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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) B41J
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効とする。(申立て全部成立) B41J
管理番号 1035179
審判番号 無効2000-35295  
総通号数 18 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1992-11-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-06-02 
確定日 2001-04-04 
事件の表示 上記当事者間の特許第2653727号発明「インクリボンカセット」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2653727号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続きの経緯・本件発明
本件特許第2653727号は、平成3年1月29日に出願された特願平3-27806号の特許出願に係り、平成9年5月23日に設定登録されたものであり、その後、特許異議申立がなされ(平成10年異議第71278号)、この異議事件に関し、平成11年2月28日付で取消理由通知が出され、それに対して本件無効審判の被請求人である本件特許権者により平成11年4月30日付けで特許異議意見書並びに訂正請求書が提出され、この訂正が認められ、平成11年9月30日付で特許維持決定がなされたところ、その後の平成12年6月2日付で、本件無効審判請求がなされたというものである。
そして本件特許第2653727号の請求項1に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載の次のとおりのものである。(以下、「本件発明」という。)
「カセットケースに、印字ヘッドが臨む、両側に側壁を有する凹部と、該凹部の両側に形成されたインクリボンの出口及び入口と、該入口から内部に至るインクリボンをガイドする、定位置に配置されたガイドローラとを備えてなり、インクリボンを上記ガイドローラに対し押圧するスプリングを備えないインクリボンカセットにおいて、上記入口の形態を、印字中の印字ヘッドと上記ガイドローラとの間におけるインクリボンが直線をなすように形成すると共に、該インクリボンのインク面と上記カセットケースの内壁が非接触となるようにし、更に、上記ガイドローラを上記インクリボンの表面側に接触した状態となるように配置し且つ該ガイドローラにより案内された該インクリボンを引き続き案内する別のガイドローラを該インクリボンの裏面側に接触した状態となるように定位置に配置したことを特徴とするインクリボンカセット。」

2.請求人の主張
これに対して請求人は、本件発明の特許を無効にする、との審決を求め、その理由として、本件発明は、本件出願前に頒布された刊行物に記載された発明と同一、あるいは刊行物記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は無効とされるべきであると主張し、証拠方法として甲第1乃至3号証を提出している。

3.被請求人の主張
一方、被請求人は、甲第1乃至3号証には本件発明の特徴とする構成について記載されておらず、本件無効審判請求は成り立たない、と主張している。

4.甲第1乃至3号証記載の発明
(1)甲第1号証[実願昭60-53093号(実開昭61-168961号)のマイクロフィルム)記載の発明
a.カセットケース2に、サーマルヘッド5が臨む両側に側壁を有する凹部と、該凹部の両側に形成されたインクリボン1の出口及び入口と、該入口から内部に至るインクリボン1をガイドする定位置に配置されたガイドローラ10、11とを備えてなり、インクリボンを上記ガイドローラに対し押圧するスプリングを備えないインクリボンカセットにおいて、上記ガイドローラ10を上記インクリボン1の表面側に接触した状態となるように配置し且つ該ガイドローラにより案内された該インクリボンを引き続き案内する別のガイドローラ11を該インクリボンの裏面側に接触した状態となるように定位置に配置したインクリボンカセット。(口頭審理調書に記載されているように、この技術事項が甲第1号証に記載されていることに関して当事者間に争いがない。)
b.第1図は本考案に係るインクリボンの搬送装置の一実施例の構成図である。第1図では、ケースの上蓋を外した状態を示している。第2図は第1図のA-A’部分の断面図である。これらの図において、1はインクリボン、2はこのインクリボンを収容したカセットケース、3はインクリボンのストックリール、4は巻き取りリール、5はサーマルヘッドである。サーマルヘッド5は、リボンカセットが取り付けられるキャリッジに設けられている。インクリボン1は、ガイドローラ6,7を経て、サーマルヘッド5の前面を通過する。サーマルヘッド5は、印字動作時は、インクリボン1とともに、矢印aに示すようにプラテン8側に押し出され、インクリボン1の一部のインクが印字用紙9に転写され、記録が行われる。インクリボン1は、印字終了後、ガイドローラ10,11を経て、巻取リール4に巻き取られる。(マイクロフィルム第4頁第1行〜17行)

5.対比
本件発明を甲第1号証記載の発明と対比すると、甲第1号証記載の発明の「サーマルヘッド5」は本件発明の「印字ヘッド」に相当するから、両者間には次のような一致点、相違点がある。
(一致点)
カセットケースに、印字ヘッドが臨む、両側に側壁を有する凹部と、該凹部の両側に形成されたインクリボンの出口及び入口と、該入口から内部に至るインクリボンをガイドする、定位置に配置されたガイドローラとを備えてなり、インクリボンを上記ガイドローラに対し押圧するスプリングを備えないインクリボンカセットにおいて、上記ガイドローラを上記インクリボンの表面側に接触した状態となるように配置し且つ該ガイドローラにより案内された該インクリボンを引き続き案内する別のガイドローラを該インクリボンの裏面側に接触した状態となるように定位置に配置したインクリボンカセット。
(相違点)
入口の形態を、本件発明が「印字中の印字ヘッドとガイドローラとの間におけるインクリボンが直線をなすように形成すると共に、該インクリボンのインク面と上記カセットケースの内壁が非接触となるようにし」ているのに対して、甲第1号証記載の発明は、入り口の形態やインクリボンとの関係、インクリボンの走行方向について言及していない点。

6.当審の判断
インクリボンカセットのストックリール(供給リール)からヘッドの前面を通過して巻き取りリールまで走行するインクリボンを、その走行安定性のためにガイド部材にガイドさせて走行させることは周知技術であり、この点に関しては口頭審理調書に記載されているように被請求人も認めるところである。
したがって、格別の理由がない限りインクリボンをカセット内のガイド部材以外に接触させないようにして走行安定性を確保することは、当業者ならば設計上容易に考えつくことである。
このようにみたとき、甲第1号証記載の発明において印字中のインクリボンは、印字ヘッドから入り口を通過してガイドローラ10にガイドされて走行するに際して、入り口を狭くしなければならないような理由もないし、その部分で方向変換をしなければならないような理由もないことから、印字ヘッドとガイドローラ10間においてカセットの他の構成部材と接触させなければならない格別の理由はなく、「印字中の印字ヘッドとガイドローラとの間におけるインクリボンが直線をなすように形成すると共に、該インクリボンのインク面と上記カセットケースの内壁が非接触となるように」構成する程度のことは、当業者が容易に考えつくことができた構成の変更である。
これに対して、被請求人は答弁書や口頭審理において、甲第1号証乃至3号証には入口の形態を印字中の印字ヘッドとガイドローラとの間におけるインクリボンが直線をなすように形成すると共に、該インクリボンのインク面と上記カセットケースの内壁が非接触となるようにすることに関しては示唆されていない旨主張している。
この点に関する請求人の主張は、甲第1号証乃至3号証の図面の記載を根拠にするものである。しかし、甲第1号証乃至3号証の図面に対応して、明細書中に入り口の形態やインクリボンとの関係、インクリボンの走行方向などについて具体的な説明はない。
願書に添付された図面は、当該発明の技術内容を具体的に表現しているものであるが、発明の構成を理解し易くするための補助的作用を営むものにすぎず、設計図面のような正確性を要求されるものではない。
甲第1号証乃至3号証のいずれの明細書にも入り口の形態やインクリボンとの関係、インクリボンの走行方向などについて具体的な説明はないから、図面の記載のみを根拠に、甲第1号証乃至3号証にインクリボンの走行を安定させるという技術的意義をもって「印字中の印字ヘッドとガイドローラとの間におけるインクリボンが直線をなすように形成すると共に、該インクリボンのインク面と上記カセットケースの内壁が非接触となるように」構成するという発明が記載されているとすることはできない。請求人が提出した甲第4号証乃至8号証の判決も図面の記載のみを根拠に事実認定をしたものでない。
このように、甲第1号証には「印字中の印字ヘッドとガイドローラとの間におけるインクリボンが直線をなすように形成すると共に、該インクリボンのインク面と上記カセットケースの内壁が非接触となるように」構成する点が記載されているとすることはできないが、だからといって甲第1号証記載の発明が、印字中の印字ヘッドとガイドローラとの間におけるインクリボンを、走行安定性のために他の部材と接触しないようにする設計的事項を組み合わせることに対して、それを阻害する要因を有する発明でもない。
したがって、甲第1号証には本件発明の「入口の形態を印字中の印字ヘッドとガイドローラとの間におけるインクリボンが直線をなすように形成すると共に、該インクリボンのインク面と上記カセットケースの内壁が非接触となるように」構成することが全く示唆されていないから、無効審判請求が成り立たないとする被請求人の主張は採用できない。

7.以上のとおりであるから、本件発明は甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2001-02-20 
出願番号 特願平3-27806
審決分類 P 1 112・ 113- Z (B41J)
P 1 112・ 121- Z (B41J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 清水 康司桐畑 幸▲廣▼  
特許庁審判長 石川 昇治
特許庁審判官 砂川 克
小沢 和英
登録日 1997-05-23 
登録番号 特許第2653727号(P2653727)
発明の名称 インクリボンカセット  
代理人 野▲崎▼ 照夫  
復代理人 鈴木 和夫  
代理人 羽鳥 修  

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