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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A45B
管理番号 1073114
異議申立番号 異議2000-70167  
総通号数 40 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-04-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-01-12 
確定日 2002-04-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2996953号「傘」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2996953号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2996953号に係る出願は、平成6年5月10日に出願された特願平6-96189号の一部を平成10年7月30日に特許法第44条第1項の規定により新たな特許出願としたものであって、平成11年10月29日に設定登録され、その後、細田益稔、シーシーピー・株式会社外2名、株式会社宮嶋、株式会社星野商店、ベルトロン株式会社外2名、株式会社オカモト、杉本光史、株式会社エムディーエム外2名、日プラ株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由が通知された後、平成13年7月6日に意見書及び訂正請求書が提出され、再度取消理由が通知された後、平成13年10月19日に意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正事項
特許請求の範囲の請求項1の
「EVAフィルムからなるシートを備えた傘。」を
「中棒1の外周に下ろくろ2が上下方向にスライド可能に取付けられ、中棒1の上部に樹脂によって形成された上ろくろ3が固定的に取付けられ、受骨4の一方端は下ろくろ2に回動可能に取付けられており、受骨4の他方端は親骨5の所定部分と係合するように取付けられ、親骨5の一方端は上ろくろ3に回動可能に取付けられており、親骨5の他方端にはEVAフィルムからなるシート6の露先部6aが嵌込まれており、上ろくろ3の上部には上ろくろ3との間でシート6を挟むように取外し可能な樹脂によって形成されたキャップ10が取付けられている傘。」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項は、請求項1の「傘」について、「EVAフィルムからなるシートを備えた」から、「中棒1の外周に下ろくろ2が上下方向にスライド可能に取付けられ、中棒1の上部に樹脂によって形成された上ろくろ3が固定的に取付けられ、受骨4の一方端は下ろくろ2に回動可能に取付けられており、受骨4の他方端は親骨5の所定部分と係合するように取付けられ、親骨5の一方端は上ろくろ3に回動可能に取付けられており、親骨5の他方端にはEVAフィルムからなるシート6の露先部6aが嵌込まれており、上ろくろ3の上部には上ろくろ3との間でシート6を挟むように取外し可能な樹脂によって形成されたキャップ10が取付けられている」旨限定するもので、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断
(1)本件発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「中棒1の外周に下ろくろ2が上下方向にスライド可能に取付けられ、中棒1の上部に樹脂によって形成された上ろくろ3が固定的に取付けられ、受骨4の一方端は下ろくろ2に回動可能に取付けられており、受骨4の他方端は親骨5の所定部分と係合するように取付けられ、親骨5の一方端は上ろくろ3に回動可能に取付けられており、親骨5の他方端にはEVAフィルムからなるシート6の露先部6aが嵌込まれており、上ろくろ3の上部には上ろくろ3との間でシート6を挟むように取外し可能な樹脂によって形成されたキャップ10が取付けられている傘。」

(2)刊行物
ア.平成13年8月9日付けで当審が通知した取消しの理由に引用した実公平5-4735号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに下記の記載がある。
「傘地2は従来より用いられている生地が全て有効であり、例えば、綿布、麻布、絹布等、アセテート、ナイロン、ポリエステル、ポリ塩化ビニール、各種混紡布等、各種合成樹脂シート、紙質等が有効である。」(第1頁第2欄第23行目〜第2頁第3欄第2行目)
また、第1図及び第2図には、傘の柄と親骨に取り付けられた傘地について窺える。

イ.同じく平成13年8月9日付けで当審が通知した取消しの理由に引用した特公昭59-1418号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の記載がある。
「最近、EVAを主原料としたシートは可塑剤、安定剤等の公害問題を生ずる心配のあるものを含まないという特徴をはじめ、耐候性、耐衝撃性、耐寒性や夏冬で柔軟性が変わらない性質などの特性を生かし、車輌関係部材すなわち泥よけ、床マット、サドル、ハンドルグリップなどの用途をはじめ、防水シート、パッキング、テーブルクロスなどの従来、軟質ポリ塩化ビニルや低密度ポリエチレンなどが使われていた分野に使用されている。」(第1頁右欄第3〜11行)

ウ.同じく平成13年8月9日付けで当審が通知した取消しの理由に引用した実願昭58-143681号(実開昭60-50811号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物3」という。)には、図面とともに下記の記載がある。
「図面において、1はかさ軸で、このかさ軸1の下端には柄部2を、上部には、円板3を固着し、この円板3には数本のかさ骨4の端部を放射状態にそれぞれ枢着自在に設ける。
12は、かさ骨4と同数の支持骨で、この支持骨12は一端をかさ骨4に、他端をスライダ13に、それぞれ枢着自在に設ける。
14はかさ軸1の途中に出入自在に設けた係止片で、かさを開げた際に、スライダ13がこの係止片14に係止されてかさの開いた状態を係持する。5はかさのかさ軸1の上部に設けた螺子部、6はかさ布7の略中央部にあけた取付孔、8はかさ布7と同じ素材か、或はその他の材質で形成した雨漏れ防止用の介在布、9は螺子部5に螺着してかさ布7の中央部を固着するための螺合キャップである。
10は、かさ布7の外周縁に糸、或いは接着剤等で固着した合成樹脂製等の係合キャップで、この係合キャップ10は、かさ骨4と同数設け、かさ骨4の夫々の露先部4´に着脱自在に係着するように設ける。」(第3頁第11行目〜第4頁第11行目)
「かさ布7をかさ自体に枢着した状態において、かさ布7をかさ自体から離脱させるには、先ず各止着部11を各かさ骨4からはずし、続いて各係合キャップ10を各かさ骨4の露先部4´から夫々引き抜いてはずす。最後に螺合キャップ9を螺子部5から取り外してかさ布7をかさ骨4から離脱させる。第1図は上記の様にしてかさ布7を離脱させた状態を示している。
次にかさ布7をかさ自体に装着するには、先ずかさ布7の取付孔6に螺子部5を通し、介在布8を螺子部5に嵌合し、次いで螺合キャップ9を螺子部5に螺着する。続いて第2図の様に各係合キャップ10を夫々のかさ骨4の露先部4´に係合すると共に、止着部11でかさ布7をかさ骨4に止着すると、簡単に完了する。
以上の様に本考案によれば、かさ自体よりかさ布のみを何人も簡単に着脱することができ、かさ布のみの洗濯や、かさ布の損傷による交換等を容易に行うことができる。」(第5頁第1〜19行目)

エ.同じく平成13年8月9日付けで当審が通知した取消しの理由に引用した特開昭50-44061号公報(以下、「刊行物4」という。)には、図面とともに以下の記載がある。
「この発明は一般的に云えば傘構造、更に具体的に云えば、射出成型されたプラスチック材料で作られた部材を持ち、何ら工具又は何ら接続金具或いは留め金具を必要とせずに、容易に組立てることが出来るスナップ式継手を持つ傘構造に関する。」(第1頁左下欄第15〜19行目)
「全ての部材が、必要な部品を形成するように射出成型することが出来るプラスチック材料で作られ、製造工程が一体化していて、この為、簡単になる。関連した全ての継手を玉と凹みの設計にすることにより、スナップ式の特徴が得られる。プラスチック材料の固有の弾力性により、スナップ作用が容易に達成される。組立では、何ら工具の助けをかりずに、手で行なうことが出来る。さびを心配する必要もない。射出成型の際、材料の損失が一層少なくなり、製品の品質が一層均一になる。製造費も著しく低減する。」(第2頁左上欄第5〜16行目)
「第1図について説明すると、この発明のスナップ式傘構造は、固定の頂部ソケット1と、摺動し得るソケット2と、単一又は二重部分形の何れであってもよい複数個のリブ3と、リブの数に対応する数のブレース部材4と、柱5を有し、更に、この発明にそれ程関係ないが、傘の布張り6と柱のキャップ7とを有する。」(第2頁右上欄第11〜17行目)
「単一部分形又は二重部分形の何れであっても、リブ3の両端の間の適当な点に、別の突起状締め具38が一体に形成され、その中に孔37,37が設けられる。締め具38はブレース部材4の上端の玉を保持する作用をする。スナップ動作は前に述べた所と全く同じである。リブ3に組付けた後、ブレース4は矢印Bの向きに旋回することが出来る。ブレース4の下端の玉41が、前述の如く、摺動し得るソケット2にスナップ式にはめられる。」(第3頁右上欄第1〜10行目)

オ.同じく平成13年8月9日付けで当審が通知した取消しの理由に引用した実公昭40-25563号公報(以下、「刊行物5」という。)には、図面とともに以下の記載がある。
「ろくろ1全体を合成樹脂から成型すると共に、これに形成される骨端環部2差入用切溝3・・・の中程に該端環部2を掛止する掛止片4を1体に形成して成るろくろに係り、本考案で使用される骨の端環部2は第3図に例示するように側辺1部に切溝5を持つものが必要である。
本考案は上述のような構成であるから、骨端環部2差入用の切溝3・・・の中程に於てろくろ1にこれと1体に形成した掛止片4に骨端環部2をその側辺切溝5から掛嵌めることにより骨の取付けを極めて容易迅速に行えると共に、ほのようにろくろ1自体の一部を以ってなる掛止片4を骨の結合部材として利用できる構成は従来の金属線による結合方式と異なって組立てコストが低下し、材料費が少なくなる利点がある。」(第1頁左欄第22行目〜同右欄第10行目)

(3)対比・判断
上記3.(2)ア.に示した記載及び図面からみて、刊行物1には、下記の発明が記載されている。
「傘地をポリ塩化ビニールで構成した傘。」

本件発明と、刊行物1に記載された発明を対比すると、刊行物1の「傘地」は、本件発明の「シート」に相当するから、両者は、
「特定物質フィルムからなるシートを備えた傘。」で一致し、下記の点で相違する。

相違点1
本件発明は、特定物質として、「EVA」を用いるのに対し、刊行物1のものにおいては、ポリ塩化ビニールを用いる点。

相違点2
本件発明は、傘の具体的な構成として、「中棒1の外周に下ろくろ2が上下方向にスライド可能に取付けられ、中棒1の上部に形成された上ろくろ3が固定的に取付けられ、受骨4の一方端は下ろくろ2に回動可能に取付けられており、受骨4の他方端は親骨5の所定部分に取付けられ、親骨5の一方端は上ろくろ3に回動可能に取付けられており、親骨5の他方端にはシート6の露先部6aが嵌込まれており、上ろくろ3の上部には上ろくろ3との間でシート6を挟むように取外し可能に形成されたキャップ10が取付けられている」のに対し、刊行物1には図面で柄や親骨が示されているのみで、刊行物1のものは、そうであるか明確でない点。

相違点3
本件発明は、上ろくろとキャップを樹脂により構成したのに対し、刊行物1のものは、そうであるか明確でない点。

相違点4
本件発明は、受骨と親骨を「係合」するように取り付けているのに対し、刊行物1のものは、そうであるか明確でない点。

そこで、上記相違点1乃至4について検討する。
・相違点1について
前記3.(2)イ.に示した刊行物2の記載は、EVAが「従来、軟質ポリ塩化ビニルや低密度ポリエチレンなどが使われていた分野に使用されてきている」こと、すなわち、ポリ塩化ビニルに対するEVAの置換可能性を示唆していると認められる。また、本件の特許明細書には、「従来のビニール地をシートとして用いたビニール傘」(段落【0012】)のシートのかわりに、EVAフィルムからなるシートを採用するに際して生じ得る具体的な問題点や課題、並びにそれらを解決するための手段について記載されていない。
よって、刊行物1の傘地の「ポリ塩化ビニル」に換えて、「EVA」を用いることは、当業者が容易に想到することができたものと認められる。

・相違点2について
前記3.(2)ウ.の記載及び図面からみて、刊行物3には、「かさ自体よりかさ布のみを何人も簡単に着脱することができ、かさ布のみの洗濯や、かさ布の損傷による交換等を容易に行う」ようにするために、下記の構成を採用したかさが記載されている。
「かさ軸1の外周にスライダ13が上下方向にスライド可能に取付けられ、かさ軸1の上部に形成された円板3が固定的に取付けられ、支持骨12の一方端はスライダ13に枢着自在に取付けられており、支持骨12の他方端はかさ骨4の所定部分に枢着自在に取付けられ、かさ骨4の一方端は円板3に枢着自在に取付けられており、かさ骨5の他方端にはかさ布7の係合キャップ10が嵌込まれており、円板3の上部には円板3との間でかさ布7を挟むように取外し可能に形成されたキャップ10が取付けられているかさ。」

刊行物3の「かさ軸1」、「スライダ13」、「円板3」、「支持骨12」、「枢着」、「かさ骨5」、「かさ布7」、「係合キャップ10」、「かさ」は、それぞれ、本件発明の「中棒1」、「下ろくろ2」、「上ろくろ3」、「受骨4」、「回動」、「親骨5」、「シート6」、「露先部6a」、「傘」に相当するから、刊行物3には、「中棒1の外周に下ろくろ2が上下方向にスライド可能に取付けられ、中棒1の上部に形成された上ろくろ3が固定的に取付けられ、受骨4の一方端は下ろくろ2に回動可能に取付けられており、受骨4の他方端は親骨5の所定部分に回動可能に取付けられ、親骨5の一方端は上ろくろ3に回動可能に取付けられており、親骨5の他方端にはシート6の露先部6aが嵌込まれており、上ろくろ3の上部には上ろくろ3との間でシート6を挟むように取外し可能に形成されたキャップ10が取付けられている傘。」が記載されている。
刊行物1及び3はともに傘に関する技術に係るものであるから、刊行物1の傘において、刊行物3の上記構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たものである。

・相違点3について
上記3.(2)エ.に示すように、刊行物4には、傘の組立容易化、さびの回避のために、傘の全ての部品をプラスチック材料で形成する旨記載されており、刊行物1の傘の各部品を、組立容易化、さびの回避のために、樹脂材料で構成することは、当業者が容易に想到し得たものである。

・相違点4について
上記3.(2)オ.に示すように、刊行物5には、ろくろと骨の取付部を、骨の端の端環部とろくろの掛止片により構成することにより、取付に金属線を使わなくて良いようにすることにより組立コストを低下させることができる旨記載されている。
刊行物1において、傘を構成する部材と部材の取付部に、刊行物5のような端環部と掛止片の係合構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たものである。

さらに、本件発明が奏する作用、効果は、刊行物1乃至5の記載から容易に予測できたものである。
したがって、本件発明は、刊行物1乃至5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、特許法第29条第2項に規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】

(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 中棒1の外周に下ろくろ2が上下方向にスライド可能に取付けられ、中棒1の上部に樹脂によって形成された上ろくろ3が固定的に取付けられ、受骨4の一方端は下ろくろ2に回動可能に取付けられており、受骨4の他方端は親骨5の所定部分と係合するように取付けられ、親骨5の一方端は上ろくろ3に回動可能に取付けられており、親骨5の他方端にはEVAフィルムからなるシート6の露先部6aが嵌込まれており、上ろくろ3の上部には上ろくろ3との間でシート6を挟むように取外し可能な樹脂によって形成されたキャップ10が取付けられている傘。
【発明の詳細な説明】
【産業上の利用分野】
この発明は、傘に関し、より特定的には、組立が容易な傘に関する。
【従来の技術】
図14は、従来のビニール傘の構成を示した概略図である。図13を参照して、従来のビニール傘では、樹脂からなる下ろくろ102が金属からなる中棒101の外周にスライド可能に取付けられている。また、中棒101の上部には樹脂からなる上ろくろ103が固定的に取付けられている。下ろくろ102には、金属からなる受骨104の一方端が針金109によって回動可能に取付けられている。受骨104の他方端は、金属からなる親骨105の受骨係合部105bとピン110によって係合されている。
上ろくろ103には親骨105の一方端が針金111によって回動可能に取付けられている。全体を覆うようにビニール地からなるシート106が取付けられており、シート106の露先部106aが親骨105の先端に嵌込まれている。さらに、シート106には開き防止部材112が取付けられている。また、中棒101の下端部には樹脂からなるハンドル108が取付けられている。図14は、傘を開いた状態であり、下ろくろ102は金属からなる下ストッパ107aと樹脂からなる上ストッパ107bとによってその上下方向のスライドが規制されている。
図15は、図14に示したA部分の拡大斜視図であり、図16はA部分の平面図であり、図17は図16のX-X線に沿った断面図である。図15〜図17を参照して、従来の傘では、各々の受骨104の先端に設けられた穴に針金109が通された後、その針金109を下ろくろ102の溝102bに巻付けることによって、受骨104を下ろくろ102に対して回動可能に取付けていた。受骨104は下ろくろ102の溝102aに挿入され、上下方向に回動可能である。このように、下ろくろ102は縦方向の溝102aと横方向の溝102bとを有している。
図18は、図14に示したB部分の拡大斜視図であり、図19はB部分の断面図であり、図20は図19の底面図である。図18〜図20を参照して、従来では、各々の親骨105の先端に設けられた穴に針金111を通した後その針金を上ろくろ103の溝103bに巻付けることによって、親骨105を上ろくろ103に対して回動可能に取付けていた。親骨105の先端部分は上ろくろ103の溝103aに挿入されており、その溝103aに沿って親骨105は上下方向に回動可能である。このように、上ろくろ103は、針金111が巻付けられる横方向の溝103bと親骨105の先端部分が挿入される縦方向の溝103aとを有している。
図21は、受骨104を示した斜視図である。図21を参照して、従来の傘では、受骨104の下ろくろ102(図14参照)に挿入される側の端部はその厚みが薄くなるように形成されているとともにその端部には貫通穴104aが形成されている。また、受骨104の親骨105(図14参照)と係合する側の端部はコの字形状に形成されているとともに穴104bが形成されている。
図22は、親骨105を示した斜視図である。図22を参照して、親骨105の受骨104(図14参照)と係合する部分には、穴105bが形成されている。また、親骨105の上ろくろ103(図14参照)と係合する部分は、その厚みが薄くなるように形成されているとともに、穴105aが形成されている。親骨105の露先部106aが嵌込まれる部分105cは他の部分に比べて細くなるように形成されている。
【発明が解決しようとする課題】
上述した従来の傘では、下ろくろ102に対して受骨104を回動可能に取付けるために、針金109を各々の受骨104の穴104aに通した後その針金109を下ろくろ102の溝102bに巻付けていた。しかしながら、このような作業は非常に煩雑であり、このため従来では製造工程を簡略化するのは困難であった。その結果、製造コストが上昇してしまうという問題点があった。
また、上ろくろ103に対して親骨105を回動可能に取付ける際にも下ろくろ102に対して受骨104を回動可能に取付ける際と同様の作業が必要であり、組立作業に長時間を要していた。
さらに、従来の構造では、受骨104と親骨105との係合部分は、図23に示すように、ピン110を104bおよび105bに通した後両端でかしめるという方法を用いていた。このため、かしめ作業が必要となり、これによっても傘の組立工程が複雑になっていた。
さらに、従来の傘の構造では、傘の先端部分から浸入した雨水が針金111にまで到達しやすく、その場合針金111が腐食してしまうという不都合が生じていた。その結果、針金111部分が強度的に弱くなり、破損しやすいという問題点があった。
また、図14に示した従来のビニール地をシート106として用いたビニール傘では、たとえば強い風を受けた場合に露先部106aが親骨105から外れると、シート106が中棒101の先端部分から剥れてしまうという問題点があった。このため、従来の構造では強い風に対して対処するのが困難であるという問題点もあった。また、シート106に別に開き防止部材112を取付ける必要があり、これによっても組立作業が複雑になっていた。
上記のように、従来では、組立が容易で、かつ構造的に安定した傘を提供するのは困難であった。
本願発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、組立が容易でかつ構造的に安定した傘を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
本願発明にとって不可欠なことは、傘のシートがEVAフィルムからなることである。本願発明に従った傘は、好ましくは、中棒と、下ろくろと、上ろくろと、受骨と、親骨と、シートとを備えている。下ろくろは、中棒の外周にスライド可能に設けられており、その所定部分に複数の受骨係合部を有している。上ろくろは、中棒の先端部分に固定的に設けられており、その所定部分に複数の親骨係合部を有している。受骨は、下ろくろの受骨係合部にその一方端が係合されている。親骨は、受骨の他方端にその所定部分が係合されており、その一方端が上ろくろの親骨係合部に係合されている。シートは、親骨を覆うように取付けられている。
また、好ましくは、受骨係合部に係合する受骨の一方端と、親骨係合部に係合する親骨の一方端とを、ともにフック形状を有するように構成してもよい。この場合、さらに、親骨と係合する受骨の他方端をフック形状を有するように構成してもよい。また、好ましくは、上ろくろとの間でシートを挟むように着脱可能に設けられたキャップをさらに備えるように構成してもよい。また、開いた状態で下ろくろを固定するための下ストッパおよび上ストッパをさらに備えるように構成し、その下ストッパおよび上ストッパを一体的に形成するようにしてもよい。また、閉じた状態で親骨が開かないように固定するための固定部と所定の場所からつり下げるためのつり下げ部とを有するつり下げ兼用開き防止部材をさらに備えるように構成してもよい。
【作用】
下ろくろの所定部分に複数の受骨係合部が設けられ、その受骨係合部に受骨の一方端が係合され、また、上ろくろに複数の親骨係合部が設けられ、その親骨係合部に親骨の一方端が係合されるので、従来のように下ろくろおよび上ろくろに受骨および親骨をそれぞれ回動可能に取付けるための針金が不要となる。それにより、従来のように受骨および親骨の穴に針金を通した後その針金を下ろくろおよび上ろくろの溝に巻付ける作業が不要となり、組立作業が著しく簡略化される。
また、受骨係合部に係合する受骨の一方端と親骨係合部に係合する親骨の一方端とをともにフック形状を有するように構成すれば、受骨と下ろくろとの結合作業と、親骨と上ろくろとの結合作業が単純な作業で行なわれる。さらに、親骨と係合する受骨の他方端をフック形状を有するよう構成すれば、従来のように親骨と受骨とを係合する際にかしめ作業が不要となり、これにより組立作業がより簡略化される。
また、上ろくろとの間でシートを挟むために着脱可能なキャップを設けるように構成すれば、強い風が吹いた場合にシートの露先部が親骨の先端から外れたとしても、シートが剥れるのがそのキャップによって防止される。これにより、安定した構造の傘が得られる。
また、傘を開いた状態で下ろくろを固定するための下ストッパおよび上ストッパを一体的に構成すれば、組立作業がより容易になる。また、閉じた状態で親骨が開かないように固定するための固定部と所定の場所からつり下げるためのつり下げ部とを有するつり下げ兼用開き防止部材をさらに設けるように構成すれば、従来のようにシートに開き防止部材を取付ける必要がなく、これによっても組立作業は簡略化される。
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施例による傘の構成を示した概略図である。図1を参照して、本実施例の傘では、シート6を除くすべての部材が樹脂によって形成されている。用いる樹脂としては、ABS樹脂,PS(ポリスチレン)樹脂,PP(ポリプロピレン)樹脂,PE(ポリエチレン)樹脂,PVC(塩化ビニール),アクリル樹脂,PC(ポリカーボネート)樹脂,POM(ポリアセタール)樹脂,ナイロン(6,66,12)樹脂などがある。また、シート6の材料としては、EVAフィルムを用いる。
本実施例の傘では、従来と同様に、中棒1の外周に下ろくろ2が上下方向にスライド可能に取付けられている。また、中棒1の上部に上ろくろ3が固定的に取付けられている。受骨4の一方端は下ろくろ2に回動可能に取付けられており、受骨4の他方端は親骨5の所定部分と係合するように取付けられている。親骨5の一方端は上ろくろ3に回動可能に取付けられている。親骨5の他方端にはシート6の露先部6aが嵌込まれている。上ろくろ3の上部には上ろくろ3との間でシート6を挟むように取外し可能なキャップ10が取付けられている。中棒1の下端には把持部8が取付けられている。把持部8の上部外周部分には開き防止兼用つり下げ部9が嵌込まれている。また、傘を開いた状態で下ろくろ2の上下方向の移動を規制するための下ストッパ7aおよび上ストッパ7bが設けられている。
図2は、図1に示した下ろくろ2近傍の詳細を説明するための拡大斜視図である。図3は、下ろくろ2の平面図であり、図4は図3に示したX-X線に沿った断面図である。図5は、受骨4を示した斜視図である。図2〜図5を参照して、本実施例では、下ろくろ2と受骨4とは下ろくろ2に設けられた受骨係合部2aと受骨4のフック形状を有する下ろくろ係合部4aとを係合させることによって下ろくろ2に受骨4が回動可能に取付けられている。
このように構成することによって、図14に示した従来の傘のように下ろくろ2と受骨4とを係合させるために針金を用いる必要がなく、その結果、従来行なわれていた針金を各々の受骨に設けられた穴に通した後その針金を下ろくろに設けられた溝に巻付けるという作業が不要となる。その結果、組立作業を著しく簡略化することができるという効果がある。
つまり、本実施例では、受骨4の下ろくろ係合部4aを下ろくろ2の受骨係合部2aに単純に係合させるだけで、下ろくろ2に対して受骨4を回動可能に容易に取付けることができる。これにより、組立時間を短縮することができ、その結果製造コストを低減することができる。また、針金を必要としないため部品点数を削減することができるという効果もある。
図6は、図1に示した上ろくろ3近傍の斜視図である。図7は図1に示した親骨5の斜視図である。図6および図7を参照して、本実施例では上ろくろ3の構造は基本的には下ろくろ2の構造と同じである。上ろくろ3は下ろくろ2と上下を逆にした状態で用いる。
具体的には、上ろくろ3の親骨係合部3aに親骨5の上ろくろ係合部5aを係合せさるだけで、上ろくろ3に対して親骨5を容易に回動可能に取付けることができる。この上ろくろ3と親骨5との関係においても、上記した下ろくろ2と受骨4との関係と同様、従来必要であった針金が不要となり、その結果組立作業を著しく簡略化することができる。また、針金を用いていないので、従来のように上ろくろ部分に用いている針金に雨水が付着しその結果針金が腐食して破損が生じやすいという問題点も解消することができる。
また、受骨4と親骨5との係合においても、受骨4の親骨係合部4bを親骨5の受骨係合部5bに係合させるだけで、容易に受骨4と親骨5との係合を行なうことができる。これにより、従来のように受骨4と親骨5との係合の際にかしめ作業を行なう必要がなく、その結果、組立作業を単純化することができる。さらに、図6および図7に示すように、親骨5の上ろくろ係合部5aを親骨5の他の部分から取りはずし可能に設けることによって、親骨5の上ろくろ係合部5aを上ろくろ3の親骨係合部3aに係合する際に、上ろくろ係合部5a単体を親骨係合部3aに係合するだけで係合作業が完了する。これにより、組立作業をより容易にすることができる。
図8は、図1に示したキャップ10の断面構造図であり、図9はキャップ10の斜視図である。図8および図9を参照して、本実施例では、キャップ10の穴10aを上ろくろ3(図1参照)の突出部3bに嵌込むことによって、上ろくろ3とキャップ10の下部との間でシート6を挟み込んでいる。これにより、たとえば強風が吹いた場合に、シート6の露先部6aが親骨5から外れたとしても、シート6が完全に傘から剥れてしまうという不都合を有効に防止することができる。これにより、安定した構造の傘を得ることができる。また、キャップ10は容易に取外し可能になっているので、シート6を容易に取換えることができる。さらに、焼却を行なう際にもシート6を容易に取外してビニール地からなるシート6と樹脂からなる他の部分とを分けて燃やすことができ、その結果、環境対策としても優れた構造といえる。
図10は、図1に示した下ストッパ7aおよび上ストッパ7bからなるストッパ7の構造を示した概略図である。図11は、図10に示したストッパ7を中棒1の中に嵌込んだ状態を示した概略図である。図10および図11を参照して、本実施例では、このように下ストッパ7aおよび上ストッパ7bを樹脂によって一体的に形成することにより、従来に比べて組立作業をより簡略化することができる。
図12は、図1に示した開き防止兼用つり下げ部の概略斜視図である。図12を参照して、本実施例では、つり下げ部9aおよび開き防止部9bからなる開き防止兼用つり下げ部9を設けることによって、従来のようにシート6に開き防止部材を取付ける必要がない。これにより、組立作業をより簡略化することができる。通常は図1に示すように開き防止部9bを把持部8の上部外周に嵌込んでおく。そして、傘を閉じたときには図13に示すような状態で用いる。
【発明の効果】
下ろくろの所定部分に受骨係合部を設け、上ろくろの所定部分に親骨係合部を設けることによって、従来下ろくろおよび上ろくろと受骨および親骨との係合に用いていた針金が不要となり、その結果、組立作業を著しく簡素化することができる。また、針金を用いていないため針金に雨水が付着して針金が腐食する結果破損しやすいという不都合もない。また、受骨の一方端と親骨の一方端とをともにフック形状を有するように構成すれば、下ろくろと受骨との係合作業と上ろくろと親骨との係合作業をより簡便に行なうことができる。また、親骨と係合する受骨の部分をフック形状に構成することによっても、同様に組立作業を簡略化することができる。また、上ろくろとの間でシートを挟むように着脱可能に設けられたキャップをさらに備えるように構成すれば、たとえば強風によってシートの露先部が親骨から外れたとしても、シート全体が剥れる不都合をキャップによって防止することができる。また、そのキャップは取外し可能であるのでシートを容易に交換することができる。また、開いた状態で下ろくろを固定するための下ストッパおよび上ストッパを一体的に構成すれば、組立作業がより容易になるという効果が得られる。さらに、閉じた状態で親骨が開かないように固定するための固定部と所定の場所からつり下げるためのつり下げ部とを有するつり下げ兼用開き防止部材をさらに備えるようにすれば、従来のようにシートに開き防止部材を取付ける必要がなく、その結果組立作業が容易になるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の一実施例による傘を示した概略図である。
【図2】
図1に示した一実施例の傘の下ろくろ近傍の斜視図である。
【図3】
図1に示した下ろくろの平面図である。
【図4】
図3に示した下ろくろのX-X線に沿った断面図である。
【図5】
図1に示した受骨の斜視図である。
【図6】
図1に示した上ろくろ近傍の斜視図である。
【図7】
図1に示した親骨の斜視図である。
【図8】
図1に示したキャップの断面図である。
【図9】
図8に示したキャップの斜視図である。
【図10】
図1に示した下ストッパおよび上ストッパの概略図である。
【図11】
図10に示した下ストッパおよび上ストッパを中棒に挿入した状態を示した概略図である。
【図12】
図1に示した開き防止兼用つり下げ部の斜視図である。
【図13】
図1に示した一実施例の傘を閉じた状態を示した斜視図である。
【図14】
従来のビニール傘を示した概略図である。
【図15】
図14に示したA部分の斜視図である。
【図16】
図14に示したA部分の平面図である。
【図17】
図16に示したX-X線に沿った断面図である。
【図18】
図14に示したB部分の斜視図である。
【図19】
図14に示したB部分の断面図である。
【図20】
図14に示したB部分の底面図である。
【図21】
図14に示した従来の受骨の斜視図である。
【図22】
図14に示した従来の親骨の斜視図である。
【図23】
従来の受骨と親骨との係合状態を説明するための斜視図である。
【符号の説明】
1:中棒
2:下ろくろ
3:上ろくろ
4:受骨
5:親骨
6:シート
7a:下ストッパ
7b:上ストッパ
8:把持部
9:開き防止兼用つり下げ部
10:キャップ
なお、各図中、同一符号は同一または相当部分を示す。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2001-12-03 
出願番号 特願平10-215038
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (A45B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 松縄 正登鈴木 洋昭  
特許庁審判長 滝本 静雄
特許庁審判官 井上 茂夫
大久保 好二
登録日 1999-10-29 
登録番号 特許第2996953号(P2996953)
権利者 衣川 耕一 長谷川喜久雄
発明の名称 傘  
代理人 浅村 肇  
代理人 辻本 一義  
代理人 辻本 一義  
代理人 鳥居 和久  
代理人 東尾 正博  
代理人 中前 富士男  
代理人 服部 素明  
代理人 吉田 裕  
代理人 東尾 正博  
代理人 宮崎 伊章  
代理人 浅村 皓  
代理人 鳥居 和久  
代理人 鎌田 文二  
代理人 浅谷 健二  
代理人 東尾 正博  
代理人 鳥居 和久  
代理人 浅谷 健二  
代理人 宮崎 伊章  
代理人 宮崎 伊章  
代理人 鳥居 和久  
代理人 鎌田 文二  
代理人 浅谷 健二  
代理人 鎌田 文二  
代理人 辻本 一義  
代理人 鎌田 文二  
代理人 東尾 正博  
代理人 金子 憲司  

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