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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E21D
管理番号 1112261
審判番号 不服2004-7884  
総通号数 64 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-10-03 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-04-16 
確定日 2005-02-18 
事件の表示 平成11年特許願第81334号「シールド機用エントランス水密装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年10月3日出願公開、特開2000-274180〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第一 手続の経緯
本願は、平成11年3月25日に出願された特願平11-81334号の特許出願であって、平成13年4月27日の審査請求とともに願書に添付した明細書の発明の詳細な説明について補正する手続補正が同日付けでなされ、その後の平成15年11月5日付けで拒絶理由を通知したところ、何らの応答もなく、前記拒絶理由により平成16年3月8日付けで拒絶査定されたものであり、そして、これに対し、拒絶査定不服審判の請求が平成16年4月16日になされるとともに、同日付けで願書に添付した明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明について補正する手続補正書が提出されたものである。

第二 補正の適否についての判断
平成16年4月16日付けの願書に添付した明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明について補正する上記手続補正が、特許法第121条第1項の拒絶査定不服審判を請求する場合において、その審判の請求の日から30日以内になされたものであるから、前記手続補正が特許法第17条の2第1項第3号に該当する補正であることは、明らかである。
そこで、平成16年4月16日付けの手続補正による前記補正が、特許法第17条の2第3項ないし第5項に規定する要件を満たしているか否かについて、次に検討する。
1.補正の内容
(1)[補正1]:出願当初明細書の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】シールド機(A)が通過する坑口横穴(10)のエントランス金物(1)に、シールド機本体(20)及びセグメント(21)の外周面に摺接するようにゴム板等の弾性体からなる第1のパッキング片(2)と、この第1のパッキング片の前部に近接してスポンジゴム等のフォーム体からなる第2のパッキング片(3)とを設けたものにおいて、前記第1.第2のパッキング片(2.3)は坑口横穴(10)の後部(10a)側に取付けられてシールド機の進行につれて坑口横穴(10)の後部から穴内前方へ侵入するように彎曲し且つこの彎曲侵入により第2パッキング片(3)が横穴内壁(10b)に圧密されて第1パッキング片(2)が第2パッキング片(3)を介してシールド機本体(20)に圧接するように構成されてなることを特徴とするシールド機用エントランス水密装置。」の記載を、
「【請求項1】シールド機が通過する坑口横穴のエントランス金物に、シールド機本体及びセグメントの外周面に摺接するようにゴム板等の弾性体からなる第1のパッキング片と、この第1のパッキング片の前部に近接したスポンジゴム等のフォーム体からなる第2のパッキング片とを設けたものにおいて、前記第1及び第2のパッキング片は坑口横穴の後部側に取り付けられてシールド機の進行につれて坑口横穴の後部から穴内前方へ進入するように彎曲し且つこの彎曲進入により第2のパッキング片が横穴内壁に圧密され、第1のパッキング片がシールド機本体の外周面に圧接するように構成されてなることを特徴とするシールド機用エントランス水密装置。」と補正する。

(2)[補正2]:出願当初明細書の段落【0002】の、
「【0002】【従来の技術】シールド工法は、坑口(エントランス)よりシールド機を挿入して推進用ジャッキで土中に圧入しながら前面を掘削し、後部にセグメントを組立ててトンネルを構築するものであるが、坑口には土中の大きな水圧がかかって水や土砂が漏出するため、これを防止するために坑口周辺部にゴムパッキングが設けられる。従来、このようなゴムパッキングによる水密装置としては本発明者らが提案した特開平9-190652号が知られている。」の記載を、
「【0002】【従来の技術】シールド工法は、坑口(エントランス)よりシールド機を挿入して推進用ジャッキで土中に圧入しながら前面を掘削し、後部にセグメントを組立ててトンネルを構築するものであるが、坑口には土中の大きな水圧がかかって水や土砂が漏出するため、これを防止するために坑口周辺部にゴムパッキングが設けられる。従来、このようなゴムパッキングによる水密装置としては本発明者らが提案した特願平9-190652号が知られている。」と補正する。

(3)[補正3]:出願明細書の段落【0003】の、
「【0003】【発明が解決しようとする課題】しかし、この従来のゴムパッキングの水密装置は、図5に示すように、ゴム板からなる第1のパッキング片2と、スポンジゴムからなる第2のパッキング片3とを重ねて設けたものであって、第1のゴムパッキング片2を前部に、スポンジゴムからなる第2のパッキング片3を後部に位置するように設けているために、坑口横穴10の内壁10bには第1のゴムパッキング片2が対応しスポンジゴムの第2のパッキング片3はその全部が直にシールド機本体20に接することとなって内壁面10bとの圧密が受けられない為、壁面との圧密による大きな止水効果が期待できないという問題があった。また、凹凸のあるシールド機本体に対しては、圧密力が弱いと小さな隙間ができ易い為に効果的な止水が得られないという問題を有していた。」の記載を、
「【0003】【発明が解決しようとする課題】しかし、この従来のゴムパッキングの水密装置は、図6に示すように、ゴム板からなる第1のパッキング片2と、スポンジゴムからなる第2のパッキング片3とを重ねて設けたものであって、第1のゴムパッキング片2を前部に、スポンジゴムからなる第2のパッキング片3を後部に位置するように設けているために、坑口横穴10の内壁10bには第1のゴムパッキング片2が対応しスポンジゴムの第2のパッキング片3はその全部が直にシールド機本体20に接することとなって内壁面10bとの圧密を受けるられない為、壁面との圧密による大きな止水効果が期待できないという問題があった。また、凹凸のあるシールド機本体に対しては、圧密力が弱いと小さな隙間ができ易い為に効果的な止水が得られないという問題を有していた。」と補正する。

(4)[補正4]:出願当初明細書の段落【0005】の、
「【0005】【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明におけるシールド機用エントランス水密装置は、シールド機Aが通過する坑口横穴10のエントランス金物1に、シールド機本体20及びセグメント21の外周面に摺接するようにゴム板等の弾性体からなる第1のパッキング片2と、この第1のパッキング片の前部に近接してスポンジゴム等のフォーム体からなる第2のパッキング片3とを設けたものにおいて、前記第1.第2のパッキング片2.3は坑口横穴10の後部10a側に取付けられてシールド機の進行につれて坑口横穴10の後部から穴内前方へ侵入するように彎曲し且つこの彎曲侵入により第2パッキング片3が横穴内壁10bに圧密されて第1パッキング片2が第2パッキング片3を介してシールド機本体20に圧接するように構成することにより問題点を解決している。」の記載を、
「【0005】【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明におけるシードル機用エントランス水密装置は、シールド機Aが通過する坑口横穴10のエントランス金物1に、シールド機本体20及びセグメント21の外周面に摺接するようにゴム板等の弾性体からなる第1のパッキング片2と、この第1のパッキング片の前部に近接してスポンジゴム等のフォーム体からなる第2のパッキング片3とを設けたものにおいて、前記第1及び第2のパッキング片2,3は坑口横穴10の後部10a側に取り付けられてシールド機の進行につれて坑口横穴10の後部から穴内前方へ進入するように彎曲し且つこの彎曲進入により第2のパッキング片3が横穴内壁に圧密され、第1のパッキング片2がシールド機本体20の外周面に圧接するように構成することにより問題点を解決している。」と補正する。

(5)[補正5]:出願当初明細書の段落【0011】の、
「【0011】【発明の効果】本発明は上記のように、第1.第2のパッキング片は坑口横穴の後部側に取付けられてシールド機の進行につれて坑口横穴の後部から穴内前方へ侵入するように彎曲し且つこの彎曲侵入により第2パッキング片が横穴内壁に圧密されて第1パッキング片が第2パッキング片を介してシールド機本体に圧接するように構成されているために、ゴム板の第1のパッキング片がその保有弾力でシールド機本体に圧接する際にスポンジゴムの第2のパッキング片が坑口横穴の内壁に強制的に圧密され、この圧密によりさらに押圧力が加えられるので、坑口横穴の内壁に対しても、シールド機本体の外周面に対しても大きな止水効果が期待できるものであり、特に、シールド機に凹凸物を有するような場合に段部に小さい隙間を生じることが完全に回避されるため止水効果が一層高めることができる。」の記載を、
「【0011】【発明の効果】本発明は上記のように第1及び第2のパッキング片は坑口横穴の後部側に取付けられてシールド機の進行につれて坑口横穴の後部から穴内前方へ進入するように彎曲し且つこの彎曲進入により第2のパッキング片が横穴内壁に圧密され、第1のパッキング片がシールド機本体の外周面に圧接するように構成されているため、ゴム板の第1のパッキング片がその保有弾力でシールド機本体に圧接する際にスポンジゴムの第2のパッキング片が坑口横穴の内壁に強制的に圧密され、この圧密によりさらに押圧力が加えられるので、坑口横穴の内壁に対しても、シールド機本体の外周面に対しても大きな止水効果が期待できるものであり、特に、シールド機に凹凸物を有するような場合に段落に小さい隙間を生じることが完全に回避されるため止水効果が一層高めることができる。」と補正する。

2.新規事項の有無、補正の目的の適否及び独立特許要件の要否
上記[補正1]ないし[補正5]の各補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてした補正であるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす補正である。
また、上記[補正1]の補正は、誤記の訂正及び明りようでない記載の釈明を目的とする補正であり、また、上記[補正2]ないし[補正5]の各補正は、明らかな誤記を訂正する補正であるか、或いは、前記[補正1]の特許請求の範囲の請求項1についての補正と整合を図るためのものであるから、誤記の訂正又は明りようでない記載の釈明を目的とするものに該当し、上記[補正1]ないし[補正5]の各補正は、いずれも特許法第17条の2第4項に掲げる事項を目的とする補正である。
そして、上記[補正1]の補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正には該当していないから、前記[補正1]の補正による特許請求の範囲請求項1に係る補正後の発明は、特許法第17条の2第5項において準用する、同法第126条第4項に規定するいわゆる「独立特許要件」を要しない。

3.まとめ
以上のとおりであり、平成16年4月16日付けの手続補正による補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に適合するので、当該補正は適法と認める。

第三 本願発明
当審の審理の対象とすべき本願の発明は、平成16年4月16日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】シールド機が通過する坑口横穴のエントランス金物に、シールド機本体及びセグメントの外周面に摺接するようにゴム板等の弾性体からなる第1のパッキング片と、この第1のパッキング片の前部に近接したスポンジゴム等のフォーム体からなる第2のパッキング片とを設けたものにおいて、前記第1及び第2のパッキング片は坑口横穴の後部側に取り付けられてシールド機の進行につれて坑口横穴の後部から穴内前方へ進入するように彎曲し且つこの彎曲進入により第2のパッキング片が横穴内壁に圧密され、第1のパッキング片がシールド機本体の外周面に圧接するように構成されてなることを特徴とするシールド機用エントランス水密装置。」(以下、これを「本願発明1」という。)

第四 引用刊行物における記載事項
1.原審における拒絶査定の理由に引用された、本願の特許出願前に頒布された刊行物である特開平7-4195号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、シールド機の発進口閉塞装置に関し、図面の図示とともに次の事項が記載されている。
「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、シールド機の発進口開口部とシールド機外周間の隙間をシールするシールド機の発進口閉塞装置に関する。」
「【0008】図1において、全体符号1で示すシールド機は、円筒状の鋼製シールド本体2、シールド本体2の先端部に回転可能に設けたカッタ3、カッタ3の後部に形成されカッタ3により掘削された土砂を充満状態に滞留させるチャンバ4、シールド本体2を推進させる複数のシールドジャッキ5、チャンバ4に滞留する掘削土を所定の土圧に保持しながらシールド本体2外へ排出するスクリューコンベア6を備え、さらに、シールド本体2の後端には、これと覆工用セグメント7の外面との隙間を閉塞するテールシール8が設けられているとともに、シールド本体2の上部側外面には、セグメント7の外面とトンネル9の内壁面間の隙間にモルタル等の注入材を注入するための裏込注入用専用管10が複数本シールド本体2の長手方向に配設されている。
なお、前記裏込注入用専用管10には、不図示の裏込注入設備のグラウトポンプが接続され、このグラウトポンプにより注入材を専用管10に圧送できるようになっている。
【0009】図1中、11は発進立坑に形成した、シールド機2の発進口であり、この発進口11の仮壁11aには、シールド機2の外径より大きい径の開口部12が形成されており、この開口部12の周辺には、開口部12とシールド本体2間の隙間をシールして土砂、裏込注入材の流出または湧水の噴出等を防止するための発進口閉塞装置13が設置されている。
【0010】前記発進口閉塞装置13は、図2及び図3に示すように、開口部12に嵌合状態で装着された枠体131と、この枠体131の前面フランジ131aに、その全周に亘り互いに近接して配列したフラップ状の多数のゴムパッキン132からなる第1のシール部材133と、この第1のシール部材133の内方に配置した第2のシール部材134を備える。
前記第1のシール部材133を構成する各ゴムパッキン132は、フランジ131aから枠体131の中心方向に伸びる所定長さを有し、これら各ゴムパッキン132の基部は各別の取付金具135とボルトナット136によりフランジ131aに固着され、さらに、各取付金具135の内側端には、枠体131の中心方向に伸びるゴムパッキン132に対し外面側から接触する押え板137の一端が揺動可能に取り付けられている。
【0011】前記第2のシール部材134は、図3に示すように、チューブ状のゴム袋134aと該ゴム袋134a内に充填したウレタン系のスポンジ材134bとから構成されるもので、図2に示すように、シールド本体2の円周方向に略々60度の範囲で伸びる長さを有している。
このように成形された第2のシール部材134は、注入材専用管10が配設されるシールド本体2の上部外周面側において、第1のシール部材133の内方にゴムパッキン132と密接してシールド本体2の円周方向に2個配置され、そして、ゴム袋134aの一部を前記ゴムパッキン132のボルトナット136を用いて枠体131のフランジ131aに締め付けることにより、第2のシール部材134は枠体131に固着される。
なお、図2および図3において、138は枠体131に接合したパイプであり、このパイプ138は裏込注入時のエアー抜き、注入材の充填具合、地下水の動向を見るためのものである。
【0012】上記のように構成された本実施例の発進口閉塞装置13において、シールド機1が発進立坑の発進口開口部12を通して推進されると、カッタ3の回転により掘削された地山からの掘削土はチャンバ4内に充満状態に滞留されるとともに、この滞留状態を維持しながらスクリューコンベア6によりチャンバ4内の掘削土をシールド本体2外へ排出する。
【0013】一方、シールド機1が発進口開口部12から地山中に推進されると、第1のシール部材133を構成するゴムパッキン132およびその押え板137は、シールド本体2の外周面により図3の1点鎖線に示すようにシールド機1に推進方向へ傾動されるとともに、ゴムパッキン132の先端部はシールド本体2の外周面に密接する。
これと同時に第2のシール部材134は、シールド本体2の外周面とトンネル内壁面との間の隙間形状に応じ、シールド機1の推進方向に伸長され扁平な形状に弾性変形され、変形された第2シール部材134はシールド本体2の外周面に密接する。
これにより、発進口開口部12とシールド本体2間の隙間を閉塞し、開口部12から土砂または裏込注入材が流出したり、湧水が噴出するのを防止する。
【0014】シールド機1の掘進動作でシールド機1が推進されることにより、裏込注入用専用管10の位置が第1、第2のシール部材133、134に達すると、柔軟性に富む第2のシール部材134は、図3に点線で示すように裏込注入用専用管10の外面形状に一致する形状に弾性変形し、裏込注入用専用管10の外面を包み込む。これにより、裏込注入用専用管10を配設したシールド本体2の外周と発進口開口部12間の隙間のシールを確実にする。
【0015】上記のような本実施例においては、ゴムパッキン132とその押え板137とらなる第1のシール部材133の内方に、ウレタン系のスポンジ材134bとこれを被覆するゴム袋134aとからなる第2のシール部材134を配設した二重シール構造にしたので、発進口開口部12とシールド本体2間の隙間をシールできることは勿論のこと、裏込注入用専用管10を配設した部分のシールも確実になる。
従って、裏込注入用の専用管10がシールド本体2の外周面に配設されていても発進口開口部12から湧水や裏込材等が漏れるのを防止することでき、かつ安全で確実なシールド工事が可能になるほか、発進口への薬液注入の補助工法が不要になり、環境への影響をなくすることができる。
また、第2のシール部材134を構成するスポンジ材はゴム袋によって被覆されているため、シールド機1の移動時にスポンジ材が損傷されるのを防止できるとともに、第2シール材のシール性能を常に安定に維持することができる。
【0016】尚、上記実施例では、第2のシール部材134を裏込注入用専用管10が配設される部位に対応して設けた場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、第2のシール部材を発進口開口部12の全周に設けるようにしてもよい。
【0017】【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、シールド機の発進口開口部に前記シールド機の外周を囲むように配設され、かつ前記シールド機の外周面に密接して該外周面と前記発進口開口部間の隙間をシールする第1のシール部材と、前記第1のシール部材の内方でに前記シールド機の外周の少なくとも一部に臨ませて配設され、かつ、該一部における前記シールド機の外周面と前記発進口開口部間の隙間を充填する第2のシール部材とを備える構成にしたので、裏込材注入用の専用管がシールド本体の外周面に配設されていても発進口開口部のシールを確実にし、湧水や裏込材等の漏れを確実に防止することができる。」

そうしてみると、引用刊行物1の上記摘記事項からみて、前記引用刊行物1には、次の発明の記載が認められる。
「円筒状の鋼製シールド本体2、シールド本体2の先端部に回転可能に設けたカッタ3、カッタ3の後部に形成されカッタ3により掘削された土砂を充満状態に滞留させるチャンバ4、シールド本体2を推進させる複数のシールドジャッキ5、チャンバ4に滞留する掘削土を所定の土圧に保持しながらシールド本体2外へ排出するスクリューコンベア6を備え、さらに、シールド本体2の後端には、これと覆工用セグメント7の外面との隙間を閉塞するテールシール8が設けられているとともに、シールド本体2の上部側外面には、セグメント7の外面とトンネル9の内壁面間の隙間にモルタル等の注入材を注入するための裏込注入用専用管10が複数本シールド本体2の長手方向に配設されているシールド機1の発進口閉塞装置13であって、
前記シールド機1の発進口閉塞装置13は、シールド機1の発進口11の開口部12に嵌合状態で装着された枠体131と、該枠体131の前面フランジ131aに、前記シールド機1の外周を囲むようにして、前記シールド機1の外周面に密接して該外周面と前記発進口11の開口部間の隙間をシールするために、その全周に亘り互いに近接して配列されたフラップ状の多数のゴムパッキン132からなる第1のシール部材133と、該第1のシール部材133の内方にゴムパッキン132と密接して前記シールド機1の外周に臨ませて発進口開口部12の全周に設けられ、かつ、前記シールド機1の外周面と前記発進口11の開口部12間の隙間を充填する第2のシール部材134とを備え、
前記第2のシール部材134が、チューブ状のゴム袋134aと該ゴム袋134a内に充填したウレタン系のスポンジ材134bとから構成されており、
シールド機1が発進口開口部12から地山中に推進されると、第1のシール部材133を構成するゴムパッキン132およびその押え板137が、シールド本体2の外周面によりシールド機1に推進方向へ傾動されるとともに、ゴムパッキン132の先端部がシールド本体2の外周面に密接し、これと同時に第2のシール部材134が、シールド本体2の外周面とトンネル内壁面との間の隙間形状に応じて、シールド機1の推進方向に伸長され扁平な形状に弾性変形され、変形された第2シール部材134がシールド本体2の外周面に密接するようにした発進口閉塞装置」

2.原審における拒絶査定の理由に引用された、本願の特許出願前に頒布された刊行物である特開平11-22370号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、シールド機用エントランス水密装置に関し、図面の図示とともに次の事項が記載されている。
「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、坑口よりシールド機を挿入して土中を掘削推進させる工事において、坑口の水密性を保持する装置に関する。」
「【0005】【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明におけるシールド機用エントランス水密装置は、シールド機Aの通過する坑口Bのエントランス金物6にシールド機本体1及びセグメント7の外周面にしゅう接するようにゴム板等からなる第1のパッキング片2と、この第1のパッキング片より柔軟性が大で且つ、凹凸に対する順応性大のスポンジ等のフォーム材からなる第2のパッキング片3を設けるとともに、この第1.第2のパッキング片をボルト5で締着してなるものである。」
「【0007】【実施例】坑口Bには、周縁部に断面下向き(又は上向き)コ字形で環状のエントランス金物6を嵌設し、このエントランス金物6に第1.第2のパッキング片2.3及びパッキング押え4をボルト5で締着することにより取付ける。
【0008】第1のパッキング片2は、一定厚さの板ゴムのような弾性体を環状に形成したものからなり、板面が坑口Bの外側に向くように取付けられる。この第1のパッキング片は、坑口の外側から強大な水圧力を受ける為それに耐え得る充分な強度を有するものが用いられる。
【0009】第2のパッキング片3は、前記第1のパッキング片より柔軟性が大で、且つ変形自在なスポンジ、ウレタンフォームのようなフォーム体を、同様に環状に形成したものからなる。この第2のパッキング片3は、第1のパッキング片の内側に密接するように取付けられる。」

第五 当審の判断
1.対比及び一致点・相違点
本願発明1と上記引用刊行物1に記載の発明(以下、「引用発明1」という。)とを対比すると、まず、引用発明1における「シールド機1」、「発進口11の開口部12」、「枠体131の前面フランジ131a」、「円筒状の鋼製シールド本体2」、「覆工用セグメント7」、「シールド機1の外周面」、「フラップ状の多数のゴムパッキン132からなる第1のシール部材133」、「ウレタン系のスポンジ材134b」、「第2のシール部材134」、「シールド機1の外周面」及び「発進口閉塞装置」のそれぞれが、本願発明1の「シールド機」、「坑口横穴」、「エントランス金物」、「シールド機本体」、「セグメント」、「外周面」、「ゴム板等の弾性体からなる第1のパッキング片」、「スポンジゴム等のフォーム体」、「第2のパッキング片」、「シールド機本体の外周面」及び「シールド機用エントランス水密装置」に対応する。
また、引用発明1の「該第1のシール部材133の内方にゴムパッキン132と密接して前記シールド機1の外周に臨ませて発進口開口部12の全周に設けられ、かつ、前記シールド機1の外周面と前記発進口11の開口部12間の隙間を充填する第2のシール部材134とを備え、」が、本願発明1の「前記第1及び第2のパッキング片は坑口横穴の後部側に取り付けられ」に対応するから、引用発明1の「シールド機1が発進口開口部12から地山中に推進されると、第1のシール部材133を構成するゴムパッキン132およびその押え板137が、シールド本体2の外周面によりシールド機1に推進方向へ傾動されるとともに、ゴムパッキン132の先端部がシールド本体2の外周面に密接し、これと同時に第2のシール部材134が、シールド本体2の外周面とトンネル内壁面との間の隙間形状に応じて、シールド機1の推進方向に伸長され扁平な形状に弾性変形され、変形された第2シール部材134がシールド本体2の外周面に密接する」が、「前記第1及び第2のパッキング片は坑口横穴の後部側に取り付けられシールド機の進行につれて坑口横穴の後部から穴内前方へ進入するように彎曲し且つこの彎曲進入により第2のパッキング片が横穴内壁に圧密され、第1のパッキング片がシールド機本体の外周面に圧接する」に対応する。
そうしてみると、本願発明1と引用発明1の両者は、「シールド機が通過する坑口横穴のエントランス金物に、シールド機本体及びセグメントの外周面に摺接するようにゴム板等の弾性体からなる第1のパッキング片と、スポンジゴム等のフォーム体からなる第2のパッキング片とを設けたものにおいて、前記第1及び第2のパッキング片は坑口横穴の後部側に取り付けられてシールド機の進行につれて坑口横穴の後部から穴内前方へ進入するように彎曲し且つこの彎曲進入により第2のパッキング片が横穴内壁に圧密され、第1のパッキング片がシールド機本体の外周面に圧接するように構成されてなることを特徴とするシールド機用エントランス水密装置」である点で一致し、次の点で両者の構成が相違する。
相違点1:本願発明1が、「第1のパッキング片の前部に近接したスポンジゴム等のフォーム体からなる第2のパッキング片」であるのに対し、引用発明1は、「第1のパッキング片の前部に密接したスポンジゴム等のフォーム体からなる第2のパッキング片」である点。
相違点2:第2のパッキング片が、本願発明1では、単に「スポンジゴム等のフォーム体からなる」のに対し、引用発明1では、「チューブ状のゴム袋134aと該ゴム袋134a内に充填したウレタン系のスポンジ材134bとから構成され」ている点。

2.相違点についての検討
(1)相違点1について
引用発明1の「第1のパッキング片の前部に密接した第2のパッキング片」に対して、前記第2のパッキング片を前記第1のパッキング片の前部から少し離隔させて、第2のパッキング片を第1のパッキング片の前部に近接して配置することにより、本願発明1の相違点1に係る前記「第1のパッキング片の前部に近接したスポンジゴム等のフォーム体からなる第2のパッキング片」の発明特定事項とすることは、格別の技術的な困難性を要することではなく、当業者が必要に応じて適宜に成し得る事項であり、しかも、本願発明1の第2のパッキング片に、「この第1のパッキング片の前部に近接したスポンジゴム等のフォーム体からなる第2のパッキング片」としたことによる格別顕著な作用効果を認めることができない。
そうしてみると、本願発明1の相違点1に係る前記発明特定事項は、引用発明1の第2のパッキング片に適宜の設計変更を加えることにより当業者が容易に想到できる設計事項である。

(2)相違点2について
本願特許出願前に頒布された刊行物である上記引用刊行物2には、「坑口からシールド機を挿入して土中を掘削推進させる工事における坑口の水密性を保持するシールド機用エントランス水密装装置において、前記シールド機Aの通過する坑口Bのエントランス金物6にシールド機本体1及びセグメント7の外周面にしゅう接するように第1のパッキング片2と第2のパッキング片3を設け、一定厚さの板ゴムのような弾性体を環状に形成したものからなる第1のパッキング片より柔軟性が大で、且つ、凹凸に対する順応性大の変形自在なスポンジ、ウレタンフォームのようなフォーム体を環状に形成したものからなる第2のパッキング片3を、第1のパッキング片の内側に密接するように取付ける技術」が記載されている。
そうしてみると、シールド機用エントランス水密装装置の第2のパッキング片として、引用刊行物2に記載のような「柔軟性が大で、且つ、凹凸に対する順応性大の変形自在なスポンジ、ウレタンフォームのようなフォーム体を環状に形成したものからなる第2のパッキング片3」をゴム袋に充填せずにそのままの姿形で用いることは、本件特許出願前の公知の技術であり、前記公知技術を、引用発明の発進口閉塞装置の第2のシール部材134の「ウレタン系のスポンジ材134b」に代えて採用することにより、本願発明1の相違点2に係る前記発明特定事項を得ることは、当業者にとって格別の困難性を要することではない。

そして、本願発明1の相違点1及び相違点2に係る前記発明特定事項とした点に格別の相乗効果を認めることができない。

(3)まとめ
したがって、本願発明1は、引用刊行物1及び引用刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第六 むすび
以上のとおりであり、請求項1に係る本願発明1は、上記引用刊行物1及び引用刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-12-07 
結審通知日 2004-12-14 
審決日 2004-12-28 
出願番号 特願平11-81334
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安藤 勝治  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 佐藤 昭喜
新井 夕起子
発明の名称 シールド機用エントランス水密装置  
代理人 森脇 康博  

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