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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F23G
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  F23G
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  F23G
管理番号 1051547
異議申立番号 異議2001-71091  
総通号数 26 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-03-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-04-09 
確定日 2002-01-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第3096623号「溶融炉」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3096623号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3096623号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成7年9月13日に出願され、平成12年8月4日に設定登録され、その後、その特許について、異議申立人新日本製鐵株式会社より特許異議の申立てがなされたものである。

2.申立ての理由の概要
特許異議申立人新日本製鐵株式会社は、下記の甲第1号証及び甲第2号証を提出し、請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、また、請求項1の記載は、特許法第36条第4項及び第6項の規定に適合しないので、特許を取り消すべき旨主張している。
3.記載不備の主張について
特許異議申立人は、本件第1発明の「炉壁近傍の補助燃焼領域(A)に燃焼用ガスを供給し、前記炉壁近傍の装入物を燃焼させて、前記ロート部(S)の部位において生成しようとする棚の支持を失わせる」との記載では、羽口の構成が不明である旨主張し、その理由として、1)「補助燃焼領域」という事項が明細書において定義されていないこと、2)「この領域に於ける装入物を燃焼させる」とあるが、装入物を適宜選択的に燃焼させるとすれば、実施できる程度に具体的な構成が提示されていない、をあげている。
しかし、「補助燃焼領域」については、特許明細書の段落【0007】において「前記テーパー部Sの上端部に、その供給する前記燃焼用ガスにより炉壁に沿って形成される補助燃焼領域Aに前記燃焼用ガスを供給するべく第2の羽口3bを配置してある。」と記載され、「補助燃焼領域A」について定義されている。
また、特許明細書において、段落【0007】には「前記廃棄物溶融炉Fは、上方から投入された装入物を底部で燃焼溶融する前記炉本体1を下窄まりに形成して、」と、段落【0008】には「前記廃棄物溶融炉Fに投入された廃棄物は、約300℃から500℃に維持される乾燥帯Z1で乾燥され、」と記載されていることからみて、明細書中において、「装入物」は「廃棄物」と同義の用語として記載されているものと認められる。そして、特許明細書の段落【0008】には「上述のように、前記第2の羽口3bを設けることにより棚吊りを防止するので、炉内の廃棄物の下方への移動がスムーズとなり、即ち、高温燃焼部へガス化残渣のカーボンがスムーズに供給される。」と記載されていることから、「廃棄物」が「残渣」を含む上位の概念を表す用語として、明細書中で記載されていることが明らかであるから、「この領域に於ける装入物を燃焼させる」との記載は、装入物を適宜選択的に燃焼させることを示しているのではなく、この領域における残渣等を含む廃棄物としての装入物を燃焼させることを示しているものと認められる。
よって、特許異議申立人が記載不備の理由としてあげた上記1)及び2)の主張は、いずれも採用することはできず、「炉壁近傍の補助燃焼領域(A)に燃焼用ガスを供給し、前記炉壁近傍の装入物を燃焼させて、前記ロート部(S)の部位において生成しようとする棚の支持を失わせる」との記載により、羽口の構成が不明であるとは認められない。

4.本件発明
本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本件第1発明」、「本件第2発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のものにあると認められる。
「【請求項1】
上方から投入された装入物を底部で燃焼溶融する炉本体(1)を下窄まりに形成してロート部(S)を形成するとともに、前記ロート部(S)の下方に、溶融部(2)に向けて燃焼用ガスを吹き込む羽口(3a)を備えた竪型の溶融炉であって、
前記羽口(3a)の上方の前記ロート部(S)の上端部に、炉壁近傍の補助燃焼領域(A)に燃焼用ガスを供給し、前記炉壁近傍の装入物を燃焼させて、前記ロート部(S)の部位において生成しようとする棚の支持を失わせる第2の羽口(3b)を備えた溶融炉。
【請求項2】 前記第2の羽口(3b)を、前記ロート部(S)の内壁の内側に沿って前記流体を吹き込むように、同一方向に偏向させて形成してある請求項1記載の溶融炉。」

5.刊行物
これに対して、特許異議申立人が提出した甲第1号証(特公昭53-16633号公報)には、図面とともに下記の記載がある。
「廃棄物を充填しかつ継続的に上部から装入し炉下部から酸素源を供給し炉全体として不完全な燃焼により発生炉ガスをつくり出し、かつこの反応熱により塵芥中の灰分および金属分を溶融せしめる如くなしたシャフト炉において、
上記酸素源を供給する手段として、その吹込口が炉内溶融物近傍に位置する如く、純酸素もしくは酸素を富化せしめたガスを供給する羽口を設け更に、該羽口から適宜距離を配した上部位置に熱風送風羽口を設けたことを特徴とする塵芥焼却炉。」(特許請求の範囲)
「従って本発明に於ける羽口の位置は、まず下段の純酸素もしくは酸素を富化したガス供給用の羽口はその吹込口が炉内溶融物近傍に位置する如く、又、上段の熱風供給用の羽口は上記の下段の羽口とその燃焼帯域が干渉し合わないような位置に設けるのが好ましい。」(第2頁第4欄第25〜30行)
「第1図において1は原料ごみのホッパー、2,3は炉15の密閉用ダンパーである。炉15の密閉を保つためにダンパー2,3は交互に開かれ、ホッパー1内のごみを炉15におとす。装入されたごみは乾燥域4において、まず上昇する廃ガスと熱交換し乾燥される。乾燥したごみは熱分解域5において熱分解しガスを放出する。ほゞ炭化したごみは熱風枕管13、羽口14を経て吹きこまれる熱風により一部は燃焼する。更に下部において酸素ガスが配管11、羽口12を介して吹きこまれ、このときの反応による高温によって装入物は滓化溶融する。溶融物はスラグ7と銑鉄8とに分離し夫々スラグ排出口10、溶銑排出口9から排出される。なお6は燃焼及び溶融域である。」(第2頁第4欄第33行〜第3頁第5欄第2行)
「上段の羽口14で供給された酸素で装入物4を均一に部分燃燃しかつ溶融しない程度に昇温させることが好ましいので、上段羽口14は更に分割して上段羽口14より上部に置くことも考えられる。」(第3頁第5欄第44行〜同第6欄第4行)
また、第1図には、焼却炉(15)の下段羽口(12)の上部に下窄まりの部分があり、その部分の上方の位置に上段羽口(14)が設けられていることが窺える。

また、同じく特許異議申立人が提出した甲第2号証(特開昭57-43112号公報)には、図面とともに下記の記載がある。
「本発明の目的は、ガス生成物中へのチャーの連行量を減少したペレット化廃棄物用垂直シャフト部・炉床部型炉を提供することである。
本発明の他の目的は、熱分解帯域にて産出したチャーをより完全に燃焼し、それによつてチャー連行量を減少させることのできる改良された構造の炉床部を有する廃棄物処理炉を提供することである。」(第3頁左上欄第19行〜同右上欄第6行)
「「概略接線方向に配向して」という語句は、羽口35の軸線の横軸線(各羽口35の軸線41を該羽口の高さ位置の平面上に投影して得られる線42で定義される軸線)と、制限炉床開口を平面でみて(第2図)、羽口の高さ位置にある炉床部の内接円44に対する真の接線43との間に形成される角度βが60度より小さいということを意味する。例えば、もし炉床部が羽口位置で円形断面を有し且つ羽口が放射方向に配置されているとすれば、上記角度βは90度である。好ましい実施例において角度βは約25〜30度である。」(第5頁左上欄第20行〜同右上欄第10行)

6.本件第1発明について
上記5.に示した記載及び図面からみて、甲第1号証には、下記の発明が記載されている。
「上方から投入された装入物を底部で燃焼溶融する焼却炉本体に下窄まりに形成した部分を設け、この部分の下方に、燃焼及び溶融域に向けて酸素ガスを吹き込む下部羽口を備えた焼却炉であって、前記下部羽口の上方の前記下窄まりに形成した部分に上部羽口を備えた焼却炉。」

本件第1発明と、甲第1号証に記載された発明を対比すると、甲第1号証に記載された発明の「装入物」、「下窄まりに形成した部分」、「燃焼及び溶融域」、「酸素ガス」、「下部羽口」、「上部羽口」、「焼却炉」は、それぞれ、本件第1発明の「装入物」、「ロート部(S)」、「溶融部(2)」、「燃焼用ガス」、「羽口(3a)」、「第2の羽口(3b)」、「竪型の溶融炉」に相当するから、両者は、
「上方から投入された装入物を底部で燃焼溶融する炉本体を下窄まりに形成してロート部を形成するとともに、前記ロート部の下方に、溶融部に向けて燃焼用ガスを吹き込む羽口を備えた竪型の溶融炉であって、
前記羽口の上方の前記ロート部に第2の羽口を備えた溶融炉。」で一致し、下記の点で相違する。

相違点
本件第1発明は、羽口の上方のロート部の上端部に、炉壁近傍の補助燃焼領域に燃焼用ガスを供給し、炉壁近傍の装入物を燃焼させて、ロート部の部位において生成しようとする棚の支持を失わせる第2の羽口を備えたのに対し、甲第1号証のものは、下窄まりに形成した部分に上部羽口を備えた点。

そこで、上記相違点について検討する。
特許異議申立人は、甲第1号証には、「乾燥域(4)、熱分解域(5)(図面では符号脱落)及び燃焼溶融域(6)が示され、本件特許発明のように、下から1段目のロート部上端即ち、本件特許発明と同じように、熱分解域(5)の下方に上段羽口(14)が設けられている。」ことが記載されており、「同一の炉構造(羽口位置)と、その類似操業技術が開示され公知である時、棚吊り防止は、その作用効果の一つであって、本件特許発明は、単にそれを強調したにすぎない。」と主張している。
しかし、甲第1号証の第1図から、上部羽口(14)をロート部の上方の部位に設けていることが窺えるものの、甲第1号証には、ロート部の上端部に羽口を設けることが記載されているとは認められず、示唆もされていない。
また、本件第1発明は、ロート部の上端部の羽口から燃焼用ガスを供給して、炉壁近傍の装入物を燃焼させているのに対し、甲第1号証のものは、「上段の羽口14で供給された酸素で装入物4を均一に部分燃燃しかつ溶融しない程度に昇温させることが好ましいので、上段羽口14は更に分割して上段羽口14より上部に置くことも考えられる。」(第3頁第5欄第44行〜同第6欄第4行)と記載されているように、上段の羽口で装入物を均一に部分燃焼させることを意図しており、炉壁近傍の装入物を燃焼させ、ロート部の部位において生成しようとする棚の支持を失わせるものとまで認めることはできない。
よって、「羽口(3a)の上方のロート部(S)の上端部に、炉壁近傍の補助燃焼領域(A)に燃焼用ガスを供給し、炉壁近傍の装入物を燃焼させて、ロート部(S)の部位において生成しようとする棚の支持を失わせる第2の羽口(3b)を備えた」構成は、甲第1号証に記載されておらず、またこの構成が甲第1号証の記載から容易に想到できるとも認められない。
さらに、上記5.に示すように、甲第2号証にも、上記構成が記載されておらず、またこの構成が甲第2号証の記載から容易に想到できるとも認められない。
したがって、本件第1発明が、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはできない。

7.本件第2発明について
請求項2は、請求項1を引用した請求項であり、請求項1の各構成を備えるから、請求項2に係る本件第2発明と、甲第1号証に記載された発明を対比すると、上記相違点で相違するが、上記相違点については、上記6.で検討したように、甲第1号証及び甲第2号証に記載されておらず、又これらの刊行物から容易に想到することができるとも認められない。
したがって、本件第2発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはできない。

8.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては、本件第1発明及び本件第2発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件第1発明及び本件第2発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件第1発明及び本件第2発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-12-10 
出願番号 特願平7-234896
審決分類 P 1 651・ 121- Y (F23G)
P 1 651・ 531- Y (F23G)
P 1 651・ 534- Y (F23G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 倉橋 紀夫  
特許庁審判長 大久保 好二
特許庁審判官 井上 茂夫
岡本 昌直
登録日 2000-08-04 
登録番号 特許第3096623号(P3096623)
権利者 株式会社クボタ
発明の名称 溶融炉  
代理人 小堀 益  
代理人 堤 隆人  
代理人 北村 修一郎  

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