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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E21D
管理番号 1115259
審判番号 不服2004-21963  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2003-10-15 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-10-25 
確定日 2005-04-11 
事件の表示 特願2002-97149「空洞部の限定注入工法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月15日出願公開、特開2003-293691〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年(2002年)3月29日に出願された特願2002-97149号の特許出願であって、原審において平成16年6月15日付けで拒絶理由を通知したところ、平成16年8月20日付けの意見書が提出され、その後の前記拒絶理由による平成16年9月8日付けの拒絶査定に対し、拒絶査定不服審判の請求が平成16年10月25日になされたものである。

第2 本願発明
当審の審理の対象とすべき本願の発明は、出願当初の明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、これを「本願発明1」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】空洞部に塊状物を積み上げて仕切壁を作成する第1工程と、該仕切壁に可塑性注入材を付加する第2工程と、該仕切壁によって仕切られた空洞部に注入材を注入する第3工程とからなることを特徴とする空洞部の限定注入工法。」

第3 引用刊行物における記載事項
原審における拒絶査定の理由に引用された、本願の特許出願前に頒布された刊行物である特開平9-125900号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、「地下空間の埋戻方法」に関し、図面の図示とともに次の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】地下空間の限定空間域に埋戻材を充填して埋め戻す方法において、土砂に加水し固化材を混入した流動性の異なるスラリー状の流動化処理土を組み合わせて使用し、低流動性流動化処理土で堤体を築造する第1工程と、堤体で画成された空間域に高流動性流動化処理土を注入する第2工程とより構成することを特徴とする、地下空間の埋戻方法。
【請求項2】地下空間の限定空間域に埋戻材を充填して埋め戻す方法において、土砂に加水し固化材を混入した流動性の異なるスラリー状の流動化処理土を組み合わせて使用し、低流動性流動化処理土で一定距離を隔てて堤体を築造する第1工程と、堤体間に高流動性流動化処理土を注入する第2工程とを繰り返すことを特徴とする、地下空間の埋戻方法。
【請求項3】請求項1又は請求項2において、流動性の低い流動化処理土で小山を複数設け、該小山の間に流動性の低い流動化処理土を充填してより高い小山を形成して堤体を築造することを特徴とする、地下空間の埋戻方法。
【請求項4】請求項1〜3のいずれかにおいて、堤体上部の間隙に高い粘着力を有する低流動性流動化処理土のコーキング材を注入して限定空間を画成すると共に、堤体上部に注入管と廃棄管とを位置させたことを特徴とする、地下空間の埋戻方法。
【請求項5】請求項1〜4のいずれかにおいて、堤体間に流動性が上層へ向けて徐々に高くなる流動化処理土を階層的に充填することを特徴とする、地下空間の埋戻方法。
【請求項6】地下空間の限定空間域に埋戻材を充填して埋め戻す方法において、土砂に加水した流動性の異なるスラリー状の流動化処理土を組み合わせて使用し、空間奥側から低流動性流動化処理土を埋戻材として充填する第1工程と、前記埋戻材と空間上部の間隙に高い粘着力を有する低流動性流動化処理土のコーキング材を注入する第2工程とを繰り返すことを特徴とする、地下空間の埋戻方法。
【請求項7】請求項6において、流動性の低い流動化処理土で小山を複数設け、該小山の間に流動性の高い流動化処理土を充填してより高い小山を形成して埋戻材を築造することを特徴とする、地下空間の埋戻方法。」
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は廃坑や不要となった採掘跡の埋め戻しや各種地下空洞の埋め戻しに適用できる、地下空間の埋戻技術に関する。
【0002】【従来の技術】地下空間の埋め立て処理に使用する埋戻材としては、丸1 スラリー状の骨材を用いたセメント系埋戻材や 丸2 良質土砂が知られており、埋め立て容積や空間の向きに応じて使い分けている。
【0003】【発明が解決しようとする課題】前記した廃土を地下空間の埋戻材として利用するためには次のような改善すべき点がある。
<イ>前者の埋戻材にあっては固化材を大量に必要とすることから埋立コストが高くつき、また後者の方法にあっては充填性が悪く未充填空間が発生し易い。
このように埋戻材の充填性は埋戻材の流動性に多きく影響され、良好な流動性を確保するために含水率を非常に高く設定するほど土砂の混入率(使用量)が低くなり、反対に土砂の使用量を優先させると埋戻材の流動性が低下して充填性が悪くなり、土砂の使用率と流動性の両条件を同時に達成することが困難である。
<ロ>出願人は処分に困窮している各種建設現場で発生する大量の残土を地下空間の埋戻材として利用することについて研究を進めている。
そして地下空間内に充填するには流動性の高い埋戻材の流出防止を図るため地下空間内に土のう等で仮壁(堤体)を作る必要がある。
しかしながらこの方法にあっては、仮壁の仮設費用がかさむうえに、仮壁の奥側における埋戻材の充填状況が外部から確認し難く全域充填に対する信頼性の点で不安が残るといった新たな課題が判明した。
【0004】本発明は以上の点に鑑みて成されたもので、その目的とするところはつぎの地下空間の埋戻方法を提供することにある。
丸1 廃土の有効利用が図れ、自然環境への悪影響が少ない、地下空間の埋戻方法。
丸2 地下空間を隅々まで充填でき、充填性に対する信頼性の高い、地下空間の埋戻方法。
丸3 施工性に優れ、かつ施工コストを低く押さえられる、地下空間の埋戻方法。」
「【0007】<イ>堤体の形成
図2は地下採石場、不要トンネルや地下空洞などの地下空間10の縦断面図を示す。この地下空間10の一定範囲を埋め戻す場合は次の手順に従う。
まず、地下空間10の埋め戻し範囲の両側に、高い粘着力を有する低流動性流動化処理土を主体とする堤体20を構築し、堤体20の上部と坑壁天井部の間隙箇所に低流動性の流動化処理土を主体とするコーキング材22を充填して地下空間10を閉塞する。この際、図3に示すように一方の堤体20の上部に注入管11と排気管12を位置させる。
流動化処理土は建設現場で発生する廃土等の土砂に調整泥水又は現場から回収した泥水(均一比重に調整した泥水を含む)と固化材を加えて混練したスラリー状物で、土砂の配合量が増すほど流動性が低くなり、土砂の配合量が減るほど流動性が高くなり、図示しないポンプ圧送或いは地上部に設置した供給源との落差を利用して地下空間10内にホース輸送して放出される。
堤体20用の流動性の低い流動化処理土としては、例えばフロー値が80〜150、比重が1.9〜1.5程度で、好ましくはフロー値が80〜90、比重が1.10、泥水混合比0.25、処理土の単位体積重量1.9t/m3 、セメント系固化材使用量100kg/m3 が望ましい。
またコーキング材22用流動性の高い流動化処理土としては、例えばフロー値が200、比重が1.10、泥水混合比0.6、処理土の単位体積重量1.4t/m3 、セメント系固化材使用量100kg/m3 程度である。
また堤体20の築造に際し、流動化処理土を吐出させて一度に構築することが困難であるから、図2の破線で示すように隣り合うように構築した断面かまぼこ型の小山21の上部間に同様に断面かまぼこ型の小山21を順次盛り上げるように複数に分けて構築する。
【0008】<ロ>堤体間の埋戻
堤体20、20を築造して地下空間10を遮蔽したら、注入管11を通じて遮蔽空間内にスラリー状の埋戻材23を注入する。
埋戻材23の注入に際して、徐々に流動性の低い流動化処理土から流動性のやや低い流動化処理土を注入して限定空間の大半を埋め、地下空間10の上部に残された空隙には流動性の高い例えばフロー値200、比重1.4程度のセルフレベリング性の高い流動処理土を圧入する。排気管12から流動性の高い流動処理土の逆流を目視して確認したら、埋戻材23の充填を終了する。」
「【0013】【発明の効果】本発明は以上説明したようになるから次のような効果を得ることができる。
<イ>流動性の異なる流動化処理土を堤体や埋戻材として使用できる。したがって、廃土の使用率の向上と充填性確保の両条件を同時に達成できる。
<ロ>低流動性の流動化処理土は土砂の含有率が高いので、大量の廃土を有効に活用でき、また自然環境の保護の点でも有効である。
<ハ>流動化処理土を孔奥側から短い区間単位で充填するので、充填状況を目視しながら効率的に地下空間を隅々まで充填することができる。
<ニ>設置に多くの手数や費用がかかる土のう等の堤体は一切不要となり、しかも流動化処理土の流動性は土砂の含有量に拠るところが大きく、セメント系固化材の使用量を節約できる。そのため、施工性や施工コスト点で大幅な改善が図れる。
<ホ>低流動性の流動化処理土を埋戻材として孔奥側から充填し、埋戻材と孔壁との間隙に高い粘着力を持つ高流動性の流動化処理土をコーキング材として充填する方法にあっては、埋め戻し予定区間に作業員が入ることができ、充填の確認や配管等の作業が容易となる。」
また、引用刊行物1に添付された図面には、堤体間に高流動性処理土を埋戻材として充填する実施の形態1の概念図を示した【図1】及び低流動性処理土を使用して堤体を築造する概念図を示した【図2】が記載されている。

そうしてみると、引用刊行物1の上記摘記事項及び添付図面の図示からみて、前記引用刊行物1には、「地下採石場、不要トンネルや地下空洞などの地下空間10の一定範囲を埋め戻す方法において、地下空間10の埋め戻し範囲の両側に、建設現場で発生する廃土等の土砂に調整泥水又は現場から回収した泥水(均一比重に調整した泥水を含む)と固化材を加えて混練したスラリー状物で、土砂の配合量が増すほど流動性が低くなり、土砂の配合量が減るほど流動性が高くなる流動化処理土を、ポンプ圧送或いは地上部に設置した供給源との落差を利用して地下空間10内にホース輸送して放出することにより、流動性の低い流動化処理土で、隣り合うように構築した断面かまぼこ型の小山21の上部間に同様に断面かまぼこ型の小山21を順次盛り上げるように複数に分けて構築し、該小山21の上部間に流動性の低い流動化処理土を充填してより高い小山を形成することにより、高い粘着力を有する低流動性流動化処理土を主体とする堤体20を構築し、さらに、堤体20の上部と坑壁天井部の間隙箇所に低流動性の流動化処理土を主体とするコーキング材22を充填して地下空間10を閉塞することにより、堤体20、20を築造する第1工程と、堤体20、20の築造により地下空間10の画成された遮蔽空間域に、徐々に流動性の低い流動化処理土から流動性のやや低い流動化処理土を注入して限定空間の大半を埋め、地下空間10の上部に残された空隙には注入管11を通じてセルフレベリング性が高くスラリー状の高流動性流動化処理土からなる埋戻材23を注入する第2工程とよりなる地下空間10の一定範囲を埋め戻す方法」の発明(引用刊行物、これを、「引用発明」という。)の記載が認められる。

第4 当審の判断
1.対比及び一致点・相違点
本願発明1と上記引用発明とを対比すると、まず、引用発明における「地下採石場、不要トンネルや地下空洞などの地下空間10」、「堤体20、20」、「低流動性の流動化処理土を主体とするコーキング材22」、「堤体20、20の築造により地下空間10の画成された遮蔽空間域」、「徐々に流動性の低い流動化処理土から流動性のやや低い流動化処理土、及びセルフレベリング性が高くスラリー状の高流動性流動化処理土、からなる埋戻材23」及び「地下空間10の一定範囲を埋め戻す方法」のそれぞれが、本願発明1の「空洞部」、「仕切壁」、「可塑性注入材」、「該仕切壁によって仕切られた空洞部」、「注入材」及び「空洞部の限定注入工法」に対応する。
してみれば、引用発明の「堤体20、20を築造する第1工程」の内の「地下空間10の埋め戻し範囲の両側に、建設現場で発生する廃土等の土砂に調整泥水又は現場から回収した泥水(均一比重に調整した泥水を含む)と固化材を加えて混練したスラリー状物で、土砂の配合量が増すほど流動性が低くなり、土砂の配合量が減るほど流動性が高くなる流動化処理土を、ポンプ圧送或いは地上部に設置した供給源との落差を利用して地下空間10内にホース輸送して放出することにより、流動性の低い流動化処理土で、隣り合うように構築した断面かまぼこ型の小山21の上部間に同様に断面かまぼこ型の小山21を順次盛り上げるように複数に分けて構築し、該小山21の上部間に流動性の低い流動化処理土を充填してより高い小山を形成することにより、高い粘着力を有する低流動性流動化処理土を主体とする堤体20を構築」する工程が、本願発明1の「仕切壁を作成する第1工程」に対応し、引用発明の前記「堤体20、20を築造する第1工程」の内の「さらに、堤体20の上部と坑壁天井部の間隙箇所に低流動性の流動化処理土を主体とするコーキング材22を充填して地下空間10を閉塞」する工程が、本願発明1の「該仕切壁に可塑性注入材を付加する第2工程」に対応し、そして、引用発明の「徐々に流動性の低い流動化処理土から流動性のやや低い流動化処理土を注入して限定空間の大半を埋め、地下空間10の上部に残された空隙には注入管11を通じてセルフレベリング性が高くスラリー状の高流動性流動化処理土からなる埋戻材23を注入する第2工程」が、本願発明1の「該仕切壁によって仕切られた空洞部に注入材を注入する第3工程」に対応するということができる。
そうすると、本願発明1と引用発明とは、「空洞部に仕切壁を作成する工程と、該仕切壁に可塑性注入材を付加する工程と、該仕切壁によって仕切られた空洞部に注入材を注入する工程とからなる空洞部の限定注入工法」である点で一致し、次の点で両者の構成が相違する。
相違点:仕切壁を作成する技術手段が、本願発明1では「塊状物を積み上げ」ることによるのに対し、引用発明では、「流動性の低い流動化処理土で、隣り合うように構築した断面かまぼこ型の小山21の上部間に同様に断面かまぼこ型の小山21を順次盛り上げるように複数に分けて構築し、該小山21の上部間に流動性の低い流動化処理土を充填してより高い小山を形成すること」による点。

2.相違点についての検討
河川を堰止めるために構築されるロックフィルダム、洪水等における流体を堰止めるために積み上げられる土嚢袋で構築された堤体、或いは、幼児が砂場に作った水溜まり穴の水を堰止めるための砂からなる止水堰等は、流体を堰止めるために従来から採用されてきた古典的技術手段であり、そして、それらの技術手段の構築材料として、従来から砂、礫、石、砂利、砕石あるいは土嚢等の身近な材料が用いられていることを勘案すれば、前掲の砂、礫、石、砂利、砕石あるいは土嚢を用いて、それらを積み上げることにより堤体を構築して水等の流体を堰止めるようにする技術手段は、本願の特許出願時においては、ごく普通に採用されていた周知慣用技術であるといえる。また、その際に、例えば、岩石を積み上げて構築されるロックフィルダムの場合に、ロックフィルダムの積み上げた岩石の表面にコンクリート、アスファルト等の可塑性注入材からなる遮水層を形成しておくことも、本願の特許出願時の周知慣用技術である。
そして、上記した砂、礫、石、砂利、砕石あるいは土嚢等の身近な材料が、本願発明1の「塊状物」に該当することは、本願の出願明細書の段落【0011】の「斯かる第1工程において使用する塊状物1としては、特に限定されるものではなく、開口の大きさや流水の有無など、空洞部4の状況に合わせて大きさ、形状等の好ましいものを選択して用いることができる。斯かる塊状物としては、例えば、砂、礫、石、砂利等の天然のものや、砕石、高炉スラグ等の人工のもの、あるいは、瓦礫、コンクリートガラ等の建設副産物などを用いることができる。また、本発明における塊状物としては、袋体に砂等を詰めて土嚢袋としたものについても使用することができる。」の記載からみて、明らかなことである。
そうしてみると、引用発明における「流動性の低い流動化処理土で、隣り合うように構築した断面かまぼこ型の小山21の上部間に同様に断面かまぼこ型の小山21を順次盛り上げるように複数に分けて構築し、該小山21の上部間に流動性の低い流動化処理土を充填してより高い小山を形成する」という技術手段に代えて、本願の特許出願時の周知慣用技術であるところの「砂、礫、石、砂利、砕石あるいは土嚢を用いて、それらを積み上げることにより堤体を構築して水等の流体を堰止めるようにする技術手段」を採用して、本願発明1の前記相違点に係る「塊状物を積み上げることにより仕切壁を作成する」の構成を得ることは、当業者が格別の困難を伴うことなく容易になし得る設計事項である。
そして、本願発明1の相違点に係る前記構成としたことにより奏される作用効果が、格別顕著なものということができない。

3.まとめ
したがって、本願発明1は、引用発明及び周知慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明1が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであることにより、他の請求項に係る発明についての検討をするまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-02-10 
結審通知日 2005-02-18 
審決日 2005-03-01 
出願番号 特願2002-97149(P2002-97149)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安藤 勝治  
特許庁審判長 木原 裕
特許庁審判官 ▲高▼橋 祐介
佐藤 昭喜
発明の名称 空洞部の限定注入工法  
代理人 藤本 昇  
代理人 藤本 昇  

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