ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C10M 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 C10M 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 C10M |
---|---|
管理番号 | 1102902 |
異議申立番号 | 異議2003-72397 |
総通号数 | 58 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1996-09-17 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-09-26 |
確定日 | 2004-08-10 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3391930号「水溶性切削油剤原液組成物および水溶性切削油剤組成物」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3391930号の請求項1、2に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第3391930号の請求項1、2に係る発明は、平成7年3月7日に出願され、平成15年1月24日にその特許権の設定登録がなされ、その後、ビー・ピー・ジャパン株式会社により特許異議の申立てがなされたものである。 2.特許異議の申立てについての判断 (1)本件発明 本件の請求項1、2に係る発明は、その特許請求の範囲に記載された下記のとおりのものである。 「【請求項1】 組成物全量基準で、 (A)下記式(1)で表されるブロック型ポリオキシアルキレン化合物を15〜50質量%、 (B)炭素数8〜10の脂肪酸を1.0〜15質量%、 (C)アルカリ金属水酸化物、脂肪族アミン、脂環族アミン、芳香族アミン、アルカノールアミン、ポリアミンおよび下記式(2)で表される含窒素化合物から選ばれる少なくとも1種の塩基性化合物を、前記(B)成分の中和当量以上、100%増し以下であって、かつ(B)成分と(C)成分の合計量が1.1〜85質量%になる範囲で含有し、さらに水を0〜60質量%含有する水溶性切削油剤原液組成物。 HO-(R1-O)a-(R2-O)b-(R3-O)c-H (1) (但し、R1およびR3はプロピレン基を表し、R2はエチレン基を表し、aおよびcはそれぞれ1〜40の整数を、bは3〜40の整数を表し、かつ15≦a+b+c≦100、1.0≦(a+c)/b≦3.5を満たす。) 【化1】 (但し、R4は炭素数1〜24の炭化水素基を示し、R5はエチレン基又はプロピレン基を示し、dは1〜30の整数を示し、Xは水素、炭素数1〜24の炭化水素基又は一般式-(R6-O)eで示される基を示し、R6はエチレン基又はプロピレン基を示し、eは1〜30の整数を示す。) 【請求項2】 水を基剤とする水溶性切削油剤組成物であって、組成物全量基準で、 (A)下記式(1)で表されるブロック型ポリオキシアルキレン化合物を0.3〜10質量%、 (B)炭素数8〜10の脂肪酸を0.02〜3.0質量%、および (C)アルカリ金属水酸化物、脂肪族アミン、脂環族アミン、芳香族アミン、アルカノールアミン、ポリアミンおよび下記式(2)で表される含窒素化合物から選ばれる少なくとも1種の塩基性化合物を、前記(B)成分の中和当量以上、100%増し以下含有する水溶性切削油剤組成物。 HO-(R1-O)a-(R2-O)b-(R3-O)c-H (1) (但し、R1およびR3はプロピレン基を表し、R2はエチレン基を表し、aおよびcはそれぞれ1〜40の整数を、bは3〜40の整数を表し、かつ15≦a+b+c≦100、1.0≦(a+c)/b≦3.5を満たす。) 【化2】 略(上記 【化1】と同じ) (2) (但し、R4は炭素数1〜24の炭化水素基を示し、R5はエチレン基又はプロピレン基を示し、dは1〜30の整数を示し、Xは水素、炭素数1〜24の炭化水素基又は一般式-(R6-O)eで示される基を示し、R6はエチレン基又はプロピレン基を示し、eは1〜30の整数を示す。)」 (2)特許異議の申立ての理由の概要 異議申立人ビー・ピー・ジャパン株式会社は、本件特許明細書には記載不備があるから、本件特許は特許法第36条第4項及び第6項に違反してなされたものであると、また、証拠として下記の甲第1号証〜甲第7号証を提示し、本件請求項1及び2に係る発明は甲第1号証〜甲第7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができるものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである、と主張している。 甲第1号証:米国特許第3,374,171号明細書 甲第2号証:米国特許第4,452,712号明細書 甲第3号証:米国特許第4,670,168号明細書 甲第4号証:米国特許第4,927,550号明細書 甲第5号証:BASF社発行のPLURONIC,TETRONIC 界面活性剤のカタログ 甲第6号証:BASFジャパン(株)からBPジャパン(株)あての20 03年7月24日付けの手紙の写し 甲第7号証:米国特許第4,452,711号明細書 (3)甲号各証に記載の発明 甲第1号証には、金属の機械加工作業における切削用液体として有用である「大量の水と、約5から約40重量%の水溶性アルカノールアミンと、1分子中に約6個から約9個の炭素原子を持ち、直鎖有機酸及び分岐有機酸からなる群から選ばれた約0.1から約9重量%の飽和有機酸と、約0.5から約20重量%の水溶性ポリオキシアルキレングリコールとを含む潤滑剤組成物」(特許請求の範囲請求項1)に係る発明が記載され、水溶性ポリオキシアルキレングリコールとしてエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロック共重合体の使用が好ましいことが説明されている。また、有機酸成分について、「1分子あたり約1〜5個の炭素原子を持った比較的低い分子量の酸は、錆防止剤として満足に機能しないし、またその臭いのために忌わしいものである。他方、比較的高い分子量を持った飽和有機酸、例えば1分子中に9個より多い炭素原子を持った酸を用いると、硬水安定性が悪く、腐食防止機能が低下し、高い発泡傾向を結果として生じる。」と記載されている。 甲第2号証には、アルミニウム及びアルミニウム合金の冷間圧延及び熱間圧延のような金属加工作業に使用する水溶性潤滑剤組成物を用いた金属加工方法が記載され、「(1)1個のポリオキシエチレン鎖と、そのポリオキシエチレン鎖に結合している2個のポリオキシプロピレン鎖とを含むポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体混合物で、混合物中のポリオキシプロピレン鎖の平均分子量が少なくとも900であり、混合物中のポリオキシエチレン鎖が混合物の約10〜80重量%を構成している約1.0〜20重量%の水溶性混合物と、(2)一般式 CmH2m-n-r+2(COOH)rで示される約0.5〜10重量%の水溶性カルボン酸と(ここで、mは11から36までの整数であり、n=0、2、4または6であり、r=1又は2である)、(3)約0.5〜10重量%の水溶性アルカノールアミンと、(4)水とからなる合成潤滑剤組成物」が示されている。そして、先行技術の一つとして米国特許第3,374,171号(甲第1号証)が挙げられている。 甲第3号証には、「水溶性ポリグリコールと中和又は部分中和されたアルキル又はアルケニル置換コハク酸と、水とからなる切削などの金属加工作業において、潤滑剤及び冷却剤として使用する金属加工用組成物水溶液」に係る発明が記載され、具体例としてポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体混合物、ポリオキシプロピレン鎖の分子量=1700、ポリオキシエチレン鎖は混合物の約20重量%(Pluronic 17R2)、2-ドデセニルコハク酸、KOH、水からなる水溶液が示されている。 甲第4号証には、燐酸とダイベイシックダイオイック酸と、燐酸塩を含まない中和用塩基と水とからなる工具の研磨剤組成物において、任意成分としてポリオキシアルキレン化合物とカプリル酸のような炭素数6〜10個の炭素原子を持った酸を添加すると潤滑性が良くなることが記載されている。 甲第5号証には、「PLURONIC R 界面活性剤」がポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン構造を有するポリオキシアルキレングリコールであり、低気泡性で消泡性が大であり、切削油や研磨液に応用できることが記載されている。 甲第6号証は甲第5号証の公知性を立証するものであり、甲第7号証は、甲第2号証とほぼ同様なことが記載されている。 (4)対比・判断 i)特許法第36条第4項及び第6項違反について 異議申立人は、特許請求の範囲に記載された式(1)のブロック型ポリオキシアルキレン化合物におけるa、b、cの限定が、発明の詳細な説明、特に実施例において不明であると主張する。しかし、発明の詳細な説明において説明があり、実施例では全平均重合度(a+b+c)、平均PO/EO比[(a+c)/b、]平均PO/PO比(a/c)の値が示されているから、計算すれば各値は特定でき不明ではない。さらに、計算できたとしても、PO/PO比の測定方法が明らかでないと主張するが、測定が全く不可能なものでもない。そして、該ブロック型ポリオキシアルキレン化合物におけるa、b、cの具体的な値が分かれば、上記数式を満たすかどうか、明確に判別可能であるから、特許法第36条第4項及び第6項違反として特許を取り消さねばならぬほどの瑕疵はない。 また、異議申立人は、塩基性化合物として多種のものが使用できるとしているが、実施例ではアルカノールアミンが使用されているだけで、他のものが使用できることが示されていないと主張している。しかし、塩基性化合物は、(B)成分の脂肪酸を中和して水への溶解性を確保することを主目的とするものであるから、多種のものが使用できるであろうことは当業者にとって予測できるところであり、アルカノールアミンの例しか示されていなくても当業者が理解できるところである。しかも、異議申立人は、アルカノールアミン以外の他のものでは本件発明の効果が達成できないことを具体的に示しているわけではない。したがって、この点は、特許法第36条第4項及び第6項に違反するものではない。 また、異議申立人は、本件発明の(C)成分のうちアルカノールアミンと(2)で表される含窒素化合物のいずれにも含まれる成分があるから特許請求の範囲が不明瞭であると主張している。しかし、(C)成分のうちアルカノールアミンと(2)で表される含窒素化合物のいずれにも含まれる成分であってもそれらが(C)成分であることは明瞭であるから、特許請求の範囲が不明瞭であるというものではない。したがって、この点は、特許法第36条第6項に違反するものではない。 ii)特許法第29条第2項違反について 本件請求項1及び2に係る発明(以下、まとめて「本件発明」という。)と甲号各証に記載された発明を比較すると、甲号各証には、本件発明の組成物の構成成分の一部がそれぞれ記載されてはいるものの、いずれにも本件発明の特定の組成物は記載されていない。そもそも組成物の発明は、それを構成する各成分が一体となって一つの「物」として認識されるものであるから、甲号各証の夫々の組成物を構成する一部だけを切り取って他の組成物の一部と入れ替えることは、そうすることが当業者にとって容易であるという根拠がない限りには不可能なことであり、本件の場合、甲号各証からその根拠が見いだせないので、本件発明は甲第1号証〜甲第7号証に基いて当業者が容易に発明をすることができるものとは認められない。 異議申立人は本件発明と甲第2号証に記載された発明は脂肪酸の炭素数に相違が認められるだけで、甲第2号証の中で引用されている甲第1号証の発明で使用されている炭素数8〜10の脂肪酸を甲第2号証の発明である組成物に採用し本件発明となすことは容易であると主張している。 そこで、本件発明と甲第2号証に記載された発明を比較すると、ポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体、脂肪酸、アルカノールアミン及び水からなる水溶性油剤組成物という点で両者は一致しているが、下記の点で相違している。 1.組成物の用途が本件発明は切削油剤であるのに対して甲第2号証の発明は冷間圧延や熱感圧延のような金属加工作業で使用する油剤である点 2.脂肪酸が本件発明は炭素数8〜10のものであるのに対して甲第2号証の発明は炭素数11〜36である点 3.ポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体について本件発明は共重合比が特定されているのに対して甲第2号証の発明では共重合比の特定がなされていない点 4.本件発明はアルカノールアミン等の(C)成分と(B)成分の関係が特定されているのに甲第2号証の発明では特定されていない点 そこで、まず、異議申立人が主張し、かつ主たる相違点である上記相違点2について検討すると、たしかに、甲第1号証には水溶性ポリオキシアルキレングリコール、脂肪酸、アルカノールアミン及び水からなる水溶性切削組成物において、脂肪酸として「6個から9個の炭素原子を持ち、直鎖及び分岐有機酸からなる群から選ばれた飽和有機酸」を使用すること、及び炭素数を特定した理由が本件発明で炭素数8〜10の脂肪酸を採用する理由とほぼ同じ理由であることが示されている。しかし、甲第2号証においては甲第1号証の技術は従来技術として紹介されているだけで、甲第2号証の発明で使用されている炭素数11〜36の酸に代えて甲第1号証の脂肪酸が使用できることを示唆するものではない。甲第2号証には酸を選定した理由は記載されていないが、甲第1号証に記載された技術を認識したうえで、甲第1号証の酸とは別の特定の酸を選定し甲第2号証の発明を完成させたものであって、甲第1号証と甲第2号証の発明は、夫々別の目的を有する組成物の発明で両者を組み合わせることはできないことである。異議申立人は両者を組み合わせることができる根拠として甲第3号証を提示し、甲第3号証には甲第2号証と同じポリオキシアルキレン化合物を用い、甲第2号証で用いる酸とは違ったカルボン酸と塩基性化合物を用いた水溶性油剤組成物が示されているから、甲第2号証の組成物において酸を取り代えることは容易であると主張するが、甲第3号証の発明も構成要件を異にする別個の組成物の発明である。甲第4号証は特定の組成物発明における任意成分としてポリオキシアルキレン化合物と炭素数6〜10のカルボン酸の使用を示唆したもので甲第2号証との関連性はなく、甲第5号証は「ポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン」のブロック型のポリオキシアルキレングリコールの特性が示されているにすぎず、いずれも甲第2号証の発明において炭素数11〜36の酸に代えて炭素数8〜10の脂肪酸を用い本件発明となすことを容易とする根拠にはならない。 そして、本件発明は、特定の組成物とすることにより明細書記載の顕著な効果を奏したものと認められる。 したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明は甲第1号証〜甲第7号証に基いて当業者が容易に発明をすることができるものとは認められず、特許法第29条第2項に違反するものではない。 (5)むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由および証拠をもっては、本件発明の特許を、取り消すことはできない。 また、他に該発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2004-06-15 |
出願番号 | 特願平7-74569 |
審決分類 |
P
1
651・
531-
Y
(C10M)
P 1 651・ 534- Y (C10M) P 1 651・ 121- Y (C10M) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 山本 昌広 |
特許庁審判長 |
板橋 一隆 |
特許庁審判官 |
関 美祝 佐藤 修 |
登録日 | 2003-01-24 |
登録番号 | 特許第3391930号(P3391930) |
権利者 | 新日本石油株式会社 |
発明の名称 | 水溶性切削油剤原液組成物および水溶性切削油剤組成物 |
代理人 | 酒井 正美 |
代理人 | 森田 順之 |