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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C09J 審判 全部申し立て 2項進歩性 C09J 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C09J |
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管理番号 | 1413360 |
総通号数 | 32 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2024-08-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2024-03-11 |
確定日 | 2024-07-29 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7348673号発明「樹脂組成物、及び、これを用いたカバーレイフィルム、接着剤シート、樹脂付き金属箔、金属張積層板またはプリント配線板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7348673号の請求項1〜11に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7348673号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜11に係る特許は、令和3年12月3日に出願され、令和5年9月12日にその特許権の設定登録がされ、同年同月21日に特許掲載公報が発行された。その後、令和6年3月11日に特許異議申立人 小林 瞳(以下「申立人」という。)により全請求項に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜11に係る発明(以下「本件発明1」〜「本件発明11」といい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 積層基板の接着層に用いられる樹脂組成物であって、 変性ポリプロピレン系樹脂(A)と、エポキシ樹脂(B)と充填剤とを含有し、 前記充填剤の含有量が樹脂組成物100質量部に対して20質量部以下であり、 第三級アミン系硬化促進剤、第三級アミン塩系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤から選択される1種以上の硬化促進剤が非添加であり、 完全に硬化した状態であって25μm厚のシート状にしたものを、その両面から同形状の125μm厚のポリイミドフィルムで挟み込んで積層体を形成し、この積層体を打ち抜いて円盤状の試験体を作成し、該試験体に160℃、2MPa、30分の条件下で厚み方向から加熱プレスをした場合における、前記試験体の外周から外側へ流出した樹脂の最大長さ(すなわち、2次レジンフロー量)の平均値が0.15mm未満であることを特徴とする樹脂組成物。 【請求項2】 前記変性ポリプロピレン系樹脂(A)の含有量が50質量%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の樹脂組成物。 【請求項3】 完全に硬化した状態での測定周波数10GHzにおける誘電率が3.0以下、誘電正接が0.01以下である請求項1又は2に記載の樹脂組成物。 【請求項4】 前記エポキシ樹脂(B)の含有量が1質量部以上20質量%以下である請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。 【請求項5】 前記変性ポリプロピレン系樹脂(A)が、カルボン酸化合物またはその誘導体の少なくとも1種により変性された樹脂であり、その酸価が5mgKOH/g以上である請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物。 【請求項6】 有機樹脂基材同士、金属基材同士又は有機樹脂基材と金属基材との接着に用いられる請求項1〜5の何れかに記載の樹脂組成物。 【請求項7】 半硬化した状態のものであって25μm厚のシート状にしたものを、50μm厚のポリイミドシートと積層させ、厚み方向に1.0mmφの開口部を設けた積層体を試験体とし、該試験体を35μm厚の電解銅箔上に前記ポリイミドシートが外側を向くように積層した状態で、180℃、2.7MPaの条件で、60分間加熱プレスした後に、前記開口部の内側に流出した樹脂の最大長さの平均値が0.2mm未満である請求項1〜6の何れかに記載の樹脂組成物。 【請求項8】 請求項1〜7の何れか1項に記載の樹脂組成物を用いて形成された接着剤層と、 該接着剤層の少なくとも一方の面に接する基材とを備え、 該基材が樹脂基材、離型樹脂基材、紙基材、離型紙基材、金属基材の何れかである積層体。 【請求項9】 請求項8に記載の積層体を含むカバーレイフィルム、接着剤シート、樹脂付き金属箔、または金属張積層板。 【請求項10】 請求項8に記載の積層体または請求項9記載のカバーレイフィルム、接着剤シート、樹脂付き金属箔、または金属張積層板を備えたプリント配線板。 【請求項11】 請求項10に記載のプリント配線板を含む、半導体装置。」 第3 特許異議の申立ての理由 1 特許異議申立書に記載された理由の概要 (1)申立理由1(甲1又は甲2を主たる引用例とした新規性) 本件発明1〜11は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった後記2の甲1又は甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1〜11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (2)申立理由2(甲1又は甲2を主たる引用例とした進歩性) 本件発明1〜11は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった後記2の甲1又は甲2に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1〜11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (3)申立理由3(サポート要件) 本件特許に係る出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないものであるから、本件発明1〜11に係る特許は、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 (4)申立理由4(明確性要件) 本件特許に係る出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさないものであるから、本件発明1〜11に係る特許は、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 2 証拠方法 甲1:国際公開第2021/075367号 甲2:特開2019−127501号公報 甲3:特開2021−138944号公報 甲4:特開2017−144698号公報 甲5:特開2021−24993号公報 3 甲号証の記載について (1)甲1には、次の記載がある。 「[0001] 本発明は、ポリオレフィン系接着剤組成物に関する。より詳しくは、樹脂基材と樹脂基材または金属基材との接着に用いられるポリオレフィン系接着剤組成物に関する。特にフレキシブルプリント配線板(以下、FPCと略す)用接着剤組成物、並びにそれを含む、カバーフィルム、積層板、樹脂付き銅箔及びボンディングシートに関する。 「[0006] すなわち、本発明は、ポリイミド(PI)のみならず液晶ポリマー(LCP)などの様々な樹脂基材と金属基材双方への良好な接着性を有し、且つハンダ耐熱性、誘電特性、および吸湿(飽和吸水)後の誘電正接にも優れた接着剤組成物を提供することを目的とする。」 「[0011]<酸変性ポリオレフィン(a)> 本発明で用いる酸変性ポリオレフィン(a)(以下、単に(a)成分ともいう。)は限定的ではないが、ポリオレフィン樹脂にα,β−不飽和カルボン酸及びその酸無水物の少なくとも1種をグラフトすることにより得られるものであることが好ましい。ポリオレフィン樹脂とは、エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン、イソプレン等に例示されるオレフィンモノマーの単独重合、もしくはその他のモノマーとの共重合、および得られた重合体の水素化物やハロゲン化物など、炭化水素骨格を主体とする重合体を指す。すわなち、酸変性ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン及びプロピレン−α−オレフィン共重合体の少なくとも1種に、α,β−不飽和カルボン酸及びその酸無水物の少なくとも1種をグラフトすることにより得られるものが好ましい。」 「[0014] 酸変性ポリオレフィン(a)の酸価は、耐熱性および樹脂基材や金属基材との接着性の観点から、下限は5mgKOH/g以上であることが好ましく、より好ましくは6mgKOH/g以上であり、さらに好ましくは7mgKOH/g以上である。前記下限値以上とすることでエポキシ樹脂(b)との相溶性が良好となり、優れた接着強度を発現することができる。また、架橋密度が高く耐熱性が良好となる。さらに、吸湿(飽和吸水)した後の誘電正接がほとんど上昇しなくなる。上限は40mgKOH/g以下であることが好ましく、より好ましくは35mgKOH/g以下であり、さらに好ましくは30mgKOH/g以下である。前記上限値以下とすることで接着性および飽和吸水後の誘電正接が良好となる。 [0015] 酸変性ポリオレフィン(a)の数平均分子量(Mn)は、10,000〜50,000の範囲であることが好ましい。より好ましくは15,000〜45,000の範囲であり、さらに好ましくは20,000〜40000の範囲であり、特に好ましくは22,000〜38,000の範囲である。前記下限値以上とすることで凝集力が良好となり、優れた接着性を発現することができる。また、前記上限値以下とすることで流動性に優れ、操作性が良好となる。」 「[0023] 本発明の接着剤組成物において、エポキシ樹脂(b)の含有量は、酸変性ポリオレフィン(a)100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、より好ましくは1質量部以上であり、さらに好ましくは5質量部以上であり、特に好ましくは10質量部以上である。前記下限値以上とすることで十分な硬化効果が得られ、優れた接着性およびハンダ耐熱性を発現することができる。また、60質量部以下であることが好ましく、より好ましくは50質量部以下であり、さらに好ましくは40質量部以下であり、特に好ましくは35質量部以下である。前記上限値以下とすることで接着剤組成物の誘電特性が良好となる。すなわち、前記範囲内とすることで、接着性、ハンダ耐熱性、低誘電特性に加え、飽和吸水後の誘電正接に優れる接着剤組成物を得ることができる。」 「[0048]<フィラー> 本発明の接着剤組成物には、本発明の効果を損ねない範囲で、必要に応じてシリカなどのフィラーを配合しても良い。シリカを配合することによりハンダ耐熱性の特性が向上するため非常に好ましい。シリカとしては一般に疎水性シリカと親水性シリカが知られているが、ここでは耐吸湿性を付与する上でジメチルジクロロシランやヘキサメチルジシラザン、オクチルシラン等で処理を行った疎水性シリカの方が良い。シリカを含有させる場合、その含有量は、(a)〜(d)成分の合計100質量部に対し、0.05〜30質量部の範囲であることが好ましい。前記下限値以上とすることでハンダ耐熱性を向上させる効果を奏することができる。また、前記上限値以下とすることでシリカの分散不良が生じることがなく、溶液粘度が良好であり作業性が良好となる。また接着性も低下しない。」 「[0050]<積層体> 本発明の積層体は、基材に接着剤組成物を積層したもの(基材/接着剤層の2層積層体)、または、さらに基材を貼り合わせたもの(基材/接着剤層/基材の3層積層体)である。ここで、接着剤層とは、本発明の接着剤組成物を基材に塗布し、乾燥させた後の接着剤組成物の層をいう。本発明の接着剤組成物を、常法に従い、各種基材に塗布、乾燥すること、およびさらに他の基材を積層することにより、本発明の積層体を得ることができる。」 「[0077]<実施例> 以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。実施例中および比較例中に単に部とあるのは質量部を示す。」 「[0083](2)ハンダ耐熱性 上記と同じ方法でサンプルを作製し、2.0cm×2.0cmのサンプル片を23℃で2日間エージング処理を行い、280℃で溶融したハンダ浴に10秒フロートし、膨れなどの外観変化の有無を確認した。 <評価基準> ◎:膨れ無し ○:一部膨れ有 △:多くの膨れ有 ×:膨れ、かつ変色有」 「[0085]実施例1 CO−1を100質量部、エポキシ樹脂HP−7200Hを10質量部および有機溶媒(メチルシクロヘキサン/メチルエチルケトン/トルエン=72/8/20(v/v))を440質量部(固形分濃度で20質量%)配合し、混合溶液を得た。配合量、接着強度、ハンダ耐熱性、硬化直後の電気特性および飽和吸水後の誘電正接変化率を表1に示す。 [0086]実施例2〜16 (a)〜(d)成分の配合量を表1に示すとおりに変更し、実施例1と同様な方法で実施例2〜16を行った。接着強度、ハンダ耐熱性、硬化直後の電気特性および飽和吸水後の誘電正接変化量を表1に示す。なお、有機溶媒(メチルシクロヘキサン/メチルエチルケトン/トルエン=72/8/20(v/v))は固形分濃度が20質量%となるように調整した。 [0087] [0088]比較例1〜3 (a)〜(d)成分の配合量を表1に示すとおりに変更し、実施例1と同様な方法で比較例1〜3を行った。接着強度、ハンダ耐熱性、硬化直後の電気特性および飽和吸水後の誘電正接変化率を表1に示す。 [0089] 表1で用いた酸変性ポリオレフィン(a)、エポキシ樹脂(b)、オリゴフェニレンエーテル(c)およびカルボジイミド化合物(d)は以下のものである。 (エポキシ樹脂(b)) ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂:HP−7200(DIC社製 エポキシ当量 259g/eq) ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂:HP−7200H(DIC社製 エポキシ当量 278g/eq) クレゾールノボラック型エポキシ樹脂:jER−152(三菱化学製 エポキシ当量 177g/eq エポキシ変性ポリブタジエン樹脂:JP−100(日本曹達社製 エポキシ当量 200g/eq) (オリゴフェニレンエーテル(c)) オリゴフェニレンエーテルスチレン変性品:OPE−2St 1200(三菱ガス化学社製 Mn1000の一般式(c4)の構造を有する化合物) オリゴフェニレンエーテルスチレン変性品:OPE−2St 2200(三菱ガス化学社製 Mn2000の一般式(c4)の構造を有する化合物) オリゴフェニレンエーテル:SA90(SABIC社製 Mn1800の一般式(c3)の構造を有する化合物) (カルボジイミド化合物(d)) カルボジイミド樹脂:V−09GB(日清紡ケミカル社製 カルボジイミド当量 216g/eq) カルボジイミド樹脂:V−03(日清紡ケミカル社製 カルボジイミド当量 209g/eq) [0090](酸変性ポリオレフィン(a)) 製造例1 1Lオートクレーブに、プロピレン−ブテン共重合体(三井化学社製「タフマー(登録商標)XM7080」)100質量部、トルエン150質量部及び無水マレイン酸19質量部、ジ−tert−ブチルパーオキサイド6質量部を加え、140℃まで昇温した後、更に3時間撹拌した。その後、得られた反応液を冷却後、多量のメチルエチルケトンが入った容器に注ぎ、樹脂を析出させた。その後、当該樹脂を含有する液を遠心分離することにより、無水マレイン酸がグラフト重合した酸変性プロピレン−ブテン共重合体と(ポリ)無水マレイン酸および低分子量物とを分離、精製した。その後、減圧下70℃で5時間乾燥させることにより、無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体(CO−1、酸価19mgKOH/g、数平均分子量25,000、Tm80℃、△H35J/g)を得た。 [0091]製造例2 無水マレイン酸の仕込み量を14質量部に変更した以外は製造例1と同様にすることにより、無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体(CO−2、酸価14mgKOH/g、数平均分子量30,000、Tm78℃、△H25J/g)を得た。 [0092]製造例3 無水マレイン酸の仕込み量を11質量部に変更した以外は製造例1と同様にすることにより、無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体(CO−3、酸価11mgKOH/g、数平均分子量33,000、Tm80℃、△H25J/g)を得た。 [0093]製造例4 無水マレイン酸の仕込み量を6質量部に変更した以外は製造例1と同様にすることにより、無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体(CO−4、酸価7mgKOH/g、数平均分子量35,000、Tm82℃、△H25J/g)を得た。 [0094]製造例5 無水マレイン酸の仕込み量を3質量部に変更した以外は製造例1と同様にすることにより、無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体(CO−5、酸価4mgKOH/g、数平均分子量37,000、Tm84℃、△H25J/g)を得た。」 「 請求の範囲 [請求項1] 酸変性ポリオレフィン(a)およびエポキシ樹脂(b)を含有する接着剤組成物であって、下記(1)〜(2)を満足する接着剤組成物。 (1)接着剤組成物の硬化物の硬化直後の1GHzでの比誘電率(εc1)が3.0以下、誘電正接(tanδ1)が0.02以下である (2)接着剤組成物の硬化物の硬化直後の1GHzでの誘電正接(tanδ1)と、25℃の水に24時間浸漬した後の1GHzでの誘電正接(tanδ2)の変化量が0.01以下である [請求項2] 酸変性ポリオレフィン(a)の酸価が5〜40mgKOH/gである請求項1に記載の接着剤樹脂組成物。 [請求項3] 酸変性ポリオレフィン(a)100質量部に対し、エポキシ樹脂(b)を1〜40質量部含有する請求項1または2に記載の接着剤樹脂組成物。 [請求項4] さらにオリゴフェニレンエーテル(c)および/またはカルボジイミド化合物(d)を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の接着剤組成物。 [請求項5] 請求項1〜4のいずれかに記載の接着剤組成物を含有する層を有する接着シート。 [請求項6] 請求項1〜4のいずれかに記載の接着剤組成物を含有する層を有する積層体。 [請求項7] 請求項6に記載の積層体を構成要素として含むプリント配線板。」 (2)甲2には、次の記載がある。 「【0006】 本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、非晶性ポリオレフィン樹脂を含まなくても接着力及び耐熱性に優れた熱硬化性接着剤組成物、並びにこれを用いた接着フィルム、カバーレイフィルム及びフレキシブルプリント配線板を提供することを課題とする。」 「【0043】 (製造例1の酸変性ポリオレフィン溶液) 酸価220当量/t(12mgKOH/g)の酸変性ポリオレフィン樹脂(東洋紡株式会社製:トーヨータック(登録商標)PMA−KH)100重量部に対して、トルエン320重量部、メチルエチルケトン80重量部を加え、50℃に昇温後、30分撹拌して溶解させ、固形分が20wt%の酸変性ポリオレフィン溶液を得た。 【0044】 (製造例2の酸変性ポリオレフィン溶液) 酸変性ポリオレフィン樹脂として酸価440当量/t(23mgKOH/g)の酸変性ポリオレフィン樹脂(東洋紡株式会社製:トーヨータック(登録商標)PMA−KE)を用いた以外は製造例1と同様にして、固形分が20wt%の酸変性ポリオレフィン溶液を得た。 【0045】 (実施例1の熱硬化性接着剤塗料及びカバーレイフィルム) 製造例1で得た酸変性ポリオレフィン溶液(固形分20wt%)100重量部にフィラーとして疎水性シリカ(日本アエロジル株式会社製:R972)6重量部を加えて撹拌した後、ビーズミル(アイメックス株式会社製:バッチ式レディミルRMB−08)で1470回転、15分間処理し、酸変性ポリオレフィン溶液中にシリカが分散した、固形分が24.5wt%のシリカ分散酸変性ポリオレフィン溶液を得た。得られたシリカ分散酸変性ポリオレフィン溶液106重量部に、多官能エポキシ樹脂(東洋紡製:HY−30、固形分70wt%)3.6重量部、カルボジイミド樹脂(日清紡ケミカル株式会社製:カルボジライト(登録商標)V−07、固形分50wt%)0.4重量部、シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製:KBM−403)0.2重量部、トルエンとメチルエチルケトンの混合溶剤(混合比トルエン:メチルエチルケトン=8:2)を順次加えて撹拌し、固形分が20wt%に調整された実施例1の熱硬化性接着剤塗料を得た。得られた熱硬化性接着剤塗料を乾燥後の膜厚が40μmとなるように、厚さ25μmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製:カプトン(登録商標)100H)の上に塗布、乾燥させ、実施例1のカバーレイフィルムを得た。 【0046】 (実施例2〜6の熱硬化性接着剤塗料及びカバーレイフィルム) 表1の配合に従い、実施例1と同様にして熱硬化性接着剤塗料及びカバーレイフィルムを得た。 実施例2〜4では製造例1で得た酸変性ポリオレフィン溶液を用い、実施例5〜6では製造例2で得た酸変性ポリオレフィン溶液を用いた。 【0047】 (比較例1〜8の熱硬化性接着剤塗料及びカバーレイフィルム) 表2〜3の配合に従い、実施例1と同様にして熱硬化性接着剤塗料及びカバーレイフィルムを得た。 比較例1〜6では製造例1で得た酸変性ポリオレフィン溶液を用い、比較例7〜8では製造例2で得た酸変性ポリオレフィン溶液を用いた。 比較例6では、熱硬化性接着剤塗料中にフィラーが含有されていないことから、接着剤塗料の粘度が低くなり、乾燥後の外観にムラが認められた。 【0048】 (接着力の評価方法) 厚みが50μmのポリイミドフィルム(対PI)又は1/3オンス(12μm厚)の電解銅箔(対銅)に、カバーレイフィルムの熱硬化接着剤面を重ね、100℃、1m/minで熱ラミネートした。140℃、3MPa、2分の条件で熱プレスした後、恒温器(エスペック株式会社製:PH−202)で160℃、60分処理して試験サンプルを得た。 得られた試験サンプルを10mm幅に裁断し、JIS−C−6471「フレキシブルプリント配線板用銅張積層板試験方法」の8.1.1の方法A(90°方向引きはがし)に従い、定速引張試験機(株式会社島津製作所製:オートグラフ(登録商標)AGX−S)で、50μmのポリイミドフィルム又は銅箔側を固定してカバーレイフィルムを引っ張って接着強度を測定し、下記の4段階で評価した。 ◎:20N/cm以上 ○:10N/cm以上、20N/cm未満 △:5N/cm以上、10N/cm未満 ×:5N/cm未満 【0049】 (接着剤塗料粘度の評価方法) カバーレイフィルムの作製において、ポリイミドフィルムに固形分が20wt%の熱硬化性接着剤塗料を塗布する際に、接着剤塗料粘度の評価方法を次のように評価した。 〇:所定の厚みが得られ、乾燥後の外観が良好。 △:所定の厚みが得られたが、乾燥後の外観にムラ等の外観異常が認められた。 ×:粘度が低すぎて所定の厚みが得られなかった。 【0050】 (半田耐熱性の評価方法) 得られたカバーレイフィルムを、厚みが50μmのポリイミドフィルム、及び1/3オンス(12μm厚)の電解銅箔に前出の「接着力の評価方法」と同じ条件で熱ラミネート、及び熱プレスし評価用サンプルを得た。2.5cm×5cmに試験片を切り出し、23℃、50%の環境下で3日間保管した後、290℃のはんだ浴に30秒間浮かせた後引き上げた。 耐熱試験後のカバーレイフィルムの外観は、n=5で評価し、目視で変形や縮れ等の異常がないかを観察し、下記の3段階で評価した。 ○:5個すべて異常がなく良好。 △:浮き等の異常が認められたサンプルが1個あった。 ×:2個以上浮き等の異常が認められた。 【0051】 (比誘電率、誘電正接の評価) 熱硬化性接着剤層の比誘電率及び誘電正接は下記の方法で評価した。実施例1と同様に、熱硬化性接着剤塗料を乾燥後の膜厚が40μmとなるように、厚さ50μmの剥離フィルム上に塗布、乾燥させた後、剥離フィルムを剥がして得られた熱硬化性接着剤層を3枚重ね、140℃、3MPa、2分の条件で熱プレスした後、恒温器(エスペック株式会社製:PH−202)で160℃、60分処理して試験サンプルを得た。得られた試験サンプルを、キーコム株式会社製静電容量方式比誘電率/誘電正接測定システム(LCRメーター:キーサイトテクノロジーズ社製E4980A、測定冶具:キーコム株式会社製DPT−009)を用いて周波数1MHzで測定し、それぞれ下記の2段階で評価した。 比誘電率 ○:比誘電率が3未満。 ×:比誘電率が3以上。 誘電正接 ○:誘電正接が0.01未満。 ×:誘電正接が0.01以上。 【0052】 以上の結果を表1〜3にまとめて示す。「酸変性(20%)」の欄では、固形分が20wt%の酸変性ポリオレフィン溶液として、製造例1〜2のどちらを用いたかを区別した。また、表1〜3において、「カルボジイミド」はカルボジイミド樹脂、「エポキシ」は多官能エポキシ樹脂、「シラン」はシランカップリング剤の略である。 【0053】 【表1】 【0054】 【表2】 【0055】 【表3】 」 (3)甲3には、次の記載がある。 「【請求項1】 バインダー樹脂、エポキシ樹脂及びフィラーを含む組成物で形成される接着フィルムであって、前記バインダー樹脂は、カルボン酸変性オレフィン系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂を含み、 前記接着フィルムは、硬化後、1GHz〜10GHz及び20℃〜80℃で測定された誘電率(dielectric constant、Dk)が2.6以下、誘電損失(dielectric loss、Df)が0.005以下であり、前記接着フィルムは、硬化後の吸湿率が0.1%以下である、接着フィルム。 【請求項2】 前記組成物は、硬化剤を含まないものである、 請求項1に記載の接着フィルム。」 「【0001】 本発明は、接着フィルム、これを含む接着フィルム付き積層体、及びこれを含む金属箔積層体に関する。より詳細に本発明は、広範囲な温度及び全周波数における誘電率及び誘電損失が低く、吸湿率が低くて、接着性と耐熱性に優れた接着フィルム、これを含む接着フィルム付き積層体、及びこれを含む金属箔積層体に関する。」 「【0006】 本発明の他の目的は、接着力と耐熱性に優れた接着フィルムを提供することである。 【0007】 本発明のさらに他の目的は、周波数変化及び温度変化による誘電率と誘電損失の変化率が低い接着フィルムを提供することである。」 「【0127】 (10)周波数変化による誘電率と誘電損失:(3)と同じ方法により誘電率と誘電損失を測定するものの、25℃における周波数を1GHz、3GHz、5GHz、10GHzに変更しながら、誘電率と誘電損失を測定した。 【0128】 (11)温度変化による誘電率と誘電損失:(3)と同じ方法により誘電率と誘電損失を測定するものの、10GHzにおける測定温度を20℃、40℃、60℃、80℃に変更しながら、誘電率と誘電損失を測定した。」 「【0129】 【表1】 【0130】 【表2】 【0131】 【表3】 」 (4)甲4には、次の記載がある。 「【0083】 【表1】 【0084】 【表2】 【0085】 表1および表2中、「トーヨータックPMA−L」「トーヨータックPMA−KH」(いずれも東洋紡社製)は、無水マレイン酸変性のプロピレン−ブテン共重合樹脂である。」 (5)甲5には、次の記載がある。 「【0069】 ≪ホットメルト接着剤組成物の製造≫ 下記原料を、表1及び表2に記載する配合量にて、プラネタリーミキサーにて、150℃15分混練して、各実施例及び各比較例にかかるホットメルト接着剤組成物を得た。 ・熱可塑性炭化水素樹脂(A) P−1:VESTPLAST 408(EVONIK社)、軟化点118℃、数平均分子量48,000 P−2:VESTPLAST V2094(EVONIK社)、軟化点94℃、数平均分子量50,000 P−3:VESTPLAST 792(EVONIK社)、軟化点108℃、数平均分子量118,000 ・酸変性ポリオレフィン(B) AM−1:PMA−T(東洋紡社)、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、軟化点80℃ AM−2:PMA−KH(東洋紡社)、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、軟化点100℃ AM−3:PMA−L(東洋紡社)、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、軟化点75℃ AM−4:リケエイドMG−400W(理研ビタミン社)、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、軟化点126℃ ・・・」 第4 申立理由1、2についての判断 1 甲1を主たる引用例とした場合 (1)甲1に記載された発明 甲1(前記第3の3(1)参照。)の[0087]の[表1]に示された実施例1に着目し、同[0001]、[0085]、[0089]及び[0090]の記載を参酌すれば、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。 (甲1発明) 「CO−1を100質量部、エポキシ樹脂HP−7200Hを10質量部および有機溶媒(メチルシクロヘキサン/メチルエチルケトン/トルエン=72/8/20(v/v))を440質量部(固形分濃度で20質量%)配合した混合溶液からなる、フレキシブルプリント配線板用接着剤組成物であって、 CO−1は、無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体(酸価19mgKOH/g、数平均分子量25,000、Tm80℃、△H35J/g)であり、 エポキシ樹脂HP−7200Hは、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(DIC社製 エポキシ当量 278g/eq)である、接着剤組成物。」 (2)対比・判断 ア 本件発明1 (ア)本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「CO−1」及び「エポキシ樹脂HP−7200H」は、本件発明1の「変性ポリプロピレン系樹脂(A)」及び「エポキシ樹脂(B)」に相当する。 甲1発明の「フレキシブルプリント配線板用接着剤組成物」は、「CO−1」や「エポキシ樹脂HP−7200H」といった樹脂を含む組成物であるから、本件発明1の「積層基板の接着剤層に用いられる樹脂組成物」に相当する。 甲1発明の「フレキシブルプリント配線板用接着剤組成物」は、硬化促進剤を含まないから、本件発明1の「第三級アミン系硬化促進剤、第三級アミン塩系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤から選択される1種以上の硬化促進剤が非添加であり」を充足する。 そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。 <一致点> 「積層基板の接着層に用いられる樹脂組成物であって、 変性ポリプロピレン系樹脂(A)と、エポキシ樹脂(B)とを含有し、 第三級アミン系硬化促進剤、第三級アミン塩系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤から選択される1種以上の硬化促進剤が非添加である樹脂組成物。」 <相違点1−1> 本件発明1は「充填剤」「を含有し、前記充填剤の含有量が樹脂組成物100質量部に対して20質量部以下」であるのに対し、甲1発明は、充填剤を含有しない点。 <相違点1−2> 本件発明1は「完全に硬化した状態であって25μm厚のシート状にしたものを、その両面から同形状の125μm厚のポリイミドフィルムで挟み込んで積層体を形成し、この積層体を打ち抜いて円盤状の試験体を作成し、該試験体に160℃、2MPa、30分の条件下で厚み方向から加熱プレスをした場合における、前記試験体の外周から外側へ流出した樹脂の最大長さ(すなわち、2次レジンフロー量)の平均値が0.15mm未満である」(以下「本件特性」という。)であるのに対し、甲1発明は、2次レジンフロー量が不明である点。 (イ)事案に鑑み、相違点1−2について検討する。 本件特許の明細書の【0016】の「変性ポリプロピレン系樹脂の酸価は、耐熱性および有機樹脂基材や金属基材との接着性、及びレジンフロー特性の観点から、5mgKOH/g以上であることが好ましく、10mgKOH/g以上50mgKOH/g以下であることがより好ましい。」との記載、及び、同【0017】の「変性ポリプロピレン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、20,000以上180,000以下の範囲であることが好ましい。重量平均分子量が20,000以上であると、凝集力が強くなり接着性に優れるため好ましい。また、接着剤を被着体に接着・硬化させる加熱プレス(1次加工)時のレジンフロー特性についても向上させることができる。また、重量平均分子量が180,000以下とすることで、流動性を高め、加熱プレス時の回路埋め込み性の向上や、濡れ性向上による接着性の向上が望めるため好ましい。また、有機溶剤への溶解性が向上するため、ワニス化時の作業性の悪化を抑えることができる。」との記載から、本件特許の明細書には、(一次)レジンフロー特性を向上させるためには、(i)変性ポリプロピレン系樹脂の酸価は、5mgKOH/g以上であること、及び、(ii)変性ポリプロピレン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、20,000以上180,000以下の範囲であることが好ましいと記載されていると認められる。 また、同【0019】の「本発明の樹脂組成物における変性ポリプロピレン系樹脂(A)の含有量は、樹脂組成物から溶媒を完全に揮発させた場合に残留する固形物(固形分)100質量部に対して、好ましくは50質量部以上(本実施形態に係る樹脂組成物は溶媒を実質的に含まないために、樹脂組成物中の含有量が50質量%以上とも言える。)である。より好ましくは前記固形分100質量部に対して65質量部以上である。変性ポリプロピレン系樹脂(A)の含有量が前記固形分100質量部に対して50質量部以上であることによって、補強板加工やシールドフィルム加工などの加熱プレス(2次加工)時のレジンフロー特性を向上させて、開口部分や基板端部から樹脂の流れ出しをできるだけ小さく抑えることができるため好ましい。・・・」との記載から、本件特許の明細書には、二次レジンフロー特性を向上させるために、(iii)変性ポリプロピレン系樹脂(A)の含有量は、樹脂組成物から溶媒を完全に揮発させた場合に残留する固形物(固形分)100質量部に対して、好ましくは50質量部以上であると記載されていると認められる。 これに対し、甲1発明は、本件発明1の「変性ポリプロピレン系樹脂(A)」に相当する「CO−1」と、「エポキシ樹脂(B)」に相当する「エポキシ樹脂HP−7200H」をそれぞれ100質量部と10質量部と、有機溶媒を440質量部(固形分濃度で20質量%)配合した混合溶液からなる」組成物であって、「CO−1」の酸価は19mgKOH/g、重量平均分子量は25,000であり、甲1発明の組成物は、固形物100質量部に対してCO−1を100/(100+10)×100≒91質量部含んでいるから、前記(i)〜(iii)の全てを満たすものである。 しかしながら、本件特許の明細書の【0016】及び実施例等の記載から、変性プロピレン系樹脂(A)の含有量が樹脂組成物から溶媒を完全に揮発させた場合に残留する固形物(固形分)100質量部に対して、50質量部以上であれば、そのことをもって直ちに、当該組成物の2次レンジフロー特性が向上し、本件特性を有することが明らかとはいえず、異議申立人からは、前記(i)(ii)を満たし、かつ、酸変性ポリプロピレン樹脂等の変性ポリプロピレン樹脂が50質量部以上であれば、本件特性を有することは明らかであるとの技術常識を示す文献等の提示もなされていない。 したがって、甲1発明が前記(i)(ii)に加え、酸変性ポリプロピレン樹脂が50質量部以上であることをもって、甲1発明が本件特性を有することが甲1に開示されていたとはいえない。 なお、本件特許の明細書の【0045】〜【0047】には「本実施形態に係る樹脂組成物を熱硬化させて得られるCステージの硬化物は、180℃での動的粘弾性測定において、測定開始5分後の損失正接(tanδ)の値をT1、測定開始10分後の損失正接の値をT2、測定開始15分後の損失正接の値をT3としたとき、T1、T2、T3の何れも0.2以下の特性を有する。・・・本実施形態に係る樹脂組成物によれば、その硬化物が上述のような特定の損失正接を満たすことで、CLやBSの加熱プレス(1次加工)の後に続く補強板加工やシールドフィルム加工などの加熱プレス(2次加工)時のレジンフローを0.15mm未満の範囲に抑制することができる。」と記載されているところ、甲1には、甲1発明が「樹脂組成物を熱硬化させて得られるCステージの硬化物は、180℃での動的粘弾性測定において、測定開始5分後の損失正接(tanδ)の値をT1、測定開始10分後の損失正接の値をT2、測定開始15分後の損失正接の値をT3としたとき、T1、T2、T3の何れも0.2以下の特性を有する」ことが開示されていたともいえない。 そうすると、甲1発明の「接着剤組成物」の2次加工時レジンフロー量の平均値が0.15mm未満となるとは限らないから、甲1には、甲1発明が本件特性を有することが開示されていたとはいえない。 (ウ)また、甲1発明の接着剤組成物の耐熱性について、甲1発明を認定した甲1の[0006]には「本発明は、ポリイミド(PI)のみならず液晶ポリマー(LCP)などの様々な樹脂基材と金属基材双方への良好な接着性を有し、且つハンダ耐熱性、誘電特性、および吸湿(飽和吸水)後の誘電正接にも優れた接着剤組成物を提供することを目的とする。」と記載され、同[0083]には「ハンダ耐熱性」について「サンプルを作製し、2.0cm×2.0cmのサンプル片を23℃で2日間エージング処理を行い、280℃で溶融したハンダ浴に10秒フロートし、膨れなどの外観変化の有無を確認した。」と記載され、さらに同[0087]の[表1]には、エポキシ樹脂(b)を添加しなかった比較例3のハンダ耐熱性が×であることが示されているものの、2次レジンフロー量については記載がなく、甲1には1次加熱プレス加工を経て完全硬化した接着剤層について、2次レジンフロー量を低下させることを動機づける記載も示唆もない。 そうすると、甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて、甲1発明の2次加工時レジンフロー量の平均値を0.15mm未満とすることが容易ということもできない。 (エ)さらに、甲2に、後記2(1)で認定する甲2発明(酸変性ポリオレフィン溶液(固形分20wt%)にフィラーとして疎水性シリカ(日本アエロジル株式会社製:R972)を加えて撹拌し、得られたシリカ分散酸変性ポリオレフィン溶液に、多官能エポキシ樹脂(東洋紡製:HY−30、固形分70wt%)、カルボジイミド樹脂(日清紡ケミカル株式会社製:カルボジライト(登録商標)V−07、固形分50wt%)、シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製:KBM−403)、トルエンとメチルエチルケトンの混合溶剤(混合比トルエン:メチルエチルケトン=8:2)を順次加えて撹拌し、固形分が20wt%に調整された実施例1の熱硬化性接着剤塗料)が記載され、甲3(前記第3の3(3)参照。)の【請求項1】等には、バインダー樹脂、エポキシ樹脂及びフィラーを含む組成物で形成される接着フィルムであって、前記バインダー樹脂は、カルボン酸変性オレフィン系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂を含み、前記接着フィルムは、硬化後、1GHz〜10GHz及び20℃〜80℃で測定された誘電率(dielectric constant、Dk)が2.6以下、誘電損失(dielectric loss、Df)が0.005以下である接着フィルムが記載され、甲4及び甲5には、トーヨータックPMA−KHが、無水マレイン酸変性のプロピレン−ブテン共重合樹脂であることが記載されているものの、2次レジンフロー量については記載がなく、1次加熱プレス加工を経て完全硬化した接着剤層について、2次レジンフロー量を低下させることを動機づける記載も示唆もない。 (オ)してみると、相違点1−1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明及び甲1〜甲5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 イ 本件発明2〜11 本件発明2〜11は、いずれも本件発明1を全て包含し、それぞれ個別の技術事項を追加したものである。そうすると、本件発明2〜11は、前記アに示した理由と同様の理由により、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明及び甲1〜甲5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)申立人の主張 ア 申立人は特許異議申立書33頁1行〜8行において、本件発明の「加熱プレス(2次加工)時のレジンフロー特性」の課題は、甲第1号証に記載の課題である、「密着性、耐熱性、絶縁信頼性」に加えて検討されたものであることからすれば、本件発明の属する上記の技術分野における当業者であれば、本件発明の「加熱プレス(2次加工)時のレジンフロー特性」の課題は、当然に認識されていた課題である、との趣旨の主張をしている。 しかしながら、前記(2)ア(ウ)で述べたとおり、甲1発明の耐熱性は、ハンダ耐熱性であって、2次レジンフロー量に関する記載や示唆はない。また、本件特許の明細書の【0081】の【表1】には、2次加工時レジンフロー量の評価が×である比較例1及び比較例2であっても、はんだ耐熱特性の評価は○であることが示されており、ハンダ耐熱性と2次レジンフロー特性の相関は強くないことを理解できる。 そうすると、甲1のハンダ耐熱性に関する記載に触れた当業者が、ハンダ耐熱性の記載から、2次レジンフロー特性の課題を認識するとはいえないから、申立人の主張は採用できない。 イ また、申立人は特許異議申立書34頁12行〜35頁8行において、本件特許の段落[0081]の表1の実施例3と甲第1号証の段落[0087]の実施例1、本件特許の段落[0081]の表1の実施例1と甲第1号証の段落[0087]の実施例10は、樹脂組成物の組成が完全に同一であるといえるから、甲第1号証に記載された発明には、上記相違点に係る構成Eの「2次加工時レジンフロー量」についての具体的な記載はないものの、甲第1号証に記載された発明は、実質的に、本件発明1の構成E(当審注:2次加工時レジンフロー量特性)を満足している蓋然性が高い、との趣旨の主張をしている。 しかしながら、本件特許の明細書の【0081】〜【0084】の記載から、甲1の実施例1及び10の組成物を構成する具体的な組成と、本件特許の実施例1及び3の組成物を構成する具体的な組成が完全に同一とはいえないため、申立人の主張をもって、甲1発明が本件発明1の構成Eを満たすとはいえない。 2 甲2を主たる引用例とした場合 (1)甲2に記載された発明 甲2(前記第3の3(2)参照。)の【0053】の【表1】に示された実施例1に着目し、同【0006】、【0043】及び【0045】の記載を参酌すれば、甲2には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。 (甲2発明) 「フレキシブルプリント基板の熱硬化性接着剤に用いられる熱硬化性接着剤塗料であって、 当該熱硬化性接着剤塗料は、製造例1で得た酸変性ポリオレフィン溶液(固形分20wt%)100重量部にフィラーとして疎水性シリカ(日本アエロジル株式会社製:R972)6重量部を加えて撹拌し、酸変性ポリオレフィン溶液中にシリカが分散した、固形分が24.5wt%のシリカ分散酸変性ポリオレフィン溶液を得て、 得られたシリカ分散酸変性ポリオレフィン溶液106重量部に、多官能エポキシ樹脂(東洋紡製:HY−30、固形分70wt%)3.6重量部、カルボジイミド樹脂(日清紡ケミカル株式会社製:カルボジライト(登録商標)V−07、固形分50wt%)0.4重量部、シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製:KBM−403)0.2重量部、トルエンとメチルエチルケトンの混合溶剤(混合比トルエン:メチルエチルケトン=8:2)を順次加えて撹拌し、固形分が20wt%に調整された実施例1の熱硬化性接着剤塗料であり、 製造例1で得た酸変性ポリオレフィン溶液は、酸価220当量/t(12mgKOH/g)の酸変性ポリオレフィン樹脂(東洋紡株式会社製:トーヨータック(登録商標)PMA−KH)100重量部に対して、トルエン320重量部、メチルエチルケトン80重量部を加え、50℃に昇温後、30分撹拌して溶解させた、固形分が20wt%の酸変性ポリオレフィン溶液である、 実施例1の熱硬化性接着剤塗料。」 (2)対比・判断 ア 本件発明1 (ア)本件発明1と甲2発明を対比すると、甲2発明の「フレキシブルプリント基板の熱硬化性接着剤に用いられる熱硬化性接着剤塗料」は、本件発明1の「積層基板の接着層に用いられる樹脂組成物」に相当する。 甲2発明の「酸変性ポリオレフィン溶液(固形分20wt%)」の固形分と、本件発明1の「変性ポリプロピレン系樹脂(A)」とは、ともに「変性ポリオレフィン系樹脂」である点で共通する。 甲2発明の「疎水性シリカ(日本アエロジル株式会社製:R972)」及び「多官能エポキシ樹脂(東洋紡製:HY−30、固形分70wt%)」の固形分は、本件発明1の「充填剤」及び「エポキシ樹脂(B)」に相当する。 甲2発明の「熱硬化性接着剤塗料」の固形分の合計重量部は100×0.20+6+3.6×0.70+0.4×0.50+0.2=28.92であるから、固形分が20wt%に調整された甲2発明の「熱硬化性接着剤塗料」の溶媒を含めた合計重量は28.92×100/20=144.6である。熱硬化性接着剤塗料144.6重量部に対して疎水性シリカ6重量部は、熱硬化性接着剤塗料100重量部に対して疎水性シリカ6×100/144.6≒4.15重量部であるから、本件発明1の「充填剤の含有量が樹脂組成物100質量部に対して20質量部以下」を充足する。 甲2発明の「熱硬化性接着剤塗料」は、硬化促進剤を含まないから、本件発明1の「第三級アミン系硬化促進剤、第三級アミン塩系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤から選択される1種以上の硬化促進剤が非添加であり」を充足する。 そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。 <一致点> 「積層基板の接着層に用いられる樹脂組成物であって、 変性ポリオレフィン系樹脂と、エポキシ樹脂(B)と充填剤とを含有し、 前記充填剤の含有量が樹脂組成物100質量部に対して20質量部以下であり、 第三級アミン系硬化促進剤、第三級アミン塩系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤から選択される1種以上の硬化促進剤が非添加である樹脂組成物。」 <相違点2−1> 変性ポリオレフィン系樹脂が、本件発明1は「変性ポリプロピレン系樹脂(A)」であるのに対し、甲2発明は「酸変性ポリオレフィン溶液の固形分(酸価220当量/t(12mgKOH/g)の酸変性ポリオレフィン樹脂(東洋紡株式会社製:トーヨータック(登録商標)PMA−KH))」である点。 <相違点2−2> 本件発明1は「完全に硬化した状態であって25μm厚のシート状にしたものを、その両面から同形状の125μm厚のポリイミドフィルムで挟み込んで積層体を形成し、この積層体を打ち抜いて円盤状の試験体を作成し、該試験体に160℃、2MPa、30分の条件下で厚み方向から加熱プレスをした場合における、前記試験体の外周から外側へ流出した樹脂の最大長さ(すなわち、2次レジンフロー量)の平均値が0.15mm未満である」であるのに対し、甲2発明は、2次レジンフロー量が不明である点。 (イ)事案に鑑み、相違点2−2について検討する。 甲2発明の「酸変性ポリオレフィン溶液の固形分(酸価220当量/t(12mgKOH/g)の酸変性ポリオレフィン樹脂(東洋紡株式会社製:トーヨータック(登録商標)PMA−KH)」は、甲4(前記第3の3(4)参照。)の【0084】の【表2】中の「トーヨータックPMA−KH 無水マレイン酸 変性率1.0wt% ベース樹脂PP/PB 分子量80000Mw」との記載及び【0085】の「トーヨータックPMA−KH」(いずれも東洋紡社製)は、無水マレイン酸変性のプロピレン−ブテン共重合樹脂である」との記載、並びに甲5(前記第3の3(5)参照。)の【0069】の「PMA−KH(東洋紡社)、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、軟化点100℃」との記載から、分子量80000Mwの無水マレイン酸変性のプロピレン−ブテン共重合樹脂であるから、甲2発明の「熱硬化性接着剤塗料」は、前記1(2)ア(イ)の(i)〜(ii)の特性を有するものである。 また、甲2発明の「熱硬化性接着剤塗料」の固形分の合計重量部は100×0.20+6+3.6×0.70+0.4×0.50+0.2=28.92であるから、そのうちの酸変性ポリオレフィン樹脂の重量部は、(100×0.20)/28.92×100≒69.2であるから、甲2発明の「熱硬化性接着剤塗料」は、前記1(2)ア(イ)の(iii)の特性を有するものである。 しかしながら、甲2発明の酸変性ポリオレフィン樹脂が、前記1(2)ア(イ)(i)〜(iii)の特性を有していたとしても、そのことをもって、甲2発明が本件特性を有するとはいえないという点は、前記1(2)ア(イ)で検討したとおりである。 そうすると、甲2発明の「接着剤組成物」の2次加工時レジンフロー量の平均値が0.15mm未満となるとは限らないから、甲2には、甲2発明が本件特性を有することが開示されていたとはいえない。 (ウ)また、甲2発明の接着剤組成物の耐熱性について、甲2発明を認定した甲2の【0006】には「本発明は・・・接着力及び耐熱性に優れた熱硬化性接着剤組成物、並びにこれを用いた接着フィルム、カバーレイフィルム及びフレキシブルプリント配線板を提供することを課題とする。」と記載され、同【0050】には「半田耐熱性の評価方法」について「得られたカバーレイフィルムを、厚みが50μmのポリイミドフィルム、及び1/3オンス(12μm厚)の電解銅箔に前出の「接着力の評価方法」と同じ条件で熱ラミネート、及び熱プレスし評価用サンプルを得た。2.5cm×5cmに試験片を切り出し、23℃、50%の環境下で3日間保管した後、290℃のはんだ浴に30秒間浮かせた後引き上げた。耐熱試験後のカバーレイフィルムの外観は、n=5で評価し、目視で変形や縮れ等の異常がないかを観察し、下記の3段階で評価した。 ○:5個すべて異常がなく良好。 △:浮き等の異常が認められたサンプルが1個あった。 ×:2個以上浮き等の異常が認められた。」と記載され、さらに同【0053】〜【0055】の【表1】〜【表3】には、エポキシ及びカルボジイミドの合計当量が少ない比較例1、2、7、8や、エポキシを添加しなかった比較例3、4や、カルボジイミドを添加しなかった比較例5や、フィラーを添加しなかった比較例6の半田耐熱性が×又は△であることが示されているものの、2次レジンフロー量については記載がなく、甲2には1次加熱プレス加工を経て完全硬化した接着剤層について、2次レジンフロー量を低下させることを動機づける記載も示唆もない。 そうすると、甲2発明及び甲2に記載された事項に基づいて、甲2発明の2次加工時レジンフロー量の平均値を0.15mm未満とすることが容易ということもできない。 (エ)さらに、甲1に、前記1(1)で認定した甲1発明(無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体、エポキシ樹脂HP−7200Hおよび有機溶媒の混合溶液からなる、フレキシブルプリント配線板用接着剤組成物)が記載され、甲3(前記第3の3(3)参照。)の【請求項1】等には、バインダー樹脂、エポキシ樹脂及びフィラーを含む組成物で形成される接着フィルムであって、前記バインダー樹脂は、カルボン酸変性オレフィン系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂を含み、前記接着フィルムは、硬化後、1GHz〜10GHz及び20℃〜80℃で測定された誘電率(dielectric constant、Dk)が2.6以下、誘電損失(dielectric loss、Df)が0.005以下である接着フィルムが記載され、甲4及び甲5には、トーヨータックPMA−KHが、無水マレイン酸変性のプロピレン−ブテン共重合樹脂であることが記載されているものの、甲1及び甲3〜甲5にも、2次レジンフロー量については記載がなく、1次加熱プレス加工を経て完全硬化した接着剤層について、2次レジンフロー量を低下させることを動機づける記載も示唆もない。 (オ)してみると、相違点2−1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明ではないし、甲2に記載された発明及び甲1〜甲5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 イ 本件発明2〜11 本件発明2〜11は、いずれも本件発明1を全て包含し、それぞれ個別の技術事項を追加したものである。そうすると、本件発明2〜11は、前記アに示した理由と同様の理由により、甲2に記載された発明ではないし、甲2に記載された発明及び甲1〜甲5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)申立人の主張 ア 申立人は特許異議申立書39頁下から7行〜40頁1行において、本件発明の「加熱プレス(2次加工)時のレジンフロー特性」の課題は、甲第2号証に記載の課題である、「密着性、耐熱性、絶縁信頼性」に加えて検討されたものであることからすれば、本件発明の属する上記の技術分野における当業者であれば、本件発明の「加熱プレス(2次加工)時のレジンフロー特性」の課題は、当然に認識されていた課題である、との趣旨の主張をしている。 しかしながら、前記(2)ア(エ)で述べたとおり、甲2発明の耐熱性は、半田耐熱性であって、2次レジンフロー量に関する記載や示唆はない。この点について、本件特許の明細書の【0081】の表1には、2次加工時レジンフロー量の評価が×である比較例1及び比較例2であっても、はんだ耐熱特性の評価は○であることからも、はんだ耐熱特性と2次レジンフロー特性の相関は強くないことを理解できる。そうすると、甲2の半田耐熱性に関する記載に触れた当業者が、半田耐熱性の記載から、2次レジンフロー特性の課題を認識するとはいえないから、申立人の主張は採用できない。 イ また、申立人は特許異議申立書40頁下から3行〜41頁下から5行において、甲2発明は、2次レジンフロー特性を向上させるための条件のうち、(i)変性ポリプロピレン系樹脂の酸価は、5mgKOH/g以上であることが好ましい、(ii)変性ポリプロピレン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、20,000以上180,000以下の範囲であることが好ましい、(iii)変性ポリプロピレン系樹脂(A)の含有量は、樹脂組成物から溶媒を完全に揮発させた場合に残留する固形物(固形分)100質量部に対して、好ましくは50質量部以上である、を満足しているから、甲2発明は、実質的に、本件発明1の構成E(当審注:2次加工時レジンフロー量特性)を満足している蓋然性が高い、との趣旨の主張をしている。 しかしながら、この点については前記(2)ア(イ)で検討したとおりであるから、申立人の主張は採用できない。 第5 申立理由3(サポート要件)について 1 本件発明1の「充填剤」及びその「含有量」について (1)申立人の主張(特許異議申立書の45頁下から3行〜46頁15行) 本件発明1の「樹脂組成物」は、「充填剤の含有量が樹脂組成物100質量部に対して20質量部以下」であることを記載しており、「充填剤」を必須成分として含有することが記載されている。 しかし、本件特許明細書の段落【0072】以降の実施例では、「充填剤」を用いた場合の例が記載されていない。即ち、本件特許明細書には、「充填剤」を用いた場合において、構成Eに係る「2次加工時レジンフロー量」、構成E1に係る「1次加工時レジンフロー量」を満足することが記載されていない。 (2)当審の判断 本件発明は、「2次加工時のレジンフロー特性に優れたカバーレイ、接着剤シート及びそれを用いた回路基板を提供すること」(本件特許の明細書の【0008】参照。)を課題とするものと認められる。 そして、充填剤については、本件特許の明細書の【0031】には「本発明の樹脂組成物は、前述した以外にも、・・・充填剤・・・等を、樹脂組成物の機能に影響を与えない範囲、例えば、変性ポリプロピレン系樹脂とエポキシ樹脂を除く他の成分の合計が樹脂組成物100質量部に対して49質量部以下、40質量部以下、30質量部以下、20質量部以下、10質量部以下、5質量部以下、1質量部以下の範囲で含有することができる。」と記載されており、充填剤の添加は、樹脂組成物の機能に影響を与えない範囲でされることを理解できる。 そうすると、本件発明1の「樹脂組成物」に、「充填剤の含有量が樹脂組成物100質量部に対して20質量部以下」となる範囲で添加したとしても、樹脂組成物の機能が損なわれることはないから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された事項及び本件出願時の技術常識に基づき、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。 2 本件発明1の「硬化促進剤が非添加」について (1)申立人の主張(特許異議申立書の46頁16行〜46頁下から3行) 本件発明1では、「樹脂組成物」は、「第三級アミン系硬化促進剤、第三級アミン塩系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤から選択される1種以上の硬化促進剤が非添加」であることを記載しているが、上記例示の以外の硬化促進剤を使用することを排除していない記載とも考えられる。 しかし、本件特許明細書には、上記例示の以外の硬化促進剤を用いた場合の記載はない。 (2)当審の判断 硬化促進剤の効果について、本件特許の明細書の【0027】には「しかしながら、変性ポリプロピレン系樹脂とエポキシ樹脂との反応においては、硬化促進剤が存在せずとも十分な反応速度が得られる。そのため、硬化促進剤は必須の構成要素ではないが、反応速度をさらに向上させる必要がある場合には添加するものとしてもよい。ただし、硬化促進剤を所定量以上添加した場合、ワニス化又はスラリー化した際のポットライフ低下や本実施形態記載の樹脂組成物を用いてカバーレイフィルム、接着剤シート、樹脂付き金属箔などの形態における半硬化(Bステージ)状の接着剤層を形成した際の製品ライフ低下を引き起こす場合がある。・・・」と記載されており、本件発明1において、「硬化促進剤が非添加」は、「ポットライフ」に影響を及ぼす要素であって、「2次加工時のレジンフロー特性」に影響を及ぼすものとはされていない。 これに対し、本件発明の課題は「2次加工時のレジンフロー特性に優れたカバーレイ、接着剤シート及びそれを用いた回路基板を提供すること」(本件特許の明細書の【0008】参照。)と認められるところ、本件発明1は、硬化促進剤の添加の有無によらず、発明の詳細な説明に記載された事項及び本件出願時の技術常識に基づき、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。 3 小括 したがって、本件発明1〜11は、発明の詳細な説明に記載された発明である。 第6 申立理由4(明確性)についての判断 1 本件発明1の「硬化促進剤が非添加」について (1)申立人の主張(特許異議申立書の47頁6行〜13行) 本件発明1では、「樹脂組成物」は、「第三級アミン系硬化促進剤、第三級アミン塩系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤から選択される1種以上の硬化促進剤が非添加」であることを記載しているが、上記例示以外の硬化促進剤を使用することを排除しているか否かが不明確である。 (2)当審の判断 請求項1の「第三級アミン系硬化促進剤、第三級アミン塩系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤から選択される1種以上の硬化促進剤が非添加」との記載は、前記3種類以外の硬化促進剤を使用することを排除していないことが明らかである。 2 本件発明4の「エポキシ樹脂(B)の含有量が1質量部以上20質量%以下」について (1)申立人の主張(特許異議申立書の47頁19行〜最終行) 本件発明1では、エポキシ樹脂(B)の含有量に関して「質量部」と「質量%」の記載が混在しており不明確である。 (2)当審の判断 エポキシ樹脂(B)の含有量について、本件特許の明細書の【0024】には「エポキシ樹脂(B)の含有量は、好ましくは前記固形分100質量部に対して1質量部以上20質量部以下である。」と記載されていることから、本件発明1の「エポキシ樹脂(B)の含有量が1質量部以上20質量%以下」は、「エポキシ樹脂(B)の含有量が固形分100質量部に対して1質量部以上20質量部以下」を意味することが明らかである。 3 小括 したがって、本件発明1〜11の記載は、第3者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、異議申立人による特許異議申立書の理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1〜11に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1〜11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2024-07-19 |
出願番号 | P2021-197293 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(C09J)
P 1 651・ 121- Y (C09J) P 1 651・ 537- Y (C09J) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
光本 美奈子 |
特許庁審判官 |
長谷川 真一 関根 裕 |
登録日 | 2023-09-12 |
登録番号 | 7348673 |
権利者 | ニッカン工業株式会社 |
発明の名称 | 樹脂組成物、及び、これを用いたカバーレイフィルム、接着剤シート、樹脂付き金属箔、金属張積層板またはプリント配線板 |
代理人 | 西村 竜平 |
代理人 | 中村 惇志 |
代理人 | 前田 治子 |
代理人 | 齊藤 真大 |