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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1085799
審判番号 審判1999-4399  
総通号数 48 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-08-19 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1999-03-23 
確定日 2003-10-09 
事件の表示 平成9年特許願第38275号「アルツハイマー病診断用試薬」拒絶査定に対する審判事件[平成9年8月19日出願公開、特開平9-216837]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯及び本願発明
本願は、昭和63年2月22日に出願した特願昭63-39323号の一部を平成9年1月16日に新たな特許出願としたものであって、その請求項1に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認められる。(以下、「本願発明1」という。)
「L-ドーパ、ブロモクリプチン、プロパノロール、グルカゴン、セロトニン、カテコールアミン、アンフエタミン及びクロニジンからなる群より選ばれる少なくとも1種からなるアルツハイマー病あるいは老人性痴呆症診断用試薬。」

2.当審の拒絶理由
当審において平成13年3月6日付けで通知した拒絶の理由の概要は、本願発明1は「臨床神経学、25巻7号、1985、p.767-775」(以下、「引用例1」という。)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3.引用例1の記載事項
引用例1には、以下の事項が記載されている。
3-1. 「アルツハイマー型老年痴呆(SDAT)34名にTRH,L-DOPA,sulpirideを投与し血漿PRL,GHの分泌反応を追跡し,神経内分泌動態について検討した.…….L-DOPAに対しSDAT21名中5名にPRL反応陰性,17名にGH反応陰性を認めた.…….SDATでは各負荷試験に対し反応異常を示す症例が顕著に存在し非痴呆群との間に明らかな差異を認めた.」(767頁、「要旨」の項)
3-2. 「対象はSDAT34名(男性15名,女性19名)及び60歳以上の非痴呆健常老人(コントロール)41名(男性19名,女性22名)で、その平均年齢はそれぞれ,70.0±9.1歳(mean±SD),70.7±6.6歳であった.SDATの診断は現病歴,神経学的所見,精神症状によって行ない,一部頭部CTscan像や脳波所見,Hachinskiらによるischemic scoreも参考にした.SDATは全例,長谷川式DRスケールの評価点が10以下でADLも同程度であり,臥床患者は含まれていなかった.また,内分泌に影響があると報告されている薬剤の投与も受けていなかった.」(767頁右欄、「対象」の項)
3-3.「各負荷試験は早朝空腹時安静臥床状態で行ない,負荷前および負荷後一定の時間に採血して,血漿PRL,GHの反応を追跡した.各負荷試験の方法は以下に示した.
1) TRH負荷試験は…….2) L-DOPA負荷試験はL-DOPA 100mg+Carbidopa 10mg合剤の経口投与法で行ない,負荷前及び負荷後60分,120分,180分に採血した.…….血漿PRL,GHは2抗体法によるradioimmunoassayを用いて測定した.」(767頁右欄〜768頁左欄、「方法」の項)
3-4. 「3) L-DOPA負荷試験:(SDAT21名,コントロール17名に実施)
a) PRL:…….
b) GH:GH値の頂値をみると,図5に示すように,SDATではコントロールに比べて頂値の低い症例が多数存在した.ここで頂値が5ng/ml未満のものを分泌不全(GH反応陰性)とすると,SDATでは21名中17名がGH反応陰性を示した.一方,コントロールでは17名中7名が反応陰性を示した.SDATではコントロールに比べてGH反応陰性の症例が有意に多く存在した(p<0.05,χ2-検定).」(769頁左欄〜右欄、「結果」の項)
3-5. 769頁の図5には「L-DOPA負荷試験に対する血漿GH反応」のグラフが記載されている。
3-6. 「今回の検討で,SDATにおいてコントロールに比べて,TRH,L-DOPA及びsulpiride各負荷試験に対しPRL,GH分泌反応に異常を示す症例が有意に多かった.これらの成績は単に老化の影響だけではなく,その老化プロセスの異常な促進と関連した中枢神経系病変とつながりのあるものであると推定される.」(773頁左欄6〜11行)

4.対比
本願発明1と引用例1に記載されたものを比較すると、引用例1に記載されたアルツハイマー型老年痴呆(SDAT)は、本願発明1のアルツハイマー病と同じであることは明らかであることから、両者は、L-ドーパ(L-DOPA)をアルツハイマー病が疑われる者に投与し、GH(成長ホルモン、ソマトトロピン)の分泌反応を健常人の場合と比較する点において一致し、本願発明1が前記比較に基づいてアルツハイマー病の診断を行う、すなわち、L-ドーパをアルツハイマー病診断試薬として使用するものであるのに対して、引用例1では前記比較に基づいてアルツハイマー病の診断を行うことが明確に記載されていない点において相違する。

5.当審の判断
上記相違点について検討する。
引用例1には、L-ドーパ負荷試験において、アルツハイマー型老年痴呆患者が、非痴呆健常老人と比較して、GH反応陰性の症例、すなわちGH分泌反応が正常ではない症例が統計学的に有意に多く存在したことが記載されており(3-4.参照)、また、非痴呆健常老人と比較して、アルツハイマー型老年痴呆患者にGH分泌反応に異常を示す症例が有意に多いことは、老化プロセスの異常な促進と関連した中枢神経系病変とつながりのあるものであると推定される旨記載されている(3-6.参照)。そうしてみると、たとえ、引用例1にアルツハイマー病の診断を行うことが明確に記載されていなくても、非痴呆健常老人と比較した場合における、アルツハイマー型老年痴呆患者のL-ドーパ負荷試験におけるGH分泌反応の異常という引用例1の前述の現象を根拠に、アルツハイマー型老年痴呆が疑われる患者がアルツハイマー型老年痴呆であると判断する、換言すると、L-ドーパ負荷試験の結果をもとにアルツハイマー病の診断を行う、すなわち、L-ドーパをアルツハイマー病診断試薬として使用することは、当業者であれば格別の創意を要する事項とは認められない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、当審で通知した上記拒絶の理由によって拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-02-28 
結審通知日 2003-03-11 
審決日 2003-05-26 
出願番号 特願平9-38275
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 塚中 直子弘實 謙二上條 のぶよ  
特許庁審判長 竹林 則幸
特許庁審判官
小柳 正之
大宅 郁治
発明の名称 アルツハイマー病診断用試薬  
代理人 浅村 皓  
代理人 長沼 暉夫  
代理人 浅村 肇  

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