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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C02F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C02F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C02F
管理番号 1114602
異議申立番号 異議2003-70997  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-12-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-04-21 
確定日 2005-01-31 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3336858号「ホウ素含有水の処理方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3336858号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯

本件特許第3336858号は、平成8年5月28日に特許出願され、平成14年8月9日に特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人稲川満智子(以下「申立人」という)より、特許異議の申立てがなされ、取消通知がなされ、その指定期間内の平成16年5月31日付けで訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否

2-1.訂正の内容

本件訂正の内容は、本件特許明細書を、訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、即ち、下記訂正事項に訂正しようとするものである。

訂正事項 (a)【特許請求の範囲】の【請求項1】の
「前記逆抽出剤としてpH12.5以上の逆抽出剤を用いることを特徴とするホウ素含有水の処理方法。」

「前記逆抽出剤としてpH12.5〜13の逆抽出剤を用いてホウ素を逆抽出し、更に、ホウ素を逆抽出した逆抽出剤に酸を添加し、逆抽出剤のpHを8〜11にしてホウ素を晶析させることを特徴とするホウ素含有水の処理方法。」
に訂正をする。

訂正事項 (b)【特許請求の範囲】の【請求項2】を削除する。

訂正事項 (c)段落【0007】の
「前記逆抽出剤としてpH12.5以上の逆抽出剤を用いることを特徴とする。」
を、
「前記逆抽出剤としてpH12.5〜13の逆抽出剤を用いてホウ素を逆抽出し、更に、ホウ素を逆抽出した逆抽出剤に酸を添加し、逆抽出剤のpHを8〜11にしてホウ素を晶析させることを特徴とする。」
と訂正する。

訂正事項 (d)段落【0008】を削除する。

訂正事項 (e)段落【0009】の
「本発明に従って、pH12.5以上の逆抽出剤を用いることにより、ホウ素を効率的に逆抽出することができる。」
を、
「本発明に従って、pH12.5〜13の逆抽出剤を用いることにより、ホウ素を効率的に逆抽出することができる。」
と訂正する。

訂正事項 (f)段落【0011】の
「このように、pH12.5以上の逆抽出剤に逆抽出された」
を、
「このように、pH12.5〜13の逆抽出剤に逆抽出された」
と訂正する。

訂正事項 (g)段落【0020】の
「pH12.5以上の逆抽出剤と接触させてホウ素を逆抽出する。」
を、
「pH12.5〜13の逆抽出剤と接触させてホウ素を逆抽出する。」
に、
また、
「逆抽出剤のpHは12,5〜13.0程度であることが好ましい。」

「逆抽出剤のpHは12,5〜13.0とする。」
と訂正する。

訂正事項 (h)段落【0021】の
「酸添加後の逆抽出剤のpHが7〜12、特に8〜11となるように添加するのが好ましい。」
を、
「酸添加後の逆抽出剤のpHが8〜11となるように添加する。」
と訂正する。

訂正事項 (i)段落【0029】の
「配管21よりアルカリを添加してpH12.5以上に調整したアルカリ水溶液を用いる。」
を、
「配管21よりアルカリを添加してpH12.5〜13に調整したアルカリ水溶液を用いる。」
と訂正する。

訂正事項 (j)段落【0033】の
「表1より、pH12.5以上の逆抽出剤であれば、ホウ素を効率的に逆抽出できることが明らかである。」
を、
「表1より、pH12.5〜13の逆抽出剤であれば、ホウ素を効率的に逆抽出できることが明らかである。」
と訂正する。

訂正事項 (k)段落【0042】の
「表3より、酸を添加して好ましくはpH7〜12、より好ましくはpH8〜11に調整することにより、晶析効率が向上することがわかる。」
を、
「表3より、酸を添加してpH8〜11に調整することにより、晶析効率が向上することがわかる。」
と訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否

上記訂正事項(a)は、【請求項1】において、使用する逆抽出剤のpHの上限値を「13」に限定し、また、晶析時の逆抽出剤のpHを「8〜11」に調整することを限定するものであるから、上記訂正事項(a)は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
また、上記訂正事項(b)は、【請求項2】を削除するものであるから、上記訂正事項(b)は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
さらに、上記訂正事項(c)〜(k)は、上記請求項1の訂正に整合させるためであって、明りようでない記載の釈明を目的とする訂正に該当するものである。
そして、訂正事項(a)〜(k)は、特許明細書段落【0020】【0021】【0043】に基づくものであり、上記訂正事項(a)〜(k)は、いずれも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2-3.まとめ

以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断

3-1.訂正後の本件請求項1に係る発明

訂正後の本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記2.で示したように、上記訂正が認められるから、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(上記2-1.の訂正事項参照)
「【請求項1】 ホウ素含有水をイオン交換樹脂と接触させた後、該イオン交換樹脂を酸と接触させて再生し、この再生廃液を抽出剤と接触させてホウ素を抽出した後、ホウ素を抽出した抽出剤を逆抽出剤と接触させてホウ素を逆抽出するホウ素含有水の処理方法において、前記逆抽出剤としてpH12.5〜13の逆抽出剤を用いてホウ素を逆抽出し、更に、ホウ素を逆抽出した逆抽出剤に酸を添加し、逆抽出剤のpHを8〜11にしてホウ素を晶析させることを特徴とするホウ素含有水の処理方法。」

3-2.特許異議の申立ての理由の概要

申立人は、証拠として甲第1〜3号証を提示し、下記の理由により、訂正前の本件請求項1、2に係る特許を取り消すべきと主張している。

【理由1】訂正前の本件請求項1、2に係る発明は、下記の刊行物1に記載された発明であるから、訂正前の本件請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。

刊行物1:" JOURNAL OF CHEMICAL ENGINEERING OF JAPAN", Vol.23, No.4, August 1990, p.480〜485(甲第1号証)

【理由2】訂正前の本件請求項1、2に係る特許は、特許法第36条第4項又は第6項の規定に違反してなされたものである。

3-3.刊行物1の記載

(i)「石炭フライアッシュからのホウ素の回収と精製についての研究を行い次の結果を得た。
1)・・・希硫酸を用いてフライアッシュ中の72%のホウ素を浸出することができた・・・
2)この浸出液を次いでグルカミック型の官能基を有するキレート形成樹脂を用いる選択的吸着によりホウ素含有量を濃縮した。この濃縮は充填カラムを用いて行った。溶出は2.0Nの硫酸を用いて実行した。・・・
3)最後にホウ素は2-エチル-1,3-ヘキサンジオールを抽出剤として用いる溶剤抽出により不純物をラフィネート中に在留させて精製した。ホウ素は硼砂として回収した。」(第484頁左欄第25行〜同右欄第10行)
(ii)「種々の濃度の水酸化ナトリウム溶液がストリッピング溶液として用いられた。結果は第6図に示される。ストリッピングは1.0mol / dm3の水酸化ナトリウム溶液で完結し、硼砂Na2B4O7・10H2Oを生成する。硼砂は結晶化により溶液から回収することができる。」(第484頁左欄第19〜24行)
(iii)上記第6図によると、10ー1mol / dm3の水酸化ナトリウムでもストリッピングが完結していることがわかる。

3-4.当審における判断

3-4-1.特許法第29条第1項第3号について

刊行物1の(i)、(ii)、(iii)の記載によれば、刊行物1には「ホウ素含有浸出液をグルカミン型キレート樹脂と接触させてホウ素を選択的に吸着し、該グルカミン型キレート樹脂に吸着したホウ素を硫酸で溶出し、該酸溶出液中のホウ素を2-エチル-1,3-ヘキサンジオールにより抽出し、その抽出液を10-1mol / dm3の水酸化ナトリウムで逆抽出し、最終的に硼砂として回収する方法」(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。
本件発明と刊行物1発明とを本件発明に沿って整理して対比すると、刊行物1発明の「ホウ素含有浸出液」は本件発明の「ホウ素含有水」に対応し、刊行物発明1の「グルカミン型キレート形成樹脂と接触させてホウ素を選択的に吸着し」は、本件発明の「ホウ素含有水をイオン交換樹脂と接触させ」に対応し、刊行物1の「該グルカミン型キレート樹脂に吸着したホウ素を硫酸で溶出し」は、本件発明の「イオン交換樹脂を酸と接触させて再生し」に対応し、刊行物1の「ホウ素は2-エチル-1,3-ヘキサンジオールにより抽出し」は、本件発明の「この再生廃液を抽出剤と接触させてホウ素を抽出した」に対応し、刊行物1発明の「その抽出液を水酸化ナトリウムで逆抽出し」は、本件発明の「ホウ素を抽出した抽出剤を逆抽出剤と接触させてホウ素を逆抽出する」に対応し、刊行物1の「10-1mol / dm3の水酸化ナトリウム」は、本件発明の「pH12.5〜13の逆抽出剤」と重複し、刊行物1発明の「最終的に硼砂として回収する方法」は本件発明の「ホウ素を晶析させることを特徴とするホウ素含有水の処理方法」に対応しているので、
両者は「ホウ素含有水をイオン交換樹脂と接触させた後、該イオン交換樹脂を酸と接触させて再生し、この再生廃液を抽出剤と接触させてホウ素を抽出した後、ホウ素を抽出した抽出剤を逆抽出剤と接触させてホウ素を逆抽出するホウ素含有水の処理方法において、前記逆抽出剤としてpH13の逆抽出剤を用いてホウ素を逆抽出し、ホウ素を晶析させることを特徴とするホウ素含有水の処理方法」の点で一致し、
本件発明では「ホウ素を逆抽出した逆抽出剤に酸を添加し、ホウ素を晶析させるときの逆抽出剤のpHを8〜11にしてホウ素を晶析させる」と規定しているのに対し、刊行物1記載の発明では「硼砂を結晶化」させると記載するにとどまり、pH値についての記載がない点で相違している。
そして、本件発明は、実施例3(【0041】〜【0043】)より明らかなように、ホウ素の晶析時のpH値として「8〜11」を選択することにより、顕著な晶析効率を得ており、この点を自明の事項とすることはできない。
なお、申立人は、回答書において甲第4号証を引用し、Na2B4O7の水溶液のpHが約9.5であることを指摘して、硼砂回収における最大収率を挙げる条件を意味すると主張しているが、上記記載は、硼酸ナトリウム水溶液のpHを記載したにすぎず、本件発明のホウ素の晶析時のpH値を示唆するものでないところから、これらを検討してみても上記の判断は左右されるものではない。

したがって、本件発明は、上記刊行物1に記載された発明に該当しない。

3-4-2.特許法第36条第4項又は第6項について

申立人は、元素状のホウ素をイオン交換樹脂で捕捉したり、これを酸で再生することは技術常識上考えられないので、イオン形態を取り得るホウ素化合物を指すものであるはずであるから、請求項における「ホウ素」との表現は正確でなく、しかもイオン形態を取り得るホウ素化合物が如何なるものであるかについて、発明の詳細な説明の欄に明示の記載がないことから、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていないと主張する。
しかし、イオン交換、抽出、逆抽出、晶析等の各工程に対応してホウ素化合物の形態が変化することは周知のことであるから、それぞれについての記載がないことをもって、明細書の記載不備が存在するとは言えず、申立人の主張を採用することはできない。

4.まとめ

以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ホウ素含有水の処理方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ホウ素含有水をイオン交換樹脂と接触させた後、該イオン交換樹脂を酸と接触させて再生し、この再生廃液を抽出剤と接触させてホウ素を抽出した後、ホウ素を抽出した抽出剤を逆抽出剤と接触させてホウ素を逆抽出するホウ素含有水の処理方法において、
前記逆抽出剤としてpH12.5〜13の逆抽出剤を用いてホウ素を逆抽出し、更に、ホウ素を逆抽出した逆抽出剤に酸を添加し、逆抽出剤のpHを8〜11にしてホウ素を晶析させることを特徴とするホウ素含有水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はホウ素含有水の処理方法に係り、特に、ホウ素含有水をイオン交換樹脂で処理する方法において、イオン交換樹脂の再生廃液からホウ素を抽出し、更に、ホウ素を抽出した抽出剤からホウ素を効率的に逆抽出して回収する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ホウ素化合物は、医薬、化粧品原料、石鹸工業、電気メッキ等の種々の分野で幅広く利用されており、これらの製造工程からはホウ素化合物を含有する廃水が排出される。また、原子力発電所から発生する放射性廃液、地熱発電廃水、あるいは排煙脱硫又は脱硝廃水、ゴミ焼却洗煙廃水等にもホウ素化合物が含まれている。
【0003】
これらのホウ素含有水の処理方法として、イオン交換樹脂によりホウ素を吸着除去する方法が知られている。そして、このホウ素を吸着したイオン交換樹脂を酸と接触させて再生するに当たり、再生廃液を抽出剤と接触させてホウ素を抽出し、抽残液をアニオン交換樹脂の再生用液として再利用する方法が提案されている(特公平1-50476号公報)。
【0004】
この特公平1-50476号公報では、抽出剤として、オクチレングリコール、2-エチルヘキサノール、4-t-ブチルカテコール等を用いる。また、ホウ素を抽出した抽出剤を、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液、炭酸ナトリウム(Na2CO3)水溶液等の逆抽出剤と接触させてホウ素を逆抽出し、更に、ホウ素を逆抽出した逆抽出剤からホウ素を晶析させて回収する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記特公平1-50476号公報では、ホウ素を抽出した抽出剤を逆抽出する際の好適な逆抽出条件や、ホウ素を逆抽出した逆抽出剤からホウ素を晶析回収する際の好適な晶析条件が明らかにされておらず、十分な逆抽出ないし晶析効率が得られない場合があった。
【0006】
本発明は上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、ホウ素含有水をイオン交換樹脂と接触させて処理した後のイオン交換樹脂の再生廃液から、ホウ素を効率的に抽出すると共に、ホウ素を抽出した抽出剤からホウ素を効率的に逆抽出し、更に、ホウ素を逆抽出した逆抽出剤から、ホウ素を効率的に晶析させて回収することができるホウ素含有水の処理方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
請求項1のホウ素含有水の処理方法は、ホウ素含有水をイオン交換樹脂と接触させた後、該イオン交換樹脂を酸と接触させて再生し、この再生廃液を抽出剤と接触させてホウ素を抽出した後、ホウ素を抽出した抽出剤を逆抽出剤と接触させてホウ素を逆抽出するホウ素含有水の処理方法において、前記逆抽出剤としてpH12.5〜13の逆抽出剤を用いてホウ素を逆抽出し、更に、ホウ素を逆抽出した逆抽出剤に酸を添加し、逆抽出剤のpHを8〜11にしてホウ素を晶析させることを特徴とする。
【0008】
【0009】
種々の研究の結果、ホウ素を処理したイオン交換樹脂の再生廃液からホウ素を抽出し、このホウ素を抽出した抽出剤からホウ素を逆抽出する場合、逆抽出剤のpHが逆抽出効率に大きく影響することが見出された。本発明に従って、pH12.5〜13の逆抽出剤を用いることにより、ホウ素を効率的に逆抽出することができる。
【0010】
このように、比較的pHの高い逆抽出剤を用いることで、ホウ素の逆抽出効率が向上する理由は、逆抽出機構が、下記式の如く、抽出剤中のホウ酸と、逆抽出剤中のアルカリとの反応よりなり、逆抽出効率は、アルカリ濃度が高い程向上するためと推定される。
【0011】
4H3BO3+2NaOH+3H2O→Na2B4O7・10H2O
また、このように、pH12.5〜13の逆抽出剤に逆抽出されたホウ素の溶解度を、酸を添加することで下げることにより、ホウ素化合物の結晶(Na2B4O7)を効率的に析出させて回収することができる。
【0012】
本発明によれば、ホウ素を抽出した抽出剤から、ホウ素を効率的に逆抽出することで、逆抽出後の抽出剤を再使用して、再生廃液中のホウ素を効率的に抽出することが可能となる。また、逆抽出剤からホウ素を効率的に晶析回収することで、ホウ素を晶析除去した後の逆抽出剤を再使用して、抽出剤の逆抽出をより一層効率的に行うことが可能となる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下に図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明においては、処理対象とするホウ素含有水は、前述の種々のホウ素利用産業分野から排出されるホウ素含有廃水、原子力発電所から発生する放射性廃液、地熱発電廃水、排煙脱硫又は脱硝廃水、ゴミ焼却洗煙廃水、その他各種のホウ素を含有する水であり、これらの水中に、ホウ素は、通常、BO33-の形で含有されている。
【0015】
本発明においては、まず、このようなホウ素含有水をイオン交換樹脂と接触させて処理し、含有されるホウ素を吸着除去する。
【0016】
このイオン交換樹脂による処理は、好ましくは、弱塩基性アニオン交換樹脂や、N-(置換)グルカミン型キレート樹脂を用い、pH9以上で実施される。
【0017】
ホウ素含有水を処理したイオン交換樹脂は、酸と接触させて再生処理する。この再生のための酸としては、硫酸、塩酸、硝酸等の鉱酸を用いることができる。酸との接触により、イオン交換樹脂に吸着されたホウ素は溶離し、ホウ素を高濃度で含有する再生廃液が得られる。一方、酸による処理により、ホウ素を溶離させた樹脂は、必要に応じて水酸化ナトリウム等で処理してOH形にした後、再びホウ素含有水の処理に用いることができる。
【0018】
本発明においては、このようにしてイオン交換樹脂の再生により得られる再生廃液を、まず、抽出剤、好ましくは2-エチルヘキサノールを含む抽出剤と接触させてホウ素を抽出する。使用する抽出剤としては、2-エチルヘキサノールのみ、又は2-エチルヘキサノールにケロシン(燈油)や、その他、ヘプタン、ノナン、デカン、クロロホルム、四塩化炭素、キシレン、ベンゼン等の抽出溶媒を混合したもの、例えば、ケロシンの場合、2-エチルヘキサノール:ケロシン=1:0.1〜2(容量比)で混合して希釈したものを用いるのが好適である。
【0019】
この抽出処理により、再生廃液中のホウ素は極めて高効率で抽出除去されるため、抽残液はそのままイオン交換樹脂の再生液として使用することができる。
【0020】
次いで、ホウ素を抽出した抽出剤を、pH12.5〜13の逆抽出剤と接触させてホウ素を逆抽出する。この逆抽出に当り、逆抽出剤のpHが12.5未満であると、ホウ素を効率的に逆抽出することができない。逆抽出剤のpHは過度に高いと、後工程の晶析に際して、pHを下げるための酸の添加量が増大し、また、逆抽出剤のpHが12.5以上であれば、pH値の上昇に対して逆抽出性能が大きく変わることはないため、逆抽出剤のpHは12.5〜13.0とする。逆抽出剤としては、NaOH水溶液、Na2CO3水溶液等のアルカリ水溶液を用いることができる。
【0021】
更に、ホウ素を逆抽出した逆抽出剤に酸を添加して、ホウ素を晶析させる。ここで、再生廃液としては、硫酸、塩酸、硝酸等の鉱酸を用いることができ、酸添加後の逆抽出剤のpHが8〜11となるように添加する。酸の添加量が少なく、酸添加後のpHが高いと、ホウ素の溶解度を低くすることができず、逆に、酸の添加量が過度に多く、酸添加後のpHが中性付近になると、ホウ素の溶解度が再び上昇して(Na2B4O7がH3BO3となるためと推定される。)、いずれの場合も晶析効率が十分でなくなるため、pHを上記範囲に調整することが重要である。
【0022】
晶析したホウ素化合物の結晶(ホウ酸ナトリウム)は、これを常法に従って固液分離することにより容易に回収することができ、晶析回収したホウ素化合物は、そのまま、又は、必要に応じて水洗又は熱水に溶解した後冷却し、再結晶するなどの処理を施して更に純度を上げた後、各種産業分野のホウ素原料として有効に利用することができる。一方、ホウ素を除去した後の逆抽出剤は、アルカリでpH調整することにより、逆抽出剤として再使用することができる。
【0023】
次に本発明の実施の一例を図1を参照して更に詳細に説明する。
【0024】
図1は本発明のホウ素含有水の処理方法の好適な実施例を示す。1はイオン交換塔、2は抽出塔、3は逆抽出塔、4はpH調整槽、5は晶析槽である。
【0025】
原水であるホウ素含有水は配管11よりまずイオン交換塔1に送給し、イオン交換樹脂と接触処理し、処理水は配管12より系外へ排出する。
【0026】
イオン交換塔1内のイオン交換樹脂がホウ素で飽和した段階で、原水の供給を停止し、再生液を配管13より通液して、イオン交換樹脂に交換吸着されたホウ素を溶離させる。
【0027】
再生により生じた再生廃液は配管14より抽出塔2内に供給し、配管15より導入される2-エチルヘキサノールを含む抽出剤と接触させてホウ素を抽出除去する。抽出により得られる抽残液は配管16より抜き出し、必要に応じて配管17より酸を補給した後、配管13を経て再生液としてイオン交換塔1に循環再利用される。
【0028】
一方、ホウ素を抽出した抽出剤は、配管18より逆抽出塔3に供給し、配管19より導入される逆抽出剤と接触させて、ホウ素を逆抽出除去する。逆抽出によりホウ素を除去した抽出剤は、廃液20,15より抽出塔2に送給され、循環再使用される。
【0029】
本実施例においては、逆抽出剤として、後段の晶析槽5でホウ素化合物の結晶を晶析回収した後の逆抽出剤に、pH調整槽4において、配管21よりアルカリを添加してpH12.5〜13に調整したアルカリ水溶液を用いる。
【0030】
逆抽出塔3でホウ素を逆抽出した逆抽出剤は、配管22より抜き出され、配管23より酸が添加されて、pH調整された後、晶析槽5に導入される。晶析槽5で析出したホウ素化合物の結晶は、配管24より抜き出される。一方、逆抽出剤は配管25よりpH調整槽4に送給され、前述の如く、pH調整された後、逆抽出に循環再使用される。
【0031】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0032】
実施例1
ホウ素含有水をN-メチルグルカミン型キレート樹脂と接触させた後、この樹脂を硫酸で再生して、3300mg-B/L含む再生廃液を得た。この再生廃液を、2-エチルヘキサノールとケロシンとを1:1の容量比で混合した抽出剤と、再生廃液:抽出剤=1:4(容量比)で接触させて抽出したところ、抽出剤のホウ素濃度は580mg-B/Lとなった。抽出後の抽出剤を、逆抽出剤として、表1に示すpHのNaOH水溶液を、表1に示す割合で用いて逆抽出し、逆抽出率(抽出剤中のホウ素が逆抽出剤中に逆抽出される割合:逆抽出率100%であれば、抽出剤中のホウ素濃度は0となる。)を調べ、結果を表1に示した。
【0033】
表1より、pH12.5〜13の逆抽出剤であれば、ホウ素を効率的に逆抽出できることが明らかである。
【0034】
【表1】

【0035】
実施例2
ミキサー部容量3L、セトラー部容量24Lの抽出塔を5塔直列に設置し、ホウ素を4000mg/L含有するイオン交換樹脂の再生廃液を10.5L/hrで供給すると共に、実施例1で用いたものと同様の抽出剤を42L/hrで供給してホウ素の抽出を行った。
【0036】
逆抽出塔として上記と同様の抽出塔を1塔用いて、ホウ素を抽出した抽出剤を42L/hrで供給すると共に、逆抽出剤としてpH13のNaOH水溶液を10.5L/hrで供給して逆抽出を行い、逆抽出後の抽出剤を前記抽出工程に循環使用した。
【0037】
更に、逆抽出後の逆抽出剤に硫酸を添加してpH9.7に調整して晶析を行った。その後、晶析後の逆抽出剤にNaOHを加えてpH13.0に調整し、再度、上記と同様の逆抽出に使用した。
【0038】
抽出塔出口の再生廃液のホウ素濃度、逆抽出塔出口の逆抽出剤のホウ素濃度、晶析槽出口の逆抽出剤のホウ素濃度をそれぞれ調べ、結果を表2に示した。
【0039】
比較のため、逆抽出後の逆抽出剤に硫酸を添加しなかったこと以外は上記と同様に行った。その結果、経時により、逆抽出塔にホウ酸ナトリウムの結晶が析出し、撹拌機のスケールトラブルで運転を継続することが不可能となった。定常運転時の各部のホウ素濃度は、表2に示す通りであり、抽出、逆抽出及び晶析の効率はいずれも本発明例に比べて著しく劣るものであった。
【0040】
【表2】

【0041】
実施例3
実施例2の逆抽出塔出口の逆抽出剤(ホウ素を11100mg/L含むNaOH水溶液)に硫酸を添加して表3に示すpHに調整し、結晶の析出量を調べ、結果を表3に示した。
【0042】
表3より、酸を添加してpH8〜11に調整することにより、晶析効率が向上することがわかる。
【0043】
【表3】

【0044】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明のホウ素含有水の処理方法によれば、ホウ素含有水をイオン交換樹脂と接触させて処理した後のイオン交換樹脂の再生廃液から、ホウ素を効率的に抽出すると共に、ホウ素を抽出した抽出剤からホウ素を効率的に逆抽出し、更に、ホウ素を逆抽出した逆抽出剤から、ホウ素を効率的に晶析回収することができる。
【0045】
このため、本発明によれば、再生廃液、抽出剤、逆抽出剤及び晶析回収したホウ素化合物を各々有効に再利用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明のホウ素含有水の処理方法の一実施例方法を示す系統図である。
【符号の説明】
1 イオン交換塔
2 抽出塔
3 逆抽出塔
4 pH調整槽
5 晶析槽
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-01-12 
出願番号 特願平8-133606
審決分類 P 1 651・ 537- YA (C02F)
P 1 651・ 113- YA (C02F)
P 1 651・ 536- YA (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 齊藤 光子中村 敬子  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 西村 和美
中村 泰三
登録日 2002-08-09 
登録番号 特許第3336858号(P3336858)
権利者 電源開発株式会社 関西電力株式会社 栗田工業株式会社
発明の名称 ホウ素含有水の処理方法  
代理人 重野 剛  
代理人 重野 剛  
代理人 重野 剛  
代理人 重野 剛  

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