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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C08F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08F
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C08F
管理番号 1114561
異議申立番号 異議2002-72310  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-10-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-09-25 
確定日 2005-01-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3268005号「オレフィン系共重合体及びその製造方法」の請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3268005号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3268005号の請求項1〜8に係る発明は、平成4年3月18日に特許出願され、平成14年1月11日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、金子しのより、請求項1〜8に係る発明の特許に対し、特許異議の申立がなされ、取消理由が通知され、その指定期間内に平成15年3月10日付けで特許異議意見書とともに訂正請求書が提出され、これに対し訂正拒絶理由が通知された後、再度、請求項1に係る特許に対し取消理由が通知され、その指定期間内に平成16年11月29日付けで平成15年3月10日付けの訂正請求書が取り下げられるとともに、同日付けで新たに特許異議意見書とともに訂正請求書が提出されたものである。
II.訂正請求について
1.訂正の内容
訂正事項a
請求項1に記載の「共重合体であって、」を「共重合体(但し、エチレン以外のα-オレフィンに由来する繰り返し単位は含まず)であって、」と訂正する。
訂正事項b
明細書段落【0009】に記載されている「共重合体であって、」を「共重合体(但し、エチレン以外のα-オレフィンに由来する繰り返し単位は含まず)であって、」と訂正する。
訂正事項c
明細書段落【0018】に記載されている「5-エチリデンノルボルネン」および「5-ビニルノルボルネン」を削除する。
訂正事項d
明細書段落【0014】に記載されている「前記環状ジエンとしては、特に制限はないが、例えば、1,3-シクロペンタジエン、」を「本発明の環状ジエンは、少なくとも2個の二重結合を有する以下の化合物である。1,3-シクロペンタジエン、」と訂正する。
訂正事項e
明細書段落【0014】に記載されている「等を挙げることができる。これらの中では、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエンが特に好ましい。なお、環状ジエンは少なくとも2個の二重結合を有しておればよく、例えば環状トリエン等も包含される。」を「これらの中では、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエンが特に好ましい。」と訂正する。
訂正事項f
明細書段落【0015】〜【0017】の記載を削除する。
訂正事項g
明細書段落【0018】に記載されている「一般式[Y]で示される繰り返し単位を与える環状オレフィンの具体例としては、例えば、ノルボルネン、」を「本発明の環状オレフィンは、ノルボルネン、」と訂正する。
訂正事項h
明細書段落【0018】に記載されている「、5-シアノノルボルネン等を挙げることができる。これらの中では、ノルボルネン又はその誘導体が特に好ましい。」を「、5-シアノノルボルネンである。これらの中では、ノルボルネン又はその誘導体が特に好ましい。」と訂正する。
訂正事項i
明細書段落【0019】に記載された「これらの3成分の他に、所望により他の共重合可能な不飽和単量体成分を用いていてもよい。このような任意に共重合されてもよい不飽和単量体として、具体的には、〈1〉(注:原文は丸の中に数字が記載されたものであるが文書作成上〈〉に代える。以下、同じ)プロピレン、1-ブテン等のエチレン以外のα-オレフィン、〈2〉前記した環状ジエンのうち先に使用されていないもの、〈3〉前記した環状オレフィンのうち先に使用されていないもの、〈4〉ブタジエン,イソプレン,1,5-ヘキサジエン等の鎖状ジエン類、〈5〉シクロペンテン,シクロヘプテン等の単環オレフィン類等が挙げられる。」を「これらの3成分の他に、所望により他の共重合可能な不飽和単量体成分を用いていてもよい。このような任意に共重合されてもよい不飽和単量体として、具体的には、〈1〉ブタジエン、イソプレン、1,5-ヘキサジエン等の鎖状ジエン類、〈2〉シクロペンテン、シクロヘプテン等の単環オレフィン類等が挙げられる。」と訂正する。
2.訂正の可否
訂正事項aは、請求項1に記載された共重合体について、明細書段落【0019】に記載された任意に共重合されてもよい不飽和単量体成分に基づき、エチレン以外のα-オレフィンに由来する繰り返し単位を含まないことを規定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
訂正事項bは、特許請求の範囲の訂正に伴ない、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
訂正事項c、f、g、hは、本件発明の環状オレフィンを明確にするものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
訂正事項d、eは、本件発明の環状ジエンを明確にするものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
訂正事項iは、特許請求の範囲の訂正に伴ない、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
そして、訂正事項a〜iは明細書に記載された事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の同法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
III.本件発明
訂正後の請求項1〜8に係る発明は、訂正明細書の請求項1〜8に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】 エチレン及び環状ジエンに由来する繰り返し単位又はエチレン、環状ジエン及び環状オレフィンに由来する繰り返し単位からなる共重合体(但し、エチレン以外のα-オレフィンに由来する繰り返し単位は含まず)であって、
エチレン及び環状ジエン又は、エチレン、環状ジエン及び環状オレフィンからなる全含有率を100モル%としたときに、
(1)エチレンに由来する繰り返し単位の含有率が80〜99.9モル%、環状ジエンに由来する繰り返し単位の含有率が5.6〜0.1モル%、環状オレフィンに由来する繰り返し単位の含有率が0〜19.9モル%、
(2)ガラス転移温度(Tg)が30℃以下、
(3)引張弾性率が2000Kg/cm2未満、
であることを特徴とするオレフィン系共重合体。
【請求項2】 メルトインデックスが1.03〜500g/10分である請求項1記載のオレフィン系共重合体。
【請求項3】 DSCによる融解ピークが100℃未満にある請求項1又は2記載のオレフィン系共重合体。
【請求項4】 下記化合物(A)及び(B)又は(A)、(B)及び(C)を主成分とする触媒を用いて、エチレンと環状ジエンとの共重合又はエチレンと環状ジエンと環状オレフィンとの共重合を行なうことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のオレフィン系共重合体の製造方法。
(A)IVB族の四価の遷移金属を含む遷移金属化合物
(B)遷移金属化合物(A)と反応して反応してイオン性の錯体を形成する化合物
(C)有機アルミニウム化合物
【請求項5】 請求項1〜3のいずれか一項記載のオレフィン系共重合体を含む医療用部材用成形材料。
【請求項6】 請求項1〜3のいずれか一項記載のオレフィン系共重合体を含む自動車用部材用成形材料。
【請求項7】 請求項1〜3のいずれか一項記載のオレフィン系共重合体を含む工業用部材用成形材料。
【請求項8】 請求項1〜3のいずれか一項記載のオレフィン系共重合体を含む包装用フィルム。」
IV.特許異議申立人の主張について
1.特許異議申立の概要
特許異議申立人 金子しのは、甲第1号証(特開昭62-121711号公報)、甲第2号証(本件特許第3268005号に係る平成13年8月9日付けの意見書)、甲第3号証(筏 義人他共編「高分子事典」(株)高分子刊行会、1985年2月25日第1版第4刷発行、第145頁)、甲第4号証(本件特許第3268005号に係る平成13年3月16日付けの意見書)、甲第5号証(特開昭63-178113号公報)、甲第6号証(特開昭61-271308号公報)、甲第7号証(日本ゴム協会編「ゴム工業便覧〈第四版〉」(社)日本ゴム協会、平成6年1月20日発行、第297頁〜第299頁、第310頁)、甲第8号証(WO 91/14713号パンフレット)、甲第9号証(特開昭60-35009号公報)、参考資料(特表平5-505838号公報〈甲第8号証の日本出願公表公報〉)を提出して、訂正前の請求項1〜3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、訂正前の請求項1〜3に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、また、訂正前の請求項1〜3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1〜3に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、さらに、訂正前の請求項1、3に係る発明は、甲第5号証に記載された発明であるから、訂正前の請求項1、3に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、また、訂正前の請求項1、3に係る発明は、甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1、3に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、さらに、訂正前の請求項4に係る発明は、甲第1、8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項4に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、また、訂正前の請求項5、8に係る発明は、甲第1号証、甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項5、8に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、また、訂正前の請求項6、7に係る発明は、甲第1号証、甲第5号証、甲第9号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項6、7に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり(申立理由1)、また、本件特許は、その明細書の記載が不備であるから、特許法第36条に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであり(申立理由2)、取り消すべき旨主張している。
2.特許異議申立人の主張についての判断
ア.申立理由1(特許法第29条第1項第3号、同条第2項違反)について
(1)甲各号証の記載事項
甲第1号証には、以下の事項について記載されている。
「1.エチレン、炭素原子数3〜20のα-オレフィンおよび炭素原子数が5〜20の非共役ポリエンからの低結晶性エチレン系ランダム共重合体であって、
(a)エチレン成分の含有率が50〜95モル%の範囲にあり、α-オレフィン成分の含有率が5〜50モル%の範囲にあり、そして非共役ポリエン成分の含有率がゼロモル%ではなく5モル%以下であり、
(b)・・・である
ことを特徴とする低結晶性エチレン系ランダム共重合体。」(特許請求の範囲第1項)
「〔産業上の利用分野〕
本発明は低結晶性エチレン系ランダム共重合体およびその製造法に関する。さらに詳しくは、分子量分布および組成分布が狭く且つ透明性、表面非粘着性および力学物性に優れた低結晶性のエチレン系ランダム共重合体およびその製造法に関する。」(2頁左下欄9〜15行)
「本発明の方法において重合原料として使用されるエチレン以外の炭素数3〜20のα-オレフィンとして具体的には、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、・・・などが例示できる。また非共役ポリエンとして具体的には、1,4-ヘキサジエン、・・・5-エチリデン-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5-ビニル-2-ノルボルネン・・・などを例示することができる。」(6頁右下欄8行〜7頁左上欄4行)
「本発明の低結晶性エチレン系ランダム共重合体は、上記の如くそれ自体極めて特異的な性質を有するため、種々の成形品の素材として使用することができる。また、加硫により、更に力学強度の優れた素材として使用することもできる。」(10頁左上欄1〜5行)
そして、12頁には「表1」が、13頁には「表3」が記載されている。


」(12頁)




」(13頁)
甲第3号証には、高分子材料の弾性率を他の材料の弾性率と比較して示した図(図3)が記載されている。
甲第5号証には、以下の事項について記載されている。
「(1)エチレン、プロピレンおよび非共役ポリエンとからなり、
(a)エチレン/プロピレン比(モル比)が86/14ないし97/3、
(b)プロピレンおよび非共役ポリエンの合計が6ないし17モル%で、式
・・・
(c)70℃キシレン中で測定した極限粘度が0.8ないし4.0dl/gでかつ、
(d)DSCで測定した融解ピーク温度が70℃以下で融解熱量が10cal/g以下
であることを特徴とするエチレン・プロピレン・非共役ポリエン共重合体ゴム。
(2)非共役ポリエンが、5-エチリデン-2-ノルボルネンおよび/またはジシクロペンタジエンである特許請求の範囲第1項記載のエチレン・プロピレン・非共役ポリエン共重合体ゴム。」(特許請求の範囲1、2)
「本発明者らは、従来のエチレン・プロピレン・非共役ポリエン共重合体ゴムの強度特性を改善すべく鋭意検討した結果、エチレン/プロピレンの比(モル比)が、従来主として検討されていた範囲よりさらに高く、かつ特定の構造を有する共重合体ゴムにより、前記特性が著しく改良されることを見い出し本発明に到達した。」(2頁右上欄4〜10行)
甲第6号証には、以下の事項について記載されている。
「(1)可溶性バナジウム化合物および有機アルミニウム化合物から形成される触媒の存在下に、炭化水素媒体からなる液相中でエチレンとビシクロアルケン及びトリシクロアルケンからなる群から選ばれた少なくとも1種の環状オレフィンとを共重合させることにより非晶性環状オレフィンランダム共重合体を製造する方法において、・・・該共重合体中の該環状オレフィン成分の含有率が10ないし60モル%の範囲になるように連続的に共重合を行うことを特徴とする非晶性環状オレフィンランダム共重合体の製法。」(特許請求の範囲)
「本発明の方法において、重合原料として使用される環状オレフィンは、ビシクロアルケン及びトリシクロアルケンからなる群から選ばれた少なくとも1種の環状オレフィンであり、通常は炭素原子数が7〜20の環状オレフィンである。・・・また、本発明の方法においては、前記エチレンと前記環状オレフィンが共重合されるが、該必須の二成分の他に本発明の目的を損わない範囲で必要に応じて他の共重合可能な不飽和単量体成分を共重合させることもできる。該共重合可能な不飽和単量体として具体的には、たとえば生成するランダム共重合体中のエチレン成分単位と等モル未満の範囲のプロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどの炭素原子数が3ないし20のα-オレフィン、生成するランダム共重合体中の前記環状オレフィン成分単位と等モル未満のシクロペンテン、シクロヘキセン、3-メチルシクロヘキセン、シクロオクテンなどのシクロオレフィン類、1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン、ジシクロペンタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネンなどの非共役ジエン類、テトラシクロドデセン、2-メチルテトラシクロドデセン、2-エチルテトラシクロドデセンなどのテトラシクロドデセン類などを例示することができる。」(4頁左下欄17行〜5頁右上欄15行)
甲第7号証には、以下の事項について記載されている。
「14.2.2 モノマー
エチレンと共重合するα-オレフィンとしてはプロピレンのほかにブテン-1なども用いられている。また第三成分のジエンは種々研究されたが、重合反応性、得られたEPDMの加硫速度およびその特性などから、ジシクロペンタジエン(DCPD)、5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)および1,4-ヘキサジエン(1,4-HD)の非共役ジエン3種が工業的に用いられている。」(297頁左欄下から2行〜右欄7行)
甲第8号証には、参考資料を参照すると、以下の事項について記載されている。
「1.エチレン、α-オレフィン、アセチレン性不飽和モノマー及びこれらの混合物を重合するための触媒系にして、重合希釈剤中に以下の成分:・・・触媒系。」(特許請求の範囲第1項)
「本発明はイオン性メタロセン系のオレフィン重合触媒の生産性を高めるための第IIIA族元素化合物の使用に関する。・・・触媒系は、オレフィン、ジオレフィン、環状オレフィン並びにアセチレン性不飽和モノマーの重合に関して、第IIIA族化合物を用いない類似の触媒よりも高い生産性を示し、・・・類似のメタロセンでこれまで得られていたものよりも狭い分子量分布及び高い重量平均分子量を有するポリオレフィンを与える。」(1頁11行〜2頁5行〈参考資料4頁左下欄10行〜末行〉)
「本発明は、イオン性メタロセン触媒を含んでなる触媒系で生産性の増大した触媒系の製造に、かかるイオン性メタロセン触媒で製造し得るポリマー生成物の利点にさほど悪影響を与えることなく、ある種の第IIIA族元素化合物を使用することができるという発見に基づいている。上述の触媒系(・・・)を用いれば、イオン性メタロセン触媒の濃度を大幅に低下させても、重量平均分子量が高く分子量分布の狭いという利点を有するポリオレフィンが製造できる。」(8頁1行〜14行〈参考資料6頁左下欄8行〜17行〉)
「一般に、本発明の触媒系は、従来のチーグラー・ナッタ触媒に関して先行技術でよく知られた条件において、オレフィン、ジオレフィン及び/又はアセチレン性不飽和モノマーを単独又は他のオレフィン及び/又は他の不飽和モノマーと一緒に重合する。
このプロセスの実施に用いることのできるモノマーには、炭素原子数約2〜約18の、α-オレフィン、ジオレフィンおよびアセチレン性不飽和炭化水素が含まれる。かかるモノマーには、環状または非環式炭化水素並びに直鎖又は枝分れ鎖の炭化水素が含まれる。好適モノマーの・・・例としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン等:2-メチル-1-プロペン、3-メチル-1-ブテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン等:1,3-ブタジエン、1,4-ペンタジエン、1,5-ヘキサジエン、1,4-ヘキサジエン等:シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン等:プロピン、ブタジイン、1,4-ヘキサジイン等が挙げられる。」(30頁29行〜31頁10行〈参考資料13頁右下欄23行〜14頁左上欄15行〉)
甲第9号証には、以下の事項について記載されている。
「(1)平均エチレン組成を有し、分子内が不均質であるコポリマー連鎖を含有するエチレンと少なくとも一種のその他のα-オレフィンモノマーとのコポリマーにおいて、・・・MWDを有するコポリマー。
(32)特許請求の範囲第26項記載のコポリマーにおいて、更にジエンを含むコポリマー。
(34)特許請求の範囲第11項記載のコポリマーにおいて、前記コポリマーがエチレン、プロピレン及びENBを含むコポリマー。」(特許請求の範囲第1、32、34項)
「本発明は新規のα-オレフィンコポリマーに関する。特に、本発明は分子内は不均質で分子間は均質である組成を有するコポリマー鎖からなるエチレンと他のα-オレフィンとの新規コポリマー、並びにこれらのコポリマーの製法」(7頁左下欄16〜20行)
「エチレン-プロピレンターポリマー(EPDM)は、ジシクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエン又はエチリデンノルボルネンのような非共役ジオレフィンを少量含み、硫黄による加硫が可能な程度の不飽和を有する。・・・これらのコポリマーは顕著な耐候性、良好な耐熱老化性及び多量の充てん剤及び可塑剤を配合しうる性質(・・・)を有するので、特に自動車及び工業機械用品に有用である。」(8頁左上欄20行〜右上欄11行)
「すでに述べたように、本発明によるコポリマーはエチレン及び少なくとも一種のその他のα-オレフィンからなる。かかるα-オレフィンは3乃至18個の炭素原子を含むもの、たとえばプロピレン、ブテン-1、ペンテン-1等を含む。・・・本発明による最も好ましいコポリマーは、エチレン及びプロピレン又はエチレン、プロピレン及びジエンから成るコポリマーである。」(15頁右上欄10〜18行)
(2)対比・判断
【1】訂正後の請求項1に係る発明(以下、「訂正発明1」という。)について
訂正発明1が、刊行物である前記甲第1、3、5〜9号証に記載された発明であるか、或いは刊行物である前記甲第1、3、5〜9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたか否かについて検討する。
甲第1号証には、エチレンと炭素原子数3〜20のα-オレフィンおよび炭素原子数が5〜20の非共役ポリエンからの低結晶性エチレン系ランダム共重合体であって、エチレン成分の含有率が50〜95モル%の範囲で、α-オレフィン成分の含有率が5〜50モル%の範囲で、そして非共役ポリエン成分の含有率がゼロモル%ではなく5モル%以下である低結晶性エチレン系ランダム共重合体について記載され、実施例2、実施例4および実施例5によれば、エチレンおよび環状ジエンと共に1-ブテンが採用され、比較例においてもプロピレンが採用され、エチレン以外のα-オレフィンを含まない共重合体については記載がされておらず、また、共重合体がエチレン以外のα-オレフィンを含まなくてもよい旨についても記載がされていない。
一方、訂正発明1は、エチレン及び環状ジエンに由来する繰り返し単位又はエチレン、環状ジエン及び環状オレフィンに由来する繰り返し単位からなる共重合体であって、エチレン以外のα-オレフィンに由来する繰り返し単位は含まないものである。
そうすると、共重合体において、訂正発明1では、エチレン以外のα-オレフィンに由来する繰り返し単位を含まないことを要件としているのに対し、甲第1号証に記載された発明では、エチレン以外のα-オレフィンに由来する繰り返し単位をも含むことを要件としている点で、両発明は相違しており、訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明であるということはできない。
甲第5号証には、エチレン、プロピレンおよび非共役ポリエンとからなり、エチレン/プロピレン比(モル比)が86/14ないし97/3、プロピレンおよび非共役ポリエンの合計が6ないし17モル%である、エチレン・プロピレン・非共役ポリエン共重合体ゴムが記載され、プロピレンを含まない共重合体ゴムについては記載がされておらず、また、共重合体ゴムがプロピレンを含まなくてもよい旨についても記載がされていない。
そうすると、共重合体において、訂正発明1では、エチレン以外のα-オレフィンに由来する繰り返し単位を含まないことを要件としているのに対し、甲第5号証に記載された発明では、エチレン以外のα-オレフィンであるプロピレンに由来する繰り返し単位をも含むことを要件としている点で、両発明は相違しており、訂正発明1は、甲第5号証に記載された発明であるということはできない。
甲第6号証には、エチレンとビシクロアルケン及びトリシクロアルケンからなる群から選ばれた少なくとも1種の環状オレフィンとを共重合させることにより非晶性環状オレフィンランダム共重合体を製造することが記載され、エチレンと環状オレフィンとの共重合体の製造に際し、エチレンと環状オレフィンの必須成分の他に共重合可能な不飽和単量体を共重合させることができる、として、ランダム共重合体中のエチレン成分単位と等モル未満の範囲のプロペン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどの炭素原子数が3ないし20のα-オレフィン、生成するランダム共重合体中の前記環状オレフィン成分単位と等モル未満のシクロペンテン、シクロヘキセン、3-メチルシクロヘキセン、シクロオクテンなどのシクロオレフィン類、1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン、ジシクロペンタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネンなどの非共役ジエン類、テトラシクロドデセン、2-メチル-テトラシクロドデセン、2-エチルテトラシクロドデセンなどのテトラシクロドデセン類などを例示することができることも記載されている。
そして、例示がされている共重合可能な不飽和単量体として非共役ジエン類である、ジシクロペンタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネンなどの非共役ジエン類を採用する場合には、共重合体を構成するモノマー成分については、訂正発明1の共重合体を構成するモノマー成分と変わるところはないといえる。
しかしながら、甲第6号証に記載の環状オレフィンランダム共重合体については、ジシクロペンタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネンなどの非共役ジエン類を採用した場合に得られる共重合体については具体的に記載がされていないから、得られる共重合体についての物性が確認できず、訂正発明1で規定した「ガラス転移温度(Tg)が30℃以下、引張弾性率が2000Kg/cm2未満」であるオレフィン系共重合体と同じ共重合体であるのかどうかは不明であると言わざるをえない。
そうであれば、訂正発明1の共重合体が甲第6号証に記載された共重合体と同一であるということはできないから、訂正発明1は、甲第6号証に記載された発明であるということはできない。
甲第7号証には、エチレンとα-オレフィンとの共重合において、さらに第3成分として、ジシクロペンタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネンおよび1,4-ヘキサジエンの非共役ジエン3種が工業的に用いられていることが記載されている。
しかしながら、甲第7号証に記載されたエチレンプロピレンゴムは、エチレン以外のα-オレフィンであるプロピレンに由来する繰り返し単位をも含むものであるのに対し、訂正発明1では、エチレン以外のα-オレフィンに由来する繰り返し単位を含まないこととしている点で、両共重合体は相違している。
したがって、訂正発明1は、甲第7号証に記載された発明であるということはできない。
甲第8号証には、エチレン、α-オレフィン、アセチレン性不飽和モノマー及びこれらの混合物を重合することが記載され、実施に用いるモノマーの例として、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン等:2-メチル-1-プロペン、3-メチル-1-ブテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン等:1,3-ブタジエン、1,4-ペンタジエン、1,5-ヘキサジエン、1,4-ヘキサジエン等:シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン等:プロピン、ブタジイン、1,4-ヘキサジイン等が挙げられている。
しかしながら、甲第8号証に記載の共重合体については、訂正発明1が必須の構成としている環状ジエンに由来する繰り返し単位を有することについては何ら記載がされていない。
そうすると、甲第8号証に記載された共重合体は、本訂正明1の共重合体と同一であるということはできないから、訂正発明1は、甲第8号証に記載された発明であるということはできない。
甲第9号証には、エチレンとその他のα-オレフィンモノマーとのコポリマーにおいて、さらにジエンとしてENB(エチリデンノルボルネン)を含むコポリマーについて記載がされている。
しかしながら、甲第9号証に記載されたコポリマーについては、α-オレフィンモノマーを含まない共重合体については何等記載されておらず、また、共重合体がα-オレフィンモノマーを含まなくてもよい旨につても記載がされていない。
そうすると、共重合体において、訂正発明1では、エチレン以外のα-オレフィンに由来する繰り返し単位を含まないことを要件としているのに対し、甲第9号証に記載された発明では、エチレン以外のα-オレフィンに由来する繰り返し単位をも含むことを要件としている点で、両発明は相違しており、したがって、訂正発明1は、甲第9号証に記載された発明であるということはできない。
次に、甲第1、5、7、9号証に記載された発明について、甲第1号証に記載された発明、甲第5号証に記載された発明、甲第7号証に記載された発明、甲第9号証に記載された発明のそれぞれには、前記のとおり、α-オレフィンに由来する繰り返し単位を含むもので、訂正発明1の構成要件である「エチレン以外のα-オレフィンに由来する繰り返し単位は含まず」とする点については記載がされていなく、甲第1、5、7、9号証に記載された共重合体は、訂正発明1のオレフィン系共重合体とは相違しているところである。
そして、この相違点についてさらに検討すると、甲第3号証には、高分子材料の弾性率に関して記載されているもので、共重合体を構成するモノマーについては何ら記載がされてなく、また、甲第8号証には、環状ジエンを採用することについては具体的に記載がされていないのであるから、前記甲第1、5、7、9号証に記載の事項に、甲第3号証に記載の事項或いは甲第8号証に記載の事項を合わせ検討しても、共重合体において、エチレン以外のα-オレフィンに由来する繰り返し単位は含まないとする前記相違点の構成を採用することが容易に成し得るとはいえない。
また、甲第6号証には、エチレンと環状オレフィンとの共重合体において、さらに、不飽和単量体を共重合させることができることが記載されているが、不飽和単量体としては「プロペン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどの炭素原子数が3ないし20のα-オレフィン、シクロペンテン、シクロヘキセン、3-メチルシクロヘキセン、シクロオクテンなどのシクロオレフィン類、1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン、ジシクロペンタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネンなどの非共役ジエン類、テトラシクロドデセン、2-メチル-テトラシクロドデセン、2-エチルテトラシクロドデセンなどのテトラシクロドデセン類」などが例示され、環状ジエンと同等にα-オレフィンやシクロオレフィンも例示されているのであるから、特に不飽和単量体として環状ジエンを選択し、かつ、「ガラス転移温度(Tg)が30℃以下、引張弾性率が2000Kg/cm2未満」である共重合体とすることが容易に想到し得ることとはいえない。
そして、甲第6号証には「ガラス転移温度(Tg)が30℃以下、引張弾性率が2000Kg/cm2未満」である共重合体について記載も示唆もされていない以上、甲第1、3、5、7、8、9号証に記載の事項に、甲第6号証に記載の事項を併せみても、共重合体において、エチレン以外のα-オレフィンに由来する繰り返し単位を含まず「ガラス転移温度(Tg)が30℃以下、引張弾性率が2000Kg/cm2未満」である共重合体とすることが、容易に想到できたとすることはできない。
さらに、甲1、3、5〜9号証に記載された発明について、甲第2号証又は甲第4号証の記載事項を参酌し併せ検討しても、訂正発明1が採用した共重合体において「ガラス転移温度(Tg)が30℃以下、引張弾性率が2000Kg/cm2未満」とする構成を採用することは当業者が容易に想到し得ないことといえる。
そして、訂正発明1は、請求項1に記載の構成を採用することにより、明細書記載の顕著な効果を奏するものといえる。
したがって、訂正発明1は、甲第1、3、5〜9号証に記載された発明ということはできないし、甲第1、3、5〜9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということもできない。
【2】訂正後の請求項2に係る発明(以下、「訂正発明2」という。)について
訂正発明2は、訂正発明1のオレフィン系共重合体のメルトインデックスを限定するものであるが、訂正発明1が、前記のとおり甲第1、3、5〜9号証に記載された発明であるということはできないし、甲第1、3、5〜9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということができない以上、訂正発明1を引用する訂正発明2も、甲第1、3、5〜9号証に記載された発明であるということはできないし、甲第1、3、5〜9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
【3】訂正後の請求項3に係る発明(以下、「訂正発明3」という。)について
訂正発明3は、訂正発明1又は2のオレフィン系共重合体のDSCによる融解ピーク温度を限定するものであるが、訂正発明1、2が、前記のとおり甲第1、3、5〜9号証に記載された発明であるということはできないし、甲第1、3、5〜9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということができない以上、訂正発明1、2を引用する訂正発明3も、甲第1、3、5〜9号証に記載された発明であるということはできないし、甲第1、3、5〜9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
【4】訂正後の請求項4に係る発明(以下、「訂正発明4」という。)について
訂正発明4は、訂正発明1〜3のオレフィン系共重合体の製造方法に係るものであるが、訂正発明1〜3が、前記のとおり甲第1、3、5〜9号証に記載された発明であるということはできないし、甲第1、3、5〜9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということができない以上、訂正発明1〜3を引用する訂正発明4も、甲第1、3、5〜9号証に記載された発明であるということはできないし、甲第1、3、5〜9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
【5】訂正後の請求項5〜8に係る発明(以下、「訂正発明5〜8」という。)について
訂正発明5〜8は、訂正発明1〜3のオレフィン系共重合体の用途を限定するものであるが、訂正発明1〜3が、前記のとおり甲第1、3、5〜9号証に記載された発明であるということはできないし、甲第1、3、5〜9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということができない以上、訂正発明1〜3を引用する訂正発明5〜8も、甲第1、3、5〜9号証に記載された発明であるということはできないし、甲第1、3、5〜9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
イ.申立理由2(特許法第36条違反)について
(1)特許異議申立人の主張の概要
本件特許発明では、オレフィン系共重合体を構成する環状ジエンと環状オレフィンとを区別し、請求項1では、オレフィン系共重合体における、環状ジエンに由来する繰り返し単位の含有率が5.6〜0.1モル%、環状オレフィンに由来する繰り返し単位の含有率が0〜19.9モル%と規定されているが、明細書段落【0018】には、環状オレフィンの具体例として、5-エチリデンノルボルネン、5-ビニルノルボルネンが記載されており、これらの化合物は、明細書段落【0014】にも、環状ジエンの具体例として記載されている。
そうすると、請求項1に記載のオレフィン系共重合体を構成する環状ジエンと環状オレフィンとにおいて、環状ジエンに由来する繰り返し単位の含有率および環状オレフィンに由来する繰り返し単位の含有率が技術的意義を持ち得ないものとなる。
したがって、訂正前の請求項1〜8に係る発明は、その明細書の記載に不備がある。
(2)判断
本件特許明細書については、訂正により、明細書段落【0018】に記載されていた5-エチリデンノルボルネン、5-ビニルノルボルネンが削除された結果、明細書段落【0018】に記載された環状オレフィン化合物と、明細書段落【0014】に記載された環状ジエン化合物とは明確に区別され、重複することはなくなった。
したがって、オレフィン系共重合体を構成する環状ジエンと環状オレフィンにおいて、環状ジエンに由来する繰り返し単位の含有率および環状オレフィンに由来する繰り返し単位の含有率は明らかであり、明細書の記載に不備があるとはいえない。
V.当審が通知した取消理由について
1.当審が通知した取消理由の概要
当審は、刊行物1(甲第1号証:特開昭62-121711号公報)、刊行物2(甲第3号証:筏 義人他共編「高分子事典」(株)高分子刊行会、1985年2月25日第1版第4刷発行、第145頁)、刊行物3(甲第5号証:特開昭63-178113号公報)、刊行物4(甲第6号証:特開昭61-271308号公報)、刊行物5(甲第7号証:日本ゴム協会編「ゴム工業便覧〈第四版〉」(社)日本ゴム協会、平成6年1月20日発行、第299頁)、刊行物6(甲第8号証:WO 91/14713号パンフレット)、刊行物7(甲第9号証:特開昭60-35009号公報)を提示して、訂正前の請求項1〜3に係る発明は、刊行物1あるいは刊行物3に記載された発明であるから、訂正前の請求項1〜3に係る発明の特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり(取消理由1)、また、訂正前の請求項1〜8に係る発明は、刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1〜8に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり(取消理由2)、さらに、本件特許は、その明細書の記載が不備であるから、特許法第36条に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであり(取消理由3)、取り消されるべき旨通知している。
2.当審が通知した取消理由についての判断
ア.取消理由1、2(特許法第29条第1項第3号、同条第2項違反)について
(1)各刊行物に記載された事項
当審が通知した取消理由で提示した刊行物1〜7は、特許異議申立人が提示した証拠である甲第1号証、甲第3号証、甲第5号証〜甲第9号証にそれぞれ相当するものであるから、刊行物1〜7に記載された事項は、前記IV.2.ア.(1)に記載のとおりである。
(2)対比・判断
【1】訂正発明1について
当審が通知した取消理由で提示した刊行物1〜7は、特許異議申立人が提示した証拠である甲第1号証、甲第3号証、甲第5号証〜甲第9号証にそれぞれ相当するものであるから、前記IV.2.ア.(2)に記載したとおり 、訂正発明1は、刊行物1(甲第1号証)又は刊行物3(甲第5号証)に記載された発明であるということはできないし、刊行物1〜7(甲第1号証、甲第3号証、甲第5号証〜甲第9号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
【2】訂正発明2について
訂正発明2は、訂正発明1のオレフィン系共重合体のメルトインデックスを限定するものであるが、訂正発明1が、前記のとおり刊行物1又は刊行物3に記載された発明であるということはできないし、刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない以上、訂正発明1を引用する訂正発明2も、刊行物1又は刊行物3に記載された発明であるということはできないし、刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
【3】訂正発明3について
訂正発明3は、訂正発明1又は2のオレフィン系共重合体のDSCによる融解ピーク温度を限定するものであるが、訂正発明1又は2が、前記のとおり刊行物1又は刊行物3に記載された発明であるということはできないし、刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない以上、訂正発明1又は2を引用する訂正発明3も、刊行物1又は刊行物3に記載された発明であるということはできないし、刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
【4】訂正発明4について
訂正発明4は、訂正発明1〜3のオレフィン系共重合体の製造方法に係るものであるが、訂正発明1〜3が、刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということができない以上、訂正発明1〜3を引用する訂正発明4も、刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
【5】訂正発明5〜8について
訂正発明5〜8は、訂正発明1〜3のオレフィン系共重合体の用途を限定するものであるが、訂正発明1〜3が、前記のとおり、刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということができない以上、訂正発明1〜3を引用する訂正発明5〜8も、刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
イ.取消理由3(特許法第36条違反)について
(1)取消理由通知の概要
[1]前記「IV.2.イ.(1)特許異議申立人の主張の概要」に相当するものである。
[2]請求項1において、エチレン及び環状ジエンに由来する繰り返し単位又はエチレン、環状ジエン及び環状オレフィンに由来する繰り返し単位からなる共重合体には、エチレン以外のα-オレフィンに由来する繰り返し単位は含まれないことが明確にされていないから、訂正前の請求項1に係る発明は、その明細書の記載に不備がある。
(2)判断
[1]前記「IV.2.イ.(2)判断」で記載したとおり、明細書の記載に不備があるとはいえない。
[2]本件特許明細書については、訂正により、請求項1に、エチレン及び環状ジエンに由来する繰り返し単位又はエチレン、環状ジエン及び環状オレフィンに由来する繰り返し単位からなる共重合体には、エチレン以外のα-オレフィンに由来する繰り返し単位は含まれないことが明記されたことから、明細書の記載不備は解消された。。
VI.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由、証拠及び取消理由通知の理由によっては、本件訂正発明1〜8についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明1〜8についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
オレフィン系共重合体及びその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 エチレン及び環状ジエンに由来する繰り返し単位又はエチレン、環状ジエン及び環状オレフィンに由来する繰り返し単位からなる共重合体(但し、エチレン以外のα-オレフィンに由来する繰り返し単位は含まず)であって、
エチレン及び環状ジエン又は、エチレン、環状ジエン及び環状オレフィンからなる全含有率を100モル%としたときに、
(1)エチレンに由来する繰り返し単位の含有率が80〜99.9モル%、環状ジエンに由来する繰り返し単位の含有率が5.6〜0.1モル%、環状オレフィンに由来する繰り返し単位の含有率が0〜19.9モル%、
(2)ガラス転移温度(Tg)が30℃以下、
(3)引張弾性率が2000Kg/cm2未満、
であることを特徴とするオレフィン系共重合体。
【請求項2】 メルトインデックスが1.03〜500g/10分である請求項1記載のオレフィン系共重合体。
【請求項3】 DSCによる融解ピークが100℃未満にある請求項1又は2記載のオレフィン系共重合体。
【請求項4】 下記化合物(A)及び(B)又は(A)、(B)及び(C)を主成分とする触媒を用いて、エチレンと環状ジエンとの共重合又はエチレンと環状ジエンと環状オレフィンとの共重合を行なうことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のオレフィン系共重合体の製造方法。
(A)IVB族の四価の遷移金属を含む遷移金属化合物
(B)遷移金属化合物(A)と反応して反応してイオン性の錯体を形成する化合物
(C)有機アルミニウム化合物
【請求項5】 請求項1〜3のいずれか一項記載のオレフィン系共重合体を含む医療用部材用成形材料。
【請求項6】 請求項1〜3のいずれか一項記載のオレフィン系共重合体を含む自動車用部材用成形材料。
【請求項7】 請求項1〜3のいずれか一項記載のオレフィン系共重合体を含む工業用部材用成形材料。
【請求項8】 請求項1〜3のいずれか一項記載のオレフィン系共重合体を含む包装用フィルム。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、不飽和結合を含むため架橋反応、グラフト反応による変性が可能で、医療用部材、自動車用部材、工業用部材等の成形材料として好適に使用することができるオレフィン系共重合体、その製造方法及びそれを含む各種成形材料、包装用フィルムに関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
従来、ポリオレフィン系樹脂製のフィルム、シートとしては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-酢酸ビニル共重合体などを押出成形又はインフレーション成形したフィルム、シートがあり、包装用材料、テープ、トレー、カップ等に幅広く使用されている。
しかし、従来用いられてきたこれらポリオレフィン系樹脂製のフィルム、シートは、弾性回復性が不十分であるため、引張応力等が働いたときにネッキングが起こり、永久変形が生じるという問題がある。また、弾性率が高いため、包装時に多大のエネルギーを要するという欠点もある。
【0003】
これに対し、本発明者らは、弾性回復性、透明性等に優れたα-オレフィン・環状オレフィン共重合体を先に提案している(特願平3-210142号)。この共重合体は、ガラス転移温度(Tg)が30℃未満であって優れた低温特性を有するものである。
しかしながら、現在、医療分野、自動車外装品分野等では、低温特性とともに高温特性にも優れた樹脂が要望されている。
【0004】
また、現在では、架橋反応、グラフト反応等によって樹脂を変性する方法が実用化されている。例えば、特開昭62-34924号公報には、環状オレフィンとエチレンとのランダム共重合体を架橋する方法が開示され、共重合可能なポリエンとして環状ジエンも示されている。しかし、ここで示された共重合体はガラス転移温度(Tg)が高く、剛性の高いものである。
【0005】
一方、特開平1-197511号公報には、炭素数3〜20のα-オレフィン成分及び環状ポリエン成分、さらに必要に応じて環状オレフィン成分を有するオレフィン系ランダム共重合体が開示されている。しかし、ここで例示されている共重合体は極限粘度が0.2dl/g以下のワックス状のものであって、フィルム、シート等の成形品の材料としては使用できない。
【0006】
また、このようなα-オレフィンと環状ポリエンさらには環状オレフィンとの共重合を行なうにあたり、バナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いる方法(特開昭61-271308号公報)あるいは特定の遷移金属化合物とメチルアルミノキサンとからなる触媒を用いる方法(特開昭61-221206号公報)が知られている。
しかし、これらの方法は、重合活性、特にアルミニウム活性が低い点、また共重合性が不十分な点で、満足できるものではなかった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、弾性回復性、低温特性に優れ、かつ架橋反応、グラフト反応によって変性することにより高温特性、接着性、他樹脂との相溶性などを向上させることが可能なエチレン・環状ジエン二元共重合体及びエチレン・環状ジエン・環状オレフィン三元共重合体、それらの効率的な製造方法並びにそれらを含む各種成形材料及び包装用フィルムを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段及び作用】
本発明者らは、鋭意研究を行なった結果、環状ジエン成分を含む特定のオレフィン系二元又は三元共重合体が、弾性回復性、低温特性に優れているとともに、不飽和結合を含むため架橋反応、グラフト反応による変性が可能で、かつこれらの反応によって軟化温度が上昇し、耐熱性が向上することなど、及び、後述する特定の触媒を用いることにより、このオレフィン系共重合体を効率的に製造できることを知見し、本発明をなすに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、エチレン及び環状ジエンに由来する繰り返し単位又はエチレン、環状ジエン及び環状オレフィンに由来する繰り返し単位からなる共重合体(但し、エチレン以外のα-オレフィンに由来する繰り返し単立は含まず)であって、
エチレン及び環状ジエン又は、エチレン、環状ジエン及び環状オレフィンからなる全含有率を100モル%としたときに、
(1)エチレンに由来する繰り返し単位の含有率が80〜99.9モル%、環状ジエンに由来する繰り返し単位の含有率が5.6〜0.1モル%、環状オレフィンに由来する繰り返し単位の含有率が0〜19.9モル%、
(2)ガラス転移温度(Tg)が30℃以下、
(3)引張弾性率が2000Kg/cm2未満、
であることを特徴とするオレフィン系共重合体を提供する。
【0010】
また、本発明は、下記化合物(A)及び(B)又は(A)、(B)及び(C)を主成分とする触媒を用いて、α-オレフィンと環状ジエンとの共重合又はα-オレフィンと環状ジエンと環状オレフィンとの共重合を行なうことを特徴とする上記のオレフィン系共重合体の製造方法を提供する。
(A)IVB族の四価の遷移金属を含む遷移金属化合物
(B)遷移金属化合物(A)と反応して反応してイオン性の錯体を形成する化合物
(C)有機アルミニウム化合物
ここで、本発明のオレフィン系共重合体の製造方法を図1に示す。
また、本発明は、上記のオレフィン系共重合体を含む各種成形材料及び包装用フィルムを提供する。
【0011】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明のオレフィン系共重合体は、エチレンに由来する繰り返し単位と環状ジエンに由来する繰り返し単位とを有し、さらに必要に応じ環状オレフィンに由来する繰り返し単位を有する。
【0012】
【0013】
【0014】
本発明の環状ジエンは、少なくとも2個の二重結合を有する以下の化合物である。1,3-シクロペンタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、1,4-シクロヘキサジエン、5-エチル-1,3-シクロヘキサジエン、1,3-シクロヘプタジエン、1,4-シクロヘプタジエン、1,3-シクロオクタジエン、1,4-シクロオクタジエン、1,5-シクロオクタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、3-ビニルシクロヘキセン、4-ビニルシクロヘキセン、5-ビニルノルボルネン、5-アリルノルボルネン、5,6-ジエチリデン-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、ジメチルジシクロペンタジエン、
【化1】

これらの中では、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエンが特に好ましい。
【0015】
【0016】
【0017】
【0018】
本発明の環状オレフィンは、ノルボルネン、5-メチルノルボルネン、5-エチルノルボルネン、5-プロピルノルボルネン、5,6-ジメチルノルボルネン、1-メチルノルボルネン、7-メチルノルボルネン、5,5,6-トリメチルノルボルネン、5-フェニルノルボルネン、5-ベンジルノルボルネン、1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレン、2-メチル-1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレン、2-エチル-1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレン、2,3-ジメチル-1、4、5、8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレン、2-ヘキシル-1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレン、2-エチリデン-1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレン、2-フルオロ-1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレン、1,5-ジメチル-1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレン、2-シクロヘキシル-1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレン、2,3-ジクロロ-1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレン、2-イソブチル-1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレン、1,2-ジヒドロジシクロペンタジエン、5-クロロノルボルネン、5,5-ジクロロノルボルネン、5-フルオロノルボルネン、5,5,6-トリフルオロ-6-トリフルオロメチルノルボルネン、5-クロロメチルノルボルネン、5-メトキシノルボルネン、5,6-ジカルボキシルノルボルネンアンハイドレート、5-ジメチルアミノノルボルネン、5-シアノノルボルネンである。これらの中では、ノルボルネン又はその誘導体が特に好ましい。
【0019】
本発明の環状オレフィン系共重合体は、基本的には、上述したようなエチレンと環状ジエン、さらに必要に応じ環状オレフィンを共重合してなるものであるが、本発明の目的を損なわない範囲で、これらの3成分の他に、所望により他の共重合可能な不飽和単量体成分を用いていてもよい。
このような任意に共重合されてもよい不飽和単量体として、具体的には、▲1▼ブタジエン,イソプレン,1,5-ヘキサジエン等の鎖状ジエン類、▲2▼シクロペンテン,シクロヘプテン等の単環オレフィン類等が挙げられる。
【0020】
本発明のオレフィン系共重合体は、エチレン単位の含有率が80〜99.9モル%、環状ジエン単位の含有率が5.6〜0.1モル%、環状オレフィン単位の含有率が0〜19.9モル%のものである。
エチレン単位の含有率が80モル%未満であると低温特性が悪化する。また、環状ジエン単位の含有率が0.1モル%未満であると弾性回復性が低下し、架橋反応、グラフト反応に適さなくなる。
エチレン単位のより好ましい含有率は82〜99.5モル%、特に85〜98モル%、環状ジエン単位のより好ましい含有率は0.5〜5.6モル%、特に2〜5.6モル%、環状オレフィン単位のより好ましい含有率は0〜17.5モル%、特に0〜13モル%である。
【0021】
本発明のオレフィン系共重合体としては、エチレン及び環状ジエンに由来する繰り返し単位又はエチレン、環状ジエン及び環状オレフィンに由来する繰り返し単位が実質上線状に配列した共重合体であることが好ましいが、溶融成形が可能であれば、135℃のデカリン中に溶解しないゲル成分を含んだものであってもよい。
【0022】
本発明のオレフィン系共重合体は、メルトインデックスが1.03〜500g/10分であることが好ましい。メルトインデックスが1.03g/10分未満であると成形性が悪くなることがあり、500g/10分を超えると強度が十分でなくなることがある。より好ましいメルトインデックスは1.03〜300g/10分、特に1.03〜200g/10分である。
【0023】
また、本発明の可溶性であるオレフィン系共重合体は、135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.005〜30dl/gであることが好ましい。極限粘度[η]が0.005dl/g未満であると強度が著しく低下することがあり、30dl/gを超えると成形性が著しく悪くなることがある。より好ましい極限粘度[η]は0.01〜20dl/g、特に0.05〜10dl/gである。
なお、本発明のオレフィン系共重合体は、環状ジエンの種類、量により溶媒に不溶となることがある。
【0024】
本発明のオレフィン系共重合体の分子量は特に制限されるものではないが、可溶性であるオレフィン系共重合体のゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した重量平均分子量Mwが1,000〜2,000,000、特に5,000〜1,000,000、数平均分子量Mnが500〜1,000,000、特に2,000〜800,000であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.3〜4、特に1.4〜3であることが好ましい。分子量分布(Mw/Mn)が4より大きくなると低分子量体の含有量が多くなり、フィルム、シート等に成形したときにべたつきの原因となることがある。
【0025】
また、本発明のオレフィン系共重合体は、X線回折法により測定した結晶化度が0〜40%であることが好ましい。結晶化度が40%を超えると、弾性回復性、透明性が低下することがある。より好ましい結晶化度は0〜30%、特に0〜25%である。
【0026】
さらに、本発明のオレフィン系共重合体は、未架橋の状態で引張弾性率が2000Kg/cm2未満である。引張弾性率が2000Kg/cm2以上であると、例えば包装用フィルムに用いた場合、包装時に多大のエネルギーが必要になると共に、被包装物品の形状に適合した美しい包装が困難となることがある。より好ましい引張弾性率は50〜1,500Kg/cm2である。
【0027】
本発明のオレフィン系共重合体は、ガラス転移温度(Tg)が30℃未満であることが必要である。このような共重合体を用いれば、低温で好適に使用することができるフィルム、シート等が得られる。より好ましいガラス転移温度(Tg)は-30〜20℃、特に-30〜10℃である。
この場合、本発明のオレフィン系共重合体は、単量体の種類、組成を変更することによりガラス転移温度(Tg)を任意に制御することができ、目的とする用途、使用される温度等に応じてガラス転移温度(Tg)を任意に変えることができる。
【0028】
また、本発明のオレフィン系共重合体は、DSCによる融解ピークが100℃未満であることが好ましい。DSCによる融解ピークが100℃以上にあるような共重合体は、エチレン、環状ジエン、環状オレフィンの組成の均一性が不十分で、透明性等の特性が悪化することがある。なお、DSCによる融解ピークは、95℃未満であることがより好ましい。
DSC測定おいて、本発明のオレフィン系共重合体の融点(融解)ピークはシャープにはみられず、特に低結晶化度のものにあっては、通常のポリエチレンの測定条件レベルではほとんどピークがでない。
これら熱的性質の特徴により、前記成形品の物性を得ることができるとともに、成形温度範囲が広くなるなど、高品質の成形品を安定して成形することができる。
【0029】
本発明のオレフィン系共重合体としては、上述した範囲の物性を有するもののみからなる共重合体であってもよく、上記範囲外の物性を有する共重合体が一部含まれていてるものであってもよい。後者の場合には、全体の物性値が上記範囲に含まれていればよい。
【0030】
本発明オレフィン系共重合体の製造方法に限定はないが、下記化合物(A)及び(B)を主成分とする触媒又は下記化合物(A)、(B)及び(C)を主成分とする触媒を用いてα-オレフィンと環状ジエンとの共重合又はα-オレフィンと環状ジエンと環状オレフィンとの共重合を行なうことにより、効率的に製造することができる。
(A)IVB族の四価の遷移金属を含む遷移金属化合物
(B)遷移金属化合物(A)と反応してイオン性の錯体を形成する化合物
(C)有機アルミニウム化合物
【0031】
【0032】
このような遷移金属化合物(A)として、種々のものが挙げられるが、特に下記一般式(I),(II)又は(III)で示されるシクロペンタジエニル化合物又はこれらの誘導体あるいは下記一般式(IV)で示される化合物又はこれらの誘導体が好適である。
CpM1R1aR2bR3c …(I)
Cp2M1R1aR2b …(II)
(Cp-Ae-Cp)M1R1aR2b …(III)
M1R1aR2bR3cR4d …(IV)
【0033】
[(I)〜(IV)式中、M1はTi,Zr又はHf原子を示し、Cpはシクロペンタジエニル基,置換シクロペンタジエニル基,インデニル基,置換インデニル基,テトラヒドロインデニル基,置換テトラヒドロインデニル基,フルオレニル基又は置換フルオレニル基等の環状不飽和炭化水素基又は鎖状不飽和炭化水素基を示す。R1,R2,R3及びR4はそれぞれそれぞれσ結合性の配位子,キレート性の配位子,ルイス塩基等の配位子を示し、σ結合性の配位子としては、具体的に水素原子,酸素原子,ハロゲン原子,炭素数1〜20のアルキル基,炭素数1〜20のアルコキシ基,炭素数6〜20のアリール基,アルキルアリール基若しくはアリールアルキル基,炭素数1〜20のアシルオキシ基,アリル基,置換アリル基,けい素原子を含む置換基等を例示でき、またキレート性の配位子としてはアセチルアセトナート基,置換アセチルアセトナート基等を例示できる。Aは共有結合による架橋を示す。a,b,c及びdはそれぞれ0〜4の整数、eは0〜6の整数を示す。R1,R2,R3及びR4はその2以上が互いに結合して環を形成していてもよい。上記Cpが置換基を有する場合には、当該置換基は炭素数1〜20のアルキル基が好ましい。(II)式及び(III)式において、2つのCpは同一のものであってもよく、互いに異なるものであってもよい。]
【0034】
上記(I)〜(III)式における置換シクロペンタジエニル基としては、例えば、メチルシクロペンタジエニル基,エチルシクロペンタジエニル基,イソプロピルシクロペンタジエニル基,1,2-ジメチルシクロペンタジエニル基,テトラメチルシクロペンタジエニル基,1,3-ジメチルシクロペンタジエニル基,1,2,3-トリメチルシクロペンタジエニル基,1,2,4-トリメチルシクロペンタジエニル基,ペンタメチルシクロペンタジエニル基,トリメチルシリルシクロペンタジエニル基等が挙げられる。また、上記(I)〜(IV)式におけるR1〜R4の具体例としては、例えば、ハロゲン原子としてフッ素原子,塩素原子,臭素原子,ヨウ素原子;炭素数1〜20のアルキル基としてメチル基,エチル基,n-プロピル基,iso-プロピル基,n-ブチル基,オクチル基,2-エチルヘキシル基;炭素数1〜20のアルコキシ基としてメトキシ基,エトキシ基,プロポキシ基,ブトキシ基,フェノキシ基;炭素数6〜20のアリール基,アルキルアリール基若しくはアリールアルキル基としてフェニル基,トリル基,キシリル基,ベンジル基;炭素数1〜20のアシルオキシ基としてヘプタデシルカルボニルオキシ基;けい素原子を含む置換基としてトリメチルシリル基,(トリメチルシリル)メチル基:ルイス塩基としてジメチルエーテル,ジエチルエーテル,テトラヒドロフラン等のエーテル類、テトラヒドロチオフェン等のチオエーテル類、エチルベンゾエート等のエステル類、アセトニトリル,ベンゾニトリル等のニトリル類、トリメチルアミン,トリエチルアミン,トリブチルアミン,N,N-ジメチルアニリン,ピリジン,2,2’-ビピリジン,フェナントロリン等のアミン類、トリエチルホスフィン,トリフェニルホスフィン等のホスフィン類;鎖状不飽和炭化水素としてエチレン,ブタジエン,1-ペンテン,イソプレン,ペンタジエン,1-ヘキセン及びこれらの誘導体;環状不飽和炭化水素としてベンゼン,トルエン,キシレン,シクロヘプタトリエン,シクロオクタジエン,シクロオクタトリエン,シクロオクタテトラエン及びこれらの誘導体等が挙げられる。また、上記(III)式におけるAの共有結合による架橋としては、例えばメチレン架橋,ジメチルメチレン架橋,エチレン架橋,1,1’-シクロヘキシレン架橋,ジメチルシリレン架橋,ジメチルゲルミレン架橋,ジメチルスタニレン架橋等が挙げられる。
【0035】
このような化合物として、例えば下記のもの及びこれら化合物のジルコニウムをチタニウム又はハフニウムで置換した化合物が挙げられる。
(I)式の化合物
(ペンタメチルシクロペンタジエニル)トリメチルジルコニウム、
(ペンタメチルシクロペンタジエニル)トリフェニルジルコニウム、
(ペンタメチルシクロペンタジエニル)トリベンジルジルコニウム、
(ペンタメチルシクロペンタジエニル)トリクロロジルコニウム、
(ペンタメチルシクロペンタジエニル)トリメトキシジルコニウム、
(シクロペンタジエニル)トリメチルジルコニウム、
(シクロペンタジエニル)トリフェニルジルコニウム、
(シクロペンタジエニル)トリベンジルジルコニウム、
(シクロペンタジエニル)トリクロロジルコニウム、
(シクロペンタジエニル)トリメトキシジルコニウム、
(シクロペンタジエニル)ジメチル(メトキシ)ジルコニウム、
(メチルシクロペンタジエニル)トリメチルジルコニウム、
(メチルシクロペンタジエニル)トリフェニルジルコニウム、
(メチルシクロペンタジエニル)トリベンジルジルコニウム、
(メチルシクロペンタジエニル)トリクロロジルコニウム、
(メチルシクロペンタジエニル)ジメチル(メトキシ)ジルコニウム、
(ジメチルシクロペンタジエニル)トリクロロジルコニウム、
(トリメチルシクロペンタジエニル)トリクロロジルコニウム、
(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)トリメチルジルコニウム、
(テトラメチルシクロペンタジエニル)トリクロロジルコニウム、
【0036】
(II)式の化合物
ビス(シクロペンタジエニル)ジメチルジルコニウム、
ビス(シクロペンタジエニル)ジフェニルジルコニウム、
ビス(シクロペンタジエニル)ジエチルジルコニウム、
ビス(シクロペンタジエニル)ジベンジルジルコニウム、
ビス(シクロペンタジエニル)ジメトキシジルコニウム、
ビス(シクロペンタジエニル)ジクロロジルコニウム、
ビス(シクロペンタジエニル)ジヒドリドジルコニウム、
ビス(シクロペンタジエニル)モノクロロモノヒドリドジルコニウム、
ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジメチルジルコニウム、
ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジクロロジルコニウム、
ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジベンジルジルコニウム、
ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ジメチルジルコニウム、
ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ジクロロジルコニウム、
ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ジベンジルジルコニウム、
ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)クロロメチルジルコニウム、
ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ヒドリドメチルジルコニウム、
(シクロペンタジエニル)(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ジクロロジルコニウム、
【0037】
(III)式の化合物
エチレンビス(インデニル)ジメチルジルコニウム、
エチレンビス(インデニル)ジクロロジルコニウム、
エチレンビス(テトラヒドロインデニル)ジメチルジルコニウム、
エチレンビス(テトラヒドロインデニル)ジクロロジルコニウム、
ジメチルシリレンビス(シクロペンタジエニル)ジメチルジルコニウム、
ジメチルシリレンビス(シクロペンタジエニル)ジクロロジルコニウム、
イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(9-フルオレニル)ジメチルジルコニウム、
イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(9-フルオレニル)ジクロロジルコニウム、
[フェニル(メチル)メチレン](9-フルオレニル)(シクロペンタジエニル)ジメチルジルコニウム、
ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(9-フルオレニル)ジメチルジルコニウム、
エチレン(9-フルオレニル)(シクロペンタジエニル)ジメチルジルコニウム、
シクロヘキシリデン(9-フルオレニル)(シクロペンタジエニル)ジメチルジルコニウム、
シクロペンチリデン(9-フルオレニル)(シクロペンタジエニル)ジメチルジルコニウム、
シクロブチリデン(9-フルオレニル)(シクロペンタジエニル)ジメチルジルコニウム、
ジメチルシリレン(9-フルオレニル)(シクロペンタジエニル)ジメチルジルコニウム、
ジメチルシリレンビス(2,3,5-トリメチルシクロペンタジエニル)ジクロロジルコニウム、
ジメチルシリレンビス(2,3,5-トリメチルシクロペンタジエニル)ジメチルジルコニウム、
ジメチルシリレンスビス(インデニル)ジクロロジルコニウム
【0038】
上記一般式(I),(II),(III)で示されるシクロペンタジエニル化合物以外の化合物の例としては、前記(IV)式の化合物が挙げられ、例えば下記化合物あるいはこれらのジルコニウムをハフニウム、チタニウムに置き換えた化合物等のアルキル基、アルコキシ基及びハロゲン原子の1種又は2種以上を持つジルコニウム化合物、ハフニウム化合物、チタニウム化合物が挙げられる。
テトラメチルジルコニウム、
テトラベンジルジルコニウム、
テトラメトキシジルコニウム、
テトラエトキシジルコニウム、
テトラブトキシジルコニウム、
テトラクロロジルコニウム、
テトラブロモジルコニウム、
ブトキシトリクロロジルコニウム、
ジブトキシジクロロジルコニウム、
ビス(2,5-ジ-t-ブチルフェノキシ)ジメチルジルコニウム、
ビス(2,5-ジ-t-ブチルフェノキシ)ジクロロジルコニウム、
ジルコニウムビス(アセチルアセトナート)、
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
次に、化合物(B)としては、遷移金属化合物(A)と反応してイオン性の錯体を形成する化合物であればいずれのものでも使用できるが、カチオンと複数の基が元素に結合したアニオンとからなる化合物、特にカチオンと複数の基が元素に結合したアニオンとからなる配位錯化合物を好適に使用することができる。このようなカチオンと複数の基が元素に結合したアニオンとからなる化合物としては、下記式(V)あるいは(VI)で示される化合物を好適に使用することができる。
([L1-R7]k+)p([M3Z1Z2…Zn](n-m)-)q
…(V)
([L2]k+)p([M4Z1Z2…Zn](n-m)-)q
…(VI)
(但し、L2はM5,R8R9M6,R103C又はR11M6である)
【0044】
[(V),(VI)式中、L1はルイス塩基、M3及びM4はそれぞれ周期律表のVB族,VIB族,VIIB族,VIII族,IB族,IIB族,IIIA族,IVA族及びVA族から選ばれる元素、好ましくは、IIIA族,IVA族及びVA族から選ばれる元素、M5及びM6はそれぞれ周期律表のIIIB族,IVB族,VB族,VIB族,VIIB族,VIII族,IA族,IB族,IIA族,IIB族及びVIIA族から選ばれる元素、Z1〜Znはそれぞれ水素原子,ジアルキルアミノ基,炭素数1〜20のアルコキシ基,炭素数6〜20のアリールオキシ基,炭素数1〜20のアルキル基,炭素数6〜20のアリール基,アルキルアリール基,アリールアルキル基,炭素数1〜20のハロゲン置換炭化水素基,炭素数1〜20のアシルオキシ基,有機メタロイド基又はハロゲン原子を示し、Z1〜Znはその2以上が互いに結合して環を形成していてもよい。R7は水素原子,炭素数1〜20のアルキル基,炭素数6〜20のアリール基,アルキルアリール基又はアリールアルキル基を示し、R8及びR9はそれぞれシクロペンタジエニル基,置換シクロペンタジエニル基,インデニル基又はフルオレニル基、R10は炭素数1〜20のアルキル基,アリール基,アルキルアリール基又はアリールアルキル基をを示す。R11はテトラフェニルポルフィリン、フタロシアニン等の大環状配位子を示す。mはM3,M4の原子価で1〜7の整数、nは2〜8の整数、kは[L1-R7],[L2]のイオン価数で1〜7の整数、pは1以上の整数、q=(p×k)/(n-m)である。]
【0045】
上記ルイス塩基の具体例としては、アンモニア,メチルアミン,アニリン,ジメチルアミン,ジエチルアミン,N-メチルアニリン,ジフェニルアミン,トリメチルアミン,トリエチルアミン,トリ-n-ブチルアミン,N,N-ジメチルアニリン,メチルジフェニルアミン,ピリジン,p-ブロモ-N,N-ジメチルアニリン,p-ニトロ-N,N-ジメチルアニリン等のアミン類、トリエチルフォスフィン,トリフェニルフォスフィン,ジフェニルフォスフィン等のフォスフィン類、ジメチルエーテル,ジエチルエーテル,テトラヒドロフラン,ジオキサン等のエーテル類、ジエチルチオエーテル,テトラヒドロチオフェン等のチオエーテル類、エチルベンゾエート等のエステル類等が挙げられる。M3及びM4の具体例としてはB,Al,Si,P,As,Sb等,好ましくはB又はP、M5の具体例としてはLi,Na,Ag,Cu,Br,I,I3等,M6の具体例としてはMn,Fe,Co,Ni,Zn等が挙げられる。
【0046】
Z1〜Znの具体例としては、例えば、ジアルキルアミノ基としてジメチルアミノ基,ジエチルアミノ基;炭素数1〜20のアルコキシ基としてメトキシ基,エトキシ基,n-ブトキシ基;炭素数6〜20のアリールオキシ基としてフェノキシ基,2,6-ジメチルフェノキシ基,ナフチルオキシ基;炭素数1〜20のアルキル基としてメチル基,エチル基,n-プロピル基,iso-プロピル基,n-ブチル基,n-オクチル基,2-エチルヘキシル基;炭素数6〜20のアリール基,アルキルアリール基若しくはアリールアルキル基としてフェニル基,p-トリル基,ベンジル基,4-ターシャリ-ブチルフェニル基,2,6-ジメチルフェニル基,3,5-ジメチルフェニル基,2,4-ジメチルフェニル基,2,3-ジメチルフェニル基;炭素数1〜20のハロゲン置換炭化水素基としてp-フルオロフェニル基,3,5-ジフルオロフェニル基,ペンタクロロフェニル基,3,4,5-トリフルオロフェニル基,ペンタフルオロフェニル基,3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基;ハロゲン原子としてF,Cl,Br,I;有機メタロイド基として五メチルアンチモン基,トリメチルシリル基,トリメチルゲルミル基,ジフェニルアルシン基,ジシクロヘキシルアンチモン基,ジフェニル硼素基が挙げられる。R7,R10の具体例としては、先に挙げたものと同様なものが挙げられる。R8及びR9の置換シクロペンタジエニル基の具体例としては、メチルシクロペンタジエニル基,ブチルシクロペンタジエニル基,ペンタメチルシクロペンタジエニル基等のアルキル基で置換されたものが挙げられる。ここで、アルキル基は通常炭素数が1〜6であり、置換されたアルキル基の数は1〜5の整数で選ぶことができる。
(V),(VI)式の化合物の中では、M3,M4が硼素であるものが好ましい。
【0047】
(V),(VI)式の化合物の中で、具体的には、下記のものを特に好適に使用できる。
(V)式の化合物
テトラフェニル硼酸トリエチルアンモニウム、
テトラフェニル硼酸トリ(n-ブチル)アンモニウム、
テトラフェニル硼酸トリメチルアンモニウム、
テトラフェニル硼酸テトラエチルアンモニウム、
テトラフェニル硼酸メチルトリ(n-ブチル)アンモニウム、
テトラフェニル硼酸ベンジルトリ(n-ブチル)アンモニウム、
テトラフェニル硼酸ジメチルジフェニルアンモニウム、
テトラフェニル硼酸メチルトリフェニルアンモニウム、
テトラフェニル硼酸トリメチルアニリニウム、
テトラフェニル硼酸メチルピリジニウム、
テトラフェニル硼酸ベンジルピリジニウム、
テトラフェニル硼酸メチル(2-シアノピリジニウム)、
テトラフェニル硼酸トリメチルスルホニウム、
テトラフェニル硼酸ベンジルジメチルスルホニウム、
【0048】
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸トリエチルアンモニウム、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸トリ(n-ブチル)アンモニウム、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸トリフェニルアンモニウム、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸テトラブチルアンモニウム、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸(テトラエチルアンモニウム)、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸(メチルトリ(n-ブチル)アンモニウム)、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸(ベンジルトリ(n-ブチル)アンモニウム)、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸メチルジフェニルアンモニウム、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸メチルトリフェニルアンモニウム、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸ジメチルジフェニルアンモニウム、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸アニリニウム、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸メチルアニリニウム、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸ジメチルアニリニウム、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸トリメチルアニリニウム、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸ジメチル(m-ニトロアニリニウム)、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸ジメチル(p-ブロモアニリニウム)、
【0049】
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸ピリジニウム、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸(p-シアノピリジニウム)、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸(N-メチルピリジニウム)、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸(N-ベンジルピリジニウム)、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸(O-シアノ-N-メチルピリジニウム)、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸(p-シアノ-N-メチルピリジニウム)、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸(p-シアノ-N-ベンジルピリジニウム)、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸トリメチルスルホニウム、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸ベンジルジメチルスルホニウム、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸テトラフェニルホスホニウム、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸トリフェニルホスホニウム、
テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]硼酸ジメチルアニリニウム、
ヘキサフルオロ砒素酸トリエチルアンモニウム、
【0050】
(VI)式の化合物
テトラフェニル硼酸フェロセニウム、
テトラフェニル硼酸銀、
テトラフェニル硼酸トリチル、
テトラフェニル硼酸(テトラフェニルポルフィリンマンガン)、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸フェロセニウム、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸(1,1’-ジメチルフェロセニウム)、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸デカメチルフェロセニウム、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸アセチルフェロセニウム、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸ホルミルフェロセニウム、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸シアノフェロセニウム、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸銀、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸トリチル、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸リチウム、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸ナトリウム、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸(テトラフェニルポルフィリンマンガン)、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸(テトラフェニルポルフィリン鉄クロライド)、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸(テトラフェニルポルフィリン亜鉛)、
テトラフルオロ硼酸銀、
ヘキサフルオロ砒素酸銀、
ヘキサフルオロアンチモン酸銀、
【0051】
また、(V),(VI)式以外の化合物、例えばトリス(ペンタフルオロフェニル)硼素,トリス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]硼素,トリフェニル硼素等も使用可能である。
【0052】
(C)成分である有機アルミニウム化合物としては、下記一般式(VII),(VIII)又は(IX)で示されるものが挙げられる。
R12rAlQ3-r …(VII)
(R12は炭素数1〜20、好ましくは1〜12のアルキル基,アルケニル基,アリール基,アリールアルキル基等の炭化水素基、Qは水素原子、炭素数1〜20のアルコキシ基又はハロゲン原子を示す。rは1≦r≦3の範囲のものである。)
式(VII)の化合物として、具体的には、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジメチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、メチルアルミニウムジクロリド、エチルアルミニウムジクロリド,ジメチルアルミニウムフルオリド,ジイソブチルアルミニウムハイドライド,ジエチルアルミニウムハイドライド,エチルアルミニウムセスキクロリド等が挙げられる。
【0053】
【化2】

(R12は式(VII)と同じものを示す。sは重合度を示し、通常3〜50、好ましくは7〜40である。)で示される鎖状アルミノキサン。
【0054】
【化3】

(R12は式(VII)と同じものを示す。また、sは重合度を示し、好ましい繰り返し単位数は3〜50、好ましくは7〜40である。)
で示される繰り返し単位を有する環状アルキルアルミノキサン。
(VII)〜(IX)式の化合物の中で、好ましいのは炭素数3以上のアルキル基、なかでも分岐アルキル基を少なくとも1個以上有するアルキル基含有アルミニウム化合物又はアルミノキサンである。特に好ましいのは、トリイソブチルアルミニウム又は重合度7以上のアルミノキサンである。このトリイソブチルアルミニウム又は重合度7以上のアルミノキサンあるいはこれらの混合物を用いた場合には、高い活性を得ることができる。さらにアルミノキサンとしては、アルミノキサンを水等の活性水素を有する化合物で変性してなる、一般の溶剤に不溶の変性アルミノキサンであってもよい。
【0055】
前記アルミノキサンの製造法としては、アルキルアルミニウムと水等の縮合剤とを接触させる方法が挙げられるが、その手段に特に限定はなく、公知の方法に準じて反応させればよい。例えば、▲1▼有機アルミニウム化合物を有機溶剤に溶解しておき、これを水と接触させる方法、▲2▼重合時に当初有機アルミニウム化合物を加えておき、後に水を添加する方法、▲3▼金属塩等に含有されている結晶水、無機物や有機物への吸着水を有機アルミニウム化合物と反応させる方法、▲4▼テトラアルキルジアルミノキサンにトリアルキルアルミニウムを反応させ、さらに水を反応させる方法等がある。
【0056】
本発明オレフィン系共重合体の製造に用いる触媒は、上記(A)及び(B)成分あるいは(A)、(B)及び(C)成分を主成分とするものである。
この場合、(A)成分と(B)成分との使用条件は限定されないが、(A)成分:(B)成分の比(モル比)を1:0.01〜1:100、特に1:0.5〜1:10、中でも1:1〜1:5とすることが好ましい。また、使用温度は-100〜250℃の範囲とすることが好ましく、圧力,時間は任意に設定することができる。
【0057】
また、(C)成分の使用量は、(A)成分1モルに対し通常0〜2,000モル、好ましくは5〜1,000モル、特に好ましくは10〜500モルである。(C)成分を用いると重合活性の向上を図ることができるが、あまり多いと有機アルミニウム化合物が重合体中に多量に残存し好ましくない。
【0058】
触媒成分の使用態様には制限はなく、例えば(A)成分,(B)成分を予め接触させ、あるいはさらに接触生成物を分離,洗浄して使用してもよく、重合系内で接触させて使用してもよい。また、(C)成分は、予め(A)成分、(B)成分あるいは(A)成分と(B)成分との接触生成物と接触させて用いてもよい。接触は、あらかじめ接触させてもよく、重合系内で接触させてもよい。さらに、触媒成分は、モノマー、重合溶媒に予め加えたり、重合系内に加えることもできる。なお、触媒成分は、必要により無機あるいは有機の担体に担持して用いることもできる。
【0059】
反応原料に対する触媒の使用割合は、原料モノマー/上記(A)成分(モル比)あるいは原料モノマー/上記(B)成分(モル比)が1〜109、特に100〜107となることが好ましい。
【0060】
重合方法としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、気相重合等のいずれの方法を用いてもよい。また、バッチ法でも連続法でもよい。
重合溶媒を用いる場合、例えば、ベンゼン,トルエン,キシレン,エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、シクロペンタン,シクロヘキサン,メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、ペンタン,ヘキサン,ヘプタン,オクタン等の脂肪族炭化水素、クロロホルム,ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素等を用いることができる。これらの溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上のものを組合せてもよい。また、α-オレフィン等のモノマーを溶媒として用いてもよい。
【0061】
重合条件に関し、重合温度は-100〜250℃、特に-50〜200℃とすることが好ましい。
重合時間は通常1分〜10時間、反応圧力は常圧〜100Kg/cm2G、好ましくは常圧〜50Kg/cm2Gである。
共重合体の分子量の調節方法としては、各触媒成分の使用量や重合温度の選択、さらには水素存在下での重合反応によることができる。
【0062】
本発明のオレフィン系共重合体は、周知の方法によって成形加工することができる。
例えば、単軸押出機、ベント式押出機、二本スクリュー押出機、円錐二本スクリュー押出機、コニーダー、プラティフィケーター、ミクストルーダー、二軸コニカルスクリュー押出機、遊星ねじ押出機、歯車型押出機、スクリューレス押出機などを用いて押出成形、射出成形、ブロー成形、回転成形等を行なうことができる。また、Tダイ成型法、インフレーションン成型法等によりフィルム又はシートを作成することができる。
成形加工にあたっては、必要に応じて周知の添加剤、例えば耐熱安定剤、光安定剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防臭剤、滑剤、合成油、天然油、無機及び有機の充填剤、染料、顔料などを添加してもよい。
【0063】
本発明のオレフィン系共重合体は、低温特性、弾性回復性に優れ、かつ架橋反応、グラフト反応によって高温特性や接着性などが向上するため、かかる特性が要求される用途、例えば各種の医療用部材、自動車用部材、工業用部材、包装用フィルムなどに利用することができる。
【0064】
【実施例】
次に、実施例及び比較例により本発明を具体的に示すが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例において物性測定は次のように行なった。
【0065】
環状ジエン及び環状オレフィン含率
13C-NMRにより決定した。
極限粘度[η]
135℃のデカリン中で測定した。
結晶化度
熱プレスにより作成した試験片を用い、室温においてX線回折法により求めた。
ガラス転移温度(Tg)
測定装置として東洋ボールディング社製バイブロンII-EA型を用い、巾4mm,長さ40mm,厚さ0.1mmの測定片を昇温速度3℃/分、周波数3.5Hzで測定し、この時の損失弾性率(E”)のピークから求めた。
【0066】
融点(Tm)
パーキンエルマー社製7シリーズのDSCによって、10℃/分の昇温速度で、-50℃〜150℃の範囲で測定した。
分子量分布(Mw/Mn)
ウォーターズ社製ALC/GPC-150C[カラム:東ソー社製TSK HM+GMH-6×2]、溶媒:1,2,4-トリクロルベンゼン、温度:135℃、ポリエチレン換算で測定した
引張弾性率
オートグラフを用いてJIS-K7113に従って行なった。
引張破断強度
オートグラフを用いてJIS-K7113に従って行なった。
引張破断伸び
オートグラフを用いてJIS-K7113に従って行なった。
【0067】
弾性回復率
オートグラフを用い、引張速度62mm/分で、巾6mm、クランプ間50mm(L0)の測定片を150%伸ばして引張り、5分間そのままの状態を保った後、はね返させることなく急に収縮させ、1分後にクランプ間のシートの長さ(L1)を測定し、下記式により求めた。
弾性回復率(%)=[1-{(L1-L0)/L0}]×100
この場合、良好な弾性回復率は10%以上、特に30%以上、中でも60%以上である。
全光線透過率、ヘイズ
ディジタルヘイズコンピューター(DIGITAL HAZE COMPUTER)(スガ試験機株式会社社製)を用いてJIS-K7105に準じて測定を行なった。
メルトインデックス(MI)
190℃,2.16kgの条件でJIS-K7210に準じて測定を行なった。
【0068】
実施例1
(1)テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸ジメチルアニリニウムの合成
ブロモペンタフルオロベンゼン152ミリモルとブチルリチウム152ミリモルとから調製したペンタフルオロフェニルリチウムをヘキサン中で45ミリモルの三塩化硼素と反応させ、トリス(ペンタフルオロフェニル)硼素を白色固体として得た。
得られたトリス(ペンタフルオロフェニル)硼素41ミリモルとペンタフルオロフェニルリチウム41ミリモルとを反応させ、リチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼素を白色固体として単離した。
次に、リチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼素16ミリモルとジメチルアニリン塩酸塩16ミリモルとを水中で反応させることにより、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸ジメチルアニリニウムを白色固体として11.4ミリモル得た。
生成物が目的物であることは、1H-NMR,13C-NMRで確認した。
【0069】
(2)エチレンと5-エチリデン-2-ノルボルネンとの共重合
窒素雰囲気下、室温において1リットルのオートクレーブにトルエン400ml、トリイソブチルアルミニウム(TIBA)0.6ミリモル、ビスシクロペンタジエニルジルコニウムジクロライド2マイクロモル、上記(1)で調製したテトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸ジメチルアニリニウム4マイクロモルをこの順番に入れ、続いて5-エチリデン-2-ノルボルネン0.2モルを加え、90℃に昇温したのち、エチレン分圧が7Kg/cm2になるように連続的にエチレンを導入しつつ30分間反応を行なった。
反応終了後、ポリマー溶液を1リットルのメタノール中に投入してポリマーを析出させ、このポリマー濾取,乾燥した。
【0070】
(3)フィルムの成形
上記(2)で得られた共重合体を用いて温度190℃、圧力100Kg/cm2で熱プレス成型を行ない、厚さ0.1mmのフィルムを作成し、各種試験を行なった。
【0071】
参考例2、実施例3〜5,比較例1
触媒成分(A)、環状ジエン、環状オレフィンの種類、量を表1のように変えたこと以外は、実施例1に準じて行なった。なお、比較例1においては重合時間を90分とした。
【0072】
以上の実施例、参考例、比較例における触媒成分、重合成分、重合結果、得られた共重合体の物性及び得られたシートの物性を表1及び表2に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のオレフィン系共重合体は、弾性回復性、低温特性に優れ、かつ架橋反応、グラフト反応によって変性することにより高温特性を向上させることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明オレフィン系共重合体の製造方法を示すフローチャートである。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-01-05 
出願番号 特願平4-92175
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C08F)
P 1 651・ 534- YA (C08F)
P 1 651・ 113- YA (C08F)
P 1 651・ 531- YA (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小出 直也  
特許庁審判長 宮坂 初男
特許庁審判官 石井 あき子
舩岡 嘉彦
登録日 2002-01-11 
登録番号 特許第3268005号(P3268005)
権利者 出光興産株式会社
発明の名称 オレフィン系共重合体及びその製造方法  
代理人 渡辺 喜平  
代理人 渡辺 喜平  
代理人 田中 有子  
代理人 田中 有子  

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