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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) G03F
管理番号 1070244
審判番号 審判1999-35415  
総通号数 38 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1988-07-12 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-08-10 
確定日 2003-01-30 
事件の表示 上記当事者間の特許第2613766号発明「版下デザイン装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2613766号発明の特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
出願日 昭和61年12月30日
補正審判審決 平成 8年 6月10日
設定登録 平成 9年 2月27日
異議決定 平成10年 3月24日
無効審判請求 平成11年 8月10日
答弁書 平成11年11月29日
弁駁書 平成12年 4月21日
口頭審理陳述要領書 平成12年 5月16日
(請求人)
口頭審理 平成12年 5月16日
上申書 平成12年 6月13日
II.本件特許発明
本件特許に係る発明の要旨は、明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲第1項に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】描画すべきキヤラクタ列の各キヤラクタデータを入力する手段と、
上記キヤラクタ列を弓型に配列すべきことが指定されているとき、上記キヤラクタ列のうち最初のキヤラクタの描画始点を表す第1点の位置と、上記キヤラクタ列のうち最後のキヤラクタの描画終点を表す第2点の位置と、描画すべき弓型配列の高さを表す第3点の位置とを指定するデータを入力する手段と、
上記第1点から上記第3点を通って上記第2点に至るまでの円形又は楕円形の一部を表すキヤラクタ配列軌跡を演算する手段と、
上記キヤラクタ配列軌跡上に上記キヤラクタ列の各キヤラクタを割り付けると共に、当該割り付けられた各キヤラクタの大きさ及び回転角を決定する手段と、
上記キヤラクタ列の上記割り付けられた1つのキヤラクタと、次のキヤラクタとの関係で、間隔を変更するか否かを判断する手段と、
間隔の変更が必要であるとの判断結果が得られたとき、上記次のキヤラクタを所定量だけ移動させる手段とを具えることを特徴とする版下デザイン装置。」
III.審判請求人の無効理由の概要
i)本件特許の請求項1に係る発明の特許は、甲第1号証乃至甲第4号証の記載事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
ii)本件特許の請求項1に係る発明の特許は、記載不備があるから特許法第36条第3、4項の規定により特許を受けることができないものである。
iii)それゆえ、本件特許の請求項1に係る発明の特許は、特許法第123条第1項第1号又は第3号に該当し、無効とされるべきである。
IV.被請求人の答弁の理由の概要
一方、被請求人は、「本件特許発明は甲第1号証ないし甲第4号証に対して進歩性があるものであり、また本件特許明細書について記載不備はないものであるから、特許法第123条第1項第1号及び同条第1項第3号により無効とすべき理由はない。」と主張している。
V.甲号証に記載された事実
成立に争いのない甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
甲第1号証(特開昭61-95952号公報)
a、コンピュータ及び関連のメモリーデバイスの使用によってキヤラクタのテキストラインを発生する装置における円弧に沿ってキヤラクタを位置決めする装置において、所与のサイズのキヤラクタの字体を記述しかつそのキヤラクタの各々についてキヤラクタの形状を決定する第1のデータセットとキヤラクタの幅を決定する第2のデータセットとを含んでいるデータを記憶するメモリー手段(46、50、52)、前記円弧に沿ってテキストラインとして発生されるべき選択したキヤラクタのシーケンスについてのデータを前記メモリ手段(46、50、52)から読み取る手段(38、74、76)、前記テキストラインの長さを決定するために所与のプログラムに基づいて前記シーケンスにおいて前記キヤラクタの各々を決定する前記データを前記コンピュータ中で処理する手段(40、44、60、66)、及び前記テキストラインの長さに等しい前記円弧の長さを設定する手段(44、60、66)、前記円弧に沿って発生されるべき前記キヤラクタの各々について前記円弧の長さを割り当てるために、前記シーケンスにおける前記キヤラクタの各々を決定する前記データと所与のプログラムに基づいて前記円弧を決定する前記データとを前記コンピュータ中で処理する手段(44、66)、及び円弧の長さに割り当てられた前記キヤラクタの各々の中心を決定する手段(44、60)、前記円弧に沿って各キヤラクタについての中心点において前記キヤラクタの各々に関連した接線方向の回転角を決定する手段(40、64、84、86)、接線方向の回転角において前記キヤラクタの各々を決定する回転データを発生するために、所与のプログラムに基づいて、前記シーケンスにおけるキヤラクタの各々を決定する前記データとキヤラクタに関連した前記接線方向の回転角データとを前記コンピュータ中で処理する手段(40、44、60、66、86)、及び各キヤラクタの発生の際に、前記各キヤラクタを決定する前記データと前記円弧を決定する前記データとの前記処理から得られた前記キヤラクタの各々についての前記接線方向の回転データを用いて円弧に沿ってキヤラクタを発生する手段(44、82、86)、から成ることを特徴とする円弧に沿ってキヤラクタを位置決めする装置。(特許請求の範囲第2項)
b、特許請求の範囲第2項において、前記円弧に関して張る角度の値を決定する手段(82、84、86)及び前記張る角度を半分に分割する手段(86)、前記円弧の始めを決定する第1のベクトルに関する角度に前記張る角度の前記半分の値を90度まで加算する手段(86)、前記円弧に沿って発生されるべき前記キヤラクタの各々についてキヤラクタの絶対角度を決定するために、前記割り当て手段(40、60、66)を用いて前記張る角度を分割する手段(86)、前記第1のキヤラクタの中心点を決定する第2のベクトルの絶対角度の値を決定するために、前記第1のベクトルの前記角度の値から前記シーケンスにおける第1のキヤラクタに関連した絶対角度の値の1/2を減算する手段(60、86)、前記第2のベクトルの前記絶対値の補角の角度値を決定する手段(60、66、86)、及び前記第1の文字に対する接線方向の回転角度を発生するために90度から前記補角の角度値を減算する手段(60、66、86)、から成ることを特徴とする円弧に沿ってキヤラクタを位置決めする装置。(特許請求の範囲第3項)
c、テキストラインに含まれるべきキヤラクタはキーによって選択されまた他の情報がキーによって制御装置に入力される。機能キーとして参照される別の列のキー24がキーボード22の後ろにあり、データの入力及び装置の動作を制御する。本発明にあっては、キーの列24が「回転(rotate)」キー26、「円弧(arc)」キー28及び「半分字体(half-font)」キー30を有していることがわかれば十分である。データキーボード22は、標準のタイプライタのキーボードと同じであり、装置のオペレータが符号テキストキヤラクタを特定しかつキヤラクタの選択した字体からテキストの符号を構成することを可能にする。キヤラクタの字体は、マイクロプロセツサに接続されたランダムアクセスメモリ(RAM)にドライブユニツトによつて読み出されるメモリデイスクあるいは他のデバイス中の各種のストロークによつて記憶される。あるいは複数の字体は発生器の一連のリードオンリーメモリ(ROM)中に組み込まれる。テキスト入力モード中には、入力されたキヤラクタはキーが押されると可視デイスプレイ32中に現われる。テキストの長さがデイスプレイの容量を超えるとスクロール処理によつて最も新しく入力されたキヤラクタが表示されて残される。テキストが入力されている間は、ツールヘツド16及びキヤリア14を送るスプロケツトは非動作にある。(第4頁右下欄第11行〜第5頁左上欄第17行)
d、円弧キー28はオペレータにより入力されたテキストキヤラクタを円弧に沿って配置させる。オペレータは所望の円弧の曲率に関する半径の位を入力することにより所望の円弧の曲率を選択できる。円弧の曲率は円弧に沿って印刷されるべきテキストキヤラクタの上側及び下側縁に関して設定される。上向き円弧は、キヤラクタの下側縁がその円弧に沿って配置され、キヤラクタがこの円弧から半径方向に外向きに広がる円弧として定義される。下向き円弧は、キヤラクタの上側縁がその円弧に沿って配置され、キヤラクタがこの円弧から半径方向に外向きに広がる円弧として定義される。オペレータは、正の符号を有する半径を入力することにより上向き円弧を、そして負の符号を有する半径を入力することにより下向き円弧を選択できる。(第5頁右上欄第4〜19行)
e、インデツクス部50がヘツダ部48に続く。インデツクス部50は字体データ中に備えられている標準スペーシングを調整するためにケルン(Kern)を含んでいる。ケルンはテキストラインを形成するデータにおいて別個のキヤラクタを構成し、そして機能的には増分バツクスペースと同じである。異なった長さの幾つかのケルンが各字体中に含まれている。インデツクス部50の主要部は、文字に関する幾何学情報と共に字体の各キヤラクタのリステイングと、文字のプロフィールを完全に定義するストロークあるいはベクトルが配置されている記憶装置のバルクデータファイル52のアドレスを特定するポインタとから成つている。各文字は、一体に接続された時に文字のアウトラインを示すカツテイングあるいはプロツテイングラインを示す増分ベクトルによりバルクデータファイル内で定義される。インデツクス部50では、各文字あるいは他のキヤラクタがASCII数字コードにより識別され、キーボード22からオペレータインタフェース36を介してアクセスを可能にする。ヘツダ部48の高さ標準と同じスケールでの文字の寸法幅がコードに含まれており、文字のほとんどの組合せ間で適当なスペースを与えるために各文字の前及び後に付加されるスペース寸法も含まれている。(第6頁右上欄第20行〜右下欄第5行)
f、円弧サブルーチン60内で処理される円弧コマンドは、符号プロツテイングあるいはカツテイング動作の実行の前に、字体インデツクスから取られたスペース及び幅データと、パラメータデータ記憶メモリ40内に記憶されている字体データから取られたストロークデータとを必要とする。円弧コマンドはテキストラインが上向きあるいは下向き円弧に沿ってレタリングされることを可能にする。円弧サブルーチン60内で実行される円弧関数アルゴリズムは、所望の円弧に適合されるべきテキスト長さを決定するために第11図に図示されたアルゴリズムを使用する。第11図に示されたテキスト長さアルゴリズムは簡単な加算計算であり、指定されたキヤラクタの幅(W)と、各中間にあるキヤラクタの前及び後に位置するスペース(2S)と、最初のキヤラクタの後のスペース(Sa)と、最後のキヤラクタの前のスペース(Sk)との全体の和により決定される。この和は、ラインが特定のライン長さに強制されていないものと仮定して印刷されたラインテキストの全体の長さ(L)を表わしている。後者の場合に、圧縮されたあるいは拡張された長さが標準の長さよりも使用される。円弧の所望の曲率はデータ入力中にオペレータによりセツトされ、円弧が適合する円を表わす半径の大きさによつて定義される。円弧のセグメントSの長さは第11図に図示されたテキスト長さアルゴリズムにより決定されるテキスト長さ(L)に等しくセツトされる。円弧の張る角度シータ(θ)は円弧長Sを半径Rにより割算することにより決定される。(第7頁左下欄第20行〜第8頁左上欄第9行)
g、円弧に沿って配置されたテキストキヤラクタについての接線方向の回転角度はサブルーチン60内の円弧関数アルゴリズムにより決定される。円弧Sの長さはキヤラクタの幅及びスペースデータを用いて、テキストキヤラクタの各々に要求されるスペースにより割り算される。サブルーチン60内の割り当てアルゴリズムはキヤラクタの各々に対して円弧に沿ってスペースを割り当てるために使用され、またキヤラクタの各々の始めと終りを定義する。各キヤラクタについての回転の接線方向の角度はキヤラクタの始端よりもむしろキヤラクタの中心点で決定され、その結果キヤラクタが回転された時にキヤラクタのベースが歪なしに円弧上にある。この回転アルゴリズムは円弧機能アルゴリズムにより計算された接線方向の回転角度にキヤラクタを回転するようにX及びY座標を決定すべく使用される。下向き円弧に沿ってレタリングされたテキストキヤラクタに対する接線方向の回転角度は、キヤラクタの底部よりもキヤラクタの頂部がテキストキヤラクタのクラミング(cramming)を防止するために円弧に沿って接線方向に配置されるように一定のオフセットがキヤラクタストロークデータに加算されることを除いて、上向き円弧に使用されたものと同じアルゴリズムによつて決定される。下向き円弧に沿ってのレタリングの場合には、サブルーチン60は字体インデツクスからの高さデータをオフセツトデータによつて修正する。このオフセツトデータは円弧機能アルゴリズムにより計算され、高さデータと結合され、計算されたオフセツトでキヤラクタを決定する新しいベクトル情報を発生し、その結果キヤラクタ及びオフセツトが等しく回転される。(第8頁左上欄第10行〜左下欄第2行)
h、円弧コマンドがオペレータにより指図された時に、このコマンドは円弧テキスト発生器86により順次に処理される。円弧テキスト発生器86は所望の円弧に沿って各テキストキヤラクタを配置するための接線方向の回転角度を決定する情報を発生するために多数のアルゴリズムを実行する。円弧テキスト発生器は円弧に沿ってレタリングされるべきテキストラインの各キヤラクタに対する接線方向回転角度を自動的に決定し、かつ回転アルゴリズム82により使用されるサインα及びコサインα情報の計算のためにセツト回転情報セツト84にそのキヤラクタについての角度αを与える。各テキストキヤラクタは円弧に沿ってその割当てられたスペースの中心において接線方向に配置される。回転アルゴリズム82は、それぞれ上向きあるいは下向き円弧に対して前述されたように、そのベースラインの上及び下で反時計方向あるいは時計方向のどちらかでキヤラクタを回転する。円弧テキスト発生器86は例えば第7図に図示されたようなテキストキヤラクタラインを受信する。適当なアルゴリズムは、第8図に図示されたような上向き円弧に沿って、あるいは第9図に図示されたような下向き円弧に沿ってキヤラクタを配置するために、テキストキヤラクタラインの上に実行される。接線方向の回転角度の発生のためのアルゴリズムに含まれているのは、円弧に沿って配置されるべき各テキストキヤラクタについて張る角の割り当て部分を決定するアルゴリズムである。このアルゴリズムは第7図のテキストキヤラクタに対して第12図に示されたものと同様である。第10図は第8図のテキストキヤラクタの幾つかに対して円弧テキスト発生器86内に含まれているアルゴリズムにより決定されるような接線方向の回転角度を示している。テキストキヤラクタが回転、円弧あるいは半分字体コマンドに基づいて修正された場合には、絶対データはスケーリングアルゴリズム88によって処理される。ここで、コマンドされた高さパラメータ(標準あるいは修正された)及びデータ記憶メモリ40からの他のコマンドされたパラメータは、コマンドに基づいてキヤラクタのサイズを決定(scale)するために位置データを修正する。(第9頁右下欄第11行〜第10頁右上欄第13行)
甲第2号証(実願昭46-101253号<実開昭48-57033号>のマイクロフイルム)
a、次に第2字目の文字“て”(50)を印字するための採字を行ない文字枠を固定すると、パターン検出(21)は文字“て”(50)のコードを検出してパターン記憶(26a)に記憶する。“て”(50)の形状は第6図の(51)欄に示した通りであり、コードは第10図で決められて(53)のようになる。パターン記憶(26a)に記憶された内容のうち上側用のものは制御部(27)に向い、その内容が解読されてUIVが判別される。このUIV信号と先のパターン記憶(26b)からのDIII信号が比較されて、その結果第7図によりDIIIとUIVは一致するから、張出し処理必要として送り装置(29b)に信号を送り、感光物(39)などを所定量だけ逆送りする。次いでシヤツター(40)を動作させ送り装置(29a)を動かせ感光物(39)などを順方向へ移動させる。(第10頁第10行〜第11頁第4行)
甲第3号証(特開昭59-54560号公報)
a、そのため、本発明のツメツメ組版処理装置は、文字の組版処理装置において、文字をその文字の形によって文字パターンに分類し、文字の内部コードに対応して、分類した文字パターンの情報を設定したパターン・テーブルと、該パターン・テーブルから読み出された先行文字の文字パターンと後続文字の文字パターンとに対応して、先行文字と後続文字との字詰めの間隔の情報が設定された字詰めテーブルとをそなえるとともに、文字の内部コードをもとに上記パターン・テーブルから上記文字パターン情報を抽出する文字パターン抽出部と、先行文字および後続文字についての上記文字パターン抽出部による抽出結果にもとづいて、上記字詰めテーブルから字詰め間隔を読み出す字詰め間隔決定部とをそなえ、ツメツメ組みの編集処理を行うようにしたことを特徴としている。(第2頁右上欄第8行〜左下欄第4行)
甲第4号証(日本印刷学会機関誌『印刷雑誌JAPAN PRINTER』昭和59年12月号)
a、当社が線画原稿作成機マイクセンサーの実用化開発に着手した際の目標は、熟練した技術を必要とする版下台紙作成の問題の解決であった。一部の熟練した技術者たちの腕に頼っていた版下作成を、それらの人達を含め誰でも容易に行えるシステムを開発することであった。(第19頁左欄第1〜6行)
b、版下作図機(第19頁左欄第20行)
c、フリ-カーソルと異なり入力点の正確な座標値が常時グラフィックディスプレーに表示されることである。(第20頁左欄第17〜19行)
d、英文字などを円弧に沿って配置する作図例(第20頁図4)
e、座標値の入力は専用のキーボードで行う。(第20頁右欄第15〜16行)
f、文字を円弧に沿って配置する文字作成例(第21頁図5)
g、これらの文字を使って、横組み、縦組みなどの納め組みや、ツメ打ちができるとともに、同時にそれらの文字を変形させて描画させることができる。変形方法は、長体、平体、斜体に限定されず、自由な形状にすることができ、さらにミラー、横転などの組合わせも可能である。(第21頁右欄第4〜10行)
h、ADOS-LETTERINGシステムでの文字の変形は、ディジタルで制御されている。したがってオペレータの指示どおりの正確な変形ができ、また文字のサイズを1000分の1にして描画するといったことが可能となっている。さらに、文字を自由に変形させ、その状態をグラフィックディスプレーで表示、確認することで、デザインシミュレーションといったことも可能となる。(第22頁左欄第1〜8行)
VI.当審の判断
<1>明細書の記載不備について
ア、本件特許の特許掲載公報の第6頁第11欄第25行乃至第28行には、「CPU2は、これらのデータを用いて第1点P1から第3点P3を通り第2点P2に至る円形又は楕円形の一部の軌跡を演算し、かくして弓形文字列を描画すべき文字配列軌跡SCR1を求める。」なる記載があるが、かかる「演算」手段の具体的構成は何ら記載されておらず、かかる手段は周知のものでもなく、楕円形を一意的に定めることができない、との主張に対して
演算手段の具体的構成は何ら記載されていないとの主張は、コンピュータプログラム程度まで開示せよと言うに等しく、権利者にとってあまりにも酷というべきものである。
楕円の方程式、すなわち、楕円の長軸及び短軸を座標軸とし、その半分をそれぞれa、bとすれば
x2/a2+y2/b2=1 (a>b) ---イ
楕円の弦の方程式、すなわち、楕円上の二点(x1、y1)、(x2、y2)を通る弦の方程式は
(x1+x2)x/a2+(y1+y2)y/b2=x1x2/a2+y1y2/b2+1 ---ロ
等は、当業者にとって技術常識(泉 信一外3名編『共立 数学公式』昭和53年9月25日 改増20刷、共立出版 株式会社発行、第121〜122頁参照。)というべきものであり、楕円上の二点(x1、y1)、(x2、y2)の場合、二点(x1、y1)、(x3、y3)の場合、二点(x2、y2)、(x3、y3)の場合をロ式に適用した場合を考えると、変数a、b、x、yからなる3つの式が得られ、これらとイ式とから、解が得られる。
また、楕円の中心が、x方向にc、y方向にdずれている場合でも、この種のコンピュ-タを用いた制御技術において、変数c、dの設定を変えながら適切な解を順次得ていくことは、技術常識であるから、当業者が、これらの技術常識を用いれば、仮に、解が無限に有ったとしても、解を順に得ることができ、従って、楕円の軌跡を順に演算できるものであり、これを不明瞭であるということはできない。
さらに、楕円形を一意的に定めることができることは、以下のように証明できる。
先ず、xy座標上に、描画始点となる第1点P1,描画終点となる第2点P2及び高さを表す第3点P3を指定すれば、1つの楕円を特定することができることについて、楕円の標準式及びその変換式を用いて証明する。y軸上に第3点P3(x3、y3)を設定すると共に、第1点P1(x1、y1)及び第2点P2(x2、y2)を、楕円の長軸半径a及び短軸半径bの端点以外の位置に指定した場合を示している。楕円上の各点(x、y)は、楕円の標準式からの変換式に基づいて、回転角tを用いて
x=acost ---(1)
y=bsint ---(2)
のように、表すことができるから、第1点(x1、y1)、第2点(x2、y2)及び第3点(x3、y3)についてそれぞれ次式が成り立つ。
x1=acost1 ---(3)
y1=bsint1 ---(4)
x2=acost2 ---(5)
y2=bsint2 ---(6)
x3=acost3 ---(7)
y3=bsint3 ---(8)
ここで、第3点P3(x3、y3)は、楕円の高さを表す点として、y軸上に設定するから、
t3=π/2(=90°) ---(9)
であり、従って(7)式及び(8)式は、
x3 =acost3 =acosπ/2
=0 ---(10)
y3 =bsint3 =bsinπ/2
=b ---(11)
になる。
また、(4)式から回転角t1を求めると、
t1=sin-1y1/b ---(12)
になり、(12)式に(11)式を代入すると
t1=sin-1y1/y3 ---(13)
になる。
次に、(3)式から長軸半径aを求めると、
a=x1/cost1 ---(14)
になり、(14)式に(13)式を代入すると、
a=x1/cos〔sin-1y1/y3〕--(15)
になる。このように、指定した点P1、P2及びP3の位置のデータ(x1、y1)、(x2、y2)及び(x3、y3)を用いて、楕円の長軸半径a((15)式)、短軸半径b((11)式)を求めることができる。そこで、(15)式及び(11)式を、楕円の標準式
x2/a2+y2/b2 =1 ---(17)
に代入すれば、
x2/{x1/cos(sin-1y1/y3)}2+y2/y32=1 ---(18)
になる。この(18)式の楕円は、指定された第1点P1の位置データx1及びy1と、第3点P3の位置データy3とによって表されており、しかも楕円のすべての点(x、y)について、xの値に対応するyの値を演算できることを意味する。
(12)式〜(18)式は、第1点P1(x1、y1)及び第3点P3(x3、y3)から描画すべき楕円を表す(18)式を求めたが、同じようにして、第2点P2(x2、y2)及び第3点P3(x3、y3)から描画すべき楕円を表す次式、
x2/{x2/cos(sin-1y2/y3)}2+y2/y32=1 ---(19)
によって求めるようにしても、楕円のすべての点(x、y)を演算することができる。ここで、xy座標の原点を、例えば、第1点P1(x1、y1)及び第2点P2(x2、y2)の中点に決めれば、原点から見た第1点P1(x1、y1)及び第2点P2(x2、y2)の位置は互いに対称になるので、(18)式及び(19)式は同じ式になり、結局1つの楕円が演算できることになる。
このように、1つの座標軸(x軸、y軸)によって定義される座標系において、3つの点P1(x1,y1)、P2(x2,y2)及びP3(x3、y3)を指定すれば、(18)式又は(19)式によって表される所定の楕円を求めることができ、これに反して、無限に、楕円が発生するというべき条件は、(18)式及び(19)式にはない。
また、(18)式及び(19)式は、点(x1,y1)、(x2,y2)及び(x3,y3)について、楕円上の位置に関する制限をもたない式であるから、第1点P1(x1,y1)及び第2点P2(x2、y2)を、長軸(又は短軸)の両端の位置に設定した場合にも成り立つし、それ以外の位置に設定した場合にも成り立つものである。
イ、本件特許発明中の記載「上記第1点から第3点を通って上記第2点に至るまでの円形又は楕円形の一部を表すキヤラクタ配列軌跡を演算する手段」について、かかる「演算」手段の具体的構成は何ら記載されておらず、かかる手段は周知のものでもない。従って、「演算」手段が不明確であり、この記載は単なる願望的な記載にすぎず、発明に欠くことのできない事項のみを記載しているとは言えない、との主張に対して
上記ア、で述べたように「演算」手段が不明確であるということはできず、したがって、発明に欠くことのできない事項のみを記載していると言える。
ウ、本件特許の明細書第6頁第11欄第29行乃至第32行には、「続いてCPU2は、文字配列軌跡SCR1上に、上述のステップSP24において入力された文字列の各文字を割り付けると共に、割り付けられた各文字の大きさ及び回転角を演算により決定する。」なる記載があるが、かかる「演算」手段については何ら具体的に記載されておらず、かかる手段は周知のものでもないとの主張に対して
演算手段の具体的構成は何ら記載されていないとの主張は、コンピュータプログラム程度まで開示せよと言うに等しく、権利者にとってあまりにも酷というべきものである。
この種のコンピュ-タを用いた制御技術において、割り付け、文字の大きさ及び回転角を順次得ていくことは、技術常識であるから、当業者が、これらの技術常識を用いれば、解を順に得ることができ、従って、各文字の大きさ及び回転角を順に演算できるものであり、これを不明瞭であるということはできない。
エ、本件特許発明中の記載「当該割り付けられた各キヤラクタの大きさ及び回転角を決定する手段」について、かかる「決定」手段については何ら具体的に記載されておらず、「決定」手段が不明確であり、この記載は単なる願望的な記載にすぎず、発明に欠くことのできない事項のみを記載しているとは言えないとの主張に対して
上記ウ、で述べたように「演算」手段が不明確であるということはできず、さらに、「決定」手段が不明確であるということはできず、したがって、発明に欠くことのできない事項のみを記載していると言える。
オ、本件特許明細書に記載の実施例では弓型に文字列を割り付けた後に、文字間隔補正を行つていることは明確である。しかし、第4図およびそれに対応する明細書第3頁第6欄第22行乃至第29行の記載では、直線的に配列された文字列の文字間隔補正手段についてのみ開示しているが、各文字に回転角が付いた状態である弓形の文字配列軌跡SCR1上に曲線的に割り付けられた文字列についての文字間隔の補正手段については何ら具体的に記載されておらず、かかる手段は周知のものでもないとの主張に対して
本願特許明細書第7頁第13欄第12行〜第14欄第10行に、(d)文字間隔の補正動作として記載されている。
カ、本願特許明細書第7頁第13欄第12行乃至第14欄第10行には、「(d)文字間隔の補正動作・・・にデザインし直されることになる。」と記載されているが、これも同様に、直線上に配列された文字列の文字間隔補正手段についてのみ開示してあり、弓型の文字配列軌跡SCR1上に曲線的に割り付けられた文字列についての文字間隔の補正手段については何ら具体的に記載されておらず、かかる手段は周知のものでもない。よって、上記の本件特許明細書の記載は単なる願望的記載にすぎず、発明の詳細な説明の欄が、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成および効果を記載していないとの主張に対して
第7図は、弓文字列で(SP33)、次の文字が間隔補正必要なとき(SP47)に、次の文字の原点を移動する(SP48)フローチャートであり、第4図を例として文字間隔の補正について述べているものである。してみれば、単に、第4図記載のものを弓文字列に適用しても、文字間隔の補正はできるものであるから、請求人の主張は失当である。
キ、本件特許発明中の記載「上記キヤラクタ列の上記割り付けられた一つのキヤラクタと、次のキヤラクタとの関係で、間隔を変更するか否かを判断する手段と、間隔の変更が必要であるとの判断結果が得られたときに、上記次のキヤラクタを所定量だけ移動させる手段と」について、弓型に配列された文字列についての間隔補正手段については何ら具体的に記載されておらず、かかる手段が不明確であり、この記載は単なる願望的な記載にすぎず、発明に欠くことのできない事項のみを記載しているとは言えないとの主張に対して
上記カ、で述べたように弓型に配列された文字列についての間隔補正手段が不明確であるということはできず、したがって、発明に欠くことのできない事項のみを記載していると言える。
<2>特許法第29条第2項の規定により無効であるとの理由について
(甲第1号証に記載された発明との対比・判断)
本件発明と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、
d、の「テキストラインに含まれるべきキヤラクタはキーによつて選択されまた他の情報がキーによつて制御装置に入力される。」との記載からみて、本件発明の「描画すべきキヤラクタ列の各キヤラクタデータを入力する手段」が開示され、
g、の「円弧の所望の曲率はデータ入力中にオペレータによりセツトされ、円弧が適合する円を表わす半径の大きさによつて定義される。円弧のセグメントSの長さは第11図に図示されたテキスト長さアルゴリズムにより決定されるテキスト長さ(L)に等しくセツトされる。円弧の張る角度シータ(θ)は円弧長Sを半径Rにより割算することにより決定される。」との記載からみて、本件発明の「上記キヤラクタ列を弓型に配列すべきことが指定されているとき、何らかのデータを入力する手段」が開示され、
e、の「円弧キー28はオペレータにより入力されたテキストキヤラクタを円弧に沿って配置させる。オペレータは所望の円弧の曲率に関する半径の位を入力することにより所望の円弧の曲率を選択できる。」との記載、j、の「テキストキヤラクタが回転、円弧あるいは半分字体コマンドに基づいて修正された場合には、絶対データはスケーリングアルゴリズム88によって処理される。ここで、コマンドされた高さパラメータ(標準あるいは修正された)及びデータ記憶メモリ40からの他のコマンドされたパラメータは、コマンドに基づいてキヤラクタのサイズを決定(scale)するために位置データを修正する。」との記載、h、の「各キヤラクタについての回転の接線方向の角度はキヤラクタの始端よりもむしろキヤラクタの中心点で決定され、その結果キヤラクタが回転された時にキヤラクタのベースが歪なしに円弧上にある。この回転アルゴリズムは円弧機能アルゴリズムにより計算された接線方向の回転角度にキヤラクタを回転するようにX及びY座標を決定すべく使用される。」との記載、及びj、の「円弧テキスト発生器86は所望の円弧に沿って各テキストキヤラクタを配置するための接線方向の回転角度を決定する情報を発生するために多数のアルゴリズムを実行する。円弧テキスト発生器は円弧に沿ってレタリングされるべきテキストラインの各キヤラクタに対する接線方向回転角度を自動的に決定し、かつ回転アルゴリズム82により使用されるサインα及びコサインα情報の計算のためにセツト回転情報セツト84にそのキヤラクタについての角度αを与える。各テキストキヤラクタは円弧に沿ってその割当てられたスペースの中心において接線方向に配置される。」との記載からみて、本件発明の「上記キヤラクタ配列軌跡上に上記キヤラクタ列の各キヤラクタを割り付けると共に、当該割り付けられた各キヤラクタの大きさ及び回転角を決定する手段」が開示され、f、の記載からみて、本件発明の「上記キヤラクタ列の上記割り付けられた1つのキヤラクタと、次のキヤラクタとの関係で、間隔を変更するか否かを判断する手段と、間隔の変更が必要であるとの判断結果が得られたとき、上記次のキヤラクタを所定量だけ移動させる手段」が開示され、c、の記載からみて、本件発明の「版下デザイン装置」が開示されているから、
両者は、描画すべきキヤラクタ列の各キヤラクタデータを入力する手段と、
上記キヤラクタ列を弓型に配列すべきことが指定されているとき、データを入力する手段と、
上記キヤラクタ配列軌跡上に上記キヤラクタ列の各キヤラクタを割り付けると共に、当該割り付けられた各キヤラクタの大きさ及び回転角を決定する手段と、
上記キヤラクタ列の上記割り付けられた1つのキヤラクタと、次のキヤラクタとの関係で、間隔を変更するか否かを判断する手段と、間隔の変更が必要であるとの判断結果が得られたとき、次のキヤラクタを所定量だけ移動させる手段とを具えることを特徴とする版下デザイン装置、で一致し、
A本件発明では、上記キヤラクタ列のうち最初のキヤラクタの描画始点を表す第1点の位置と、上記キヤラクタ列のうち最後のキヤラクタの描画終点を表す第2点の位置と、描画すべき弓型配列の高さを表す第3点の位置とを指定するデータを入力するのに対して、甲第1号証記載の発明では、円弧の半径とセグメントSの長さとを入力する点、
B本件発明は、上記第1点から上記第3点を通って上記第2点に至るまでの円形又は楕円形の一部を表すキヤラクタ配列軌跡を演算する手段であるのに対して、甲第1号証記載の発明では、そのような記載が無い点で相違する。
そこで、相違点Aについて検討すると、本件発明は、クレーム上「上記キヤラクタ列のうち最初のキヤラクタの描画始点を表す第1点の位置と、上記キヤラクタ列のうち最後のキヤラクタの描画終点を表す第2点の位置と、描画すべき弓型配列の高さを表す第3点の位置とを指定するデータを入力する」と記載されているが、平成8年6月10日付け補正審判審決から、明らかなように、当該部分は、平成7年7月17日付け手続補正書によって、図面第8図の実施例がクレームされたものであるから、この実施例のものが発明に包含されるものである。
甲第1号証記載の発明では、円弧の半径とセグメントSの長さとを入力するから、円弧は特定できる。当該円弧をディスプレイ32上に表示しようとすると、例えば、FIG.10のように、ディスプレイ32の中央に、当該円弧の中心が左右の中心となるように配置されるように表示する。
このとき、円弧の左端が、本件発明の「第1点の位置」に相当し、円弧の右端が、本件発明の「第2点の位置」に相当し、円弧の中心が、本件発明の「第3点の位置」に相当するものである。
これに対して、本件発明の円形の場合についてみると、第8図の実施例のP1、P3、P2を通る円弧は、唯一つ特定でき、当該円弧は、当然円弧の半径とセグメントの長さとを有する。
それゆえ、甲第1号証記載の発明と、本件発明の円形の場合とでは、数学的な手法に差異はあるものの、いずれの手法を選択するかは、当業者が適宜決定できる設計的な事項にすぎないから、実質的な差異は認められず、甲第1号証には、相違点Aが開示されていると言える。
次に、相違点Bについて検討すると、甲第1号証記載の発明では、既に、円弧が定まっているから、あらためて、軌跡を演算する必要が無いに過ぎず、格別の技術的意義があるわけではない。
したがって、甲第1号証記載の事項に基づいて本件発明を推考することは、当業者が容易に為しえたものと認められる。
(甲第2、3号証に記載された発明との対比・判断)
本件発明と甲第2、3号証に記載された発明とを対比すると、後者は、被請求人も認めているように、前者の構成の一部である、「上記キヤラクタ列の上記割り付けられた1つのキヤラクタと、次のキヤラクタとの関係で、間隔を変更するか否かを判断する手段と、
間隔の変更が必要であるとの判断結果が得られたとき、上記次のキヤラクタを所定量だけ移動させる手段とを具える」点を有し、その余の構成は有さない。
そして、甲第1〜3号証に記載された発明は、いずれも印刷の分野における文字列を扱う技術に関する点で共通するから、これらに基づいて本件発明を推考することは、当業者が容易に為しえたものと認められる。
(甲第4号証に記載された発明との対比・判断)
本件発明と甲第4号証に記載された発明とを対比すると、後者は、版下作図機、キーボードによる座標入力、ツメ打ち、文字の円弧配置などが部分的に開示されているだけで、前者の大部分の構成を有さない。
それゆえ、甲第4号証に記載された発明と甲第2、3号証に記載された発明とを、どのように組み合わせてみても、本件発明を推考することはできない。
VII.むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明は、甲第1号証または甲第1〜3号証に記載の事項から当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2000-07-28 
結審通知日 2000-08-11 
審決日 2000-08-24 
出願番号 特願昭61-311332
審決分類 P 1 112・ 121- Z (G03F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 青木 俊明伊藤 昌哉  
特許庁審判長 高橋 美実
特許庁審判官 高橋 三成
綿貫 章
登録日 1997-02-27 
登録番号 特許第2613766号(P2613766)
発明の名称 版下デザイン装置  
代理人 池原 毅和  
代理人 阿部 和夫  
代理人 田辺 恵基  
代理人 谷 義一  
代理人 橋本 傳一  

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