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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  E04D
審判 一部申し立て 2項進歩性  E04D
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  E04D
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E04D
管理番号 1413372
総通号数 32 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2024-04-17 
確定日 2024-07-04 
異議申立件数
事件の表示 特許第7365723号発明「屋根補修方法および屋根材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7365723号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7365723号(以下「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願(以下「本件出願」という。)は、平成27年3月10日(以下「当初出願日」という。)に出願した特願2015−46669(以下「当初出願」という。)の一部を令和2年2月19日(以下「第1分割出願日」という。)に新たな特許出願(特願2020−26087)(以下「第1分割出願」という。)とし、さらにその一部を令和4年4月11日(以下「第2分割出願日」という。)に新たな特許出願(特願2022−64882)(以下「第2分割出願」という。)としたものであって、令和5年10月12日に特許権の設定登録がされ、同月20日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1に係る特許に対し、令和6年4月17日に特許異議申立人北田保雄(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1の特許に係る発明(以下「本件発明1」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。なお、符号A等は当審で付した。以下、符号A等が付された事項を「特定事項A」等という。

「【請求項1】
A 既設のスレート屋根材を新規の屋根材でカバーして補修するための屋根補修方法であって、
B 前記既設のスレート屋根材に貼着剤を塗布する塗布工程と、
C 前記既設のスレート屋根材を前記新規の屋根材でカバーし、釘を使用せずに前記貼着剤で固定するカバー工程と、
D 前記塗布工程と前記カバー工程を前記新規の屋根材を葺いた補修済の屋根材上に登ることなく棟側から軒先側に向かって行う工程と、を備え、
E 前記新規の屋根材は、
E1 前記棟側の端部と、前記軒先側の端部と、を有する板状本体と、
E2 前記棟側の端部に形成される平坦な差し込み部と、
E3 前記軒先側の端部から屹立する屹立片と、前記屹立片から折り返された平坦な折り返し片と、を有する断面コ字状の取り付け部と、を有し、
C 前記カバー工程は、
C1 対象となる前記既設のスレート屋根材と前記対象となる前記既設のスレート屋根材に対して前記棟側の前記既設のスレート屋根材との隙間に前記差し込み部を差し込む工程と、
C2 前記対象となる前記既設のスレート屋根材と前記対象となる前記既設のスレート屋根材に対して前記軒先側の前記既設のスレート屋根材との隙間に前記折り返し片を差し込む工程と、を有し、
F 前記補修済の屋根材においては、前記軒先側の前記新規の屋根材の前記差し込み部の端部が、前記棟側の前記新規の屋根材の前記折り返し片の端部よりも前記棟側に位置し、
G 前記折り返し片は、前記既設のスレート屋根材に固定される前の無負荷状態で、前記板状本体から離れる方向に開拡し、
H 前記補修済の屋根材においては、前記軒先側の前記新規の屋根材の前記差し込み部は、前記棟側の前記新規の屋根材の前記折り返し片の弾発力により、前記軒先側の前記新規の屋根材がカバーした前記既設のスレート屋根材側に押される、
I 屋根補修方法。」

第3 特許異議申立理由及び証拠方法
1 特許異議申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、概ね以下の申立理由を主張するとともに、証拠方法として以下に示す各甲号証を提出している。

(1) 申立理由1(本件出願の分割不適に依拠した、新規性欠如)
本件出願は分割要件を満足しないため、本件特許の出願日は、その現実の出願日である令和4年4月11日であって、甲第1号証(令和2年5月21日発行)よりも後となる。そして、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件発明1に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(2) 申立理由2(第1分割出願の分割不適に依拠した、進歩性欠如)
第1分割出願は分割要件を満足しないため、第1分割出願の出願日は、その現実の出願日である令和2年2月19日であり、第1分割出願を原出願とする第2分割出願である本件出願の出願日は、令和2年2月19日であるとみなされる。そして、本件発明1は、甲第2号証(平成28年9月15日発行)及び甲第3号証(平成30年12月17日提出)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(3) 申立理由3(甲第4号証を主たる証拠とした、進歩性欠如)
本件発明1は、甲第4号証、甲第6号証、甲第7号証及び甲第8号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(4) 申立理由4(実施可能要件違反)
本件特許の発明の詳細な説明は、本件発明1について、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件発明1に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(5) 申立理由5(サポート要件違反)
本件発明1は、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に照らして、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件発明1に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(6) 申立理由6(明確性要件違反)
本件発明1は、明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件発明1に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

2 証拠方法
(1) 甲第1号証:特開2020−76317号公報(第1分割出願の公開公報)
(2) 甲第2号証:特開2016−166477号公報(当初出願の公開公報)
(3) 甲第3号証:特願2015−46669(当初出願)に係る平成30年12月17日に提出された手続補正書
(4) 甲第4号証:特開2007−170036号公報
(5) 甲第5号証:特開2002−242370号公報
(6) 甲第6号証:特開2001−73506号公報
(7) 甲第7号証:特開2014−37708号公報
(8) 甲第8号証:特開2006−342603号公報
(9) 甲第9号証:新村出、「広辞苑第七版」、株式会社岩波書店、2018年1月12日第七版第一刷発行、第2629頁及び奥付
以下、「甲第1号証」等を「甲1」等という。

3 証拠に記載された事項
(1)甲1について
甲1には以下の記載がある(下線は当審で付した。以下同じ。)。

「【請求項1】
既設のスレート屋根の上下に重なる既設の屋根材の隙間に屋根材を差し込んで既設の前記屋根材をカバーする屋根の差し込み固定カバー構造であって、
前記屋根材は、板状本体の平坦な棟側の一端を差し込み部とし、前記差し込み部に対向する軒先側の他端を屹立片と折り返し片を連接させて断面コ字状の取り付け部とし、
前記差し込み部は、下側の前記既設の屋根材とその上側の前記既設の屋根材との隙間に差し込まれて前記下側の既設の屋根材の上面をカバーするとともに、前記取り付け部の前記折り返し片を前記下側の既設の屋根材とさらにその下側の前記既設の屋根材との隙間に差し込まれて固定され、
前記下側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記差し込み部の端部は、前記上側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記折り返し片の端部よりも棟側に位置することを特徴とする屋根の差し込み固定カバー構造。
【請求項2】
前記折り返し片は、平坦であり、前記板状本体から離れる方向に開拡し、
前記下側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記差し込み部は、前記上側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記折り返し片の弾発力により、前記下側の既設の屋根材側に押される、ことを特徴とする請求項1に記載の差し込み固定カバー構造。」

「【請求項4】
既設のスレート屋根の上下に重なる既設の屋根材の隙間に屋根材を差し込んで既設の前記屋根材をカバーする屋根の差し込み固定カバー工法であって、
前記屋根材として、板状本体の平坦な棟側の一端を差し込み部とし、前記差し込み部に対向する軒先側の他端を屹立片と折り返し片を連接させて断面コ字状の取り付け部とした屋根材を用い、
前記差し込み部を下側の前記既設の屋根材とその上側の前記既設の屋根材との隙間に差し込んで前記下側の既設の屋根材の上面をカバーするとともに、前記取り付け部の前記折り返し片を前記下側の既設の屋根材とさらにその下側の前記既設の屋根材との隙間に差し込んで固定し、
前記下側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記差し込み部の端部は、前記上側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記折り返し片の端部よりも棟側に位置することを特徴とする屋根の差し込み固定カバー工法。」

「【0005】
本発明者はかかる課題を解決するべく、既設の屋根材の上下に重なる屋根材の隙間を利用して、この隙間に新たな屋根材を差し込み、固定することにより、簡単に既設の屋根材の上面に新たな屋根材をカバーして補修できることを知見した。
本発明の屋根の差し込み固定カバー構造およびその工法はかかる知見に基づきなされたもので、本発明の差し込み固定カバー構造は、既設のスレート屋根の上下に重なる既設の屋根材の隙間に屋根材を差し込んで既設の前記屋根材をカバーする屋根の差し込み固定カバー構造であって、前記屋根材は、板状本体の平坦な棟側の一端を差し込み部とし、前記差し込み部に対向する軒先側の他端を屹立片と折り返し片を連接させて断面コ字状の取り付け部とし、前記差し込み部は、下側の前記既設の屋根材とその上側の前記既設の屋根材との隙間に差し込まれて前記下側の既設の屋根材の上面をカバーするとともに、前記取り付け部の前記折り返し片を前記下側の既設の屋根材とさらにその下側の前記既設の屋根材との隙間に差し込まれて固定され、前記下側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記差し込み部の端部は、前記上側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記折り返し片の端部よりも棟側に位置することを特徴とする。
また、本発明の差し込み固定カバー工法は、既設のスレート屋根の上下に重なる既設の屋根材の隙間に屋根材を差し込んで既設の前記屋根材をカバーする屋根の差し込み固定カバー工法であって、前記屋根材として、板状本体の平坦な棟側の一端を差し込み部とし、前記差し込み部に対向する軒先側の他端を屹立片と折り返し片を連接させて断面コ字状の取り付け部とした屋根材を用い、前記差し込み部を下側の前記既設の屋根材とその上側の前記既設の屋根材との隙間に差し込んで前記下側の既設の屋根材の上面をカバーするとともに、前記取り付け部の前記折り返し片を前記下側の既設の屋根材とさらにその下側の前記既設の屋根材との隙間に差し込んで固定し、前記下側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記差し込み部の端部は、前記上側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記折り返し片の端部よりも棟側に位置することを特徴とする。」

「【0008】
図1は差し込み屋根材1の一実施形態の斜視図を示したもので、カラー鉄板からなる長方形状の板状本体2の一端側を差し込み部3とし、該差し込み部3に対向する他端側に屹立片4と折り返し片5を連接させて断面コ字状の取り付け部6を形成するようにしたものである。本実施形態では、板状本体2の長辺が907mm、短辺が230mm、屹立片4の高さが6mm、折り返し辺5の幅が30mmに加工されている。
【0009】
図2は差し込み屋根材の他の実施形態の端面図を示したもので、本実施形態のものでは、折り返し片5を板状本体2から離れる方向に開拡させており、屹立片4と折り返し辺5(当審注:「折り返し片5」の誤記と認める。以下同じ。)の折り曲げ角度は95度に加工されている。
このように、前記差し込み屋根材1の取り付け部6の折り返し片5を前記板状本体2から離れる方向に開拡させれば、既設の屋根材の隙間に差し込んだ際に板バネの如く弾発力が働き既設の屋根材に強固に密着し、外れにくくなる。」

「【0011】
図4は、差し込み固定カバー工法の施工状態を示したものである。既設のスレート屋根の屋根材10を高圧洗浄した後にシリコン等の貼着剤を塗布し、差し込み屋根材1の差し込み部3を既設の屋根材10とその上側に重なる屋根材10との隙間に差し込み、さらに、前記既設の屋根材10の下側に重なる屋根材10との隙間に差し込み屋根材1の折り返し片5を差し込み固定する。このような差し込み作業を既設の屋根材10に対して繰り返し、全ての既設の屋根材10を差し込み屋根材1でカバーすることで、差し込み固定カバー工法が施工される。差し込み屋根材1は、取り付け部6を断面をコ字状にしているため、上下に重なる屋根材の隙間から毛細管現象により雨水が引き込まれても、折り返し辺の先端で水が止まり、奥まで雨水が侵入することを防止できる。」

「【図2】



「【図4】



(2)甲2について
甲2には以下の記載がある。

「【0005】
本発明者はかかる課題を解決するべく、既設の屋根材の上下に重なる屋根材の隙間を利用して、この隙間に新たな屋根材を差し込み、固定することにより、簡単に既設の屋根材の上面に新たな屋根材をカバーして補修できることを知見した。
本発明の屋根の差し込み固定カバー工法並びにそれに用いる差し込み屋根材はかかる知見に基づきなされたもので、本発明の屋根材は請求項1に記載の通り、板状本体の一端を差し込み部とし、前記差し込み部に対向する他端に屹立片と折り返し片を連接させて断面コ字状の取り付け部を形成したことを特徴とする。
また、請求項2の屋根材は、請求項1記載の屋根材であって、前記板状本体は金属板からなることを特徴とする。
また、請求項3の屋根材は、請求項1または2に記載の屋根材であって、前記取り付け部の折り返し片を前記板状本体から離れる方向に開拡させたことを特徴とする。
また、請求項4の屋根材は、請求項1乃至3の何れか1項に記載の屋根材であって、前記取り付け部の屹立片に水抜け孔を形成したことを特徴とする。
また、本発明の屋根の差し込み固定カバー工法は請求項5に記載の通り、既設のスレート屋根の上下に重なる屋根材の隙間に屋根材を差し込んで既設の屋根材をカバーするものであって、前記屋根材として、板状本体の一端を差し込み部とし、前記差し込み部に対向する他端に屹立片と折り返し片を連接させて断面コ字状の取り付け部を形成した屋根材を用い、前記差し込み部を既設の屋根材とその上側の屋根材との隙間に差し込んで既設の屋根材の上面をカバーするとともに、前記取り付け部の折り返し片を前記既設の屋根材とさらにその下側の既設の屋根材との隙間に差し込んで固定することを特徴とする。
また、請求項6の屋根の差し込み固定カバー工法は、請求項5に記載の差し込み固定カバー工法であって、前記屋根材を既設の屋根材に貼着剤で貼り付け固定することを特徴とする。」

「【0008】
図1は本発明の差し込み屋根材1の一実施形態の斜視図を示したもので、カラー鉄板からなる長方形状の板状本体2の一端側を差し込み部3とし、該差し込み部3に対向する他端側に屹立片4と折り返し片5を連接させて断面コ字状の取り付け部6を形成するようにしたものである。本実施形態では、板状本体2の長辺が907mm、短辺が230mm、屹立片4の高さが6mm、折り返し辺5の幅が30mmに加工されている。
【0009】
図2は本発明の差し込み屋根材の他の実施形態の端面図を示したもので、本実施形態のものでは、折り返し片5を板状本体2から離れる方向に開拡させており、屹立片4と折り返し辺5の折り曲げ角度は95度に加工されている。
このように、前記差し込み屋根材1の取り付け部6の折り返し片5を前記板状本体2から離れる方向に開拡させれば、既設の屋根材の隙間に差し込んだ際に板バネの如く弾発力が働き既設の屋根材に強固に密着し、外れにくくなる。」

「【0011】
図4は、本発明の差し込み固定カバー工法の施工状態を示したものである。既設のスレート屋根の屋根材10を高圧洗浄した後にシリコン等の貼着剤を塗布し、本発明の差し込み屋根材1の差し込み部3を既設の屋根材10とその上側に重なる屋根材10との隙間に差し込み、さらに、前記既設の屋根材10の下側に重なる屋根材10との隙間に本発明の差し込み屋根材1の折り返し片5を差し込み固定する。このような差し込み作業を既設の屋根材10に対して繰り返し、全ての既設の屋根材10を本発明の差し込み屋根材1でカバーすることで、本発明の差し込み固定カバー工法が施工される。本発明の差し込み屋根材1は、取り付け部6を断面をコ字状にしているため、上下に重なる屋根材の隙間から毛細管現象により雨水が引き込まれても、折り返し辺の先端で水が止まり、奥まで雨水が侵入することを防止できる。」

「【図2】



「【図4】



(3) 甲3について
甲3には以下の記載がある(下線は原文のまま。)。

「【手続補正1】
【補正対象書類名】 特許請求の範囲
【補正対象項目名】 全文
【補正方法】 変更
【補正の内容】
【書類名】特許請求の範囲
【請求項1】
既設のスレート屋根の上下に重なる既設の屋根材の隙間に屋根材を差し込んで既設の前記屋根材をカバーする屋根の差し込み固定カバー構造であって、
前記屋根材は、板状本体の平坦な棟側の一端を差し込み部とし、前記差し込み部に対向する軒先側の他端を屹立片と折り返し片を連接させて断面コ字状の取り付け部とし、
前記差し込み部は、下側の前記既設の屋根材とその上側の前記既設の屋根材との隙間に差し込まれて前記下側の既設の屋根材の上面をカバーするとともに、前記取り付け部の前記折り返し片を前記下側の既設の屋根材とさらにその下側の前記既設の屋根材との隙間に差し込まれて固定され、
前記下側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記差し込み部の端部は、前記上側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記折り返し片の端部よりも棟側に位置することを特徴とする屋根の差し込み固定カバー構造。
【請求項2】
前記折り返し片は、平坦であり、前記板状本体から離れる方向に開拡し、
前記下側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記差し込み部は、前記上側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記折り返し片の弾発力により、前記下側の既設の屋根材側に押される、ことを特徴とする請求項1に記載の差し込み固定カバー構造。
【請求項3】
前記屋根材は、前記既設の屋根材に貼着剤で貼り付け固定されることを特徴とする請求項1または2に記載の差し込み固定カバー構造。
【請求項4】
既設のスレート屋根の上下に重なる既設の屋根材の隙間に屋根材を差し込んで既設の前記屋根材をカバーする屋根の差し込み固定カバー工法であって、
前記屋根材として、板状本体の平坦な棟側の一端を差し込み部とし、前記差し込み部に対向する軒先側の他端を屹立片と折り返し片を連接させて断面コ字状の取り付け部とした屋根材を用い、
前記差し込み部を下側の前記既設の屋根材とその上側の前記既設の屋根材との隙間に差し込んで前記下側の既設の屋根材の上面をカバーするとともに、前記取り付け部の前記折り返し片を前記下側の既設の屋根材とさらにその下側の前記既設の屋根材との隙間に差し込んで固定し、
前記下側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記差し込み部の端部は、前記上側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記折り返し片の端部よりも棟側に位置することを特徴とする屋根の差し込み固定カバー工法。
【請求項5】
前記屋根材は、棟側から軒先側の方向に葺かれる、請求項4に記載の差し込み固定カバー工法。」

(4) 甲4について
ア 甲4の記載
甲4には以下の記載がある。

「【請求項1】
屋根の野地板上に軒側から棟側に階段状に重ねられた平板スレート瓦に改修用金属屋根材を被せて改修する平板スレート瓦改修用金属屋根材であって、
略U字状をなし上板部が被せるべき平板スレート瓦に固定され、係止部が形成された下板部が下側の平板スレート瓦との間に挿入される固定部材と、
平板をなし前記被せるべき平板スレート瓦を覆い、上端部が上側に折り返されて上側の平板スレート瓦との間に挿入され、下端部が下側に略角形U字状に折曲されて前記被せるべき平板スレート瓦の前端部を覆い、下板部が下側の平板スレート瓦との間に挿入されかつ前記固定部材の係止部に係止される係止部が形成された改修用金属屋根材とを備えたことを特徴とする平板スレート瓦改修用金属屋根材。」

「【0028】
図1は、2点鎖線で示すように平板スレート瓦1が軒側(下)から棟側(上)に階段状をなして順次重ねられた屋根の一部を示す平面図で、改修用金属屋根材(以下単に「金属屋根材」という)2は、既存の平板スレート瓦1に被せられかつこの平板スレート瓦1と金属屋根材2との間に所定の間隔を存して介在され当該平板スレート瓦1と共に野地板に固定される固定部材5により固定される。尚、以後上記各構成部材において水上側(棟側)を上端或いは上端部、水下側(軒側)を下端或いは下端部として説明する。
【0029】
金属屋根材2は、平板状をなし、例えば、横の長さ(横幅)が平板スレート瓦1の横幅の略2倍(2枚分)よりも僅かに長く、縦の長さ(縦幅)が平板スレート瓦1の働き幅よりも広い横方向に細長い長方形状とされている。金属屋根材2は、図2に示すように平板部2aの上端部2bが全幅に亘り上側に側面から見て僅かに開きぎみの略U字状に折り返され、下端部2cが全幅に亘り側面から見て下側に略角形U字状に折曲されている。
【0030】
上端部2bの上面2dは、被せるべき平板スレート瓦1の上側の平板スレート瓦1の下面に弾性的に当接しその端面2eが下面に食い込むようになっている。また、この端面2eは、後述する固定部材5の係止部としての係止爪7と係合可能とされて係止部としての機能も有している。
【0031】
略角形U字状をなす下端部2cは、中央部(前板部)2fが平板スレート瓦1の板厚よりも高く形成され、下板部2gの上端部(端末)2hが内側に略U字状に折り返されている。下板部2gは、被せるべき平板スレート瓦1の先端部と下側の平板スレート瓦1との隙間に挿入可能とされ、上面2iが被せるべき平板スレート瓦1の下面に当接又は僅かな隙間を存して対向可能とされ、その端面2jが固定部材5の係止爪6と係合する係止部としての機能を有している。」

「【0040】
以下に金属屋根材2により既存の平板スレート瓦の屋根を改修する手順について説明する。先ず、屋根の図示しない棟カバー及び最上段の平板スレート瓦を野地板に固定している笠木(押さえ板)を取り外す。次に、最上段の平板スレート瓦に当該屋根の横方向に所定の間隔で固定部材5を配置して固定する。平板スレート瓦葺き屋根は、図1に示すように平板スレート瓦1が屋根の横(幅)方向に並設されて左右の隣り合う平板スレート瓦1の端面同士が突き合わされて配置されている。そこで、固定部材5を、図1に示す左右に隣り合う平板スレート瓦1の例えば突き合わせ位置に配置する。
【0041】
そして、図7に示すように棟側から1段目(最上段)の平板スレート瓦1−1の前端部に固定部材5−1を装着し、平板スレート瓦1−1の上面に上板部5aを当接させ、下板部5bをこの平板スレート瓦1−1と下側の2段目の平板スレート瓦1−2との隙間に中央部5cの下部5dが当たるまで挿入する。下板部5bは、平板スレート瓦1−2の下面に当接する。尚、図7において平板スレート瓦1と固定部材5のハッチングは図面の煩雑を避けるために省略してある。
・・・
【0044】
次に、1段目の平板スレート瓦1−1に金属屋根材2−1を被せて下板部2gを平板スレート瓦1−1と固定部材5−1の下板部5bの下側及び平板スレート瓦1−2との隙間S−1に挿入する。下板部2gは、固定部材5−1の中央部5cの下部5dが後方に傾斜面をなしていることで金属屋根材2−1の下板部2gが挿入し易くなる。
【0045】
また、下板部2gのU字状に折り返された上端部2hは、係止爪6の下面6aが内側に僅かに凹面をなしていることで摺動しながら容易に乗り越えることが可能となり、下板部2gが挿入し易くなる。そして、下板部2gのU字状に折り返された上端部2hの上面2iが平板スレート瓦1−1の下面に当接し、端面2jが固定部材5−1の係止爪6の両端面6c(図6参照)に係止される。これにより、金属屋根材2−1の下端部2cが固定部材5−1に係止される。
・・・
【0047】
次に、2段目の平板スレート瓦1−2に上述と同様にして固定部材5−2を固定し、下側の3段目の平板スレート瓦1−3との間に隙間S−2を形成する。そして、この平板スレート瓦1−2に金属屋根材2−2を被せて上端部2bを前記隙間S−1に挿入し、下板部2gを隙間S−2に挿入する。上端部2bは、上面2dが固定部材5−1の下板部5b及び平板スレート瓦1−1の裏面に当接する。上面2dの端面2eは、係止爪7よりも奥まで挿入されて係止爪7と僅かな間隔を存して対向している。
【0048】
また、下板部2gのU字状に折り返された上端部2hの上面2iが固定部材5−2の下板部5b及び平板スレート瓦1−1の下面に当接し、端面2jが固定部材5−2の係止爪6の両端面6cに係止される。これにより、金属屋根材2−2が2段目の平板スレート瓦1−2に被されて固定部材5−2に係止される。このようにして、棟側(上)から軒側(下)に3段目、4段目と順次既存の平板スレート瓦に金属屋根材2を被せて改修する。」

「【0052】
そして、棟側から軒側に向けて葺き作業を行うことで新しく葺いた金属屋根材2の上に乗って施工することがなくなり、傷付けや汚れを最小限に抑えることができる。また、新しく葺いた金属屋根材の仕上げ面の歩行を最小限に抑えることが可能であり、汚れ及び傷防止ができると共に施工途中での雨が降ってきても何ら問題が無く養生が容易である。更に、作業者の施工体勢に無理がなく、疲労度を軽減することができる。」

「【図2】



「【図7】



イ 認定事項
(ア) 【0028】には、「以後上記各構成部材において水上側(棟側)を上端或いは上端部、水下側(軒側)を下端或いは下端部として説明する」と、【0029】には、「平板部2aの・・・下端部2cが全幅に亘り側面から見て下側に略角形U字状に折曲されている」と、それぞれ記載されている。
また、図2から、平板部2aの下端部2cは、平板部2aの軒側の端部から中央部(前板部)2fが形成され、中央部(前板部)2fの平板部2a側ではない端部から、下板部2gが形成され、下板部2gは平板部2aの下方に位置していることが見て取れる。
以上のことから、甲4には、「平板部2aの下端部2cは、平板部2aの軒側の端部が折曲されて中央部(前板部)2fが形成され、中央部(前板部)2fの平板部2a側ではない端部が折曲されて下板部2gが形成され、下板部2gは、平板部2aの下方に位置している」ことが記載されていると認められる(以下「認定事項ア」という。)

(イ) 図7から、軒側の平板スレート瓦1−3に被せられた金属屋根材2の上端部2bが、棟側の平板スレート瓦1−2に被せられた金属屋根材2の下板部2gの上端部(端末)2hよりも棟側に位置することが見て取れ、軒側の平板スレート瓦1−2と棟側の平板スレート瓦1−1についても同様の関係となっているから、「軒側の平板スレート瓦1−2に被せられた金属屋根材2の上端部2bが、棟側の平板スレート瓦1−1に被せられた金属屋根材2の下板部2gの上端部(端末)2hよりも棟側に位置すること」が見て取れる(以下「認定事項イ」という。)。

ウ 甲4に記載された発明
上記ア及びイから、甲4には、以下の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。

「屋根の野地板上に軒側から棟側に階段状に重ねられた平板スレート瓦に改修用金属屋根材を被せて改修する平板スレート瓦改修用金属屋根材である(請求項1)金属屋根材2は、平板状をなし、平板部2aの棟側の上端部2bが全幅に亘り上側に側面から見て僅かに開きぎみの略U字状に折り返され、軒側の下端部2cが全幅に亘り側面から見て下側に略角形U字状に折曲されており(【0028】、【0029】)、
上端部2bの上面2dは、被せるべき平板スレート瓦1の上側の平板スレート瓦1の下面に弾性的に当接しその端面2eが下面に食い込むようになっており、この端面2eは、固定部材5の係止部としての係止爪7と係合可能とされて係止部としての機能も有し(【0030】)、
略角形U字状をなす下端部2cは、平板部2aの軒側の端部が折曲されて中央部(前板部)2fが形成され、中央部(前板部)2fの平板部2a側ではない端部が折曲されて下板部2gが形成され、下板部2gは、平板部2aの下方に位置しており、中央部(前板部)2fが平板スレート瓦1の板厚よりも高く形成され、下板部2gの上端部(端末)2hが内側に略U字状に折り返され、下板部2gは、被せるべき平板スレート瓦1の先端部と下側の平板スレート瓦1との隙間に挿入可能とされ、上面2iが被せるべき平板スレート瓦1の下面に当接又は僅かな隙間を存して対向可能とされ、その端面2jが固定部材5の係止爪6と係合する係止部としての機能を有するものであり(認定事項ア、【0031】)、
金属屋根材2により既存の平板スレート瓦の屋根を改修する手順は(【0040】)、
棟側から1段目(最上段)の平板スレート瓦1−1の前端部に固定部材5−1を装着し(【0041】)、
次に、1段目の平板スレート瓦1−1に金属屋根材2−1を被せて下板部2gを平板スレート瓦1−1と固定部材5−1の下板部5bの下側及び平板スレート瓦1−2との隙間S−1に挿入し(【0044】)、
そして、下板部2gのU字状に折り返された上端部2hの上面2iが平板スレート瓦1−1の下面に当接し、端面2jが固定部材5−1の係止爪6の両端面6cに係止され、これにより、金属屋根材2−1の下端部2cが固定部材5−1に係止され(【0045】)、
次に、2段目の平板スレート瓦1−2に上述と同様にして固定部材5−2を固定し、下側の3段目の平板スレート瓦1−3との間に隙間S−2を形成し、そして、この平板スレート瓦1−2に金属屋根材2−2を被せて上端部2bを前記隙間S−1に挿入し、下板部2gを隙間S−2に挿入し、上端部2bは、上面2dが固定部材5−1の下板部5b及び平板スレート瓦1−1の裏面に当接し(【0047】)、
軒側の平板スレート瓦1−2に被せられた金属屋根材2の上端部2bは、棟側の平板スレート瓦1−1に被せられた金属屋根材2の下板部2gの上端部(端末)2hよりも棟側に位置するものであり(認定事項イ)、
下板部2gのU字状に折り返された上端部2hの上面2iが固定部材5−2の下板部5b及び平板スレート瓦1−1の下面に当接し、端面2jが固定部材5−2の係止爪6の両端面6cに係止され、これにより、金属屋根材2−2が2段目の平板スレート瓦1−2に被されて固定部材5−2に係止され、このようにして、棟側(上)から軒側(下)に3段目、4段目と順次既存の平板スレート瓦に金属屋根材2を被せて改修し(【0048】)、
棟側から軒側に向けて葺き作業を行うことで新しく葺いた金属屋根材2の上に乗って施工することがない(【0052】)、
金属屋根材2により既存の平板スレート瓦の屋根を改修する(【0040】)方法。」

(5) 甲5について
甲5には以下の記載がある。

「【図1】



「【図3】



(6) 甲6について
ア 甲6の記載
甲6には以下の記載がある。

「【請求項1】屋根の勾配方向に沿って連設され、かつ、勾配方向下側に配置された屋根材の上端部の上に、勾配方向上側に配置された屋根材の下端部が順次重ねられて設置される複数の屋根材の表面に設けられる改装用屋根材であって、
前記屋根材の表面を覆う本体と、前記屋根材の勾配方向下側の端部を表裏から挟む挟持部と、前記屋根材およびこの屋根材の勾配方向上側に配置される屋根材の間に挟まれる被挟持部とを備えることを特徴とする改装用屋根材。」

「【0003】
【発明が解決しようとする課題】このような改装用屋根材では、他端を他の改装用屋根材に係合して取り付けなければならないので、改装用屋根材の取付作業が煩雑になるという問題がある。特に、一文字葺きのように、複数の屋根材が勾配方向に位置をずらして配置されている場合、各改装用屋根材は、その勾配方向上側が他の2枚の改装用屋根材に隣接するので、この他の2枚の改装用屋根材に係合させなければならず、この点からも、改装用屋根材の取付作業が煩雑になるという問題がある。」

「【0019】このような、リフォーム屋根材30は、図4に示すように、スレート屋根材20の下側から、このスレート屋根材20を嵌め込むようにして、スレート屋根材20に取り付けられている。すなわち、まず、スレート屋根材20の下部を挟持部32に収納するとともに、このスレート屋根材20の上端と、このスレート屋根材20の上側に配置されるスレート屋根材20の下端との間に被挟持部33を差し込んだ後、釘35を釘穴32D(図3参照)を通して、スレート屋根材20や野地板41に打ち込んで、リフォーム屋根材30をスレート屋根材20に固定する。そして、このような作業を、勾配方向Bの下端側のスレート屋根材20から、傾斜面11、12の上側に向かって順次行っていく。さらに、下棟14にも改装用の棟包50を、既存の棟包44を覆うように取り付けるとともに、図示しない棟13にも必要に応じて改装用の棟包を被覆して、寄棟屋根1の改装作業を終了する。なお、図5に示すように、被挟持部33から露出する釘35の頭部は、上部に設けられるリフォーム屋根材30の挟持部32によって覆われてしまうので、外側からは視認されないようになっている。」

「【0035】さらに、前記実施形態では、被挟持部33には、釘穴32Dが3カ所設けられていたが、このような釘穴32Dは実施の状況に応じて、適宜形成されることが好ましい。また、前記実施形態では、リフォーム屋根材30は、釘35で固定されていたが、これに限らず、接着剤や差込みのみで固定されていてもよい。」

「【図2】



「【図3】



「【図4】



「【図5】



イ 甲6に記載された技術事項
上記アから、甲6には、以下の技術事項が記載されていると認められる(以下「甲6記載の技術事項」という。)。

「改装用屋根材の取付作業が煩雑になるという課題を解決するために(【0003】)、
屋根の勾配方向に沿って連設され、かつ、勾配方向下側に配置された屋根材の上端部の上に、勾配方向上側に配置された屋根材の下端部が順次重ねられて設置される複数の屋根材の表面に設けられる改装用屋根材であって、
前記屋根材の表面を覆う本体と、前記屋根材の勾配方向下側の端部を表裏から挟む挟持部と、前記屋根材およびこの屋根材の勾配方向上側に配置される屋根材の間に挟まれる被挟持部とを備える改装用屋根材(【請求項1】)であり、
リフォーム屋根材30は、スレート屋根材20の下側から、このスレート屋根材20を嵌め込むようにして、スレート屋根材20に取り付けられ、すなわち、まず、スレート屋根材20の下部を挟持部32に収納するとともに、このスレート屋根材20の上端と、このスレート屋根材20の上側に配置されるスレート屋根材20の下端との間に被挟持部33を差し込んだ後、釘35を釘穴32Dを通して、スレート屋根材20や野地板41に打ち込んで、リフォーム屋根材30をスレート屋根材20に固定し、このような作業を、勾配方向Bの下端側のスレート屋根材20から、傾斜面11、12の上側に向かって順次行っていくものであり(【0019】、図2〜図5)、
リフォーム屋根材30は、釘35で固定されていたが、これに限らず、接着剤や差込みのみで固定されていてもよい(【0035】)改装用屋根材(【請求項1】)。」

(7) 甲7について
ア 甲7の記載
甲7には以下の記載がある。

「【請求項1】
平板状の屋根材が勾配方向に沿って連設され、当該勾配方向に隣り合う前記屋根材同士が互いに一部重なり合わされて配置される屋根構造において、前記屋根材に取り付けられて屋根を改装する改装用屋根材であって、
前記屋根材の上面に対向し、前記屋根材に対向する面と反対側の面に薄膜太陽電池が設けられている表面板部と、
前記表面板部の先端部が折り曲げられて形成され、前記屋根材の勾配方向下端面に対向する前面板部と、
前記前面板部の先端部が前記表面板部側に折り曲げられて形成され、前記表面板部との間に前記屋根材を挟持する裏面板部と、を備えることを特徴とする改装用屋根材。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来技術によれば、既設の屋根材の強度や屋根構造によっては、太陽電池及び架台の重量負荷に耐えられない場合があり、また、釘やネジ等を使用して各種支持部材を固定することによって屋根構造の防水層に傷が付き、屋根の防水性を損なう場合がある。」

「【0030】
このように構成される改装用屋根材1は、図2及び図3に示されるように既設の屋根材12に対して取り付けられる。
既設の屋根材12は、勾配方向において互いに一部重なり合わされて配置されており、各屋根材12は勾配方向上端部が野地板13に固定されて設けられている。したがって、各屋根材12の勾配方向下端部は、勾配方向上端部を支点として上下方向に移動可能となっている。
改装用屋根材1を、対象の屋根材12に取り付ける際には、対象の屋根材12の勾配方向上方側に隣接する屋根材12の勾配方向下端部を持ち上げた状態で、対象の屋根材12に対して取り付け作業を行う。即ち、上方側に隣接する屋根材12を持ち上げた状態で、改装用屋根材1を対象の屋根材12の勾配方向下端部側に配置し、勾配方向に沿って下方から上方へ押し上げる。これによって、屋根材12の勾配方向下端部が改装用屋根材1の屈曲部5に当接する。当該屋根材12の勾配方向下端部が屈曲部5に当接した状態で、改装用屋根材1が押し上げられるので、裏面板部4が弾性変形して、裏面板部4及び屈曲部5が表面板部2から離間する方向に移動する。更に改装用屋根材1が上方へ押し上げられることで、屋根材12の勾配方向下端部が改装用屋根材1の凹部8内に完全に収容される。対象の屋根材12が凹部8内に完全に収容されると、水抜き孔7を介して屋根材12の勾配方向下端部が目視により確認されるので、その時点で改装用屋根材1の押し上げを停止する。このようにして、改装用屋根材1は対象の屋根材12に嵌め込まれて取り付けられ、弾性変形した裏面板部4が復元しようとする力によって、表面板部2と裏面板部4との間に屋根材12が挟持され、改装用屋根材1が屋根材12に対して固定される。
更に、改装用屋根材1の取り付け開始時に持ち上げておいた、上方側に隣接する屋根材12を元の位置に戻すことで、改装用屋根材1の表面板部2の一部及び対象の屋根材12の上面12aの一部に、上方に隣接する屋根材12が重なる。これにより、上方に隣接する屋根材12の重量によって改装用屋根材1の表面板部2が押さえられ、改装用屋根材1を対象の屋根材12に対してより強く固定することができる。」

「【0039】
改装用屋根材21の取り付け及び固定作業は、以下に説明するようにして行う。
即ち、取り付け対象の屋根材12の勾配方向上方側に隣接する屋根材12の勾配方向下端部を持ち上げた状態で、改装用屋根材21を対象の屋根材12の勾配方向下端部側に配置する。そして、勾配方向に沿って金槌等で改装用屋根材21の前面板部23を叩くなどして対象の屋根材12を改装用屋根材21の凹部に収容していくと、図8(a)に示すように、屋根材12の端面12bが、表面板部22及び前面板部23の折り曲げ部25と、前面板部23及び裏面板部24の折り曲げ部26とに当接した状態となる。この状態で、引き続き改装用屋根材21の前面板部23を叩いて屋根材12を奥まで押し込むと、折り曲げ部25,26が潰れ、図8(b)に示すように、改装用屋根材21が屋根材12に密着するような形に変形する。変形後の改装用屋根材21の弾性によって、改装用屋根材21が屋根材12に完全に固定される。
なお、改装用屋根材21が変形されることによって、裏面板部24の先端部が、屋根材12から離間する形状となるが(図8(b)参照)、当該屋根材12の上に、勾配方向上方側に隣接する屋根材12が重なることで、裏面板部24が押さえられて裏面板部24が屋根材12に密着する。」

「【図3】



「【図8】



イ 甲7に記載された技術事項
上記アから、甲7には、以下の技術事項が記載されていると認められる(以下「甲7記載の技術事項」という。)。

「釘やネジ等を使用して各種支持部材を固定することによって屋根構造の防水層に傷が付き、屋根の防水性を損なうという課題を解決するために(【0005】)、
平板状の屋根材が勾配方向に沿って連設され、当該勾配方向に隣り合う前記屋根材同士が互いに一部重なり合わされて配置される屋根構造において、前記屋根材に取り付けられて屋根を改装する改装用屋根材であって、
前記屋根材の上面に対向し、前記屋根材に対向する面と反対側の面に薄膜太陽電池が設けられている表面板部と、
前記表面板部の先端部が折り曲げられて形成され、前記屋根材の勾配方向下端面に対向する前面板部と、
前記前面板部の先端部が前記表面板部側に折り曲げられて形成され、前記表面板部との間に前記屋根材を挟持する裏面板部と、を備える改装用屋根材であって(【請求項1】)、
取り付け対象の屋根材12の勾配方向上方側に隣接する屋根材12の勾配方向下端部を持ち上げた状態で、改装用屋根材21を対象の屋根材12の勾配方向下端部側に配置し、そして、勾配方向に沿って金槌等で改装用屋根材21の前面板部23を叩くなどして対象の屋根材12を改装用屋根材21の凹部に収容していくと、屋根材12の端面12bが、表面板部22及び前面板部23の折り曲げ部25と、前面板部23及び裏面板部24の折り曲げ部26とに当接した状態となり、この状態で、引き続き改装用屋根材21の前面板部23を叩いて屋根材12を奥まで押し込むと、折り曲げ部25,26が潰れ、改装用屋根材21が屋根材12に密着するような形に変形し、変形後の改装用屋根材21の弾性によって、改装用屋根材21が屋根材12に完全に固定されるものであり、
改装用屋根材21が変形されることによって、裏面板部24の先端部が、屋根材12から離間する形状となるが、当該屋根材12の上に、勾配方向上方側に隣接する屋根材12が重なることで、裏面板部24が押さえられて裏面板部24が屋根材12に密着する(【0039】、図8)改装用屋根材(【請求項1】)。」

(8) 甲8について
甲8には以下の記載がある。

「【0029】
図2に戻り固定部材13は、帯状の鋼板を側面から見て略角形U字状に折曲して形成されており、中央部13aが図6に示すように平板スレート瓦2の水下側端部に外装され、上板部13bが既存の平板スレート瓦2と共に野地板1に固定される。下板部13cは、中央部13aと僅かに鈍角をなして延出されており、既存の上下の平板スレート瓦の隙間に挿入されて下側の平板スレート瓦に被された金属屋根材11のV字状をなす水上側端部11bに挿入される。この固定部材13は、所謂吊子と称されており、既存の平板スレート瓦と改修用の金属屋根材11との間に介在されて当該金属屋根板11がずれ落ちることを防止するためのものである。」

「【0041】
水下側端部11cの波形をなす下板部11f及び端末11gは、1段目の平板スレート瓦2−1に被せた金属屋根材11と固定部材13の下板部13cとに弾性状態で当接することで液密性が保持され、隙間Sへの雨水の浸入が防止される。更にV字状をなす水上側端部11bが平板スレート瓦2−3の裏面に弾性状態で当接し、その端末11gの角部(エッジ)11hが平板スレート瓦2−3の裏面に食い込むことで隙間Sに雨水が浸入した場合でも水上側端部11bにより阻止(水返し)されて当該水上側端部11bの上方への浸入が防止される。これにより、既存の平板スレート瓦2と野地板1との間に雨水が浸入することが完全に防止される。」

「【図2】



(9) 甲9について
甲9には以下の記載がある。






第4 当審の判断
1 申立理由1(本件出願の分割不適に依拠した、新規性欠如)について
(1) 申立人の具体的主張
申立人は申立理由1について、概略次の主張をしている(下線は申立書において申立人が付与。以下同じ。)。
「本件特許である第2分割出願の出願当初の請求項2、5に記載された「前記折り返し片は、前記既設のスレート屋根材に固定される前の無負荷状態で、前記板状本体から離れる方向に開拡」は原出願(第1分割出願)に対して新たな技術的事項を導入するものであるから分割要件を満足しないために、本件特許である第2分割出願は原出願の時にしたものとみなされず現実の出願日である令和4年4月11日が出願日であって、第1分割出願の公開特許公報(令和2年5月2l日発行:【甲第1号証】特開2020−076317号公報)を引用して新規性を備えない。」(「申立書2頁第1表(理由の要約:まとめ))、「理由1」、「要点」)

(2) 上記主張についての判断
ア 本件出願の分割適否についての判断
(ア) 「折り返し片」が「無負荷状態」で「開拡」する構成について
申立人が上記申立理由1において言及する、本件特許である第2分割出願の出願当初の請求項2、5に記載された「前記折り返し片は、前記既設のスレート屋根材に固定される前の無負荷状態で、前記板状本体から離れる方向に開拡」する構成に関し、同請求項2、5が引用する請求項1には、「前記新規の屋根材は」、「前記軒先側の端部から屹立する屹立片と、前記屹立片から折り返された平坦な折り返し片と、を有する断面コ字状の取り付け部と、を有し」と記載されている。
これらの記載より、上記請求項2及び5において特定される、「折り返し片」が「無負荷状態」で「開拡」する構成は、「新規の屋根材」が備える「断面コ字状の取り付け部」が有する「屹立片から折り返された」「折り返し片」について、「既設のスレート屋根材に固定される前」の状態である「無負荷状態」で、「板状本体から離れる方向に開拡」している構成である。
なお、当該「折り返し片」が「無負荷状態」で「開拡」する構成は、本件発明1において構成E、構成E3及び構成Gより特定される構成と、同様である。

(イ) 第1分割出願の願書に最初に添付された明細書等に記載されていたか
第1分割出願は、その公開特許公報が発行される前に補正がなされていないことから、第1分割出願の公開特許公報である甲1は、実質的に第1分割出願の願書に最初に添付された明細書及び図面(以下「当初明細書等」という。)が掲載されているものと認められる。
甲1の【0009】には、「図2は差し込み屋根材の他の実施形態の端面図を示したもので、本実施形態のものでは、折り返し片5を板状本体2から離れる方向に開拡させており、屹立片4と折り返し辺5の折り曲げ角度は95度に加工されている。このように、前記差し込み屋根材1の取り付け部6の折り返し片5を前記板状本体2から離れる方向に開拡させれば、既設の屋根材の隙間に差し込んだ際に板バネの如く弾発力が働き既設の屋根材に強固に密着し、外れにくくなる。」と記載されている。
また、甲1の図4に示される、「差し込みカバー工法の施工状態」(【0011】)において、既設のスレート屋根材10に固定した新規の差し込み屋根材1の折り返し片5が、屹立片4から略90度の角度となって、板状本体に対して略平行となっているのに対し、図2に示される既設のスレート屋根材10に固定される前の状態の差し込み屋根材1、すなわち折り返し片5に何ら負荷のかかっていない「無負荷状態」の差し込み屋根材1では、上記【0009】に記載されるとおり、「折り返し片5」は、「屹立片4」に対する角度が「95度に加工」されており、「板状本体2から離れる方向に開拡」されていることが、見て取れる。
以上のことから、甲1、すなわち第1分割出願の当初明細書等には、上記(ア)の「折り返し片」が「無負荷状態」で「開拡」する構成が記載されているといえる。

(ウ) 本件出願(第2分割出願)の分割の適否
上記(イ)のとおり、本件出願(第2分割出願)は、上記(ア)の構成について、原出願(第1分割出願)の当初明細書等に記載されたすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
また、第1分割出願に対する原出願である当初出願は、その公開特許公報が発行される前に補正がなされていないことから、当初出願の公開特許公報である甲2には、実質的に当初出願の当初明細書等が掲載されているものと認められるところ、甲2の【0009】、【0011】、【図2】及び【図4】には、上記(イ)に検討した甲1の【0009】、【0011】、【図2】及び【図4】と、同様の記載及び図示がある。
そのため、本件出願(第2分割出願)が有する、上記(ア)の構成は、当初出願の当初明細書等に記載されたすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係においても、新たな技術的事項を導入するものではない。
さらに、第1分割出願の当初出願に対する関係においても、後記2(2)に示すとおり、分割不適となる事情はない。
したがって、本件出願は、第1分割出願、及び当初出願に対する分割要件を満たすものであり、その出願日は、当初出願の出願日となる。

イ 甲1に基づく新規性欠如について
上記アのとおり、本件出願の出願日は、当初出願の出願日となるから、第1分割出願の公開特許公報である甲1は、本件出願より前に公開されたものとはならない。
したがって、甲1に基づいて本件発明1が新規性を備えない旨をいう申立人の申立理由1は、採用できない。

(3) 申立理由1についての結論
以上のとおりであるから、申立理由1はその理由がない。

2 申立理由2(第1分割出願の分割不適に依拠した、進歩性欠如)について
(1) 申立人の具体的主張
申立人は申立理由2について、概略次の主張をしている。
「第1分割出願の出願当初の請求項2に記載された「前記下側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記差し込み部は、前記上側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記折り返し片の弾発力により、前記下側の既設の屋根材側に押される」、及び、請求項1、2、4、段落[0005]に記載された「平坦」は、原出願(当初出願)に対して新たな技術的事項を導入するものであるから分割要件を満足しないために、第1分割出願は原出願の時にしたものとみなされず現実の出願日である令和2年2月19日が出願日であって、本件特許である第2分割出願は原出願の時にしたものであるとみなされたとしても第1分割出願の出願日は(第1分割出願の)現実の出願日である令和2年2月19日が出願日であって、当初出願の公開特許公報(平成28年9月15日発行:【甲第2号証】特開2016−166477号公報)、及び、平成30年12月17日付提出の手続補正書(【甲第3号証】)を引用して進歩性を備えない。」(「申立書2頁第1表(理由の要約:まとめ))、「理由2」、「要点」)

(2) 上記主張についての判断
ア 第1分割出願の分割適否、及び本件出願の出願日についての判断
(ア) 当初出願の当初明細書等について
当初出願は、その公開特許公報が発行される前に補正がなされていないことから、当初出願の公開特許公報である甲2は、実質的に当初出願の当初明細書等が掲載されているものと認められる。

(イ) 「前記下側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記差し込み部は、前記上側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記折り返し片の弾発力により、前記下側の既設の屋根材側に押される」構成について
甲2には、【0005】に「また、請求項3の屋根材は、請求項1または2に記載の屋根材であって、前記取り付け部の折り返し片を前記板状本体から離れる方向に開拡させたことを特徴とする。・・・また、本発明の屋根の差し込み固定カバー工法は請求項5に記載の通り、既設のスレート屋根の上下に重なる屋根材の隙間に屋根材を差し込んで既設の屋根材をカバーするものであって、前記屋根材として、板状本体の一端を差し込み部とし、前記差し込み部に対向する他端に屹立片と折り返し片を連接させて断面コ字状の取り付け部を形成した屋根材を用い、前記差し込み部を既設の屋根材とその上側の屋根材との隙間に差し込んで既設の屋根材の上面をカバーするとともに、前記取り付け部の折り返し片を前記既設の屋根材とさらにその下側の既設の屋根材との隙間に差し込んで固定することを特徴とする。」と、【0009】に「図2は本発明の差し込み屋根材の他の実施形態の端面図を示したもので、本実施形態のものでは、折り返し片5を板状本体2から離れる方向に開拡させており、屹立片4と折り返し辺5の折り曲げ角度は95度に加工されている。このように、前記差し込み屋根材1の取り付け部6の折り返し片5を前記板状本体2から離れる方向に開拡させれば、既設の屋根材の隙間に差し込んだ際に板バネの如く弾発力が働き既設の屋根材に強固に密着し、外れにくくなる。」と、【0011】に「図4は、本発明の差し込み固定カバー工法の施工状態を示したものである。・・・本発明の差し込み屋根材1の差し込み部3を既設の屋根材10とその上側に重なる屋根材10との隙間に差し込み、さらに、前記既設の屋根材10の下側に重なる屋根材10との隙間に本発明の差し込み屋根材1の折り返し片5を差し込み固定する。」と、それぞれ記載されている。
そして、甲2には、図2として、差し込み屋根材の端面図が示され、図4として、差し込み固定カバー工法の施工状態が示されているところ、図2に示されるように、「板状本体2から離れる方向に開拡」するよう「加工され」た「折り返し片5」を、図4に示されるように、「前記既設の屋根材10の下側に重なる屋根材10との隙間に」「差し込み固定」した際に、「板バネの如く弾発力が働き既設の屋根材に強固に密着し、外れにくくなる」のであるから、「弾発力」は、「折り返し片5」を「下側に重なる屋根材10」側に押す方向に働くことは明らかである。
そうすると、甲2の図4に示されるように、「前記既設の屋根材10の下側に重なる屋根材10との隙間に」「差し込み固定」された「折り返し片
5」と「下側に重なる屋根材10」との間には、「前記既設の屋根材10の下側に重なる屋根材10との隙間に」「差し込」まれた「差し込み部3」が存在するのであるから、その「差し込み部3」が、「折り返し片5」の「弾発力」により、「下側に重なる屋根材10」に押されることも明らかである。
以上のことから、甲2、すなわち当初出願の当初明細書等には、甲1、すなわち第1分割出願の公開特許公報の請求項2に記載された「前記下側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記差し込み部は、前記上側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記折り返し片の弾発力により、前記下側の既設の屋根材側に押される」ことが記載されているものであり、この点において、第1分割出願は、当初出願の当初明細書等に記載されたすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。

(ウ) 「平坦」な構成について
甲1の【請求項1】には「前記屋根材は、板状本体の平坦な棟側の一端を差し込み部とし」と、【請求項2】には「前記折り返し片は、平坦であり」と、【請求項4】には「前記屋根材として、板状本体の平坦な棟側の一端を差し込み部とし」と、【0005】には「前記屋根材は、板状本体の平坦な棟側の一端を差し込み部とし」及び「前記屋根材として、板状本体の平坦な棟側の一端を差し込み部とし」と、それぞれ記載されているから、申立人が上記(1)に申立てる第1分割出願における「平坦」な構成とは、「差し込み部」及び「折り返し片」が「平坦」という構成である。
一方、甲2には、【0008】に「・・・カラー鉄板からなる長方形状の板状本体の一端部を差し込み部3とし、・・・・折り返し片の幅が30mmに加工されている。」と記載され、【0009】に「・・・屹立片4と折り返し辺5の折り曲げ角度は95度に加工されている。」と記載されている。また、図2として、差し込み屋根材の端面図が示され、【0009】から甲2の図2において、「差し込み部」を示す符号は「3」であり、「折り返し片」を示す符号は「5」であることが把握できる。
甲2の【0008】の記載から、「差し込み部3」は、「長方形状の板状本体3の一端側」であり、図2の記載から、甲2における「差し込み部3」の形状は、「平坦」であることが見て取れる。また、【0008】及び【0009】の記載から、「折り返し片5」は、「長方形状」の部材の「幅が30mm」の部分について「折り曲げ」の「加工」がされたもので、図2の記載から、甲2における「折り返し辺5」の形状は、「平坦」であることが見て取れる。
以上のことから、甲2すなわち当初出願の当初明細書等には、甲1、すなわち第1分割出願の当初明細書等の請求項1、2、4及び【0005】に記載された「差し込み部」及び「折り返し片」が「平坦」である構成が記載されているものであり、この点において、第1分割出願は、当初出願の当初明細書等に記載されたすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。

(エ) 第1分割出願の分割適否、及び本件出願の出願日について
上記(ア)〜(ウ)のとおりであるから、第1分割出願は、申立人が上記(1)に主張する点で、当初出願の当初明細書等に記載されたすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、適切な分割出願である。
また、本件出願の第1分割出願、及び当初出願に対する分割要件についても、上記1(2)アに示したとおり、分割不適となる事情はない。
したがって、本件出願は、第1分割出願、及び当初出願に対する分割要件を満たすものであり、その出願日は、当初出願の出願日となる。

イ 甲2及び甲3に基づく進歩性欠如について
上記アのとおり、本件出願の出願日は、当初出願の出願日となるから、当初出願の公開特許公報である甲2は、本件出願より前に公開されたものとはならない。
したがって、甲2及び甲3に基づいて本件発明1が進歩性を備えない旨をいう申立人の申立理由2は、採用できない。

(3) 申立理由2についての結論
以上のとおりであるから、申立理由2はその理由がない。

3 申立理由3(甲4を主たる証拠とした、進歩性欠如)について
(1) 対比
本件発明1と甲4発明とを対比する。

ア 甲4発明の「屋根の野地板上に軒側から棟側に階段状に重ねられた平板スレート瓦」、「改修用金属屋根材」及び「金属屋根材2」、「被せ」ること、「改修する」ことは、本件発明1の「既設のスレート屋根材」、「新規の屋根材」、「カバー」すること、「補修する」ことに、それぞれ相当する。
そうすると、甲4発明の「屋根の野地板上に軒側から棟側に階段状に重ねられた平板スレート瓦に改修用金属屋根材を被せて改修する」「方法」は、本件発明1の「既設のスレート屋根材を新規の屋根材でカバーして補修するための屋根補修方法」に相当する。
よって、甲4発明は、本件発明1の特定事項A、Iを備える。

イ 甲4発明の「1段目の平板スレート瓦1−1に金属屋根材2−1を被せ」ることは、本件発明1の「前記既設のスレート屋根材を前記新規の屋根材でカバー」「する」ことに相当する。
そして、甲4発明の「金属屋根材2−1の下端部2c」は、「平板スレート瓦1−1の前端部に」「装着」された「固定部材5−1に係止され」ることから、「金属屋根材2−1」は、「平板スレート瓦1−1」に「固定」されるものである。
よって、甲4発明は、本件発明1の特定事項Cと、「前記既設のスレート屋根材を前記新規の屋根材でカバー」「し」、「固定するカバー工程」を備える点で共通する。

ウ 甲4発明の「金属屋根材2により既存の平板スレート瓦の屋根を改修する方法」における「葺き作業」と、本件発明1の「屋根補修方法」における「前記塗布工程と前記カバー工程」は、「屋根補修方法」における「工程」である点で共通する。
そして、甲4発明の「棟側から軒側に向けて葺き作業を行うことで新しく葺いた金属屋根材2の上に乗って施工することがない」ことは、本件発明1の「屋根補修方法」における「工程」を「前記新規の屋根材を葺いた補修済の屋根材上に登ることなく棟側から軒先側に向かって行う」ことに相当する。
以上のことから、甲4発明は、本件発明1の特定事項Dと、「屋根補修方法」における「工程」を「前記新規の屋根材を葺いた補修済の屋根材上に登ることなく棟側から軒先側に向かって行う工程」を備える点で共通する。

エ 上記アより、甲4発明の「金属屋根材2」は、本件発明1の「新規の屋根材」に相当する。
そして、甲4発明の「平板状」の「金属屋根材2」は、「棟側から軒側に向けて」葺かれるものであるから、「金属屋根材2」の「平板部2a」が、「棟側の端部」と「軒先側の端部」を有することは明らかである。
したがって、甲4発明の「平板部2a」は、本件発明1の「板状本体」に相当する。
よって、甲4発明は、本件発明1の特定事項E、E1を備える。

オ 甲4発明の「平板部2aの棟側の上端部2b」は、「平板スレート瓦1−1と固定部材5−1の下板部5bの下側及び平板スレート瓦1−2との隙間S−1」に「挿入」される部位、すなわち差し込まれる部位であるから、甲4発明の「上端部2b」は、本件発明1の「差し込み部」と、「前記棟側の端部に形成される」「差し込み部」である点で共通する。
よって、甲4発明は、本件発明1の特定事項E、E2と、「前記新規の屋根材は」、「前記棟側の端部に形成される」「差し込み部」を有する点で共通する。

カ 甲4発明の「全幅に亘り側面から見て下側に略角形U字状に折曲されて」いる、「平板部2aの」「軒側の下端部2c」は、「平板スレート瓦1−1の前端部に」「装着」された「固定部材5−1に係止され」るものであるから、本件発明1の「前記軒先側」の「断面コ字状の取り付け部」に相当する。
そうすると、甲4発明の「略角形U字状をなす下端部2c」の「平板部2aの軒側の端部が折曲されて」「形成され」た「中央部(前板部)2f」は、本件発明1の「前記軒先側の端部から屹立する屹立片」に相当する。
また、甲4発明の「中央部(前板部)2fの平板部2a側ではない端部が折曲されて」「形成され」た「下板部2g」は、「平板部2aの下方に位置」することから、「中央部(前板部)2fの」「端部」を折り返したものといえるから、本件発明1の「折り返し片」と、「前記屹立片から折り返された」点で共通する。
よって、甲4発明は、本件発明1の特定事項E、E3と、「前記新規の屋根材は」、「前記軒先側の端部から屹立する屹立片と、前記屹立片から折り返された」「折り返し片と、を有する断面コ字状の取り付け部と、を有」する点で共通する。

キ 甲4発明の「棟側から」「2段目の平板スレート瓦1−2」、「棟側から1段目(最上段)の平板スレート瓦1−1」は、本件発明1の「対象となる前記既設のスレート屋根材」、「前記対象となる前記既設のスレート屋根材に対して前記棟側の前記既設のスレート屋根材」に、それぞれ相当する。
そうすると、甲4発明の「平板スレート瓦1−1」「及び平板スレート瓦1−2との隙間S−1に」「上端部2b(本件発明1の「差し込み部」)」を「挿入」する「手順」は、本件発明1の「対象となる前記既設のスレート屋根材と前記対象となる前記既設のスレート屋根材に対して前記棟側の前記既設のスレート屋根材との隙間に前記差し込み部を差し込む工程」に相当する。
よって、甲4発明は、本件発明1の特定事項C、C1を備える。

ク 甲4発明の「2段目の平板スレート瓦1−2」、「下側の3段目の平板スレート瓦1−3」は、本件発明1の「前記対象となる前記既設のスレート屋根材」、「前記対象となる前記既設のスレート屋根材に対して前記軒先側の前記既設のスレート屋根材」に、それぞれ相当する。
そうすると、甲4発明の「2段目の平板スレート瓦1−2」と「下側の3段目の平板スレート瓦1−3との間に隙間S−2を形成し、そして、この平板スレート瓦1−2に金属屋根材2−2を被せて」「下板部2g(本件発明1の「折り返し片」)を隙間S−2に挿入」する「手順」は、本件発明1の「前記対象となる前記既設のスレート屋根材と前記対象となる前記既設のスレート屋根材に対して前記軒先側の前記既設のスレート屋根材との隙間に前記折り返し片を差し込む工程」に相当する。
よって、甲4発明は、本件発明1の特定事項C、C2を備える。

ケ 甲4発明の「軒側の平板スレート瓦1−2に被せられた金属屋根材2(本件発明1の「前記軒先側の前記新規の屋根材」)の上端部2b(本件発明1の「差し込み部」)は、棟側の平板スレート瓦1−1に被せられた金属屋根材2(本件発明1の「前記棟側の前記新規の屋根材」)の下板部2gの上端部(端末)2h(本件発明1の「前記折り返し片の端部」)よりも棟側に位置する」ことは、本件発明1の「前記補修済の屋根材においては、前記軒先側の前記新規の屋根材の前記差し込み部の端部が、前記棟側の前記新規の屋根材の前記折り返し片の端部よりも前記棟側に位置」することに相当する。
よって、甲4発明は、本件発明1の特定事項Fを備える。

コ 上記ア〜ケを踏まえると、本件発明1と甲4発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

[一致点]
「A 既設のスレート屋根材を新規の屋根材でカバーして補修するための屋根補修方法であって、
C’前記既設のスレート屋根材を前記新規の屋根材でカバーし、固定するカバー工程と、
D’屋根補修方法における工程を前記新規の屋根材を葺いた補修済の屋根材上に登ることなく棟側から軒先側に向かって行う工程と、を備え、
E 前記新規の屋根材は、
E1 前記棟側の端部と、前記軒先側の端部と、を有する板状本体と、
E2’ 前記棟側の端部に形成される差し込み部と、
E3’ 前記軒先側の端部から屹立する屹立片と、前記屹立片から折り返された折り返し片と、を有する断面コ字状の取り付け部と、を有し、
C 前記カバー工程は、
C1 対象となる前記既設のスレート屋根材と前記対象となる前記既設のスレート屋根材に対して前記棟側の前記既設のスレート屋根材との隙間に前記差し込み部を差し込む工程と、
C2 前記対象となる前記既設のスレート屋根材と前記対象となる前記既設のスレート屋根材に対して前記軒先側の前記既設のスレート屋根材との隙間に前記折り返し片を差し込む工程と、を有し、
F 前記補修済の屋根材においては、前記軒先側の前記新規の屋根材の前記差し込み部の端部が、前記棟側の前記新規の屋根材の前記折り返し片の端部よりも前記棟側に位置する、
I 屋根補修方法。」

[相違点1](特定事項B)
本件発明1では、「前記既設のスレート屋根材に貼着剤を塗布する塗布工程」を備えるのに対し、
甲4発明では、このような工程を備えるか否か不明である点。

[相違点2](特定事項C)
「カバー工程」において、
本件発明1では、「前記既設のスレート屋根材を前記新規の屋根材でカバーし、釘を使用せずに前記貼着剤で固定する」のに対し、
甲4発明では、このような特定がなされていない点。

[相違点3](特定事項D)
「前記新規の屋根材を葺いた補修済の屋根材上に登ることなく棟側から軒先側に向かって行う工程」が、
本件発明1では、「前記塗布工程と前記カバー工程」であるのに対し、
甲4発明では、上記相違点1より、塗布工程を備えるか否か不明であり、上記相違点2より、カバー工程も本件発明1とは異なるものである点。

[相違点4](特定事項E、E2、E3)
「前記新規の屋根材」が「有」する「差し込み部」と「折り返し片」に関して、
本件発明1では、「平坦な差し込み部」と「平坦な折り返し片」とを有しているのに対し、
甲4発明では、「上側に側面から見て僅かに開きぎみの略U字状に折り返され」た「上端部2a」と、「上端部(端末)2hが内側に略U字状に折り返され」た「下板部2g」とを有している点。

[相違点5](特定事項G)
「折り返し片」に関して、
本件発明1では、「前記既設のスレート屋根材に固定される前の無負荷状態で、前記板状本体から離れる方向に開拡し」ているのに対し、
甲4発明では、このような構成を備えていない点。

[相違点6](特定事項H)
本件発明1では、「前記補修済の屋根材においては、前記軒先側の前記新規の屋根材の前記差し込み部は、前記棟側の前記新規の屋根材の前記折り返し片の弾発力により、前記軒先側の前記新規の屋根材がカバーした前記既設のスレート屋根材側に押される」のに対し、
甲4発明では、このような構成を備えていない点。

(2) 判断
事案に鑑み相違点5から検討する。
甲7記載の技術事項の「改装用屋根材21」、「表面板部22」、「前面板部23」、「裏面板部24」は、本件発明1の「新規の屋根材」、「板状本体」、「屹立片」、「折り返し片」に、それぞれ相当する。
甲7記載の技術事項の「改装用屋根材21」は、「金槌等で改装用屋根材21の前面板部23を叩くなどして対象の屋根材12を改装用屋根材21の凹部に収容し」、「引き続き改装用屋根材21の前面板部23を叩いて屋根材12を奥まで押し込むと、折り曲げ部25,26が潰れ、改装用屋根材21が屋根材12に密着するような形に変形し」、「改装用屋根材21が変形されることによって、裏面板部24の先端部が、屋根材12から離間する形状となる」ものである。
ここで、甲7記載の技術事項において、「裏面板部24の先端部が、屋根材12から離間する形状となる」と、「裏面板部24の先端部が」、「表面板部22」「から離間する形状となる」ことは明らかである。
そうすると、甲7記載の技術事項において、「裏面板部24(本件発明1の「折り返し片」)の先端部が」、表面板部22(本件発明1の「板状本体」)「から離間する形状(本件発明1の「離れる方向に開拡」)となる」のは、「金槌等で改装用屋根材21の前面板部23を叩くなどして対象の屋根材12を改装用屋根材21の凹部に収容し」、「引き続き改装用屋根材21の前面板部23を叩いて屋根材12を奥まで押し込むと、折り曲げ部25,26が潰れ、改装用屋根材21が屋根材12に密着するような形に変形し」、「改装用屋根材21が変形され」た結果によるものであるから、甲7記載の技術事項の「裏面板部24」は、本件発明1の「折り返し片」のように「前記既設のスレート屋根材に固定される前の無負荷状態で、前記板状本体から離れる方向に開拡し」ているとはいえない。
してみると、甲7記載の技術事項は、上記相違点5に係る本件発明1の構成を備えているとはいえない。また、甲7には、上記相違点5に係る本件発明1の構成とすることを示唆する記載もない。
したがって、甲4発明に甲7記載の技術事項を適用して、上記相違点5に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
さらに、甲5、甲6及び甲8をみても、上記相違点5に係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていない。

(3) 申立人の主張について
申立人は、上記相違点5に関し、申立書において以下の主張をしている。
「なお、甲7発明は無負荷状態で開拡していないために、「(G)前記折り返し片は、前記既設のスレート屋根材に固定される前の無負荷状態で、前記板状本体から離れる方向に開拡し、」と相違点が存在するので進歩性があると本件特許の権利者からの反論については、本件特許発明1は物カテゴリの発明ではなく屋根補修方法という方法カテゴリの発明であって、無負荷状態での新規の屋根材における折り返し片の構造を進歩性が肯定される方向に働く構成であると主張して反論することは失当である。すなわち、(G)における「無負荷状態で開拡させた」という技術的特徴は「折り返し片5自体の物としての特徴」に過ぎず、引用文献に開示された発明において開拡していないとの相違点に基づいて進歩性を有するとの主張は、本件特許発明1の屋根補修方法の技術的特徴になり得ず失当である。」(申立書17頁20行〜18頁1行)

しかしながら、本件発明1の「屋根補修方法」は、「新規の屋根材」として「前記折り返し片は、前記既設のスレート屋根材に固定される前の無負荷状態で、前記板状本体から離れる方向に開拡し」ている(特定事項G)ものを用いるのであるから、特定事項Gは方法の発明である本件発明1を特定する構成である。また、本件発明1の「屋根補修方法」は、特定事項Gに係る「折り返し片」を有する「新規の屋根材」を用いることにより、「前記補修済の屋根材においては、前記軒先側の前記新規の屋根材の前記差し込み部は、前記棟側の前記新規の屋根材の前記折り返し片の弾発力により、前記軒先側の前記新規の屋根材がカバーした前記既設のスレート屋根材側に押される」(特定事項H)ようにして「既設のスレート屋根材を新規の屋根材でカバーして補修する」のであるから、上記特定事項Gに係る構成が、本件発明1の技術的特徴になり得ない旨をいう上記申立人の主張は、失当である。
よって、上記申立人の主張は採用できない。

さらに申立人は、上記相違点5に関し、申立書において以下の主張をしている。
「また、カバー工法に用いられる改修用屋根材(補助的な部材を含む)においては、以下の周知技術がある。甲第8号証(特開2006−342603号公報:拒絶理由の引用文献7の公開特許公報)の図2に開示されているように「(g)既設のスレート屋根材に固定される前の無負荷状態で、前記板状本体から離れる方向に開拡」させた固定部材13が開示されている。この甲第8号証の段落[0041]には、「水下側端部11cの波形をなす下板部11f及び端末11gは、1段目の平板スレート瓦2−1に被せた金属屋根材11と固定部材13の下板部13cとに弾性状態で当接することで液密性が保持され、隙間Sへの雨水の浸入が防止される。更にV字状をなす水上側端部11bが平板スレート瓦2−3の裏面に弾性状態で当接し、その端末11gの角部(エッジ)11hが平板スレート瓦2−3の裏面に食い込むことで隙間Sに雨水が浸入した場合でも水上側端部11bにより阻止(水返し)されて当該水上側端部11bの上方への浸入が防止される。これにより、既存の平板スレート瓦2と野地板1との間に雨水が浸入することが完全に防止される。」と記載されており、「無負荷状態で開拡させておいて、他の屋根部材に弾性状態で当接させることで液密性を保持させる技術」は、当業者の周知技術に過ぎない。」(申立書18頁2〜17行)

しかしながら、甲8に記載された「固定部材13」は、その【0029】に「この固定部材13は、所謂吊子と称されており、既存の平板スレート瓦と改修用の金属屋根材11との間に介在されて当該金属屋根板11がずれ落ちることを防止するためのものである」と記載されるように、「改修用の金属屋根材11(本件発明1の「新規の屋根材」)」のずれ落ち防止に資するものであり、それ自体が改修用の屋根材となるものではなく、求められる機能も改修用の屋根材とは異なるものである。
してみると、甲8に記載された「固定部材13」が無負荷状態で開拡されたものであったとしても、これを例示することにより、甲4発明における「平板スレート瓦改修用金属屋根材」である「金属屋根材2」が有する「下板部2g」について、「無負荷状態で開拡させておいて、他の屋根部材に弾性状態で当接させること」が、申立人が主張する周知技術に基づいて想到容易となるものではない。
よって、申立人の主張は採用できない。

なお、申立人はその他の主張を縷々述べているが、いずれも採用できるものではない。

(4) 申立理由3についての結論
以上のことから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明において、甲6記載の技術事項、甲7記載の技術事項及び甲8に記載される事項を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、申立理由3はその理由がない。

4 申立理由4(実施可能要件違反)について
(1) 申立人の具体的な主張
申立人は申立理由4について、「差し込み屋根材1」の素材の特性又は厚みによっては、既設のスレート屋根に固定される前に開拡していたとしてもその素材の特性又は厚みによっては、新規の屋根材の差し込み部が既設のスレート屋根材側に押されない可能性を排除できなかったり、新規の屋根材の差し込み部が既設のスレート屋根材側に押されない可能性を排除できなかったり、作業中に既設のスレート屋根材を押して損傷させる可能性を排除できなかったり、最軒先側の新規の屋根材が既設のスタータを押して損傷させる可能性を排除できなかったりするところ、発明の詳細な説明には、「差し込み屋根材1」の素材及び厚みについて一切記載されていないので、構成要件(G)において屹立片4と折り返し片5の折り曲げ角度を95度で開拡させて、構成要件(H)の作用効果を発現するためには、どのようにすれば本件特許発明(屋根補修方法)を実施できるかを見いだすために当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤をする必要がある旨を主張している(申立書27頁下から2行−31頁22行)。

(2) 判断基準
上記第2のとおり、本件発明1は方法の発明であるところ、方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法の使用をすることができる程度の記載があることを要する。

(3) 判断
ア 発明の詳細な説明の記載
本件特許の明細書の発明の詳細な説明及び図面には、以下の記載がある。

「【0009】
図1は差し込み屋根材1の一実施形態の斜視図を示したもので、カラー鉄板からなる長方形状の板状本体2の一端側を差し込み部3とし、該差し込み部3に対向する他端側に屹立片4と折り返し片5を連接させて断面コ字状の取り付け部6を形成するようにしたものである。本実施形態では、板状本体2の長辺が907mm、短辺が230mm、屹立片4の高さが6mm、折り返し片5の幅が30mmに加工されている。
【0010】
図2は差し込み屋根材の他の実施形態の端面図を示したもので、本実施形態のものでは、折り返し片5を板状本体2から離れる方向に開拡させており、屹立片4と折り返し片5の折り曲げ角度は95度に加工されている。
このように、前記差し込み屋根材1の取り付け部6の折り返し片5を前記板状本体2から離れる方向に開拡させれば、既設の屋根材の隙間に差し込んだ際に板バネの如く弾発力が働き既設の屋根材に強固に密着し、外れにくくなる。」

「【0012】
図4は、差し込み固定カバー工法(屋根補修方法)の施工状態を示したものである。既設のスレート屋根の屋根材10を高圧洗浄した後にシリコン等の貼着剤を塗布し、差し込み屋根材1の差し込み部3を既設の屋根材10とその上側に重なる屋根材10との隙間に差し込み、さらに、前記既設の屋根材10の下側に重なる屋根材10との隙間に差し込み屋根材1の折り返し片5を差し込み固定する。このような差し込み作業を既設の屋根材10に対して繰り返し、全ての既設の屋根材10を差し込み屋根材1でカバーすることで、差し込み固定カバー工法が施工される。差し込み屋根材1は、取り付け部6を断面をコ字状にしているため、上下に重なる屋根材の隙間から毛細管現象により雨水が引き込まれても、折り返し片5の先端で水が止まり、奥まで雨水が侵入することを防止できる。」

「【0019】
差し込み屋根材の素材としては、前記実施形態ではカラー鉄板を用いた例で説明したが、ガルバニウム鋼板等の金属板やポリカーボネートFRP等の合成樹脂板等各種素材の屋根材を用いることができる。」

「【図2】



「【図4】



イ 本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、【0009】に、カラー鉄板からなる差し込み屋根材1の各部位のサイズの一例が示され、【0010】に、折り返し片5を板状本体2から離れる方向に開拡させており、屹立片4と折り返し片5の折り曲げ角度は95度に加工されていること、そして、このようにすることで、既設の屋根材の隙間に差し込んだ際に板バネの如く弾発力が働き既設の屋根材に強固に密着し、外れにくくなることが記載され、【0019】に、差し込み屋根材の素材について記載されている。
さらに、【0012】に、「差し込み固定カバー工法(屋根補修方法)の施工状態を示したものである」と記載される図4からは、施工された状態において、屹立片4の内側(既設の屋根材10の端面に対向する側)の高さと、既設の屋根材10の厚みが略同等であることが見て取れる。
発明の詳細な説明及び図面のこれらの記載からすれば、屋根補修方法という方法の発明である本件発明1の使用をするうえで、差し込み屋根材1の素材や厚みに関し、拡開させた折り返し片を既設の屋根材の隙間に差し込んだ際に、板バネの如く弾発力が働き既設の屋根材に密着させるように調整することは、当業者に過度の試行錯誤を要するものではなく、この点について発明の詳細な説明及び図面における記載が不足しているものではない。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明には、当業者が発明の詳細な説明の記載に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1に係る屋根補修方法の使用をすることができる程度の記載があるものである。

(4) 申立理由4についての結論
以上のとおりであるから、申立理由4はその理由がない。

5 申立理由5(サポート要件違反)について
(1) 申立人の具体的主張
申立人は申立理由5について、概略次の主張をしている。
「平坦な差し込み部」及び「平坦な折り返し片」における「平坦」、「前記折り返し片は、前記既設のスレート屋根材に固定される前の無負荷状態で、前記板状本体から離れる方向に開拡し、」並びに「前記補修済の屋根材においては、前記軒先側の前記新規の屋根材の前記差し込み部は、前記棟側の前記新規の屋根材の前記折り返し片の弾発力により、前記軒先側の前記新規の屋根材がカバーした前記既設のスレート屋根材側に押される」は、発明の詳細な説明に記載したものでない。」(「申立書2頁第1表(理由の要約:まとめ))、「理由5」、「要点」)

(2) 判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(3) 判断
ア 本件の願書に添付した明細書及び図面(以下「本件明細書等」という。)の【0009】、【0010】、【0012】、【図2】及び【図4】には、甲2の【0008】、【0009】、【0011】、【図2】及び【図4】と同じ記載及び図示があるところ、上記2(2)ア(ウ)にて説示したのと同じ理由から、「差し込み部」及び「折り返し片」が「平坦」であることは、本件明細書等に記載されたものといえる。

イ 本件明細書等の【0010】、【0012】、【図2】及び【図4】には、甲1の【0009】、【0011】、【図2】及び【図4】と同じ記載及び図示があるところ、上記1(2)ア(イ)にて説示したのと同じ理由から、「前記折り返し片は、前記既設のスレート屋根材に固定される前の無負荷状態で、前記板状本体から離れる方向に開拡し」ていることは、本件明細書等に記載されたものといえる。

ウ 本件明細書等の【0009】、【0010】、【0012】、【図2】及び【図4】には、甲2の【0008】、【0009】、【0011】、【図2】及び【図4】と同じ記載及び図示がある。
本件発明1における、「前記補修済の屋根材においては、前記軒先側の前記新規の屋根材の前記差し込み部は、前記棟側の前記新規の屋根材の前記折り返し片の弾発力により、前記軒先側の前記新規の屋根材がカバーした前記既設のスレート屋根材側に押される」構成は、上記2(2)ア(イ)で検討した、「前記下側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記差し込み部は、前記上側の既設の屋根材の上面をカバーする前記屋根材の前記折り返し片の弾発力により、前記下側の既設の屋根材側に押される」構成と、実質的に同じ構成であるところ、同(2)ア(イ)にて説示のと同じ理由から、本件明細書等に記載されたものといえる。

エ 本件特許の発明の詳細な説明の【0004】によると、本件発明1の解決しようとする課題は、「施工が簡単で、漏水の心配もなく、作業中に傷や汚れが生ずることないカバー工法」を提供することである。
そして、本件発明1は、上記第2に認定した構成A〜Iを有することにより、上記課題を解決できると認識できるものであるところ、上記(1)に申立人が不備を有する旨を申立てる構成についても、上記ア〜ウに説示したとおり不備があるものではないから、申立人が申立てる点において上記課題を解決できないものとなるような事情はない。
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件発明1に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。

(4) 申立理由5についての結論
以上のとおりであるから、申立理由5はその理由がない。

6 申立理由6(明確性要件違反)について
(1) 申立人の具体的主張
申立人は申立理由6について、概略次の主張をしている。
「・発明の名称と特許請求の範囲の請求項の記載とが一致しないために明確でない。
・「平坦な差し込み部」及び「平坦な折り返し片」における「平坦」並びに「無負荷状態」が明確でない。」(「申立書2頁第1表(理由の要約:まとめ))、「理由6」、「要点」)

(2) 判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

(3) 判断
ア 「屋根補修方法」に係る本件発明1を特定する請求項1の記載は明確であり、「屋根補修方法および屋根材」という発明の名称と請求項1の記載の末尾とが完全に一致しないからといって、請求項1の記載が不明確となる事情はない。

イ 甲9によれば、「平坦」とは「土地の平らかなこと。また、そのようなさま。」と説明されているが、土地そのものとは関係がない部材について「平坦」という場合には、「土地」の概念に束縛される必要はないから、単に「平らかなこと。」を意味するものといえる。
そうすると、請求項1の記載において、「平坦な差し込み部」及び「平坦な折り返し片」における「平坦」とは、「差し込み部」及び「折り返し片」が「平らかなこと」を意味することは明らかであり、この点において、請求項1の記載が不明確であるとはいえない。

ウ 本件発明1における「無負荷状態」とは、本件発明1を特定する請求項1の記載より、上記1(2)ア(ア)にて説示したのと同様に、「新規の屋根材」が備える「断面コ字状の取り付け部」が有する「屹立片から折り返された」「折り返し片」について、「既設のスレート屋根材に固定される前」の状態である「無負荷状態」である。そして、当該「無負荷状態」とは、「前記既設のスレート屋根材に固定される前の」状態、すなわち折り返し片に何ら負荷のかかっていない状態を意味することは明らかであるから、この点において、請求項1の記載が不明確であるとはいえない。

エ 申立人の主張する上記ア〜ウについては以上のとおりであり、請求項1の記載において、それ以外に不明確な記載は見当たらない。
そして、本件発明1を特定する請求項1の記載が、本件明細書の記載や図面とも整合することを踏まえると、請求項1の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。

(4) 申立理由6についての結論
以上のとおりであるから、申立理由6はその理由がない。

第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2024-06-26 
出願番号 P2022-064882
審決分類 P 1 652・ 537- Y (E04D)
P 1 652・ 536- Y (E04D)
P 1 652・ 113- Y (E04D)
P 1 652・ 121- Y (E04D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 有家 秀郎
特許庁審判官 澤田 真治
蔵野 いづみ
登録日 2023-10-12 
登録番号 7365723
権利者 エバー修栄株式会社
発明の名称 屋根補修方法および屋根材  
代理人 清水 善廣  
代理人 小松 悠有子  

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