載は、TUの幅と高さのいずれか一方または両方が64以上である場合、左上の32x32内に収まる領域が量子化され、それ以外の領域はゼロとなり、32x32内に収まる低域のみを伝送することを意味する、といえる。
また、段落0239に記載された「スケーリングリスト記憶部415」は「画像符号化装置400」が有するものであって、段落0237に記載された「32x32内に収まる低域のみを伝送する」という記載が画像符号化装置の動作を意味することは明らかであるから、当該動作を画像復号装置から見れば、32x32内に収まる低域のみが伝送されることを意味する、といえる。
したがって、引用文献1には、「QTBTの場合、最大符号化単位であるLCUサイズが128x128であれば、符号化単位のブロックであるCUのサイズは、128x128,64x64,32x32,16x16,8x8,4x4といった正方形のサイズだけでなく、64x32,32x64,32x16,32x8,32x4,16x32,8x32,4x32,16x8,16x4,8x16,4x16,8x4,4x8といった長方形のサイズである可能性があり、TUはCUと同一であり、ただし、量子化サイズは最大32x32までとなり、量子化に用いられるスケーリングリストの形状は、32x32,32x16,32x8,32x4,16x32,8x32,4x32,16x16,16x8,16x4,8x16,4x16,8x8,8x4,4x8,4x4のいずれかとなり、TUの幅と高さのいずれか一方または両方が64以上である場合、左上の32x32内に収まる領域が量子化され、それ以外の領域はゼロとなり、画像復号装置は32x32内に収まる低域のみが伝送される」こと、が記載されているといえる。

上記ア〜カをまとめると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。(記号「a」〜「f」は当審が付したものであり、記号「a」〜「f」に対応する事項を、以下、「構成a」〜「構成f」という。また、<ア>〜<カ>は上記ア〜カに対応する。)

「a 蓄積バッファ、復号部、逆量子化部、逆直交変換部、演算部、フィルタ、イントラ予測部、インター予測部、及び予測画像選択部を有する画像復号装置であって、<ア>
b 前記画像復号装置には、画像符号化装置が生成した符号化データがビットストリームとして供給され、前記復号部は、前記蓄積バッファに蓄積された前記符号化データを取得し、復号し、量子化係数を得、<イ>
c 前記逆量子化部は、前記復号部により前記符号化データから得られた、スケーリングリストと、直交変換処理の処理単位のブロックである各TUのスケーリングリスト指定情報に基づいて、処理対象のTUに対するスケーリングリストを選択し、また、前記量子化係数を前記スケーリングリストを用いて逆量子化して、直交変換係数を得、<ウ>
d 前記逆直交変換部は、前記逆量子化部により得られた前記直交変換係数を逆直交変換して復元された残差データを得、<エ>
e 前記演算部は、前記逆直交変換部により得られた前記復元された残差データに、前記イントラ予測部、前記インター予測部、及び前記予測画像選択部により生成された予測画像を加算して再構成画像を得、前記フィルタは、前記再構成画像に対してフィルタ処理を行い復号画像を得るものであり、<オ>
f QTBTの場合、最大符号化単位であるLCUサイズが128x128であれば、符号化単位のブロックであるCUのサイズは、128x128,64x64,32x32,16x16,8x8,4x4といった正方形のサイズだけでなく、64x32,32x64,32x16,32x8,32x4,16x32,8x32,4x32,16x8,16x4,8x16,4x16,8x4,4x8といった長方形のサイズである可能性があり、TUはCUと同一であり、ただし、量子化サイズは最大32x32までとなり、量子化に用いられるスケーリングリストの形状は、32x32,32x16,32x8,32x4,16x32,8x32,4x32,16x16,16x8,16x4,8x16,4x16,8x8,8x4,4x8,4x4のいずれかとなり、TUの幅と高さのいずれか一方または両方が64以上である場合、左上の32x32内に収まる領域が量子化され、それ以外の領域はゼロとなり、画像復号装置は32x32内に収まる低域のみが伝送される、<カ>
a 前記画像復号装置。<ア>」

(3) 引用文献2に記載された事項、及び引用文献2記載事項の認定
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2である、特開平4−100379号公報には、以下の記載がある(下線は強調のために当審で付したものであり、以下同様。)。

「第2図は符号化方式の概要を示すブロック図である。原画像一画面が人力されると、画面はブロック分割回路20においてN×M(ただしNは垂直方向の、Mは水平方向の画素数)の矩形に分割される。なおN=Mであってもよい。以下ではN=M=8として説明する。分割されたブロックは直交変換回路21において直交変換されN×Mの変換係数行列となる。」(3ページ右上欄3〜11行)

「復号・再生の手順を第7図を用いて説明する。受信又は読み出されたブロックの符号は、復号化回路70において復号化され、逆量子化回路71において逆量子化されN×Mの変換係数行列に戻る。ここで、76において予め決定しておいた拡大率に従い、変換係数行列拡大回路72においてI×Jの変換係数行列をつくる。この作成方法は、I×Jのうち左上N×Mはもとの変換係数行列を埋め込み、残りの係数は例えば全て0とすればよい。なお拡大率はN+1/N、N+2/N、・・・を取ることができるが、ここでは拡大率として10/8,16/8を設定しこの2つから選ぶとする。水平方向の拡大率も同様とする。従ってIは10,16を値として取る。Jも同様である。さらに、変換行列メモリ75からI次の行列TIとJ次の行列TJを呼び出し、逆変換回路73において逆変換を行う。」(4ページ左上欄4〜20行)

「逆変換と行ったブロックは、ブロック合成回路74において一画面の画像に合成される。このときブロックはN×MであったものがI×Jになっているので、再生画像は原画像の垂直I/N倍,水平J/M倍に拡大されることになる。第9図に逆変換の例を示す。
なお、このような拡大の場合、変換行列は必ずしもI次やJ次の正方行列である必要はない。もともと係数行列はN×Mであるから、垂直方向のN+1,N+2,・・・,I番目の基底ベクトルは使わない。水平も同様にM+1,・・・,J番目の基底ベクトルは要らない。よって変換行列をそれぞれI×N、J×Mの大きさにして逆変換を行うのでもよい。この場合の逆変換の例を第18図に示す。これは第9図と対応しており、第9図のTI(I次正方)TJの代わりにI×N次のハットTI(当審注;当審決において「TI」の上にハット記号「^」を付した記号を「ハットTI」と称する。以下同様。),J×Mハット次のTJ(当審注;「J×M次のハットTJ」の誤記と認める。)を用いた例で、ブロックは第9図も第18図も同じ値にもどる。このように正方でない変換行列を用いるのならば、変換係数行列を拡大する操作は不要なので、回路72はこの場合必要ない。」(4ページ右上欄5〜20行)




」(第9図)



」(第18図)

ここで、第18図において、「I×Nの変換行列」という記載は「N×Mの変換係数行列」の誤記であり、また、「J×Mの変換行列」という記載は「M×Jの変換行列」の誤記であると解されるから、第18図からは、正方行列でないI×Nの変換行列ハットTIと、N×Mの変換係数行列を乗算し、さらに、正方行列でないJ×Mの変換行列ハットTJの転置行列であるM×Jの変換行列を乗算して、I×Jのブロックを得ること、が読み取れる。

したがって、引用文献2には、「N=M=8とし、I=J=10とする逆変換において、
変換係数行列拡大回路においてN×Mの元の変換係数行列からI×Jの変換係数行列をつくり、変換行列としてI次の正方行列とJ次の正方行列を用いる代わりに、
正方行列でないI×Nの変換行列ハットTIと、N×Mの変換係数行列を乗算し、さらに、正方行列でないJ×Mの変換行列ハットTJの転置行列であるM×Jの変換行列を乗算して、I×Jのブロックを得るならば、変換係数行列拡大回路は必要ないこと。」(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されていると認められる。

5 対比及び判断

本件補正発明と上記引用発明とを対比する。

(1) 構成Aについて
引用発明の構成cの「各TU」は、「直交変換処理の処理単位のブロック」であるから、本件補正発明の「複数のブロック」に含まれる。
また、引用発明の構成bの「ビットストリーム」、及び同構成aの「画像復号装置」は、それぞれ本件補正発明の「ビットストリーム」、及び「画像復号装置」に相当する。
さらに、引用発明の構成eの「復号画像」は、復号した画像を意味することが明らかである。
そして、引用発明の「画像復号装置」(構成a)は、「符号化データがビットストリームとして供給され」、復号部が、「前記符号化データを取得し、復号し、量子化係数を得」(構成b)、逆量子化部が、「前記復号部により前記符号化データから得られた、スケーリングリストと、直交変換処理の処理単位のブロックである各TUのスケーリングリスト指定情報に基づいて、処理対象のTUに対するスケーリングリストを選択し、また、前記量子化係数を前記スケーリングリストを用いて逆量子化して、直交変換係数を得」(構成c)、逆直交変換部が、「前記直交変換係数を逆直交変換して復元された残差データを得」(構成d)、演算部が、「前記復元された残差データに」「予測画像を加算して再構成画像を得」、フィルタが、「前記再構成画像に対してフィルタ処理を行い復号画像を得」るものである(構成e)から、引用発明の「画像復号装置」は、複数のTU(ブロック)を用いてビットストリームから画像を復号することが可能である、といえる。
したがって、上記構成a〜構成eにより特定される引用発明の「画像復号装置」は、本件補正発明の「複数のブロックを用いてビットストリームから画像を復号することが可能な画像復号装置」(構成A)に相当する。

(2) 構成B、及びEについて
引用発明の構成bの「量子化係数」は、量子化された係数を意味し、当該「量子化係数」を「スケーリングリストを用いて逆量子化して、直交変換係数を得」る(構成c)ためのものであるから、本件補正発明の「量子化変換係数」に相当する。
そして、引用発明の構成bの「復号部」は、蓄積バッファに蓄積された符号化データ、すなわち画像符号化装置が生成してビットストリームとして供給された符号化データ、を取得し、復号し、量子化係数を得るものであるから、上記構成b及び構成cで特定される引用発明の「復号部」は、本件補正発明の「前記ビットストリームから、量子化変換係数に対応するデータを復号する復号手段」(構成B)に相当し、また、引用発明の「画像復号装置」が「復号部」を有する(構成a)ことは、本件補正発明の「画像復号装置」において「復号手段」(構成B)「を有」する(構成E)ことに相当する。

(3) 構成C、及びEについて
引用発明の構成fの「量子化に用いられるスケーリングリスト」は、「32x32,32x16,32x8,32x4,16x32,8x32,4x32,16x16,16x8,16x4,8x16,4x16,8x8,8x4,4x8,4x4のいずれか」の形状を有するからマトリクスであって、本件補正発明の「量子化マトリクス」に相当する。
また、引用発明の構成cの「直交変換係数」が本件補正発明の「周波数成分を表す変換係数」に相当することは、当業者にとって明らかである。
そして、引用発明の構成cの「逆量子化部」は、「前記復号部により前記符号化データから得られた、スケーリングリストと、直交変換処理の処理単位のブロックである各TUのスケーリングリスト指定情報に基づいて、処理対象のTUに対するスケーリングリストを選択し、また、前記量子化係数を前記スケーリングリストを用いて逆量子化して、直交変換係数を得」るものであるところ、逆量子化に用いられる「スケーリングリスト」は、「前記符号化データ」の一部として画像符号化装置から受信したものであり(構成c)、また、引用発明の構成cの「逆量子化部」は、本件補正発明の「逆量子化手段」と同様に、「量子化に用いられるスケーリングリスト」(構成f)を用いて逆量子化を行うものと解される。
したがって、上記構成c及び構成fにより特定される引用発明の「逆量子化部」は、本件補正発明の「量子化マトリクスを用いて、前記量子化変換係数から、周波数成分を表す変換係数を導出する逆量子化手段」(構成C)に相当し、また、引用発明の「画像復号装置」が「逆量子化部」を有する(構成a)ことは、本件補正発明の「画像復号装置」において「逆量子化手段」(構成C)「を有」する(構成E)ことに相当する。

(4) 構成D、及びEについて
引用発明の構成dの「復元された残差データ」は、当該「復元された残差データ」に「予測画像を加算して再構成画像を得」る(構成e)ためのものであって、「予測画像」と「再構成画像」の誤差を示すと解されるから、本件補正発明の「予測誤差」に相当するといえる。
そして、引用発明の構成dの「逆直交変換部」は、「前記逆量子化部により得られた前記直交変換係数を逆直交変換して復元された残差データを得」るものであるから、上記構成d及び構成eにより特定される引用発明の「逆直交変換部」は、本件補正発明の「前記逆量子化手段によって導出された前記変換係数に対して逆変換処理を実行することによって、前記変換係数から予測誤差を導出する逆変換手段」(構成D)に相当し、また、引用発明の「画像復号装置」が「逆直交変換部」を有する(構成a)ことは、本件補正発明の「画像復号装置」において「逆変換手段」(構成D)「を有」する(構成E)ことに相当する。

(5) 構成F、F1’、及びF2について

引用発明の構成fの「CU」は、「符号化単位のブロック」であって、符号化に対応する復号化における復号化単位のブロックでもあることが当業者にとって自明であるから、引用発明の「CU」は、本件補正発明の「復号対象のブロック」に相当する。
また、引用発明では、「最大符号化単位であるLCUサイズが128x128であれば、符号化単位のブロックであるCUのサイズは、・・・64x64,・・・といった正方形のサイズ・・・である可能性があり、TUはCUと同一であり、ただし、量子化サイズは最大32x32までとなり、量子化に用いられるスケーリングリストの形状は、32x32,32x16,32x8,32x4,16x32,8x32,4x32,16x16,16x8,16x4,8x16,4x16,8x8,8x4,4x8,4x4のいずれかとなり、TUの幅と高さのいずれか一方または両方が64以上である場合、左上の32x32内に収まる領域が量子化され、それ以外の領域はゼロとなり、画像復号装置は32x32内に収まる低域のみが伝送される」(構成f)から、引用発明では、TU及びCUのサイズが64x64である場合、左上の32x32内に収まる領域が量子化され、それ以外の領域はゼロとなり、画像復号装置は32x32内に収まる低域のみが伝送される、といえる。

イ 構成Fについて
ここで、64や32といった数値が画素数を示すことは当業者にとって自明であるから、引用発明におけるサイズが64x64のCUは、本件補正発明における「復号対象のブロック」であり、かつP及びQがともに64である場合の「P×Q画素(P及びQは整数)の第1のブロック」に相当し、また、引用発明において、構成fにより特定されるとおり、TU及びCUのサイズが64x64である場合は、本件補正発明の「復号対象のブロックがP×Q画素(P及びQは整数)の第1のブロックである場合」(構成F)に相当する。

ウ 構成F1’について
引用発明では、TU及びCUのサイズが64x64である場合、構成fにより特定されるとおり、左上の32x32内に収まる領域が量子化されるから、「量子化に用いられるスケーリングリスト」の形状は32x32であると解され、当該32x32の形状の量子化に用いられるスケーリングリストは、本件補正発明のP及びQがともに64であり、N及びMがともに32である場合の「N×M個(NはN<Pを満たす整数、かつ、MはM<Qを満たす整数)の要素を有する量子化マトリクス」(構成F1’)に相当する。
また、引用発明では、TU及びCUのサイズが64x64である場合、画像復号装置は32x32内に収まる低域のみが伝送されるから、復号部が符号化データを復号して得る「量子化係数」(構成b)もまた32x32と解され、さらに、当該32x32の量子化係数は、64x64のCU(第1のブロック)のための量子化係数であることは明らかであるから、本件補正発明のN及びMがともに32である場合の「N×M個から成る、前記第1のブロックのための量子化変換係数」(構成F1’)に含まれる。
その上、引用発明の「逆量子化部」は、上記(3)で説示したとおり、本件補正発明の「逆量子化手段」と同様に、「量子化に用いられるスケーリングリスト」(構成f)を用いて逆量子化を行うものと解されるから、32x32の量子化係数を32x32のスケーリングリストを用いて逆量子化して直交変換係数を得る(構成b)ものであり、得られた直交変換係数は、32x32となることが当業者には自明であるから、本件補正発明のN及びMがともに32である場合の「N×M個の変換係数」(構成F1’)に相当する。
そうすると、引用発明において、構成fにより特定されるとおり、TU及びCUのサイズが64x64である場合、左上の32x32内に収まる領域が量子化され、それ以外の領域はゼロとなり、画像復号装置は32x32内に収まる低域のみが伝送され、また、「前記逆量子化部は、前記復号部により前記符号化データから得られた、スケーリングリストと、直交変換処理の処理単位のブロックである各TUのスケーリングリスト指定情報に基づいて、処理対象のTUに対するスケーリングリストを選択し、また、前記量子化係数を前記スケーリングリストを用いて逆量子化して、直交変換係数を得」る(構成c)ことは、本件補正発明の「前記逆量子化手段は、N×M個(NはN<Pを満たす整数、かつ、MはM<Qを満たす整数)の要素を有する量子化マトリクスを用いて、N×M個から成る、前記第1のブロックのための量子化変換係数から、N×M個の変換係数を導出」(構成F1’)することに相当する。

エ 構成F2について
引用発明においては、構成fにより特定される、TU及びCUのサイズが64x64である場合、左上の32x32内に収まる領域が量子化され、それ以外の領域はゼロとなり、画像復号装置は32x32内に収まる低域のみが伝送され、また、「前記逆直交変換部は、前記逆量子化部により得られた前記直交変換係数を逆直交変換して復元された残差データを得」(構成d)、さらに、「前記演算部は、前記逆直交変換部により得られた前記復元された残差データに、前記イントラ予測部、前記インター予測部、及び前記予測画像選択部により生成された予測画像を加算して再構成画像を得、前記フィルタは、前記再構成画像に対してフィルタ処理を行い復号画像を得るものであ」る(構成e)から、TU及びCUのサイズが64x64である場合、上記ウで説示した32x32の直交変換係数を逆直交変換して、「直交変換処理の処理単位のブロックである」(構成c)TUと同じサイズの64x64の復元された残差データを得るものと解される。ここで、当該「64x64の復元された残差データ」は、本件補正発明の「前記第1のブロックに対応するP×Q個の予測誤差」(構成F2)に相当する。
そうすると、本件補正発明の「前記逆変換手段は、前記N×M個の変換係数と、M×Qの行列との乗算を行うことで、N×Q個の中間値を導出し、さらに、P×Nの行列と、前記N×Q個の中間値との乗算を行うことで、前記N×M個の変換係数から前記第1のブロックに対応するP×Q個の予測誤差を導出」する(構成F2)ことと、引用発明において、構成fにより特定される、TU及びCUのサイズが64x64である場合、左上の32x32内に収まる領域が量子化され、それ以外の領域はゼロとなり、画像復号装置は32x32内に収まる低域のみが伝送され、また、構成d及び構成eで特定されるとおり、「前記逆直交変換部は、前記逆量子化部により得られた前記直交変換係数を逆直交変換して復元された残差データを得」ることは、「前記逆変換手段は、」「前記N×M個の変換係数から前記第1のブロックに対応するP×Q個の予測誤差を導出」する点、で共通する。
ただし、「前記逆変換手段」について、本件補正発明の構成F2では、「前記N×M個の変換係数と、M×Qの行列との乗算を行うことで、N×Q個の中間値を導出し、さらに、P×Nの行列と、前記N×Q個の中間値との乗算を行うことで、」予測誤差を導出するとの発明特定事項を有するのに対して、引用発明の構成d〜fでは、逆直交変換の具体的内容が特定されておらず、当該発明特定事項を有しない点、で本件補正発明の構成F2と引用発明の構成d〜fは相違する。

オ 構成F、F1’、及びF2についてのまとめ
したがって、上記アないしエをまとめると、本願発明の構成F、構成F1’、及び構成F2と、引用発明の構成b〜構成fは、「復号対象のブロックがP×Q画素(P及びQは整数)の第1のブロックである場合、前記逆量子化手段は、N×M個(NはN<Pを満たす整数、かつ、MはM<Qを満たす整数)の要素を有する量子化マトリクスを用いて、N×M個から成る、前記第1のブロックのための量子化変換係数から、N×M個の変換係数を導出し、前記逆変換手段は、」「前記N×M個の変換係数から前記第1のブロックに対応するP×Q個の予測誤差を導出」する点で共通し、かつ、「前記逆変換手段」について、本件補正発明では、「前記N×M個の変換係数と、M×Qの行列との乗算を行うことで、N×Q個の中間値を導出し、さらに、P×Nの行列と、前記N×Q個の中間値との乗算を行うことで、」予測誤差を導出するとの発明特定事項を有するのに対して、引用発明では、逆直交変換の具体的内容が特定されておらず、当該発明特定事項を有しない点、で相違する。

(6) 構成G、G1、及びG2について
ア 本件補正発明における「前記第1のブロックより小さい第2のブロック」について
(ア)
本願明細書の段落0047に、「図7にサブブロック分割方法の一例を示す。太枠の700は基本ブロックを表しており、・・・64×64画素の構成・・・とする。図7(b)は四分木の正方形サブブロック分割の一例を表しており、648×64画素(当審注;「64×64画素」の誤記と認める。)の基本ブロックは32×32画素のサブブロックに分割されている。一方、・・・図7(c)では基本ブロックは32×64画素の縦長、図7(d)では64×32画素の横長の長方形のサブブロックに分割されている。また、図7(e)、(f)では、1:2:1の比で長方形サブブロックに分割されている。このように正方形だけではなく、正方形以外の長方形のサブブロックも用いて符号化処理を行っている。」(下線は強調のために当審が付したものであり、以下同様。)という記載があるように、符号化の対象には、少なくとも正方形のブロックが含まれ、正方形のブロックをより小さな正方形のブロックに分割している場合が含まれ、復号化の対象についても同様である、といえる。

そうすると、本件補正発明の「復号対象のブロックが前記第1のブロックより小さい第2のブロックである場合」(構成G)は、「復号対象のブロックが前記第1のブロックより小さい」正方形の「第2のブロックである場合」を含むといえる。
そして、本件補正発明の構成G1により特定される「逆量子化手段」の動作、及び構成G2により特定される「逆変換手段」の動作は、「復号対象のブロックが前記第1のブロックより小さい」正方形の「第2のブロックである場合」の動作を含む、といえる。

(イ)
また、本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0017】
・・・本実施形態では、図8(a)に示される8×8のベース量子化マトリクスに加え、ベース量子化マトリクスを拡大して生成された、図8(b)、(c)に示される2種類の32×32の二次元の量子化マトリクスが生成され、格納されるものとする。」
「【0058】
本実施形態では、32×32のサブブロックに対応した32×32の直交変換係数には図8(b)の量子化マトリクスが用いられ、64×64のサブブロックに対応した32×32の直交変換係数には図8(c)の量子化マトリクスが用いられるものとする。つまり、ゼロアウトが実行されていない32×32の直交変換係数には図8(b)を用い、ゼロアウトが実行された64×64のサブブロックに対応した32×32の直交変換係数には図8(c)の量子化マトリクスが用いられるものとする。」

このように、本願明細書の発明の詳細な説明には、正方形のブロックについて、64×64のブロックにはゼロアウトを実行する一方、32×32のブロックにはゼロアウトを実行しないことが記載されている。
そして、符号化処理と復号処理の対称性を考慮すると、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された実施形態においては、復号対象のブロックが、正方形の64×64のブロックである場合、逆量子化手段は復号対象のブロックより小さいサイズの量子化マトリクスを用いて変換係数を導出し、逆変換手段は当該変換係数を用いて復号対象のブロックと同じサイズの予測誤差を導出する一方、復号対象のブロックが、正方形の32×32のブロックである場合、逆量子化手段は復号対象のブロックと同じサイズの量子化マトリクスを用いて変換係数を導出し、逆変換手段は当該変換係数を用いて復号対象のブロックと同じサイズの予測誤差を導出する、といえる。

(ウ)
上記(ア)及び(イ)をまとめると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づけば、本件補正発明の「復号対象のブロックが前記第1のブロックより小さい第2のブロックである場合」(構成G)は、「復号対象のブロックが前記第1のブロックより小さい正方形の第2のブロックである場合」を含み、また、構成G1により特定される「逆量子化手段」の動作、及び構成G2により特定される「逆変換手段」の動作は、「復号対象のブロックが前記第1のブロックより小さい」正方形の「第2のブロックである場合」の動作を含む、といえる。

イ 構成G、G1、及びG2について
(ア) 構成Gについて
引用発明では、「最大符号化単位であるLCUサイズが128x128であれば、符号化単位のブロックであるCUのサイズは、・・・32x32, ・・・といった正方形のサイズ・・・である可能性があり、TUはCUと同一であ」る(構成f)。
ここで、サイズが32x32であるCUは、上記(5)のアで説示したとおり本件補正発明の「復号対象のブロック」に含まれ、かつ、上記(5)で検討した64x64のCU(第1のブロック)より小さい正方形であるから、本件補正発明のP及びQがともに64である場合の「前記第1のブロックより小さい第2のブロック」のうち、「前記第1のブロックより小さい」正方形の「第2ブロック」に相当する。
そして、引用発明において、構成fにより特定されるとおり、TU及びCUのサイズが32x32である場合は、本件補正発明のP及びQがともに64である場合の「復号対象のブロックが前記第1のブロックより小さい第2のブロックである場合」(構成G)に相当する。

(イ) 構成G1について
引用発明では、構成fにより特定される、TU及びCUのサイズが32x32である場合にも、「前記逆量子化部は、前記復号部により前記符号化データから得られた、スケーリングリストと、直交変換処理の処理単位のブロックである各TUのスケーリングリスト指定情報に基づいて、処理対象のTUに対するスケーリングリストを選択し、また、前記量子化係数を前記スケーリングリストを用いて逆量子化して、直交変換係数を得」(構成c)る。
そうすると、本件補正発明の「前記逆量子化手段は、前記第2のブロックと同じサイズの量子化マトリクスを用いて、前記第2のブロックと同じサイズの量子化変換係数から、前記第2のブロックと同じサイズの変換係数を導出」(構成G1)することと、引用発明の構成fにより特定される、TU及びCUのサイズが32x32である場合、「前記逆量子化部は、前記復号部により前記符号化データから得られた、スケーリングリストと、直交変換処理の処理単位のブロックである各TUのスケーリングリスト指定情報に基づいて、処理対象のTUに対するスケーリングリストを選択し、また、前記量子化係数を前記スケーリングリストを用いて逆量子化して、直交変換係数を得」(構成c)ることは、「前記逆量子化手段は」、「量子化マトリクスを用いて」、「量子化変換係数から」、「変換係数を導出」する点、で共通する。
ただし、「逆量子化手段」について、本件補正発明の構成G1では、「量子化マトリクス」、「量子化変換係数」、及び「変換係数」は、それぞれ「前記第2のブロックと同じサイズの」ものであるとの発明特定事項を有するのに対して、引用発明の構成c及びfでは、「スケーリングリスト」、「量子化係数」、及び「直交変換係数」それぞれのサイズが特定されておらず、当該発明特定事項を有しない点、で本件補正発明の構成G1と引用発明の構成c及びfは相違する。

(ウ) 構成G2について
引用発明では、構成fにより特定される、TU及びCUのサイズが32x32である場合にも、「前記逆直交変換部は、前記逆量子化部により得られた前記直交変換係数を逆直交変換して復元された残差データを得」(構成d)、「前記演算部は、前記逆直交変換部により得られた前記復元された残差データに、前記イントラ予測部、前記インター予測部、及び前記予測画像選択部により生成された予測画像を加算して再構成画像を得、前記フィルタは、前記再構成画像に対してフィルタ処理を行い復号画像を得るものであ」る(構成e)。
そうすると、本件補正発明の「前記逆変換手段は、前記第2のブロックと同じサイズの前記変換係数と、前記第2のブロックと同じサイズの行列とを少なくとも用いた乗算を行うことで、前記第2のブロックと同じサイズの予測誤差を導出する」(構成G2)ことと、引用発明において、構成fにより特定される、TU及びCUのサイズが32x32である場合、構成d及び構成eで特定されるとおり、「前記逆直交変換部は、前記逆量子化部により得られた前記直交変換係数を逆直交変換して復元された残差データを得」ることは、「前記逆変換手段は」、「前記変換係数」を用いて、「予測誤差を導出する」点、で共通する。
ただし、「逆変換手段」について、本件補正発明の構成G2では、「前記変換係数」及び「予測誤差」は、それぞれ「前記第2のブロックと同じサイズの」ものであり、また、「前記変換係数と、前記第2のブロックと同じサイズの行列とを少なくとも用いた乗算を行うことで」、予測誤差を導出するとの発明特定事項を有するのに対して、引用発明の構成d〜fでは、逆直交変換の具体的内容が特定されておらず、当該発明特定事項を有しない点、で本件補正発明の構成G2と引用発明の構成d〜fは相違する。

(エ) 構成G、G1、及びG2についてのまとめ
したがって、上記(ア)〜(ウ)をまとめると、本願発明の構成G、構成G1、及び構成G2と、引用発明の構成c〜構成fは、本件補正発明のP及びQがともに64である場合の「復号対象のブロックが前記第1のブロックより小さい第2のブロックである場合、前記逆量子化手段は、量子化マトリクスを用いて、量子化変換係数から、変換係数を導出し、前記逆変換手段は、前記変換係数を用いて、予測誤差を導出する」点で共通する。
ただし、本件補正発明と引用発明は、以下a及びbの点、で相違する。
a 「逆量子化手段」(構成G1)について、本件補正発明では、「量子化マトリクス」、「量子化変換係数」、及び「変換係数」は、それぞれ「前記第2のブロックと同じサイズの」ものであるとの発明特定事項を有するのに対して、引用発明では、「スケーリングリスト」、「量子化係数」、及び「直交変換係数」それぞれのサイズが特定されておらず、当該発明特定事項を有しない点。
b 「逆変換手段」(構成G2)について、本件補正発明では、「前記変換係数」及び「予測誤差」は、それぞれ「前記第2のブロックと同じサイズの」ものであり、また、「前記変換係数と、前記第2のブロックと同じサイズの行列とを少なくとも用いた乗算を行うことで」、予測誤差を導出するとの発明特定事項を有するのに対して、引用発明では、逆直交変換の具体的内容が特定されておらず、当該発明特定事項を有しない点。

(7) 上記(1)〜(6)を総合すると、本件補正発明と引用発明は、以下の点で一致し、また相違する。

<一致点>
「A 複数のブロックを用いてビットストリームから画像を復号することが可能な画像復号装置において、
B 前記ビットストリームから、量子化変換係数に対応するデータを復号する復号手段と、
C 量子化マトリクスを用いて、前記量子化変換係数から、周波数成分を表す変換係数を導出する逆量子化手段と、
D 前記逆量子化手段によって導出された前記変換係数に対して逆変換処理を実行することによって、前記変換係数から予測誤差を導出する逆変換手段と
E を有し、
F 復号対象のブロックがP×Q画素(P及びQは整数)の第1のブロックである場合、
F1’ 前記逆量子化手段は、N×M個(NはN<Pを満たす整数、かつ、MはM<Qを満たす整数)の要素を有する量子化マトリクスを用いて、N×M個から成る、前記第1のブロックのための量子化変換係数から、N×M個の変換係数を導出し、
F2’ 前記逆変換手段は、前記N×M個の変換係数から前記第1のブロックに対応するP×Q個の予測誤差を導出し、
G 復号対象のブロックが前記第1のブロックより小さい第2のブロックである場合、
G1’ 前記逆量子化手段は、量子化マトリクスを用いて、量子化変換係数から、変換係数を導出し、
G2’ 前記逆変換手段は、前記変換係数を用いて、予測誤差を導出する
A 画像復号装置。」

<相違点1>
「復号対象のブロックがP×Q画素(P及びQは整数)の第1のブロックである場合」(構成F)の「前記逆変換手段」(上記「F2’」)について、本件補正発明では、「前記N×M個の変換係数と、M×Qの行列との乗算を行うことで、N×Q個の中間値を導出し、さらに、P×Nの行列と、前記N×Q個の中間値との乗算を行うことで、」予測誤差を導出するとの発明特定事項を有するのに対して、引用発明では、逆直交変換の具体的内容が特定されておらず、当該発明特定事項を有しない点。

<相違点2>
「復号対象のブロックが前記第1のブロックより小さい第2のブロックである場合」(上記「G」)の「逆量子化手段」(上記「G1’」)について、本件補正発明では、「量子化マトリクス」、「量子化変換係数」、及び「変換係数」は、それぞれ「前記第2のブロックと同じサイズの」ものであるとの発明特定事項を有するのに対して、引用発明では、「スケーリングリスト」、「量子化係数」、及び「直交変換係数」それぞれのサイズが特定されておらず、当該発明特定事項を有しない点。

<相違点3>
「復号対象のブロックが前記第1のブロックより小さい第2のブロックである場合」(上記「G」)の「逆変換手段」(上記「G2’」)について、本件補正発明では、「前記変換係数」及び「予測誤差」は、それぞれ「前記第2のブロックと同じサイズの」ものであり、また、「前記変換係数と、前記第2のブロックと同じサイズの行列とを少なくとも用いた乗算を行うことで」、予測誤差を導出するとの発明特定事項を有するのに対して、引用発明では、逆直交変換の具体的内容が特定されておらず、当該発明特定事項を有しない点。

(8) 相違点1〜3に対する判断
上記相違点1〜3について検討する。

ア <相違点1>について
上記(5)のエで説示したとおり、TU及びCUのサイズが64x64である場合、引用発明の「逆直交変換部」(逆変換手段)は、32x32の直交変換係数(変換係数)を逆直交変換して、「直交変換処理の処理単位のブロックである」(構成c)TUと同じサイズの64x64の復元された残差データ(予測誤差)を得るものと解されるから、逆直交変換の具体的内容として、引用文献2記載事項における「N=M=8とし、I=J=10とする逆変換」を適用することは、当業者が容易に想到しうることであり、その際に、「変換係数行列拡大回路は必要ない」点でより有利な「正方行列でないI×Nの変換行列ハットTIと、N×Mの変換係数行列を乗算し、さらに、正方行列でないJ×Mの変換行列ハットTJの転置行列であるM×Jの変換行列を乗算して、I×Jのブロックを得る」逆変換手法を選択することもまた、当業者が容易に想到しうることである。

さらに、引用発明に、前記「正方行列でないI×Nの変換行列ハットTIと、N×Mの変換係数行列を乗算し、さらに、正方行列でないJ×Mの変換行列ハットTJの転置行列であるM×Jの変換行列を乗算して、I×Jのブロックを得る」逆変換手法を適用することにより得られる、64×32の変換行列と、32×32の変換係数行列を乗算し、さらに、64×32の変換行列の転置行列(32×64)を乗算して、64×64のブロックを得る処理を、「64×32の変換行列と、32×32の変換係数行列を乗算」する処理と、「64×32の変換行列の転置行列(32×64)を乗算して、64×64のブロックを得る」処理に分割し、「64×32の変換行列と、32×32の変換係数行列を乗算」する処理の結果(本件補正発明の「N×Q個の中間値」に含まれる。)を記憶したり出力したりするようなことは、いわゆるパイプライン処理のように情報処理分野で通常行われることにすぎず、採用することは容易である。

したがって、「復号対象のブロックがP×Q画素(P及びQは整数)の第1のブロックである場合」(P=Q=64)に、引用発明の「逆直交変換部」において、「前記N×M個の変換係数と、M×Qの行列との乗算を行うことで、N×Q個の中間値を導出し、さらに、P×Nの行列と、前記N×Q個の中間値との乗算を行うことで、」予測誤差を導出するように構成することは、引用文献2記載事項に基づいて、当業者が容易になし得たことである。

イ <相違点2>及び<相違点3>について
<相違点2>及び<相違点3>についてまとめて検討する。
引用発明では、「符号化単位のブロックであるCUのサイズは、・・・32x32,・・・である可能性があり、TUはCUと同一であり、ただし、量子化サイズは最大32x32までとなり、量子化に用いられるスケーリングリストの形状は、32x32,・・・のいずれかとな」る。
ここで、「直交変換処理の処理単位のブロックである」(構成c)TUのサイズが32x32である場合、符号化装置が、直交変換前の32x32サイズの画像に、TUと同じ32x32サイズの行列を乗算して、32x32サイズの直交変換係数を得る、といえる。
また、TU及びCUのサイズが32x32である場合、符号化装置は、量子化に用いられるスケーリングリストのうち、32x32サイズのスケーリングリストを用いて、32x32サイズの前記直交変換係数を量子化して、32x32サイズの量子化係数を得る、といえる。

そして、符号化処理と復号処理の対称性を考慮すると、本件補正発明の「復号対象のブロックが前記第1のブロックより小さい第2のブロックである場合」(構成G)に相当する、TU及びCUのサイズが32x32である場合、引用発明において、逆量子化部(逆量子化手段)は、前記第2のブロックと同じ32x32サイズの量子化マトリクスを用いて、前記第2のブロックと同じ32x32サイズの量子化変換係数から、前記第2のブロックと同じ32x32サイズの直交変換係数(変換係数)を得、逆変換部(逆変換手段)は、前記第2のブロックと同じ32x32サイズの前記直交変換係数(変換係数)と、前記第2のブロックと同じ32x32サイズの行列とを少なくとも用いた乗算を行うことで、前記第2のブロックと同じ32x32サイズの残差データ(予測誤差)を得るものと解される。
したがって、<相違点2>及び<相違点3>は実質的な相違点でないか、又は、引用発明に基づいて、<相違点2>及び<相違点3>に係る本件補正発明の発明特定事項G1及びG2のように構成することは、当業者であれば容易に想到し得たことといえる。

ウ 作用効果について
本件補正発明の作用効果は、引用発明及び引用文献2記載事項に基づいて当業者が予測できる範囲のものにすぎず、格別顕著なものとはいえない。

(9) まとめ
したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

6 審判請求人の主張について

審判請求人は、審判請求書の「本願発明が特許されるべき理由」において、以下のとおり主張している。

「 ここで、審査官殿は「引用文献1に記載された発明において、このようなブロックに対して逆変換を行う際には、32×32の変換係数から64×64の予測誤差を生成しなければならないから、この処理は拡大の処理であるといえ」と述べられていますが、引用文献1では、32×32の変換係数から64×64の予測誤差を「拡大」することで導出することについて記載示唆されておりません。特に、32×32の変換係数から64×64の予測誤差を、直接的に変換処理を用いて導出することについて記載されておりません。
一方、その引用文献1の段落0237及び0238では下記の記載があります。
「32x32内に収まる低域のみを伝送する。それ以外の部分に関してはゼロとなる。」
「左上の32x32の領域が量子化され、それ以外の領域はゼロとなる。同様に、図37の右側に示される16x64のTUの場合、16x32の領域が量子化され、それ以外の領域はゼロとなる。」
また、引用文献1の図37中には「それ以外の領域は強制的にzeroとなる」との記載があります。
さらには段落0397には下記の記載もあります。
「(56) 前記量子化部は、前記カレントブロックのより低域成分側の前記一部の係数に対して、設定された前記スケーリングリストを用いて量子化を行い、前記一部の係数以外の他の係数の値をゼロにする」
このような記載を考慮すると、伝送されなかった32x32以外の場所は、復号側では、ゼロで埋める(ゼロとして扱う)ことが通常想到することであり、逆変換処理によって、「ゼロとなる」と言われている部分に対応する変換係数を、変換処理を用いた拡大によって導出するということは、当業者が引用文献1を見て想到することではないものと思料致します。
つまり、引用文献1と引用文献2とを組み合わせる動機付けといえる「このようなブロックに対して逆変換を行う際には、32×32の変換係数から64×64の予測誤差を生成しなければならないから、この処理は拡大の処理であるといえ」という部分について、引用文献1に記載示唆されていないことから、前述の本願独自の構成に到達するために、引用文献1と引用文献2とを組み合わせるための動機付けはなく、また、いわゆるゼロアウト処理のために、ブロックサイズに応じて、変換処理を異ならせることについていずれの引用文献にも記載示唆されていないものと思料致します。
また、本願請求項に係る発明は、上述の本願独自の構成のように、ブロックサイズに応じた変換処理を利用することで、いわゆるゼロアウト処理を適切に実行することができるという各引用文献と比較した有利な効果を奏します。よって、本願は進歩性を有するものと思料致します。」(5ページ9行〜6ページ下から7行)


請求人の当該主張について検討する。
請求人は、「引用文献1と引用文献2とを組み合わせるための動機付けはな」いと主張している。しかしながら、引用文献2記載事項は、「N=M=8とし、I=J=10とする逆変換」であり、逆変換の結果得られる正方形のサイズI×Jは、正方形の変換係数行列のサイズN×Mより大きいものであり、当該手順により結果として拡大処理がなされている、といえる。そして、引用発明の「逆直交変換部」は、TU及びCUのサイズが64x64である場合、32x32の直交変換係数を逆直交変換して、64x64の復元された残差データを得るものと解され、正方形の直交変換係数を逆直交変換してより大きな正方形の残差データを得る必要のある引用発明の逆変換部において、その具体的構成に関する引用文献2記載事項を適用する動機付けがあるといえるから、請求人の当該主張は採用できない。

また、請求人は、「逆変換処理によって、「ゼロとなる」と言われている部分に対応する変換係数を、変換処理を用いた拡大によって導出するということは、当業者が引用文献1を見て想到することではない」とも主張している。しかしながら、引用文献2記載事項には、「N=M=8とし、I=J=10とする逆変換」であり、「正方行列でないI×Nの変換行列ハットTIと、N×Mの変換係数行列を乗算し、さらに、正方行列でないJ×Mの変換行列ハットTJの転置行列であるM×Jの変換行列を乗算して、I×Jのブロックを得る」逆変換手法を選択することは当業者が容易に想到しうることであるから、請求人の当該主張は採用できない。

さらに、請求人は、「本願請求項に係る発明は、上述の本願独自の構成のように、ブロックサイズに応じた変換処理を利用することで、いわゆるゼロアウト処理を適切に実行することができるという各引用文献と比較した有利な効果を奏します。」とも主張している。しかしながら、引用発明もまた、TU及びCUというブロックのサイズが64x64の場合にはゼロアウト処理を行う一方、32x32の場合には異なる変換処理を行うものであり、本件補正発明の作用効果は、引用発明及び引用文献2記載事項に基づいて当業者が予測できる範囲のものにすぎないから、請求人の当該主張は採用できない。

以上のとおりであるから、請求人の主張は採用できない。

7 小括
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができない。

8 補正の却下の決定についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
したがって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件発明について

1 本件発明
令和5年6月21日付け手続補正は上記第2のとおり却下されたから、本願の請求項1〜13に係る発明は、令和4年12月2日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1〜13に記載された事項により特定されるものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記第2の1の(1)に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2 原査定における拒絶の理由
原査定(令和5年3月14日付け拒絶査定)における拒絶の理由は、概略、「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであり、請求項1に係る発明に対して、以下の引用文献1及び2が引用された。

引用文献1:国際公開第2018/008387号
引用文献2:特開平4−100379号公報

3 引用発明、及び引用文献2記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1に記載された発明は上記第2の4の(2)に記載したとおりである。
また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2に記載された事項は、同(3)に記載したとおりである。

4 対比、判断
本件発明と引用発明を対比する。
本件発明は、本件補正発明の「N×M個から成る、前記第1のブロックのための量子化変換係数、」から、「から成る、前記第1のブロックのため」及び「、」との発明特定事項を除いたものである。
そして、上記第2の7で説示したとおり、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件補正発明から上記発明特定事項を除いた本件発明も同様に、引用発明及び引用文献2記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび

以上のとおり、本件発明は、引用発明及び引用文献2記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2024-05-24 
結審通知日 2024-05-28 
審決日 2024-06-10 
出願番号 P2019-044274
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04N)
P 1 8・ 575- Z (H04N)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 畑中 高行
特許庁審判官 川崎 優
圓道 浩史
発明の名称 画像復号装置、画像復号方法、及びプログラム  
代理人 冨田 一史  
代理人 高橋 佳子  
代理人 中辻 七朗  
代理人 阿部 琢磨  
代理人 大朋 靖尚  

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