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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F24H
管理番号 1058279
異議申立番号 異議1997-74835  
総通号数 30 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1990-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 1997-10-15 
確定日 2002-03-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第2600848号「風呂釜の燃焼制御装置」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2600848号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 I.手続の経緯
特許第2600848号(昭和63年9月27日出願、平成9年1月29日特許権の設定登録。)の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)についての特許は、特許異議申立人 中沢 誠より特許異議の申立てがなされ、平成10年2月9日付けで取消理由が通知され、特許権者よりその指定期間内である平成10年4月27日にその明細書についての訂正の請求がされ、これに対して、当審における再度の合議の結果、前記特許について、平成13年1月23日付けで前記訂正の請求についての訂正拒絶理由通知を兼ねる新たな取消理由が通知され、特許権者よりその指定期間内である平成13年4月6日にその明細書及び図面についての新たな訂正の請求がされると同時に先の訂正の請求について取下書が提出され、これに対して、当審における更なる合議の結果、前記新たな訂正の請求について、平成13年5月1日付けで訂正拒絶理由が通知されたところ、その指定期間内である平成13年7月16日付に訂正の請求の手続補正がなされたものである。

II.訂正の適否についての判断
1.訂正請求に対する平成13年7月16日の手続補正の適否について
(1)補正の内容
当該手続補正は、平成13年4月6日付けの訂正請求書及び訂正明細書の記載を
「 訂正事項a
特許明細書の特許請求の範囲に係る記載
「風呂釜の運転を操作するための操作スイッチの入力を判定するスイッチ入力判定手段と、浴槽の沸き上げ温度を検出する温度センサと、沸き上げ温度の設定を行う沸き上げ温度設定手段と、前記温度センサと沸き上げ温度設定手段との温度を比較判定する設定温度比較手段と、前記スイッチ入力判定手段により風呂釜を強制的に一定時間燃焼させる強制燃焼手段と、前記強制燃焼手段により風呂釜の点火シーケンスの制御を行う燃焼制御手段と、前記設定温度比較手段により設定温度以上を検出すると沸き上げ運転を停止させる沸き上げ停止手段とを有し、温度センサの温度が設定温度以上であっても、必ず強制的に一定時間風呂釜を燃焼させることを特徴とする風呂釜の燃焼制御装置」を
「風呂釜の運転を操作するための操作スイッチの入力を判定するスイッチ入力判定手段と、浴槽の沸き上げ温度を検出する温度センサと、沸き上げ温度の設定を行う沸き上げ温度設定手段と、前記温度センサと沸き上げ温度設定手段との温度を比較判定する設定温度比較手段と、前記スイッチ入力判定手段により風呂釜を強制的に一定時間燃焼させる強制燃焼手段と、前記強制燃焼手段により風呂釜の点火シーケンスの制御を行う燃焼制御手段と、前記設定温度比較手段により設定温度以上を検出すると沸き上げ運転を停止させ、かつ一定時間経過後に沸き上げ出力を出す沸き上げ停止手段とを有し、温度センサの温度が設定温度以上であっても、必ず強制的に一定時間風呂釜を燃焼させることを特徴とする風呂釜の燃焼制御装置」と訂正する。
訂正事項b
特許明細書の第2頁の「課題を解決するための手段」の全文を特許請求の範囲を減縮する補正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との間に生じる不整合を解消する目的として「温度センサによる検出温度に関係なく、操作スイッチだけを入力して沸き上げ運転が開始されると強制的に一定時間風呂釜を燃焼させる燃焼制御手段と、前記設定温度比較手段により設定温度以上を検出すると沸き上げ運転を停止させ、かつ一定時間経過後に沸き上げ出力を出す沸き上げ停止手段を備えるものである。」と訂正する。」
と補正することを求めるものであるが、これは、訂正請求書の記載を以下イ〜チのように補正するものである。

イ.補正事項イ
訂正請求書の特許請求の範囲の記載について、訂正明細書では、
「自然循環式の風呂釜の運転を操作するための操作スイッチの入力を判定するスイッチ入力判定手段と、浴槽の沸き上げ温度を検出する温度センサと、沸き上げ温度の設定を行う沸き上げ温度設定手段と、前記温度センサと沸き上げ温度設定手段との温度を比較判定する設定温度比較手段と、前記スイッチ入力判定手段により前記温度センサの温度が設定温度以上であっても必ず風呂釜を強制的に一定時間燃焼させる強制燃焼手段と、前記強制燃焼手段により風呂釜の点火シーケンスの制御を行う燃焼制御手段と、前記一定時間燃焼後、燃焼制御手段による運転を停止させ、その後の一定時間、沸き上げた温度を設定温度以上か否かを判定し続け、沸き上げ温度が設定温度よりも低下した時点には、再度設定温度まで沸き上げ、また設定温度以上の状態が一定時間継続した場合には温度判定を終了する沸き上げ停止手段とを有する風呂釜の燃焼制御装置」とあるのを、
「 風呂釜の運転を操作するための操作スイッチの入力を判定するスイッチ入力判定手段と、浴槽の沸き上げ温度を検出する温度センサと、沸き上げ温度の設定を行う沸き上げ温度設定手段と、前記温度センサと沸き上げ温度設定手段との温度を比較判定する設定温度比較手段と、前記スイッチ入力判定手段により風呂釜を強制的に一定時間燃焼させる強制燃焼手段と、前記強制燃焼手段により風呂釜の点火シーケンスの制御を行う燃焼制御手段と、前記設定温度比較手段により設定温度以上を検出すると沸き上げ運転を停止させ、かつ一定時間経過後に沸き上げ出力を出す沸き上げ停止手段とを有し、温度センサの温度が設定温度以上であっても、必ず強制的に一定時間風呂釜を燃焼させることを特徴とする風呂釜の燃焼制御装置」と補正する。
なお、アンダーラインは、対比の便のため当審で付した。
ロ.補正事項ロ
訂正事項bの(1)の、特許明細書第2頁第6行と第7行の間に、「また、T0<TSの場合、強制燃焼手段28は燃焼状態となり、T0>TSになった時点で燃焼を停止させることで、設定温度まで沸き上げを行うことができる。」を追加する訂正を削除する。
ハ.補正事項ハ
訂正事項bの(2)の、特許明細書の第2頁第18行に記載された「強制燃焼手段を備えている。」を「強制燃焼手段と、一定時間沸き上げ温度の判定を行い、一定時間内に設定温度未満になった時点で、再度風呂釜を燃焼させ、設定温度以上の状態が一定時間継続した場合は、温度判定を停止する沸き上げ停止手段を備えるものである。」に訂正した訂正を「燃焼制御手段と、前記設定温度比較手段により設定温度以上を検出すると沸き上げ運転を停止させ、かつ、一定時間経過後に沸き上げ出力を出す沸き上げ停止手段を備えるものである。」と補正する。
ニ.補正事項ニ
訂正事項bの(3)の、特許明細書の第2頁第23行と第24行との間に、「また、強制燃焼後、一旦、沸き上げ燃焼を停止後も、一定時間の間は沸き上げた温度が設定温度以上か否かを判定し続け、設定温度未満を検出すれば、その時点で、再度設定温度まで沸き上げることができるし、設定温度以上の状態が一定時間継続すると温度判定を終了し、沸き上げ報知を行うことができる。」を追加する訂正を削除する。
ホ.補正事項ホ
訂正事項bの(4)の、特許明細書の第3頁第17行から第18行に記載された「前記設定温度比較手段15で設定温度以上を判定後風呂釜の燃焼を停止させ、かつ、待機させる沸き上げ停止手段である。」を、「前記設定温度比較手段15で沸き上げ温度と設定温度とを比較し、一定時間tAの間、設定温度以上継続するかどうかを判定する沸き上げ停止手段である。ここで沸き上げ停止手段20は、検出温度が設定温度以上を一定時間tA継続しない場合は、前記設定温度比較手段15を介して、前記強制燃焼手段17に燃焼指示を出し、燃焼制御手段19によって、再度風呂釜を燃焼させる。又、設定温度以上が一定時間以上継続した場合は温度判定を終了する。」とする訂正を削除する。
ヘ.補正事項ヘ
訂正事項bの(5)の、特許明細書の第3頁第28行と第4頁第1行目の間に、「次に、沸き上げ停止手段20のタイマカウント手段(A)21が一定時間tAのカウントを始め、その間設定温度TSに対して出湯温度T0が、T0≧TSであるかどうかを監視し続ける。ここで一定時間tAの間、T0≧TSであれば一定時間tA経過時点で、沸き上げ報知手段23により、沸き上がりを報知する。また、一定時間tAの間にT0<TSとなった場合、T0<TSとなった時点で、再度沸き上げ運転を行うため、強制燃焼手段17と燃焼制御手段19によって、風呂釜を燃焼させる。」を追加する訂正を削除する。
ト.補正事項ト
訂正事項bの(6)の、特許明細書の第4頁第22行と第23行との間に、「また、一定時間tBの強制燃焼後、風呂燃焼を停止しても、沸き上げ停止手段により更に一定時間tAだけ沸き上げ温度が設定温度以上であることを監視するので、自然循環によりしばらくして、設定温度を低下しても再度設定温度まで沸き上げることができるし、設定温度以上が一定時間継続した場合は、沸き上げ報知を行うので使用者は必ず設定温度以上の湯温で入浴することが可能となり、使い勝手を向上することができる。」を追加する訂正を削除する。
チ.補正事項チ
訂正事項bの(7)の、図面第4図及び第5図を補正し、第6図を削除する訂正を削除する。
(2)補正の内容についての検討
イ.補正事項イは、特許請求の範囲の記載の「自然循環式の風呂釜」を「風呂釜」、「前記スイッチ入力判定手段により前記温度センサの温度が設定温度以上であっても必ず風呂釜を強制的に一定時間燃焼させる強制燃焼手段」を「前記スイッチ入力判定手段により風呂釜を強制的に一定時間燃焼させる強制燃焼手段」、「前記一定時間燃焼後、燃焼制御手段による運転を停止させ、その後の一定時間、沸き上げた温度を設定温度以上か否かを判定し続け、沸き上げ温度が設定温度よりも低下した時点には、再度設定温度まで沸き上げ、また設定温度以上の状態が一定時間継続した場合には温度判定を終了する沸き上げ停止手段とを有する」を「前記設定温度比較手段により設定温度以上を検出すると沸き上げ運転を停止させ、かつ一定時間経過後に沸き上げ出力を出す沸き上げ停止手段とを有し、温度センサの温度が設定温度以上であっても、必ず強制的に一定時間風呂釜を燃焼させることを特徴とする」と補正するものであるが、これは、下記の訂正事項aの内容を他のものと交換的に変更するものであるから、訂正請求書の要旨を変更するものである。
ロ.補正事項ハは、「一定時間沸き上げ温度の判定を行い、一定時間内に設定温度未満になった時点で、再度風呂釜を燃焼させ、設定温度以上の状態が一定時間継続した場合は、温度判定を停止する沸き上げ停止手段」を「設定温度比較手段により設定温度以上を検出すると沸き上げ運転を停止させ、かつ、一定時間経過後に沸き上げ出力を出す沸き上げ停止手段」と補正するものであるが、これは、下記の訂正事項b(2)の内容を他のものと交換的に変更するものであるから、訂正請求書の要旨を変更するものである。
したがって、上記補正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第131条第2項の規定に違反するものであるから、認めることはできない。

2.訂正請求の適否について
(1)訂正の内容
平成13年7月16日の手続補正が認められないから、平成13年4月6日付けの訂正請求は、願書に添付した明細書(以下、特許明細書という)の特許請求の範囲の減縮を目的として、
訂正事項aにおいて、特許請求の範囲の請求項1に記載された
「風呂釜の運転を操作するための操作スイッチの入力を判定するスイッチ入力判定手段と、浴槽の沸き上げ温度を検出する温度センサと、沸き上げ温度の設定を行う沸き上げ温度設定手段と、前記温度センサと沸き上げ温度設定手段との温度を比較判定する設定温度比較手段と、前記スイッチ入力判定手段により風呂釜を強制的に一定時間燃焼させる強制燃焼手段と、前記強制燃焼手段により風呂釜の点火シーケンスの制御を行う燃焼制御手段と、前記設定温度比較手段により設定温度以上を検出すると沸き上げ運転を停止させる沸き上げ停止手段とを有し、温度センサの温度が設定温度以上であっても、必ず強制的に一定時間風呂釜を燃焼させることを特徴とする風呂釜の燃焼制御装置」を、
「自然循環式の風呂釜の運転を操作するための操作スイッチの入力を判定するスイッチ入力判定手段と、浴槽の沸き上げ温度を検出する温度センサと、沸き上げ温度の設定を行う沸き上げ温度設定手段と、前記温度センサと沸き上げ温度設定手段との温度を比較判定する設定温度比較手段と、前記スイッチ入力判定手段により前記温度センサの温度が設定温度以上であっても必ず風呂釜を強制的に一定時間燃焼させる強制燃焼手段と、前記強制燃焼手段により風呂釜の点火シーケンスの制御を行う燃焼制御手段と、前記一定時間燃焼後、燃焼制御手段による運転を停止させ、その後の一定時間、沸き上げた温度を設定温度以上か否かを判定し続け、沸き上げ温度が設定温度よりも低下した時点には、再度設定温度まで沸き上げ、また設定温度以上の状態が一定時間継続した場合には温度判定を終了する沸き上げ停止手段とを有する風呂釜の燃焼制御装置」に訂正し、
また、明瞭でない記載の釈明を目的として、
訂正事項bの(1)において、特許明細書第2頁第6行と第7行の間に、「また、T0<TSの場合、強制燃焼手段28は燃焼状態となり、T0>TSになった時点で燃焼を停止させることで、設定温度まで沸き上げを行うことができる。」を追加する訂正をし、
同じく訂正事項bの(2)において、特許明細書の第2頁第18行に記載された「強制燃焼手段を備えている。」を「強制燃焼手段と、一定時間沸き上げ温度の判定を行い、一定時間内に設定温度未満になった時点で、再度風呂釜を燃焼させ、設定温度以上の状態が一定時間継続した場合は、温度判定を停止する沸き上げ停止手段を備えるものである。」に訂正し、
同じく訂正事項bの(3)において、同特許明細書の第2頁第23行と第24行との間に、「また、強制燃焼後、一旦、沸き上げ燃焼を停止後も、一定時間の間は沸き上げた温度が設定温度以上か否かを判定し続け、設定温度未満を検出すれば、その時点で、再度設定温度まで沸き上げることができるし、設定温度以上の状態が一定時間継続すると温度判定を終了し、沸き上げ報知を行うことができる。」を追加する訂正をし、
同じく訂正事項bの(4)において、同第3頁第17行から第18行に記載された「前記設定温度比較手段15で設定温度以上を判定後風呂釜の燃焼を停止させ、かつ、待機させる沸き上げ停止手段である。」を、「前記設定温度比較手段15で沸き上げ温度と設定温度とを比較し、一定時間tAの間、設定温度以上継続するかどうかを判定する沸き上げ停止手段である。ここで沸き上げ停止手段20は、検出温度が設定温度以上を一定時間tA継続しない場合は、前記設定温度比較手段15を介して、前記強制燃焼手段17に燃焼指示を出し、燃焼制御手段19によって、再度風呂釜を燃焼させる。又、設定温度以上が一定時間以上継続した場合は温度判定を終了する。」と訂正し、
同じく訂正事項bの(5)において、同第3頁第28行と第4頁第1行目の間に、「次に、沸き上げ停止手段20のタイマカウント手段(A)21が一定時間tAのカウントを始め、その間設定温度TSに対して出湯温度T0が、T0≧TSであるかどうかを監視し続ける。ここで一定時間tAの間、T0≧TSであれば一定時間tA経過時点で、沸き上げ報知手段23により、沸き上がりを報知する。また、一定時間tAの間にT0<TSとなった場合、T0<TSとなった時点で、再度沸き上げ運転を行うため、強制燃焼手段17と燃焼制御手段19によって、風呂釜を燃焼させる。」を追加する訂正をし、
同じく訂正事項bの(6)において、同特許明細書の第4頁第22行と第23行との間に、「また、一定時間tBの強制燃焼後、風呂燃焼を停止しても、沸き上げ停止手段により更に一定時間tAだけ沸き上げ温度が設定温度以上であることを監視するので、自然循環によりしばらくして、設定温度を低下しても再度設定温度まで沸き上げることができるし、設定温度以上が一定時間継続した場合は、沸き上げ報知を行うので使用者は必ず設定温度以上の湯温で入浴することが可能となり、使い勝手を向上することができる。」を追加する訂正し、
同じく訂正事項bの(7)において、図面第4図及び第5図を補正し、第6図を削除する訂正をすることを求めるものである。
(2)訂正拒絶理由の概要
訂正拒絶理由の概要は次の『』内のとおりである。
『1)前記訂正事項a及び訂正事項bの(2),(3),(4),(5),(6)において訂正した特許請求の範囲および発明の詳細な説明の記載によると、温度センサの検出温度T0が設定温度TS以上であっても、風呂釜を強制的に一定時間tB燃焼させ、その一定時間tBの強制燃焼後に、一旦燃焼を停止し、その後の一定時間tA、沸き上げた温度を設定温度TS以上か否かを判定し続け、沸き上げ温度T0が設定温度TSよりも低下した時点には、再度設定温度TSまで沸き上げ、設定温度TS以上の状態が一定時間tA継続した場合には温度判定を停止あるいは終了するものである。
ところで、沸き上げた温度を設定温度以上か否かを判定し続け、沸き上げ温度が設定温度よりも低下した時点に再度設定温度まで沸き上げることを含めた燃焼制御に関する記載は、願書に添付した図面の第4図「本発明の燃焼制御装置の概略フローチャート」にのみ記載されている。
しかし、この第4図には、一定時間tAがいつカウントを開始されるのか記載されていないし、また、一定時間tAが「継続」したかどうかではなく、「経過」したかどうかを判断している点が記載されているのみであり、さらに一定時間tAにおいて比較する温度T1は「設定温度TS」ではなく、「設定温度-2deg」(以下、設定温度T1という)であり、設定温度T1まで沸き上げるものである。そして、この第4図のフローチャートによれば、例えば、沸き上げ温度が設定温度TSよりも低下した時点に再度燃焼した場合において、一定時間tA経過前に設定温度T1に達したとき燃焼停止(フロ消火)し一定時間tAが経過した時点で「沸上がりFLG」が立ち、温度判定を終了することになるが、この場合、設定温度T1以上の状態が継続する時間は、一定時間tAより再度燃焼して設定温度T1に達するまでの時間分短くなってしまう。
したがって、「再度設定温度まで沸き上げ」る点、及び「設定温度以上の状態が一定時間継続した場合には温度判定を終了する」点は、願書に添付した明細書または図面には何ら記載されておらず、また、該願書に添付した明細書または図面の記載から直接的かつ一義的にも導き出されるものとも言えないから、前記各訂正事項における訂正は、願書に添付した明細書または図面に記載した事項の範囲内においてなされたものとは認められない。
2)前記訂正事項a及び訂正事項bの(6)において訂正した特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載によると、「風呂釜」を「自然循環式の風呂釜」とするものであるが、この「自然循環式の風呂釜」の点は、願書に添付した明細書または図面には何ら記載されておらず、また、該願書に添付した明細書または図 面の記載から直接的かつ一義的にも導き出されるものとも言えないから、前記各訂正事項における訂正は、願書に添付した明細書または図面に記載した事項の範囲内においてなされたものとは認められない。
3)むすび
以上のとおりであるから、本件の訂正請求による訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号、以下「平成6年改正法」という)附則第6条第1項の規定により、なお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。』
(3)むすび
この訂正拒絶理由通知に対して、特許権者は平成13年7月16日付けで手続補正書(訂正請求書)を提出したが、その手続補正書(訂正請求書)は、前記「1.訂正請求に対する平成13年7月16日の手続補正の適否について」で述べたとおり認めることはできない。
そして、前記訂正拒絶理由は通知は妥当なものと認められるから、前記平成13年4月6日付け訂正請求による訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号、以下「平成6年改正法」という)附則第6条第1項の規定により、なお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

III.特許異議の申立について
1.本件発明
前述のとおり、平成13年4月6日付けの訂正は認められない。また、平成10年4月27日付けの訂正請求は取り下げられた。
そうすると、本件特許第2600848号の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、特許明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。
「風呂釜の運転を操作するための操作スイッチの入力を判定するスイッチ入力判定手段と、浴槽の沸き上げ温度を検出する温度センサと、沸き上げ温度の設定を行う沸き上げ温度設定手段と、前記温度センサと沸き上げ温度設定手段との温度を比較判定する設定温度比較手段と、前記スイッチ入力判定手段により風呂釜を強制的に一定時間燃焼させる強制燃焼手段と、前記強制燃焼手段により風呂釜の点火シーケンスの制御を行う燃焼制御手段と、前記設定温度比較手段により設定温度以上を検出すると沸き上げ運転を停止させる沸き上げ停止手段とを有し、温度センサの温度が設定温度以上であっても、必ず強制的に一定時間風呂釜を燃焼させることを特徴とする風呂釜の燃焼制御装置」

2.取消理由通知
当審では平成13年1月23日付けで刊行物として、
刊行物1:実願昭61―83592号(実開昭62―195038号)のマイクロフィルム(特許異議申立人 中沢 誠提出の甲第1号証)
刊行物2:特開昭62―172149号公報
を引用して、本件特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、上記刊行物1および2に記載のものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許請求の範囲の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである旨の取消理由を通知した。

3.刊行物に記載の発明
(1)上記刊行物1には、「追焚初期の一定時間タイマ回路により電磁弁及びポンプを強制駆動させ、浴槽内の湯を循環路を介して循環させつつバーナにより加熱することができるので、この間浴槽内の湯の温度が設定温度未満の場合は勿論のこと設定温度に達している場合にも追焚を行うことができ、」(第3頁20行〜第4頁5行)、「第2管路(7)には感温素子たるサーミスタ(17)が設けられ、」(第6頁2〜3行)、「追焚用ボタンを押すと閉成するスイッチ(28)と、バーナ(1c)のガス供給路(29)に介設した電磁弁たる電磁開閉弁(30)のコイル(30a)と、ポンプ(15)のモータ(15a)の駆動用リレー(31)と、フアン(1d)のモータ(1d-1)と、該ポンプ(15)の駆動により閉成される空焚き防止用の水流スイッチ(32)と、タイマ回路(33)と、該電磁開閉弁(30)、ポンプ(15)及びフアン(1d)を駆動させる温調回路(34)と、該温調回路(34)の出力端子にベースが接続され該コイル(30a)に直列のスイッチングトランジスタ(35)と、該温調回路(34)の出力端子及び該タイマ回路(33)の演算増幅器(36)の出力端子にベースが接続され該リレー(31)に直列のスイッチングトランジスタ(37)と、該温調回路(34)の出力端子にベースが接続され該モータ(1d-1)に直列のスイッチングトランジスタ(38)とから成る。該温調回路(34)は、ブリッジ回路の抵抗(39)とサーミスタ(17)との接続点イに現れる出湯温度に応じた電圧と、該ブリッジ回路の抵抗(40)と可変抵抗(41)との接続点ロに現れる設定温度に応じた電圧とを演算増幅器(42)のプラス入力端子とマイナス入力端子とに入力し、出湯温度が設定温度より低いときは該演算増幅器(42)からハイレベルの信号を出力し、これをさらに演算増幅器(43)で増幅して出力し、出湯温度が設定温度に達したとき該演算増幅器(42)(43)からローレベルの信号を出力するものである。該タイマ回路(33)はその入力端子が前記スイッチ(28)に接続され、その出力端子たる小抵抗値(44)とツエナーダイオード(45)との接続部が前記温調回路(34)の演算増幅器(42)のプラス入力端子に接続され、追焚初期の一定時間換言すれば電源電圧が印加されたときの一定時間、前記ブリッジ回路の接続点イに接続点ロの電圧以上の一定電圧が現れるようにしたものである。」(第7頁1行〜第8頁15行)、「追焚きをすべく追焚用ボタンを押してスイッチ(28)を閉じるときは、タイマ回路(33)の演算増幅器(36)から一定時間ハイレベルの信号が出力されリレー(31)が通電作動されてポンプ(15)が強制駆動されると共にトランジスタ(69)がオンし、接続点イに接続点ロの電圧以上の一定電圧例えば3Vが現われて演算増幅器(42)(43)から一定時間ハイレベルの信号が出力され、トランジスタ(35)がオンし且つ水流スイッチ(32)が閉じて、電磁開閉弁(30)が強制開弁されて、温調回路(34)が実質上停止されたまま換言すれば浴室内の湯の温度の如何にかかわらず第1燃焼器(1)は作動状態となり、第2管路(7)、第1管路(5)、第3管路(9)を介して浴槽(8)内の湯の追焚きが行われる。一定時間経過後は、タイマ回路(33)の演算増幅器(36)からローレベルの信号が出力され、トランジスタ(69)がオフするが、このときは温調回路(34)が駆動するので、浴槽(8)内の湯の温度が設定温度に達するまでは、該温調回路(34)の演算増幅器(42)(43)からハイレベルの信号が出力されてポンプ(15)及び電磁開閉弁(30)の駆動が継続され、追焚きが継続される。設定温度に達すると演算増幅器(42)(43)からローレベルの信号が出力され、温調回路(34)が停止されて、第1燃焼器(1)が不作動となり、追焚き作業が完了する。」(第11頁15行〜第12頁19行)の点がそれぞれ記載されている。そして、第1図には追焚付風呂釜の模式図が、第2図には燃焼制御回路図が示されている。
(2)上記刊行物2には、「11は風呂釜、12は風呂釜11を動作させるシーケンス制御部」(第2頁左上欄16〜17行)の点が記載されている。

4.対比・判断
そこで、本件特許請求の範囲の請求項1に係る発明(前者)と上記刊行物1に記載されたもの(後者)とを比較すると、前者の「スイッチ入力判定手段」と「燃焼制御手段」は、後者の「温調回路(34)の出力端子にベースが接続され該コイル(30a)に直列のスイッチングトランジスタ(35)と、該温調回路(34)の出力端子及び該タイマ回路(33)の演算増幅器(36)の出力端子にベースが接続され該リレー(31)に直列のスイッチングトランジスタ(37)と、該温調回路(34)の出力端子にベースが接続され該モータ(1d-1)に直列のスイッチングトランジスタ(38)」および「追焚きをすべく追焚用ボタンを押してスイッチ(28)を閉じるときは、タイマ回路(33)の演算増幅器(36)から一定時間ハイレベルの信号が出力されリレー(31)が通電作動されてポンプ(15)が強制駆動されると共にトランジスタ(69)がオンし、接続点イに接続点ロの電圧以上の一定電圧例えば3Vが現われて演算増幅器(42)(43)から一定時間ハイレベルの信号が出力され、トランジスタ(35)がオンし且つ水流スイッチ(32)が閉じて、電磁開閉弁(30)が強制開弁されて、温調回路(33)が実質上停止されたまま換言すれば浴室内の湯の温度の如何にかかわらず第1燃焼器(1)は作動状態となり、第2管路(7)、第1管路(5)、第3管路(9)を介して浴槽(8)内の湯の追焚きが行われる。」という電子回路の動作を、単に概略的に機能として表現したにすぎず、また前者の「温度センサ」は、後者の「感温素子たるサーミスタ」を、単に上位概念で表現したにすぎず、また前者の「沸き上げ温度設定手段」は、後者の「ブリッジ回路の抵抗(40)と可変抵抗(41)との接続点ロに現れる設定温度」を決めるための「可変抵抗」を機能的に表現したにすぎず、また、前者の「設定温度比較手段」は、後者の「ブリッジ回路の抵抗(39)とサーミスタ(17)との接続点イに現れる出湯温度に応じた電圧と、該ブリッジ回路の抵抗(40)と可変抵抗(41)との接続点ロに現れる設定温度に応じた電圧とを演算増幅器(42)のプラス入力端子とマイナス入力端子とに入力し、出湯温度が設定温度より低いときは該演算増幅器(42)からハイレベルの信号を出力し、これをさらに演算増幅器(43)で増幅して出力し、出湯温度が設定温度に達したとき該演算増幅器(42)(43)からローレベルの信号を出力する」という電子回路の動作を、単に概略的に機能として表現したにすぎない。更に、前者の「スイッチ入力判定手段により風呂釜を強制的に一定時間燃焼させる強制燃焼手段」は、その明細書の発明の詳細な説明中の「17は一定時間tBをカウントするタイマカウント手段(B)18を有し、風呂釜を強制的に燃焼させる強制燃焼手段である。」(特許明細書第3頁13〜16行)、「スイッチ入力判定手段16により入力がON状態であることを判定すると、強制燃焼手段17及び燃焼制御手段19により風呂釜の点火シーケンスが開始され燃焼が始まる。」(特許明細書第3頁22〜24行)の記載と図面第1図のブロック図に示されものからすると、スイッチ入力判定手段がスイッチがON状態であることを判定すると、タイマカウント手段(B)でカウントする一定時間tBだけ風呂釜を強制的に燃焼させるように、燃焼制御手段に信号を出す手段と解されることから、この点は後者の「タイマ回路(33)はその入力端子が前記スイッチ(28)に接続され、その出力端子たる小抵抗値(44)とツエナーダイオード(45)との接続部が前記温調回路(34)の演算増幅器(42)のプラス入力端子に接続され、追焚初期の一定時間換言すれば電源電圧が印加されたときの一定時間、前記ブリッジ回路の接続点イに接続点ロの電圧以上の一定電圧が現れるようにしたものである。」という電子回路の動作を、単に概略的に機能として表現したにすぎないと言えるし、また前者の「沸き上げ停止手段」も、後者の「設定温度に達すると演算増幅器(42)(43)からローレベルの信号が出力され、温調回路(33)が停止されて、第1燃焼器(1)が不作動となり、追焚き作業が完了する。」という電子回路の動作を、単に概略的に機能として表現したにすぎないと言えることから、つまるところ両者は風呂釜の燃焼制御装置であって、風呂釜の運転を操作するための操作スイッチの入力を判定するスイッチ入力判定手段と、浴槽の沸き上げ温度を検出する温度センサと、沸き上げ温度の設定を行う沸き上げ温度設定手段と、前記温度センサと沸き上げ温度設定手段との温度を比較判定する設定温度比較手段と、前記スイッチ入力判定手段により風呂釜を強制的に一定時間燃焼させる強制燃焼手段と、風呂釜の燃焼制御手段と、前記設定温度比較手段により設定温度以上を検出すると沸き上げ運転を停止させる沸き上げ停止手段とを有し、温度センサの温度が設定温度以上であっても、必ず強制的に一定時間風呂釜を燃焼させるようにした点で構成は一致するが、次の点即ち前者の燃焼制御手段が、スイッチ入力判定手段により一定時間だけ風呂釜を強制的に燃焼させるように信号を出す手段によって風呂釜の点火シーケンス制御を行うのに対して、後者の燃焼制御手段は、追焚きをすべく追焚用ボタンを押してスイッチ(28)を閉じるときは、タイマ回路(33)の演算増幅器(36)から一定時間ハイレベルの信号が出力されリレー(31)が通電作動されてポンプ(15)が強制駆動されると共にトランジスタ(69)がオンし、接続点イに接続点ロの電圧以上の一定電圧例えば3Vが現われて演算増幅器(42)(43)から一定時間ハイレベルの信号が出力され、トランジスタ(35)がオンし且つ水流スイッチ(32)が閉じて、電磁開閉弁(30)が強制開弁されて、温調回路(33)が実質上停止されたまま換言すれば浴室内の湯の温度の如何にかかわらず第1燃焼器(1)は作動状態となり、第2管路(7)、第1管路(5)、第3管路(9)を介して浴槽(8)内の湯の追焚きが行われ、一定時間経過後は、タイマ回路(33)の演算増幅器(36)からローレベルの信号が出力され、トランジスタ(69)がオフするが、このときは温調回路(34)が駆動するので、浴槽(8)内の湯の温度が設定温度に達するまでは、該温調回路(34)の演算増幅器(42)(43)からハイレベルの信号が出力されて、ポンプ(15)及び電磁開閉弁(30)の駆動が継続されて追焚きが継続され、設定温度に達すると演算増幅器(42)(43)からローレベルの信号が出力され、温調回路(34)が停止されて、第1燃焼器(1)が不作動となり、追焚き作業が完了するように電子制御を行う点で構成が相違するものと認められる。
次に、前記相違点について検討すると、上記刊行物2には、風呂釜を動作させるシーケンス制御部の点即ち点火シーケンス制御の点が記載されているから、上記刊行物1に記載の風呂釜の燃焼制御を電子制御により行うのに代え、点火シーケンス制御により行うようにして、本件特許請求の範囲の請求項1に係る発明のような構成にすることは、当業者が必要に応じてなし得る程度のことにすぎず、そのことによる効果も当業者によって予測できる範囲内のものである。

5.むすび
したがって、本件特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、上記刊行物1および2に記載のものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許請求の範囲の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-02-08 
出願番号 特願昭63-241335
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (F24H)
最終処分 取消  
前審関与審査官 田澤 英昭  
特許庁審判長 大槻 清寿
特許庁審判官 長浜 義憲
櫻井 康平
登録日 1997-01-29 
登録番号 特許第2600848号(P2600848)
権利者 松下電器産業株式会社
発明の名称 風呂釜の燃焼制御装置  
代理人 坂口 智康  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 岩橋 文雄  

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