• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F28D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F28D
管理番号 1414217
総通号数 33 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-09-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2024-04-26 
確定日 2024-09-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第7371054号発明「ベーパーチャンバ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7371054号の請求項1−7に係る特許を維持する。 
理由
第1 手続の概要
特許第7371054号(以下、「本件特許」という。)の請求項1−7に係る特許についての出願は、令和3年4月7日に特許出願され、令和5年10月20日にその特許権の設定登録がされ、令和5年10月30日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和6年4月26日に特許異議申立人 佐藤惠一(以下、「特許異議申立人」という。)により、請求項1−7に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1−7に係る発明(以下、それぞれを「本件発明1」−「本件発明7」という。)は、本件特許の願書に添付された特許請求の範囲の請求項1−7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
空洞部が内部に形成された、第1の面と前記第1の面に対向した第2の面を有するコンテナと、前記空洞部に設けられたウィック構造体と、前記空洞部に封入された作動流体と、気相の前記作動流体が流通する、前記空洞部に設けられた蒸気流路と、を備え、
前記第1の面が、平面部位と前記平面部位から外方向へ突出した凸部位を有することで、前記コンテナが、平面部と前記平面部から外方向へ突出した凸部を有し、
前記コンテナの前記凸部の内部空間が、前記平面部の内部空間と連通していることで、前記空洞部が形成され、
前記凸部位に対向した前記第2の面の部位から前記凸部位へ向かって前記ウィック構造体が立設され、前記ウィック構造体が、前記第2の面及び前記凸部位と接し 、
前記第1の面が、引張強度が200N/mm2以下の金属材であるベーパーチャンバ。
【請求項2】
前記コンテナが、複数の前記凸部を有する請求項1に記載のベーパーチャンバ。
【請求項3】
前記ウィック構造体が、立設方向の応力に応じて立設方向の寸法が低下する部材である請求項1または2に記載のベーパーチャンバ。
【請求項4】
前記ウィック構造体が、金属粉を含む粉体の焼結体、金属細線からなるメッシュ、金属編組体、金属線材及び不織布からなる群から選択された少なくとも1種である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のベーパーチャンバ。
【請求項5】
前記ウィック構造体が、前記コンテナの内部空間を維持する支持部である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のベーパーチャンバ。
【請求項6】
前記コンテナが、一方の板状体と前記一方の板状体と対向する他方の板状体とにより形成され、前記一方の板状体が、外方向へ突出した前記凸部を有する請求項1乃至5のいずれか1項に記載のベーパーチャンバ。
【請求項7】
前記凸部と前記平面部が、冷却対象が熱的に接続される受熱部を有する請求項1乃至6のいずれか1項に記載のベーパーチャンバ。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠方法として、甲第1号証−甲第9号証(以下、それぞれを「甲1」−「甲9」という。)を提出し、概略、次の取消理由(以下、特許異議申立人が主張する理由を、それぞれ「取消理由1」−「取消理由3」という。)を主張している。

<甲号証一覧>
甲1:特開平10−267571号公報
甲2:特開平10−185467号公報
甲3:特開2002−130965号公報
甲4:特開平10−185465号公報
甲5:特開2011−102691号公報
甲6:国際公開第99/53256号
甲7:特開2000−124374号公報
甲8:JIS H 4000:2014 アルミニウム及びアルミニウム合金の板及び条
甲9:特開2004−108766号公報

1 取消理由1(特許法第29条第2項
・請求項1−7
本件発明1−7は、甲1に記載された発明と、甲2−8から導出される慣用技術と、甲9に記載された技術的事項とに基いて、当業者が容易に想到できたものである。

2 取消理由2(特許法第36条第6項第1号
・請求項1−7
本件発明1−7は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

3 取消理由3(特許法第36条第6項第2号
本件発明3−7は、発明の範囲が不明確である。

第4 甲号証の記載
1 甲1について
(1)甲1の記載事項及び図示事項
甲1には、次の記載事項及び図示事項がある。(下線は、当審によるものである。)。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は板型ヒートパイプとそれを用いた、半導体素子等の被冷却素子の冷却構造に関する。」

イ 「【0006】ヒートパイプの作動について簡単に記すと次のようになる。即ち、ヒートパイプの吸熱側において、ヒートパイプを構成する容器(コンテナ)の材質中を熱伝導して伝わってきた熱により、作動流体が蒸発し、その蒸気がヒートパイプの放熱側に移動する。放熱側では、作動流体の蒸気は冷却され再び液相状態に戻る。そして液相に戻った作動流体は再び吸熱側に移動(還流)する。このような作動流体の相変態や移動により、熱の移動がなされる。」

ウ 「【0018】
【発明の実施の形態】図1は本発明の板型ヒートパイプとそれを用いた冷却構造を説明するためのものであり、図1(ア)はその一部断面図である。板型ヒートパイプ10の図面における下側には半導体素子等の冷却すべき被冷却素子20、21、22がプリント基板30に実装されている(図1(ア))。尚、尚、この例では冷却すべき素子の数は3個になっているがこれに限られることはない。図中の符号23は被冷却素子20、21、22のリードである。
【0019】これら被冷却素子20、21、22のプリント基板30からの高さは各々異なっている。板型ヒートパイプ10は、被冷却素子20、21、22が実装された基板に相対して設けられている。そして板型ヒートパイプ10には、相対する被冷却素子20、21、22との距離に従って所定の凸部13が備わっている。従って被冷却素子20、21、22の高さが各々異なっていても、これらの被冷却素子20、21、22を一つの板型ヒートパイプ10に熱的な接触をさせることができる。
【0020】尚、被冷却素子20、21、22と板型ヒートパイプ10との接触は、直接接触させても良いし、伝熱シートや伝熱グリス等を介在させて接触させても良い。或いは半田等により接合する場合もある。被冷却素子20、21、22から板型ヒートパイプ10に伝わった熱は概ねフィン31を経て放熱される。図1では被冷却素子20、21、22と板型ヒートパイプ10との間に存在する伝熱シートや伝熱グリス等は図示を省略してある。
【0021】図1(イ)は図1の板型ヒートパイプ10の組み立て状況を示す説明図である。上板110と、凸部130、131、132が設けられた下板111とを接合して図1に示されるコンテナ11を組み立てる。この上板110と下板111との間に図1(ア)における空洞部12が形成される。板型ヒートパイプ10を構成する上板110や下板111等は熱伝導性に優れる銅材やアルミニウム材を用いると望ましい。図1(ア)では省略してあるが、この空洞部12内には適宜作動流体が収容されている。作動流体はコンテン11の材質との適合性その他を考慮して選定すれば良い。例えば水、代替フロン、フロリナート等が適用できる。また、作動流体の蒸発、凝縮の相変化がなされやすいように、空洞部12の内部は洗浄や、真空脱気等がなされている。」

エ 「【0024】図1に示した板型ヒートパイプは、その空洞部12内にメッシュ等が備わっていないものであるが、図4に示すように、この空洞部12内にメッシュ40を配置すると、その毛細管作用による性能向上が望める。メッシュとは通常は網状のシートを指すが、これがコンテナ11の下壁に設けられた凸部の部分になるべく沿って配置されるように、適宜、メッシュ40に絞り加工や切り込み加工を施すと良い。
【0025】図4の板型ヒートパイプ10では、コンテナ11の下壁側にのみメッシュ40を設けた場合であるが、図5に示すように、コンテナ11の上壁側にもメッシュ400を設けてもよい。こうすることで、ヒートパイプとして放熱部(凝縮部)の面積が実質増大し、一層の性能向上が望めるからである。コンテナ11の上壁側にメッシュ400が保持されるようにするには、例えばメッシュ400をコンテナ11に接合したりすれば良い。接合方法は抵抗溶接法が簡易に適用できる。或いは、メッシュのシートを丸め、メッシュ自体のバネ力により、メッシュの一部がコンテナ11の上壁側に接触するようにすることもできる。
【0026】図6は2つの形態のメッシュを空洞部12内に設けた例を示すものである。この例では、メッシュ40の他に、凸部から板型ヒートパイプの厚さ方向に立ち上がった形態のメッシュ41を設けてある。メッシュ41は図7に示すように、メッシュのシートを丸めて渦巻き状にしたものである。このメッシュ41はコンテナ11の下壁や上壁と接合させると、これらとの熱抵抗が小さくなって望ましい。この際、渦巻き状のメッシュ41の下部や上部に切り込み等を設け、コンテナ11の下壁や上壁との接合面積を増大させると良い。
【0027】このように凸部から板型ヒートパイプの厚さ方向に立ち上がった形態のメッシュ41は、被冷却素子20、21、22の内、最も熱流速の大きな素子(この例では例えば被冷却素子21を最も熱流速の大きな素子としている)の部分に設けると特に望ましい。メッシュ41を設けることで、被冷却素子21の熱を受けて作動流体が蒸発するための蒸発部分の表面積が実質増大するからである。」

オ 「【0029】ところで、板型ヒートパイプは、その運転に際し、内部の作動流体の蒸発に伴う内圧の上昇が生ずる。このとき板型の板厚方向に膨らみやすい。そこで、内圧上昇による板型ヒートパイプのコンテナの変形を抑制する意味で、図9に示すような支持体63を設けると良い。この支持体63は板型ヒートパイプの上下のコンテナ壁に接合されて、膨らみを抑制する支柱の機能を奏する。
【0030】或いは、図10に示すように、コンテナ70自体にエンボス加工によるエンボス部700を設け、これを支柱として働かせても良い。またこれら支持体63やエンボス700は、その両方を併用しても構わない。
【0031】図11はメッシュのシートを丸めたものに支柱の機能を持たせたものである。尚、図6の例におけるメッシュ41や図8における伝熱金属体53についても、これらを上下のコンテナ壁に接合することで、支柱の機能を併せ持たせることも可能である。」

カ 「【0033】上述した本発明の板型ヒートパイプは、実装高さが各々異なる複数の被冷却素子との熱的な接続が容易であり、スペース効率等で有効な冷却構造を実現するものである。また、適宜メッシュを設けることで、発熱量の異なる被冷却素子の冷却も効率的に行うことができる。メッシュは本発明の板型ヒートパイプの耐圧生向上にも寄与させることも可能である。また本発明の板型ヒートパイプに適宜支柱を設けることで、蒸発部の面積を増大させたり、或いは耐圧性を高めることもできる。
【0034】
【発明の効果】以上のように本発明の板型ヒートパイプは、複数の被冷却素子の冷却に適したものであり、実装された複数の被冷却素子の高さが各々異なっている場合や、各々の被冷却素子の熱流速が異なる場合でも、これらの効率的な冷却構造が実現するものである。」

キ 「【図1】



ク 「【図4】



ケ 「【図5】



コ 「【図6】



サ 「【図7】



(2)上記(1)から認められること
ア 記載事項ウの段落【0021】及び図示事項キ−コから、板型ヒートパイプ10は、空洞部12が内部に形成された、上板110と、下板111とを接合して組み立てられたコンテナ11を備えるものといえる。

イ 記載事項ウの段落【0021】から、空洞部12内に収容された作動流体は、空洞部12の内部で蒸発、凝縮の相変化がなされるものといえる。
また、記載事項エの段落【0026】及び図示事項コ−サから、板型ヒートパイプ10は、空洞部12内に板型ヒートパイプ10の厚さ方向に立ち上がった形態のメッシュ41が設けられるものである。
そうすると、板型ヒートパイプ10は、空洞部12内に設けられたメッシュ41と、空洞部12内に収容された作動流体とを備え、作動流体が空洞部12の内部で蒸発、凝縮の相変化がなされるものといえる。

ウ 記載事項ウ及び図示事項キから、コンテナ11を構成する下板111には、平面状の部位と平面状の部位から外方向へ突出した凸部130、131、132が設けられることが看取できる。
そして、図示事項キから、コンテナ11を構成する下板111の凸部130、131、132の内部空間が、前記平面状の部位の内部空間と連通していることで、空洞部12が形成されているといえる。

エ 上記イ及び記載事項エの段落【0026】並びに図示事項コ−サから、メッシュ41が接する下壁とは、凸部のことであると理解できる。
そうすると、凸部に対向した上板110の部位から凸部へ向かってメッシュ41が立設され、メッシュ41が、上板110及び凸部と接しているといえる。

(3)甲1発明
上記(1)及び(2)から、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

「 空洞部12が内部に形成された、上板110と、下板111とを接合して組み立てられたコンテナ11と、空洞部12内に設けられたメッシュ41と、空洞部12内に収容された作動流体とを備え、作動流体が空洞部12の内部で蒸発、凝縮の相変化がなされるものであり、
コンテナ11を構成する下板111には、平面状の部位と平面状の部位から外方向へ突出した凸部130、131、132が設けられ、
コンテナ11を構成する下板111の凸部130、131、132の内部空間が、前記平面状の部位の内部空間と連通していることで、空洞部12が形成され、
凸部に対向した上板110の部位から凸部へ向かってメッシュ41が立設され、メッシュ41が、上板110及び凸部と接し、
下板111には、銅材やアルミニウム材を用いた板型ヒートパイプ10。」

2 甲2について
(1)甲2の記載事項
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、アルミニウム製のヒートパイプの製造方法に関し、特にプレート型のヒートパイプに好適な製造方法に関する。」

イ 「【0014】さて図1のプレート型ヒートパイプ5は、そのコンテナ3をコンテナ部材であるアルミニウム下板1とアルミニウム上板2とを、ろう付け法により接合して形成したものである。図2に示すように、アルミニウム上板2は、その周囲部の他、凸部20の部分において、アルミニウム下板1と接している。またアルミニウム上板2には凸部20が所定数設けられている。これら周囲部や凸部20の部分をろう付けによりアルミニウム下板1と接合している。尚、図1のような方向で見れば、凸部20は凹んだ形状に見えるが、この凸部20との呼称については、アルミニウム上板2に設けた凸部という意味でこの用語を用いているに過ぎない。」

ウ 「【0021】本発明において、コンテナを構成するAl材としては、JISA1000系、A3000系等が適宜適用できる。またろう材としては、JISA4000系のAl製ろう材等が代表的に適用できる。ブレージングシートを用いる場合は、例えばJISA3000系の芯材にJISA4000系のろう材をクラッドしたもの等が使用できる。」

(2)甲2に記載された技術的事項
上記(1)から、甲2には、以下の技術的事項(以下、「甲2に記載された技術的事項」という。)が記載されている。

「アルミニウム下板1とアルミニウム上板2とを、ろう付け法により接合して形成したプレート型ヒートパイプ5において、アルミニウム材として、JISA1000系、A3000系のものを用いること。」

3 甲3について
(1)甲3の記載事項
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、中間板の両面に複数条の空洞部が形成された平面型ヒートパイプに関する。
【0002】
【従来の技術】近年、ヒートパイプは、特にエレクトロニクス関連において、高速化、高容量化したCPU等の電子部品の冷却に好適な冷却装置として、平面形状に形成された平面型ヒートパイプが採用されるようになっている。ヒートパイプには密封された空洞部が形成され、その空洞部に収容された作動流体により、放熱を必要とする発熱体から発する熱を相変態させると共に移動させる熱移動装置である。
【0003】ヒートパイプ内の作動流体としては、通常、水や水溶液、アルコール、その他有機溶剤等が使用される。前述したようにヒートパイプは空洞部内に収容された作動流体の相変態等の作用を利用することから、密封された空洞部内に作動流体以外のガス等の混入をなるべく避けるように製造されることになる。このような混入物は通常、製造途中に混入する大気(空気)や作動流体中に溶存している炭酸ガス等である。
【0004】従来この種の平面型ヒートパイプとしては、図6に示すような構成のものが知られている。平面状に形成された上板100及び下板101は、例えばJIS−A1000系のアルミニウム板からなり、この上板100及び下板101の間には、上記アルミニウム板と同様な板材からなる中間板102が固定されている。そして、中間板102を略波状に形成することによって、上板100及び下板101の間に複数条の空洞部103が形成されている。」

(2)甲3に記載された技術的事項
上記(1)から、甲3には、以下の技術的事項(以下、「甲3に記載された技術的事項」という。)が記載されている。

「平面型ヒートパイプにおいて、平面状に形成された上板100及び下板101が、JIS−A1000系のアルミニウム板からなること。」

4 甲4について
(1)甲4の記載事項
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、例えば、ノートブック式パソコンのMPU用の熱拡散板などとして好適に用いられる、プレート型ヒートパイプに関する。」

イ 「【0016】図1に示されるプレート型ヒートパイプ(1)において、(2)はループ型の蛇行細孔トンネルである。この蛇行細孔トンネル(2)は、図2(イ)に示されるように、2枚の金属薄板(3)(4)をその対向面に所定のパターンに圧着防止剤を塗布して積層圧着し、圧着防止剤の塗布された前記パターン部を膨管する、いわゆるロールボンド法によって形成されたものである。
【0017】具体的には、例えば、一方の金属板(3)としてA1100アルミニウム合金材を用いると共に、もう一方の金属薄板(4)としてZrを含むアルミニウム合金材を用い、これらのうちの一方の金属薄板の対向側の面に、蛇行細孔トンネル(2)の平面形状に対応したパターンに圧着防止剤を塗布する。塗布はパターン印刷により行うのが一般的である。圧着防止剤としては、例えば、1ミクロン以下のコロイド状グラファイトを主成分とするインキが用いられる。その後、両金属薄板(3)(4)を重ね合わせ積層し、熱間圧延にて圧接する。これにより、圧着防止剤の付着していない部分のみが圧接される。しかるのち、両金属板(3)(4)の焼鈍温度の差を利用し、圧着防止剤の付着している塗布パターン部に圧縮空気を吹き込んで金型膨管により金属板(3)のみを片面膨管させる。以上のようにして、図2に示されるような蛇行細孔トンネル(2)が形成される。その後、蛇行細孔トンネル(2)内を真空状態にし、入口管(5)を通じて、内部にフロリナート、フロン134a、111、123等によるヒートパイプ作動液を20〜80%封入し、該入口管(5)をピンチして溶接等により完全に封じる。以上のようにして蛇行細孔トンネル(2)を有するプレート型ヒートパイプ(1)が製造される。」

(2)甲4に記載された技術的事項
上記(1)から、甲4には、以下の技術的事項(以下、「甲4に記載された技術的事項」という。)が記載されている。

「2枚の金属薄板(3)(4)をその対向面に所定のパターンに圧着防止剤を塗布して積層圧着し、圧着防止剤の塗布された前記パターン部を膨管する、いわゆるロールボンド法によって形成したプレート型ヒートパイプにおいて、一方の金属板(3)としてA1100アルミニウム合金材を用いると共に、もう一方の金属薄板(4)としてZrを含むアルミニウム合金材を用いること。」

5 甲5について
(1)甲5の記載事項
ア 「【0002】
本発明は、放熱機構に関し、特に、作動流体として水を使用し、優れた放熱効果を有するベーパーチャンバー及びその製造方法に関する。」

イ 「【0017】
図3は、本発明の一実施形態によるベーパーチャンバーを示した分解図である。図3に示すように、ベーパーチャンバー2は、上蓋20、基部21、第1の側板22、第2の側板24、充填管26、及び毛細管構造層28を含む。実際には、ベーパーチャンバー2のケーシングを構成している板の数は、実施例の4(上蓋20、基部21、第1の側板22、第2の側板24)に限定されず、実際の要求に基づいて決定される。注入口220は、第1の側板22に設けられ、そこから充填管26を通じてベーパーチャンバー2に水が充填される。上蓋20、基部21、第1の側板22、第2の側板24及び充填管26を組み立てて、ベーパーチャンバー2のケーシングを形成する際には、作動流体として使用される水を収容するための収容空間が、ベーパーチャンバー2のケーシング内に形成される。水と接触する収容空間の内壁は全て、毛細管構造層28(及び毛細管構造層の下に設けられる防水層)によって覆われる。すなわち、図3に示すように、毛細管構造層28は、上蓋20、基部21、第1の側板22及び第2の側板24の内面を覆うように設けられる。
【0018】
本実施形態において、基部21は、アルミニウムを、押出成形又はダイキャスト成形することにより製造され、上蓋20、第1の側板22及び第2の側板24は、冷間鋳造及びスタンピング成形によって製造される。しかしながら、実際には、上蓋20、第1の側板22及び第2の側板24の製造方法は、アルミニウムの押出成形、ダイキャスト成形、又は冷間鋳造及びスタンピング成形のような上記の成形方法に限定されない。また、基部、上蓋及び二つの側板の材料も、純アルミニウム又はアルミニウム合金のようなアルミニウムに限定されず、実際の要求に応じて適宜決定される。」

ウ 「【0026】
図7は、本発明の他の実施形態による、ベーパーチャンバーの製造方法を示したフローチャートである。図7に示すように、ステップS10及びS11をそれぞれ実行して、アルミニウムの押出成形又はダイキャスト成形により基部を製造し、冷間鋳造及びスタンピング成形により上蓋及び二つの側板を製造する。本実施形態では、基部、上蓋及び二つの側板は、従来より使用されている純アルミニウムやアルミニウム合金等のアルミニウムによって形成される。」

(2)甲5に記載された技術的事項
上記(1)から、甲5には、以下の技術的事項(以下、「甲5に記載された技術的事項」という。)が記載されている。

「上蓋20、基部21、第1の側板22、第2の側板24、充填管26、及び毛細管構造層28を含むベーパーチャンバー2において、基部、上蓋及び二つの側板が、純アルミニウムやアルミニウム合金等のアルミニウムによって形成されること。」

6 甲6について
(1)甲6の記載事項
ア 「技術分野
本発明は半導体素子等の電気 ・電子部品を効果的に冷却するための板型ヒートパイプおよびそれを用いた実装構造に関する。」(第1ページ第3−5行)

イ 「 図を参照して、この発明の板型ヒートパイプを更に詳しく説明する。図1は本発明の板型ヒートパイプの例とその実装構造の例を模式的に示す説明図である。基板30はプリント基板等を想定し、その上には半導体素子等の被冷却部品40が実装されている。図中の符号31はリードを示す。
被冷却部品40の上面側に接するように板型ヒートパイプ1を配置する。被冷却部品40と板型ヒートパイプ1とは、直接に接触させる場合の他、必要に応じて伝熱グリス等を介在させて接触させれば良い。また場合によってはこれらを半田付け等によって接合しても構わない。板型ヒートパイプ1を構成するコンテナ10の材質は特に限定されないが、銅材やアルミニウム材等の熱伝導性に優れる材質を用いると、優れた熱的性能を有する板型ヒートパイプ1を得ることができ、望ましい。銅材としてはJIS規格C1020、C1100等、アルミ二ウム材としては同じくJTS(当審注:「JIS」の誤記と認める。)規格A1100、A3000系、A5000系、A6000系等が挙げられる。」(第7ページ第8−20行)

(2)甲6に記載された技術的事項
上記(1)から、甲6には、以下の技術的事項(以下、「甲6に記載された技術的事項」という。)が記載されている。

「板型ヒートパイプ1を構成するコンテナ10の材質として、銅材としてはJIS規格C1020、C1100等、アルミ二ウム材としては同じくJIS規格A1100、A3000系、A5000系、A6000系等の熱伝導性に優れる材質を用いること。」

7 甲7について
(1)甲7の記載事項
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は半導体素子等の電気・電子部品の冷却に好適な板型ヒートパイプに関するものである。」

イ 「【0008】
【発明の実施の形態】図1は本発明の板型ヒートパイプの一実施形態を模式的に示したものである。図において、1は板型ヒートパイプAを構成するコンテナで、該コンテナ1は吸熱面2と、放熱面3とからなり、銅材やアルミニウム材等の熱伝導性に優れる材質で成形されている。コンテナ1を成形する銅材としてはJIS規格C1020、C1100等の銅合金材を、アルミニウム材としては同じくJIS規格A1100、A3000系、A5000系、A6000系等のアルミニウム合金材を使用するとよい。6は伝熱ブロックで、コンテナ1の空洞部4に配置され、コンテナ1の吸熱面2と放熱面3のそれぞれの内壁に接して設けられている。伝熱ブロック6は被冷却部品の発生する熱を効率よく板状ヒートパイプAに伝達するために設けるもので、従って、該伝熱ブロック6をコンテナ1の吸熱面2および放熱面3に接合しておくことで、これらの接合部分の熱抵抗がより小さくでき放熱効果は向上する。
【0009】7はウィックで、該ウィック7はコンテナ1の放熱面3内壁に沿って配置され、伝熱ブロック6の側壁を辿るようにコンテナ1の吸熱面2の内壁まで延び、その先端部は吸熱面2の内壁に接触するように配置されている。このように配置すると、ウィック7とそれぞれの内壁および側壁との熱抵抗が小さい状態で接続することができる。なお、ウィック7の先端部を吸熱面2の内壁に金属接合しても良い。金属接合すれば、これらの間の熱抵抗は一層小さくなる。」

(2)甲7に記載された技術的事項
上記(1)から、甲7には、以下の技術的事項(以下、「甲7に記載された技術的事項」という。)が記載されている。

「板型ヒートパイプAを構成するコンテナを、JIS規格C1020、C1100等の銅合金材やJIS規格A1100、A3000系、A5000系、A6000系等のアルミニウム合金材等の熱伝導性に優れる材質で成形すること。」

8 甲9について
(1)甲9の記載事項
ア 「【0001】
本発明は、回路等の冷却装置及び冷却方法に関する。」

イ 「【0019】
図4は、本明細書で説明した方法および装置に使用することができるほぼ平面の可撓性熱伝導要素40を示す等角図である。熱伝導要素40は、銅などの熱伝導金属からなる金属箔でよく、また上側と下側の金属箔シートの間に挟まれた波状の金属箔を含むこともできる。さらに、可撓性熱伝導要素40は、前述の米国特許第5、560、423号に記載されたような、ほぼ平坦なヒートパイプを含むことができる。すなわち、可撓性熱伝導要素40は、蒸発器として働く下部シート42と、凝縮器として働く上部シート44を含むことができる。上部シート44と下部シート42の間に吸収材(図示せず)を配置することができる。熱伝導要素40は、凸状または凹状の形状にたわむ能力を有する他に、それぞれの位置46aおよび48aに変形されるように示された面46および48で示されるように、階段状に変形させることができる。」

ウ 「【0029】
図6と図7に示した実施形態の一変形例として、ほぼ平面の可撓性熱伝導要素270を、回路装置62、64、66および68の上側面に直接配置することができ、ヒートパイプ210、220、240および250をなくすことができる。しかしながら、この変形においては、ヒートパイプ210、220、240および250を使用して可撓性熱伝導要素270を回路装置62、64、66および68から離間させる場合よりも、可撓性熱伝導要素270は、回路基板60の近くに配置される。したがって、この変形は、回路基板60の近くの冷却空気の循環を妨げる可能性がある。」

エ 「【図4】



オ 「【図7】



(2)甲9に記載された技術的事項
上記(1)から、甲9には、以下の技術的事項(以下、「甲9に記載された技術的事項」という。)が記載されている。

「回路装置62、64、66および68の上側面に直接配置することができる可撓性熱伝導要素について、凸状または凹状の形状にたわむ能力を有する他に、階段状に変形させることができるようにすること。」

第5 取消理由1(特許法第29条第2項)についての当審の判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。

甲1発明における「空洞部12」は、その機能、構造又は技術的意義からみて、本件発明1における「空洞部」に相当する。以下同様に、「下板111」は「第1の面」に、「上板110」は「第2の面」に、「コンテナ11」は「コンテナ」に、「メッシュ41」は「ウィック構造体」に、「作動流体」は「作動流体」に相当する。
そうすると、甲1発明における「上板110と、下板111とを接合して組み立てられたコンテナ11」は、上板110が下板111に対向する面を構成するといえるから、本件発明1における「第1の面と前記第1の面に対向した第2の面を有するコンテナ」に相当する。
また、甲1発明における「空洞部12内に収容された作動流体」は、本件発明1における「空洞部に封入された作動流体」に相当する。
また、甲1発明の「作動流体が空洞部12の内部で蒸発、凝縮の相変化がなされるものであり」は、蒸発して気相に変化した作動流体が空洞部12の内部を流通するものである。そして、この作動流体の流通路は、甲1の記載事項イから蒸気の流路といえるから、甲1発明の「作動流体が空洞部12の内部で蒸発、凝縮の相変化がなされるものであ」ることは、本件発明1の「気相の前記作動流体が流通する、前記空洞部に設けられた蒸気流路と、を備え」ることに相当するといえる。
そうすると、甲1発明の「空洞部12が内部に形成された、上板110と、下板111とを接合して組み立てられたコンテナ11と、空洞部12内に設けられたメッシュ41と、空洞部12内に収容された作動流体とを備え、作動流体が空洞部12の内部で蒸発、凝縮の相変化がなされるものであ」ることは、本件発明1の「空洞部が内部に形成された、第1の面と前記第1の面に対向した第2の面を有するコンテナと、前記空洞部に設けられたウィック構造体と、前記空洞部に封入された作動流体と、気相の前記作動流体が流通する、前記空洞部に設けられた蒸気流路と、を備え」ることに相当する。

また、甲1発明の「平面状の部位」及び「凸部130、131、132」は、本件発明1の「平面部位」及び「凸部位」に相当する。
また、甲1発明において、「コンテナ11を構成する下板111」に「平面状の部位」及び「凸部130、131、132」が設けられることは、甲1発明のコンテナ11全体として、平面部及び凸部を有するものといえる。
そうすると、甲1発明の「コンテナ11を構成する下板111には、平面状の部位と平面状の部位から外方向へ突出した凸部130、131、132が設けられ」ることは、本件発明1の「前記第1の面が、平面部位と前記平面部位から外方向へ突出した凸部位を有することで、前記コンテナが、平面部と前記平面部から外方向へ突出した凸部を有」することに相当する。

また、甲1発明の「コンテナ11を構成する下板111の凸部130、131、132の内部空間が、前記平面状の部位の内部空間と連通していることで、空洞部12が形成され」ることは、本件発明1の「前記コンテナの前記凸部の内部空間が、前記平面部の内部空間と連通していることで、前記空洞部が形成され」ることに相当する。

また、甲1発明の「凸部に対向した上板110の部位から凸部へ向かってメッシュ41が立設され、メッシュ41が、上板110及び凸部と接」することは、本件発明1の「凸部位に対向した前記第2の面の部位から前記凸部位へ向かって前記ウィック構造体が立設され、前記ウィック構造体が、前記第2の面及び前記凸部位と接」することに相当する。

また、甲1発明の「下板111には、銅材やアルミニウム材を用い」ることは、本件発明1の「前記第1の面が、引張強度が200N/mm2以下の金属材である」ことと、「前記第1の面が、金属材である」限りにおいて一致する。

また、甲1発明の「板型ヒートパイプ10」は、本件発明1の「ベーパーチャンバ」に相当する。

そうすると、甲1発明と、本件発明1とは、次の一致点で一致し、相違点で相違する。

〔一致点〕
「 空洞部が内部に形成された、第1の面と前記第1の面に対向した第2の面を有するコンテナと、前記空洞部に設けられたウィック構造体と、前記空洞部に封入された作動流体と、気相の前記作動流体が流通する、前記空洞部に設けられた蒸気流路と、を備え、
前記第1の面が、平面部位と前記平面部位から外方向へ突出した凸部位を有することで、前記コンテナが、平面部と前記平面部から外方向へ突出した凸部を有し、
前記コンテナの前記凸部の内部空間が、前記平面部の内部空間と連通していることで、前記空洞部が形成され、
前記凸部位に対向した前記第2の面の部位から前記凸部位へ向かって前記ウィック構造体が立設され、前記ウィック構造体が、前記第2の面及び前記凸部位と接し 、
前記第1の面が、金属材であるベーパーチャンバ。」

〔相違点〕
「 前記第1の面が、金属材である」ことについて、本件発明1では、前記第1の面が、「引張強度が200N/mm2以下」の金属材であるのに対して、甲1発明では、「下板111には、銅材やアルミニウム材を用い」る点。

(2)判断
上記相違点について検討する。
甲2−4、6−7に記載された技術的事項は、ベーパチャンバに、A1000系又はA3000系のアルミニウム材を用いることを示している。
しかしながら、甲8によれば、A1000系のアルミニウム材には、引張強度の上限が示されていないものが存在する。
また、A3000系のアルミニウム材は、引張強度の上限が示されていないものや、引張強度が200N/mm2よりも高いものが存在する。
したがって、A1000系、A3000系のアルミニウム材全ての引張強度が200N/mm2以下であるということが、技術常識であるとはいえない。
よって、甲1発明において、ベーパーチャンバーの下板111に、A1000系、A3000系のアルミニウム材を採用したとしても、引張強度が200N/mm2以下のものが得られるとはいえない。
また、甲5に記載された技術的事項は、ベーパチャンバに、純アルミニウム、アルミニウム合金を用いることを示しているが、甲5には具体的な引張強度について記載するものでもないから、甲1発明のベーパチャンバーに対して、甲5に記載された技術的事項を踏まえても、引張強度が200N/mm2以下とすることが、当業者が容易に想到できたとはいえない。。
また、甲9に記載された技術的事項は、甲1発明の板型ヒートパイプ10と基本構造が異なり、甲9には具体的な引張強度について記載するものでもないから、甲1発明のベーパチャンバーに対して、甲9に記載された技術的事項を踏まえても、引張強度が200N/mm2以下とすることが、当業者が容易に想到できたとはいえない。

また、本件特許の願書に添付された明細書の段落【0039】の「コンテナ10の材料としては、少なくとも一方の板状体11の第1の面21は、引張強度が200N/mm2以下の金属材であることが好ましい。第1の面21が引張強度200N/mm2以下の金属材であることにより、コンテナ10の凸部16が厚さ方向の応力Fを受けると、コンテナ10の厚さ方向に塑性変形しやすくなる。すなわち、コンテナ10の凸部16が、厚さ方向の応力Fにより潰れやすくなる。結果として、後述するように、コンテナ10の厚さ方向における凸部16の塑性変形量に追従したウィック構造体40の高さ調整も容易化される。コンテナ10の第1の面21を有する一方の板状体11の材料の引張強度は、凸部16のコンテナ10の厚さ方向への塑性変形がより容易化する点から、185N/mm2以下がより好ましく、155N/mm2以下が特に好ましい。一方で、コンテナ10の材料の引張強度の下限値は、コンテナ10の機械的強度の点から、一方の板状体11では50N/mm2が好ましく、他方の板状体12では185N/mm2が好ましい。なお、コンテナ10の材料の引張強度は、JIS Z 2241にて測定した強度を意味する。」と記載されている。
よって、本件発明1は、上記相違点に係る構成を備えることで、コンテナ10の凸部16が、厚さ方向の応力Fにより潰れやすくなるという作用効果を奏するものと理解できる。
そして、このような作用効果は、甲1発明、甲2−7に記載された技術的事項、甲8に記載された事項、及び甲9に記載された技術的事項から、当業者が予測し得たということはできない。

そうすると、本件発明1は、甲1発明と、甲2−7に記載された技術的事項、甲8に記載された事項から導出される慣用技術及び甲9に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、特許異議申立書の第3の4(2)ウ(ア)における相違点1についての検討(第43ページ第13行−第46ページ第25行)において、JIS規格A1100、A1000系、A3000系のアルミニウム材は、そのほとんどが、引張強度が200N/mm2以下の金属材に相当するから、甲1発明に慣用技術(甲2−8)を適用して、そのコンテナ11の下板111の引張強度が200N/mm2以下の金属材(特に、JIS規格A1100、A1000系、A3000系のアルミニウム材)とすることは、当業者にとって容易であった旨の主張をしている。
しかしながら、甲8によれば、JIS規格A1100、A1000系、A3000系のアルミニウム材には、引張強度が200N/mm2以下だけではなく、引張強度が200N/mm2よりも高いものが含まれることが理解できる。そして、甲1発明において、JIS規格A1100、A1000系、A3000系のアルミニウム材を採用した場合に、引張強度が200N/mm2以下の金属材のみを選択する合理的な理由はない。
したがって、特許異議申立人の主張を、採用することができない。

2 本件発明2−7について
本件発明2−7は、本件発明1と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件発明1−7は、甲1に記載された発明と、甲2−8から導出される慣用技術と、甲9に記載された技術的事項とに基いて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

第6 取消理由2(特許法第36条第6項第1号)についての当審の判断
1 明細書の発明の詳細な説明の記載
本件発明の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。

・「【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記事情に鑑み、本発明は、外部環境からの圧力に対する耐性を有しつつ、冷却対象との熱的接続性に優れることで優れた熱輸送特性を発揮するベーパーチャンバを提供することを目的とする。」

・「【0020】
本発明のベーパーチャンバの態様によれば、前記第1の面が引張強度200N/mm2以下の金属材であることにより、コンテナの凸部が塑性変形しやすくなり、結果、コンテナの厚さ方向における凸部の塑性変形量に追従したウィック構造体の高さ調整も容易化される。従って、本発明のベーパーチャンバでは、凸部の外方向への突出量の精度が向上するので、冷却対象との熱的接続性が確実に向上する。」

・「【0031】
ウィック構造体40の第1のウィック部41は、凸部位31に対向した第2の面22の部位から凸部位31へ向かって立設されている。第1のウィック部41は、所定間隔にて複数立設されている。また、ウィック構造体40の第1のウィック部41は、第2の面22及び凸部位31と接している。従って、第1のウィック部41の一端は、第1の面21の内面23のうちの凸部位31に接しており、第1のウィック部41の他端は、第2の面22の内面24のうち、凸部位31に対向した部位に接している。第1のウィック部41の一端から他端までの寸法が、第1のウィック部41の高さとなっている。また、第1のウィック部41は、一端から他端まで同一材料となっている。

・「【0038】
また、ウィック構造体40は、コンテナ10の内部空間を維持する支持部としても機能する。支持部でもあるウィック構造体40は、減圧されているコンテナ10の内部空間、すなわち、空洞部13を維持する機能を有する。ウィック構造体40の第1のウィック部41は、コンテナ10の凸部16にて、コンテナ10の内部空間を維持する支持部として機能し、ウィック構造体40の第2のウィック部42は、コンテナ10の平面部17にて、コンテナ10の内部空間を維持する支持部として機能する。ベーパーチャンバ1では、支持部(ウィック構造体40)と支持部(ウィック構造体40)の間の空間部が、気相の作動流体が流通する蒸気流路15となる。」

・「【0046】
コンテナ10が4つの発熱体100−1、100−2、100−3、100−4に熱的に接続される際に、コンテナ10の凸部16−1、16−2、16−3が、それぞれ、発熱体100−2、100−3、100−4からコンテナ10の厚さ方向の応力Fを受けることで、凸部16−1、16−2、16−3がコンテナ10の厚さ方向に圧縮されて塑性変形する。その際に、発熱体100−2、100−3は発熱体100−4よりも高いことから、凸部16−1と凸部16−2は凸部16−3よりも応力Fが大きくなり、結果、凸部16−3よりも塑性変形量が大きくなる。コンテナ10の厚さ方向における凸部16−1、16−2、16−3の塑性変形量に追従して、ウィック構造体40の第1のウィック部41がコンテナ10の厚さ方向に所定量圧縮される。従って、凸部16−1と凸部16−2に位置する第1のウィック部41は、凸部16−3に位置する第1のウィック部41よりも圧縮量が大きくなる。ベーパーチャンバ1では、発熱体100の高さの違いに応じて、凸部16が所定量塑性変形し、また、第1のウィック部41が所定量圧縮されることで、空洞部13を維持しつつ、高さの異なる複数の発熱体100に対しても優れた熱的接続性を発揮できる。」

上記記載から、本件発明の解決しようとする課題は、外部環境からの圧力に対する耐性を有しつつ、冷却対象との熱的接続性に優れることで優れた熱輸送特性を発揮するベーパーチャンバを提供することと理解できる。
そして、上記記載から、「第1の面が引張強度200N/mm2以下の金属材であること」及び「ウィック構造体40の第1のウィック部41は、凸部位31に対向した第2の面22の部位から凸部位31へ向かって立設されている」ことにより、当該課題を解決できることは、当業者が認識し得るものといえる。
そして、本件発明1は「凸部位に対向した前記第2の面の部位から前記凸部位へ向かって前記ウィック構造体が立設され、前記ウィック構造体が、前記第2の面及び前記凸部位と接し、前記第1の面が、引張強度が200N/mm2以下の金属材である」という発明特定事項を備えているから、本件発明1は、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものである。
また、本件発明2−7は、本件発明1の発明特定事項を全て含むから、同様に、発明の詳細な説明に記載したものである。

2 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、特許異議申立書の第3の4(3)(第56ページ第3行−第58ページ第24行)において、次の2点の主張を行っている。

(1)コンテナの凸部が塑性変形しやすくなるという作用効果については、第1の面を構成する金属材の引っ張り強度だけでなく、金属材の厚みや、凸部の具体的な形状に依存し、ウィック構造体の部材の構成にも依存するはずであるから、どうして、第1の面を一般的な材料である引張強度が200N/mm2以下の金属材とするだけで、コンテナの凸部が、金属材の厚み、凸部の具体的な形状、ウィック構造体の部材の構成に関わらず、塑性変形しやすくなるのか理解できない。

(2)どうして、ウィック構造体の部材の構成に関わらず、コンテナの凸部の塑性変形量に追従したウィック構造体の高さ調整が容易化されるのか理解できない。

しかしながら、上記のとおり、本件発明の解決しようとする課題は、外部環境からの圧力に対する耐性を有しつつ、冷却対象との熱的接続性に優れることで優れた熱輸送特性を発揮するベーパーチャンバを提供することであり、この課題の解決手段は、本件発明1−7に反映されている。
よって、特許異議申立人の主張は、採用できない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件発明1−7は、発明の詳細な説明に記載したものである。

第7 取消理由3(特許法第36条第6項第2号)についての当審の判断
1 特許請求の範囲の記載
本件特許の請求項3には、「ウィック構造体が、立設方向の応力に応じて立設方向の寸法が低下する部材である」という発明特定事項が記載されている。

2 明細書の発明の詳細な説明の記載
ここで、「立接方向の応力」の技術的意義について、本件特許の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。

・「【0032】
コンテナ10が厚さ方向の応力Fを受けて厚さ方向に塑性変形することに伴って、ウィック構造体40の第1のウィック部41は高さ方向の圧縮を受けて、その高さが低下する。すなわち、ウィック構造体40の第1のウィック部41は、高さ方向の応力Fを受けて圧縮する。上記から、ウィック構造体40の第1のウィック部41は、立設方向の応力Fに応じて立設方向の寸法が低下する部材で形成されている。」

・「【0039】
コンテナ10の材料としては、少なくとも一方の板状体11の第1の面21は、引張強度が200N/mm2以下の金属材であることが好ましい。第1の面21が引張強度200N/mm2以下の金属材であることにより、コンテナ10の凸部16が厚さ方向の応力Fを受けると、コンテナ10の厚さ方向に塑性変形しやすくなる。すなわち、コンテナ10の凸部16が、厚さ方向の応力Fにより潰れやすくなる。結果として、後述するように、コンテナ10の厚さ方向における凸部16の塑性変形量に追従したウィック構造体40の高さ調整も容易化される。コンテナ10の第1の面21を有する一方の板状体11の材料の引張強度は、凸部16のコンテナ10の厚さ方向への塑性変形がより容易化する点から、185N/mm2以下がより好ましく、155N/mm2以下が特に好ましい。一方で、コンテナ10の材料の引張強度の下限値は、コンテナ10の機械的強度の点から、一方の板状体11では50N/mm2が好ましく、他方の板状体12では185N/mm2が好ましい。なお、コンテナ10の材料の引張強度は、JIS Z 2241にて測定した強度を意味する。」

・「【0046】
コンテナ10が4つの発熱体100−1、100−2、100−3、100−4に熱的に接続される際に、コンテナ10の凸部16−1、16−2、16−3が、それぞれ、発熱体100−2、100−3、100−4からコンテナ10の厚さ方向の応力Fを受けることで、凸部16−1、16−2、16−3がコンテナ10の厚さ方向に圧縮されて塑性変形する。その際に、発熱体100−2、100−3は発熱体100−4よりも高いことから、凸部16−1と凸部16−2は凸部16−3よりも応力Fが大きくなり、結果、凸部16−3よりも塑性変形量が大きくなる。コンテナ10の厚さ方向における凸部16−1、16−2、16−3の塑性変形量に追従して、ウィック構造体40の第1のウィック部41がコンテナ10の厚さ方向に所定量圧縮される。従って、凸部16−1と凸部16−2に位置する第1のウィック部41は、凸部16−3に位置する第1のウィック部41よりも圧縮量が大きくなる。ベーパーチャンバ1では、発熱体100の高さの違いに応じて、凸部16が所定量塑性変形し、また、第1のウィック部41が所定量圧縮されることで、空洞部13を維持しつつ、高さの異なる複数の発熱体100に対しても優れた熱的接続性を発揮できる。」

・「【0055】
第1の部材41−1としては、例えば、平均粒子径の大きい金属粉を含む粉体の焼結体、金属細線からなるメッシュ、金属編組体、不織布等で形成した多孔質部材が挙げられる。また、第2の部材41−2としては、平均粒子径の小さい金属粉を含む粉体の焼結体、金属細線からなるメッシュ、金属編組体、不織布等で形成した第1の部材41−1よりも多孔質ではない部材が挙げられる。第1の部材41−1が多孔質部材であることにより、凸部16の塑性変形量に追従して、第1の部材41−1がコンテナ10の厚さ方向に所定量圧縮され、ひいては、第1のウィック部41がコンテナ10の厚さ方向に所定量圧縮される。」

・「【0059】
第1実施形態例に係るベーパーチャンバ1では、複数の第1のウィック部41、41、41・・・及び複数の第2のウィック部42、42、42・・・は、いずれも一端から他端まで同一材料となっていた。これに代えて、第3実施形態例に係るベーパーチャンバ3では、複数の第1のウィック部41、41、41・・・のうち、少なくとも一部の第1のウィック部41は、一端側と他端側で異なる材料となっている。
【0060】
ベーパーチャンバ3では、第1のウィック部41の一方端が、弾性部材43となっている。ベーパーチャンバ3では、第1のウィック部41の第1の面21に接している一端が、弾性部材43となっている。第1のウィック部41の第2の面22に接している他端は、ベーパーチャンバ1、2と同じく、ウィックの部材となっている。弾性部材43としては、例えば、金属線材を螺旋状に形成した部材が挙げられる。弾性部材43は、例えば、金属粉を含む粉体の焼結体、金属線からなるメッシュ、金属編組体、金属線材及び不織布等のウィック構造体40の材料上に連設されている。」

上記記載から、ベーパーチャンバーは、発熱体に熱的に接続される際にコンテナ10の厚さ方向の応力Fを受けるところ、この応力Fが、「立接方向の応力」に相当するものといえる。
そうすると、発熱体は、応力Fと同等の力を反力として受けることとなるが、ベーパーチャンバーの使用態様に応じて選択される発熱体に応じて、例えば、発熱体が損傷しないような応力とすること等を踏まえ、発熱体に対して付加できる応力は、自ずとその上限が存在することが技術常識である。
このように上限が存在する応力であっても、コンテナ10が発熱体への優れた熱的接続性を発揮するために、凸部が設けられる第1面において、コンテナ10の厚さ方向における塑性変形を生じることが求められるものである。
そして、ウィック構造体40の第1のウィック部41は、凸部の塑性変形量に追従して、コンテナ10の厚さ方向に所定量圧縮することが求められるものである。
そうすると、上記「ウィック構造体が、立設方向の応力に応じて立設方向の寸法が低下する部材である」という発明特定事項は、第1のウィック部41について、技術常識から自ずと上限が存在する応力Fであっても、発熱体にコンテナ10が発熱体への優れた熱的接続性を発揮するために必要な塑性変型量を確保できるように、立設方向の寸法が低下する部材であると理解され、このような部材の具体例が、段落【0055】、【0059】、【0060】等に示されている。
したがって、本件特許の請求項3に記載された上記「ウィック構造体が、立設方向の応力に応じて立設方向の寸法が低下する部材である」という発明特定事項は、明確である。
よって、本件発明3は、明確である。
また、本件発明3を引用する本件発明4−7についても、同様に、明確である。

3 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書の第3の4(4)(第58ページ第25行−第59ページ第9行)において、「立接方向の応力に応じて立接方向の寸法が低下する部材」の範囲の外縁が不明確であることを主張し、その主張の根拠として、立接方向に加えられる応力が大きくなれば、たとえウィック構造体が剛性の高い金属のブロック体のようなものであったとしても立接方向の寸法が低下することになり、立接方向に加えられる応力の程度について規定されていない以上、ウィック構造体の部材がどのようなものであっても、「立接方向の応力に応じて立接方向の寸法が低下する部材」に該当し得る旨の主張をしている。
しかしながら、上記2で説示したとおり、ベーパーチャンバーの使用態様に応じて発熱体が選択された場合に、その発熱体に応じて、例えば、発熱体が損傷しないような応力とすること等を踏まえ、発熱体に対して付加できる応力は、自ずとその上限が存在することが技術常識であるのだから、立接方向に加えられる応力が上限なく加えられることはない。また、上記2で説示したとおり、「立接方向の応力に応じて立接方向の寸法が低下する部材」の意味は、第1のウィック部41について、技術常識から自ずと上限が存在する応力Fであっても、発熱体にコンテナ10が発熱体への優れた熱的接続性を発揮するために必要な塑性変型量を確保できるように、立設方向の寸法が低下する部材であると理解されるから、その外縁も明確である。
したがって、特許異議申立人の主張を、採用することができない。

4 小括
以上のとおりであるから、本件発明3−7は、明確である。

第8 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立理由及び証拠によっては、本件発明1−7を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1−7を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2024-08-30 
出願番号 P2021-065213
審決分類 P 1 651・ 121- Y (F28D)
P 1 651・ 537- Y (F28D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 鈴木 充
特許庁審判官 石黒 雄一
竹下 和志
登録日 2023-10-20 
登録番号 7371054
権利者 古河電気工業株式会社
発明の名称 ベーパーチャンバ  
代理人 前川 純一  
代理人 住吉 秀一  
代理人 上島 類  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ