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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  H01L
管理番号 1046676
異議申立番号 異議2000-73344  
総通号数 23 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-03-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-09-06 
確定日 2001-06-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3015261号「表面特性を改善するサファイア単結晶基板の熱処理方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3015261号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 (1)手続きの経緯
本件特許第3015261号の請求項1に係る発明についての出願は、平成6年9月12日に出願され、平成11年12月17日にその特許の設定登録がなされ、その後、竹宮茂文より特許異議の申立てがなされ、平成12年12月4日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年2月7日に訂正請求がなされたものである。
(2)訂正の適否についての判断
ア.訂正の内容
*訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1における「該基板の面方位を選択し、」を、「該サファイア単結晶基板のA面、C面、R面またはX面の何れかの面方位を選択して特定結晶面を露出させ、」と訂正する。
*訂正事項b
特許請求の範囲の請求項1における、「900℃以上の温度に加熱する際、該基板の面方位に対応して加熱時間及び加熱温度を選択する」を「、該基板の前記選択面方位に対応して下記表に示す温度及び時間を選択して加熱する

」と訂正する。
*訂正事項c
特許請求の範囲の請求項1における「サファイア基板表面の原子ステップ高さ及びテラス幅を制御する」を、「サファイア基板表面の原子ステップ高さ及びテラス幅を、選択した面方位特有の値に制御する」と訂正する。
*訂正事項d
本件特許明細書の段落0006の中第2乃至5行目における「常圧雰囲気で900℃以上の温度に加熱してサファイア単結晶基板を熱処理する際、面方位に対応して加熱時間及び加熱温度を選択することによりサファイア基板表面の原子ステップ高さ及びテラス幅を制御することを特徴とする。」を、「サファイア単結晶基板上に成長させる異種物質の結晶格子にマッチングする原子ステップ高さに対応して該サファイア単結晶基板のA面、C面、R面またはX面の何れかの面方位を選択して特定結晶面を露出させ、該異種物質を成長させるに先立ち該基板を常圧雰囲気で900℃以上の温度に加熱する際、該基板の前記選択面方位に対応して下記表1に示す温度及び時間を選択して加熱することによりサファイア基板表面の原子ステップ高さ及びテラス幅を、選択した面方位特有の値に制御することを特徴とする。」と訂正する。
イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、特許請求の範囲の請求項1における「該基板の面方位を選択し、」を、「該サファイア単結晶基板のA面、C面、R面またはX面の何れかの面方位を選択して特定結晶面を露出させ、」と訂正するもので、基板の面方位をA面、C面、R面またはX面の何れかの面方位に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当し、当該訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
上記訂正事項bは、特許請求の範囲の請求項1における「900℃以上の温度に加熱する際、該基板の面方位に対応して加熱時間及び加熱温度を選択する」を「、該基板の前記選択面方位に対応して下記表に示す温度及び時間を選択して加熱する」と訂正するもので、900℃以上の温度に加熱する際、該基板の面方位に対応して加熱時間及び加熱温度を選択する具体的範囲を、該下記表記載のとおりA面、C面、R面及びX面に応じた熱処理条件とすることに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当し、当該訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり(特許明細書の表1参照)、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
上記訂正事項cは、特許請求の範囲の請求項1における「サファイア基板表面の原子ステップ高さ及びテラス幅を制御する」を、「サファイア基板表面の原子ステップ高さ及びテラス幅を、選択した面方位特有の値に制御する」と訂正するもので、サファイア基板表面の原子ステップ高さ及びテラス幅を制御するに際し、選択した面方位特有の値に制御することを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当し、当該訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
また、上記訂正事項dは、請求項1が訂正事項a乃至cのように訂正されたことに伴い特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正で、明りょうでない記載の釈明を目的としたものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
ウ.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する特許法第126条第2項乃至第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
(3)特許異議申立てについての判断
ア.申立ての理由の概要
申立人は、証拠として、甲第1号証(特開平1-249695号公報)、甲第2号証(特開平2-239196号公報)及び甲第3号証(特開平3-3233号公報)を提示し、本件発明は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたから、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである旨主張している。
更に、本件特許明細書には次のとおりの記載不備があり、特許法第36条第5、6項の規定に違反してなされたものであり、特許を取り消すべきである旨主張している。
a 特許請求の範囲の請求項1において、「異種物質の結晶格子にマッチングする原子ステップ高さに対応して該基板の面方位を選択し」とありますが、この部分の記載は不明瞭です。
例えば、「マッチングする」とはどういうことなのか不明です。これは結晶格子と原子ステップ高さが一致することを言うのか、そうでなければどのような状態を意味するのか全く不明です。
また、「原子ステップ高さに対応して該基板の面方位を選択し」とありますが、どのように選択するのか不明です。そもそも、成長させる物質に応じて最適な面方位があることは当然であって、その際にどのようにして最適な面方位を選択するのかという選択方法が発明の特徴となるべきであって、これだけでは発明の構成要件となり得ません。
b 特許請求の範囲の請求項1において、「該基板の面方位に対応して加熱時間及び加熱温度を選択することによりサファイア基板表面の原子ステップ高さ及びテラス幅を制御する」とありますが、この部分も不明瞭です。
例えば、「該基板の面方位に対応して加熱時間及び加熱温度を選択する」とありますが、どのように選択するのか不明です。本来、面方位に対応した加熱条件、即ち本件特許公報の第1表に示された条件が本来特許発明の特徴となるべきであります。
また、「原子ステップ高さ及びテラス幅を制御する」とありますが、これもどのように制御するのかが不明であります。
イ.特許法第36条第5、6項違反について
aの点について
aの点については、選択される面方位がサファイア単結晶基板のA面、C面、R面またはX面の何れかの面方位である旨請求項1が訂正されたことにより、明りょうとなっている。
また「マッチングする・・・選択し」は、特許権者の提出した特許異議意見書の第4頁21乃至25行の記載のとおり、「サファイア単結晶基板のA面、C面、R面またはX面の何れかの結晶面の内、その原子ステップ高さが、形成しようとする単結晶面薄膜の1原子層厚さに最も近接した結晶面方位を選択する」意味であるから、その意味は明りょうである。
bの点について
bの点については、面方位に対応した加熱条件が特許公報の第1表に示された条件に限定され、また原子ステップ高さ及びテラス幅の制御が選択した面方位特有の値に制御する旨請求項1が訂正されたことにより、明りょうとなっている。
よって、本件特許明細書には申立人主張のような記載不備はない。
ウ.特許法第29条第2項違反について
(本件発明)
訂正明細書の本件発明は、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「サファイア単結晶基板上に成長させる異種物質の結晶格子にマッチングする原子ステップ高さに対応して該サファイア単結晶基板のA面、C面、R面またはX面の何れかの面方位を選択して特定結晶面を露出させ、該異種物質を成長させるに先立ち該基板を常圧雰囲気で、該基板の前記選択面方位に対応して下記表に示す温度及び時間を選択して加熱することによりサファイア基板表面の原子ステップ高さ及びテラス幅を、選択した面方位特有の値に制御することを特徴とするサファイア単結晶基板の熱処理方法。

」(以下本件発明という)
(甲号証記載の発明)
異議申立人が提出した甲第1号証には、アルミナ単結晶基板上にGaAs膜を成長させる場合に、C面を選択し、予め600〜950℃で2〜60分加熱することによって、原子を最も安定なステップ位置に配列させる気相成長方法が記載されている。
次に異議申立人が提出した甲第2号証には、サファイア単結晶基板上にCd1-XMnXTeの膜を成長させる場合に、C面を選択し、予め850℃以上で加熱することによって、表面を平滑にすることができ、これによって結晶性の高い希薄磁性半導体薄膜が得られる製造方法が記載されている。
更に異議申立人が提出した甲第3号証には、サファイア単結晶基板上にGaN膜を成長させる場合に、R面を選択し予め600〜1350℃で10〜30分間熱処理する化合物半導体単結晶薄膜の成長方法が記載されている。
(対比・判断)
本件発明と甲第1乃至3号証に記載された発明とを対比すると、本件発明の熱処理時間が1〜10、20時間と長いのに対し甲第1乃至3号証では2〜60分、10〜30分(甲第2号証は記載無し)と短時間である点で相違するばかりでなく、本件発明の必須の構成要件である、サファイア単結晶基板上に成長させる異種物質の結晶格子にマッチングする原子ステップ高さに対応して該サファイア単結晶基板のA面、C面、R面またはX面の何れかの面方位を選択して、「該基板の前記選択面方位に対応して下記表に示す温度及び時間を選択して加熱することによりサファイア基板表面の原子ステップ高さ及びテラス幅を、選択した面方位特有の値に制御する

」点については記載も示唆もない。
しかも本件発明は、上記の点を備えることにより「サファイア単結晶基板の表面に露出している結晶面に応じて熱処理条件を選択することにより、特定された結晶面で優先的に原子を再配列させ、平坦度が極めて高く、実質的に同一結晶方位をもつテラス面のみからなる基板表面を得ている。したがって、この上に形成される薄膜は、基板に対して結晶格子定数のマッチング性に優れ、界面の乱れに起因する結晶欠陥や結晶歪みのない高性能のデバイスを作成することが可能となる。」という明細書記載の作用効果を奏するものである。
したがって、本件発明が甲第1乃至3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認めることはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
表面特性を改善するサファイア単結晶基板の熱処理方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】サファイア単結晶基板上に成長させる異種物質の結晶格子にマッチングする原子ステップ高さに対応して該サファイア単結晶基板のA面、C面、R面またはX面の何れかの面方位を選択して特定結晶面を露出させ、該異種物質を成長させるに先立ち該基板を常圧雰囲気で、該基板の前記選択面方位に対応して下記表に示す温度及び時間を選択して加熱することによりサファイア基板表面の原子ステップ高さ及びテラス幅を、選択した面方位特有の値に制御することを特徴とするサファイア単結晶基板の熱処理方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、発光素子,SOSデバイス等の搭載に適した表面状態をもつサファイア単結晶基板を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
発光素子を始めとする各種半導体素子は、単結晶基板に搭載され、基板内部又は表面に作り込んだ回路に結線されている。たとえば、青色発光素子や三次元高速ICとして期待されているSOS(silicn-on-sapphire)型デバイスは、サファイア単結晶からなる絶縁基板に搭載される。
絶縁基板として使用される単結晶基板は、搭載する素子に対する良好な接合状態を得るため、表面に所定の結晶面を露出させた後、鏡面状態に研磨される。特定結晶面は、単結晶基板をダイヤモンドカッター等で切断するときに切断角度を調整することにより、基板表面に露出する。切断後の基板は、ダイヤモンド研磨粉を使用して研磨した後、コロイダルシリカ等を含む溶液中で化学エッチングされる。
機械研磨及び化学研磨された単結晶基板は、表面粗さが1nm程度の極めて平滑な状態に鏡面仕上げされている。この表面は、その上に搭載される各種素子に対して所定の接続を得る上で重要な機能を果たす。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従来の半導体素子を搭載する場合、前述した方法で鏡面仕上げされたサファイア単結晶基板でも、十分に必要とする接続が得られる。しかし、従来の鏡面仕上げでは、急速に進展している素子の高機能化,高密度化に対応できないことがある。GaN青色発光素子を搭載したサファイア基板では、素子と基板との間の接続が発光出力に大きく影響し、接続界面に乱れがあると高効率で青色を出力させることができない。また、三次元高速ICとして期待されているSOS型デバイスでは、Si薄膜とサファイア界面との乱れによって、満足できる特性が得られない。
高機能化,高密度化に伴って欠陥が発生する原因に、単結晶基板の表面にある不規則な凹凸や異種結晶面の露出等が掲げられる。すなわち、機械研磨及び化学研磨されたサファイア単結晶基板は、表面粗さ1nm程度に平滑化されているものの、凹凸分布に規則性がない。また、結晶面を原子レベルで観察すると、所定の結晶面以外の結晶方位をもつ異種結晶面が凹凸の斜面等に露出している。
【0004】
不規則な凹凸のある表面上にSi等の薄膜を成長させると、多数の凹凸部で結晶成長が生じ、成長初期段階で数多くの島状結晶の成長が促進される。これは、凹凸部の階段部分が結晶核生成の元になる最も有力なサイトとして働くことに起因する。島状結晶は、成膜が進に従って相互に連結しながら成長する。その結果、島状結晶の間に粒界や刃状転位,ラセン転位等の成長欠陥が生成し易くなる(J.C.Bean,Appl.Phys.Lett.,36(1980)p.741-743参照)。これらの欠陥は、基板表面に形成される薄膜の特性、特に電気的特性に悪影響を及ぼす。
【0005】
また、表面に露出した異種結晶面は、その上に成長する薄膜に、設計したエピタキシャル成長以外の成長方位を与える。異種結晶面は凹凸部の斜面に現れ易く、島状結晶の成長と相侯つて異種結晶粒を界面等に生成させる原因となる。その結果、完全な単結晶薄膜が得られず、界面の乱れに起因して半導体素子の特性が劣化する。
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、サファイア単結晶表面にある原子の再配列が熱処理条件に応じて結晶面ごとに異なることを利用し、結晶面に応じて加熱温度及び加熱時間を選択することにより、特定の結晶面を優先的に再配列させ、超平坦で同一結晶方位をもつテラス面及び直線状の規則的なステップサイトをもつ基板表面を得ることを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の熱処理方法は、その目的を達成するため、サファイア単結晶基板上に成長させる異種物質の結晶格子にマッチングする原子ステップ高さに対応して該サファイア単結晶基板のA面、C面、R面またはX面の何れかの面方位を選択して特定結晶面を露出させ、該異種物質を成長させるに先立ち該基板を常圧雰囲気で900℃以上の温度に加熱する際、該基板の前記選択面方位に対応して下記表1に示す温度及び時間を選択して加熱することによりサファイア基板表面の原子ステップ高さ及びテラス幅を、選択した面方位特有の値に制御することを特徴とする。
ステップ高やステップ幅は、結晶面に応じて定まっている。そこで、基板上に成長させようとする薄膜の結晶単位長さに応じた結晶面の選択が可能になり、マッチング性に優れた薄膜が形成される。
なお、本発明に従って熱処理されるサファイア単結晶基板には、転位密度ができるだけ少なく良質の基板が使用される。表面結晶方位がジャスト或いは故意に微少角度で傾斜させたものについて、±0.5度以内の精度を保持しつつ機械研磨及び化学研磨によって表面を調製した後、有機洗剤等で表面洗浄される。このような表面調製は、熱処理の過程で表面原子の面内拡散を均一化し、均一な高さをもつステップを形成する上で有効な前処理である。
【0007】
【作用】
結晶面は、それぞれの面に対して表面上での原子の拡散係数及び拡散のための活性化エネルギーが異なる。そのため、面方位に応じた熱処理を施すとき、熱的に安定な同一の結晶方位指数をもつ原子面のみが優先的に形成される。したがって、サファイア単結晶基板を、それぞれの面方位に適した温度及び時間で熱処理するとき、面方位に特有な原子層ステップ及び超平坦な原子面からなるナノステップ最表面構造が得られる。最表面構造は、実際の基板面の微傾斜に対応したテラス幅をもつナノステップ構造となる。各テラス面のステップ高さは、熱的に安定な原子面の結晶格子中での繰返し周期によって決定される。
【0008】
たとえば、従来の機械研磨及び化学研磨で鏡面仕上げしたサファイア単結晶基板のC面(0001)をAFM(電子間力顕微鏡)観察すると、図1に示すように多数の凹凸が不規則に存在する表面となる。このような表面は、その上に成長させるSi薄膜に結晶欠陥を持ち込む原因となり、またSi薄膜との界面に乱れを発生させる。
これに対し、従来のサファイア単結晶基板を有機洗剤等で表面洗浄したC面(0001)を1200℃に10時間加熱したものでは、図2に示すように不規則な凹凸が見られず、原子が1層つづ積み重なった極めて平坦な表面状態をもっていた。また、同じサファイア単結晶基板のR面を1200℃に1時間加熱したところ、図3に示すように同様に原子が1層つづ積み重なった極めて平坦な表面状態になった。
本発明者等の実験によるとき、各結晶面に対し次の条件下で熱処理することが有効であることが判った。
【0009】
【表1】

【0010】
そこで、これら各結晶面に対応した熱処理条件を選択し、特定の結晶面で優先的に原子を再配列するとき、極めて平坦化された基板表面が得られる。このように原子レベルで平坦化された基板表面は、その上に成膜される薄膜の結晶格子定数にマッチしたナノステップ表面として使用することができる。その結果、界面の乱れに起因した結晶歪みや結晶欠陥の少ない薄膜が得られ、高性能のデバイスを作り込むことが可能になる。
たとえば、結晶面に応じて種々の原子ステップが得られるため、成長させたい薄膜の結晶単位の長さに応じて適当なサファイア基板面を選び、エピタキシャル成長を促進させることができる。このようにして、サファイア基板上にZnO等の薄膜を高精度で形成することが可能になる。
【0011】
また、本発明に従った熱処理によるとき、原子ステップでの部分的な成長が可能となるため、量子細線を絶縁性基板の上に作製できる。すなわち、サファイア単結晶基板の最表面は、超平坦な原子面(テラス面)となっているので、温度及び雰囲気等の条件を適正に制御した成膜条件下では、テラス面に付着した薄膜構成原子がテラス面上で核形成することなく、テラス上を拡散してステップサイトにトラップされ、結晶化される。その結果、ステップに沿って薄膜構成原子が配列される。このとき、テラス上での薄膜の被覆率を1以下にすると、線幅が数nm〜数十nmの量子細線がサファイア単結晶基板上に作製される。
これにより、絶縁性,放熱性,耐放射線性,耐熱性,耐化学性等に優れたサファイア基板の上に量子構造を組み込んだデバイスの作成が可能となる。サファイア自体も表面硬度が向上し耐久性や表面輝度が改善されることから、たとえば高級腕時計のカバーガラス等の種々の用途への展開が可能になる。
【0012】
【実施例】
実施例1:(C面の平坦化)
表面を清浄化したサファイア単結晶基板のC面を空気中で1200℃に10時間加熱した後、空冷した。処理されたC面を、大気中でAFM観察したところ、図1に示した不規則な凹凸が検出されず、比較的広い面積をもつテラス面が観察された。また、各テラスのステップ高さは、図4に示すように、原子1層分にほぼ等しい約2.13Åであった。
実施例2:(A面の平坦化)
表面を清浄化したサファイア単結晶基板のA面を空気中で1200℃に3時間加熱した後、空冷した。処理されたA面のAFM像は、不規則な凹凸がなく、比較的広い面積のテラス面をもつ表面構造であった。また、各テラスのステップ高さは、図5に示すように、原子1層分にほぼ等しい約5Åであった。
実施例3:(X面の平坦化)
表面を清浄化したサファイア単結晶基板のX面を空気中で1200℃に10時間加熱した後、空冷した。処理されたX面のAFM像は、不規則な凹凸がなく、比較的広い面積のテラス面をもつ表面構造であった。また、各テラスのステップ高さは、図6に示すように、原子10層分にほぼ等しい約30Åであった。
【0013】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明においては、サファイア単結晶基板の表面に露出している結晶面に応じて熱処理条件を選択することにより、特定された結晶面で優先的に原子を再配列させ、平坦度が極めて高く、実質的に同一結晶方位をもつテラス面のみからなる基板表面を得ている。したがって、この上に形成される薄膜は、基板に対して結晶格子定数のマッチング性に優れ、界面の乱れに起因する結晶欠陥や結晶歪みのない高性能のデバイスを作成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 従来の機械研磨及び化学研磨によって得られた多数の凹凸が不規則に分散しているサファイア単結晶基板の表面を観察したAFM像
【図2】 本発明に従って熱処理されたサファイア単結晶基板のC面を観察したAFM像
【図3】 本発明に従って熱処理されたサファイア単結晶基板のR面を観察したAFM像
【図4】 本発明実施例1で得られたC面の表面状態を示すグラフ
【図5】 本発明実施例2で得られたA面の表面状態を示すグラフ
【図6】 本発明実施例3で得られたX面の表面状態を示すグラフ
 
訂正の要旨 訂正の要旨
*訂正事項a
特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の請求項1における「該基板の面方位を選択し、」を、「該サファイア単結晶基板のA面、C面、R面またはX面の何れかの面方位を選択して特定結晶面を露出させ、」と訂正する。
*訂正事項b
特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の請求項1における、「900℃以上の温度に加熱する際、該基板の面方位に対応して加熱時間及び加熱温度を選択する」を「、該基板の前記選択面方位に対応して下記表に示す温度及び時間を選択して加熱する

」と訂正する。
*訂正事項c
特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の請求項1における「サファイア基板表面の原子ステップ高さ及びテラス幅を制御する」を、「サファイア基板表面の原子ステップ高さ及びテラス幅を、選択した面方位特有の値に制御する」と訂正する。
*訂正事項d
不明りょうな記載の釈明を目的として、本件特許明細書の段落0006の中第2乃至5行目における「常圧雰囲気で900℃以上の温度に加熱してサファイア単結晶基板を熱処理する際、面方位に対応して加熱時間及び加熱温度を選択することによりサファイア基板表面の原子ステップ高さ及びテラス幅を制御することを特徴とする。」を、「サファイア単結晶基板上に成長させる異種物質の結晶格子にマッチングする原子ステップ高さに対応して該サファイア単結晶基板のA面、C面、R面またはX面の何れかの面方位を選択して特定結晶面を露出させ、該異種物質を成長させるに先立ち該基板を常圧雰囲気で900℃以上の温度に加熱する際、該基板の前記選択面方位に対応して下記表1に示す温度及び時間を選択して加熱することによりサファイア基板表面の原子ステップ高さ及びテラス幅を、選択した面方位特有の値に制御することを特徴とする。」と訂正する。
異議決定日 2001-05-24 
出願番号 特願平6-243363
審決分類 P 1 651・ 534- YA (H01L)
P 1 651・ 121- YA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮崎 園子  
特許庁審判長 内野 春喜
特許庁審判官 岡 和久
浅野 清
登録日 1999-12-17 
登録番号 特許第3015261号(P3015261)
権利者 科学技術振興事業団
発明の名称 表面特性を改善するサファイア単結晶基板の熱処理方法  
代理人 小倉 亘  
代理人 小倉 亘  

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