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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C21B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C21B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C21B |
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管理番号 | 1413362 |
総通号数 | 32 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2024-08-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2024-03-19 |
確定日 | 2024-07-29 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7348467号発明「高炉の操業方法及び銑鉄の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7348467号の請求項1〜2に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7348467号の請求項1〜2に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成31年3月22日の出願であって、令和5年9月12日にその特許権の設定登録がなされ、同年9月21日に特許掲載公報が発行された。 本件は、その後、令和6年3月19日に特許異議申立人吉田敦子(以下、「申立人」という。)より請求項1〜2(全請求項)に係る特許に対してなされた特許異議申立事件である。 第2 本件発明 本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜2に係る発明(以下、これらをそれぞれ「本件発明1」〜「本件発明2」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1〜2に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 コークスを少なくとも高炉の炉体の軸心部に装入し、補助還元材と微粉炭とを吹き込むことで炉内に装入された鉄源から銑鉄を製造する高炉の操業方法であって、 前記微粉炭の使用量は、150kg/tp以上220kg/tp以下であり、 前記補助還元材の使用量は、10kg/tp以上50kg/tp以下であり、 前記微粉炭の使用量をx(kg/tp)、前記補助還元材の使用量をy(kg/tp)、前記軸心部に装入される中心コークス量をz(kg/tp)としたときに、下記式(1)を満足し、 前記補助還元材の水素含有量が、11.3質量%以上23.2質量%以下であり、 前記補助還元材が、天然ガス、都市ガス及びメタンからなる群から選択される1種以上である、高炉の操業方法。 36−0.104x−0.097y≦z≦108−0.313x−0.290y ・・・式(1) 【請求項2】 コークスを少なくとも高炉の炉体の軸心部に装入し、補助還元材と微粉炭とを前記高炉に吹き込むことで、前記高炉の炉体内に装入された鉄源を還元して銑鉄を得る銑鉄の製造方法であって、 前記微粉炭の使用量は、150kg/tp以上220kg/tp以下であり、 前記補助還元材の使用量は、10kg/tp以上50kg/tp以下であり、 前記微粉炭の使用量をx(kg/tp)、前記補助還元材の使用量をy(kg/tp)、前記軸心部に装入される中心コークス量をz(kg/tp)としたときに、下記式(1)を満足し、 前記補助還元材の水素含有量が、11.3質量%以上23.2質量%以下であり、 前記補助還元材が、天然ガス、都市ガス及びメタンからなる群から選択される1種以上である、銑鉄の製造方法。 36−0.104x−0.097y≦z≦108−0.313x−0.290y ・・・式(1)」 第3 特許異議申立理由 申立人は、証拠方法として次の甲第1〜5号証を提出し、以下の特許異議申立理由により、請求項1〜2に係る特許を取り消すべきである旨主張している。 (証拠方法) 甲第1号証:Daniel J. Holmes et al.“Co-Injection of Pulverized Coal and Natural Gas on IH7 Blast Furnace”, 2013 AISTech Conference Proceedings, May 01, 2013, p1-10 甲第2号証:Michal J. Wojewodka et al.“Natural Gas Injection Maximization on C and D Blast Furnaces at ArcelorMittal Burns Harbor”, AISTech 2014 Proceedings, May 05, 2014, p767-779 甲第3号証:Oscar Lingiardi et al.“Natural Gas Injection at Siderar #2 Blast Furnace”, 58th IRONMAKING CONFERENCE PROCEEDINGS, March 21, 1999, p135-142 甲第4号証:甲第1号証の書誌的事項を示す資料(https://imis.aist.org/store/detail.aspx?id=PR-364-300) 甲第5号証:特許第7348467号公報 なお、以下、甲第1〜5号証をそれぞれ「甲1」〜「甲5」という。 1 申立理由1(新規性) 本件発明1〜2は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するため、同発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 2 申立理由2(進歩性) 本件発明1〜2は、甲1に記載された発明及び甲2〜3に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるため、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 3 申立理由3(サポート要件) 本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の実施例には、補助還元材として天然ガスを用い、その水素含有量は請求項1、2の上限の「23.2質量%」であるものしか示されていないし、また、天然ガス、都市ガス、メタンは水素含有量が11.3質量%程度に少なくなることはないから、本件の請求項1〜2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 第4 特許異議申立理由の検討 当審は、以下に示すとおり、上記特許異議申立理由はいずれも採用できないと判断する。 1 申立理由1及び2(新規性及び進歩性) 1−1 各甲号証の記載及び甲1に記載された発明 (1) 甲1の記載事項 甲1には次の記載がある。なお、翻訳は申立人によるものである。また、下線は当審で付した。以下、同じ。 ア「SUMMARY IH7 began to co-inject pulverized coal (PCI) and natural gas beginning in February 2011. Significant efforts were spent to redesign blowpipes to allow for dual lance installation on the existing equipment. Challenging operation was encountered during the ramping up of natural gas attributed to high local natural gas and PCI rates. By February 2012, co-injection of natural gas and PCI was the new standard on IH7 blast furnace. The benefits IH7 have seen with natural gas injection has been a decrease in coke rate, a more reliable PCI system, the ability to run stably at a lower top temperature, improved stove firing, and a possible decrease in stave wear. IH7 is currently successfully injecting 35kg/mtHM natural gas with 160kg/mtHM PCI. The focus of this paper will be on the natural gas side of co-injection.」(第1頁第11〜18行) (訳) 「IH7高炉は2011年2月から微粉炭(PCI)と天然ガスの同時吹込みを開始した。既存の設備に2本構成のランスを取り付けられるように、ブローパイプの再設計に多大な労力を費やした。天然ガスとPCIの供給速度が局所的に高いことに起因する天然ガスの乱高下中に困難な作業に遭遇した。2012年2月までに、IH7高炉では天然ガスとPCIの同時吹込みが新しい標準となった。IH7高炉で分かった天然ガス吹込みの利点は、コークス比の低減、より信頼性の高いPCIシステム、より低い最高温度で安定して運転する能力、ストーブの燃焼の改善、およびストーブの摩耗の可能性の減少であった。IH7高炉は現在、160kg/mtHMの微粉炭(PCI)吹込みとともに35kg/mtHMの天然ガスの吹込みに成功している。本論文の焦点は同時吹込みの一方の天然ガスの方である。」 イ「Stable Natural Gas Injection The figure below shows the evolution of natural gas rate at IH7. The timeline to get from zero to the target of 35kg/mtHM natural gas injection rate was about one year. This delay was mainly due to waiting to have enough planned outages to install all forty redesigned dual-injection blowpipes.」(第6頁第1〜4行) (訳) 「安定した天然ガスの吹込み 下の図はIH7高炉における天然ガス比の推移を示したものである。ゼロから目標の35kg/mtHMの天然ガス吹込み比までのスケジュールは約1年であった。この遅れは主に、再設計された全40本の2本構成の吹込みブローパイプを設置するのに十分な計画停電を待っていたためである。」 ウ「 」 (訳) 「図5.IH7商炉の月平均の天然ガス比。2011年6月と7月に炉の不安定性による天然ガスの吹込みが停止された。これは天然ガスの吹込み羽口が少なすぎるために局所的に天然ガス吹込み量が高くなったことにより生じた。」 エ「IH7 furnace coke rate is displayed below. A majority of the work to reduce coke rate was completed before the addition of natural gas to IH7, but natural gas did allow for a further coke rate reduction by allowing for higher injection capacity. The replacement ratio IH7 has experience for natural gas injection is not included in this paper as a consistent consensus has not be reached on a "good" value.」(第6頁5〜8行) (訳) 「IH7炉コークス比は以下の図に示す。コークス比を低減するための作業の大部分は、IH7高炉への天然ガスの添加前に完了したが、天然ガスは、吹込み容量をより高くすることにより、さらなるコークス比の低減を可能にした。天然ガスの吹込みに関してIH7高炉で実際に得られた置換率は、『良い』値について一貫したコンセンサスに達していないため、本稿には含まれていない。」 オ「 」 (訳) 「図5a.IH7の月平均の炉コークス比。天然ガスにより総吹込み燃料を増加させることができたため、コークス比はIH7高炉で歴史的な低水準に押し下げられた。」 カ「PCI Performance Another effect of introducing natural gas injection to IH7 was that the PCI facility was not consistently operated at maximum capacity. PCI injection rates were reduced 〜30kg/mtHM from the time period before natural gas injection and the fuel decrease offset by the increase in natural gas injection. The reduction in PCI to 〜80% capacity allowed for a less "wear and tear" on the PCI facility, freeing up maintenance resources to perform more preventative rather than breakdown maintenance activities. In 2012 compared to 2010, the cost of breakdown delays, repairs, and the associated coke penalty to offset PCI reductions at PCI were reduced by 〜50% or the equivalent of $2.5MMUSD. This 50% reduction was mainly attributed to running PCI in a more acceptable operating range facilitated by natural gas injection on the furnace.」(第7頁第1〜8行) (訳) 「PCI パフォーマンス IH7高炉に天然ガスの吹込みを導入したもう一つの効果は、PCI設備が常に最大容量で稼働していなかったことである。微粉炭比は天然ガス吹込み前より約最大30kg/mtHM以下の範囲で減少し、燃料減少は天然ガス吹込みの増加により相殺された。PCIを最大80%以下の範囲で削減したことで、PCI設備の『消耗』が減少し、保守費用を解放して、故障ではなく予防的な保守作業が実行できるようになった。2012年には、2010年と比較して、PCIでのPCI削減を相殺するための故障遅延、修理、および関連するコーク費用のコストが約50%、すなわち$2.5MMUSD相当の削減があった。この50%の削減は、主に、炉への天然ガス吹込みによって促進された、より許容可能な動作範囲でPCIを実行したことに起因する。」 キ「 」 (訳) 「図6.PCI吹込み比および天然ガス吹込み比。炉に天然ガスを吹き込んだので、それに応じてPCIは減少した。天然ガスの導入中にコークス比は減少し、その結果、微粉炭と天然ガスの総吹込み量は減少しなかったが、コークス比の増加により、総燃料比が低減した。」 ク「Top Temperature Once natural gas was on all forty tuyeres, several observations were made. One was that natural gas seemed to allow for a more stable operation at a lower top temperature on the furnace. Due to the high production rate and high inherent moisture of a mostly stockpiled pellet burden, IH7 operation historically was production constrained by top temperature.」(第8頁第1〜4行) (訳) 「炉頂温度 天然ガスが40羽の羽口すべてに供給されると、いくつかの観察が行われた。1つは、天然ガスはより低い炉頂温度で安定な運転を可能にするように思われた。 高い生産速度と大部分が貯蔵された積載ペレットの高い固有水分のために、 IH7高炉の操業の歴史的な生産量は炉頂温度によって制約された。」 ケ「The introduction of natural gas to IH7's fuel mix allowed for the reduction of PCI as explained above. High PCI rates tend to require a large central coke chimney practice to achieve stable gas flow around the diameter of the blast furnace, which was the case at IH7. With the reduction of PCI facilitated by natural gas injection, IH7's central coke chimney was methodically reduced. The reduction of the central coke chimney created a more uniform coke layer around the diameter of the furnace and more uniform gas flow through the furnace. Before the central coke chimney reduction, it was not uncommon for IH7 to have a 700-900degC top gas temperature in the center of furnace and 60-70degC top gas temperature at the wall. With the smaller chimney practice, the center top gas temperature is 〜350degC. IH7 believes that that this more uniform temperature around the furnace causes more uniform iron reduction throughout the furnace and has allowed IH7 to run at lower top temperatures with less furnace instability.」(第8頁第5〜13行) (訳) 「IH7の燃料混合物に天然ガスを導入したことにより、上記のようにPCIを低減することができた。PCI比が高くなると、IH7高炉でそうであったように、高炉の径方向における安定したガス流を達成するために、大きな煙突中心コークス(central coke chimney)を必要とする傾向がある。天然ガスの吹込みにより促進されたPCIの低減により、IH7の煙突状中心コークスは計画的に低減された。煙突状中心コークスの減少は、炉の径方向において均一なコークス層を生じ、炉を通してより均一なガス粒を生じた。煙突状中心コークスが減少する前では、IH7は炉の中央で700-900℃の炉頂ガス温度に達し、壁で60-70℃の炉頂ガス温度に達することは珍しくなかった。小さな煙突状中心コークスの場合、中心の炉頂ガス温度は350℃以下である。IH7高炉では、炉の径方向のより均一な温度が、炉全体でより均一な鉄の還元を引き起こし、IH7高炉が炉の不安定性が少なく、より低い最高温度で動作することを可能にしたと考えられる。」 コ「 」 (訳) 「図7.煙突状コークス量%対天然ガス比。天然ガス比が増加するにつれて、中心コークス量が減少でき、炉頂ガス温度をより均一にできた。」 サ「 」 (訳) 「図8および図8a.IH7の炉積載物プロファイルを測定した。左側のプロファイルは2010年の大きな煙突状中心コークス装入物を持つ典型的な堆積プロファイルを示している。右側のプロファイルは、天然ガスの吹込みにより壁側が活性化した後の堆積プロファイルを示している。壁側が活性化するプロファイルは、炉中心部活性化の炉と比較して、より高い位置で壁側で液体が生成することにより、銅ボッシュステーブ上にスラグ/鉄を堆積する可能性がより大きい。」 シ「 」(図8の凡例拡大図) (2)甲1に記載された発明 ア 上記(1)のアより、「IH7高炉は2011年2月から微粉炭(PCI)と天然ガスの同時吹込みを開始した。」 イ また、上記(1)のケより、「IH7の燃料混合物に天然ガスを導入したことにより、」「PCIを低減することができた。PCI比が高くなると、」「高炉の径方向における安定したガス流を達成するために、大きな煙突中心コークス(central coke chimney)を必要とする傾向がある」が、「天然ガスの吹込みにより促進されたPCIの低減により、IH7の煙突状中心コークスは計画的に低減された。」 ウ さらに、上記(1)のサより、「IH7」は、「2010年」には「大きな煙突状中心コークス装入物を持つ典型的な」「炉積載物プロファイル」であった。 エ また、上記(1)のサの図8aより、高炉中心部も含めてコークス層と鉱石層が積層構造となっていることが看取できる。なお、上記(1)のシの拡大図より、色の濃い部分がコークス層で色の薄い部分が鉱石層であることが理解できる。 オ 上記ア〜エより、IH7高炉は2011年2月から微粉炭(PCI)と天然ガスの同時吹込みを開始し、それにより、高炉の積載物プロファイルは、高炉中心部も含めてコークス層と鉱石層が積層構造となっている。 カ 一方、上記(1)のキの図6より、2011年9月には、PCI吹き込み比及び天然ガス吹き込み比が、178kg/mtHM及び13kg/mtHMであることが読み取れる。 キ また、上記(1)のオの図5aより、2011年9月には、炉コークス比が260kg/mtHMであることが読み取れる。 ク さらに、上記(1)のコの図7より、2011年9月には、中心コークス量の割合が概ね13%であることが読み取れる。 ケ 上記ア〜クより、甲1のIH7高炉の2011年9月の操業方法に注目すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。 「微粉炭(PCI)と天然ガスの同時吹込みを行い、それにより、高炉の積載物プロファイルは、高炉中心部も含めてコークス層と鉱石層が積層構造となっており、 PCI吹き込み比及び天然ガス吹き込み比が、178kg/mtHM及び13kg/mtHMであり、 炉コークス比が260kg/mtHMであり、 中心コークス量の割合が概ね13%である、高炉の操業方法。」 (3)甲2の記載事項 甲2には、次の記載がある。 ア 「HISTORICAL OVERVIEW OF BLAST FURNACE NATURAL GAS INJECTION One of the most important technological improvements in Blast Furnace ironmaking has been tuyere level fuel injection. Fuel injectants include pulverized or granulated coal, natural gas (NG), used oil, raw petroleum, fuel oil, coke oven gas, coke tar, pitch, and even alcohols in some cases. Additive fuel is generally less expensive than coke, which is a major driver for the substitution of coke with any available additive fuel. Of the fuels mentioned, NG is preferable for Blast Furnaces due to the ease of flow control to the tuyeres. NG has a high calorific value with low levels of unwanted impurities such as sulfur and phosphorus. NG injection also allows for increases to both hot blast temperature and oxygen injection, helping to optimize raceway zone conditions, provide significant coke savings, and increase production. As an additional benefit, the greenhouse gases per ton of hot metal decrease and top gas calorific values increase as more NG is injected. Utilizing natural gas to moderate flame temperature in lieu of blast moisture reduction or hot blast temperature reduction serves to optimize total fuel requirements.(第768頁第1〜11行) (訳) 「高炉天然ガス吹込みの歴史的概観 高炉製鉄における最も重要な技術的改善の一つは羽口での燃料吹込みである。燃料吹込み材には、微粉炭または粒状炭、天然ガス(NG)、使用済み油、原料石油、燃料油、コークス炉ガス、コークスタール、ピッチ、場合によってはアルコールも含まれる。添加燃料は一般にコークスよりも安価であり、これは利用可能な添加燃料によるコークスの代替の主要な推進力である。これらの燃料のうち、高炉では羽口への流量制御の容易さから天然ガスが好ましい。天然ガスは、硫黄やリンなどの不要な不純物のレベルが低く、高い熱量を持っている。また、天然ガスの吹込みは、高温送風温度と酸素吹込みの両方の増加を可能にし、レースウェイゾーンの条件を最適化し、コークスを大幅に節約し、生産を増加させるのに役立つ。付加的な利点として、溶銑トン当たりの温室効果ガスが減少し、より多くの天然ガスが吹き込まれると炉頂ガス発熱量は増加する。送風水分の低減や熱風温度の低減の代わりに、天然ガスを利用して火炎温度を緩和することにより、全燃料要求量の最適化に役立つ。」 イ「Raw NG is a mixture of methane with ethane and other gases. NG usually contains small amounts of CO2 and nitrogen, but can contain 10% nitrogen or more. Presented in Table II are chemical compositions of NG from various deposits.」(第768頁第27〜28行) (訳) 「未精製の天然ガスはメタンとエタンおよび他のガスの混合物である。天然ガスは通常少量のCO2と窒素を含むが、10%以上の窒素を含むこともある。表IIに種々の埋蔵物か得られた天然ガスの化学組成を示す。」 ウ「 」 (訳) 「表II.各種天然ガス分析」 (4)甲3の記載事項 甲3には、次の記載がある。 ア 「Natural Gas Injection at Siderar #2 Blast Furnace」 (第135頁左欄第1〜2行) (訳) 「Siderar社No.2高炉における天然ガス吹込み」 イ 「A typical natural gas analysis is shown in table V.」(第137頁左欄末行) (訳) 「代表的な天然ガス分析を表Vに示す。」 ウ「 」 (訳) 「表V−天然ガス分析(体積%)」 1−2 本件発明1について (1)対比 ア 甲1発明は「高炉の操業方法」であるところ、高炉が鉄源から銑鉄を製造するものであることは技術常識であるから、甲1発明の「微粉炭(PCI)と天然ガスの同時吹込みを行い、それにより、高炉の積載物プロファイルは、高炉中心部も含めてコークス層と鉱石層が積層構造となって」いる「高炉の操業方法」は、本件発明1の「補助還元材と微粉炭とを吹き込むことで炉内に装入された鉄源から銑鉄を製造する高炉の操業方法であって、」「前記補助還元材が、天然ガス、都市ガス及びメタンからなる群から選択される1種以上である、高炉の操業方法」に相当する。 イ 甲1発明の「kg/mtHM」について、「mt」はメトリックトン、すなわち1トンであって、「mtHM」は溶銑1トンあたりを意味するから、甲1発明の「kg/mtHM」と本件発明1の「kg/tp」とは同義である。 そうすると、甲1発明の「PCI吹き込み比及び天然ガス吹き込み比が、178kg/mtHM及び13kg/mtHMであ」る事項は、本件発明1の「微粉炭の使用量は、150kg/tp以上220kg/tp以下であり、前記補助還元材の使用量は、10kg/tp以上50kg/tp以下であ」る事項に相当する。 ウ 上記ア、イより、本件発明1と甲1発明とは、 「補助還元材と微粉炭とを吹き込むことで炉内に装入された鉄源から銑鉄を製造する高炉の操業方法であって、 前記微粉炭の使用量は、150kg/tp以上220kg/tp以下であり、 前記補助還元材の使用量は、10kg/tp以上50kg/tp以下であり、 前記補助還元材が、天然ガス、都市ガス及びメタンからなる群から選択される1種以上である、高炉の操業方法。」で一致し、次の相違点で相違する。 (相違点1) 本件発明1は、「コークスを少なくとも高炉の炉体の軸心部に装入」するのに対し、甲1発明は、「高炉中心部も含めてコークス層と鉱石層が積層構造となって」おり、「コークスを少なくとも高炉の炉体の軸心部に装入」するものであるか否かが不明である点。 (相違点2) 本件発明1は、「微粉炭の使用量をx(kg/tp)、前記補助還元材の使用量をy(kg/tp)、前記軸心部に装入される中心コークス量をz(kg/tp)としたときに、下記式(1)を満足」するのに対し、甲1発明は、「PCI吹き込み比及び天然ガス吹き込み比が、178kg/mtHM及び13kg/mtHMであり、炉コークス比が260kg/mtHMであり、中心コークス量の割合が概ね13%であ」るものの、下記式(1)を満足するか否かが必ずしも明確ではない点。 「36−0.104x−0.097y≦z≦108−0.313x−0.290y ・・・式(1)」 (相違点3) 本件発明1は、「補助還元材の水素含有量が、11.3質量%以上23.2質量%以下であ」るのに対し、甲1発明は、「天然ガス」の水素含有量が不明である点。 (2)検討 ア 事案に鑑み、まず相違点3について検討する。 イ 甲2(特に、表II参照。)には、未精製の各種天然ガスの化学組成について記載されており、当該化学組成から水素含有量(質量%)を算出すると、24.24%(“Yubileynoe” Urengoy)、18.91%(Saratov-Moscow)、23.71%(Middle Asia-Center)、23.7%(West Siberian mix)、22.98%(“People Gas” for ACME Steel,1995)、23.58%(NGPL-Lansing,NIPSCO for Burns Harbor(Nov-2013))である。 ウ また、甲3(特に、表V参照。)には、代表的な天然ガスの化学組成が記載されており、当該化学組成から水素含有量(質量%)を算出すると、23.74%である。なお、甲3の表Vの「C3H8」欄の「.025」について、「0.25」の誤記または「0.025」であると考えられるところ、化学組成の数値を合計すると、前者は99.98%であり、後者は99.76%となることから、「0.25」の誤記であるとして算出した。 エ 上記イ、ウのとおり、甲2、甲3には代表的な天然ガスについて記載されているが、甲1発明の天然ガスがこのような代表的な天然ガスであるか否かは不明である。 オ また、上記イ、ウより、甲2、甲3の代表的な天然ガスのうち、水素含有量が本件発明1の「11.3質量%以上23.2質量%以下」であるものは、7種類の天然ガスのうち2種類のみであるから、仮に、甲1発明の天然ガスが甲2、甲3に記載されたものであったとしても、甲1発明の天然ガスの水素含有量が「11.3質量%以上23.2質量%以下」でない可能性も排除できない。 カ そうすると、相違点3は実質的な相違点であるから、本件発明1は甲1発明であるとはいえない。 キ 次に、相違点3の容易想到性について検討する。 ク 甲1には、高炉に吹き込む天然ガスの水素含有量について何ら記載がないし、また、天然ガスの種類や化学組成についても何ら記載がない。 そうすると、甲1発明において、天然ガスの水素含有量を調整する動機がないし、また、他の天然ガスに交換する動機もない。 ケ したがって、甲1発明において、相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 コ よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲2、3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 1−3 本件発明2について (1)本件発明2と甲1発明とを対比すると、少なくとも上記1−2の(1)のウの相違点3で相違する。 (2)そうすると、上記1−2で検討した理由と同様の理由により、本件発明2は、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲2、3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 1−4 申立人の主張について (1)申立人は、特許異議申立書において、甲2に記載された天然ガスの水素含有量(質量%)は、20.4%(“Yubileynoe” Urengoy)、18.8%(Saratov-Moscow)、20.9%(Middle Asia-Center)、20.9%(West Siberian mix)、20.5%(“People Gas” for ACME Steel,1995)、20.7%(NGPL-Lansing,NIPSCO for Burns Harbor(Nov-2013))であり、甲3に記載された天然ガスの水素含有量(質量%)は、23.1%であるから、本件発明1は甲1発明であるか、また、甲1発明及び甲2、3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであると主張している。 (2)しかしながら、甲2、3に記載された天然ガスの水素含有量は、上記1−2の(2)のイ、ウで述べたとおりである。なお、“Yubileynoe” Urengoyの水素含有量の算出の過程は次のとおりである。また、特許異議申立書における表A(第25〜26頁)において、「H2(質量%)」欄の「C4H10」行、「C5H12」行の「0.40」、「0.14」は、それぞれ「0.36」、「0.12」の誤りである。 (注)「kg/m3」の値は、「Vol%」の値を1モルの気体の体積22.4Lで割った値に分子量を掛けて求めた。「mass%」は「kg/m3」の値を合計の値72.60で割ったものである。「H2(質量%)」は「mass%」の値に対象のガスの水素の占める質量割合を掛けて求めた。例えば、CH4では、96.81×(4/16)=24.20である。 (3)また、仮に、甲2、3に記載された各天然ガスの水素含有量が(1)のとおりだったとしても、例えば、甲3の天然ガスの水素含有量が、本件発明1、2の上限近くである23.1%であることからみても、甲1発明における天然ガスの水素含有量が、本件発明1、2の「11.3質量%以上23.2質量%以下」であるとまではいい切れないし、また、甲1発明における天然ガスの水素含有量を、本件発明1、2の「11.3質量%以上23.2質量%以下」とする動機がないことは、上記1−2、1−3で検討したとおりである。 (4)よって、申立人の主張は採用できない。 2 申立理由3(サポート要件) 2−1 サポート要件についての検討 (1)本件発明の解決しようとする課題は、本件明細書の記載によれば、「低コークス比の操業条件において、より安定して継続した操業が可能な高炉の操業方法及び銑鉄の製造方法を提供すること」(【0011】)であると認められる。 (2)そして、本件明細書には、「コークスを少なくとも高炉の炉体の軸心部に装入し、150kg/tp以上220kg/tp以下の微粉炭と、10kg/tp以上50kg/tp以下の補助還元材とを吹き込み、軸心部に装入される中心コークス量を所定の範囲の量にすることで、低コークス比の操業条件を採用した場合であっても圧力損失を抑制し、安定な高炉操業が可能である」(【0076】)と記載されている。 (3)また、本件明細書には、「中心コークス量zが上記式(1)を満足することで、羽口11から吹き込まれた補助還元材から生成される水素ガスは、炉体10の径方向の偏りが抑制されて上方に流れることが可能となる。その結果、鉄源が、その炉内位置によらず均一に還元されることが可能となる。また、中心コークス量が上記式(1)を満足することで、鉄源が還元されて生成した溶滴の円滑な流れが確保され、高炉の操業が安定化される」(【0058】)との記載からすると、上記(2)の「軸心部に装入される中心コークス量を所定の範囲の量にすること」とは、請求項1、2の式(1)を満足することであると解される。 (4)これに加えて、本件明細書の実施例の記載によれば、上記(2)、(3)の条件を満足する、実施例1〜4は上記(1)の課題を解決し得るものである。 (5)そして、本件発明1、2は上記(2)、(3)の条件を満足するものであるから、上記(1)の課題を解決し得るものである。 (6)よって、本件発明1、2は発明の詳細な説明に記載されたものである。 2−2 申立人の主張 (1)申立人は、特許異議申立書において、(ア)本件明細書に記載された実施例において、補助還元材として天然ガスのみが示されており、都市ガスやメタンの実施例が記載されていないこと、(イ)補助還元材の水素含有量について、天然ガスの水素含有量が、請求項1、2の上限の「23.2質量%」であるものしか示されていないこと、及び、(ウ)天然ガス、都市ガス、メタンは水素含有量が11.3質量%程度に少なくなることはないことから、本件発明1、2はサポート要件を満たしていないと主張している。 (2)まず、上記(1)の(ア)の点について検討するに、都市ガスがメタンを主成分とすることは周知の事項であり、また、メタンは水素含有量が25質量%であるから、都市ガスやメタンが天然ガスと同様に鉄源を還元し得ることは明らかであり、都市ガスやメタンが実施例に記載されていないからといって直ちにサポート要件違反となるものではない。 なお、例えば、純度100%メタンは、水素含有量が25質量%であるから、本件発明1、2の「水素含有量が、11.3質量%以上23.2質量%以下であ」る「補助還元材」には含まれないと解される。 (3)次に、上記(1)の(イ)の点について検討するに、本件発明1、2が上記2−1の(2)、(3)の条件を満足することにより、サポート要件を満たしていることは、上記2−1で検討したとおりである。 確かに、「天然ガス、都市ガス及びメタンからなる群から選択される1種以上である」「補助還元材」は、請求項1、2の上限の「23.2質量%」であるものしか示されていないが、本件明細書【0052】の表2には、「補助還元材として使用可能な物質」(【0051】)として、水素含有量が11.3質量%である「液体還元材(重油)」が記載されている。 そして、水素含有量が11.3質量%である補助還元材は実施例で用いられている「天然ガス」と比較すると、水素含有量が低いことから還元力には劣るものの、ある程度の還元力を有するものであるから、補助還元材の水素含有量の下限が11.3重量%であるからといって、直ちに上記2−1の(1)の課題を解決し得ないとまではいえないし、よって、本件発明1、2がサポート要件違反であるともいえない。 (4)最後に、上記(1)の(ウ)の点について検討するに、天然ガス、都市ガス、メタンについて、水素含有量が11.3質量%程度に少なくなることはなかったとしても、ありえない態様は自ずと本件発明1、2には含まれないと解されるから、本件発明1、2がサポート要件違反であるとはいえない。 (5)以上のとおりであるから、申立人の主張は採用できない。 第5 むすび 以上のとおり、本件の請求項1〜2に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項1〜2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2024-07-19 |
出願番号 | P2019-054829 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(C21B)
P 1 651・ 121- Y (C21B) P 1 651・ 537- Y (C21B) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
粟野 正明 |
特許庁審判官 |
相澤 啓祐 土屋 知久 |
登録日 | 2023-09-12 |
登録番号 | 7348467 |
権利者 | 日本製鉄株式会社 |
発明の名称 | 高炉の操業方法及び銑鉄の製造方法 |
代理人 | 大浪 一徳 |
代理人 | 山口 洋 |
代理人 | 堀田 耕一郎 |
代理人 | 勝俣 智夫 |
代理人 | 井口 翔太 |
代理人 | 飯田 恭宏 |
代理人 | 松沼 泰史 |
代理人 | 山口 健吾 |