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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09J
管理番号 1414230
総通号数 33 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-09-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2024-06-03 
確定日 2024-09-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第7393843号発明「アルカリ剥離性ホットメルト粘着剤、および容器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7393843号の請求項1〜4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7393843号の請求項1〜4に係る特許についての出願は、令和4年11月16日に出願され、令和5年11月29日に特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年12月7日に特許掲載公報が発行された。その後、令和6年6月3日に特許異議申立人である北岡 弘章(以下「申立人」という。)により、全請求項に係る特許について特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件発明及び本件明細書の記載
1 本件発明
本件発明は、次のとおりの発明(以下、請求項番号にしたがって「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ということもある。)である。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系エラストマー(A)、ロジン系粘着付与剤(B)、ナフテン系プロセスオイル(C)およびポリプロピレンワックス(D)を含むアルカリ剥離性ホットメルト粘着剤であって、スチレン系エラストマー(A)が、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(a1)およびスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(a2)を含み、
スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(a1)とスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(a2)の質量比(a1)/(a2)は25/75〜50/50であり、
ロジン系粘着付与剤(B)の酸価が、100〜300mgKOH/gであり、
ナフテン系プロセスオイル(C)の含有率が、ホットメルト粘着剤100質量%中、18〜48質量%であり、
ポリプロピレンワックス(D)の軟化点が100℃以上であり、かつ、
ポリプロピレンワックス(D)の含有率が、ホットメルト粘着剤100質量%中、0.1〜5質量%である、
アルカリ剥離性ホットメルト粘着剤。
【請求項2】
請求項1に記載のアルカリ剥離性ホットメルト粘着剤によってラベルが接着された容器。
【請求項3】
ラベルが胴巻きラベルであることを特徴とする請求項2に記載の容器。
【請求項4】
ラベルがポリプロピレンからなることを特徴とする請求項2に記載の容器。」

2 本件明細書の記載
「【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、ホットメルト粘着剤を薄膜塗工した場合にも、接着強度やボトルの膨張によるラベルのずれに対するホットメルトの追従性(実貼り性)が高く、特にボトル膨張率が大きい炭酸飲料用PETボトルにおいて、長期保管した際にラベルが剥離しにくいとともに、熱アルカリ水溶液により容器から接着物を容易且つ糊残りなく剥がすことのできる胴巻きラベルを提供することであり、そのためのアルカリ剥離性ホットメルト粘着剤を提供することである。」
「【0024】
本発明におけるスチレン系エラストマー(A)は、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(a1)とスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロックコポリマー(a2)を同時に含有する。SBS(a1)とSEBS(a2)を同時に含有することでホットメルト粘着剤の相溶性を適度に低下させることが可能になり、相溶性を低下させることで凝集破壊を促し、ボトル膨張の際にもホットメルト粘着剤が追従することで剥離を抑制できる。
なお、SBS(a1)とSEBS(a2)を同時に含有していれば、SBS(a1)、SEBS(a2)以外のスチレン系エラストマーを併用しても良い。
【0025】
スチレン系エラストマー(A)の含有率は、ホットメルト粘着剤100質量%中、1.0〜35質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましく、10〜25質量%がさらに好ましい。
上記範囲でスチレン系エラストマー(A)を含有することで、アルカリ剥離性と接着強度を両立できるため、好ましい。
またSBS(a1)とSEBS(a2)の質量比(a1)/(a2)は10/90〜90/10が好ましく、20/80〜80/20がより好ましい。
上記範囲でSBS(a1)とSEBS(a2)を含有することで、適度に凝集破壊を促進し、実貼り適性を付与することができる。」
「【0026】
(ロジン系粘着付与剤(B))
ロジン系粘着付与剤(B)は、酸価が100〜300mgKOH/gであれば特に限定されない。変性処理されていない未水添ロジン、変性処理されていない水添ロジン、(メタ)アクリル酸変性ロジン、水添(メタ)アクリル酸変性ロジン、マレイン酸変性ロジン、水添マレイン酸変性ロジン、フマル酸変性ロジン、水添フマル酸変性ロジン等が挙げられ、好ましくは、変性処理されていない水添ロジンまたは(水添(メタ)アクリル酸変性ロジンであり、より好ましくは変性処理されていない水添ロジンである。酸価が100mgKOH/g未満であると十分なアルカリ分散性が発揮できなくなり、一方、300mgKOH/gより大きいとホットメルト組成物の粘度や軟化点が高くなりすぎてしまう。」
「【0029】
(プロセスオイル(C))
本発明で用いられるプロセスオイル(C)は、ゴムや熱可塑性エラストマー等の可塑剤として一般的に使用されるオイル、いわゆる石油精製等において生産されるプロセスオイルであり、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイルに大別される。アルカリ剥離性の観点からナフテン系オイルが好ましい。
プロセスオイルは、芳香族環・ナフテン環・パラフィン鎖の混合物であるが、本願におけるナフテン系プロセスオイルは、プロセスオイルの全炭素中のナフテン環炭素が35〜46質量%のものを指す。また、全炭素中の芳香族炭素が30重量%以上のものを芳香族系プロセスオイル、全炭素中のパラフィン鎖炭素が50重量%以上のものをパラフィン系とプロセスオイルと分類する。
【0030】
プロセスオイル(C)の含有率は、ホットメルト粘着剤100質量%中、15〜50質量%が好ましく、20〜45質量%がより好ましく、25〜40質量%がさらに好ましい。
上記範囲でプロセスオイル(C)を含有することで、アルカリ剥離性と高い接着強度が両立できるため、好ましい。」
「【0031】
(ポリプロピレンワックス(D))
ポリプロピレンワックス(D)は、軟化点が100℃以上であれば特に限定されない。軟化点は接着強度の観点から125〜165℃が好ましい。なお、軟化点の測定は、JIS K−2207(石油アスファルト)6.4軟化点試験方法(環球法)に準拠して行った。
【0032】
ポリプロピレンワックス(D)の含有率は、ホットメルト粘着剤100質量%中、0.1〜5質量%であり、0.1〜4質量%が好ましく、0.1〜3質量%がより好ましい。
ホットメルト粘着剤100質量%中、ポリプロピレンワックス(D)を0.1〜5質量%含有することで、接着強度と実貼りに優れたホットメルト粘着剤とすることができる。」
「【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。例中、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を示し、「%」は「質量%」を示す。
【0044】
[酸価]
酸価の測定は、JIS K5601−2−1酸価(滴定法)に準拠して行った。具体的には、試料1gを精密に量り、250mlのフラスコに入れ、エタノールまたはエタノールおよびエーテルの等容量混液50mlを加え、加温して溶かし、時々振り混ぜながら0.1N水酸化カリウム液で滴定した(指示薬:フェノールフタレイン)。滴定の終点は、液の淡紅色が30秒残存する点とした。次いで、同様の方法で空試験を行って補正し、次の式から酸価の値を求めた。
酸価=〔0.1N水酸化カリウム液の消費量(ml)×5.611〕/〔〔試料量(g)〕
【0045】
[軟化点]
軟化点の測定は、JIS K−2207(石油アスファルト)6.4軟化点試験方法(環球法)に準拠して行った。
【0046】
表1に記載の略称について、下記に示す。
[スチレン系エラストマー(A)]
スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(a1)
・D1118:クレイトンD1118(クレイトンポリマー社製)
スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(a2)
・G1726:クレイトンG1726(クレイトンポリマー社製)
【0047】
[ロジン系粘着付与剤(B)]
・RHR301:(丸善油化商事社製)、変性処理されていない水添ロジン、酸価:175mgKOH/g
・ハリタックF:(ハリマ化成社製)、変性処理されていない水添ロジン、酸価:175mgKOH/g
・KE−604:パインクリスタルKE−604(荒川化学社製)、酸変性ロジン、酸価:240mgKOH/g
【0048】
[合成オイル(C)]
・N−90:ダイアナフレシアN−90(出光興産社製)ナフテン系プロセスオイル(パラフィン:48質量%、ナフテン:46質量%、芳香族:6質量%)
・PW−90:ダイアナプロセスPW−90(出光興産社製)パラフィン系プロセスオイル(パラフィン:71質量%、ナフテン:29質量%、芳香族:0質量%)
【0049】
[ポリプロピレンワックス(D)]
・660−P:ビスコール660−P(三洋化成工業社製)、軟化点:145℃
【0050】
[その他粘着付与剤]
・FK125:ハリタックFK125(ハリマ化成社製)、ロジンエステル、酸価:17mgKOH/g
・KR120:パインクリスタルKR120(荒川化学社製)、酸変性ロジン、酸価:325mgKOH/g
・P−125:アルコンP−125(荒川化学社製)、脂環族飽和炭化水素樹脂、酸価:なし
【0051】
[その他ワックス]
・PP1602:リコセンPP1602(クラリアントジャパン社製)、無水マレイン酸変性ポリプロピレンワックス、軟化点:98℃
【0052】
(実施例1)
<アルカリ剥離性ホットメルト粘着剤の製造>
攪拌機を備えたステンレスビーカーに、プロセスオイル(C):N−90を28部、ポリプロピレンワックス(D):660−Pを2部投入し、加熱して溶融した。加熱は内容物が130℃〜150℃になるように注意して行った。溶融後攪拌を行い、均一溶融溶液とした後、130〜150℃の温度を保ちながら、かつ攪拌を続けながら、この溶融物にスチレン系エラストマー(A)としてスチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(a1):D1118を5部、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(a2):G1726を15部徐々に加え、添加終了後、130〜150℃の温度で加熱撹拌し、スチレン系エラストマー(A)を完全に溶融させた。その後、ロジン系粘着付与剤(B)としてRHR301を50部添加して、溶融均一混合物とし、冷却してアルカリ剥離性ホットメルト粘着剤を作製した。
【0053】
得られたアルカリ剥離性ホットメルト粘着剤の接着強度(対OPP)、アルカリ剥離性、実貼り性を下記の方法により評価した。結果を表2に示す。
【0054】
<アルカリ剥離性>
(サンプル作製方法)
厚さ30μmのOPPフィルムに印刷を施したラベルの印刷面にホットメルト粘着剤を塗工量5〜15g/m2、塗工面積15cm2で塗工(温度条件:150℃)し、ホットメルト粘着剤付きのラベルを得た。
その後、サクミラベラー社製ラベラーで、速度80bpmにて、150℃で、1.5L丸型PETボトルに、前記ホットメルト粘着剤付きラベルを貼り付けた。
次いで、ホットメルト粘着剤付きラベルごとPETボトルを、約8mm×8mm角に粉砕して、ラベルが付いた状態のPETのペレットとした。
(試験方法)
1000ml丸型フラスコに、80〜85℃の2.0質量%水酸化ナトリウム水溶液180gと前記ペレット20gを入れて、120rpmで攪拌(攪拌羽:プロペラ)した。10分後フィルターで濾過し、PETペレットに残った粘着剤の残存率(面積%)を目視で観察した。
(評価基準)
◎:ホットメルト粘着剤付きラベルおよびホットメルト粘着剤がPETのペレットに残存しない:非常に良好
〇:ホットメルト粘着剤付きラベルが残らないが、ホットメルト粘着剤がPETのペレットに10%未満残る:良好
△:ホットメルト粘着剤がPETのペレットに10%以上30%未満残る:実用可
×:ホットメルト粘着剤がPETのペレットに30%以上残る;実用不可
【0055】
<接着強度>
(サンプル作製方法)
前記と同様にしてホットメルト粘着剤付きラベルを得た。厚さ30μmのOPPフィルムの非印刷面に前記ホットメルト粘着剤付きラベルを23℃で貼り付けて、ハンドローラーで1往復させて圧着し、15mm幅に断裁した。
(試験方法)
23℃の恒温室中で、180度剥離(剥離速度:300mm/分)で行った。
(評価基準)
◎:3.5N/15mm以上:非常に良好
〇:2.5N/15mm以上3.5N/15mm未満:良好
△:1.5N/15mm以上2.5N/15mm未満:実用可
×:1.5N/15mm未満:実用不可
【0056】
<実貼り性>
(サンプル作製方法)
前記と同様にしてホットメルト粘着剤付きラベルを得た。その後、サクミラベラー社製ラベラーで、速度80bpmにて、150℃で、1.5L丸型PETボトルに、前記ホットメルト粘着剤付きラベルを貼り付けた。得られたラベル付きボトルに炭酸水(市販品)を充填し、実貼り性評価に使用するサンプルを得た。
(試験方法)
40℃の恒温オーブン内に前記ボトルを入れ、1週間後の外観を観察した。
(評価基準)
◎:ラベルのズレが5mm未満:非常に良好
〇:ラベルのズレが5mm以上10mm未満:良好
△:ラベルのズレが10mm以上:実用可
×:ラベルが剥がれる:実用不可
【0057】
(実施例2〜19、比較例1〜11)
表1に示す組成にて、スチレン系エラストマー(A)、ロジン系粘着付与剤(B)、プロセスオイル(C)、ポリプロピレンワックス(D)およびその他成分を実施例1と同様に溶融・混合して、ホットメルト粘着剤を作製し、同様に評価した。
【0058】
【表1】


【0059】
【表2】


【0060】
表1の実施例1〜19から、本発明のホットメルト粘着剤は、ホットメルト粘着剤を薄膜塗工した場合にも、接着強度やボトルの膨張によるラベルのずれに対するホットメルトの追従性(実貼り性)が高く、ラベルが剥がれにくく、さらにアルカリ剥離性を有する。
一方、比較例1〜11のホットメルト粘着剤は、アルカリ剥離性、接着強度、実貼り適性の全てを満足する結果は得られなかった。」

第3 異議申立ての概要及び証拠方法
1 異議申立ての概要
(1)申立理由1(進歩性欠如)
本件発明1〜4は、下記2の甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明1〜4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)申立理由2(新規性欠如)
本件発明1〜4は、下記2の甲4に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の発明に該当するから、本件発明1〜4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)申立理由3(進歩性欠如)
本件発明1〜4は、下記2の甲4に記載された発明並びに甲1及び甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明1〜4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(4)申立理由4(サポート要件違反)
本件特許に係る出願は、本件発明1〜4についての特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

2 証拠方法の一覧
申立人は、次の甲第1号証〜甲第8号証を提出した。甲第1号証〜甲第8号証を、以下「甲1」〜「甲8」ともいう。
甲第1号証:特開2021−95448号公報
甲第2号証:特許第7142822号公報
甲第3号証:特開2013−231114号公報
甲第4号証:特開2014−70099号公報
甲第5号証:国際公開第2007/013185号
甲第6−1号証:ポリオレフィンワックス入門(三洋化成工業社、樹脂・機能化学品紹介サイト)<URL:https://solutions.sanyo-chemical.co.jp/technology/2022/02/102489/>
甲第6−2号証:ハイワックス(三井化学社、ハイワックス紹介サイト)<URL(1):https://jp.mitsuichemicals.com/jp/service/product/hi-wax/index.htm#product-detail__tab-item-d48731e0e1-tab、URL(2):https://jp.mitsuichemicals.com/jp/service/product/hi-wax/index.htm#product-detail__tab-item-3da0fd5324-tab>
甲第6−3号証:ホットメルト接着剤(クラリアントケミカルズ社、LICOCENE紹介サイト)<URL:https://www.ogcorp.co.jp/clariant/wax/hot-melt-adhesives.html>
甲第7号証:本件特許(特願2022−183155)手続補正書
甲第8号証:本件特許(特願2022−183155)意見書

第4 甲号証の記載
1 甲1の記載
甲1には、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ビニル系芳香族炭化水素と共役ジエン化合物との共重合体である熱可塑性ブロック共重合体、
(B)粘着付与樹脂、ならびに、
(C)脂肪酸およびその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一種
を含み、
(A)熱可塑性ブロック共重合体が(A1)スチレン含有率40質量%未満のスチレン系ブロック共重合体を含み、
(B)粘着付与樹脂がα−メチルスチレン系樹脂を含む、アルカリ分散型ホットメルト粘着剤。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスビン、PET(ポリエチレンテレフタレート)ボトルなどのラベル用粘着剤として好適なアルカリ分散型ホットメルト粘着剤に関するものであり、特に、炭酸飲料用のPETボトルとラベルとの貼り合わせに利用される粘着剤として有効なアルカリ分散型ホットメルト粘着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
薬や飲料の容器としては、一般的に、アルミ缶、ガラス瓶、ポリエチレンテレフタレート(PET)ボトルが広く流通している。これらの容器表面には、粘着剤によってラベルが手剥がしできない強度で貼られている。飲料容器のラベルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)、ポリ乳酸(PLA)フィルムの胴巻ラベル(ロールラベル)が多く利用されている。
【0003】
ラベルが貼られた容器を再利用する際、使用後の容器を工場で回収し、加温されたアルカリ水溶液中に容器を浸漬し、ラベルと容器とを分別する必要がある。従って、容器用ラベルに塗布される粘着剤には、アルカリ水溶液で膨潤、軟化、分散、または可溶することで、ラベルを容器から短時間で剥離させる性質(アルカリ分散性)が要求される。
・・・
【0005】
アルカリ分散型ホットメルト粘着剤には、「アルカリ分散性」だけでなく、ラベルと容器の接着性(保持力)にも優れていることが要求される。特に飲料分野では、「アルカリ分散性」および「保持力」と共に、ラベルを容器から剥した後、容器に糊を残さないこと、すなわち、再剥離性に優れることも要求されている。
・・・
【0008】
ホットメルト粘着剤に対する糸曳き低減に関する要求は、年々高くなっている。しかしながら、特許文献1〜3のホットメルト粘着剤は、糸曳き低減の要求を完全に満足しているとは言えない。
【0009】
従って、アルカリ分散性、保持力、糊残り低減および糸曳き低減の全ての性能に優れるアルカリ分散型ホットメルト粘着剤の開発が望まれている。」
「【発明の効果】
【0018】
本発明のアルカリ分散型ホットメルト粘着剤は、PETボトル、ガラス瓶等の容器にラベルを接着するのに用いることができ、ラベルの保持力に優れる。例えば、炭酸飲料が充填されたPETボトル等の容器に、本発明のアルカリ分散型ホットメルト粘着剤でラベルを貼り付けると、容器が膨張してもラベルのずれおよび浮きが発生しにくくなる。」
「【0035】
本発明のホットメルト粘着剤は、成分(A)の総量100質量部に対し、成分(A1)の含有量が70質量部以上であることが好ましく、80質量部以上であることがより好ましく、100質量部であってもよい。本発明のホットメルト粘着剤は、成分(A1)の含有量が上記範囲内にあると、保持力がより向上する。
【0036】
(A)熱可塑性ブロック共重合体は、単独で又は複数種類を組み合わせて用いることができ、一実施態様として、(A1)スチレン含有率40質量%未満のスチレン系ブロック共重合体と、(A1)に該当しないスチレン系ブロック共重合体とが配合されていても差し支えない。(A1)に該当しないスチレン系ブロック共重合体とは、スチレン含有率が40質量%以上のものを意味する(以下、「(A2)スチレン含有率が40質量%以上のスチレン系ブロック共重合体」、または、「成分(A2)」と記載することもある。)。
・・・
【0044】
本発明では、成分(A1)がスチレン−エチレン/ブチレン−スチレン(SEBS)トリブロック共重合体であることが最も望ましい。本発明のホットメルト粘着剤は、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレン(SEBS)トリブロック共重合体を含むことによって、凝集力が著しく向上する。これにより、ホットメルト粘着剤を用いてラベルを容器に接着させたとき、長期間にわたって容器からラベルが浮くことなく、かつ、ラベルがずれることもなくラベルの接着を保持することができる。
【0045】
(A2)スチレン含有率が40質量%以上のスチレン系ブロック共重合体の市販品としては、
旭化成ケミカルズ社製のアサプレンT439(商品名)、タフプレン125(商品名)、タフプレンA(商品名)、タフテックP2000(商品名)、タフテックH1043(商品名)、タフテックH1051(商品名);
JSR社製のTR2000(商品名)、TR2250(商品名);
Enichem社製のSOlT6414(商品名)が挙げられる。これらの市販品は、各々単独で又は組み合わせて使用することができる。」
「【0074】
本発明のホットメルト粘着剤は、成分(A)〜成分(C)以外に、ワックスを含んでもよい。
【0075】
「ワックス」は、常温で固体、加熱すると液体となる有機物であって、ホットメルト粘着剤に一般的に用いられるワックスであって、本発明が目的とするホットメルト粘着剤を得ることができるものであれば、特に限定されるものではない。ワックスの重量平均分子量は、一般に10000未満である。具体的には、フィッシャートロプシュワックス、ポリオレフィンワックス(ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス)等の合成ワックス系;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの石油ワックス;カスターワックスなどの天然ワックス;等を例示できる。
【0076】
本発明のホットメルト粘着剤がワックスを含むことにより、ラベルを容器から剥がす際、ホットメルト粘着剤の容器への糊残りが少なくなる。」
「【0078】
本発明のホットメルト粘着剤は、可塑剤を含んでもよい。
【0079】
可塑剤は、ホットメルト粘着剤の溶融粘度低下、柔軟性の付与、被着体への濡れ向上を目的として配合され、他の成分と相溶し、本発明が目的とするホットメルト粘着剤を得ることができるものであれば、特に限定されるものではない。可塑剤として、例えばパラフィン系オイル、ナフテン系オイル及び芳香族系オイルを例示することができる。特にパラフィン系オイル及び/又はナフテン系オイルが好ましく、無色、無臭であるパラフィン系オイルが最も好ましい。
【0080】
可塑剤の市販品の一例として、例えば、Kukdong Oil&Chem社製のWhite Oil Broom350(商品名)、出光興産社製のダイアナフレシアS−32(商品名)、ダイアナプロセスオイルPW−90(商品名)、ダフニ−オイルKP−68(商品名)、BPケミカルズ社製のEnerperM1930(商品名)、Crompton社製のKaydol(商品名)、エクソン社製のPrimol352(商品名)、出光興産社製のプロセスオイルNS−100(商品名)、ペトロチャイナ社製のDN4010を例示することができる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0081】
可塑剤を配合することで、本発明のホットメルト粘着剤に含まれる成分(A)〜(C)の相溶性が向上し、さらには、その他成分との相溶性も向上し、結果的に、ホットメルト粘着剤の粘着性、接着性や塗工適正が向上する。」
「【実施例】
【0104】
以下、本発明を、更に詳細に、かつ、具体的に説明することを目的として、実施例を用いて説明するが、これら実施例は、本発明を何ら制限するものではない。実施例および比較例において、ホットメルト粘着剤に配合する成分を以下に示す。
【0105】
(A)熱可塑性ブロック共重合体
(A1)スチレン含有率が40質量%未満のスチレン系ブロック共重合体
(A1−1)スチレン−エチレン/ブチレン−スチレントリブロック共重合体(クレイトン社製のクレイトンG−1652(商品名)、スチレン含有率30質量%、ジブロック含有率0質量%、重量平均分子量72,000)
(A1−2)スチレン−エチレン/ブチレン−スチレントリブロック共重合体(クレイトン社製のクレイトンG−1650(商品名)、スチレン含有率30質量%、ジブロック含有率0質量%、重量平均分子量92,000)
(A1−3)スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(クレイトン社製のクレイトンG−1726(商品名)、スチレン含有率31質量%、ジブロック含有率73質量%、重量平均分子量43,000)
(A1−4)スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(クレイトン社製のクレイトンG−1657(商品名)、スチレン含有率15質量%、ジブロック含有率33質量%、重量平均分子量106,000)
【0106】
(A2)スチレン含有率が40質量%以上のスチレン系ブロック共重合体
(A2−1)スチレン−エチレン/ブチレン−スチレントリブロック共重合体(旭化成ケミカルズ社製のタフテックH1043(商品名)、スチレン含有率68質量%、ジブロック含有率0質量%、重量平均分子量53,000)
(A2−2)スチレン−ブタジエン/ブチレン−スチレントリブロック共重合体(旭化成ケミカルズ社製のタフテックP2000(商品名)、スチレン含有率68質量%、ジブロック含有率0質量%、重量平均分子量54,000)
(A2−3)スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体(JSR社製のTR2250(商品名)、スチレン含有率52質量%、ジブロック含有率0質量%、重量平均分子量109,000)
(A2−4)スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体(旭化成ケミカルズ社製のタフプレンA(商品名)、スチレン含有率41質量%、ジブロック含有率0質量%、重量平均分子量105,000)
(A2−5)スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(旭化成ケミカルズ社製のアサプレンT−439(商品名)、スチレン含有率46質量%、ジブロック含有率69質量%、重量平均分子量63,000)
(A2−6)スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体(クレイトン社製のクレイトンD−1162(商品名)、スチレン含有率41質量%、ジブロック含有率0質量%、重量平均分子量82,000)
【0107】
(B)粘着付与樹脂
(B1)水添脂環族/芳香族共重合系炭化水素樹脂(JXTGエネルギー社製のT−REZ HC103(商品名)、軟化点103℃)
(B2)水添脂環族系炭化水素樹脂(JXTGエネルギー社製のT−REZ HA103(商品名)、軟化点103℃)
(B3)水添脂環族系炭化水素樹脂(JXTGエネルギー社製のT−REZ HA125(商品名)、軟化点125℃)
(B4)水素添加ロジンエステル(GUANGDONG KOMO社製のKOMOTAC KHR75(商品名)、酸価170mgKOH/g 軟化点80℃)
(B5)水素添加ロジンエステル(イーストマンケミカル社製のForalAX−E(商品名)、酸価160mgKOH/g 軟化点80℃)
(B6)ロジンエステル(GUANGDONG KOMO社製のKOMOTAC K107(商品名)、酸価155mgKOH/g 軟化点80℃)
(B7))α−メチルスチレン系樹脂(イーストマンケミカル社製のクリスタレックス3070(商品名)、軟化点70℃)
(B8))α−メチルスチレン系樹脂(イーストマンケミカル社製のクリスタレックス3085(商品名)、軟化点85℃)
(B9)α−メチルスチレン系樹脂(イーストマンケミカル社製のクリスタレックス3100(商品名)、軟化点100℃)
(B10)α−メチルスチレン系樹脂(イーストマンケミカル社製のクリスタレックス5140(商品名)、軟化点140℃)
(B11)水添ロジンエステル(イーストマンケミカル社製のForal 85E(商品名)、酸価9mgKOH/g 軟化点85℃)
(B12)ロジンエステルGUANGDONG KOMO社製のKOMOTAC KB90H(商品名)、酸価15mgKOH/g 軟化点90℃)
【0108】
(C)脂肪酸およびその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一種
(C1)融点40℃以上の脂肪酸誘導体
(C1−1)ヒマシ硬化油(伊藤製油社製のヒマシ硬化油A(商品名)、融点85.5℃)
(C1−2)モノヒドロキシステアリン酸硬化ヒマシ油(横関油脂社製のテクノールMH(商品名)、融点58.0℃)
(C1−3)ラウリン酸水添ヒマシ油(横関油脂社製のテクノールML98(商品名)、融点51.0℃)
(C1−4)ヒマシ硬化脂肪酸(日油社製の12−ヒドロキシステアリン酸(商品名)、融点69.0℃)
(C1−5)牛脂硬化油(日油社製の牛脂51°硬化油HO(商品名)、融点51.0℃)
(C1−6)大豆極度硬化油(山桂産業社製の水添大豆油(商品名)、融点68.2℃)
(C1−7)菜種極度硬化油(山桂産業社製の水添菜種種子油(商品名)、融点68.4℃)
(C1−8)パーム極度硬化油(山桂産業社製の水添パーム油(商品名)、融点58.6℃)
(C1−9)ライスワックス菜種極度硬化油(ボーソー油脂社製のライスワックスSS−1(商品名)、融点79.0℃)
【0109】
(C2)融点40℃未満の脂肪酸誘導体
(C2−1)ヒマシ油(豊国製油社製の工業用1号ヒマシ油(商品名)、融点なし(凝固点−22℃)
(C2−2)米油(ボーソー油脂製のこめサラダ油(商品名)、融点なし(凝固点−10〜−5℃))
(C2−3)ひまわり油(山桂産業社製のハイオレイックヒマワリ油(商品名)、融点なし(凝固点−18〜−16℃))
(C2−4)ヤシ油(山桂産業社製のヤシ油(商品名)、融点24.6℃)
(C2−5)ジグリセリン脂肪酸エステル(理研ビタミン社製のリケマール L−71−D(商品名)、融点34℃)
【0110】
(D)ワックス
(D1)フィッシャートロプシュワックス(サゾール社製のサゾールC80(商品名)、融点80℃、針入度7)
(D2)フィッシャートロプシュワックス(サゾール社製のサゾールH1(商品名)、融点108℃、針入度2)
(D3)エチレン酢酸ビニル共重合体ワックス(Honeywell社製のAC400(商品名)、融点92℃)
(D4)ポリエチレンワックス(三井化学社製のハイワックス320P(商品名)、融点109℃、針入度7)
(D5)ポリプロピレンワックス三井化学社製のハイワックスNP105(商品名)、融点140/148℃、針入度1)
(D6)パラフィンワックス(日本精蝋社製のHNP−9(商品名)、融点75℃、針入度6)
【0111】
(E)可塑剤(オイル)
(E1)パラフィンオイル(出光興産社製のダフニーオイル KP−68(商品名))
(E2)パラフィンオイル(出光興産社製のダイアナプロセスオイル PW90(商品名))
(E3)ポリブテン(日本石油社製の日石ポリブテンHV−300(商品名))
(E4)ナフテンオイル(ペトロチャイナ社製のDN4010(商品名))
【0112】
(F)安定化剤(酸化防止剤)
(F1)ヒンダードフェノール系酸化防止剤(アデカ社製のアデカスタブ AO−60(商品名))
(F2)チオエーテル系酸化防止剤(アデカ社製のアデカスタブ AO−412S(商品名))
【0113】
成分(A)〜(F)を表1および表2に示す配合割合で配合し、約145℃で約3時間かけて万能攪拌機を用いて溶融混合し、実施例1〜18、比較例1〜4のホットメルト粘着剤を製造した。表1および表2に示されるホットメルト粘着剤の組成(配合)に関する数値の単位は、全て質量部である。
・・・
【0127】
【表1】



2 甲2の記載
甲2には、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は主にポリエチレンテレフタレート(以下、PET)ボトルやガラス瓶に用いられるラベル用接着剤に適したアルカリ分散型ホットメルト接着剤に関するものであり、特に冷凍用に使用されPETボトルとラベルの張り合わせに利用される粘着剤として有効なアルカリ分散型ホットメルト接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年PETボトルの需要増加に伴い、飲料用のPETボトルの使用量も増加し、PETボトルの再利用技術が重要になっている。
このPETボトル容器表面には接着剤によってラベルが張り付けられており、ラベルには二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)、PETフィルム、ポリ乳酸(PLA)フィルムの胴巻きラベル(ロールラベル)が多く利用されている。
【0003】
PETボトルの再利用においては、張り付けられたラベルをはがす工程が必要になる。ラベルを剥がすためには、工場で使用後のPETボトルを回収して加熱したアルカリ水溶液に浸漬させてPETボトルとラベルを分別する必要がある。そのため、PETボトルに張り付けられるラベルに用いられるホットメルト接着剤にはアルカリ分散性が求められる。
またアルカリ分散型ホットメルト接着剤にはアルカリ分散性だけではなくPETボトルとして使用している間はラベルと容器を接着させること(保持力)が求められる。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
昨今のPETボトルは消費者のニーズの広がりとともに用途も拡大しており、冷蔵、加温条件下だけではなく、−18℃以下で使用される冷凍のPETボトル飲料も登場している。しかしながら、従来のホットメルト接着剤を使用した冷凍用PETボトルをある程度の高さから落下させると、ラベルが脱落する問題があった。
低温下におけるラベル脱落と、生産時や運送時の高温保管条件下におけるラベル剥がれの両方を同時に解決できるホットメルト接着剤はこれまでなく、かつそのような機能を持たせたホットメルト接着剤を設計することは困難であった。
【0009】
上記の事情を鑑み、本発明の目的とするところは極低温に保管されて衝撃を与えられてもラベル脱落が少なく、かつ高温時の保持力が高く、被付着面を引き剥がした際の被貼付面への糊残りが少なく、さらに接着性が良好でアルカリ分散性に優れたホットメルト接着剤を提供することである。」
「【発明の効果】
【0012】
本発明により、極低温に保管されて衝撃を与えられてもラベル脱落が少なく、ラベルの保持力と糊残り性良好であり、接着性が良好でアルカリ分散性に優れたホットメルト接着剤の提供が可能になる。」
「【0017】
スチレン系エラストマー(A)としては、公知のスチレン系共重合体を好適に使用することが可能であり、特に限定はない。具体的には、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(以下、単にSBSともいう。)、スチレン−ブタジエン−スチレン−ブタジエン共重合体(以下、単にSBSBともいう。)、スチレン−ブタジエン/ブチレン−スチレン共重合体(以下、単にSBBSともいう。)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレン共重合体(以下、単にSEBSともいう。)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレン共重合体(以下、単にSEPSともいう。)、スチレン−エチレン−エチレン/プロピレン−スチレン共重合体(以下、単にSEEPSともいう。)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(以下、単にSISともいう。)等を挙げることができる。
【0018】
また、スチレン系エラストマー(A)として、その一部又は全てに水素添加スチレン系エラストマーを含むことが好ましい。水素添加スチレン系エラストマーを含むことにより、ホットメルト接着剤をアプリケータータンク内にて長期間加熱状態に置いても粘度変化が少なくなり、接着物性の変動を少なくすることが可能である。水素添加スチレン系エラストマーとして、具体的にはスチレン−ブタジエン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SBBS)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレン(SEPS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレン(SEBS)を挙げることができる。これらの中でも、各種物性のバランスがとりやすいという点で、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレン(SEBS)を含むことが特に好ましい。」
「【0027】
<プロセスオイル(C)>
本発明のホットメルト接着剤は、プロセスオイル(C)を含有する。ホットメルト接着剤100質量%中のプロセスオイルの含有量は、20〜40質量%であり、好ましくは25〜30質量%である。プロセスオイルの含有量が20質量%に満たない場合、ホットメルト接着剤の濡れ性が悪くなり接着性が悪化する。一方、プロセスオイルの含有量が40質量%を超えると、ホットメルト接着剤の保持力が低下する。
【0028】
プロセスオイル(C)としては、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイルが挙げられる。パラフィン系プロセスオイルもしくはナフテン系プロセスオイルを含むことが特に好ましい。パラフィン系プロセスオイルもしくはナフテン系プロセスオイルを含むことにより、低温での接着強度を向上させ、高温保管時の貼付物を引き剥がした際の、被貼付面への糊残りも少ないホットメルト接着剤を得ることができる。」
「【実施例】
【0048】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
また、(A)の重量平均分子量、(B)の酸価、(D)および(E)の融点、(B)および(F)の軟化点の測定方法は以下の通りである。
・・・
【0053】
表1〜3に記載した重合性モノマーの略称は下記の通りである。
≪スチレン系エラストマー(A)≫
A1:G−1650(クレイトン社製スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体、水素添加エラストマー、重量平均分子量96,000)
A2:G−1652(クレイトン社製スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体、水素添加エラストマー、重量平均分子量69,000)
A3:G−1657(クレイトン社製スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体、水素添加エラストマー、重量平均分子量110,000)
A4:G−1726(クレイトン社製スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体、水素添加エラストマー、重量平均分子量46,000)
A5:タフテック P−1500(旭化成社製スチレン−ブタジエン/ブチレン−スチレンブロック共重合体、水素添加エラストマー、重量平均分子量76,000)
A6:セプトン 2063(クラレ社製スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体、水素添加エラストマー、重量平均分子量110,000)
A7:アサプレンT−438(旭化成社製スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、水素未添加エラストマー、重量平均分子量84,000)
≪ロジン系粘着付与剤(B)≫
B1:ハリタックF(ハリマ化成社製水添ロジン酸、酸価170〜175mgKOH/g、軟化点78〜82℃)
B2:KE−604(荒川化学社製酸変性ロジン、酸価230〜245mgKOH/g、軟化点124−134℃)
B3:フォーラル AX−E(イーストマンケミカル社製水素化ガムロジン、酸価165mgKOH/g、軟化点80℃)
≪その他ロジン系粘着付与剤(B’)≫
B’1:スーパーエステルA−100(荒川化学社製特殊ロジンエステル、酸価0〜10mgKOH/g、軟化点95−105℃)
≪プロセスオイル(C)≫
C1:PW−90(出光興産社製パラフィン系オイル)
C2:PW−380(出光興産社製パラフィン系オイル)
C3:NYFLEX 222B(Nynas社製ナフテン系オイル)
C4:NYFLEX 223(Nynas社製ナフテン系オイル)
≪ワックス(D)≫
D1:CERAMER67(NuCera Solutions社製マレイン酸変性アルケンワックス、融点97℃)
D2:CERAMER1608(NuCera Solutions社製マレイン酸変性アルケンワックス、融点77℃)
D3:MAW−0300(日本精蝋社製マレイン酸変性アルケンワックス、融点75℃)
D4:AC−5120(Honeywell社製アクリル酸ワックス、融点92℃)
D5:AC−5180(Honeywell社製アクリル酸ワックス、融点76℃)
≪その他ワックス(D’)≫
D’1:AC−540(Honeywell社製アクリル酸ワックス、融点105℃)
D’2:リコセンPPMA6652(クライリアントケミカルズ社製アクリル酸ワックス、融点122℃)
≪ポリエチレンワックス(E)≫
E1:POLYWAX500(NuCera Solutions社製ポリエチレンワックス、融点88℃)
E2:POLYWAX655(NuCera Solutions社製ポリエチレンワックス、融点99℃)
E3:POLYWAX1000(NuCera Solutions社製ポリエチレンワックス、融点113℃)
E4:POLYWAX2000(NuCera Solutions社製ポリエチレンワックス、融点126℃)
E5:Hiwax 420P(三井化学社製ポリエチレンワックス、融点93℃)
E6:エクセレックス 07500(三井化学社製ポリエチレンワックス、融点115℃)
E7:エクセレックス 20700(三井化学社製ポリエチレンワックス、融点124℃)
≪水素添加石油系粘着付与剤(F)≫
F1:アルコンP−90(荒川化学社製水添脂肪族系炭化水素樹脂、軟化点90℃)
F2:アルコンP−100(荒川化学社製水添脂肪族系炭化水素樹脂、軟化点100℃)
F3:アルコンP−140(荒川化学社製水添脂肪族系炭化水素樹脂、軟化点140℃)
F4:ECR5380(EXXON社製水添脂肪族系炭化水素樹脂、軟化点103℃)
F5:ECR5600(EXXON社製水添脂肪族系炭化水素樹脂、軟化点93℃)
≪その他粘着付与剤(F’)≫
F’1:Quintone DX390N(日本ゼオン社製未水添石油樹脂、軟化点93℃)
【0054】
(実施例1)
表1に示す材料および配合量(表中の数値の単位は全て、得られたホットメルト接着剤に対する質量%である)で、加熱装置を備えた攪拌混練機中に投入した後、160℃で2時間に亘って加熱して、ホットメルト接着剤を得た。
【0055】
(実施例2〜31、比較例1〜18)
材料および配合(表中の数値の単位は全て、得られたホットメルト接着剤に対する質量%である)を表1〜6のように変更した以外は、実施例1と同様に、実施例2〜31、比較例1〜18のホットメルト接着剤を製造した。
・・・
【0062】
【表1】



3 甲3の記載
甲3には、次の記載がある。
「【0060】
(C)ワックス
(C1)結晶性プロピレン−エチレンワックス(190℃溶融粘度:3600mPa・s、クラリアント社製のリコセンPP2602(商品名))
(C2)結晶性ポリプロピレンワックス(数平均分子量:4000、軟化点:150℃、針入度:1以下、190℃溶融粘度:140mPa・s、融点:140℃、三井化学社製のハイワックスNP105(商品名))」

4 甲4の記載
甲4には、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)極性官能基で変性された共役ジエン系重合体、
(B)脂肪族ポリエステル系樹脂、および
(C)粘着付与樹脂を含む、ラベル用ホットメルト粘着剤。
【請求項2】
(A)極性官能基で変性された共役ジエン系重合体が、酸無水物基、マレイン酸基、カルボキシル基、アミノ基、イミノ基、アルコキシシリル基、シラノール基、シリルエーテル基、ヒドロキシル基およびエポキシ基から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する水素添加型の共役ジエン系重合体である、請求項1に記載のラベル用ホットメルト粘着剤。
【請求項3】
(A)極性官能基で変性された共役ジエン系重合体が、アミノ基で変性されたスチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体およびマレイン酸基で変性されたスチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1または2に記載のラベル用ホットメルト粘着剤。」
「【技術分野】
【0001】
本発明はホットメルト粘着剤に関し、さらに詳しくは、清涼飲料水、調味料、洗剤、シャンプー、食用油、化粧品、医薬品などに使用される容器(特にPETボトル)のラベル用粘着剤に適したホットメルト粘着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
薬や飲料の容器としては、一般的に、アルミ缶、ガラス瓶、ポリエチレンテレフタレート(PET)ボトルが広く流通している。これらの容器表面には、粘着剤によってラベルが手剥がしできない強度で貼られている。飲料容器のラベルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムや二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)、ポリ乳酸(PLA)フィルムの胴巻ラベル(ロールラベル)が多く利用されている。
【0003】
ラベルが貼られた容器を再利用する際、使用後の容器を工場で回収し、加温されたアルカリ水溶液中に容器を浸漬し、ラベルと容器とを分別する必要がある。従って、容器用ラベルに塗布される粘着剤には、アルカリ水溶液で膨潤、軟化、分散、若しくは可溶することで、ラベルを容器から短時間で剥離させる性質(以下、アルカリ剥離性)が要求される。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題を解決し、環境調和性が高く、かつ、十分な接着性、熱安定性、塗工適正を有し、優れたアルカリ剥離性をも維持するホットメルト粘着剤、特に、PETボトルに貼り付けられるラベルに塗布されるのに好適なラベル用ホットメルト粘着剤を提供することを目的とする。」
「【発明の効果】
【0018】
本発明のホットメルト粘着剤は、環境に優しく、かつ、配合される成分どうしの相溶性が著しく高い。特に、本発明のホットメルト粘着剤は(A)極性官能基で変性された共役ジエン系重合体を含むことにより、ポリ乳酸系樹脂等の(B)脂肪族ポリエステル系樹脂と他の成分との相溶性に優れる。その結果、ポリオレフィン基材に塗布しやすい等塗工適正が高く、かつ、接着性に優れたホットメルト粘着剤が得られる。さらに、本発明のホットメルト粘着剤によりPETボトル等の容器に貼り付けられたラベルは、接着性に優れるだけでなく、ラベルを容器から剥がすときは、手の力で糊残りなく剥がすことができるという手剥離性に優れるとともに、アルカリ溶液によるアルカリ剥離性にも優れる。」
「【0019】
本発明のホットメルト粘着剤は、少なくとも、(A)極性官能基で変性された共役ジエン系重合体、(B)脂肪族ポリエステル系樹脂、および(C)粘着付与樹脂を含む。以下、それぞれ、「A成分」、「B成分」、および「C成分」と記載することもある。なお、本明細書において、「変性された重合体」とは、(i)重合体を得てから官能基が付与されたもの、(ii)重合の過程で官能基が導入されたもの、の双方を含むことを意味するものとする。
【0020】
さらに、本発明のホットメルト粘着剤は、A成分、B成分、およびC成分に加え、必要に応じて(D)可塑剤、(E)ワックス、(F)熱可塑性ブロック共重合体、酸化防止剤等の添加剤を含んでも良い。以下、各成分について説明する。」
「【0021】
<(A)極性官能基で変性された共役ジエン系重合体>
本発明のホットメルト粘着剤は、(A)極性官能基で変性された共役ジエン系重合体(A成分)を含有することにより、(B)脂肪族ポリエステル系樹脂と、(C)粘着付与樹脂等の他の成分との相溶性が高まり、粘着性や接着性および熱安定性が向上し、さらにはアルカリ剥離性も向上する。
【0022】
「極性官能基で変性された共役ジエン系重合体」の「極性官能基」としては、無水マレイン酸基等の酸無水物基、カルボキシル基、マレイン酸基、アミノ基、イミノ基、アルコキシシリル基、シラノール基、シリルエーテル基、ヒドロキシル基およびエポキシ基等が挙げられ、これらのうちマレイン酸基、アミノ基がより好ましい。
・・・
【0028】
また、本発明において、A成分として含まれる極性官能基で変性された共役ジエン系重合体を構成する共役ジエン系重合体は、非水素添加型の共役ジエン系重合体であっても、水素添加型の共役ジエン系重合体であってもよいが、水素添加型の共役ジエン系重合体がより好ましい。
【0029】
「水素添加型の共役ジエン系重合体」としては、具体的には、共役ジエン化合物に基づくブロックの全部、若しくは一部が水素添加されたブロック共重合体が挙げられ、例えば水素添加されたスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(即ち、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体「SEPS」ともいう)及び水素添加されたスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(即ち、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体「SEBS」ともいう)を例示できる。
【0030】
また、「非水素添加型の共役ジエン系重合体」としては、具体的には、共役ジエン化合物に基づくブロックが水素添加されていないブロック共重合体が挙げられ、例えばスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(「SIS」ともいう)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(「SBS」ともいう)を例示できる。これらのうち、A成分として含まれる極性官能基で変性された共役ジエン系重合体を構成する共役ジエン系重合体としては、SEBSが好ましく、スチレン含有量が10〜40重量%のSEBSがより好ましい。」
「【0040】
<(C)粘着付与樹脂>
本発明のホットメルト粘着剤は、(C)粘着付与樹脂(C成分)を含むことにより、粘着性を向上することができる。「粘着付与樹脂」は、ホットメルト粘着剤に通常使用されるものであって、本発明が目的とするホットメルト粘着剤を得ることができるものであれば、特に限定されることはない。
【0041】
粘着付与樹脂として、例えば、天然ロジン、変性ロジン、水添ロジン、天然ロジンのグリセロールエステル、変性ロジンのグリセロールエステル、天然ロジンのペンタエリスリトールエステル、変性ロジンのペンタエリスリトールエステル、水添ロジンのペンタエリスリトールエステル、天然テルペンのコポリマー、天然テルペンの3次元ポリマー、水添テルペンのコポリマーの水素化誘導体、ポリテルペン樹脂、フェノール系変性テルペン樹脂の水素化誘導体、脂肪族石油炭化水素樹脂、脂肪族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体、芳香族石油炭化水素樹脂、芳香族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体、環状脂肪族石油炭化水素樹脂、環状脂肪族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体を例示することができる。これらのうち、特に、酸価が0〜300mgKOH/gの粘着付与樹脂がより好ましく、酸価が100〜300mgKOH/gの粘着付与樹脂がさらに好ましく、酸価が150〜250mgKOH/gの粘着付与樹脂が最も好ましい。酸価が該範囲内であると、本発明のホットメルト粘着剤のアルカリ剥離性がより向上する。」
「【0045】
<(D)可塑剤>
本発明において、ホットメルト粘着剤は、更に(D)可塑剤(D成分)を含んでもよい。(D)可塑剤は、ホットメルト粘着剤の溶融粘度低下、柔軟性の付与、被着体への濡れ向上を目的として配合され、他の成分と相溶し、本発明が目的とするホットメルト粘着剤を得ることができるものであれば、特に限定されるものではない。
【0046】
可塑剤として、例えばパラフィン系オイル、ナフテン系オイル及び芳香族系オイルを例示することができる。特にパラフィン系オイル及び/又はナフテン系オイルが好ましく、無色、無臭であるパラフィン系オイルが最も好ましい。」
「【0049】
<(E)ワックス>
本発明において、ホットメルト粘着剤は、更に(E)ワックス(E成分)を含んでもよい。
【0050】
「ワックス」は、ホットメルト粘着剤に一般的に用いられるワックスであって、本発明が目的とするホットメルト粘着剤を得ることができるものであれば、特に限定されるものではない。具体的には、フィッシャートロプシュワックス、ポリオレフィンワックス(ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス)等の合成ワックス系;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの石油ワックス;カスターワックスなどの天然ワックス;等を例示できる。
【0051】
本発明のラベル用ホットメルト粘着剤が(E)ワックスを含んでいることで、ラベルを容器から剥がす際、ホットメルト粘着剤の容器に対する糊残りが少なくなる。」
「【0052】
<(F)熱可塑性ブロック共重合体>
本発明のホットメルト粘着剤は、(F)熱可塑性ブロック共重合体(F成分)を含んでも良く、F成分を含むことにより、さらに接着性と粘着性が向上する。(F)熱可塑性ブロック共重合体は、非水素添加型であっても、水素添加型であってもよいが、非水素添加型が好ましい。なお、本明細書において、上記A成分に含まれる極性官能基を有する共役ジエン系重合体については、F成分からは除かれる。
・・・
【0057】
本発明において、(F)熱可塑性ブロック共重合体としては、SBS及びSISの双方を含むか、SBS及びSISのいずれかを含むことが好ましい。」
「【実施例】
【0085】
以下、本発明を更に詳細に、かつ、より具体的に説明することを目的として、実施例を用いて本発明を説明する。これらの実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明を何ら制限するものではない。
【0086】
実施例および比較例において、ホットメルト粘着剤に配合する成分を以下に示す。
(A)極性官能基で変性された共役ジエン系共重合体
(A−1)アミノ基変性SEBS(旭化成ケミカルズ製の「タフテックMP10」)
(A−2)マレイン酸基変性SEBS(旭化成ケミカルズ製の「タフテックM1913」)
(A’−3)SEBS(シェル化学社製の「クレイトンG−1650」)
【0087】
(B)脂肪族ポリエステル系樹脂
(B−1)ポリLD乳酸(Nature works社製の「4060D」(商品名))
(B−2)ポリブチレンサクシネート樹脂(三菱化学社製の「AD92W」(商品名))
【0088】
(C)粘着付与樹脂
(C−1)ロジン系樹脂(荒川化学社製のKR−85(商品名)、酸価165〜175mgKOH/g)
(C−2)ロジン系樹脂(イーストマンケミカル社製のForalAX−E(商品名)、酸価166mgKOH/g)
(C−3)ロジン系樹脂(荒川化学社製のKE−604(商品名)、酸価230〜245mgKOH/g)
(C−4)テルペンフェノール樹脂(荒川化学社製のタマノル803(商品名)、酸価45〜60mgKOH/g)
(C−5)水素添加石油樹脂(出光興産社製のI−marv S110(商品名)、酸価0mgKOH/g)
(C−6)水素添加石油樹脂(出光興産社製のI−marv P125(商品名)、酸価0mgKOH/g)
(C−7)水素添加石油樹脂(出光興産社製のI−marv P90(商品名)、酸価0mgKOH/g)
(C−8)芳香族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体(エクソン社製の「ECR179X」(商品名)、酸価0mgKOH/g)
(C−9)C9系石油樹脂(荒川化学社製のアルコンM100(商品名)、酸価0mgKOH/g)
【0089】
(D)可塑剤
(D−1)ナフテン系オイル(出光興産社製のNS−100(商品名))
(D−2)パラフィン系オイル(出光興産社製のダイナフレシアPW−90(商品名))
(D−3)パラフィン系オイル(出光興産社製のダイナフレシアS−32(商品名))
【0090】
(E)ワックス
(E−1)無水マレイン酸変性ポリプロピレンワックス(クラリアント社製のリコセンPPMA6202(商品名))
(E−2)フィッシャートロプシュワックス(Sasol社製のSasol C80(商品名))
【0091】
(F)熱可塑性ブロック共重合体
(F−1)SISトリブロック共重合体(日本ゼオン社製のQuintac3460(商品名))
(F−2)SBSトリブロック共重合体(JSR社製のTR2003(商品名))
(F−3)SBSトリブロック共重合体(JSR社製のTR2250(商品名))
【0092】
(G)酸化防止剤
(G−1)硫黄系酸化防止剤(アデカ社製のAO−412S(商品名))
(G−2)フェノール系酸化防止剤(住友化学社製のスミライザーGM(商品名))
【0093】
(A)〜(G)の成分を表1および表2に示す配合割合で配合し、約145℃で約3時間かけて万能攪拌機を用いて溶融混合し、実施例1〜11、比較例1〜5のホットメルト粘着剤を製造した。表1および表2に示されるホットメルト粘着剤の組成(配合)に関する数値は、全て重量部である。
・・・
【0104】
【表1】


【0105】
【表2】



5 甲5の記載
甲5には、次の記載がある。
(1)「請求の範囲
1. (A)プロピレン・エチレン共重合体:60〜98重量%、(B)粘着付与剤として、軟化点が120〜170℃の無水マレイン酸変性ポリプロピレンワックス:2〜40重量%を含んで成るホッ卜メルト接着剤。」(請求の範囲)

(2)「技術分野
本発明は、ホットメルト型接着剤、特に紙や合成紙、プラスチックフィルム、木材などを貼り合わせることを目的としたホットメルト型接着剤に関する。」(第1頁第5行〜7行)

(3)「本発明において粘着付与剤は、無水マレイン酸変性ポリプロピレンワックスを用いると、PP/E樹脂の転移温度や転移熱、可撓性への影響が小さく、その極性によって接着力を付与させ、その結晶性によりオープンタイムを短縮させる(生産性の向上させる)という機能を有するため、本発明の目的を発揮しやすい。
また、軟化点が120〜170℃での粘着付与剤を用いると、夏冬を含めた常温環境下ではタックを生じなくなる、また可撓性を低下させないので更に好ましい。」(第6頁第20行〜25行)

(4)「(B1)は、軟化点が154℃の無水マレイン酸で末端を変性した結晶性ポリプロピレンワックス〔三洋化成工業(株)製ユーメックスY−1001(商品名)〕である。
(B2)は、軟化点が156℃の無水マレイン酸でグラフト変性した結晶性ポリプロピレンワックス〔クラリアント社製リコモントAR504(商品名)〕である。」(第10頁第9行〜14行)

6 甲6−1の記載
甲6−1には、次の記載がある。
(1)「



(2)「



(3)「



(4)「



7 甲6−2の記載
甲6−2には、次の記載がある。
(1)「



(2)「



(3)「



(4)「



8 甲6−3の記載
甲6−3には、次の記載がある。
(1)「



(2)「



9 甲7の記載
甲7には、次の記載がある。




10 甲8の記載
甲8には、次の記載がある。
(1)「



(2)「





第5 当審の判断
1 申立理由1(進歩性欠如)について
(1)甲1に記載された発明
甲1の請求項1、段落【0104】〜【0113】の記載及び表1に記載された実施例8のホットメルト粘着剤に着目して整理すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

<甲1発明>
「(A1−2)スチレン−エチレン/ブチレン−スチレントリブロック共重合体(クレイトン社製のクレイトンG−1650(商品名)、スチレン含有率30質量%、ジブロック含有率0質量%、重量平均分子量92,000)を16.7質量部、
(A2−5)スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(旭化成ケミカルズ社製のアサプレンT−439(商品名)、スチレン含有率46質量%、ジブロック含有率69質量%、重量平均分子量63,000)を4.2質量部、
(B1)水添脂環族/芳香族共重合系炭化水素樹脂(JXTGエネルギー社製のT−REZ HC103(商品名)、軟化点103℃)を20.9質量部、
(B3)水添脂環族系炭化水素樹脂(JXTGエネルギー社製のT−REZ HA125(商品名)、軟化点125℃)を13.9質量部、
(B4)水素添加ロジンエステル(GUANGDONG KOMO社製のKOMOTAC KHR75(商品名)、酸価170mgKOH/g 軟化点80℃)を20.9質量部、
(B8)α−メチルスチレン系樹脂(イーストマンケミカル社製のクリスタレックス3085(商品名)、軟化点85℃)を2.7質量部、
(B10)α−メチルスチレン系樹脂(イーストマンケミカル社製のクリスタレックス5140(商品名)、軟化点140℃)を1.4質量部、
(C1−1)ヒマシ硬化油(伊藤製油社製のヒマシ硬化油A(商品名)、融点85.5℃)を16.7質量部、
(C1−8)パーム極度硬化油(山桂産業社製の水添パーム油(商品名)、融点58.6℃)を2.8質量部、
(D2)フィッシャートロプシュワックス(サゾール社製のサゾールH1(商品名)、融点108℃、針入度2)を5.6質量部、
(D5)ポリプロピレンワックス(三井化学社製のハイワックスNP105(商品名)、融点140/148℃、針入度1)を1.4質量部、
(E1)パラフィンオイル(出光興産社製のダフニーオイル KP−68(商品名))を11.1質量部、
(E4)ナフテンオイル(ペトロチャイナ社製のDN4010(商品名))を20.9質量部、
(F1)ヒンダードフェノール系酸化防止剤(アデカ社製のアデカスタブ AO−60(商品名))を0.4質量部、
(F2)チオエーテル系酸化防止剤(アデカ社製のアデカスタブ AO−412S(商品名))を0.3質量部
の配合割合で配合されたアルカリ分散型ホットメルト粘着剤。」

(2)対比・判断
ア 甲1発明との対比・判断
(ア)対比
甲1発明と本件発明1を対比する。
甲1発明の「(A2−5)スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(旭化成ケミカルズ社製のアサプレンT−439(商品名)、スチレン含有率46質量%、ジブロック含有率69質量%、重量平均分子量63,000)」は、本件発明1の「スチレン系エラストマー(A)」及び「スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(a1)」に相当し、甲1発明の「(A1−2)スチレン−エチレン/ブチレン−スチレントリブロック共重合体(クレイトン社製のクレイトンG−1650(商品名)、スチレン含有率30質量%、ジブロック含有率0質量%、重量平均分子量92,000)」は、本件発明1の「スチレン系エラストマー(A)」及び「スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(a2)」に相当する。
また、甲1発明の「(B4)水素添加ロジンエステル(GUANGDONG KOMO社製のKOMOTAC KHR75(商品名)、酸価170mgKOH/g 軟化点80℃)」は、本件発明1の「酸価が、100〜300mgKOH/g」である「ロジン系粘着付与剤(B)」に相当する。
さらに、甲1発明の「(E4)ナフテンオイル(ペトロチャイナ社製のDN4010(商品名))」は、本件発明1の「ナフテン系プロセスオイル(C)」に相当する。
加えて、甲1発明の「(D5)ポリプロピレンワックス(三井化学社製のハイワックスNP105(商品名)、融点140/148℃、針入度1)」は、甲3の段落【0060】によると、その軟化点は150℃であるから、本件発明1の「軟化点が100℃以上」である「ポリプロピレンワックス(D)」に相当する。
また、甲1発明の「アルカリ分散型ホットメルト粘着剤」は、本件発明1の「アルカリ剥離性ホットメルト粘着剤」に相当する。
そして、甲1発明のホットメルト粘着剤における(D5)ポリプロピレンワックスの含有率は、1.0(≒1.4/139×100)質量%であるから、本件発明1の「ポリプロピレンワックス(D)の含有率が、ホットメルト粘着剤100質量%中、0.1〜5質量%である」という発明特定事項を充足する。
一方、甲1発明の(A2−5)スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体と(A1−2)スチレン−エチレン/ブチレン−スチレントリブロック共重合体との質量比(A2−5)/(A1−2)は、20.1/79.9(≒{4.2/(16.7+4.2)×100}/{16.7/(16.7+4.2)×100})であるから、本件発明1の「スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(a1)とスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(a2)の質量比(a1)/(a2)は25/75〜50/50であり」という発明特定事項を充足しない。
また、甲1発明のホットメルト粘着剤における(B4)水素添加ロジンエステルの含有率は、15.0(≒20.9/139×100)質量%であるから、本件発明1の「ナフテン系プロセスオイル(C)の含有率が、ホットメルト粘着剤100質量%中、18〜48質量%であり」という発明特定事項を充足しない。
そうすると、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
「スチレン系エラストマー(A)、ロジン系粘着付与剤(B)、ナフテン系プロセスオイル(C)およびポリプロピレンワックス(D)を含むアルカリ剥離性ホットメルト粘着剤であって、スチレン系エラストマー(A)が、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(a1)およびスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(a2)を含み、
ロジン系粘着付与剤(B)の酸価が、100〜300mgKOH/gであり、
ポリプロピレンワックス(D)の軟化点が100℃以上であり、かつ、
ポリプロピレンワックス(D)の含有率が、ホットメルト粘着剤100質量%中、0.1〜5質量%である、
アルカリ剥離性ホットメルト粘着剤。」

<相違点1>
スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(a1)とスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(a2)の質量比(a1)/(a2)について、本件発明1は、25/75〜50/50であるのに対して、甲1発明は、20.1/79.9である点。

<相違点2>
ナフテン系プロセスオイル(C)の含有率について、本件発明1は、ホットメルト粘着剤100質量%中、18〜48質量%であるのに対して、甲1発明は、ホットメルト粘着剤100質量%中、15.0%である点。

(イ)判断
相違点1についてまず検討する。
甲1の段落【0035】には、「本発明のホットメルト粘着剤は、成分(A)の総量100質量部に対し、成分(A1)の含有量が70質量部以上であることが好ましく、80質量部以上であることがより好ましく、100質量部であってもよい。本発明のホットメルト粘着剤は、成分(A1)の含有量が上記範囲内にあると、保持力がより向上する。」と記載されているところ、甲1発明のスチレン系エラストマーである成分(A)に総量100質量部に対する、成分(A1)である「(A1−2)スチレン−エチレン/ブチレン−スチレントリブロック共重合体」の含有量は、79.9質量部である。
そうすると、上記甲1の記載によると、成分(A1)のより好ましいとされる範囲は、80質量部以上であるから、当該記載に接した当業者であれば、甲1発明の成分(A1)である「(A1−2)スチレン−エチレン/ブチレン−スチレントリブロック共重合体」の含有量を減らすのではなく、80重量部以上に増やすことを試行すると解されるから、甲1の記載に基づいて、甲1発明のスチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(a1)とスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(a2)の質量比(a1)/(a2)を、25/75〜50/50とする動機付けはないといえる。
また、甲2の段落【0062】の表1の実施例7には、スチレン系エラストマー(A)を含むアルカリ分散型ホットメルト接着剤の発明の実施例として、「スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(a1)」に相当する「アサプレンT−438(旭化成社製スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、水素未添加エラストマー、重量平均分子量84,000)」4.8質量%、「スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(a2)」に相当する「G−1726(クレイトン社製スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体、水素添加エラストマー、重量平均分子量46,000)」11質量%をスチレン系エラストマー(A)として含むもの、すなわち、「(a1)/(a2)」が、30/70(≒{4.8/(11+4.8)×100}/{11/(11+4.8)×100})であるものが記載されている。
しかしながら、甲2の段落【0018】には、スチレン系エラストマー(A)として、各種物性のバランスがとりやすいという点で、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレン(SEBS)を含むことが特に好ましい旨の記載はあるものの、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)については、同段落【0017】に、好適に使用できる公知のスチレン系共重合体の例示の一つとして示されているにすぎず、どの程度含有させることが好ましいかについては記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1発明において、甲2の実施例7に記載された「質量比(a1)/(a2)」を採用する動機付けはないといえる。
よって、甲1発明において、甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、相違点1の構成を導くことは当業者が容易に想到し得たことではない。

次に相違点2について検討する。
甲1の段落【0079】には、ホットメルト粘着剤に含有する可塑剤として、特にパラフィン系オイル及び/又はナフテン系オイルが好ましく、無色、無臭であるパラフィン系オイルが最も好ましい旨記載されているが、ナフテン系オイルを特定の割合で含有させることについては記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1の記載に接した当業者であれば、甲1発明において、ナフテン系オイルの含有量を増やすのではなく、最も好ましいとされるパラフィン系オイルの量を増やすことを試行すると解されるから、甲1の記載に基づいて、甲1発明のナフテン系オイルの含有量を増やして、18〜48質量%の範囲とする動機付けはないといえる。
また、甲2の段落【0062】の表1の実施例7には、プロセスオイルを含むアルカリ分散型ホットメルト接着剤の発明の実施例として、「ナフテン系プロセスオイル」に相当する「C3:NYFLEX 222B(Nynas社製ナフテン系オイル)」を28質量%含有させたものが記載されており、同段落【0027】には、ホットメルト接着剤のプロセスオイルの含有量は、好ましくは25〜30質量%であることが記載され、同段落【0028】には、プロセスオイルとして、パラフィン系プロセスオイルもしくはナフテン系プロセスオイルを含むことにより、低温での接着強度を向上させ、高温保管時の貼付物を引き剥がした際の、被貼付面への糊残りも少ないホットメルト接着剤を得ることができる旨記載されている。
しかしながら、甲2には、プロセスオイルとして、パラフィン系プロセスオイルとナフテン系プロセスオイルを区別して、それらを特定の割合で含有させることについての記載や示唆はなく、甲1に記載されたホットメルト接着剤において、最も好ましいプロセスオイルは、パラフィン系オイルであるから、甲1発明において、ナフテン系オイルの含有量を増やして、その含有量を18〜48質量%の範囲とする動機付けはないといえる。
よって、甲1発明において、甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、相違点2の構成を導くことは当業者が容易に想到し得たことではない。

したがって、本件発明1は、甲1発明、並びに、甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。

(ウ)本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、本件発明1を包含し、さらに特定事項を追加したものであるから、上記(イ)で検討したのと同様の理由により、甲1発明、並びに、甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。

イ 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第50〜51頁において、以下について主張する。

(主張1)甲第2号証には、「スチレン系エラストマー(A)として、その一部又は全てに水素添加スチレン系エラストマーを含むことが好ましい。水素添加スチレン系エラストマーを含むことにより、ホットメルト接着剤をアプリケータータンク内にて長期間加熱状態に置いても粘度変化が少なくなり、接着物性の変動を少なくすることが可能である。…(略)…、これらの中でも、各種物性のバランスがとりやすいという点で、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレン(SEBS)を含むことが特に好ましい。」との記載があり(甲第2号証:段落0018)、接着物性の変動を少なくさせ、各種物性のバランスをとりやすくするために、スチレン系エラストマーとして、その一部又は全てにSEBSを含有させる示唆がある。
そうすると、接着物性の変動を少なくさせ、各種物性のバランスをとりやすくする等のために、スチレン系エラストマーにおけるSEBSの割合は当業者が所望により適宜選択しうるものと解されるから、SBS/SEBSの質量比を25/75〜50/50の範囲内に設定することは当業者にとって容易である。

(主張2)甲2号証には、さらに以下の記載がある。
「本発明のホットメルト接着剤は、プロセスオイル(C)を含有する。ホットメルト接着剤100質量%中のプロセスオイルの含有量は、20〜40質量%であり、好ましくは25〜30質量%である。プロセスオイルの含有量が20質量%に満たない場合、ホットメルト接着剤の濡れ性が悪くなり接着性が悪化する。一方、プロセスオイルの含有量が40質量%を超えると、ホットメルト接着剤の保持力が低下する。」(甲第2号証:段落0027)
一方、甲1発明はPETボトルなどのラベル用粘着剤にかかるものであることから(甲第1号証:段落0001等)、保持力およびアルカリ分散性の向上、糊残りの減少という課題を有し、さらに、消費者ニーズの広がりとともに用途も拡大した今日においては低温下におけるラベルの脱落という課題が内在しているといえる(甲第2号証:段落0008参照)。
そうすると、甲1発明において、保持力およびアルカリ分散性の向上、糊残りの減少を図ること、さらに、低温下におけるラベルの脱落を抑制することを図ることを目的として、甲2発明のプロセスオイルの配合量28質量%を採用することは当業者にとって容易である。
また、上記甲第2号証の段落0027の記載から、接着性と保持力を考慮して、プロセスオイルの含有量を20〜40質量%に設定することも当業者にとって容易である。

以下、上記申立人の主張1及び2について検討する。

(ア)主張1について
上記ア(イ)でも検討したとおり、甲2の段落【0018】において、各種物性のバランスをとりやすくするために、スチレン系エラストマーとして、その一部又は全てにSEBSを含有させるという示唆があったとしても、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)については、甲2の段落【0017】に、好適に使用できる公知のスチレン系共重合体の例示の一つとして示されているにすぎず、どの程度含有させることが好ましいかについては記載も示唆もされていないから、甲1発明において、SBSの量を増やして、SBS/SEBSの質量比を25/75〜50/50の範囲内とする動機付けはない。
よって、上記申立人の主張1は採用できない。

(イ)主張2について
上記ア(イ)でも検討したとおり、甲2には、プロセスオイルとして、パラフィン系プロセスオイルとナフテン系プロセスオイルを区別して、それらを特定の割合で含有させることについての記載や示唆はなく、甲1に記載されたホットメルト接着剤において、最も好ましいプロセスオイルは、パラフィン系オイルであるから、甲1発明において、ナフテン系オイルの含有量を増やして、その含有量を18〜48質量%の範囲とする動機付けはない。
よって、上記申立人の主張2は採用できない。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明1〜4は、甲1に記載された発明、並びに、甲1及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得たものであるとすることはできないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。

2 申立理由2(新規性欠如)及び申立理由3(進歩性欠如)について
(1)甲4に記載された発明
甲4の段落【0018】、【0086】〜【0093】の記載及び表1に記載された実施例3のホットメルト粘着剤に着目して整理すると、甲4には、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。

<甲4発明>
「(A−1)アミノ基変性SEBS(旭化成ケミカルズ製の「タフテックMP10」)を7重量部、
(B−1)ポリLD乳酸(Nature works社製の「4060D」(商品名))を25重量部、
(C−2)ロジン系樹脂(イーストマンケミカル社製のForalAX−E(商品名)、酸価166mgKOH/g)を15重量部、
(C−5)水素添加石油樹脂(出光興産社製のI−marv S110(商品名)、酸価0mgKOH/g)を15重量部、
(D−1)ナフテン系オイル(出光興産社製のNS−100(商品名))を28重量部、
(E−1)無水マレイン酸変性ポリプロピレンワックス(クラリアント社製のリコセンPPMA6202(商品名))を5重量部、
(F−3)SBSトリブロック共重合体(JSR社製のTR2250(商品名))を5重量部、
(G−1)硫黄系酸化防止剤(アデカ社製のAO−412S(商品名))を0.2重量部、
(G−2)フェノール系酸化防止剤(住友化学社製のスミライザーGM(商品名))を0.3重量部
の配合割合で配合されたアルカリ溶液によるアルカリ剥離性に優れたホットメルト粘着剤。」

(2)対比・判断
ア 甲4発明との対比・判断
(ア)対比
甲4発明と本件発明1を対比する。
甲4発明の「(F−3)SBSトリブロック共重合体(JSR社製のTR2250(商品名))」は、本件発明1の「スチレン系エラストマー(A)」及び「スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(a1)」に相当する。
また、甲4発明の「(C−2)ロジン系樹脂(イーストマンケミカル社製のForalAX−E(商品名)、酸価166mgKOH/g)」は、本件発明1の「酸価が、100〜300mgKOH/g」である「ロジン系粘着付与剤(B)」に相当する。
さらに、甲4発明の「(D−1)ナフテン系オイル(出光興産社製のNS−100(商品名))」は、本件発明1の「ナフテン系プロセスオイル(C)」に相当する。
加えて、甲4発明の「アルカリ溶液によるアルカリ剥離性に優れたホットメルト粘着剤」は、本件発明1の「アルカリ剥離性ホットメルト粘着剤」に相当する。
そして、甲4発明のホットメルト粘着剤における(D−1)ナフテン系オイルの含有率は、28(≒28/100.5×100)質量%であるから、本件発明1の「ナフテン系プロセスオイル(C)の含有率が、ホットメルト粘着剤100質量%中、18〜48質量%であり」という発明特定事項を充足する。
一方、甲4発明の「(A−1)アミノ基変性SEBS(旭化成ケミカルズ製の「タフテックMP10」)」は、本件発明1の「スチレン系エラストマー(A)」に相当するが、「アミノ基変性」されている点で、本件発明1の「スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(a2)」と相違する。
また、甲4発明の「(E−1)無水マレイン酸変性ポリプロピレンワックス(クラリアント社製のリコセンPPMA6202(商品名))」は、「無水マレイン酸変性」されており、軟化点が100℃以上であることが特定されていない点で、本件発明1の「軟化点が100℃以上」である「ポリプロピレンワックス(D)」と相違する。
そうすると、本件発明1と甲4発明の一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
「スチレン系エラストマー(A)、ロジン系粘着付与剤(B)、ナフテン系プロセスオイル(C)およびポリプロピレンワックス(D)を含むアルカリ剥離性ホットメルト粘着剤であって、スチレン系エラストマー(A)が、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(a1)を含み、
ロジン系粘着付与剤(B)の酸価が、100〜300mgKOH/gであり、
ナフテン系プロセスオイル(C)の含有率が、ホットメルト粘着剤100質量%中、18〜48質量%である、
アルカリ剥離性ホットメルト粘着剤。」

<相違点1>
本件発明1は、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(a2)を含み、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(a1)とスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(a2)の質量比(a1)/(a2)が、25/75〜50/50であるのに対して、甲4発明は、アミノ基変性スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(A−1)を含み、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(F−3)とアミノ基変性スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(A−1)の質量比(F−3)/(A−1)が41.7/58.3(≒{5/(5+7)×100}/{17/(5+7)×100})である点。

<相違点2>
本件発明1は、軟化点が100℃以上であるポリプロピレンワックス(D)を、ホットメルト粘着剤100質量%中、0.1〜5質量%含むのに対して、甲4発明は、無水マレイン酸変性ポリプロピレンワックスを、ホットメルト粘着剤100質量%中、5(≒5/100.5×100)質量%含み、軟化点が特定されていない点。

(イ)判断
相違点1についてまず検討する。
甲4発明の「(A−1)アミノ基変性SEBS」は、「アミノ基変性」されている「スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー」である。
ここで、本件発明1の「スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(a2)」が、アミノ変性されたものを含むのか否かについて検討すると、本件明細書の段落【0023】〜【0025】に、「スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(a2)」についての一般的な記載があるが、アミノ基等で変性されたものが、「スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(a2)」に含まれることについての記載はない。
また、本件明細書の段落【0043】〜【0058】、表1に記載された実施例においても、「スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(a2)」として、アミノ基等で変性されたものは用いられていない。
さらに、「スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー」という文言が、アミノ基等で変性されたものを含むという技術常識について、申立人は、客観的な証拠を十分提示していない。
そうすると、本件発明1の「スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(a2)」が、アミノ基変性されたものを含むということはできないから、相違点1は実質的な相違点といえる。
ここで、甲4の請求項1には、ラベル用ホットメルト粘着剤において、(A)極性官能基で変性された共役ジエン系重合体が必須成分として含まれることが記載されており、また、甲4の段落【0021】には、「本発明のホットメルト粘着剤は、(A)極性官能基で変性された共役ジエン系重合体(A成分)を含有することにより、(B)脂肪族ポリエステル系樹脂と、(C)粘着付与樹脂等の他の成分との相溶性が高まり、粘着性や接着性および熱安定性が向上し、さらにはアルカリ剥離性も向上する。」と記載されている。
そうすると、甲4に記載されたラベル用ホットメルト粘着剤では、粘着性、接着性、熱安定性、アルカリ剥離性の向上のために、アミノ基等の極性官能基で変性された共役ジエン系重合体(A成分)が相当量含まれることが必要と解される。
してみれば、甲4発明は、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(F−3)とアミノ基変性スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(A−1)を、質量比(F−3)/(A−1)が41.7/58.3で含むものであるところ、アミノ変性スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(A−1)58.3質量部のうちの50質量部以上を、甲4の段落【0105】、表2の比較例5に含まれるような極性官能基で変性されていないSBES樹脂に置き換えて、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(a2)と、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(a1)とスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(a2)の質量比(a1)/(a2)を、25/75〜50/50とする動機付けはないといえる。
また、甲1の段落【0044】には、ホットメルト接着剤において、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレン(SEBS)トリブロック共重合体を含有させることによって保持力を向上できる旨の記載があるが、甲4発明は、上記のとおり、アミノ基変性されたスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマーを相当量用いて、粘着性、接着性、熱安定性、アルカリ剥離性の向上させる発明であるから、甲4発明において、甲1の記載に基づいて、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(a2)の含有量を増やして、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(a1)とスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(a2)の質量比(a1)/(a2)を、25/75〜50/50とする動機付けはない。
また、甲5、甲6−1、甲6−2及び甲6−3は、相違点2に関するものであるから、甲4発明において、甲5〜甲6−3に記載された事項に基づいて、相違点1の構成を導くことはできない。
したがって、相違点2を検討するまでもなく、本件発明1は、甲4に記載された発明、並びに、甲1、甲4〜甲6−3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。

(ウ)本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、本件発明1を包含し、さらに特定事項を追加したものであるから、上記(イ)で検討したのと同様の理由により、甲4に記載された発明、並びに、甲1、甲4〜甲6−3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。

イ 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第56頁において、以下のように主張する。

甲第4号証には、共役ジエン化合物を組み合わせて使用することができる旨の記載があり(甲第4号証:段落0024)、水素添加型の共役ジエン系重合体として「SEBS」の例示があり(甲第4号証:段落0029)、非水素添加型の共役ジエン系重合体として「SBS」の例示があることから(甲第4号証:段落0030)、SBSとSEBSとを併用してよいことの示唆がある。
一方、甲第1号証には、SEBSを含むことによって凝集力が著しく向上し、ラベルを容器に接着させたとき、長期にわたって容器からラベルが浮くことなく、ラベルがずれることもなくラベルの接着を保持することができる、との記載がある(甲第1号証:段落0044)。
よって、上述のとおり、甲4発明において、凝集力や保持力を向上させる目的でSBSとSEBSとを併用することは当業者にとって容易である。

以下、上記申立人の主張について検討すると、甲4の段落【0028】には、「本発明において、A成分として含まれる極性官能基で変性された共役ジエン系重合体を構成する共役ジエン系重合体は、非水素添加型の共役ジエン系重合体であっても、水素添加型の共役ジエン系重合体であってもよいが、水素添加型の共役ジエン系重合体がより好ましい。」との記載があるように、段落【0029】に記載された水素添加型の共役ジエン系重合体として例示されたSEBSは、極性官能基で変性された水素添加型の共役ジエン系重合体の例示であり、段落【0030】に記載された非水素添加型の共役ジエン系重合体として例示されたSBSの例示は、極性官能基で変性された非水素添加型の共役ジエン系重合体の例示であるから、甲4には、極性官能基で変性されていないSBSとSEBSとを併用してよいことについての示唆はない。
加えて、甲1には、ホットメルト粘着剤において、SEBSを含むことによって凝集力が著しく向上し、ラベルを容器に接着させたとき、長期にわたって容器からラベルが浮くことなく、ラベルがずれることもなくラベルの接着を保持することができる旨の記載があるものの、上記ア(イ)で検討したとおり、甲4発明は、アミノ基変性されたスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマーを相当量用いて、粘着性、接着性、熱安定性、アルカリ剥離性の向上させる発明であるから、甲4発明において、甲1の記載に基づいて、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(a2)の含有量を増やして、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(a1)とスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(a2)の質量比(a1)/(a2)を、25/75〜50/50とする動機付けはない。
よって、上記申立人の主張は採用できない。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明1〜4は、相違点2を検討するまでもなく、甲4に記載された発明、並びに、甲1、甲4〜甲6−3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。

3 申立理由4(サポート要件違反)について
(1)判断手法
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する、いわゆるサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)発明の課題
本件発明の解決しようとする課題は、本件明細書の段落【0013】の記載を参酌すると「ホットメルト粘着剤を薄膜塗工した場合にも、接着強度やボトルの膨張によるラベルのずれに対するホットメルトの追従性(実貼り性)が高く、特にボトル膨張率が大きい炭酸飲料用PETボトルにおいて、長期保管した際にラベルが剥離しにくいとともに、熱アルカリ水溶液により容器から接着物を容易且つ糊残りなく剥がすことのできるアルカリ剥離性ホットメルト粘着剤を提供すること」と認められる。

(3)判断
本件明細書の段落【0024】には、「本発明におけるスチレン系エラストマー(A)は、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(a1)とスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロックコポリマー(a2)を同時に含有する。SBS(a1)とSEBS(a2)を同時に含有することでホットメルト粘着剤の相溶性を適度に低下させることが可能になり、相溶性を低下させることで凝集破壊を促し、ボトル膨張の際にもホットメルト粘着剤が追従することで剥離を抑制できる。」との記載があり、同段落【0025】には、「SBS(a1)とSEBS(a2)の質量比(a1)/(a2)は10/90〜90/10が好ましく、20/80〜80/20がより好ましい。上記範囲でSBS(a1)とSEBS(a2)を含有することで、適度に凝集破壊を促進し、実貼り適性を付与することができる。」
」との記載がある。
また、同段落【0026】には、「ロジン系粘着付与剤(B)は、酸価が100〜300mgKOH/gであれば特に限定されない・・・酸価が100mgKOH/g未満であると十分なアルカリ分散性が発揮できなくなり、一方、300mgKOH/gより大きいとホットメルト組成物の粘度や軟化点が高くなりすぎてしまう。」との記載がある。
さらに、プロセスオイル(C)について、同段落【0029】には、「アルカリ剥離性の観点からナフテン系オイルが好ましい。」との記載があり、同段落【0030】には、「プロセスオイル(C)の含有率は、ホットメルト粘着剤100質量%中、15〜50質量%が好ましく、20〜45質量%がより好ましく、25〜40質量%がさらに好ましい。上記範囲でプロセスオイル(C)を含有することで、アルカリ剥離性と高い接着強度が両立できるため、好ましい。」との記載がある。
加えて、ポリプロピレンワックス(D)について、同段落【0031】には、「ポリプロピレンワックス(D)は、軟化点が100℃以上であれば特に限定されない。」との記載があり、同段落【0032】には、「ホットメルト粘着剤100質量%中、ポリプロピレンワックス(D)を0.1〜5質量%含有することで、接着強度と実貼りに優れたホットメルト粘着剤とすることができる。」との記載がある。
そうすると、上記一般的な記載から、本件発明1の「スチレン系エラストマー(A)」、「ロジン系粘着付与剤(B)」、「プロセスオイル(C)」、「ポリプロピレンワックス(D)」は、アルカリ剥離性、接着強度、実貼り性が良好なものを得るために好ましいとされる範囲の物性や含有量を有するものであることが読み取れる。
そして、本件明細書の表1、表2には、実施例1〜16、18〜19として、本件発明1の特定事項を全て満たすホットメルト粘着剤が記載されており、それぞれ、アルカリ剥離性、接着強度、実貼り性の評価が全て、実用可である「△」以上であることが示されている。
また、同段落【0060】には、上記実施例から、「本発明のホットメルト粘着剤は、ホットメルト粘着剤を薄膜塗工した場合にも、接着強度やボトルの膨張によるラベルのずれに対するホットメルトの追従性(実貼り性)が高く、ラベルが剥がれにくく、さらにアルカリ剥離性を有する。」と記載されている。
そうすると、本件発明1は、実施例により、アルカリ剥離性、接着強度、実貼り性の評価が良好であることが裏付けられており、「ホットメルト粘着剤を薄膜塗工した場合にも、接着強度やボトルの膨張によるラベルのずれに対するホットメルトの追従性(実貼り性)が高く、特にボトル膨張率が大きい炭酸飲料用PETボトルにおいて、長期保管した際にラベルが剥離しにくいとともに、熱アルカリ水溶液により容器から接着物を容易且つ糊残りなく剥がすことのできるアルカリ剥離性ホットメルト粘着剤を提供」するという発明の課題を解決できるものと読み取れる。
そうすると、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
よって、本件出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないものとはいえない。
また、本件発明1を引用する本件発明2〜4についても同様である。

(4)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第58〜61頁において、以下のとおり主張する。

本件特許の実施例17は、ナフテン系プロセスオイルを含まない(パラフィン系プロセスオイル(PW−90)を含む)ホットメルト粘着剤であるから、補正後の特許請求の権利範囲に属しないものである(本件特許の登録公報[0048],[0058]表1,[0059]表2)。
そして、実施例17(比較例相当)のホットメルト粘着剤は、アルカリ剥離性が〇、接着強度が◎、実貼評価が◎である(評価として「◎×2、○×1」を有している)。
一方、上記補正後も特許請求の権利範囲に属する、実施例7,8,11,12,15,16,19のホットメルト粘着剤は、上記3つの指標における評価として「◎×2、△×1」を有しているから、上記実施例17(比較例相当)と比べ、性能が劣ることが明確である。
・・・
そうすると、出願時の技術常識に照らしても、「引用文献1に記載の発明において、ナフテン系オイルを特定量含有させることにより上記効果を奏することを見出した」とする特許権者の主張を首肯することはできない。
いいかえると、本件特許明細書には、上記数値を用いての規定の範囲内であれば課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されているとはいえず、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できると到底いうことができない。

以下、上記申立人の主張について検討する。
申立人は、本件発明1の範囲内である実施例7,8,11,12,15,16,19のものが、本件発明1の範囲外である実施例17のものよりも、評価が低い旨主張するが、実施例7,8,11,12,15,16,19のものは、アルカリ剥離性、接着強度、実貼り性の評価が全て、実用可である「△」以上であるから、「ホットメルト粘着剤を薄膜塗工した場合にも、接着強度やボトルの膨張によるラベルのずれに対するホットメルトの追従性(実貼り性)が高く、特にボトル膨張率が大きい炭酸飲料用PETボトルにおいて、長期保管した際にラベルが剥離しにくいとともに、熱アルカリ水溶液により容器から接着物を容易且つ糊残りなく剥がすことのできるアルカリ剥離性ホットメルト粘着剤を提供」するという発明の課題を解決できるものといえる。
そうすると、本件発明1のうち、本件発明1の範囲外のものよりも、評価が低いものがあったとしても、本件発明1の範囲に含まれるものは、上記発明の課題を解決できるのであるから、本件発明1に係る発明の特許請求の範囲の記載が、サポート要件に違反しているとはいえない。
よって、上記申立人の主張は採用できない。

(5)小括
以上で検討したとおり、本件発明1〜4は、発明の詳細な説明及び技術常識に基づいて、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

第6 むすび
以上のとおりであるから、申立人による特許異議申立書の理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1〜4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2024-08-28 
出願番号 P2022-183155
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C09J)
P 1 651・ 121- Y (C09J)
P 1 651・ 537- Y (C09J)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 村守 宏文
特許庁審判官 長谷川 真一
瀬下 浩一
登録日 2023-11-29 
登録番号 7393843
権利者 東洋インキSCホールディングス株式会社 トーヨーケム株式会社
発明の名称 アルカリ剥離性ホットメルト粘着剤、および容器  

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