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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A23L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A23L 審判 全部申し立て 2項進歩性 A23L |
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管理番号 | 1413382 |
総通号数 | 32 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2024-08-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2024-05-19 |
確定日 | 2024-08-13 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7385762号発明「生地加熱食品用加工澱粉及び生地加熱食品用ミックス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7385762号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7385762号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、2022年(令和4年)4月21日(優先権主張 令和4年2月25日)を国際出願日とする出願であって、令和5年11月14日にその特許権の設定登録(請求項の数10)がされ、同年同月22日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和6年5月19日に特許異議申立人 小林 木綿子(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし10)がされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし10に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項 1】 ヒドロキシプロピル化処理され、且つ下記のRVA分析法において糊化開始30秒後から1分間での粘度上昇が2000cP以下である、生地加熱食品用加工澱粉。 (RVA分析法) 供試澱粉を固形分として3g用意し、これに蒸留水25mLを添加して試料液を調製する。前記試料液中にパドルを入れ、パドル回転数160rpmで該試料液を撹拌しつつ加熱し、ラピッド・ビスコ・アナライザーを用いて、加熱中の該試料液の粘度を測定する。前記試料液の加熱条件は、該試料液の品温50℃を2分間保持した後、9分間で該品温を95℃まで上昇させる条件とする。 【請求項 2】 糊化開始温度が54℃以下である、請求項1に記載の生地加熱食品用加工澱粉。 【請求項 3】 タピオカ澱粉を主原料とする、請求項1又は2に記載の生地加熱食品用加工澱粉。 【請求項 4】 糊化ピーク粘度が3500〜5500cPである、請求項1又は2に記載の生地加熱食品用加工澱粉。 【請求項 5】 請求項1又は2に記載の加工澱粉を含有する生地加熱食品用ミックス。 【請求項 6】 請求項1又は2に記載の加工澱粉を用いて製造された生地加熱食品。 【請求項 7】 請求項5に記載のミックスを用いて製造された生地加熱食品。 【請求項 8】 下記のRVA分析法において糊化開始30秒後から1分間での粘度上昇が2000cP以下である、生地加熱食品用加工澱粉の製造方法であって、 原料澱粉にヒドロキシプロピル化処理を施す工程を有し、 前記ヒドロキシプロピル化処理は、原料澱粉、硫酸ナトリウム及び水を含むスラリーに、アルカリ剤及びプロピレンオキサイドを添加して反応させることを含み、 前記ヒドロキシプロピル化処理における前記硫酸ナトリウムの使用量が、前記原料澱粉100質量部に対して24〜28質量部である、生地加熱食品用加工澱粉の製造方法。 (RVA分析法) 供試澱粉を固形分として3g用意し、これに蒸留水25mLを添加して試料液を調製する。前記試料液中にパドルを入れ、パドル回転数160rpmで該試料液を撹拌しつつ加熱し、ラピッド・ビスコ・アナライザーを用いて、加熱中の該試料液の粘度を測定する。前記試料液の加熱条件は、該試料液の品温50℃を2分間保持した後、9分間で該品温を95℃まで上昇させる条件とする。 【請求項9】 下記のRVA分析法において糊化開始30秒後から1分間での粘度上昇が2000cP以下である、生地加熱食品用加工澱粉の製造方法であって、 原料澱粉にヒドロキシプロピル化処理を施す工程を有し、 前記ヒドロキシプロピル化処理は、原料澱粉、硫酸ナトリウム及び水を含むスラリーに、アルカリ剤及びプロピレンオキサイドを添加して反応させることを含み、 前記ヒドロキシプロピル化処理の反応時間が32〜40時間である、生地加熱食品用加工澱粉の製造方法。 (RVA分析法) 供試澱粉を固形分として3g用意し、これに蒸留水25mLを添加して試料液を調製する。前記試料液中にパドルを入れ、パドル回転数160rpmで該試料液を撹拌しつつ加熱し、ラピッド・ビスコ・アナライザーを用いて、加熱中の該試料液の粘度を測定する。前記試料液の加熱条件は、該試料液の品温50℃を2分間保持した後、9分間で該品温を95℃まで上昇させる条件とする。 【請求項10】 前記ヒドロキシプロピル化処理の反応温度が36〜44℃である、請求項8又は9に記載の生地加熱食品用加工澱粉の製造方法。」 第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 1 申立理由1(甲第1号証又は甲第2号証に基づく新規性) 本件特許発明1、3、5ないし7は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、3、5ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 2 申立理由2(甲第1号証又は甲第2号証に基づく進歩性) 本件特許発明1ないし10は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 3 申立理由3(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 本件特許明細書の実施例において、(i)未加工タピオカ澱粉以外の原料澱粉を使用した加工澱粉、(ii)実施例以外の反応条件によって得られた加工澱粉、(iii)ヒドロキシプロピル化以外の何らかの処理を経た加工澱粉は試験されておらず、それらの澱粉が生地加熱用食品の食感・風味の保存性が向上することは実証されていない。 そして、原料澱粉の種類やその化学修飾の態様によって得られる澱粉がパンなどの生地加熱用食品に与える食感や保存性が異なることは技術常識である。また、リン酸架橋処理の有無によっても生地加熱用食品の食感が全く異なるものとなる。 そうすると、当業者は、本件特許明細書の実施例の8種の加工澱粉の結果を含む本件特許明細書等の記載を参照しても、特定の反応条件で未加工タピオカ澱粉をヒドロキシプロピル化して調製された実施例のヒドロキシプロピル化澱粉以外のヒドロキシプロピル化澱粉についても、所定の初期粘度上昇幅や糊化開始温度を満たしさえすれば、生地加熱用食品の食感及び風味の保存性が向上するものとは理解できない。 以上によれば、本件特許発明1〜10は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、サポート要件を満たさない。 4 証拠方法 甲第1号証:特開2020−178645号公報 甲第2号証:国際公開第2016/111061号 甲第3号証:特開2012−231728号公報 甲第4号証:国際公開2020/027306号 甲第5号証:加工でん粉の製パンへの利用 平成23年4月8日 (https:// www.alic.go.jp/joho-d/joho08_000059.html) 証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。 第4 当審の判断 1 主な証拠に記載された事項等 (1) 甲1に記載された事項等 ア 甲1に記載された事項 甲1には、「ケーキ類用組成物」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様である。 ・「【請求項1】 穀粉100質量部中に、 (1)エーテル化澱粉、エステル化澱粉、α化澱粉、もち種澱粉、もち種穀粉から選択される1種以上の穀粉を10質量部以上、 (2)RVA(Rapid Visco Analyzer)分析法において、昇温開始から降温開始前までの最高粘度が30cp以下の加工澱粉を10〜60質量部、 含有する、ケーキ類用組成物。」 ・「【0024】 [エーテル化澱粉] エーテル化澱粉は、澱粉分子間のいくつかの水酸基が官能基でエーテル化されている加工澱粉である。馬鈴薯、餅種の馬鈴薯、甘藷、タピオカ、トウモロコシ、餅種のトウモロコシ、アミロース含有量の高いトウモロコシ、サゴ、小麦、ワキシー小麦、米、もち米、豆などを原料とした天然澱粉または前記原料を漂白処理した澱粉に対してエーテル化剤を用いて常法によりエーテル基を導入したものを単独または複数混合して使用することができる。本発明のエーテル化澱粉としては、例えば、ヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピルリン酸架橋澱粉等が挙げられる。また、本発明のエーテル化澱粉は、粉末状、糊状など任意の状態で用いることができる。」 ・「【0034】 [RVA(Rapid Visco Analyzer)分析法] RVA最高粘度の測定方法は以下のとおりである。測定装置として、株式会社エヌピー社製のPerten RVA−4500 Model4500(TCW 3シリーズ)を用いる。まず、測定装置専用のアルミ缶に、測定対象のサンプル試料1.5g、蒸留水又はイオン交換水28.5mL、及びパドル(撹拌子)を入れ、パドルを上下させてよくかき混ぜ、5質量%の懸濁液を調製する。そして、当該懸濁液(25℃)を測定装置にセットし、アルミ缶内のパドルを回転数160rpmで回転させながら、当該アルミ缶を加熱して懸濁液の温度を上昇させつつ、連続的に懸濁液の粘度を測定する。なお、測定装置の設定温度条件は、まずアルミ缶内容物の品温を50℃で1分間保持した後、7.5℃/分の速度で6分間、95℃まで昇温させる。95℃で3分間保持した後、約10.8℃/分の速度で6分間、30℃まで降温させ30℃、で4分間保持する条件とする。そして、アルミ缶加熱処理中の内容物の粘度曲線を得て、当該粘度曲線における、降温開始前までの最高粘度を、当該サンプル試料のRVA最高粘度とする。」 ・「【0045】 (1)ケーキ類の製造 下記表1に示す材料を用いて、ケーキ類を製造した。具体的には、まずAをミキサーボウルに入れ、ホイッパーを用いて均一になるまで混合した。次いで、穀粉とBを加え、均一になるまで混合した。さらにCを加えて起泡させながら混合し、最終比重が0.53±0.02となるように、生地を調製した。生地温度は22℃程度になるように調製した。作製した生地800gを、紙を敷き込んだ6取天板(490×340mm、高さ40mm程度)に流し込んだ。上火220℃、下火170℃のオーブンで11分焼成してケーキを得た。」 ・「【0050】 」 イ 甲1に記載された発明 甲1に記載された事項を、特に【0034】、【0045】、【0050】の表1に記載された実施例6について整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」及び「甲1製造方法発明」という。)が記載されていると認める。 <甲1発明> 以下のRVA分析法(以下、「甲1発明のRVA分析法」という。)において、最高粘度が880cpである、ケーキ類の製造に用いるタピオカを起源原料とするエーテル化リン酸架橋澱粉。 [RVA分析法] RVA最高粘度の測定方法は以下のとおりである。測定装置として、株式会社エヌピー社製のPerten RVA−4500 Model4500(TCW 3シリーズ)を用いる。まず、測定装置専用のアルミ缶に、測定対象のサンプル試料1.5g、蒸留水又はイオン交換水28.5mL、及びパドル(撹拌子)を入れ、パドルを上下させてよくかき混ぜ、5質量%の懸濁液を調製する。そして、当該懸濁液(25℃)を測定装置にセットし、アルミ缶内のパドルを回転数160rpmで回転させながら、当該アルミ缶を加熱して懸濁液の温度を上昇させつつ、連続的に懸濁液の粘度を測定する。なお、測定装置の設定温度条件は、まずアルミ缶内容物の品温を50℃で1分間保持した後、7.5℃/分の速度で6分間、95℃まで昇温させる。95℃で3分間保持した後、約10.8℃/分の速度で6分間、30℃まで降温させ30℃、で4分間保持する条件とする。そして、アルミ缶加熱処理中の内容物の粘度曲線を得て、当該粘度曲線における、降温開始前までの最高粘度を、当該サンプル試料のRVA最高粘度とする。」 <甲1製造方法発明> 「甲1発明のRVA分析法において、最高粘度が880cpである、ケーキ類の製造に用いるタピオカを起源原料とするエーテル化リン酸架橋澱粉の製造方法。」 (2) 甲2に記載された事項等 ア 甲2に記載された事項 ・「請求の範囲 [請求項1] ヒドロキシプロピル化処理され、糊化ピーク温度が56〜63℃、糊化エネルギーが3.5〜7.0J/gであるベーカリー食品用加工澱粉。 [請求項2] RVAピーク粘度が2300〜3300cPである請求項1に記載のベーカリー食品用加工澱粉。」 ・「[0006] 本発明の課題は、外観及び食感の経時的な劣化が起こり難いベーカリー食品を提供可能なベーカリー食品用加工澱粉及びベーカリー食品用ミックスに関する。」 ・「[0014] また、本発明のベーカリー食品用加工澱粉は、糊化ピーク温度及び糊化エネルギーがそれぞれ前記範囲にあることに加えてさらに、RVAピーク粘度が2300〜3300cP、さらに好ましくは2600〜3000cPの範囲にあることが好ましい。RVAは、澱粉が加熱されて糊になった際の糊化特性を表し、澱粉が加熱膨潤した際の粘度(糊化ピーク粘度)を表す。RVAピーク粘度が斯かる範囲にあることにより、特にベーカリー食品用加工澱粉の原料としてタピオカ澱粉を用いた場合に、該加工澱粉を用いて得られるベーカリー食品の食感のもちもち感がより増強されるという効果が奏される。加工澱粉のRVAピーク粘度は、加工前の原料澱粉の種類、ヒドロキシプロピル基の置換度等を適宜調整することで調整可能であり、また、後述するように加工澱粉をリン酸架橋する場合には、その架橋度を適宜調整することによっても調整可能である。RVAピーク粘度は下記の方法で測定される。 ・[0015] <RVAピーク粘度の測定方法> 迅速粘度測定装置(ニューポートサンエンティフィク社製)を用い、該測定装置に付属のアルミ缶(測定対象物の収容容器)に供試澱粉(水分14%換算)2g及び蒸留水25mlを加えた後、さらにパドル(撹拌子)を入れ、該アルミ缶をタワーにセットし、該パドルを回転数160rpm/minで回転させながら該アルミ缶を加熱してその内容物(供試澱粉懸濁液)の温度を上昇させつつ該内容物の粘度を測定する。この供試澱粉懸濁液の加熱条件は、はじめに供試澱粉懸濁液を50℃で1分間保持した後、7分30秒をかけて95℃まで上昇させ、同温度で5分間保持し、次いで7分30秒をかけて50℃まで冷却した後、同温度で2分間保持する条件とする。そして、この加熱処理中の供試澱粉懸濁液の粘度測定値のピーク値を、供試澱粉のRVAピーク粘度とする。」 ・「[0028] 〔実施例1〜5及び比較例1〜3〕 水120質量部に硫酸ソーダ20質量部及びタピオカ澱粉100質量部を加えたスラリーを8点用意し、各スラリーを撹拌しつつこれに、3%苛性ソーダ水溶液30質量部と、所定質量部のプロピレンオキサイドと、トリメタリン酸ソーダ0.02質量部とを添加し、40℃で24時間反応させた後、塩酸で中和し、水洗、脱水、乾燥、乳鉢で粉砕後に、100メッシュの篩を通し、ヒドロキシプロピル基の置換度が所定範囲にあるヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉を得た。前記スラリーに添加したプロピレンオキサイドの量と、それによって得られたヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉の置換度との関係は次の通り。プロピレンオキサイド添加量(質量部):ヒドロキシプロピル基の置換度=(5質量部:0.08)、(6質量部:0.10)、(7.5質量部:0.13)、(9質量部:0.15)、(9.5質量部:0.16)、(11質量部:0.18)、(11.5質量部:0.19)、(13質量部:0.22)。 [0029] 〔実施例6〕 水120質量部に硫酸ソーダ20質量部及びタピオカ澱粉100質量部を加えたスラリーを用意し、該スラリーを攪拌しつつこれに、3%苛性ソーダ水溶液30質量部、とプロピレンオキサイド9.5質量部とを添加し、40℃で24時間反応させた後、塩酸で中和し、水洗、脱水、乾燥、乳鉢で粉砕後に、100メッシュの篩を通し、ヒドロキシプロピル基の置換度0.16のヒドロキシプロピル化澱粉を得た。」 ・「[0031] 」 イ 甲2に記載された発明 甲2に記載された事項を、特に請求項2、[0015]、[0029]、[0031]の表1に関して整理すると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」及び「甲2製造方法発明」という。)が記載されていると認める。 <甲2発明> 「ヒドロキシプロピル化処理され、糊化ピーク温度が56〜63℃、糊化エネルギーが3.5〜7.0J/gであり、下記の方法(以下「甲2発明のRVA分析法」という。)で測定されたRVAピーク粘度が2300〜3300cPであるベーカリー食品用加工澱粉。 <RVAピーク粘度の測定方法> 迅速粘度測定装置(ニューポートサンエンティフィク社製)を用い、該測定装置に付属のアルミ缶(測定対象物の収容容器)に供試澱粉(水分14%換算)2g及び蒸留水25mlを加えた後、さらにパドル(撹拌子)を入れ、該アルミ缶をタワーにセットし、該パドルを回転数160rpm/minで回転させながら該アルミ缶を加熱してその内容物(供試澱粉懸濁液)の温度を上昇させつつ該内容物の粘度を測定する。この供試澱粉懸濁液の加熱条件は、はじめに供試澱粉懸濁液を50℃で1分間保持した後、7分30秒をかけて95℃まで上昇させ、同温度で5分間保持し、次いで7分30秒をかけて50℃まで冷却した後、同温度で2分間保持する条件とする。そして、この加熱処理中の供試澱粉懸濁液の粘度測定値のピーク値を、供試澱粉のRVAピーク粘度とする。」 <甲2製造方法発明> 「ヒドロキシプロピル化処理され、甲2発明のRVA分析法で測定されたRVAピーク粘度が2300〜3300cPであるベーカリー食品用加工澱粉の製造方法であって、水120質量部に硫酸ソーダ20質量部及びタピオカ澱粉100質量部を加えたスラリーを用意し、該スラリーを攪拌しつつこれに、3%苛性ソーダ水溶液30質量部、とプロピレンオキサイド9.5質量部とを添加し、40℃で24時間反応させる工程を有する、ベーカリー食品用加工澱粉の製造方法。」 2 申立理由1(甲1又は甲2に基づく新規性)について (1)甲1に基づく新規性について ア 本件特許発明1について (ア)対比 本件特許発明1と甲1発明を対比する。 甲1発明における「ケーキ類」は、本件特許明細書の【0033】に「生地加熱食品」としてケーキ類が例示されていることからみて、本件特許発明1の「生地加熱食品」に相当する。そして、甲1発明の「タピオカを起源原料とするエーテル化リン酸架橋澱粉」は、澱粉分子間のいくつかの水酸基が官能基でエーテル化されている加工澱粉であるから(甲1の【0024】)、本件特許発明1の「加工澱粉」に相当する。 したがって、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「生地加熱食品用加工澱粉。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点1−1> 「加工澱粉」の加工方法について、本件特許発明1においては、「ヒドロキシプロピル化処理され」たものであるのに対し、甲1発明においては、「エーテル化リン酸架橋」されたものである点。 <相違点1−2> 本件特許発明1においては、「下記のRVA分析法(以下、「本件特許発明のRVA分析法」という。)において糊化開始30秒後から1分間での粘度上昇(以下、「初期粘度上昇幅」という。)が2000cP以下である (RVA分析法) 供試澱粉を固形分として3g用意し、これに蒸留水25mLを添加して試料液を調製する。前記試料液中にパドルを入れ、パドル回転数160rpmで該試料液を撹拌しつつ加熱し、ラピッド・ビスコ・アナライザーを用いて、加熱中の該試料液の粘度を測定する。前記試料液の加熱条件は、該試料液の品温50℃を2分間保持した後、9分間で該品温を95℃まで上昇させる条件とする。」のに対し、 甲1発明においては「甲1発明のRVA分析法において、最高粘度が880cpである」点。 (イ)判断 事案に鑑み、相違点1−2について検討する。 本件特許発明のRVA分析法と、甲1発明のRVA分析法とを対比すると、前者は試料液中の澱粉濃度が10.7質量%であり、昇温速度が5℃/分であるのに対し、後者は懸濁液中のサンプル試料の濃度が5質量%であり、昇温速度が7.5℃/分である点等で測定条件が異なっている。そして、甲1及び異議申立人が示した他の証拠には、これらの測定条件の相違が糊化ピーク粘度の数値にどのような影響を与えるかが示されておらず、この点が技術常識から明らかであるともいえいない。 そうすると、甲1発明の「生地加熱食品用加工澱粉」について、甲1発明のRVA分析法で測定した最高粘度の値から、本件特許発明のRVA分析法で測定した糊化ピーク粘度を推定することは困難である。その結果、本件特許明細書の【0014】及び図1の記載からみて、本件特許発明のRVA分析法において初期粘度上昇幅が「糊化ピーク粘度」よりも小さいとしても、甲1発明の「生地加熱食品用加工澱粉」について、甲1発明のRVA分析法で測定した最高粘度の値を根拠として、本件特許発明のRVA分析法を用いて測定した初期粘度上昇幅が2000cP以下である蓋然性が高いと判断することはできない。 そうすると、相違点1−2は実質的な相違点であり、本件特許発明1は、甲1発明であるとはいえない。 異議申立人は、特許異議申立書において、本件特許発明のRVA分析法は、試料液中の澱粉濃度が10.7質量%であるのに対し、甲1発明のRVA分析法は、懸濁液中のサンプル試料の濃度が5質量%で、濃度差は2倍程度なので、甲1発明の「生地加熱食品用加工澱粉」を本件特許発明のRVA分析法で測定すれば、糊化ピーク粘度はせいぜい2000cP前後である蓋然性が高いと主張している。 そこで、検討するに、この主張は、RVA分析法において、試料液中の澱粉濃度が糊化ピーク温度におおむね比例することを前提にしているが、RVA分析法において、試料液中の澱粉濃度が糊化ピーク温度におおむね比例することを示す証拠を異議申立人は示していないし、このことが技術常識から明らかであるともいえない。 したがって、異議申立人の上記主張は採用することができない。 (ウ)まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明であるとはいえない。 イ 本件特許発明3、5ないし7について 本件特許発明3、5ないし7は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項をすべて有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明であるとはいえない。 (2)甲2に基づく新規性について ア 本件特許発明1について (ア)対比 本件特許発明1と甲2発明を対比する。 甲2発明における「ヒドロキシプロピル化処理され」及び「加工澱粉」は、それぞれ本件特許発明1における「ヒドロキシプロピル化処理され」及び「加工澱粉」に相当する。そして、甲2発明における「ベーカリー食品」は、本件特許明細書の【0033】に「生地加熱食品」としてベーカリー食品が例示されていることからみて、本件特許発明1の「生地加熱食品」に相当する。 したがって、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「ヒドロキシプロピル化処理された生地加熱食品用加工澱粉。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点2−1> 本件特許発明1においては、「本件特許発明のRVA分析法において初期粘度上昇幅が2000cP以下である」のに対し、甲2発明においては「甲2発明のRVA分析法で測定されたRVAピーク粘度が2300〜3300cPである」点。 (イ)判断 本件特許発明のRVA分析法と、甲2発明のRVA分析法とを対比すると、前者は試料液中の澱粉濃度が10.7質量%であり、昇温速度が5℃/分であるのに対し、後者は澱粉懸濁液中のサンプル試料の濃度が6.4質量%であり、昇温速度が6℃/分である点等で測定条件が異なっている。そして、甲2及び異議申立人が示した他の証拠には、これらの測定条件の相違が糊化ピーク粘度の数値にどのような影響を与えるかが示されておらず、この点が技術常識から明らかであるともいえない。 そうすると、甲2発明の「生地加熱食品用加工澱粉」について、甲2発明のRVA分析法で測定したRVAピーク粘度の値から、本件特許発明のRVA分析法で測定した糊化ピーク粘度を推定することは困難である。その結果、本件特許明細書の【0014】及び図1の記載からみて、本件特許発明のRVA分析法において初期粘度上昇幅が「糊化ピーク粘度」よりも小さいとしても、甲2発明の「生地加熱食品用加工澱粉」について、甲2発明のRVA分析法で測定したRVAピーク粘度の値を根拠にして、本件特許発明のRVA分析法を用いて測定した初期粘度上昇幅が2000cP以下である蓋然性が高いと判断することはできない。 そうすると、相違点2−1は実質的な相違点であり、本件特許発明1は、甲2発明であるとはいえない。 異議申立人は、特許異議申立書において、本件特許発明のRVA分析法は、試料液中の澱粉濃度が10.7質量%であるのに対し、甲2発明のRVA分析法は、懸濁液中のサンプル試料の濃度が6.4質量%であるから、甲2発明の「生地加熱食品用加工澱粉」を本件特許発明のRVA分析法で測定すれば、濃度差を考慮しても糊化ピーク粘度は2000cPを大幅に上回る大きさとはならない蓋然性が高いと主張している。 そこで、検討するに、RVA分析法において、試料液中の澱粉濃度が糊化ピーク温度におおむね比例することを示す証拠を異議申立人は示していないし、このことが技術常識から明らかであるともいえない。 したがって、異議申立人の上記主張は採用することができない。 イ 本件特許発明3、5ないし7について 本件特許発明3、5ないし7は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項をすべて有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2発明であるとはいえない。 (3)申立理由1についてのむすび したがって、本件特許発明1、3、5ないし7は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1、3、5ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由1によって取り消すことはできない。 3 申立理由2(甲1又は甲2に基づく進歩性)について (1)甲1に基づく進歩性について ア 本件特許発明1について (ア)対比 本件特許発明1と甲1発明を対比する。 上記2(1)アで検討したとおり、両者は以下の点で一致する。 <一致点> 「生地加熱食品用加工澱粉。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点1−1> 「加工澱粉」の加工方法について、本件特許発明1においては、「ヒドロキシプロピル化処理され」たものであるのに対し、甲1発明においては、「エーテル化リン酸架橋」されたものである点。 <相違点1−2> 本件特許発明1においては、「本件特許発明のRVA分析法において初期粘度上昇幅が2000cP以下である」のに対し、甲1発明においては、「甲1発明のRVA分析法において、最高粘度が880cpである」点。 (イ)判断 事案に鑑み、相違点1−2について検討する。 甲1には、甲1発明において本件特許発明のRVA分析法を用いて測定した初期粘度上昇幅を2000cP以下にすることの動機付けとなる記載はない。また、他の証拠にも上記初期粘度上昇幅を2000cP以下とすることの動機付けとなる記載はない。 したがって、甲1発明において、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点1−2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 そして、本件特許発明1は、「保存性に優れ、常温は勿論のこと、冷蔵温度帯でも長期保存が可能な生地加熱食品が得られる」(本件特許の発明の詳細な説明の【0052】)という甲1発明及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測することのできる範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。 (ウ)異議申立人の主張 異議申立人は、特許異議申立書において、ヒドロキシプロピル化澱粉について、使用する澱粉の種類、架橋度や反応条件を変更して種々の物性を有する澱粉を調整することは一般的に行われていることであり、初期粘度上昇幅を変更して上記相違点1−2の構成を採用することは、当業者の設計的事項の範囲で容易に想到するものである旨主張する。 そこで、検討する。 甲1には、本件特許発明のRVA分析法で測定された初期粘度上昇幅を2000cP以下にすることは記載されていないし、甲1を含め、いずれの証拠にも、上記初期粘度上昇幅に着目し、その数値を調整することは記載されていないから、甲1発明において、上記初期粘度上昇幅を調整して、本件特許発明1で特定される初期粘度上昇幅の数値範囲にすることが、当業者が設計的事項の範囲で容易に想到しうるものとはいえない。 したがって、異議申立人の上記主張は採用できない。 (エ)まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 本件特許発明2ないし7について 本件特許発明2ないし7は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項をすべて有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 本件特許発明8について (ア)対比 本件特許発明8と甲1製造方法発明とを対比する。 両者は次の点で一致する。 <一致点> 「生地加熱食品用加工澱粉の製造方法。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点1−3> 製造する対象である加工澱粉が、本件特許発明8では、「本件特許発明のRVA分析法において初期粘度上昇幅が2000cP以下である」のに対し、甲1製造方法発明は、「甲1発明のRVA分析法において最高粘度が880cpである」点。 <相違点1−4> 本件特許発明8は、「原料澱粉にヒドロキシプロピル化処理を施す工程を有し、 前記ヒドロキシプロピル化処理は、原料澱粉、硫酸ナトリウム及び水を含むスラリーに、アルカリ剤及びプロピレンオキサイドを添加して反応させることを含み、 前記ヒドロキシプロピル化処理における前記硫酸ナトリウムの使用量が、前記原料澱粉100質量部に対して24〜28質量部である」のに対し、甲1製造方法発明は、エーテル化リン酸架橋澱粉を製造する工程において、どのような化合物をどのような量比で用いるのかが特定されていない点。 (イ)判断 相違点1−3について検討する。 甲1発明のRVA分析法において最高粘度が880cpである加工澱粉は、申立理由1について、上記2(1)ア(イ)で検討したとおり、「本件特許発明のRVA分析法において初期粘度上昇が2000cP以下である」という本件特許発明8の要件を満たすということはできない。 そして、甲1には、甲1製造方法発明において、本件特許発明のRVA分析法を用いて測定した初期粘度上昇幅が2000cP以下である加工澱粉を製造することの動機付けとなる記載はない。また、他の証拠にも上記初期粘度上昇幅が2000cP以下である加工澱粉を製造することの動機付けとなる記載はない。 したがって、甲1製造方法発明において、甲1および他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点1−3に係る本件特許発明8の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 (ウ)まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明8は、甲1製造方法発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 エ 本件特許発明9について (ア)対比 本件特許発明9と甲1製造方法発明とを対比する。 両者は次の点で一致する。 <一致点> 「生地加熱食品用加工澱粉の製造方法。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点1−3> 製造する対象である加工澱粉が、本件特許発明9は、「本件特許発明のRVA分析法において初期粘度上昇幅が2000cP以下である」のに対し、甲1製造方法発明は、「甲1発明のRVA分析法において、最高粘度が880cpである」点。 <相違点1−5> 本件特許発明9は、「原料澱粉にヒドロキシプロピル化処理を施す工程を有し、 前記ヒドロキシプロピル化処理は、原料澱粉、硫酸ナトリウム及び水を含むスラリーに、アルカリ剤及びプロピレンオキサイドを添加して反応させることを含み、 前記ヒドロキシプロピル化処理の反応時間が32〜40時間である」のに対し、甲1製造方法発明は、エーテル化リン酸架橋澱粉を製造する工程において、どのような化合物をどのような反応時間で反応させるのかが特定されていない点。 (イ)判断 相違点1−3について検討するに、申立理由2の3(1)ウにおいて既に検討したとおり、甲1製造方法発明の、甲1発明のRVA分析法において、最高粘度が880cpである加工澱粉が、本件特許発明9の「本件特許発明のRVA分析法において初期粘度上昇が2000cP以下である」という要件を満たすということはできない。 そして、甲1には、甲1製造方法発明において本件特許発明9の、本件特許発明のRVA分析法を用いて測定した初期粘度上昇幅が2000cP以下である加工澱粉を製造することの動機付けとなる記載はない。また、他の証拠にも上記初期粘度上昇幅が2000cP以下である加工澱粉を製造することの動機付けとなる記載はない。 したがって、甲1製造方法発明において、甲1および他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点1−3に係る本件特許発明9の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 (ウ)まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明9は、甲1製造方法発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 オ 本件特許発明10について 本件特許発明10は、請求項8又は9を引用して特定するものであり、本件特許発明8又は9の発明特定事項をすべて有するものであるから、本件特許発明8及び本件特許発明9と同様に、甲1製造方法発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)甲2に基づく進歩性について ア 本件特許発明1について (ア)対比 本件特許発明1と甲2発明を対比する。 上記2(2)アで検討したとおり、両者は以下の点で一致する。 <一致点> 「ヒドロキシプロピル化処理された生地加熱食品用加工澱粉。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点2−1> 本件特許発明1においては、「本件特許発明のRVA分析法において初期粘度上昇が2000cP以下である」のに対し、甲2発明においては、「甲2発明のRVA分析法で測定されたRVAピーク粘度が2300〜3300cPである」点。 (イ)判断 甲2には、甲2発明において本件特許発明のRVA分析法を用いて測定した初期粘度上昇幅を2000cP以下にすることの動機付けとなる記載はない。また、他の証拠にも上記初期粘度上昇幅を2000cP以下とすることの動機付けとなる記載はない。 したがって、甲2発明において、甲2および他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点2−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 イ 本件特許発明2ないし7について 本件特許発明2ないし7は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項をすべて有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 本件特許発明8について (ア)対比 本件特許発明8と甲2製造方法発明とを対比する。 甲2製造方法発明における「水」、「硫酸ソーダ」、「タピオカ澱粉」、「スラリー」、「苛性ソーダ水溶液」、「プロピレンオキサイド」及び「反応させる」は、それぞれ、本件特許発明8における「水」、「硫酸ナトリウム」、「原料澱粉」、「スラリー」、「アルカリ剤」、「プロピレンオキサイド」及び「反応させる」に相当する。 したがって、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「生地加熱食品用加工澱粉の製造方法であって、 原料澱粉にヒドロキシプロピル化処理を施す工程を有し、 前記ヒドロキシプロピル化処理は、原料澱粉、硫酸ナトリウム及び水を含むスラリーに、アルカリ剤及びプロピレンオキサイドを添加して反応させることを含む、生地加熱食品用加工澱粉の製造方法。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点2−2> 製造する対象である加工澱粉が、本件特許発明8では「本件特許発明のRVA分析法において初期粘度上昇幅が2000cP以下である」のに対し、甲2製造方法発明では「甲2発明のRVA分析法で測定されたRVAピーク粘度が2300〜3300cPである」点。 <相違点2−3> ヒドロキシプロピル化処理における硫酸ナトリウムの使用量が、本件特許発明8では原料澱粉100質量部に対して24〜28質量部であるのに対して、甲2製造方法発明では澱粉100質量部に対して20質量部である点。 (イ)上記相違点2−2について検討する。 甲2発明のRVA分析法においてRVAピーク粘度が2300〜3300cPである加工澱粉は、申立理由1について、上記2(2)ア(イ)で検討したとおり、「本件特許発明のRVA分析法において初期粘度上昇が2000cP以下である」という本件特許発明8の要件を満たすということはできない。 そして、甲2には、甲2製造方法発明において、本件特許発明のRVA分析法を用いて測定した初期粘度上昇幅が2000cP以下である加工澱粉を製造することの動機付けとなる記載はない。また、他の証拠にも上記初期粘度上昇幅が2000cP以下である加工澱粉を製造することの動機付けとなる記載はない。 したがって、甲2製造方法発明において、甲2および他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点2−2に係る本件特許発明8の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 (ウ)まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明8は、甲2製造方法発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 エ 本件特許発明9について (ア)対比 本件特許発明9と甲2製造方法発明とを対比する。 <一致点> 「生地加熱食品用加工澱粉の製造方法であって、 原料澱粉にヒドロキシプロピル化処理を施す工程を有し、 前記ヒドロキシプロピル化処理は、原料澱粉、硫酸ナトリウム及び水を含むスラリーに、アルカリ剤及びプロピレンオキサイドを添加して反応させることを含む、生地加熱食品用加工澱粉の製造方法。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点2−2> 製造する対象である加工澱粉が、本件特許発明9では、「本件特許発明のRVA分析法において初期粘度上昇幅が2000cP以下である」のに対し、甲2製造方法発明では、「甲2発明のRVA分析法で測定されたRVAピーク粘度が2300〜3300cPである」点。 <相違点2−4> ヒドロキシプロピル化処理における反応時間が、本件特許発明9では「32〜40時間である」のに対して、甲2製造方法発明では、20時間である点。 (イ)上記相違点2−2について検討する。 甲2発明のRVA分析法においてRVAピーク粘度が2300〜3300cPである加工澱粉は、申立理由1について、上記2(2)ア(イ)で検討したとおり、「本件特許発明のRVA分析法において初期粘度上昇幅が2000cP以下である」という本件特許発明9の要件を満たすということはできない。 そして、甲2には、甲2製造方法発明において、本件特許発明のRVA分析法を用いて測定した初期粘度上昇幅が2000cP以下である加工澱粉を製造することの動機付けとなる記載はない。また、他の証拠にも上記初期粘度上昇幅が2000cP以下である加工澱粉を製造することの動機付けとなる記載はない。 したがって、甲2製造方法発明において、甲2および他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点2−2に係る本件特許発明9の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 (ウ)まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明9は、甲2製造方法発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 オ 本件特許発明10について 本件特許発明10は、請求項8又は9を引用して特定するものであり、本件特許発明8又は9の発明特定事項をすべて有するものであるから、本件特許発明8及び本件特許発明9と同様に、甲2製造方法発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)申立理由2についてのむすび したがって、本件特許発明1ないし10は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由2によって取り消すことはできない。 4 申立理由3(サポート要件)について (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)特許請求の範囲の記載 特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。 (3)サポート要件の判断 本件特許の発明の詳細な説明の【0001】ないし【0006】によると、本件特許発明1ないし4が解決しようとする課題は「保存性に優れた生地加熱食品を提供し得る生地加熱食品用加工澱粉を提供すること」であり、本件特許発明5が解決しようとする課題は「保存性に優れた生地加熱食品を提供し得る生地加熱食品用ミックスを提供すること」であり、本件特許発明6ないし7が解決しようとする課題は「保存性に優れた生地加熱食品を提供すること」であり、本件特許発明8ないし10が解決しようとする課題は「保存性に優れた生地加熱食品を提供し得る生地加熱食品用加工澱粉の製造方法を提供すること」である(以下、総称して「発明の課題」という。)。 そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0011】には、本発明の加工澱粉が、ヒドロキシプロピル化処理されていることに加えて更に、本件特許発明のRVA分析法において初期粘度上昇幅が2000cP以下である点であることにより、本発明の加工澱粉は老化耐性に優れることが記載され、本発明の加工澱粉を用いた生地加熱食品は保存性に優れ、もちもち感等の食感の経時劣化が抑制され、製造直後の食感を長期間維持し得ることが記載され、同【0007】ないし【0008】には、本件特許発明1、5ないし7に対応する記載がある。 また、同【0015】には、初期粘度上昇幅が2000cP以下であるヒドロキシプロピル化澱粉で老化が起こりにくい作用機序が記載されている。 さらに、同【0035】ないし【0051】には、初期粘度上昇幅が2000cP以下であるヒドロキシプロピル化処理された加工澱粉を用いた生地加熱食品は、「初期粘度上昇幅が2000cP以下である」という条件を満たさないヒドロキシプロピル化処理された加工澱粉を用いた生地加熱食品よりも、製造直後の生地加熱食品の食感が優れていることに加え、庫内温度5℃の冷蔵庫に7日間保存した後の食感が優れていることを確認している。 そうすると、発明の詳細な説明の上記記載から、当業者は初期粘度上昇幅が2000cP以下であるヒドロキシプロピル化処理された加工澱粉、当該加工澱粉を含有する生地加熱食品用ミックス、これらを用いて製造された生地加熱食品並びに当該加工澱粉の製造方法が、発明の課題を解決できると認識できる。 したがって、本件特許発明1ないし10は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし10に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。 (4)異議申立人の主張について 異議申立人の上記第3 3の主張について検討する。 「タピオカ澱粉」は、生地加熱食品に用いる加工澱粉の原料として特殊なものではないから、「タピオカ澱粉」を用いることで奏される効果は、程度の差はあれ、他の「澱粉」を用いることでも奏されると当業者は理解するし、そうでないことを示す具体的な証拠が示されているわけでもない。 本件特許の発明の詳細な説明の【0016】には、原料澱粉に施すヒドロキシプロピル化処理の条件を調整することで、初期粘度上昇幅を調整できることが記載されており、同【0017】には、具体的な反応時間や反応温度等が記載されているのであるから、実施例の反応条件によって得られた加工澱粉を用いることで奏される効果は、程度の差はあれ、実施例以外の反応条件によって得られた加工澱粉を用いることでも奏されると当業者は理解するし、そうでないことを示す具体的な証拠が示されているわけでもない。 本件特許の発明の詳細な説明の【0026】には、本件特許発明の加工澱粉は架橋処理されていてもよいことが記載されているから、ヒドロキシプロピル化処理された加工澱粉が奏する効果は、程度の差はあれ、架橋処理等の他の処理を経た加工澱粉でも奏されると当業者は理解するし、そうでないことを示す具体的な証拠が示されているわけでもない。 したがって、本件特許発明1ないし10は、発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。 よって、異議申立人の上記主張は採用できない。 (5)申立理由3についてのむすび したがって、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由3によって取り消すことはできない。 第5 結語 以上のとおり、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2024-08-02 |
出願番号 | P2022-548705 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(A23L)
P 1 651・ 113- Y (A23L) P 1 651・ 537- Y (A23L) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
柴田 昌弘 天野 宏樹 |
登録日 | 2023-11-14 |
登録番号 | 7385762 |
権利者 | 日清製粉プレミックス株式会社 |
発明の名称 | 生地加熱食品用加工澱粉及び生地加熱食品用ミックス |
代理人 | 弁理士法人翔和国際特許事務所 |