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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01M
管理番号 1413140
総通号数 32 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2024-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2023-09-29 
確定日 2024-08-20 
事件の表示 特願2022−575292「非水系二次電池用セパレータ及び非水系二次電池」拒絶査定不服審判事件〔令和 5年 1月19日国際公開、WO2023/286874、請求項の数(18)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2022年(令和4年)7月15日(優先権主張 令和3年7月16日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和5年 2月 9日付け:拒絶理由通知書
令和5年 4月20日 :意見書、手続補正書
令和5年 6月21日付け:拒絶査定
令和5年 9月29日 :審判請求書、手続補正書

以下では、令和5年6月21日付け拒絶査定を「原査定」といい、同年9月29日の手続補正書による補正を「本件補正」という。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

理由1(進歩性
本願の請求項1〜5、11〜19に係る発明は、以下の引用文献1に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.国際公開第2018/212252号

第3 本件補正について
1 本件補正の目的について
(1)本件補正前の請求項1に対する本件補正の目的
本件補正前の請求項1に対する本件補正は、本件補正前の請求項1の「前記接着性多孔質層に含まれるポリフッ化ビニリデン系樹脂全体を試料として示差走査熱量測定をしたとき吸熱ピークが2つ以上及び/又は発熱ピークが2つ以上観測される」との記載を、「前記接着性多孔質層に含まれるポリフッ化ビニリデン系樹脂全体を試料として示差走査熱量測定をしたとき吸熱ピークが2つ以上及び発熱ピークが2つ以上観測され、2つ以上観測される前記吸熱ピークの、隣り合う前記吸熱ピークの温度差がそれぞれ30℃以上60℃以下である」とするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
したがって、当該補正は、特許法17条の2第5項2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

(2)本件補正前の請求項3〜19に対する本件補正の目的
本件補正前の請求項3〜19に対する本件補正は、本件補正前の請求項3を削除し、それに伴い本件補正前の請求項4〜19の項番を1つずつ繰り上げる補正である。
したがって、当該補正は、特許法17条の2第5項1号に掲げる「請求項の削除」を目的とするものに該当する。

2 本件補正による新規事項追加の有無
本件補正における「前記接着性多孔質層に含まれるポリフッ化ビニリデン系樹脂全体を試料として示差走査熱量測定をしたとき吸熱ピークが2つ以上及び発熱ピークが2つ以上観測され、2つ以上観測される前記吸熱ピークの、隣り合う前記吸熱ピークの温度差がそれぞれ30℃以上60℃以下である」との発明特定事項は、願書に最初に添付した明細書の【0030】、【0207】から明らかな事項である。
したがって、本件補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法17条の2第3項の規定を満たす。

3 本件補正によるシフト補正の有無
本件補正が特許法17条の2第4項の規定を満たすことは明らかである。

4 独立特許要件の適否
以下の「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」に示すとおりであるから、本件補正が特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定を満たすことは明らかである。

5 本件補正についての小括
前記1〜4のとおりであるから、本件補正は適法になされたものである。

第4 本願発明
本願の請求項1〜18に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」〜「本願発明18」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1〜18に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。なお、後の参照の便宜のため、本願発明1及び5を以下のように1A〜1G及び5A〜5Gに分説し、「発明特定事項1A」のようにして参照する。

「【請求項1】
1A 多孔質基材と、
1B 前記多孔質基材の片面又は両面に設けられ、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びフィラーを含む接着性多孔質層と、
1C を備え、
1D 前記多孔質基材がフッ素原子を含み、
1E 前記接着性多孔質層に含まれるポリフッ化ビニリデン系樹脂全体を試料として示差走査熱量測定をしたとき吸熱ピークが2つ以上及び発熱ピークが2つ以上観測され、
1F 2つ以上観測される前記吸熱ピークの、隣り合う前記吸熱ピークの温度差がそれぞれ30℃以上60℃以下である、
1G 非水系二次電池用セパレータ。
【請求項2】
前記接着性多孔質層に含まれるポリフッ化ビニリデン系樹脂全体を試料として示差走査熱量測定をしたとき吸熱ピークが125℃以上140℃未満の領域と140℃以上190℃未満の領域とに少なくとも1つずつ観測される、請求項1に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項3】
前記接着性多孔質層に含まれるポリフッ化ビニリデン系樹脂全体を試料として示差走査熱量測定をしたとき発熱ピークが80℃以上125℃未満の領域と125℃以上190℃未満の領域とに少なくとも1つずつ観測される、請求項1に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項4】
前記接着性多孔質層に含まれるポリフッ化ビニリデン系樹脂全体を試料として示差走査熱量測定をしたとき発熱ピークが2つ以上観測され、隣り合う前記発熱ピークの温度差がそれぞれ10℃以上90℃以下である、請求項1に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項5】
5A 多孔質基材と、
5B 前記多孔質基材の片面又は両面に設けられ、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びフィラーを含む接着性多孔質層と、
5C を備え、
5D 前記多孔質基材がフッ素原子を含み、
5E1 前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂が下記のポリフッ化ビニリデン系樹脂X及びポリフッ化ビニリデン系樹脂Yを含み、
5F 前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂Xの融点と前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂Yの融点との差分が25℃以上55℃未満である、
5G 非水系二次電池用セパレータ。
5E2 ポリフッ化ビニリデン系樹脂X:フッ化ビニリデン由来の構成単位及びヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位を含み、全構成単位に占めるヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位の割合が3.5mol%超15mol%以下であり、重量平均分子量が10万以上100万未満であり、融点が125℃以上150℃未満である。
5E3 ポリフッ化ビニリデン系樹脂Y:フッ化ビニリデン由来の構成単位を含み、ヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位を含んでいてもよく、全構成単位に占めるヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位の割合が0mol%以上3.5mol%以下であり、重量平均分子量が100万以上300万未満であり、融点が150℃以上180℃未満である。
【請求項6】
前記接着性多孔質層に含まれるポリフッ化ビニリデン系樹脂全体を試料として示差走査熱量測定をしたとき吸熱ピークが2つ以上及び/又は発熱ピークが2つ以上観測される、請求項5に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項7】
前記接着性多孔質層に含まれる前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂Xと前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂Yとの質量比が20:80〜80:20である、請求項5に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項8】
前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂Xが、フッ化ビニリデン由来の構成単位及びヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位を含み、全構成単位に占めるヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位の割合が5.0mol%超15mol%以下であり、重量平均分子量が30万以上100万未満であり、融点が125℃以上140℃未満である、請求項5に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項9】
前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂Yが、フッ化ビニリデン由来の構成単位を含み、ヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位を含んでいてもよく、全構成単位に占めるヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位の割合が0mol%以上2.0mol%以下であり、重量平均分子量が150万以上200万未満であり、融点が150℃以上170℃未満である、請求項5に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項10】
前記多孔質基材に含まれる全原子に占めるフッ素原子の割合が0.05atomic%以上1.00atomic%以下である、請求項1又は請求項5に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項11】
前記接着性多孔質層が、下記の式(1)で表される単量体由来の構成単位を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む、請求項1又は請求項5に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【化1】

式(1)中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜5のアルキル基、カルボキシ基、又はカルボキシ基の誘導体を表し、Xは、単結合、炭素数1〜5のアルキレン基、又は置換基を有する炭素数1〜5のアルキレン基を表し、Yは、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、少なくとも1つのヒドロキシ基で置換された炭素数1〜5のアルキル基、少なくとも1つのカルボキシ基で置換された炭素数1〜5のアルキル基、又は−R−O−C(=O)−(CH2)n−C(=O)−OH(Rは炭素数1〜5のアルキレン基を表し、nは0以上の整数を表す。)を表す。
【請求項12】
前記接着性多孔質層に含まれるポリフッ化ビニリデン系樹脂全体の酸価が3.0mgKOH/g未満である、請求項1又は請求項5に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項13】
前記接着性多孔質層に含まれるポリフッ化ビニリデン系樹脂全体の重量平均分子量が30万以上300万未満である、請求項1又は請求項5に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項14】
前記接着性多孔質層に含まれるポリフッ化ビニリデン系樹脂全体において、全構成単位に占めるヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位の割合が3.5mol%超7.0mol%以下である、請求項1又は請求項5に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項15】
前記接着性多孔質層の空孔を除いた体積に占める前記フィラーの割合が30体積%〜90体積%である、請求項1又は請求項5に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項16】
前記フィラーが金属水酸化物粒子、金属硫酸塩粒子及びチタン酸バリウム粒子からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1又は請求項5に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項17】
前記接着性多孔質層に含まれるフィラー全体の平均一次粒径が0.01μm〜1.5μmである、請求項1又は請求項5に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項18】
正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置された請求項1又は請求項5に記載の非水系二次電池用セパレータと、を備え、リチウムイオンのドープ及び脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池。」

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された国際公開2018/212252号(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、強調のため当審で付与した。以下同様。)。

「[0005] そこで、本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、従来のセパレータに比べ、緩やかな条件でウェットヒートプレスを行った場合でも、電極との接着性に優れ、電極と接着した後にも良好なイオン透過性を確保できる非水系二次電池用セパレータを提供することにある。
また、本発明の他の実施形態が解決しようとする課題は、セル強度及び電池特性に優れた非水系二次電池を提供することにある。」

「[0016]<非水系二次電池用セパレータ>
本開示の非水系二次電池用セパレータ(単に「セパレータ」ともいう。)は、多孔質基材と、多孔質基材の片面又は両面に設けられた接着性多孔質層とを備える。本開示のセパレータにおいて、接着性多孔質層は、単量体成分としてフッ化ビニリデンおよび下記式(1)で表されるモノマーを有し、かつ、融点が130℃以上148℃以下である共重合体A(ポリフッ化ビニリデン系樹脂;PVDF系樹脂A)を含む。
[0017][化2]



「[0043](PVDF系樹脂A)
本開示におけるPVDF系樹脂Aは、単量体成分としてVDFおよび下記式(1)で表されるモノマーを有し、かつ、融点が130℃以上148℃以下である共重合体である。
[0044][化3]

[0045] 式(1)において、R1、R2、及びR3は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基もしくはその誘導体、または炭素数1〜5のアルキル基を表す。Xは、単結合、炭素数1〜5のアルキレン基、または置換基を有する炭素数1〜5のアルキレン基を表す。Yは、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、または少なくとも1つのヒドロキシ基を含む炭素数1〜5のアルキル基を表す。
[0046] PVDF系樹脂Aの融点は接着温度に顕著に影響し、148℃より高いと高温での熱プレスが必要となり、熱プレス工程が電池の性能に悪影響を及ぼすことがある。このような観点ではPVDF系樹脂Aの融点は145℃以下が好ましく、143℃以下であることがより好ましく、140℃以下であることがさらに好ましい。PVDF系樹脂の融点が130℃より低いと、電解液への膨潤性が高くなるため、電池性能へ悪影響を及ぼすことがある点から好ましくない。このような観点ではPVDF系樹脂Aの融点は132℃以上が好ましく、135℃以上であることがさらに好ましい。
[0047] R1、R2及びR3におけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
R1、R2及びR3における炭素数1〜5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等が挙げられ、炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
Xにおける炭素数1〜5のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等が挙げられる。
Xにおける「置換基を有する炭素数1〜5のアルキレン基」としては、例えば、2−メチルエチル、2−エチルプロピル等が挙げられる。
Yにおける炭素数1〜5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等が挙げられ、炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
Yにおける「少なくとも1つのヒドロキシ基を含む炭素数1〜5のアルキル基」としては、例えば、2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピル等が挙げられ、少なくとも1つのヒドロキシ基を含む炭素数1〜3のアルキル基が好ましい。
上記の中でも、R1、R2及びR3が水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、Xが単結合であり、Yが炭素数1〜4のアルキル基、又は少なくとも1つのヒドロキシ基を含む炭素数1〜3のアルキル基である場合がより好ましい。」

「[0051] PVDF系樹脂Aは、単量体成分として、フッ化ビニリデン、前記式(1)で表されるモノマーに加えて、さらに他のモノマーを含む共重合体であってもよい。他のモノマーとしては、例えば、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル、あるいはこれらの1種以上の組合せが挙げられる。中でも、PVDF系樹脂Aは、単量体成分として、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、および前記式(1)で表されるモノマーを含む共重合体であることが好ましい。PVDF系樹脂Aが単量体成分としてVDF、HFP、および前記式(1)で表されるモノマーを含む共重合体である場合、本開示における効果を高める上では、単量体成分として式(1)で表されるモノマーが0.5モル%以上5モル%以下含まれていることが好ましい。同様に、PVDF系樹脂Aが単量体成分としてVDF、HFP、および式(1)で表されるモノマーを含む共重合体である場合、単量体成分としてHFPが3.5モル%超7モル%以下含まれていることが好ましく、さらには4モル%以上6.5モル%以下含まれていることが好ましい。
[0052] 本開示において、PVDF系樹脂Aは、重量平均分子量(Mw)が30万〜300万であることが好ましい。
PVDF系樹脂AのMwが30万以上であることにより、電極との接着処理に耐え得る力学特性を接着性多孔質層に効果的に付与することができる。このような観点では、PVDF系樹脂AのMwは、より好ましくは50万以上であり、更に好ましくは100万以上である。
一方、PVDF系樹脂AのMwが300万以下であると、接着性多孔質層を塗工成形するための塗工液の粘度が高くなり過ぎず、均一な多孔構造の接着性多孔質層を成形する野に適している。また、緩やかな条件でウェットヒートプレスした場合にも、流動性を良好に維持しやすく、ウェット接着性が得られやすい。このような観点から、PVDF系樹脂AのMwは、より好ましくは250万以下であり、更に好ましくは230万以下である。
[0053] 一方、本開示において、PVDF系樹脂Aとして重量平均分子量が30万未満のものを用いる場合は、接着性多孔質層を構成するポリフッ化ビニリデン系樹脂は、さらに重量平均分子量が30万以上であるポリフッ化ビニリデン系樹脂(PVDF系樹脂B)を含有し、前記PVDF系樹脂Aと前記PVDF系樹脂Bの融点の中間値が155℃以下であることが好ましい。
PVDF系樹脂BのMwが30万以上である場合、電極とのウェットヒートプレスを行った際、良好な力学的強度を付与することができる。特にPVDF系樹脂AのMwが30万未満であっても、PVDF系樹脂BのMwが高ければ、電極との接着処理に耐え得る力学特性を付与することができるため好ましい。また、PVDF系樹脂AとPVDF系樹脂Bの融点の中間値が155℃以下となるようにPVDF系樹脂Bを選択した場合、良好な電解液への膨潤度を維持するため、緩やかなウェットヒートプレス条件においても、PVDF系樹脂Aのウェット接着力発現を阻害することがない。
PVDF系樹脂BのMwとしては、50万以上がより好ましく、80万以上が更に好ましい。また、PVDF系樹脂BのMwは、300万以下がより好ましく、250万以下が更に好ましい。」

「[0060][フィラー]
本開示における接着性多孔質層は、無機物又は有機物からなるフィラーを含有していてもよい。接着性多孔質層がフィラーを含有することにより、セパレータの耐熱性、電解液親和性を向上させることができる。その場合、本開示における効果を妨げない程度の含有量及び粒子サイズとすることが好ましい。
[0061] フィラーの平均一次粒子径は、0.01μm〜5μmが好ましく、下限値としては0.1μm以上がより好ましく、上限値としては1.5μm以下がより好ましく、1μm以下が更に好ましい。
[0062] フィラーの粒度分布は、0.1μm<d90−d10<3μmであることが好ましい。ここで、d10は、小粒子側から起算した体積基準の粒度分布における累積10%の粒子径(μm)を表し、d90は、小粒子側から起算した体積基準の粒度分布における累積90%の粒子径(μm)を表す。
粒度分布の測定は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えばシスメックス社製マスターサイザー2000)を用い、分散媒として水を用い、分散剤として非イオン性界面活性剤Triton X−100を用いて行われる。
[0063] フィラーの形状には制限はなく、球に近い形状でもよく、板状又は繊維状の形状でもよい。フィラーは、電池の短絡抑制の観点からは、板状の粒子が好ましく、凝集していない一次粒子であることが好ましい。
[0064] 接着性多孔質層に含まれるフィラーの含有量は、接着性多孔質層の全固形分の40体積%〜85体積%であることが好ましい。フィラーの含有量が40体積%以上であると、セパレータの耐熱性、セル強度のさらなる向上及び電池の安全性確保が期待できる。一方、フィラーの含有量が85体積%以下であると、接着性多孔質層の成形性及び形が保たれ、セル強度の向上に寄与する。フィラーの含有量は、接着性多孔質層の全固形分の45体積%以上であることがより好ましく、50体積%以上であることが更に好ましく、80体積%以下であることがより好ましく、75体積%以下であることが更に好ましい。
[0065] 無機フィラーとしては、電解液に対して安定であり、且つ、電気化学的に安定な無機フィラーが好ましい。無機フィラーの具体的な例としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化クロム、水酸化ジルコニウム、水酸化セリウム、水酸化ニッケル、水酸化ホウ素等の金属水酸化物;酸化マグネシウム、アルミナ、ベーマイト(アルミナ1水和物)、チタニア、シリカ、ジルコニア、チタン酸バリウム等の金属酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等の炭酸塩;硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の硫酸塩;フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム等の金属フッ化物;ケイ酸カルシウム、タルク等の粘土鉱物;などが挙げられる。これらの無機フィラーは、1種を単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。無機フィラーは、シランカップリング剤等により表面修飾されたものでもよい。」

「[0075] 本開示のセパレータのガーレ値(JIS P8117:2009)は、機械的強度と膜抵抗のバランスがよい観点から、50秒/100ml〜800秒/100mlが好ましく、50秒/100ml〜450秒/100mlがより好ましい。
[0076] 本開示のセパレータは、イオン透過性の観点から、セパレータ(多孔質基材上に接着性多孔質層を形成した状態)のガーレ値から多孔質基材のガーレ値を減算した値(以下「ガーレ値差」という。)が、300秒/100ml以下であることが好ましく、より好ましくは150秒/100ml以下、更に好ましくは100秒/100ml以下である。ガーレ値差が300秒/100ml以下であることで、接着性多孔質層が緻密になり過ぎずイオン透過性が良好に保たれ、優れた電池特性が得られる。一方、ガーレ値差は0秒/100ml以上が好ましく、接着性多孔質層と多孔質基材との接着力を高める観点からは、10秒/100ml以上が好ましい。」

「[0082]〜非水系二次電池用セパレータの製造方法〜
本開示のセパレータは、例えば、PVDF系樹脂を含有する塗工液を多孔質基材上に塗工し塗工層を形成し、次いで塗工層に含まれるPVDF系樹脂を固化させることで、接着性多孔質層を多孔質基材上に形成する方法で製造される。具体的には、接着性多孔質層は、例えば、以下の湿式塗工法によって形成することができる。」

「[0110][接着性多孔質層に含まれるポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点]
セパレータから塗工層である接着性多孔質層をはぎとり、PVDF系樹脂を回収した。このPVDF系樹脂の融点をDSC測定(示差走査熱量測定、Differential Scanning Calorimeter)にて測定した。DSC測定は、ティー・エイ・インスツルメント製のQシリーズを用いた。
窒素雰囲気下、30℃から200℃の範囲を5℃/分の速度で昇温し、得られた融解吸熱曲線において、極大となる温度を多孔質層に含まれるポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点とした。極大値が複数ある場合は、低温側の温度を融点として採用した。」

「[0123] 実施例1〜9及び比較例1〜5の各セパレータの物性及び評価結果を表1に、実施例10〜11の各セパレータの物性及び評価結果を表2に示す。
なお、表1及び表2において、「官能基含有モノマー単位」は、式(1)で表されるモノマーに由来する構成単位(単量体成分)を表す。
[0124][表1]

[0125][表2]


前記[表2]を参照すると、実施例10において、PVDF系樹脂Aは、HFP単位4.8mol%、融点144℃、重量平均分子量22万であり、PVDF系樹脂Bは、HFP単位3.2mol%、融点159℃、重量平均分子量89万であることが見て取れる。

したがって、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、後の参照の便宜のため、引用発明を以下のようにa〜jに分説し、「構成a」のようにして参照する。

<引用発明>
「a 多孔質基材と、多孔質基材の片面又は両面に設けられた接着性多孔質層とを備え、([0016])
b 接着性多孔質層は、下記式(1)で表されるモノマーを有する共重合体A(ポリフッ化ビニリデン系樹脂;PVDF系樹脂A)を含み、([0016])

c 接着性多孔質層を構成するポリフッ化ビニリデン系樹脂は、さらに重量平均分子量が30万以上であるポリフッ化ビニリデン系樹脂(PVDF系樹脂B)を含有し、([0053])
d PVDF系樹脂Aは、HFP単位4.8mol%、融点144℃、重量平均分子量22万であり、PVDF系樹脂Bは、HFP単位3.2mol%、融点159℃、重量平均分子量89万であり、([表2])
e セパレータから接着性多孔質層をはぎとり、PVDF系樹脂を回収し、([0110])
f このPVDF系樹脂の融点は示差走査熱量測定にて測定され、([0110])
g 融解吸熱曲線において、極大となる温度をポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点とし、([0110])
h 接着性多孔質層は、フィラーを含有していてもよく、([0060])
i セパレータは、PVDF系樹脂を含有する塗工液を多孔質基材上に塗工し塗工層を形成し、次いで塗工層に含まれるPVDF系樹脂を固化させることで、接着性多孔質層を多孔質基材上に形成する方法で製造される([0082])
j 非水系二次電池用セパレータ。([0016])」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のとおりである。

ア 発明特定事項1A、1C、1Gについて
引用発明は「非水系二次電池用セパレータ」(構成j)であって、「多孔質基材」を備える(構成a)。
したがって、本願発明1と引用発明は「多孔質基材」を備える「非水系二次電池用セパレータ」である点で一致する。

イ 発明特定事項1B、1Cについて
(ア)引用発明は、「多孔質基材の片面又は両面に設けられた接着性多孔質層」を備える(構成a)。
(イ)引用発明における「接着性多孔質層」は、「ポリフッ化ビニリデン系樹脂;PVDF系樹脂A」を含む(構成b)。また、「フィラーを含有していてもよ」い(構成h)。
(ウ)前記(ア)及び(イ)より、本願発明1と引用発明は、「多孔質基材の片面又は両面に設けられ、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びフィラーを含む接着性多孔質層」を備える点で一致する。

ウ 発明特定事項1Dについて
引用発明は、「PVDF系樹脂を含有する塗工液を多孔質基材上に塗工し」て「製造される」(構成i)ものであるが、「多孔質基材がフッ素原子を含」むことについて特定されていない。

エ 発明特定事項1Eについて
(ア)引用発明では、「セパレータから接着性多孔質層をはぎとり、PVDF系樹脂を回収し」て(構成e)、「示差走査熱量測定にて」「PVDF系樹脂の融点」を「測定」する(構成f)ことから、引用発明においても、本願発明1のように「接着性多孔質層に含まれるポリフッ化ビニリデン系樹脂全体を試料として示差走査熱量測定をし」ているといえる。
(イ)引用発明では、「融解吸熱曲線において、極大となる温度をポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点とし」ている(構成g)。このとき、「吸熱曲線」における「極大の温度」を、「吸熱ピーク」と称することは任意である。
また、該「極大の温度」を「PVDF系樹脂の融点」として「測定」する(構成f、構成g)から、引用発明においても、本願発明1のように、「示差走査熱量測定をしたときに吸熱ピーク」が「観測され」るといえる。
(ウ)他方、引用発明では、「吸熱ピークが2つ以上及び発熱ピークが2つ以上」観測されることについて特定されていない。
(エ)前記(ア)〜(ウ)より、本願発明1と引用発明は「接着性多孔質層に含まれるポリフッ化ビニリデン系樹脂全体を試料として示差走査熱量測定をしたときに吸熱ピークが観測され」る点で共通するが、引用発明では、「吸熱ピークが2つ以上及び発熱ピークが2つ以上」観測されることについて特定されていない。

オ 発明特定事項1Fについて
前記エで対比したとおり、引用発明は、「吸熱ピークが2つ以上及び発熱ピークが2つ以上」観測されることについて特定されていないから、それに付随して、「2つ以上観測される前記吸熱ピークの、隣り合う前記吸熱ピークの温度差がそれぞれ30℃以上60℃以下である」ことについても特定されていない。

したがって、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

(一致点)
「多孔質基材と、
前記多孔質基材の片面又は両面に設けられ、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びフィラーを含む接着性多孔質層と、
を備え、
接着性多孔質層に含まれるポリフッ化ビニリデン系樹脂全体を試料として示差走査熱量測定をしたときに吸熱ピークが観測される、
非水系二次電池用セパレータ。」

(相違点)
(相違点1)本願発明1は、「多孔質基材がフッ素原子を含」むのに対し、引用発明は、その点について特定されていない点。
(相違点2)本願発明1は、「吸熱ピークが2つ以上及び発熱ピークが2つ以上」観測されるのに対し、引用発明は、その点について特定されていない点。
(相違点3)本願発明1は、「2つ以上観測される前記吸熱ピークの、隣り合う前記吸熱ピークの温度差がそれぞれ30℃以上60℃以下である」のに対し、引用発明は、その点について特定されていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点3について検討する。

引用発明において、「PVDF系樹脂の融点」は、「示差走査熱量測定にて測定され」(構成f)、「融解吸熱曲線において、極大となる温度」(構成g)であって、「吸熱ピーク」として「観測」される(前記(1)エ(イ))ものである。
このとき、引用発明における「接着性多孔質層」は、「PVDF系樹脂A」及び「PVDF系樹脂B」を含み(構成b、構成c)、「PVDF系樹脂A」の「融点」は「144℃」であり、「PVDF系樹脂B」の「融点」は「159℃」である(構成d)から、引用発明における「接着性多孔質層」を示差走査熱量測定した場合には、それぞれの融点である144℃及び159℃付近において「吸熱ピーク」が「観測」されるものと認められ、吸熱ピークの温度差は15℃程度となると考えられる。
ここで検討するに、吸熱ピークの温度差は「接着性多孔質層」が含むPVDF系樹脂より定まると考えられるところ、引用発明には、「接着性多孔質層」に用いることができ、吸熱ピークの温度差を30℃以上60℃以下とするPVDF系樹脂の組み合わせについての記載や示唆はなく、このような組み合わせが周知技術であったとも認められない。
よって、引用発明において、前記相違点3に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明5について
(1)対比
本願発明5と引用発明とを対比すると、次のとおりである。

ア 発明特定事項5A、5C、5Gについて
引用発明は「非水系二次電池用セパレータ」(構成j)であって、「多孔質基材」を備える(構成a)。
したがって、本願発明5と引用発明は「多孔質基材」を備える「非水系二次電池用セパレータ」である点で一致する。

イ 発明特定事項5B、5Cについて
(ア)引用発明は、「多孔質基材の片面又は両面に設けられた接着性多孔質層」を備える(構成a)。
(イ)引用発明における「接着性多孔質層」は、「ポリフッ化ビニリデン系樹脂;PVDF系樹脂A」を含む(構成b)。また、「フィラーを含有していてもよ」い(構成h)。
(ウ)前記(ア)及び(イ)より、本願発明5と引用発明は、「多孔質基材の片面又は両面に設けられ、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びフィラーを含む接着性多孔質層」を備える点で一致する。

ウ 発明特定事項5Dについて
引用発明は、「PVDF系樹脂を含有する塗工液を多孔質基材上に塗工し」て「製造される」(構成i)ものであるが、「多孔質基材がフッ素原子を含」むことについて特定されていない。

エ 発明特定事項5E1〜5E3について
(ア)引用発明において、「PVDF系樹脂A」を含む(構成b)「接着性多孔質層を構成するポリフッ化ビニリデン系樹脂」は、さらに「PVDF系樹脂B」を含む(構成c)。ここで、「PVDF系樹脂A」をポリフッ化ビニリデン系樹脂Xと、「PVDF系樹脂B」をポリフッ化ビニリデン系樹脂Yと、それぞれ称することは任意である。
(イ)引用発明における「PVDF系樹脂A」は、「HFP単位4.8mol%、融点144℃、重量平均分子量22万であ」る(構成d)から、本願発明5の「ポリフッ化ビニリデン系樹脂X」と、「フッ化ビニリデン由来の構成単位及びヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位を含み、全構成単位に占めるヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位の割合が3.5mol%超15mol%以下であり、重量平均分子量が10万以上100万未満であり、融点が125℃以上150℃未満である」点で共通する。
(ウ)引用発明における「PVDF系樹脂B」は、「HFP単位3.2mol%、融点159℃、重量平均分子量89万であ」る(構成d)から、本願発明5の「ポリフッ化ビニリデン系樹脂Y」と、「フッ化ビニリデン由来の構成単位を含み、ヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位を含んでいてもよく、全構成単位に占めるヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位の割合が0mol%以上3.5mol%以下であり、融点が150℃以上180℃未満である」点で共通する。
(エ)前記(ア)〜(ウ)より、本願発明5と引用発明は、「ポリフッ化ビニリデン系樹脂がポリフッ化ビニリデン系樹脂X及びポリフッ化ビニリデン系樹脂Yを含み」、ポリフッ化ビニリデン系樹脂Xが「フッ化ビニリデン由来の構成単位及びヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位を含み、全構成単位に占めるヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位の割合が3.5mol%超15mol%以下であり、重量平均分子量が10万以上100万未満であり、融点が125℃以上150℃未満であ」り、ポリフッ化ビニリデン系樹脂Yが「フッ化ビニリデン由来の構成単位を含み、ヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位を含んでいてもよく、全構成単位に占めるヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位の割合が0mol%以上3.5mol%以下であり、融点が150℃以上180℃未満である」点で共通するが、引用発明では、ポリフッ化ビニリデン系樹脂Yの重量平均分子量が89万である。

オ 発明特定事項5Fについて
引用発明における「PVDF系樹脂A」の「融点」は「144℃」であり、「PVDF系樹脂B」の「融点」は「159℃」である(構成d)から、両者の融点の差分は15℃であると認められる。

したがって、本願発明5と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

(一致点)
「多孔質基材と、
前記多孔質基材の片面又は両面に設けられ、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びフィラーを含む接着性多孔質層と、
を備え、
前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂がポリフッ化ビニリデン系樹脂X及びポリフッ化ビニリデン系樹脂Yを含む
非水系二次電池用セパレータ。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂X:フッ化ビニリデン由来の構成単位及びヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位を含み、全構成単位に占めるヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位の割合が3.5mol%超15mol%以下であり、重量平均分子量が10万以上100万未満であり、融点が125℃以上150℃未満である。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂Y:フッ化ビニリデン由来の構成単位を含み、ヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位を含んでいてもよく、全構成単位に占めるヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位の割合が0mol%以上3.5mol%以下であり、融点が150℃以上180℃未満である。」

(相違点)
(相違点4)本願発明5は、「多孔質基材がフッ素原子を含」むのに対し、引用発明は、その点について特定されていない点。
(相違点5)本願発明5は、「前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂Xの融点と前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂Yの融点との差分が25℃以上55℃未満である」のに対し、引用発明は、15℃である点。
(相違点6)本願発明5は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂Yが「重量平均分子量が100万以上300万未満であ」るのに対し、引用発明は、89万である点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点5について検討する。

引用発明において開示される「接着性多孔質層」に用いることができるPVDF系樹脂の組み合わせである「PVDF系樹脂A」と「PVDF系樹脂B」の融点の差は15℃であるところ、引用発明には、他の構成要素を満たし、融点の差分が25℃以上55℃未満である「接着性多孔質層」に用いることができるPVDF系樹脂の組み合わせについての記載や示唆はなく、周知技術であったとも認められない。
よって、引用発明において、前記相違点5に係る本願発明5の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明5は、当業者であっても引用発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

3 本願発明2〜4、6〜18について
本願発明2〜4、6〜18は、本願発明1又は本願発明5の発明特定事項を全て含み、さらに別の発明特定事項を加えたものであるから、本件発明2〜4、6〜18と引用発明との間には、少なくとも前記1(1)または2(1)に示す相違点が存在する。
そして前記1(2)及び2(2)のとおりであるから、本件発明2〜4、6〜18は、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1〜18は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2024-08-08 
出願番号 P2022-575292
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01M)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 高野 洋
特許庁審判官 衣鳩 文彦
上田 翔太
発明の名称 非水系二次電池用セパレータ及び非水系二次電池  
代理人 弁理士法人太陽国際特許事務所  

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