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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02K
管理番号 1417336
総通号数 36 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2024-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2023-10-11 
確定日 2024-12-17 
事件の表示 特願2021−532614「ステータ、モータ、圧縮機、及び空気調和機」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 1月21日国際公開、WO2021/009862、請求項の数(14)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2019年(令和1年)7月17日を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 3年 7月 5日 手続補正書の提出
令和 4年 8月31日付け 拒絶理由通知書
同年10月24日 意見書及び手続補正書の提出
令和 5年 3月 7日付け 拒絶理由通知書(最後)
同年 4月24日 意見書及び手続補正書の提出
同年 7月27日付け 補正却下、拒絶査定
同年10月11日 審判請求書、手続補正書の提出
同年12月22日付け 前置報告書

第2 原査定の理由の概要
令和5年7月27日付け拒絶査定(以下、「原査定」という。)の理由の概要は次のとおりである。
理由(進歩性)この出願の以下の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・請求項 1〜4 : 引用文献 1〜3
・請求項 5〜8 : 引用文献 1〜4
・請求項 9〜13 : 引用文献 1〜6
・請求項 14 : 引用文献 1〜5

<引用文献等一覧>
1.特開2018−26928号公報
2.特開2006−280087号公報(周知技術を示す文献)
3.特公平2−47191号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2018−112396号公報
5.特開2019−30074号公報(周知技術を示す文献)
6.国際公開第2016/031057号(周知技術を示す文献)

第3 本願発明
本願の請求項1〜14に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」〜「本願発明14」といい、まとめて「本願発明」ともいう。)は、令和5年10月11日提出の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1〜14に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】
不均化反応を起こす性質の物質を含む冷媒と共に用いられる圧縮機内に配置されたモータのロータの外側に配置されるステータであって、
前記ロータの軸方向に積層された複数のシートを有するステータ鉄心を備え、
前記ステータ鉄心は、周方向に円環状に分割されて配列された複数の鉄心部で構成されており、ヨーク部と、N個のティース部とを備え、
前記N個のティース部の各々は、前記ロータに対向するティース先端面を有し、
前記軸方向と直交する平面において、前記ティース先端面の曲率は一定であり、
前記軸方向と直交する平面において、前記ティース先端面の両端と前記ロータの回転中心とを通る2直線が成す角度をθ1[度]としたとき、
前記複数のシートの各々が、0.75≦(θ1×N)/360≦0.97
を満たすステータ。
【請求項2】
0.84≦(θ1×N)/360≦0.97を満たす請求項1に記載のステータ。
【請求項3】
0.75≦(θ1×N)/360≦0.925を満たす請求項1に記載のステータ。
【請求項4】
前記N個のティース部に分布巻きで取り付けられたコイルをさらに有する請求項1から3のいずれか1項に記載のステータ。
【請求項5】
前記不均化反応を起こす性質の物質は、1,1,2−トリフルオロエチレンである請求項1から4のいずれか1項に記載のステータ。
【請求項6】
前記不均化反応を起こす性質の物質は、1,2−ジフルオロエチレンである請求項1から4のいずれか1項に記載のステータ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のステータと、
前記ステータの内側に配置された前記ロータと
を備えるモータ。
【請求項8】
パルス幅変調制御方式で動作し、前記ステータに電力を供給するインバータを有する請求項7に記載のモータ。
【請求項9】
前記ロータの軸方向において、前記ロータは前記ステータよりも長い請求項7又は8に記載のモータ。
【請求項10】
前記ロータは、永久磁石を有する永久磁石埋込型ロータである請求項7から9のいずれか1項に記載のモータ。
【請求項11】
前記ロータは、ロータ鉄心と、前記ロータの軸方向における前記ロータ鉄心の端部に固定された金属部材とを有し、
前記ロータの軸方向と直交する前記平面において、前記金属部材の表面積は、前記ロータ鉄心の表面積よりも大きい
請求項7から10のいずれか1項に記載のモータ。
【請求項12】
前記ロータは、ロータ鉄心を有し、
前記ロータ鉄心の外径は、前記ロータの磁極中心部で最大であり、前記ロータの極間部で最小である請求項7から11のいずれか1項に記載のモータ。
【請求項13】
密閉容器と、
前記密閉容器内に配置された圧縮装置と、
前記圧縮装置を駆動する請求項7から12のいずれか1項に記載のモータと
を備える圧縮機。
【請求項14】
請求項13に記載の圧縮機と、
熱交換器と
を備える空気調和機。」

第4 引用文献、引用発明、技術事項
1 引用文献1、引用発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2018−026928号公報)には、以下の記載がある。(なお、下線は当審にて付与した。以下、同じ。)
「【0024】
(モータ部)
モータ部2は、モータケース5と、モータケース5内に収納されている略円筒状のステータ8と、ステータ8の径方向内側に設けられ、ステータ8に対して回転可能設けられたロータ9と、を備えている。
【0025】
(モータケース)
モータケース5は、例えばアルミダイキャスト等の放熱性の優れた材料に形成されている。モータケース5は、軸方向に分割可能に構成された第1モータケース6と、第2モータケース7と、からなる。第1モータケース6および第2モータケース7は、それぞれ有底筒状に形成されており、それぞれの開口部6a,7aを嵌合させることで内部空間を有するモータケース5を形成している。」

「【0028】
(ステータ)
図3は、ステータ8およびロータ9の軸方向に直交する断面図である。
図2、図3に示すように、ステータ8は、軸方向に直交する断面形状が正六角形となる筒状のコア部21と、コア部21から径方向内側に向かって突出する複数(例えば、本実施形態では6つ)のティース22と、が一体成形されたステータコア20を有している。ステータコア20は、複数の金属板を軸方向に積層することにより形成されている。なお、ステータコア20は、複数の金属板を軸方向に積層して形成する場合に限られるものではなく、例えば、軟磁性粉を加圧成形することにより形成してもよい。
【0029】
コア部21は、磁路を形成するものである。このコア部21の外周面が、第1モータケース6のステータ内嵌部18に内嵌される。
ティース22は、コア部21の内周面から径方向に沿って突出するティース本体101と、ティース本体101の径方向内側端から周方向に沿って延びる鍔部102と、が一体成形されたものである。鍔部102は、ティース本体101から周方向両側に延びるように形成されている。また、鍔部102の内周面102aは、回転軸中心C1を中心とする円弧状に形成されている。そして、周方向で隣り合う鍔部102の間に、スロット19が形成される。」

「【0030】
また、コア部21の内周面、およびティース22は、樹脂製のインシュレータ23によって覆われている。このインシュレータ23の上から各ティース22にコイル24が巻回されている。各コイル24は、コントローラ部4からの給電により、ロータ9を回転させるための磁界を生成する。」

(2)上記(1)によれば、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「軸方向に直交する断面形状が正六角形となる筒状のコア部21と、コア部21から径方向内側に向かって突出する6つのティース22と、が一体成形されたステータコア20を有し、
コア部21の内周面、およびティース22は、樹脂製のインシュレータ23によって覆われ、
インシュレータ23の上から各ティース22にコイル24が巻回され、各コイル24は、コントローラ部4からの給電により、ロータ9を回転させるための磁界を生成する、ステータ8であって、
ステータコア20は、複数の金属板を軸方向に積層することにより形成されたものであり、
コア部21は、磁路を形成するものであり、
ティース22は、コア部21の内周面から径方向に沿って突出するティース本体101と、ティース本体101の径方向内側端から周方向に沿って延びる鍔部102と、が一体成形されたものであり、
鍔部102は、ティース本体101から周方向両側に延びるように形成され、鍔部102の内周面102aは、回転軸中心C1を中心とする円弧状に形成され、周方向で隣り合う鍔部102の間に、スロット19が形成され、
モータ部2が、モータケース5と、モータケース5内に収納されているステータ8と、ステータ8の径方向内側に設けられ、ステータ8に対して回転可能設けられたロータ9と、を備えている、
ステータ8。」

2 引用文献2、技術事項2
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2006−280087号公報)には、以下の記載がある。
「【請求項1】
磁気回路を形成するヨークの内周に固定されるポールコアと、
このポールコアに巻線される界磁コイルと、
前記ポールコアの内側に回転自在に配置される電機子とを備え、
前記ポールコアは、前記界磁コイルが巻き付けられるボス部と、このボス部の径方向反ヨーク側に設けられて、前記ヨークとの間に前記界磁コイルを保持すると共に、前記電機子との間にエアギャップを形成する鍔部とを有する回転電機であって、
前記鍔部は、軸方向の中央部より両側に周方向へ突き出る突出部が設けられて、軸方向の中央部より両側の方が周方向に大きく形成されており、且つ、前記突出部と前記電機子との間に形成されるエアギャップが、前記突出部を除く前記鍔部と前記電機子との間に形成されるエアギャップより大きく設定されていることを特徴とする回転電機。」

「【請求項3】
請求項1または2に記載した回転電機において、
前記ヨークの中心に対する前記鍔部の開き角をθ、前記ポールコアの数(極数)をPとした時に、
θ×P/360……………………(1)
上記(1)式で求められるポールアングルが0.8〜0.9に設定されていることを特徴とする回転電機。」

「【0002】
・・・(中略)・・・この場合、実際のポールアングルが理想のポールアングルより大きくなるため、鍔部からの漏れ磁束が増大して、性能及び整流作用が悪くなる問題があった。」

「【0009】
磁気回路から計算される最適なポールコア幅を選定すると、その時のポールアングルは、0.65〜0.75になる。これに対し、請求項3の発明では、ポールアングルを0.8〜0.9に設定することにより、界磁コイルの占積率が大幅に向上する。
一方、ポールコアの鍔部に設けられた突出部は、電機子との間に形成されるエアギャップが大きく設定されるため、見かけ上のポールアングルは、実際のポールアングル(0.8〜0.9)よりも小さくなる。その結果、磁気音を低減できると共に、突出部から漏洩する磁束を抑制できるので、占積率の向上に伴って、性能向上を図ることができる。」

(2)上記(1)の請求項1及び3、段落0009によれば、引用文献2には、以下の技術事項2が記載されている。
「界磁コイルが巻き付けられるボス部と、このボス部の径方向反ヨーク側に設けられて、ヨークとの間に界磁コイルを保持すると共に、電機子との間にエアギャップを形成する鍔部とを有するポールコアにおいて、鍔部は、軸方向の中央部より両側に周方向へ突き出る突出部が設けられて、軸方向の中央部より両側の方が周方向に大きく形成されており、且つ、突出部と電機子との間に形成されるエアギャップを、突出部を除く鍔部と電機子との間に形成されるエアギャップより大きく設定することにより、ヨークの中心に対する前記鍔部の開き角をθ、前記ポールコアの数(極数)をPとした時に、θ×P/360で求められるポールアングルを0.8〜0.9に設定しても、磁気音を低減できると共に、突出部から漏洩する磁束を抑制できること。」

3 引用文献3、技術事項3
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特公平2−47191号公報)には、以下の記載がある。
「1 {(ポールコアつば部端面のひらき角θ)×(ポールコア数P)÷360}で求められるポールコアアングルを0.65以上にとるものにおいて、前記ポールコアつば部端面からポールコアボス部に向かって円周方向に凹部を設け、前記つば部の断面積が円周方向に変化するようにした回転電機用ポールコア。」(請求項1)

「ところが、本実施例によれば、第4図に示すように、巻線を保持するのに必要なポールコア幅Bを確保しながら、凹部8によってポールコアつば部6からの磁束の漏洩を少なくおさえることができるので、磁気回路の改善につながり、モータのトルクアップが図れる。」(第3欄第44行〜第4欄第5行)

(2)上記(1)によれば、引用文献3には、以下の技術事項3が記載されている。
「{(ポールコアつば部端面のひらき角θ)×(ポールコア数P)÷360}で求められるポールコアアングルを0.65以上にとる回転電機用ポールコアにおいて、ポールコアつば部端面からポールコアボス部に向かって円周方向に凹部を設け、つば部の断面積を円周方向に変化させることにより、巻線を保持するのに必要なポールコア幅を確保しながら、凹部によってポールコアつば部からの磁束の漏洩を少なくおさえること。」

第5 本願発明について
1 本願発明1について
(1)対比、判断
ア 本願発明1と引用発明とを対比する。
(ア) 引用発明は、「モータ部2が」「ステータ8と、ステータ8の径方向内側に設けられ、ステータ8に対して回転可能に設けられたロータ9と、を備えている」ものであるから、引用発明の「ステータ8」は、モータ部2のロータ9の外側に配置されているといえる。
そうすると、引用発明の「モータ部2」、「ロータ9」は、それぞれ本件発明1の「モータ」、「ロータ」に相当し、引用発明の「ステータ8」は、本願発明1の「モータのロータの外側に配置されるステータ」に相当する。

(イ)a 引用発明の「金属板」は、板状である点で、シートであるといえ、引用発明の「ステータコア20」が鉄心であることは技術常識である。
b 引用発明において「ステータ8」は「ステータコア20」を有し、「ステータコア20」は「軸方向に直行する断面形状が正六角形となる筒状のコア部21」が形成されたものであり、「ステータ8の径方向内側に、ステータ8に対して回転可能に設けられたロータ9と、を備えている」ものであるから、引用発明の「軸方向」は、「ステータコア20」、「コア部21」及び「ロータ9」の軸方向であるといえる。
c 上記a及びbによれば、引用発明の「ステータコア20」は本願発明1の「ステータ鉄心」に相当し、引用発明の「ステータコア20は、複数の金属板を軸方向に積層することにより形成されたもので」あることは、本願発明1の「前記ロータの軸方向に積層された複数のシートを有するステータ鉄心を備え」ることに相当する。

(ウ)a 引用発明において、「ステータ8」は「ステータコア20」を有し、「ステータコア20」は「軸方向に直行する断面形状が正六角形となる筒状のコア部21」が形成されたものであるから、引用発明の「コア部21」は、「ステータコア20」を構成する、周方向に延びる筒状の部材であるといえる。
b 一方、本願発明1の「ステータ鉄心」は「ヨーク部」「を備え」るものであり、本件明細書の段落0053には「ヨーク部21aは、周方向に延びており」と記載されている。よって、本願発明1の「ヨーク部」はステータ鉄心を構成する周方向に延びる部材である。
c 上記a及びbによれば、引用発明の「コア部21」は、本願発明1の「ヨーク部」に相当する。
d 引用発明の「ティース22」は、本願発明1の「ティース部」に相当する。
e 上記c及びdによれば、引用発明の「コア部21から径方向内側に向かって突出する6つのティース22と、が一体成形されたステータコア20」は、本願発明1の「ヨーク部と、N個のティース部とを備え」る「ステータ鉄心」に相当する。

(エ)引用発明において、「ティース22は、コア部21の内周面から径方向に沿って突出するティース本体101と、ティース本体101の径方向内側端から周方向に沿って延びる鍔部102と、が一体成形されたものであり」、「ステータ8の径方向内側に、ステータ8に対して回転可能に設けられたロータ9と、を備えている」から、引用発明の「6つのティース22」の各々が備える「鍔部102の内周面102a」は、ロータ9に対向するティース22の端面であるといえるから、本願発明1の「前記N個のティース部の各々」の「前記ロータに対向するティース先端面」に相当する。

(オ)引用発明の「鍔部102の内周面102aは、回転軸中心C1を中心とする円弧状に形成され」ることは、本願発明1の「前記軸方向と直交する平面において、前記ティース先端面の曲率は一定であ」ることに相当する。

(カ)上記(ア)〜(オ)によれば、本願発明1と引用発明とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「モータのロータの外側に配置されるステータであって、
前記ロータの軸方向に積層された複数のシートを有するステータ鉄心を備え、
前記ステータ鉄心は、ヨーク部と、N個のティース部とを備え、
前記N個のティース部の各々は、前記ロータに対向するティース先端面を有し、
前記軸方向と直交する平面において、前記ティース先端面の曲率は一定である
ステータ。」

<相違点1>
本願発明1の「ステータ」は、「不均化反応を起こす性質の物質を含む冷媒と共に用いられる圧縮機内に配置されたモータのロータの外側に配置される」のに対し、引用発明の「ステータ8」は、「モータのロータの外側に配置される」ものの、「不均化反応を起こす性質の物質を含む冷媒と共に用いられる圧縮機内に配置される」ものではない点。

<相違点2>
本願発明1の「ステータ鉄心」は、「周方向に円環状に分割されて配列された複数の鉄心部で構成されて」いるのに対し、引用発明の「ステータコア20」はそのような構成を有さない点。

<相違点3>
本願発明1は「前記軸方向と直交する平面において、前記ティース先端面の両端と前記ロータの回転中心とを通る2直線が成す角度をθ1[度]としたとき、前記複数のシートの各々が、0.75≦(θ1×N)/360≦0.97を満たす」のに対し、引用発明はそのような構成を有さない点。

イ 上記相違点について検討する。
(ア)本願明細書の段落0084には「例えば、圧縮機内のモータにおいてトルク負荷が大きいとき、シリンダの内部圧力が高まるため、冷媒の不均化反応による圧縮機の故障が起きやすい。」と記載され、段落0046には「・・・(中略)・・・ステータ2は、9個のティース部22aを有する。」と記載され、段落0070には「図9は、ティース部22aの構造を示す図である。xy平面において、ティース先端面223aの両端P1とロータ3の回転中心とを通る2直線L1が成す角度をθ1[度]としたとき、ステータ2は、0.75≦(θ1×N)/360≦0.97を満たす。」と記載され、同じく段落0090には「すなわち、ステータ2は、0.84≦(θ1×N)/360≦0.97を満たすことがより望ましい。これにより、トルクリプル率をより効果的に小さくすることができ、その結果、圧縮機の故障をより発生しにくくすることができる。」と記載されている。
よって、本願発明の技術的意義は、ステータのティース部の先端面の両端とロータの回転中心とを通る2直線が成す角度をθ1[度]として、0.84≦(θ1×N)/360≦0.97を満たすことにより、冷媒の不均化反応による圧縮機の故障を発生しにくくすることができるというものである。
(イ)そうすると、相違点1に係る本件発明1の構成と、相違点3に係る本願発明1の構成とは密接に関連するものであるといえるから、相違点1及び相違点3は、まとめて検討する。
(ウ)上記第4の2(2)に記載された技術事項2は、「ヨークの中心に対する前記鍔部の開き角をθ、前記ポールコアの数(極数)をPとした時に、θ×P/360で求められるポールアングルを0.8〜0.9に設定しても、磁気音を低減できると共に、突出部から漏洩する磁束を抑制できる」ことであるものの、相違点1及び3に係る本願発明1の構成を備えるものではない。
また、上記第4の2(3)に記載された技術事項3は、「{(ポールコアつば部端面のひらき角θ)×(ポールコア数P)÷360}で求められるポールコアアングルを0.65以上にとる回転電機用ポールコアにおいて」「ポールコアつば部からの磁束の漏洩を少なくおさえる」ものであるものの、相違点1及び3に係る本願発明1の構成を備えるものではない。
よって、引用発明に技術事項2及び3を適用しても、相違点1及び3に係る本願発明1の構成とすることはできない。
なお、引用文献4〜7、並びに前置報告で引用された国際公開第2017/134740号(以下、「引用文献7」という。)にも、相違点1及び3に係る本件発明1の構成は記載されていないから、引用発明に技術事項2及び3並びに引用文献4〜7に記載された事項を適用しても、相違点1及び3に係る本願発明1の構成とすることはできない。

(2)本願発明1についてのまとめ
上記(1)イのとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明と引用文献2〜7の記載に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本願発明2〜6について
本願発明2〜6の構成は、本願発明1の構成を限定したものであり、相違点1及び3に係る本願発明1の構成を有するものであるから、上記1における検討と同様の理由により、本願発明2〜6は、引用発明と引用文献2〜7に記載された事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 本願発明7〜12について
本願発明7〜12は、「請求項1〜6のいずれか1項に記載のステータ」を備える「モータ」であり、相違点1及び3に係る本願発明1の構成を有するものであるから、上記1における検討と同様の理由により、本願発明7〜12は、引用発明と引用文献2〜7に記載された事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 本願発明13について
本願発明13は、「請求項7から12のいずれか1項に記載のモータ」を備える「圧縮機」であり、上記3を踏まえると、相違点1及び3に係る本願発明1の構成を有するものであるから、上記1における検討と同様の理由により、本願発明13は、引用発明と引用文献2〜7に記載された事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5 本願発明14について
本願発明14は、「請求項13に記載の圧縮機」を備える「空気調和機」であり、上記3及び4を踏まえると、相違点1及び3に係る本願発明1の構成を有するものであるから、上記1における検討と同様の理由により、本願発明14は、引用発明と引用文献2〜7に記載された事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 原査定について
令和4年10月24日提出の手続補正により補正された請求項1〜14に係る発明は、いずれも、相違点1及び3に係る本願発明1の構成を有しているから、上記第5の1と同様の理由により、引用発明と引用文献2〜7に記載された事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2024-12-03 
出願番号 P2021-532614
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H02K)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 河本 充雄
特許庁審判官 棚田 一也
梶尾 誠哉
発明の名称 ステータ、モータ、圧縮機、及び空気調和機  
代理人 篠原 昌彦  
代理人 佐藤 賢改  
代理人 山口 力  
代理人 山形 洋一  

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