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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C04B 審判 全部申し立て 2項進歩性 C04B |
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管理番号 | 1117876 |
異議申立番号 | 異議2003-70117 |
総通号数 | 67 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1997-03-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-01-17 |
確定日 | 2005-04-04 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3306614号「セラミック材料粉末の製造方法」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3306614号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許3306614号の請求項1ないし5に係る発明についての出願は、平成7年9月29日に特許出願され、平成14年5月17日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、異議申立人金田三郎及び雨宮範子より特許異議の申立てがなされた。そして、当審において取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成15年10月 9日に訂正請求がなされるとともに特許異議意見書が提出され、それに対し、当審で特許異議申立人に審尋したところ、特許異議申立人のそれぞれから回答がなされた。その後、当審で再度の取消理由通知がなされたところ、その指定期間内に特許異議意見書が提出されたものである。 2.訂正の適否 2-1.訂正の内容 訂正事項ア. 本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1において「…溶媒であるセラミック材料粉末の製造方法。」とあるのを、「…溶媒であり、上記加水分解可能な加水分解剤はアンモニア水(NH4OH)であって当該溶媒中のアンモニア水の濃度が0.01〜10mol/lであり、かつ当該アンモニア水の量は上記金属の有機化合物に対して1〜2 当量であるセラミック材料粉末の製造方法。」に訂正する。 訂正事項イ. 本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項2を削除し、請求項3〜6を請求項2〜5に繰り上げると共に請求項3に「1又は2記載の」、請求項4に「請求項1ないし3のいずれかに記載の」、請求項5に「請求項1ないし4のいずれかに記載の」、請求項6に「請求項1ないし5のいずれかに記載の」とあるのを、それぞれ「請求項1記載の」、「請求項1又は2 に記載の」、「請求項1ないし3のいずれかに記載の」、「請求項1ないし4のいずれかに記載の」に訂正する。 訂正事項ウ. 本件特許明細書の段落番号【0006】に「溶媒であるセラミック材料粉末の製造方法を提供するものである。」とあるのを、「溶媒であり、上記加水分解可能な加水分解剤はアンモニア水(NH4OH)であって当該溶媒中のアンモニア水の濃度が0.01〜10mol/lであり、かつ当該アンモニア水の量は上記金属の有機化合物に対して1〜2 当量であるセラミック材料粉末の製造方法を提供するものである。」に訂正する。 訂正事項エ. 本件特許明細書の段落番号【0006】に「また、本発明は、(2)、加水分解剤は中性からアルカリ性の領域内の水性液である上記(1)のセラミック材料粉末の製造方法、(3)、有機溶媒は……上記(1)又は(2)の……粉末の製造方法、(4)、金属の……1種である上記(1)ないし(3)のいずれかのセラミック……製造方法、(5)、加水分解剤を……併用する上記(1)ないし(4)のいずれかのセラミック……製造方法、(6)、加水分解剤を……併用する上記(1)ないし(5)のいずれかに記載のセラミック……を提供するものである。」とあるのを、 「また、本発明は、(2)、有機溶媒はアルコール系溶媒である上記(1)のセラミック材料粉末の製造方法、(3)、金属の有機化合物は加水分解可能な金属アルコキシド類及び金属キレート化合物類の少なくとも1つの類に属する少なくとも1種である上記(1)又は(2)のセラミック材料粉末の製造方法、(4)、加水分解剤を添加する工程における加水分解剤の添加は撹拌を併用する上記(1)ないし(3)のいずれかのセラミック材料粉末の製造方法、(5)、加水分解剤を添加する工程における加水分解剤の添加は加熱を併用する上記(1)ないし(4)のいずれかのセラミック材料粉末の製造方法を提供するものである。」に訂正する。 訂正事項オ. 本件特許明細書の段落番号【0019】に「…有機溶媒に分散させた…」とあるのを「…有機溶媒でアンモニア水の濃度が0.01〜10mol/lであり、かつ当該アンモニア水の量は金属の有機化合物に対して1〜2当量である溶媒に分散させた…」に訂正する。 2-2.訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無及び拡張・変更の存否 上記訂正事項アは、訂正前の請求項1の「加水分解剤」を「加水分解剤はアンモニア水(NH4OH)であって当該溶媒中のアンモニア水の濃度が0.01〜10mol/lであり、かつ当該アンモニア水の量は上記金属の有機化合物に対して1〜2 当量である」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。そして、この訂正は、特許明細書の段落【0008】の「上記加水分解剤として……アンモニア水を用いる場合には、上記有機溶媒中におけるアンモニア水(NH4OH)の濃度としては、0.01〜10mol/lが好ましく……また、加えるNH4OHの量は、金属の有機化合物に対して、1〜2当量であることが生産性、被覆する無機化合物の組成制御の点から好ましく、この範囲外では生産性の悪化を起こし易い。」に基づくものであるから、上記訂正事項アは、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 上記訂正事項イは、訂正事項アの上記訂正に対応するために請求項2を削除した結果生じた、特許請求の範囲の項ずれを整合するためのものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当する。そして、この訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 上記訂正事項ウ、エは、上記訂正ア、イに係る訂正後の特許請求の範囲の記載との整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当する。そして、この訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 上記訂正事項オについては、上記訂正事項アに係る訂正後の特許請求の範囲の記載との整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当する。そして、この訂正は、上記訂正事項アで示したとおり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 2-3.むすび したがって、上記訂正は平成11年改正前の特許法120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、上記訂正を認める。 3.特許異議申立及び取消理由 3-1.本件発明 上記のとおり、訂正は認められるから、本件特許の請求項1〜5に係る発明(以下、「本件発明1〜5」という)は、訂正された特許明細書の特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】セラミック原料粉末から得られる金属酸化物粉末粒子に金属の無機化合物を被覆したセラミックス材料粉末の製造方法において、有機溶媒に、 (a)上記金属酸化物粉末粒子を分散させる工程と、 (b)加水分解可能な上記金属の有機化合物を溶解させる工程と、 (c)上記金属の有機化合物を加水分解可能な加水分解剤を添加する工程 を有し、(a)、(b)、(c)の順、(a)、(c)、(b)の順、(b)、(a)、(c)の順及び(c)、(a)、(b)の順の少なくとも1つの順序によりこれら工程を行うことにより上記金属酸化物粉末粒子に上記金属の有機化合物の上記加水分解剤による分解物である上記金属の無機化合物を析出させる工程を有する上記金属酸化物粉末粒子に微量の副成分の金属成分を被覆するセラミック材料粉末の製造方法であって、上記有機溶媒は上記加水分解剤を溶解する極性を持った水を溶解できる溶媒であり、上記加水分解可能な加水分解剤はアンモニア水(NH4OH)であって当該溶媒中のアンモニア水の濃度が0.01〜10mol/lであり、かつ当該アンモニア水の量は上記金属の有機化合物に対して1〜2当量であるセラミック材料粉末の製造方法。 【請求項2】有機溶媒はアルコール系溶媒である請求項1記載のセラミック材料粉末の製造方法。 【請求項3】金属の有機化合物は加水分解可能な金属アルコキシド類及び金属キレート化合物類の少なくとも1つの類に属する少なくとも1種である請求項1又は2に記載のセラミック材料粉末の製造方法。 【請求項4】加水分解剤を添加する工程における加水分解剤の添加は撹拌を併用する請求項1ないし3のいずれかに記載のセラミック材料粉末の製造方法。 【請求項5】加水分解剤を添加する工程における加水分解剤の添加は加熱を併用する請求項1ないし4のいずれかに記載のセラミック材料粉末の製造方法。」 3-2.取消理由の概要 引用刊行物1:特開平5-58605号公報(特許異議申立人 金田三郎の提出した甲第1号証、特許異議申立人 雨宮範子の提出した甲第1号証) 引用刊行物2:林卓、化学的な方法による粒子複合化技術、「粉体と工業」、1994、Vol.26、No.5、p.53-60(特許異議申立人 金田三郎の提出した甲第2号証) 引用刊行物3:特開平4-132651号公報(特許異議申立人 金田三郎の提出した甲第3号証) 引用刊行物4:特開平2-172830号公報 引用刊行物5:特開昭61-97137号公報 本件特許第3306614号の請求項1〜6に係る発明については、平成15年8月14日付けの取消理由通知書に記載した理由に準じて、本件発明1ないし4は引用刊行物1に記載された発明であるか、或いは、引用刊行物1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号または同条第2項の規定により特許を受けることができず、また、本件発明5ないし6は、引用刊行物1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 3-3.取消理由通知書の引用刊行物1〜5の記載内容 3-3-1.引用刊行物1の記載内容 ア.「有機溶剤に金属アルコキシドを溶解してアルコキシド溶液を調製する工程と、この溶液にセラミック粒子を分散してセラミック懸濁液を調製する工程と、この懸濁液に水を加えて前記アルコキシドを加水分解し、この加水分解生成物が前記セラミック粒子の表面に付着した複合体を調製する工程と、この複合体を乾燥加熱して前記加水分解生成物を金属酸化物粒子に変え、前記セラミック粒子を核として、その周りに金属酸化物粒子が付着したセラミック複合粉体を得る工程とを含むセラミック複合粉体の製造方法。」(請求項1)イ.「(a)セラミック懸濁液の調整 所定の一種または二種以上の金属アルコキシドをこれを溶解することのできる有機溶剤に溶解する。金属アルコキシドのアルキル基としては、炭素数1〜20のものを含む。金属元素としては有機金属を合成可能な元素はすべて含む。…(略)…有機溶剤としては、アルコール類、ケトン類、ベンゼン、キシレン等の芳香族化合物等が挙げられる。」(段落0006) ウ.「(c)セラミック複合粉体の製造 上記懸濁液から有機溶剤と水を含む液体を蒸発させることにより、或いは懸濁液を遠心分離又は濾過して分離物を乾燥することにより、アルコキシド加水分解生成物がセラミックス粒子に付着して成る複合物が得られる。」(段落0009) エ.「エタノール100gにジルコニウムブトキシド[Zr(OC4H9)4]20gを溶解し、この溶液に市販のBaTiO3粉末(平均粒径0.3μm)2gを加え、超音波により分散させて、チタン酸バリウム懸濁液を調製した。この懸濁液に水20gを加えて、Zr(OC4H9)4を加水分解し、Zrの水和物を生成させた。この水和物は極めて微粒子であるため、生成と同時に懸濁液に浮遊しているBaTiO3粒子の表面に付着した。」(段落0013 実施例) 3-3-2.引用刊行物2の記載内容 ア.「BaTiO3粒子(平均粒径100nm)にNb(OEt)5と無水i-PrOH 20mlをポットに入れ,ボールミルで4時間粉砕,混合した。生成したサスペンジョンをフラスコに移し変えて90℃,24時間撹拌しながら還流した。放冷後,Nb(OEt)5に対して10倍当量の水で加水分解するために,まず1/5当量の水を添加し,90℃,24時間撹拌しながら部分加水分解した。放冷後,残りの水を添加して90℃,24時間撹拌しながら完全にアルコキシドを加水分解し,限外ろ過して複合粒子を得ることができる。」(第56頁右欄) イ.「(4)加水分解に用いる水の添加量 大過剰の水を添加するとアルコキシドがBaTiO3粒子表面以外で加水分解され易くなるため,部分加水分解及び加水分解条件の制御が必要である,等がある。」(第57頁) ウ.「BaTiO3に少量のNb2O5をコーティングしたことにより,少量のNb2O5をBaTiO3にほとんど固溶させず,粒界に均一に存在させることにより誘電率の温度依存性平坦化を実現することができたと言える。」(第58頁左欄) エ.「マンガンアセチルアセトナートのエタノール溶液とZnO粒子を混合,撹はんした後,アンモニア水で加水分解し,ZnO粒子表面上に酸化マンガンを被着させた複合粒子を得る。」(第58頁右欄) 3-3-3.引用刊行物3の記載内容 ア.「混合液中の金属アルコキシドを加水分解した後、蒸留して前記セラミック粉体の表面に前記有機化合物の水酸化物微粒子が析出した混合原料組成物を調製する」(請求項2) イ.「加水分解時には加水分解に必要なモルと等モルの水、或いは数倍モルの水を混合液に添加することにより、それぞれアルコキシドを構成した金属の酸化物又は水酸化物が前記金属酸化物粉体の表面に沈殿し微粒子による被覆層が形成される。」(第3頁右上欄第9-13行) 3-3-4.引用刊行物4の記載内容 ア「金属アルコキシドを有機溶媒及びアンモニア水の存在下に加水分解して得られたゾル溶液を、…(略)…濃縮した後、酸触媒を加えてゲル化させ、次いで乾燥させた後、加熱焼成して目的とするガラスを得ることを特徴とするガラスの製造方法」(請求項1) イ「本発明の方法で用いられる金属アルコキシドとしては、ケイ素のアルコシキドが特に好ましく用いられる。…(略)…金属アルコシキドとして、アルミニウムのアルコキシドを用いても良く、…(略)…さらに、テトラブトキシチタン等のチタンのアルコキシド及びテトラエトキシジルコニウム等のジルコニウムのアルコキシド並びにこれらの部分加水分解物も使用することができる。」(第2頁右上欄第7行-同頁左下欄第17行) ウ.「本発明の方法においては、上記金属アルコキシドを有機溶媒及びアンモニア水の存在下に加水分解する。この加水分解工程で用いられる有機溶媒としては、メタノール、…(略)…等のアルコール、…(略)…が使用できる。本発明の方法において、使用される金属アルコキシドと有機溶媒とアンモニア水との比率は1/2〜60/2〜60であり、アンモニア水中のアンモニア濃度は0.0001〜1mol/リットルであるのが好ましい。この比率が1/3〜20/2.5〜10であり、アンモニア濃度が0.0005〜0.1mol/lであるのが特に好ましい。」(第2頁左下欄第1-18行) エ.「本発明の方法において、加水分解工程は、室温から有機溶媒の沸点以下で行うのが好ましく、通常室温から80℃程度の温度が選択される。」(第3頁左下欄第1-3行) 3-3-5.引用刊行物5の記載内容 ア.「金属アルコキシドを加水分解して得られた多孔質ゲルを加熱焼結し光学ガラス体の酸化物ブロック体を製造する方法において、上記金属アルコキシドの原料に、同一元素からなり加水分解速度が異なる2種類以上の添加剤を含むものを用い、加水分解を行い少なくとも上記金属アルコキシド2成分系からなる低かさ密度の上記多孔質ゲルを製造することを特徴とする光学ガラス体の製造方法」(請求項1) イ.「各種類のアルコキシドの原料合計1モルに対して使用する水とアルコール溶媒は、それぞれ5〜6モルである特許請求の範囲第1項記載の光学ガラス体の製造方法」(請求項4) ウ.「上記加水分解に使用する水は、0.01〜0.1モル/リットルのアンモニヤ濃度を有するアンモニヤ水である特許請求の範囲第1項記載の光学ガラス体の製造方法」(請求項6) エ.「シリコンアルコキシドを原料とし、アルコール及びH2Oを混合撹拌して得られた原料混合液を適宜のガラス容器2に移し、ガラス容器2をアルミホイル3によりほぼ密閉、放置してゲル化させる。」(実施例) 3-4.対比、判断 3-4-1.本件発明1について 上記3-3-1で摘示した事項から引用刊行物1に記載のセラミック複合粉体とは、加水分解生成物を加熱して金属酸化物粒子に変化させて得られる二層構造を有するものであるが、この加熱の前の段階のもの、すなわち、懸濁液を遠心分離又は濾過して分離物を乾燥したものは、アルコキシド加水分解生成物がセラミック粒子に付着してなる複合物である。すると、引用刊行物1の上記摘示事項を本件発明1の記載ぶりに沿って整理すると、引用刊行物1には「有機溶剤に金属アルコキシドを溶解して金属アルコキシド溶液を調製する工程と、この溶液にセラミック粒子を分散してセラミック懸濁液を調製する工程と、この懸濁液に水を加えて前記アルコキシドを加水分解する工程とを行い、この加水分解生成物が前記セラミック粒子の表面に付着した複合物を得る方法」の発明(以下、引用刊行物1発明という)が記載されていると認められる。 本件発明1と引用刊行物1発明とを対比するに、水は金属アルコキシドを加水分解できる加水分解剤である。また、引用刊行物1における「セラミック粒子」、「金属アルコキシド溶液を調製する」、「セラミック懸濁液を調製する」、「加水分解生成物」は、本件発明1における「セラミック原料粉末から得られる金属酸化物粉末粒子」、「加水分解可能な金属の有機化合物を溶解させる」、「金属酸化物粉末粒子を分散させる」、「金属の無機化合物」、にそれぞれ相当する。そして、上記セラミック複合粉末は二層構造を有するものであることから、その原料である、アルコキシド加水分解生成物がセラミック粒子の表面に付着したものは、該セラミック粒子の表面が被覆されていることとなり、したがって引用刊行物1の「表面に付着」は、本件発明1の「被覆」に相当する。そしてこれらのことから、引用刊行物1発明の「複合物」とは、セラミック粒子にアルコキシド加水分解生成物を被覆したものとなるから、引用刊行物1発明の「複合物を得る方法」とは本件発明1の「セラミック原料粉末から得られる金属酸化物粉末粒子に金属の無機化合物を被覆したセラミックス材料粉末の製造方法」に相当する。 すると、本件発明1と引用刊行物1発明とは「有機溶媒に、(b)金属アルコキシドを溶解させる工程と、この溶液に(a)セラミック原料粉末から得られる金属酸化物粉末粒子を分散させる工程と、(c)金属アルコキシドを加水分解可能な水を添加する工程を行うことにより、上記金属酸化物粉末粒子に金属アルコキシドの加水分解物である金属の無機化合物を被覆するセラミックス材料粉末の製造方法」の点で一致し、次の点で相違する。 相違点 1.本件発明1では、金属酸化物粉末粒子を被覆する金属の無機化合物は「微量の副成分」の金属成分であるのに対し、引用刊行物1発明ではその構成が明示されないこと 2.本件発明1では、有機溶媒は「加水分解剤を溶解する極性を持った水を溶解できる溶媒である」のに対し、引用刊行物1発明ではその構成が明示されないこと 3.本件発明1では、加水分解可能な加水分解剤は「アンモニア水(NH4OH)であって当該溶媒中のアンモニア水の濃度が0.01〜10mol/lであり、かつ当該アンモニア水の量は上記金属の有機化合物に対して1〜2当量である」のに対し、引用刊行物1発明はその構成要件のないこと 以下、上記相違点について検討するにあたり、まず、相違点3について検討する。 相違点3について 引用刊行物2には、上記3-3-2で摘示した事項にあるように、被覆する粒子の表面以外での加水分解を抑える量の加水分解剤を添加するようにして、加水分解条件を制御することが必要であること及び加水分解剤としてアンモニア水を用いたことが示されている。 引用刊行物3には、上記3-3-3で摘示した事項にあるように、加水分解剤の添加量を加水分解に必要なモルと等モル或いは数倍モル、すなわち、1当量或いは数当量とすることが示されている。 引用刊行物5には、上記3-3-4で摘示した事項にあるように、金属アルコキシドを加水分解するにあたり、0.01〜0.1mol/リットルの濃度のアンモニア水を用いること、アルコキシドの原料合計1モルに対して使用する水とアルコール溶媒は、それぞれ5〜6モルとすることが記載されている。 ところで、平成16年7月30日づけの特許異議意見書で特許権者は、本件発明1における加水分解剤、すなわち「アンモニア水(NH4OH)」、とはNH4OHのみであって、水を含有するアンモニア水ではないことを釈明している。そして、本件特許明細書の記載とこの釈明の内容とを併せてみれば、本件発明1における上記加水分解剤(「アンモニア水(NH4OH)」)とは、NH4OHのみであり、有機溶媒中のNH4OH濃度が0.01〜10mol/lであり、かつNH4OHの量は上記金属の有機化合物に対して1〜2当量であるという趣旨で記載されているものと認められる。 すると、上記引用刊行物2、3、5には、水及びアンモニア水を加水分解剤として用いることやアンモニア水の濃度に関する開示はあるものの、NH4OHの有機溶媒中の濃度及びその当量を本件発明1の上記の値にすることは記載はなく、また、その示唆もない。 このことについて、引用刊行物4には、上記3-3-5で摘示した事項にあるように、金属アルコキシドと有機溶媒とアンモニア水との比率は1/2〜60/2〜60であり、アンモニア水中のアンモニア濃度は0.0001〜1mol/リットルであるのが好ましいことが示されてはいるものの、引用刊行物4における加水分解剤とは、水が過剰に含まれるアンモニア水を指すものであって、本件発明1におけるNH4OH自体である加水分解剤には該当せず、したがって、この引用刊行物4の技術から、直ちに、本件発明1の上記濃度及び当量が示唆されるものではない。 そして、本件発明1は、その請求項1記載の特定事項のようにすることによって、均一に被覆したセラミック材料粉末を提供することができるという効果を奏するものである。 してみれば、上記相違点1及び2について検討するまでもなく、本件発明1は、引用刊行物1〜5記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 3-4-2.本件発明2〜5について 本件発明2〜5は、それぞれ少なくとも本件発明1を更に「有機溶媒はアルコール系溶媒である」、「金属の有機化合物は加水分解可能な金属アルコキシド類及び金属キレート化合物類の少なくとも1つの類に属する少なくとも1種である」、「加水分解剤を添加する工程における加水分解剤の添加は撹拌を併用する」、「加水分解剤を添加する工程における加水分解剤の添加は加熱を併用する」と限定するものである。よって、本件発明1と同様、上記本件発明1で述べた理由により、本件発明2ないし4は、引用刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 3-5.明細書の記載要件に関する特許異議申立の理由について 特許異議申立人 金田三郎は、本件特許明細書の請求項5〜6及び当該請求項に関連する発明の詳細な説明の記載に不備がある旨、主張するが、上記請求項5〜6に係る訂正後の請求項4〜5の、加水分解剤を添加する工程における加水分解剤の添加において「撹拌を併用する」又は「加熱を併用する」ことに関しては、いずれも従来より行われてきた水準に基づく態様を示した程度の技術的事項であるといえるから、その点については特許異議申立人のいうような記載不備があるとはいえない。 4.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立の理由によっては、本件発明1ないし5についての特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものとは認められない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 セラミック材料粉末の製造方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 セラミック原料粉末から得られる金属酸化物粉末粒子に金属の無機化合物を被覆したセラミックス材料粉末の製造方法において、有機溶媒に、 (a)上記金属酸化物粉末粒子を分散させる工程と、 (b)加水分解可能な上記金属の有機化合物を溶解させる工程と、 (c)上記金属の有機化合物を加水分解可能な加水分解剤を添加する工程 を有し、(a)、(b)、(c)の順、(a)、(c)、(b)の順、(b)、(a)、(c)の順及び(c)、(a)、(b)の順の少なくとも1つの順序によりこれら工程を行うことにより上記金属酸化物粉末粒子に上記金属の有機化合物の上記加水分解剤による分解物である上記金属の無機化合物を析出させる工程を有する上記金属酸化物粉末粒子に微量の副成分の金属成分を被覆するセラミック材料粉末の製造方法であって、上記有機溶媒は上記加水分解剤を溶解する極性を持った水を溶解できる溶媒であり、上記加水分解可能な加水分解剤はアンモニア水(NH4OH)であって当該溶媒中のアンモニア水の濃度が0.01〜10mol/lであり、かつ当該アンモニア水の量は上記金属の有機化合物に対して1〜2当量であるセラミック材料粉末の製造方法。 【請求項2】 有機溶媒はアルコール系溶媒である請求項1記載のセラミック材料粉末の製造方法。 【請求項3】 金属の有機化合物は加水分解可能な金属アルコキシド類及び金属キレート化合物類の少なくとも1つの類に属する少なくとも1種である請求項1又は2に記載のセラミック材料粉末の製造方法。 【請求項4】 加水分解剤を添加する工程における加水分解剤の添加は撹拌を併用する請求項1ないし3のいずれかに記載のセラミック材料粉末の製造方法。 【請求項5】 加水分解剤を添加する工程における加水分解剤の添加は加熱を併用する請求項1ないし4のいずれかに記載のセラミック材料粉末の製造方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、特に電子セラミック部品用のセラミック材料粉末の製造方法に関する。 【0002】 【従来の技術】 現在、セラミックスは電子部品に幅広く用いられている。例えば、セラミック基板、セラミックコンデンサー、インダクターのコア、セラミックフィルター、セラミック発振子、各種センサー、高周波部品等が挙げられる。これら部品に用いられるセラミック誘電体材料、セラミック磁性体材料は、その組成のほとんどが金属酸化物により占められている。 例えばセラミック誘電体材料は、例えば炭酸バリウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム等の誘電体原料粉末を所定の比率で混合粉砕し、ついでこれを仮焼し、Ba(Ti、Zr)O3の組成の金属酸化物の材料粉末を得る。この材料粉末に有機バインダーを加えて造粒し、この造粒物を例えば板状に圧縮成形するいわゆる乾式成形を行ってその成形物を焼成し、この焼成体に電極を形成してセラミックコンデンサを作成したり、あるいはその材料粉末に有機バインダ等を含有させて得たスラリーを用いてシート状体を作成するいわゆる湿式成形を行って多数のグリーンシートを形成し、それぞれのグリーンシートに内部電極材料ペースト膜を形成して積層し、焼成することにより積層セラミックコンデンサを作成している。 また、セラミック磁性体材料として、例えばNi-ZnフェライトやMn-Zn等のフェライトの粉末を得るには、構成金属元素の酸化物や炭酸塩の粉末を混合し、その混合物に熱処理を行ない、この方法により得られたフェライト粉末を電子部品用材、例えば磁性材としてのフェライト焼成体の材料とすることが行われている。 【0003】 このようなセラミック材料を用いて得られる焼成体の誘電体特性、磁気特性等の電磁気特性は、その材料の金属成分の組成に大きく依存し、その金属成分の組成は焼成体の微細構造にも大きく影響を及ぼすので、セラミック材料に副成分として微量の金属成分を添加し、焼成体の電磁気特性、微細構造を制御することが重要なこととして行われているが、その添加する個々の金属成分の元素の種類によって、上記の電磁気特性に及ぼす影響は異なる。例えば、セラミックの主成分に固溶することによりその特徴を発揮する金属成分元素と、その固溶をせず、焼成体の結晶粒界や三重点に存在し特徴を発揮する金属成分元素がある。いずれにせよ、微量の金属成分はセラミック焼成体中に均一に存在することが電磁気特性の精度、安定のためのみならず、微細構造を得るためにも必要である。 セラミック材料に副成分として金属成分を添加する方法としては、▲1▼ セラミック材料の金属酸化物粉末に副成分の金属粉末あるいはその金属の炭酸塩や酸化物を加えてボールミル等で湿式混合し、その乾燥粉末を仮焼後あるいはそのまま用いて作成した成形体を焼成する方法、▲2▼ セラミック材料の金属酸化物粉末のスラリーに副成分の金属イオンを含む水溶液を添加し、この金属イオンをソーダ塩やアンモニウム塩のような沈澱剤により沈澱させ、金属酸化物粉末とその沈澱物の混合物を仮焼する方法、▲3▼ セラミック材料の金属酸化物粉末に副成分の金属化合物とバインダを加えて得たスラリーを噴霧乾燥し、造粒した後、仮焼する方法が行われている。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 しかしながら、近年の電子部品の小型化、高性能化の進展はめざましいものがあり、部品の小型化に対しては、セラミック焼成体の微細構造、電磁気特性の一層高度な制御が必要になっており、そのためには上記したように副成分の微量の金属成分はセラミック焼成体中に均一に存在することが必要であり、これを行うには金属酸化物粉末と副成分の金属成分の混合はミクロンレベルの混合が限界となっている状況にあっては、上記▲1▼の方法は、金属酸化物と副成分の金属粉末等の微量成分を均一に混合することが難しく、また、上記▲2▼の方法は、例えばチタンイオンはソーダ塩によっては沈澱させることができず、一方アンモニウム塩を使用してもZn、Mn、Ni、Co等の金属はアミン錯体を形成して可溶性となるため、沈澱物を生成することができないという問題があるのみならず、いずれの方法によって沈澱物を生成したとしてもその沈澱物は金属酸化物と単に混合しているに過ぎず、金属酸化物と金属の沈澱物の微量成分を均一に混合することが上記▲1▼の方法より優れてはいるとはいうもののまだ不十分であり、また、上記▲3▼の方法は、スラリーに共存するイオンの種類によってはバインダがゲル化し、金属酸化物と副成分の金属化合物の微量成分を均一に混合することができなく、いずれの方法にも問題があり、その改善が望まれていた。 【0005】 本発明の第1の目的は、セラミック材料粉末に副成分の金属成分を均一に被覆することができるセラミックス材料粉末の製造方法を提供することにある。 本発明の第2の目的は、セラミック焼成体の微細構造、電磁気特性を高度に制御することができるようなセラミック材料粉末が得られるセラミック材料粉末の製造方法を提供することにある。 本発明の第3の目的は、最近の小型化、高性能化の電子部品の製造を可能にするセラミック焼成体を得ることができるセラミックス材料粉末の製造方法を提供することにある。 本発明の第4の目的は、特別に新たな設備を必要とすることなく、生産性が良く、コスト的に有利なセラミック材料粉末の製造方法を提供することにある。 【0006】 【課題を解決するための手段】 本発明は、上記課題を解決するために、(1)、セラミック原料粉末から得られる金属酸化物粉末粒子に金属の無機化合物を被覆したセラミックス材料粉末の製造方法において、有機溶媒に、 (a)上記金属酸化物粉末粒子を分散させる工程と、 (b)加水分解可能な上記金属の有機化合物を溶解させる工程と、 (c)上記金属の有機化合物を加水分解可能な加水分解剤を添加する工程 を有し、(a)、(b)、(c)の順、(a)、(c)、(b)の順、(b)、(a)、(c)の順及び(c)、(a)、(b)の順の少なくとも1つの順序によりこれら工程を行うことにより上記金属酸化物粉末粒子に上記金属の有機化合物の上記加水分解剤による分解物である上記金属の無機化合物を析出させる工程を有する上記金属酸化物粉末粒子に微量の副成分の金属成分を被覆するセラミック材料粉末の製造方法であって、上記有機溶媒は上記加水分解剤を溶解する極性を持った水を溶解できる溶媒であり、上記加水分解可能な加水分解剤はアンモニア水(NH4OH)であって当該溶媒中のアンモニア水の濃度が0.01〜10mol/lであり、かつ当該アンモニア水の量は上記金属の有機化合物に対して1〜2当量であるセラミック材料粉末の製造方法を提供するものである。 また、本発明は、(2)、有機溶媒はアルコール系溶媒である上記(1)のセラミック材料粉末の製造方法、(3)、金属の有機化合物は加水分解可能な金属アルコキシド類及び金属キレート化合物類の少なくとも1つの類に属する少なくとも1種である上記(1)又は(2)のセラミック材料粉末の製造方法、(4)、加水分解剤を添加する工程における加水分解剤の添加は撹拌を併用する上記(1)ないし(3)のいずれかのセラミック材料粉末の製造方法、(5)、加水分解剤を添加する工程における加水分解剤の添加は加熱を併用する上記(1)ないし(4)のいずれかのセラミック材料粉末の製造方法を提供するものである。 【0007】 本発明において、「セラミック原料粉末から得られる金属酸化物粉末粒子」とは、例えばセラミック誘電体材料を得る場合には、例えば炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム等の炭酸塩、酸化チタン、酸化ジルコニウム等の酸化物等の誘電体原料粉末をそれぞれの材料の組成に応じて選択し、所定の比率で混合粉砕し、ついでこれを仮焼して得られる、Ba(Ti、Zr)O3、SrTiO3等の組成の金属酸化物粉末粒子が挙げられる。また、セラミック磁性体材料を得る場合には、例えば例えばNi-Zn系、Mn-Zn系、Ni-Cu-Zn系、Mg-Cu-Zn系、Co-Cu-Zn系、Mn-Mg-Zn系、Ni-Cu-Co系等のフェライトの金属酸化物粉末粒子は、構成金属元素の酸化物や炭酸塩の磁性体原料粉末を混合し、その混合物に熱処理を行なって得られるものが挙げられる。 また、「金属酸化物粉末粒子に金属の無機化合物を被覆した」の金属としては、Co、Nb、Al、Si、Mn、希土類金属等が挙げられ、これらは1種のみならず複数でも良い。 また、「(a)、(b)、(c)の順、(a)、(c)、(b)の順、(b)、(a)、(c)の順及び(c)、(a)、(b)の順の少なくとも1つの順序によりこれら工程を行う」とは、(b)、(c)、又は(c)、(b)を行った後(a)を行う場合には、金属の有機化合物の加水分解物を金属酸化物粉末粒子に析出させる効果がその他の場合に比べて小さいので、これを除くことにあるが、その加水分解物生成直後に金属酸化物粉末を加えたり、後述の撹拌条件や、加熱条件次第ではその加水分解物を金属酸化物粉末粒子に析出できなくはないので、これを含めることもでき、その場合には、「(a)、(b)、(c)の順序を問わずこれら工程を行う」とすることができる。 上記「 」のように順序を限定すると、金属酸化物粉末粒子表面は極性が強くその表面には通常、水が吸着されていて親水的であるので、加水分解剤あるいはこの加水分解剤により有機溶媒中に溶存する微量の金属の有機化合物が加水分解されて生成した水酸化物あるいは酸化物は、これらが親水性であることにより有機溶剤に留まるよりはその金属酸化物粉末粒子の親水的表面に吸着され易くなり、金属の有機化合物の加水分解物である水酸化物あるいは酸化物を金属酸化物粉末粒子表面に選択的に析出させることができ、より好ましい。 【0008】 加水分解剤としては、金属の有機化合物の加水分解反応を起こすものであり、中性からアルカリ性の領域内の水性液が好ましく、例えばアンモニア水が好ましく、これに限らないが、アルカリ金属等の後のセラミック材料を得る際、あるいはその材料を用いた成形体の焼成の際残留するようなものよりは、揮発又は分解し残留しないものが好ましい。水性液とは溶媒が水のみの場合のみならず、水とこれに混ざる有機溶媒の混合液でも良い。 上記加水分解剤として水のみでも良いことがあるが、アンモニア水を用いる場合には、上記有機溶媒中におけるアンモニア水(NH4OH)の濃度としては、0.01〜10mol/lが好ましく、より好ましくは0.1〜5mol/lである。0.01mol/lより小さければアンモニア水の量が増加し、生産性が悪化し易く、また、10mol/lより大きければアンミン錯体が生成し易く、所望の組成の無機化合物の被覆が不可能となり易い。 また、加えるNH4OHの量は、金属の有機化合物に対して、1〜2当量であることが生産性、被覆する無機化合物の組成制御の点から好ましく、この範囲外では生産性の悪化を起こし易い。より好ましくは1当量である。 【0009】 有機溶媒としては、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、エタノールアミン等の上記加水分解剤を溶解できる溶媒、すなわち極性溶媒が好ましいが、この極性溶媒を他の有機溶媒、例えばベンゼン、トルエン等の少なくとも1種を0〜40%を混合したある程度極性を持った有機溶媒でも、上記加水分解剤を溶解できるものであれば良い。 上記金属酸化物粉末を有機溶媒に分散させる際には、界面活性剤を使用し、有機溶剤に金属酸化物粉末が分散し易くしても良く、陰イオンの界面活性剤を使用すれば、金属酸化物粉末に吸着されたその陰イオンに加水分解剤やこれによる金属の有機化合物の加水分解物の陽イオンが吸着され易いようにすることもでき、界面活性剤に有機物を使用すれば後のセラミック材料を得る際、あるいはその材料を用いた成形体の焼成の際、分解除去できるので好ましい。 【0010】 また、上記金属の有機化合物としては、加水分解可能なアルコキシド類及びキレート化合物類の少なくとも1つの類に属する少なくとも1種、すなわちアルコキシド類の少なくとも1種、キレート化合物類の少なくとも1種、両者のそれぞれの少なくとも1種が挙げられるが、具体的にはアルコキシドとしてはエトキシド、プロボキシド等の低級アルコキシド、ジケトン系、また、キレート化合物としてはアセチルアセトナート、DPM等が好ましいものとして例示される。 これらの金属の有機化合物は、金属イオンが親水性の金属酸化物粉末粒子の表面の吸着水に配位するため、その金属の有機化合物の加水分解剤による加水分解はその表面で選択的に行われ、その析出した水酸化物あるいは酸化物も親水的であるので分解析出及び吸着によりその成長が行われ、金属酸化物粉末粒子に対する被覆膜が形成される。 上記金属の有機化合物の上記有機溶媒中の濃度は、0.05mol/l及びその近傍が好ましく、低すぎると生産性が悪くなり易く、多すぎると溶解でき難くなる。 【0011】 上記金属酸化物粉末粒子に対する被覆膜の成長と結晶性の向上には、有機溶媒中に金属の有機化合物を溶解し、金属酸化物粉末を分散させ、さらに加水分解剤を加えて得たスラリーの熱処理を行うことが、金属の有機化合物を良く溶解することによりその分子レベルの吸着を可能にし、その状態で加水分解剤により加水分解されるので、その加水分解物である水酸化物あるいは酸化物の析出反応が促進され、効果的である。 その加熱温度は無機化合物の被覆を強固にする点から80℃が好ましいが、その結晶化が促進されるためには60℃以上に加熱することが好ましい。最も適当な熟成温度は60〜80℃である。 また、その被覆膜の均一性を向上させるには、加水分解剤による加水分解をスラリー中で均一に行わせることが重要であり、そのためには上記スラリーを撹拌することが有効である。 その速度は100〜1000rpm(毎分の回転数)が好ましく、100rpmより遅いと得られる被覆膜の均一性は十分ではなく、1000rpmより大きくすると生産設備のコスト増になり易い。 【0012】 このようにして金属の水酸化物あるいは酸化物を被覆したセラミック材料粉末が得られるが、これをその含有液から分離するには、フィルタープレス等の濾過を行うことで十分であるが、この含有液を噴霧する噴霧乾燥によっても陰イオンの残留はなく、生産設備等を考慮して使用できる。噴霧乾燥の場合陰イオンの残留をなくすため400℃以上の温度で加熱することが好ましいが、生産設備を考慮すると600℃以下が好ましい。その最も適当な加熱温度は400〜600℃である。 【0013】 このようにして得られるセラミック材料は、上記各種電子部品のセラミック焼成体の材料として用いることができ、その電磁気特性を向上し、微細構造を実現することができる。 【0014】 【発明の実施の形態】 有機溶媒として極性溶媒の例えばエタノールに、加水分解可能な金属の有機化合物として例えばNbのエトキシド、Coのアセチルアセトナートを窒素気雰囲気中で溶解し、さらに金属酸化物粉末粒子として例えばBaTiO3をエタノール1リットル当たり100〜500g加え、分散させる。この際、撹拌(100〜1000rpm)しても良い。この場合、Nbのエトキシド、CoのアセチルアセトナートはNb、CoがそれぞれBaTiO3に対して0.1〜1mol%、0.1〜1mol%となるように溶解する。冷却後、加水分解剤として例えばアルカリ水性液である0.1〜3mol/lのアンモニア水をNb、Coに対して1〜1.5当量滴下する。この際撹拌しても良く、加熱しても良い。濾過して得た固形分を乾燥してセラミック誘電体材料粉末を得るこができる。 このように、金属酸化物粉末粒子を有機溶媒に分散させ、その親水性表面に金属の有機化合物のその金属イオンを配位させ、加水分解剤としてアンモニア水を加えると、その金属の有機化合物を加水分解させてその分解物である水酸化物あるいは酸化物を金属酸化物粉末粒子に析出させることができ、その水酸化物あるいは酸化物も親水的であるからその析出も選択的に行え、さらにその成長も容易であり、金属酸化物粉末粒子に選択的に金属の無機化合物を被覆することができる。有機溶媒は、上記金属イオンの金属酸化物粉末粒子に対する配位、水酸化物あるいは酸化物の金属酸化物粉末粒子に対する析出及びその成長を促すため、すなわち水に比べて親水性が劣る有機溶媒はそれより親水性のものを遠ざけ、水により近い親水性のもの同士を近付けるので、これを行うために必要であり、有機溶媒の代わりに水を用いてもこの効果は得られない。 【0015】 【実施例】 次に本発明の実施例を説明する。 実施例1 エタノール500mlに、Nbのエトキシド、Coのアセチルアセトナートを窒素気雰囲気中で溶解し、さらにBaTiO3を100g加え、撹拌(500rpm)し、80℃に加熱した。この場合、Nbのエトキシド、CoのアセチルアセトナートはNb、CoがそれぞれBaTiO3に対して1.5mol%、0.5mol%となるように溶解した。冷却後、1mol/lのアンモニア水をNb、Coに対して1当量滴下し、さらに80℃で3時間、上記と同様に撹拌した。濾過して得た固形分を乾燥してセラミック誘電体材料粉末を得た。 得られた粉末について、EPMA(エレクトロンプローブマイクロアナライザー)でCo、Nbの存在状態を観察したところ、偏析は見られなかった。さらにBaTiO3粒子にCo、Nbが被覆されているかをTEM(トランスミッションエレクトロンマイクロスコピー)で確認したところ、粒子表面に被覆層(粒子表面のぶつぶつ)があることが確認された。 このセラミックス誘電体材料粉末を用いて成形体を作成し、これを焼成して焼成体を得、これに電極を設けてセラミックコンデンサ(寸法3.2×1.6×1.6mm)を作成し、その静電容量を測定したところ、10μFであった。 以上のことから、偏析がなく、被覆膜が確認されたことにより、Nb、Coの水酸化物あるいは酸化物はBaTiO3粉末粒子に均一に被覆されていることがわかり、これを用いて得たセラミックコンデンサは良い静電容量を示し、これにより焼成体が微細構造であることも分かる。 【0016】 実施例2 エタノール500mlにSrTiO3粉末100gを撹拌(500rpm)して分散させ、窒素雰囲気中でAlエトキシド、Siエトキシドを1重量%溶解させた。この混合液を80℃に加熱し、上記と同様に撹拌し、1mol/lのアンモニア水をAl、Siに対して1当量滴下した。その後、80℃で10時間、上記と同様に撹拌した。濾過して得た固形分を乾燥してセラミック誘電体材料粉末を得た。 得られた粉末について、EPMAでAl、Siの存在状態を観察したところ、実施例1と同様に偏析はなかった。さらにSrTiO3粒子にAl、Siが被覆されているかをTEMで確認したところ、粒子表面に被覆層があることが確認された。 このセラミック誘電体材料粉末を用いて成形体を作成し、これを焼成して焼成体を得、これに電極を設けて誘電体素子(直径10mm×0.5mm)を作成し、誘電率を測定したところ、350であった。 【0017】 比較例1 BaTiO3粉末100gに酸化コバルトと酸化ニオブの粉末をそれぞれ0.5mol%、1.5mol%加え、これらを500mlエタノールとともにボールミルで湿式混合した。固形分を濾過し、乾燥後得られた粉末についてEPMAで観察したところ、Co、Nbの偏析が見られた。 【0018】 実施例3 エタノール500mlにMn-Znフェライト粉末100gを撹拌(500rpm)して分散させ、窒素雰囲気下でCaブトキシド、Taエトキシドをそれぞれ0.5mol%溶解させた。この混合液を80℃に加熱し、上記と同様に撹拌し、1mol/lアンモニア水をCa、Taに対して1当量滴下した。その後、80℃で3時間、上記と同様に撹拌した。濾過して得た固形分を乾燥し、セラミック磁性材料粉末を得た。 得られた粉末についてCa、Taの存在状況を観察したところ偏析は見られなかった。TEM観察を行ったところ、粉末表面に被覆層が観察された。 この磁性粉末を用い成形体を作成し、これを焼成し焼成体を得、磁気特性を測定したところ、500KHz、50mTでパワーロスが100mW/cm2と良好な特性を示した。 【0019】 【発明の効果】 本発明によれば、加水分解剤を溶解する極性を持った水を溶解できる有機溶媒でアンモニア水の濃度が0.01〜10mol/lであり、かつ当該アンモニア水の量は金属の有機化合物に対して1〜2当量である溶媒に分散させた金属酸化物粉末粒子に金属の有機化合物の加水分解剤による加水分解物を析出させることにより金属酸化物粉末粒子に金属の無機化合物を被覆し、その金属酸化物粉末粒子に微量の副成分の金属成分を被覆するようにしたので、セラミック材料粉末に副成分の金属成分を均一に被覆したセラミック材料粉末を提供することができ、セラミック焼成体の微細構造、電磁気特性を高度に制御することができ、最近の小型化、高性能化を目指した電子部品の要求に応えることができる。 また、本発明の方法は、有機溶媒中の湿式反応を用いるので、従来のよく用いられる装置を用いることができ新規な設備は不要であり、また、従来の粉末をボールミルで混合する場合のようなその混合作業も必要がなく、それだけ生産性を高めることができ、コスト面でも有利であるとともに、その混合に伴う異物の混入も避けることができ、組成の精度の高い、安定したセラミック材料粉末を提供することができる。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2005-03-14 |
出願番号 | 特願平7-275002 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(C04B)
P 1 651・ 113- YA (C04B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 三崎 仁 |
特許庁審判長 |
多喜 鉄雄 |
特許庁審判官 |
中村 泰三 西村 和美 |
登録日 | 2002-05-17 |
登録番号 | 特許第3306614号(P3306614) |
権利者 | 太陽誘電株式会社 |
発明の名称 | セラミック材料粉末の製造方法 |
代理人 | 佐野 忠 |
代理人 | 佐野 忠 |