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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  G01J
管理番号 1012332
異議申立番号 異議1998-75708  
総通号数 10 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-08-03 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-11-25 
確定日 2000-02-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2756730号「マイクロボロメータ・センサにおけるABXの使用」の請求項1ないし2、4ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2756730号の請求項1ないし2、4ないし7に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
本件特許第2756730号(平成4年6月11日出願、平成10年3月13日登録。)について、その請求項1、2、4〜7に係る発明に対して、申立人小田さち子より特許異議申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成11年11月17日に訂正請求がなされた。
2 訂正請求について
(1)訂正の内容
特許権者が求める訂正の内容は次の訂正事項▲1▼〜▲3▼のとおりである。
[訂正事項▲1▼] 請求項1の「かつ抵抗に関する高い温度係数を有している酸化バナジウムの薄膜層(20)と、」を、「かつ抵抗に関する高い温度係数を有し、半導体相において作用させられる酸化バナジウムの薄膜層(20)と、」と訂正する。
[訂正事項▲2▼] 「熱効率」(特許公報4頁8欄22行)を、「温度係数」と訂正する。
[訂正事項▲3▼] 「VO2はその半導体相において作用される」(特許公報4頁8欄45〜46行)を、「VO2は半導体相において作用させられる」と訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項▲1▼は、本件発明の酸化バナジウムの薄膜層を半導体相で作用させるように限定するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とすると認められる。訂正前の明細書に「VO2は半導体相において作用される」(特許公報4頁8欄45〜46行)と記載されていることから、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてなされ、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
訂正事項▲2▼は、請求項1の「抵抗に関する高い温度係数を有している酸化バナジウム」との記載からみて、「抵抗の高い熱効率」(特許公報4頁8欄22行)は、「抵抗の高い温度係数」の誤記であることは明らかであり、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてなされ、特許請求の範囲を実質的に拡張し、又は変更する訂正でもない。
訂正事項▲3▼は、日本語として不適切な表現を正すもので、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であり、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてなされ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でもない。
(3)独立特許要件
訂正後の請求項1、2、4〜7に係る発明は、訂正明細書の請求項1、2、4〜7に係る発明に記載された次のとおりのものと認められる。
【請求項1】 第1面に線形パターンで形成された複数の凹部(107)を有する半導体本体(19)と、
少なくとも1個所で上記第1面にそれぞれ取り付けられ、かつ対応する凹部(107)の上に断熱構造として各絶縁部材(21)を支持するように配置された複数の薄膜絶縁体部材(21)と、
対応する凹部(107)の上に1個所で上記各絶縁部材(21)に埋め込まれ、かつ抵抗に関する高い温度係数を有し、半導体相において作用させられる酸化バナジウムの薄膜層(20)と、
測定回路に接続するのに適している、各酸化バナジウムの薄膜層のための接点と、
から成ることを特徴とする、熱イメージングおよび熱検出用モノリシック集積マイクロボロメータ・リニヤ・アレイ赤外線検出器。
【請求項2】 請求項1記載の検出器において、酸化バナジウムの薄膜層(20)の厚さは、0.1マイクロメータ以下であることを特徴とする検出器。
【請求項4】 請求項1記載の検出器において、絶縁部材(21)は窒化シリコンから成ることを特徴とする検出器。
【請求項5】 請求項1記載の検出器において、半導体本体(10)は単結晶シリコンから成ることを特徴とする検出器。
【請求項6】 請求項1記載の検出器において、1つの付加集積マイクロセンサ・リニヤ・アレイ赤外線検出器が、第1モノリシック集積マイクロセンサ・リニヤ・アレイ赤外線検出器として同じ半導体本体(19)に配置されていることを特徴とする赤外線検出器。
【請求項7】 請求項6記載の検出器において、モノリシック集積マイクロセンサ・リニヤ・アレイは、熱イメージング・システムの焦点面に配置されていることを特徴とする検出器。
これに対して、取消理由通知に引用した引用刊行物は、次のとおりであり以下に摘示する事項が記載されている。
刊行物1 特開平2-205729号公報
刊行物2 「Response of thermal filaments in VO2 to laser-produced thermal pertubations」(Applied Physics Letters,Vol.26,No.7,1 April 1975)
刊行物3 米国特許第4472239号明細書
刊行物4 「Microlens array for staring infrared imager」(SPIE Vol.1544 miniature and Micro-Optics:Fabrication and System Applications(1991))
(刊行物1)
ボロメータ型の熱型赤外線センサに関し、「第1図(a)、(b)は本発明のダイアフラム構造を有する赤外線センサのそれぞれ上面図と断面図である。半導体と金属のパターン3を支持し、シリコンエッチング液に対し耐腐食性を持ちストッパーとして働くシリコン窒化膜の薄膜2と、本デバイス表面にある赤外線吸収率が高い吸収層8と、この吸収層8と前記パターン3とを絶縁する絶縁膜4と、以上述べた全4層から成る薄膜を周囲から支持するシリコン基板1から成る。吸収層は例えば金黒(ゴールドブラック)の膜を用いる。シリーン基板1と窒化膜2に囲まれた空洞6の形状」は、底面を(100)面、四方の側面を(111)面とする四角垂台である。」(2頁左下欄15行〜右下欄6行)と記載され、「第4図は、走査回路を含めた場合の二次元アレイ化した場合の薄膜9の形状の上面図の従来例(a)と本実施例(b)との比較である。従来例では薄膜9の形状が正方形であったが、本実施例では長方形である。セル11の中に、薄膜9とMOSFETやCCDなどの走査回路領域10がある場合、本実施例のように薄膜9の形状を長方形にすることで、従来例では無駄なスペースであった部分を失くすことができる。
なお実施例ではサーモパイルとしてp型、n型のポリシリコンを接続したものを示したが、これに限らず半導体と金属、異なる種類の金属を接続したものでもよい。また実施例ではサーモパイル型の熱型赤外線センサの場合を示したが、焦電型やボロメータ型でもよい。焦電型なら上記サーモパイルパターンの代りに焦電材料を薄膜上につければよいし、ボロメータ型ならボロメータ材料を薄膜上にパターニングすればよい。これらの場合でも、本発明には、赤外線センサとしての応答性が良くなる効果、集積度の高さが良くなる効果、薄膜破損の可能性が低くなる効果がある。」(3頁右上欄6行〜左下欄7行)と記載されている。
(刊行物2)
酸化バナジウム(VO2)の金属-半導体相転移に関する多くの研究によれば、酸化バナジウムの薄膜に電流を流すことによってこの薄膜を十分に加熱するときには金属相と半導体相の両相が隣接領域に同時に存在しうる不安定状態が生じること、高導電高温度領域は熱フィラメントとして知られていること、そして熱フィラメントとその周囲の低温度領域との境界で導電度が2〜3桁相違すること、収束He-Neレーザビームで局所的に加熱する実験により、VO2のフィラメントは非常に応答が早くて感度のよい熱型検知素子として使用可能であることが示されることが開示され(355頁左欄1〜18行)、また、VO2の多結晶薄膜は、まずCVD(Chemical Vapor Deposition)法でV2O5を成膜した後、還元雰囲気中で還元することによって形成すること、このVO2薄膜は50〜80℃の温度範囲で電気伝導率または被抵抗が2〜3桁変化することが開示され(355頁左欄19〜40行)、さらに、この論文に示した実験データから、VO2デバイスが室温動作の熱型検出器として使用可能であること、更にフィラメント幅を小さくすることにより、応答時間の短縮と高感度化が達成されること、現在、フィラメント幅を小さくした円筒形のVO2デバイスを試作していること、このデバイスは露光技術との整合性も良いため高集積度のアレイにも使えることが開示されている(357頁右欄6〜24行)。
(刊行物3)
熱分離構造を有するマイクロボロメータ・センサに関するものであって、センサの構成及びその作用効果について次のとおり記載されている。
「センシング部材32として図2で示された実施例では、抵抗素子16と絶縁層(SiN)12及び18が空洞層20上にセンシング部材32の一端36のみ半導体表面14に接続された片持梁構造で形成されている。部材32の一端36のみを半導体本体10に接続させることは、半導体本体10からの束縛なしで実質的に全ての方向に部材を伸縮させるという利点を与える。さらに、このような構造は、梁を支持している部分でのみ熱損失が起こるため、効果的な熱分離構造となっている。」(3欄57行〜4欄2行)
「図3に示すような2つの抵抗を用いた流量センサには幾つか長所がある。同具体例の流量センサを図5に示す回路に結合することにより、環境温度が変化してもセンサ出力が殆ど変化しないようにできる。」(4欄66行〜5欄6行)
「本発明の実質的な長所は、図5の回路を半導体の中に直接作り込めることである。このことによりバッチプロセスでチップ上に完全なセンシングシステムを作ることができる。」(5欄15〜19行)
また、抵抗素子の厚さについて、「これらの実施例では、部材32及び34は、厚さ800オングストローム程度の抵抗素子16、各々数千オングストローム程度の厚さである絶縁層12、18を含めて0.8〜1.2μmである。」(4欄45〜50行)と記載され、シリコン半導体と絶縁体としての窒化シリコンについて、「(100)面シリコンウェハの表面14上に窒化シリコン層12を例えば3000オングストローム程度スパッタリングによって積層する。その後、例えば80%Ni-20%Feの800オングストローム程度のパーマロイ膜を窒化シリコン膜上にスパッタリングによって積層する。」(15欄5行〜12行)「5000オングストローム程度の膜厚で、スパッタによって形成される窒化シリコンよりなる第2の膜18が、パーマロイ膜を被覆するように形成される。」(15欄16〜20行)と記載されている。
(刊行物4)
赤外線検出アレイに関し、「狭い受光領域からなるピクセルの集光率を改善するためには、ピクセル上をカバーするようにレンズを形成して、受光領域上に焦点を合わせることである。」(1頁下から12〜13行)と記載されている。
(請求項1に係る発明について)
請求項1に係る発明と各引用刊行物に記載された発明とを対比すると、請求項1に係る発明の「半導体相において作用させられる酸化バナジウムの薄膜層」について、各引用刊行物には記載も示唆もされていない。
すなわち、刊行物1、3、4は、そもそも酸化バナジウムの薄膜層について開示するところはなく、また、刊行物2は、酸化バナジウムをボロメータに使用することを開示するが、酸化バナジウムの金属-半導体相転移に着目し、熱フィラメント(高導電高温度領域)とその周囲の低温度領域との境界で導電度が2〜3桁相違することを利用するもので、「半導体相において作用させられる酸化バナジウムの薄膜層」をボロメータの一部として用いるという技術思想を開示するものではない。
そして、本件請求項1に係る発明は、酸化バナジウムの薄膜層は半導体相において作用させられることにより、相遷移温度範囲より広く、例えば20〜40℃の温度範囲にわたって動作可能であるという顕著な作用効果を奏することが認められる。
したがって、請求項1に係る発明は、引用刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(請求項2、4〜7に係る発明について)
請求項2、4〜7は、請求項1を直接的又は間接的に引用して記載されており、請求項2、4〜7に係る発明は、請求項1に係る発明を限定してなるものであるから、請求項1に係る発明について述べた理由と同じ理由により、引用刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって、訂正明細書の請求項1、2、4〜7に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
(4)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律116号)附則6条1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法120条の4第3項で準用する同法126条2〜4項の規定に適合するので、訂正を認める。
3 特許異議申立について
申立人は、甲第1〜4号証(取消理由に引用した刊行物1〜4と同じ。)を提出して、本件請求項1、2、4〜7に係る発明は甲各号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2、4〜7に係る発明の特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、取り消すべきであると主張している。
しかしながら、甲第1〜4号証には、3(3)で摘示した発明が記載されているが、3(3)で述べた理由により、請求項1、2、4〜7に係る発明は甲1〜4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたといえない。
なお、申立人は、甲第2号証(刊行物2)には、所定の温度範囲で電気伝導率又は比抵抗が大きく変化することが開示され、酸化バナジウム薄膜を用いた熱型検出器が開示されているから、甲第1号証(刊行物1)に記載された発明に甲第2号証に記載された酸化バナジウム薄膜を適用して請求項1に係る発明とすることは当業者であれば容易になし得ると主張するが、甲第2号証に記載された酸化バナジウム薄膜は、酸化バナジウムの金属-半導体相転移に着目し、所定の温度範囲(50〜80℃)で電気伝導率又は比抵抗が大きく変化することを利用するもので、訂正後の請求項1に係る発明のように、酸化バナジウムの薄膜層を半導体相において利用する(例えば20〜40℃の温度範囲で利用する。)という技術思想を開示するものではないから、たとえ甲第1号証記載の発明に甲第2号証記載の発明を適用したとしても請求項1に係る発明とすることはできない。したがって、申立人の主張は採用できない。
4 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1、2、4〜7に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2、4〜7に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
マイクロボロメータ・センサにおけるABXの使用
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 第1面に線形パターンで形成された複数の凹部(107)を有する半導体本体(19)と、
少なくとも1個所で上記第1面にそれぞれ取り付けられ、かつ対応する凹部(107)の上に断熱構造として各絶縁部材(21)を支持するように配置された複数の薄膜絶縁体部材(21)と、
対応する凹部(107)の上に1個所で上記各絶縁部材(21)に埋め込まれ、かつ抵抗に関する高い温度係数を有し、半導体相において作用させられる酸化バナジウムの薄膜層(20)と、
測定回路に接続するのに適している、各酸化バナジウムの薄膜層のための接点と、
から成ることを特徴とする、熱イメージングおよび熱検出用モノリシック集積マイクロボロメータ・リニヤ・アレイ赤外線検出器。
【請求項2】 請求項1記載の検出器において、酸化バナジウムの薄膜層(20)の厚さは、0.1マイクロメータ以下であることを特徴とする検出器。
【請求項3】 請求項1記載の検出器において、酸化バナジウムの薄膜層(20)の抵抗率は単位面積当たり1000オームのオーダであることを特徴とする検出器。
【請求項4】 請求項1記載の検出器において、絶縁部材(21)は窒化シリコンから成ることを特徴とする検出器。
【請求項5】 請求項1記載の検出器において、半導体本体(10)は単結晶シリコンから成ることを特徴とする検出器。
【請求項6】 請求項1記載の検出器において、1つの付加集積マイクロセンサ・リニヤ・アレイ赤外線検出器が、第1モノリシック集積マイクロセンサ・リニヤ・アレイ赤外線検出器として同じ半導体本体(19)に配置されていることを特徴とする赤外線検出器。
【請求項7】 請求項6記載の検出器において、モノリシック集積マイクロセンサ・リニヤ・アレイは、熱イメージング・システムの焦点面に配置されていることを特徴とする検出器。
【請求項8】 請求項1記載の検出器において、酸化バナジウムの複数の薄膜層の部分集合が、アンテナ部材にそれぞれ結合していることを特徴とする検出器。
【請求項9】 請求項8記載の検出器において、アンテナ部材は、波長オーダの寸法を有する金属薄膜導体から成ることを特徴とする検出器。
【請求項10】請求項9記載の検出器において、アンテナ部材は、薄膜絶縁部材上に配置されたダイポール・アンテナから成ることを特徴とする検出器。
【請求項11】請求項10記載の検出器において、半導体本体の第1面の反対側の半導体本体の第2面に金属接地平面が配置されていることを特徴とする赤外線検出器。
【請求項12】請求項10記載の検出器において、導電性の接地平面が半導体本体に配置されていることを特徴とする赤外線検出器。
【発明の詳細な説明】
本出願は、1985年9月30日に出願された米国特許願第781,557号の一部継続出願である。
米国政府は、契約条件DAAL01-85-C-0153にしたがって本発明に関し一定の権利を有している。
本発明の背景および概要
本発明は、マイクロボロメータ赤外線センサの分野に関する。本明細書には、特に、マイクロボロメータ・センサにおける新しい検出器材料(ABX)の使用について述べられている。
線形または2次元アレイのマイクロボロメータ輻射線センサを形成させるため、mm波(代表的には94GHz)と(代表的には3〜5および8〜12マイクロメータ(ミクロン)の)赤外線の両方に敏感なモノリシックに集積された焦点面が、選択的な異方性エッチングによりシリコン・ウェハ上に構成される。赤外線検出のためのセンサは、赤外線吸収材料でコートされている。また、mm波検出のためのセンサは、シリコン・ウェハの表面に被着された金属膜アンテナに接続している。この構造において、熱伝導損を素子の輻射損に近づけることができる厳密な高重力負荷許容構造と組み合された周知のシリコンIC処理技術がある。特に重要なことは、同じシリコン・チップ上においてミリメータ波センサに高性能な赤外線センサおよび電子機器を組合せて点在させ、しかも同じ処理工程で製造することである。
半導体結晶、代表的にはシリコンにおける優れた3次元マイクロ電子ディバイスの製造は、等方性および異方性エッチングを含む多くの技術により行なわれてきた。これら技術は、単結晶半導体の結晶構造を利用している。この例として、本出願人に譲渡された、発明者ジョンソン他による特許第4,472,239号、発明の名称「半導体ディバイスの製造方法」がある。この特許では、エッチングにより単結晶シリコンにマイクロメカニカル・ディバイスを製造する技術が周知であることを示している。この特許は、単に発明の背景として参照しただけで、本発明の従来技術とは見なしてはいない。
たとえば、特許第3,801,949号のような従来技術には、集積マイクロ回路に赤外線検出器素子の2次元アレイを有する小型の赤外線感知固体画像ディバイスが示されている。検出器アレイは、たとえば二酸化シリコンまたは窒化シリコンのような電気的絶縁材料の薄膜でコートされた単結晶シリコン基板上に製造される。エッチングされた開口が、周囲の環境から検出素子を断熱するため、検出素子が必要な絶縁層の下のシリコンに形成される。本発明では、集積デュアル・モード赤外線/ミリメータ波センサ・アレイが示されている。図1は、ミリメータ波および3〜5または8〜12マイクロメータ(ミクロン)の赤外線を含んでいる電磁スペクトルの区分を示している。約94GHzのmm波および3〜12マイクロメータ(ミクロン)の赤外線は、数けた離れた周波数なので、これら2つの種類を検知しまたは検出する装置は本質的には異っている。したがって、3〜5および8〜12マイクロメータ(ミクロン)またはその一方の赤外線に敏感なアレイ素子およびmm波に敏感な素子を有するモノリシックに集積された2次元焦点面アレイを製造することが望ましい。素子はVO2を含んでいる。個々の集積センサは、約0.1mmの大きさで、比較的長い波長のmm波からのエネルギに効果的には結合しない。しかし、mm波検出のための集積センサ素子が、アンテナ(たとえば全波ダイポールまたは蝶ネクタイ形)を備えている場合、申し分のないmm波エネルギ結合装置が得られることが分った。
【図面の簡単な説明】
図1は、電磁スペクトルの適切な区分である。
図2aは、マイクロセンサ・リニヤ・アレイの実施例である。
図2bは、集積デユアル・モード赤外線センサおよびmm波センサの実施例を2次元的に示している。
図3は、マイクロセンサ構造の断面図である。
図4は、全波ダイポール・アンテナ集積赤外線/mm波アレイの正面の詳細を示している。
図5aおよび5bは、高断熱マイクロセンサの詳細を示している。
図6は、全走査アレイ機能図である。
図7および8は、蝶ネクタイ形マイクロアンテナ設計を用いたデユアル・モード・センサ設計を示している。
図9は、図6に示したデユアル・モード・システムの実施例を示している。
説明
図2aは、モノリシック集積デユアル・モード赤外線/mm波マイクロセンサ・リニヤ・アレイを示している。2次元アレイは、いくつかのリニヤ・アレイを隣接して構成することにより得られる。赤外線(3〜5および8〜12マイクロメータ(ミクロン)またはその一方)とmm波の両方に敏感な焦点面は、たとえば単結晶シリコンのような半導体基板ウェハ10上に構成される。赤外線検出のためのマイクロセンサ12は、たとえば薄い金属膜のような赤外線吸収材料でコートされている。mm波を検出するためのマイクロセンサ13は、シリコン・ウェハの表面に被着された金属膜アンテナ14に接続している。図2bにおいて、赤外線感知マイクロセンサ・アレイ15はシリコン・ウェハ10の表面に形成され、アンテナ16はウェハの他の面に形成されている。本実施例については後述する。
図3は、上述した特許第4,472,239号に示したような断熱配置のマイクロセンサ構造の断面図である。マイクロセンサ画像アレイは、シリコン・チップ19上にあり、異方性シリコン・エッチングに基いて、小さい質量の薄膜輻射線検出器20が、シリコン・チップの表面上の断熱絶縁カンチテレバ構造21中に形成される。この小さい質量と断熱とにより、アレイの検出器感度および応答時間は高くなる。ミリメータ波アレイは、mm波輻射線を熱的積分マイクロセンサに結合するためにプレーナ・ダイポールまたは蝶ネクタイ形アンテナを用いている。
図4は、全波ダイポール・アンテナ形集積赤外線/ミリメータ波センサの電子走査リニヤ・アレイの正面の詳細を示している。複数(たとえば、10個)のアンテナ結合mm波素子13’には、マルチエレメント(たとえば、300個)赤外線検出器素子12’が点在している。また、ここには、バイポーラ・プリアンプ・アレイ30とFETマルチプレクサ31がブロックで示されている。赤外線/mm波出力信号は32において検出される。図5aは、図4の検出器アレイの部分断面図である。シリコン・ウェハ10は、絶縁層33と銅接地面34を含んでいる。図5bは、高断熱マイクロセンサ35の1つの詳細を示し、抵抗センサ20を支持する絶縁カンチレバ21は、シリコンのエッチング空所により断熱されている。
mm波輻射線の場に有効的に結合するのに要する構造は、たとえば94GHzにおいて約3ミリメータの波長のオーダの寸法を当然有していなければならい。非冷却センサの場合、この大きさの感知領域は、センサの熱量の増加による応答度すなわち応答速度の低減につながってしまうことになる。したがって、必要な大きさは約50マイクロメータ(数ミル)で、そのため、波長のオーダの寸法のアンテナ構造を介してセンサを輻射線の場に結合しなければならない。マイクロセンサ・アレイは、フォトリソグラフィック工程によりシリコン基板上に簡単に形成することができるので、設計上平坦なアンテナおよび適当な結合導波路が望まれる。
図6は、たとえば図2aおよび図4に示したようなmm波アレイ部分をさらに示している。このアレイ部分はシリコン基板10’から成り、基板の上にフォトリソグラフィを用いてプレーナ・マイクロアンテナ40のアレイを形成している。マイクロアンテナ40のアレイは、導波路41とマイクロセンサ13とに結合し、電気リードアウトで図6に示したような電子読出し回路にさらに接続している。ミリメータ波輻射線は、マイクロアンテナ40により集められ、41を介してマイクロセンサ13の離散的負荷に結合される。離散的負荷の温度が上昇すると、抵抗が変化する。行アドレス・マルチプレクサ42と列アドレス・マルチプレクサ43を含んでいる低ノイズ電子回路は、マイクロセンサ素子の抵抗をモニタし、たとえば目標検出および認識のような用途にしたがって、電気信号44を出力回路に供給する。
マイクロセンサは、図3において前に示したような支持構造からほとんど断熱されている低質量センサ素子20から成っている。抵抗素子は、温度で抵抗が変化する材料を用いてセンサ上に形成される。(たとえば、センサヘの直接的な赤外線により、またはアンテナから結合されたmm波輻射線により)このセンサ抵抗で消費される電力は、支持構造のセンサ熱質量および熱コンダクタンスに反比例した量だけセンサ素子20を加熱する。マイクロセンサの感度は、低い熱質量センサと良好な断熱を必要とする。消散された熱は、センサの熱容量と周囲の環境の熱抵抗を掛けることにより得られた時定数で支持構造に流れる。この応答時間は、感度を犠牲にすることなくミリ秒にすることができる。感度をトレードオフすることにより、もっと速い応答時間が達成できる。薄膜抵抗素子は、出力回路に接続するのに適した接点を有している。電気出力信号は、マイクロセンサ抵抗の抵抗変化に敏感な読出し回路を用いることにより得られる。
このようなマイクロセンサの極限SN比は、非常に小さいセンサ熱質量を用いることにより、かつ支持構造からの非常に高い断熱により達成される。可能な最小ノイズ・レベルは、センサ負荷抵抗におけるジョンソン・ノイズと、プリアンプ・ノイズと、センサとその周囲環境の間で交換される輻射および伝導力の変動とによるものである。マイクロアンテナからマイクロセンサに電気的に結合されるmm波輻射線の場合、センサは、高い反射性材料でコートされているので、輻射線交換ノイズを低レベルにまで減少することができる。この場合、ノイズ極限は、a)ジョンソン・ノイズと、b)増幅器ノイズと、c)熱伝導ノイズとによる。
特に重要なことは、非常に低い伝導ノイズは、提供された構造の優れた断熱と低質量とにより達成されることである。原型装置により示された代表的なパラメータ値を用いることにより、輻射mm波の場との結合効率が75%であるとすると、そのノイズ等価電力レベルは6×10-12ワット/√Hzであると計算される。この計算された数値は、原型装置において得られた実験的データと極めて一致している。
実験結果
原型装置は、オシロスコープで小さい抵抗変化を表示するように設計された電子読出し回路に接続された。センサは、センサの熱漏れを変えるるよう排気できる金属チェンバ中に設置された。センサ・チェンバに赤外線およびmm波輻射線を入射させるのに、ZnSとガラスのウインドウが用いられた。センサのウインドウの正面に10Hzのチョッパが設けられた。7×10-4W/CM2の赤外線の強さに関しセンサを校正するのに、1000°Kの黒体赤外線源が使用された。大気圧におけるセンサに関しては、約100mVのセンサ・レスポンスが観測され、かつ排気されたセンサ・セルでは約400mVであった。センサにおいて約2×10-3w/CM2のmm波の強さでセンサを照射するのに、3.2mm(94GHz)CW発振器源が使用された。センサからの観測された信号の振幅は、280mVで測定された。mm波信号の振幅は、セルの圧力が105-102Pa(760から0.5torr)に減少した時、約4倍増加した。このことは、信号が通常のマイクロセンサ熱応答メカニズムによることを示している。
マイクロアンテナについての考察
絶縁体(たとえば、Si,Si3N4,SiO2)の表面にあるプレーナ・アンテナの特性は、均質媒体におけるアンテナとはかなり異なっている。主な相違点は、1)極図式が絶縁体の方に常に強く偏位されているので、輻射線の有効的な収集は、絶縁体側から入射する輻射線の方にかたよっていること、および2)極図式に付加ピークが生じることである。いくつかのピークは、基板の表面に沿って見られ、これは、その表面上の隣接するアンテナ間でのクロストークの原因になる基板表面波の結合を示している。絶縁体基板上のプレーナ・アンテナの極図式は、絶縁体の方に強く偏位されているが、この偏位は、図5aに示したシリコン基板の裏面に金属接地面(たとえば、0.2マイクロメータ(2000■)の銅)を被着することにより反転することができるので、全輻射線は空気側の方に反射され、アンテナは空気の方にだけ面している。赤外線センサが空気側からの輻射線を受けるので、この配置は非常に望ましく、そこで、同じシリコン・ウェハ上に製造されたmm波および赤外線センサ・アレイ用の共通反射光学装置を用いることができる。
前にそれとなく示した別の改変は、入射する輻射線が絶縁体基板を通過するような“蝶ネクタイ”アンテナ設計を使用していることである。テストでは、基板を通って入射するmm波輻射線を有効的に集めるため、蝶ネクタイ・アンテナをリニヤ・アレイで使用できることが分った。この構成において、赤外線は、正面側の検出器素子において吸収され、一方、mm波輻射線はシリコン・ウェハを通過しかつ裏側の蝶ネクタイ・アンテナ(図8)により収集される。この方法では、アンテナからセンサヘのスルー・ザ・ウェハ相互接続部を使用することが望ましい。このアンテナ方法は、次のような優れた特性を示している。
o Siウェハ表面に被着された金属膜から製造されたシンプルなプレーナ構造。
o 絶縁体の方に強く(係数n3)偏位された極図式。nは屈折率である。なお、ビーム幅は図8に示すような蝶ネクタイの角度調整により合せられる。
o 蝶ネクタイの角度調整により合せられ、幅広い周波数範囲にわたって一定な抵抗特性インピーダンス。
アンテナとマイクロセンサの結合
ダイポール・アンテナを輻射線センサに結合する最も簡単な方法は、ダイポールのアーム間にセンサを製造し、アンテナ-センサ負荷を金属化することができる。アンテナのインピーダンスは、100オームのレンジでセンサ負荷に整合することができる。
高感度検出器材料
マイクロセンサ構造の断面図である図3は、検出器素子20を示している。マイクロボロメータ・センサ検出器のための高感度材料の必要条件は、
a)抵抗の高い温度係数(TCR)
b)低い1/fノイズ。
c)0.1マイクロメータ以下(<1000オングストローム)の薄膜で被着
d)マイクロボロメータ製造技術に適合した工程
e)異常熱容量ではない
f)マイクロボロメータの読出し回路に適合した薄膜インピーダンス(100〜100,000オーム)
酸化バナジウム(望ましくはVO2)が、これら全ての条件を満たしている。酸化バナジウムの抵抗は温度に関して非常に激しく変化するので、マイクロボロメータは高い感度で動作することができる。TCRは、代表的には-0.01〜-0.04/℃であるが、半導体-金属転移ではずっと高い。この代表的なレンジは、約0.0035/℃である(前に使用された)検出器材料パーマロイのTCRよりずっと高い。高い導電率のVO2を使用することにより1/fノイズを低く、すなわち0.1マイクロメータ(1000オングストローム)の薄膜において単位面積当たり約1000オームに保持することができる。VO2の薄膜検出器20は、選択された薄膜インピーダンスで絶縁体層21に直接的に被着することができる。この被着は、シリコン・マイクロブリッジ技術に適合した成長条件を用いて非常に薄い層を被着することができるイオン・ビーム・スパッタ工程により行なうのが望ましい。この時、本実施例では、VO2はその半導体相において作用させられる。熱容量の増加は、半導体-金属相転移において生じるが、許容し得るくらい低い。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
[訂正事項▲1▼] 特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項1の「かつ抵抗に関する高い温度係数を有している酸化バナジウムの薄膜層(20)と、」を、「かつ抵抗に関する高い温度係数を有し、半導体相において作用させられる酸化バナジウムの薄膜層(20)と、」と訂正する。
[訂正事項▲2▼] 誤記の訂正を目的として、「熱効率」(特許公報4頁8欄22行)を「温度係数」と訂正する。
[訂正事項▲3▼] 明瞭でない記載の釈明を目的として、「VO2はその半導体相において作用される」(特許公報4頁8欄45〜46行)を、「VO2は半導体相において作用させられる」と訂正する。
異議決定日 1999-12-24 
出願番号 特願平6-501413
審決分類 P 1 652・ 121- YA (G01J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 村田 尚英  
特許庁審判長 伊坪 公一
特許庁審判官 志村 博
橋場 健治
登録日 1998-03-13 
登録番号 特許第2756730号(P2756730)
権利者 ハネウエル・インコーポレーテッド
発明の名称 マイクロボロメ-タ・センサにおけるAB▲X▼の使用  
代理人 西山 修  
代理人 西山 修  
代理人 山川 政樹  
代理人 山川 茂樹  
代理人 紺野 正幸  
代理人 山川 政樹  
代理人 山川 茂樹  
代理人 黒川 弘朗  
代理人 鈴木 二郎  
代理人 黒川 弘朗  
代理人 鈴木 二郎  
代理人 紺野 正幸  

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