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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12P
管理番号 1413267
総通号数 32 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2024-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2024-04-09 
確定日 2024-07-11 
事件の表示 特願2023−95701「エクオール含有組成物の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和5年7月28日出願公開、特開2023−105251〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
1.出願分割の経緯の概略
本願は、特許法44条1項の規定に基づいてされた特許出願であり、平成26年1月30日に出願された特願2014−15367号を最先の出願とする、いわゆる第4世代の分割出願である。
出願分割の経緯の概略は、以下のとおりである。なお、括弧内は当該出願の提出日を示す。

最先の出願:特願2014−015367号(平成26年 1月30日)
第1世代 :特願2018−199651号(平成30年10月24日)
第2世代 :特願2021−198799号(令和 3年12月 7日)
第3世代 :特願2022−112258号(令和 4年 7月13日)
本 願 :特願2023−095701号(令和 5年 6月 9日)

2.手続の経緯の概略
本願の手続の経緯の概略は、以下のとおりである。

令和5年 6月29日 :手続補正書の提出
同 年 6月30日付け:拒絶理由通知
同 年12月21日付け:拒絶査定
令和6年 4月 9日 :拒絶査定不服審判の請求

第2 本願発明
本願の請求項1〜8に係る発明は、令和5年6月29日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
(1)イソフラボン類を含む大豆胚軸を、前記イソフラボン類をアグリコンに変換する酵素で処理して酵素処理液を得、アグリコンを含有する前記酵素処理液を嫌気性微生物により発酵して、前記アグリコンをエクオールに変換する工程、及び、
(2)前記工程(1)で産生された前記エクオールを含有するエクオール含有組成物を、前記発酵することにより得られた発酵液から回収する工程、
を含む、実質的にアレルゲンを含まないエクオール含有組成物の製造方法であって、
前記嫌気性微生物が、アサッカロバクター(Asaccharobacter)属またはラクトコッカス(Lactococcus)属に分類される微生物である、製造方法
(ただし、大豆を洗浄後、130℃で20分間高圧蒸気で蒸煮し、柔らかくなった大豆に納豆菌もしくは麹菌をかけて1日発酵させ、この工程で、納豆菌もしくは麹菌の産生するβグルコシダーゼによって、配糖体のダイジンをダイゼインへと変換し、嫌気環境に移して、予め培養したdo03株(AHU-1763)(FERM AP-20905)の培養液をかけて、1日発酵を進める、エクオール高含有の大豆食品素材の製造方法を除く。)。」

第3 原査定の拒絶理由
原査定の拒絶理由は、本願発明は、その原出願日(平成26年1月30日)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1〜5、8に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、との理由を含むものである。

<引用文献等一覧>
1.特開2012−135217号公報
2.特開平11−89589号公報
3.特開2005−224162号公報
4.特開2012−228252号公報
5.国際公開第2007/066655号
8.特開2008−61584号公報

第4 当審の判断
1.引用文献の記載事項
(1)引用文献1の記載事項
引用文献1(特開2012−135217号公報)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審にて付与した。

引1a
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソフラボン類を含む培地に、曇り点が50℃以上の界面活性剤を添加し、エクオール生産能を有する偏性嫌気性微生物の一種を作用させることを特徴とするエクオールの製造方法。
【請求項2】
前記イソフラボン類は、イソフラボン、イソフラボンアグリコン、ダイゼイン配糖体、ダイゼイン、ジヒドロダイゼインからなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載のエクオールの製造方法。
【請求項3】
前記偏性嫌気性微生物は、アドレクラウチア(Adlercreutzia)属、アサッカロバクター(Asaccharobacter)属、エガセラ(Eggerthella)属、ユーバクテリウム(Eubacterium)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、シャーペア(Sharpea)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、スラッキア(Slackia)属、バクテロイデス(Bacteroides)属からなる群から選択される単一種であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のエクオールの製造方法。」

引1b
「【発明の効果】
【0027】
本発明のエクオールの製造方法によれば、培地中におけるイソフラボン類の添加量を従来に比べ多くすることでエクオールの生産量は増加し、また、驚くべきことに界面活性剤による発泡が無く又はほとんど無く、発酵槽での生産および生産されたエクオールの回収が容易であり、さらにエクオール得量が従来に比べ増大する。
【0028】
本発明のエクオール産生組成物によれば、従来に比べ、エクオールの生産性が高く、また、界面活性剤による発泡が無く又はほとんど無く、生産されたエクオールの回収が容易である。」

引1c
「【0033】
本実施の形態におけるイソフラボン類は、主に大豆、クズ、レッドクローバー、カンゾウなどマメ科植物から得られるもので、イソフラボン、イソフラボンアグリコン、ダイゼイン配糖体、ダイゼイン、ジヒドロダイゼインからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0034】
イソフラボンはそのままか、β−グルコシダーゼ等の酵素あるいは微生物を作用させ、イソフラボンアグリコンに変換して本培養に用いることができる。
また、イソフラボンアグリコンは、例えば、大豆胚芽に麹菌を加え発酵させ、得られた発酵大豆胚芽から抽出することにより得られる。
・・・
【0040】
本実施の形態におけるイソフラボン類は、イソフラボン、イソフラボンアグリコン、ダイジン、ダイゼインが好ましい。ここで、イソフラボンは例えばフジッコ社製フジフラボンP40、P10などを用いることができる。イソフラボンアグリコンとして、例えば、AglyMax−30」(ニチモウバイオテックス社製)を用いることができる。」

引1d
「【0076】
以下の実施例で使用したダイゼイン(以下「DAI」と略す)はLKTLabotatories,Inc.社製を使用した。イソフラボンアグリコンはニチモウバイオテックス社製AglyMax−30を使用した。これの組成はDAI 21.2%、グリシテイン 9.8%、ゲニステイン 3.0%である(いずれもメーカー分析値、重量%)また、エクオールは「EQL」と略す。
【0077】
実施例1〜6,比較例1:
GAMブイヨン培地(日水製薬製)5.9gとL−アルギニン塩酸塩1.21g(培地に対してアルギニンで1%)を純水100mLに溶かし、炭酸ガスを通じながら10.0mLずつ嫌気性菌培養用100mLバイヤルビン(株式会社エルエム製)に分注し、ブチルゴム栓、アルミキャップをして115℃、15分間滅菌した。この培地に−80℃凍結保存していたアサッカロバクター・セラツス(Asaccharobacter celatus)DSM 18785株を0.2 mL植菌し、無菌フィルターを通した水素/炭酸ガス(4:1,vol/vol)で気相を3分間以上置換した後、37℃、200spmで16時間振とう培養を行った。
【0078】
以下の表2に示す組成になるように調製し、予め115℃、15分間滅菌したGAMブイヨン+1%アルギニン培地に、この種培養液を0.1mL植菌し、水素/炭酸ガス(4:1,vol/vol)で無菌的に3分間以上置換した後、37℃、200spmの条件で振とう培養を行った。9,27,79時間後、培養液を取り出し、高速液体クロマトグラフィーにより生成したEQLを定量した。結果を図1,2に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
Tween80、Tween20添加で著しくEQL生産が促進されることが明らかとなった。
【0081】
実施例7、比較例2:
表3に示す組成になるように調製し、予め115℃、15分間滅菌したGAMブイヨン+1%アルギニン培地に、実施例1と同様にして培養したこの種培養液を0.1mL植菌し、水素/炭酸ガス(4:1,vol/vol)で無菌的に3分間以上置換した後、37℃、200spmの条件で振とう培養を行った。9,27,79時間後、培養液を取り出し、高速液体クロマトグラフィーにより生成したEQLを定量した。結果を図3に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
試薬ダイゼインのみならず、イソフラボンアグリコンでもTween20添加でEQL生産が促進されることが明らかとなった。」

(2)引用文献5の記載事項
引用文献5(国際公開第2007/066655号)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審にて付した。

引5a
「請求の範囲
[1] ダイゼイン配糖体、ダイゼイン、及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエタオールを産生する能力を有する微生物で、大豆胚軸を発酵させて得られる、エクオール含有大豆胚軸発酵物。
[2] 前記微生物が、ラクトコッカス属に属する乳酸菌である、請求項1に記載の大豆胚軸発酵物。
・・・
[4] 大豆胚軸発酵物の乾燥重量当たり、エクオールを0.1〜20重量%含有している、請求項1に記載の大豆胚軸発酵物。
・・・
[19] ダイゼイン配糖体、ダイゼイン、及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力を有する微生物で、大豆胚軸を発酵処理することを特徴とする、エクオール含有大豆胚軸発酵物の製造方法。」

引5b
「[0007] 一方、大豆胚軸部分には、大豆加工食品として利用されている子葉部分に比べて、イソフラボンやサポニン等の有用成分が高い割合で含まれていることが知られており、その抽出物については種々の用途が開発されている(例えば、特許文献3)。しかしながら、大豆胚軸抽出物は、それ自体コストが高いという欠点がある。また、大豆胚軸抽出物は、エクオールの製造原料とする場合には、エクオール産生菌による発酵のために別途栄養素の添加が必要になるという問題点がある。このような理由から、大豆胚軸抽出物は、エクオールを工業的に製造する上で、原料として使用できないのが現状である。
[0008] 一方、大豆胚軸自体については、特有の苦味があるため、それ自体をそのまま利用することは敬遠される傾向があり、大豆の胚軸の多くは廃棄されているのが現状である。また、大豆胚軸には、大豆の子葉部分と同様に、アレルゲン物質が含まれているため、大豆アレルギーを持つ人にとって、大豆胚軸を摂取乃至投与することができなかった。そのため、大豆胚軸を有効利用するには、大豆胚軸自体に更に付加価値を備えさせることにより、その有用性を高めることが重要である。・・・」

引5c
「[0010] 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、ダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力を有する微生物を用いて、大豆の胚軸を発酵させると、高い効率でエクオールが生成し、エクオール含有大豆胚軸発酵物が得られることを見出した。更に、斯くして得られるエクオール含有大豆胚軸発酵物には、大豆胚軸に含まれるアレルゲンが低減されているので、低アレルゲンの素材としても有用であることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、更に改良を重ねることにより完成したものである。」

引5d
「[0016] 本発明では、エクオール産生菌として、ダイゼイン配糖体、ダイゼイン、及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力(代謝活性)を有する微生物を使用する。ここで、ダイゼイン配糖体としては、具体的には、ダイジン、マロニルダイジン、アセチルダイジン等が挙げられる。
[0017] 上記微生物(エクオール産生菌)としては、食品衛生上許容され、上記能力を有する限り特に制限されないが、例えば、ラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcus garvieae)等のラクトコッカス属に属する微生物;ストレプトコッカス・インターメディアス(Streptococcus intermedius)、ストレプトコッカス・コンステラータス(Streptococcus constellatus)等のストレプトコッカス属に属する微生物;バクテロイデス・オバタス(Bacteroides ovatus)等のバクテロイデス属に属する微生物の中に上記能力を有する微生物が存在していることが分かっている。
エクオール産生菌の中で、好ましくは、ラクトコッカス属、及びストレプトコッカス属等の乳酸菌であり、更に好ましくはラクトコッカス属に属する乳酸菌であり、特に好ましくはラクトコッカス・ガルビエが挙げられる。上記能力を有する微生物は、例えば、ヒト糞便中からエクオールの産生能の有無を指標として単離することができる。上記エクオール産生菌については、本発明者等により、ヒト糞便から単離同定された菌、即ち、ラクトコッカス20-92(FERM BP-10036号)、ストレプトコッカスE-23-17(FERM BP-6436号)、ストレプトコッカスA6G225(FERM BP-6437号)、及びバクテロイデスE-23-15(FERM BP-6435号)が寄託されており、本発明ではこれらの寄託菌を使用できる。これらの寄託菌の中でも、ラクトコッカス20-92が好適に使用される。」

引5e
「[0047] 実施例1−3
表1に示す組成となるように、粉末状大豆胚軸、アルギニン、及び水を混合して、大豆胚軸溶液(原料)を調製した。この大豆胚軸溶液5mlに、ラクトコッカス20−92株(FERM BP-10036号)を植菌し、嫌気条件下で、37℃で96時間静置培養を行った。培養後、得られた発酵液(培養液)を100℃、1分間の条件で加熱殺菌した後、80℃の条件での乾燥処理し、更にホモゲナイダーにより粉末化処理することにより、粉末状の大豆胚軸発酵物を得た。
[0048] 図1に、培養96時間後の培養液における培養液中のエクオール濃度を示す。併せて、表1に、培養96時間後の培養液における生菌数及びpH、粉末状の大豆胚軸発酵物の取得量、及び粉末状の大豆胚軸発酵物中のエクオール濃度を示す。この結果から、エクオール産生菌を用いて粉末状大豆胚軸を発酵させることにより、高効率でエクオールが生成されることが確認された。
[0049] [表1]



引5f
「[0064] 試験例1
大豆胚軸には、Gym4、Gm30K、Gm28K、7Sグロブリンmix(β−コングリシン)、オレオシン、トリプシンインヒビター等のアレルゲンが含まれていることが分かっている。そこで、上記実施例で製造した大豆胚軸発酵物中にアレルゲンの存否を以下の試験により判定した。
[0065] 先ず、実施例1で得られた大豆胚軸発酵物の適当量を、抽出バッファー(Tris HCl pH 7.5、1M EDTA含有、タンパク質分解酵素阻害剤の適量含有)に添加し、十分に撹拌して、水溶性成分を抽出した。次いで、濾過により、固形分を除去し、抽出液を得た。斯くして得られた抽出液に含まれる総タンパク質を、バイオラッド社製のプロテインアッセイシステムを用いて検出した。更に、得られた抽出液に含まれる主要アレルゲン(Gym4、Gm30K、Gm28K、7Sグロブリンmix、オレオシン、トリプシンインヒビター)についても、ウエスタンブロッティング法により検出した。また、比較として、大豆胚軸発酵物の代わりに、大豆の子葉の粉末、及び大豆胚軸の粉末を用いて、同様の方法により総タンパク質及びアレルゲンの検出を行った。
[0066] 結果を図2〜4に示す。図2には、総タンパク質の検出結果を;図3には、Gym4、Gm30K、及びGm28Kの検出結果を;図4には、7Sグロブリンmix、オレオシン、及びトリプシンインヒビターの検出結果を、それぞれ示す。
[0067] この結果から、大豆胚軸発酵物には、大豆又は大豆胚軸に含まれる主要アレルゲンが低減していることが確認された。」

引5g
「[図2]



「[図3]



「[図4]



(3)引用文献8の記載事項
引用文献8(特開2008−61584号公報)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審にて付した。

引8a
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイゼインを基質としてエクオールを生産することのできるグラム陽性細菌do03株(AHU-1763)(FERM AP-20905)。
・・・
【請求項3】
ダイゼインおよびその配糖体を含むイソフラボン類を含有する大豆など豆科植物を原料として、あるいは、ダイゼインおよびその配糖体を含有する植物を原料として、請求項1の微生物を用いたエクオールの製造方法。」

引8b
「【実施例3】
【0019】
フジフラボンP10(フジッコ社)を原料としてdo03株(AHU-1763)(FERM AP-20905)を用いて、エクオール高含有サプリメントの製造。
フジフラボンP10(フジッコ社)50gを1リットルのリン酸緩衝液(50mM、pH7.0)に溶解し、βグルコシダーゼを添加して、フジフラボンP10中のダイジンから糖が乖離してダイゼインになるまで40℃、6時間反応させた。その反応液に、グルコース10g、酪酸500mgを添加し、115℃、15分で滅菌して、37℃まで冷却した。別に培養したdo03株(AHU-1763)(FERM AP-20905)溶液を100ml添加して、嫌気条件下で2日間培養した。反応後の培養液では、ダイゼインの66%が、エクオールに変換された。
反応液をスプレードライヤーで乾燥して、エクオール高含有の乾燥物を得た。このパウダーをカプセル化してサプリメントとした。一方、この乾燥物を食品に加えることによってエクオールを高含有した食品や菓子を制作した。

【実施例4】
【0020】
大豆を原料とするエクオール高含有食品
大豆を洗浄後、130℃で20分間高圧蒸気で蒸煮する。柔らかくなった大豆に納豆菌もしくは、麹菌をかけて1日発酵させる。この行程で、納豆菌もしくは麹菌の産生するβグルコシダーゼによって、配糖体のダイジンは、ダイゼインへと変換される。次に、嫌気環境に移して、予め培養したdo03株(AHU-1763)(FERM AP-20905)の培養液をかけて、1日発酵を進める。これによって、エクオール高含有の大豆食品素材ができた。」

2.引用発明の認定
引用文献1の【0077】に、
「実施例1〜6,比較例1:
GAMブイヨン培地(日水製薬製)5.9gとL−アルギニン塩酸塩1.21g(培地に対してアルギニンで1%)を純水100mLに溶かし、炭酸ガスを通じながら10.0mLずつ嫌気性菌培養用100mLバイヤルビン(株式会社エルエム製)に分注し、ブチルゴム栓、アルミキャップをして115℃、15分間滅菌した。この培地に−80℃凍結保存していたアサッカロバクター・セラツス(Asaccharobacter celatus)DSM 18785株を0.2 mL植菌し、無菌フィルターを通した水素/炭酸ガス(4:1,vol/vol)で気相を3分間以上置換した後、37℃、200spmで16時間振とう培養を行った。」こと、及び
同【0081】に、
「実施例7、比較例2:
表3に示す組成になるように調製し、予め115℃、15分間滅菌したGAMブイヨン+1%アルギニン培地に、実施例1と同様にして培養したこの種培養液を0.1mL植菌し、水素/炭酸ガス(4:1,vol/vol)で無菌的に3分間以上置換した後、37℃、200spmの条件で振とう培養を行った。9,27,79時間後、培養液を取り出し、高速液体クロマトグラフィーにより生成したEQLを定量した。」ことが記載され(下線は当審で付与した。)、
同【0082】の表3の実施例7に、GAMブイヨン培地において、AglyMax−30を25g/L、Tween20を1g/Lで使用することが記載されていることに照らすと(いずれも引1d)、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。

「L−アルギニン塩酸塩、AglyMax−30、Tween20を含むGAMブイヨン培地に、アサッカロバクター・セラツス(Asaccharobacter celatus)DSM 18785株を培養した種培養液を植菌し、振とう培養を行ない、培養液を取り出すことを含む、EQL(エクオール)の製造方法。」(以下、「引用発明」という。)

3.本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用文献1の【0040】には、「イソフラボンアグリコンとして、例えば、AglyMax−30」を用いること(引1c)が記載されるので、引用発明の「AglyMax−30」は、本願発明の「アグリコン」に相当する。
引用発明の「アサッカロバクター・セラツス(Asaccharobacter celatus)DSM 18785株」は、「EQL(エクオール)」を生産する微生物であり、引用文献1の請求項3(引1a)によれば、「偏性嫌気性微生物」であるので、本願発明の「発酵して、前記アグリコンをエクオールに変換」し、「アサッカロバクター(Asaccharobacter)属」「に分類される」「嫌気性微生物」に相当する。
引用発明の「培養液」は、高速液体クロマトグラフィーにかける必要があることから、組成物であることは明らかであり、本願発明の「エクオールを含有するエクオール含有組成物」ということができる。
また、引用発明における「取り出」された「培養液」は、高速液体クロマトグラフィーにかけて「EQL(エクオール)」を定量する必要があるため、メンブレンフィルター等を用いてアサッカロバクター・セラツス(Asaccharobacter celatus)DSM 18785株の菌体が除去された態様を含むことは明らかである。一方、本願発明において「エクオール含有組成物を、前記発酵することにより得られた発酵液から回収する」とは、本願明細書の発明の詳細な説明の【0060】〜【0061】を参照すると、「発酵工程で産生されたエクオールを含有するエクオール含有組成物」を「培地から回収する」こと(【0060】)、具体的には「生成した嫌気性微生物と培養生成液を分離する」こと(【0061】)等を意味すると解される。
そうすると、引用発明の「培養液を取り出すことを含む、EQL(エクオール)の製造方法」は、本願発明の「前記工程(1)で産生された前記エクオールを含有するエクオール含有組成物を、前記発酵することにより得られた発酵液から回収する工程、を含む」「エクオール含有組成物の製造方法」に相当する。
引用発明は、「do03株(AHU-1763)(FERM AP-20905)の培養液」を用いるものでないので、「(ただし、大豆を洗浄後、130℃で20分間高圧蒸気で蒸煮し、柔らかくなった大豆に納豆菌もしくは麹菌をかけて1日発酵させ、この工程で、納豆菌もしくは麹菌の産生するβグルコシダーゼによって、配糖体のダイジンをダイゼインへと変換し、嫌気環境に移して、予め培養したdo03株(AHU-1763)(FERM AP-20905)の培養液をかけて、1日発酵を進める、エクオール高含有の大豆食品素材の製造方法を除く。)」点で本願発明と一致する。
なお、本願明細書の【0045】に「上記の炭素源に加えて、培地には、窒素源を加えることができる。・・・より好ましい窒素源はアルギニン、シトルリン、オルニチン、リジン、酵母エキス、ペプトン類である。」との記載があり、同【0046】に「更に、炭素源や窒素源に加えて、偏性嫌気性微生物の培養に適した他の有機物あるいは無機物を培地に加えることもできる。」との記載があることからすると(下線は当審で付与した。)、引用発明の「GAMブイヨン培地」に「L−アルギニン塩酸塩」や「Tween20」が含まれることは本願発明との相違点にならない。

そうすると、本願発明と引用発明は、
「(1)アグリコンを嫌気性微生物により発酵して、前記アグリコンをエクオールに変換する工程
を含む、エクオール含有組成物の製造方法であって、
(2)前記工程(1)で産生された前記エクオールを含有するエクオール含有組成物を、前記発酵することにより得られた発酵液から回収する工程、を含む、エクオール含有組成物の製造方法であって、
前記嫌気性微生物が、アサッカロバクター(Asaccharobacter)属に分類される微生物である、製造方法
(ただし、大豆を洗浄後、130℃で20分間高圧蒸気で蒸煮し、柔らかくなった大豆に納豆菌もしくは麹菌をかけて1日発酵させ、この工程で、納豆菌もしくは麹菌の産生するβグルコシダーゼによって、配糖体のダイジンをダイゼインへと変換し、嫌気環境に移して、予め培養したdo03株(AHU-1763)(FERM AP-20905)の培養液をかけて、1日発酵を進める、エクオール高含有の大豆食品素材の製造方法を除く。)。」で一致し、以下の点で相違している。

(相違点1)
本願発明では、工程(1)において、「イソフラボン類を含む大豆胚軸を、前記イソフラボン類をアグリコンに変換する酵素で処理して酵素処理液を得、アグリコンを含有する前記酵素処理液」を発酵しているのに対して、
引用発明では、イソフラボンアグリコンである「AglyMax−30」を発酵している点

(相違点2)
本願発明では、エクオール含有組成物が実質的にアレルゲンを含まないことが特定されているのに対して、
引用発明ではアレルゲンの存否について特定がされていない点

4.相違点の検討
(1)相違点1について
引用文献1の【0034】には、「イソフラボンはそのままか、β−グルコシダーゼ等の酵素あるいは微生物を作用させ、イソフラボンアグリコンに変換して本培養に用いることができる。また、イソフラボンアグリコンは、例えば、大豆胚芽に麹菌を加え発酵させ、得られた発酵大豆胚芽から抽出することにより得られる。」との記載があり(引1c)、ここでいう大豆胚芽は、大豆胚軸を示す用語として用いられていることは当業者に周知なので(例えば、特開2004−250372の【0020】、特開2009−118779の【0006】、特開2013−201956の【0002】)、上記の引用文献1の記載は、「AglyMax−30」に代わる「イソフラボンアグリコン」として、例えば、大豆胚軸に麹菌を加え、発酵させて得られた発酵大豆胚軸から抽出したものが使用できることを教示するものと認められる。
また、引用文献8の実施例3には、エクオール産生の発酵原料として、フジフラボンP10(フジッコ社)(令和5年6月30日付け拒絶理由通知書で引用された特開2005−68129号公報の【0031】によると大豆胚芽(大豆胚軸)抽出物であると認められる。)を用い、βグルコシダーゼを添加して、フジフラボンP10中のダイジンから糖を乖離させ、その反応液にdo03株(AHU-1763)(FERM AP-20905)溶液を添加して、培養させ、エクオールに変換させること、また、同実施例4には、大豆に、納豆菌もしくは麹菌をかけ、納豆菌もしくは麹菌の産生するβグルコシダーゼによって、配糖体のダイジンをダイゼインへ変換させ、do03株(AHU-1763)(FERM AP-20905)の培養液をかけて、発酵を進め、エクオール高含有の大豆食品素材を得たことが記載され、これらの引用文献8の記載によると、エクオール産生の発酵原料としては、引用文献1に例示された「発酵大豆胚軸から抽出したもの」だけでなく、大豆胚軸抽出物や大豆に、麹菌、納豆菌、又はβグルコシダーゼを添加し、配糖体であるダイジンをダイゼインへ変換させた発酵液(酵素処理液)も使用可能であることを当業者は理解すると認められる。
更に、引用文献5の明細書の[0007]〜 [0008]によると、大豆胚軸は、イソフラボン類を高い割合で含むものの、特有の苦味があり、その多くが廃棄されていたこと(引5b)、同請求の範囲[19](引5a)や明細書の[0047]〜[0049](引5e)によれば、大豆胚軸を発酵処理するとエクオール含有大豆胚軸発酵物が得られることが記載されている。
そうすると、引用発明のエクオール産生の発酵原料である「AglyMax−30」に代えて、イソフラボン類を高い割合で含む大豆胚軸やその精製物(大豆胚軸抽出物)を麹菌、納豆菌又はβグルコシダーゼ(イソフラボンアグリコンに変換する酵素)で処理して得られた「酵素処理液」を採用することで、廃棄の対象とされていた大豆胚軸の有効利用を図ることは当業者が容易になし得たものである。

(2)相違点2について
引用文献5の[0010]には、「ダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力を有する微生物を用いて、大豆の胚軸を発酵させると、高い効率でエクオールが生成し、エクオール含有大豆胚軸発酵物が得られること・・・斯くして得られるエクオール含有大豆胚軸発酵物には、大豆胚軸に含まれるアレルゲンが低減されているので、低アレルゲンの素材としても有用であることを見出した。」ことが記載され(引5c)、同[0017]には、「上記微生物(エクオール産生菌)としては、食品衛生上許容され、上記能力を有する限り特に制限されないが、例えば、ラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcus garvieae)等のラクトコッカス属に属する微生物」との記載があり(引5d)、これらのことを具体的に裏付ける実験例が、同[0064]〜[0067]及び[図2]〜[図4]に記載されていることからすると(引5f、引5g)、引用文献5には、大豆胚軸を、ラクトコッカス属に属する微生物等のエクオール産生微生物で発酵すると、大豆胚軸に含まれるアレルゲンを低減できることが示されているといえる。
そうすると、上記の引用文献5の記載によると、引用発明のエクオール産生の発酵原料として、イソフラボン類を高い割合で含む大豆胚軸を用いた場合に、エクオールを産生する能力を有する微生物により、大豆胚軸に由来するアレルゲンが低減するといえるので、この現象を捉えて、引用発明で製造される「エクオール含有組成物」について、「実質的にアレルゲンを含まない」などと特定をすることは、当業者が適宜なし得ることである。

また、上記の相違点1、2に基づき、本願発明において、引用文献1、5、8より、当業者が予測できない効果を奏したとは認められない。

5.審判請求人の主張
審判請求人は、本願明細書の実施例1で、嫌気性微生物としてアサッカロバクター・セラツス(Asaccharobacter celatus)DSM 18785株を用いるとエクオール含有物が得られ、FASTKITスリム大豆(日本ハム中央研究所製)で陰性という結果が得られた点、令和5年6月29日付け上申書に添付した実験成績証明書によると、アサッカロバクター・セラツス(Asaccharobacter celatus)DSM 18785株又はラクトコッカス(Lactococcus)20-92株(FERM BP-10036)で発酵して得られた大豆胚軸発酵物では、ウェスタンブロットで23kDaオレオシンが検出されないという結果が得られたことを根拠にして、文献5のような酵素処理をしない単なる微生物発酵だけでは低減できなかった「23kDaオレオシン」を低減できることが実証され、この23kDaオレオシンが消滅することは、引用文献1、5、8に記載及び示唆が一切存在しない点を挙げ、当業者は本願発明を容易に想到することができない旨を主張する。
しかし、本願明細書の【0076】〜【0078】の記載によれば、FASTKITスリム大豆(日本ハム中央研究所製)で陰性という結果は、テストストリップを目視で観察したところ、矢印で示す位置にバンドが検出できなかったというに止まるものなので、大豆胚軸に由来するアレルゲンが低減した結果として得られたものと同視することができ、本願明細書に記載された上記の結果が、当業者の期待、予測を超えるものとは認められない。
また、令和5年6月29日付け上申書に添付した実験成績証明書は、本願明細書に「23kDaオレオシン」に関する記載が一切ないことから、本願明細書の記載に基づくものとして、これを参酌することはできない。
もっとも、この実験成績証明書が、本願明細書の記載に基づくものであると解したとしても、実験成績証明書では、引用文献5に記載された、イソフラボン類をアグリコンに変換する酵素処理を行わない発酵方法との比較実験は行われてないし、そもそも、発酵後の成分組成は、エクオールを産生する微生物だけでなく、発酵原料、発酵時間、発酵条件(培地組成)によっても左右されるので、かかる実験成績証明書の記載に基づき、本願発明の効果を格別と評価することはできない。
したがって、審判請求人の主張は、理由がない。

6.小括
以上より、本願発明、すなわち、本願の請求項1に係る発明は、引用発明、引用文献1、5、8の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2024-05-08 
結審通知日 2024-05-14 
審決日 2024-05-28 
出願番号 P2023-095701
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12P)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 長井 啓子
特許庁審判官 福井 悟
北田 祐介
発明の名称 エクオール含有組成物の製造方法  
代理人 弁理士法人秀和特許事務所  

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