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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C25B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C25B
管理番号 1117888
異議申立番号 異議2003-72044  
総通号数 67 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-03-16 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-08-11 
確定日 2005-03-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3374713号「水電解用陽極」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3374713号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 [1]手続の経緯
本件特許第3374713号(平成9年8月29日出願、平成14年11月29日設定登録)は、特許異議申立人松島尚司より、請求項1、2に係る特許について特許異議の申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成17年1月19日に訂正請求がなされたものである。

[2]訂正の適否についての判断
[2-1]訂正事項
(1)訂正事項a
本件特許に係る願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1を以下のとおりに訂正する。
「【請求項1】分離可能なかつ独立して存在する活性炭の繊維からなる活性炭部材とメッシュ形態の電極部材からなり、前記電極部材の間に前記活性炭部材が挟み込まれてこの活性炭部材と電極部材が接触していることを特徴とする、水電解用陽極。」

(2)訂正事項b
特許明細書の段落【0007】の「分離可能なかつ独立して存在する活性炭部材と電極材からなり、この活性炭部材と電極材が接触していることを特徴とする水電解用陽極」を「分離可能なかつ独立して存在する活性炭の繊維からなる活性炭部材とメッシュ形態の電極部材からなり、前記電極部材の間に前記活性炭部材が挟み込まれてこの活性炭部材と電極部材が接触していることを特徴とする、水電解用陽極」と訂正する。

(3)訂正事項c
特許明細書の段落【0009】の「この接触とは、文字どおり活性炭部材と電極部材が接触していればよく、例えばメッシュ形態の電極部材の間に活性炭の繊維からなる部材を挟み込み、又は電極部材のプレートと活性炭部材のプレートを重ねてもよい。すなわち、本発明においては、活性炭部材と電極部材は適宜、任意の形状、寸法にすることができ、例えば板状、多孔状、網状等を、平板状、曲板状、円筒状にして用いることができる。」を「この接触は、メッシュ形態の電極部材の間に活性炭の繊維からなる部材を挟み込むことにより行う。」と訂正する。

(4)訂正事項d
特許明細書の特許請求の範囲の請求項2及び段落【0007】の「解して」を「介して」と訂正する。

[2-2]訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、及び拡張・変更の存否
(1)訂正事項aについて
訂正事項aは、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されていた「活性炭部材」、「電極部材」をそれぞれ「活性炭の繊維からなる活性炭部材」、「メッシュ形態の電極部材」に限定し、また、同じく記載されていた「この活性炭部材と電極部材が接触している」の前に「前記電極部材の間に前記活性炭部材が挟み込まれて」の記載を付加して、「前記電極部材の間に前記活性炭部材が挟み込まれてこの活性炭部材と電極部材が接触している」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正事項は、特許明細書の段落【0009】における「メッシュ形態の電極部材の間に活性炭の繊維からなる部材を挟み込み」との記載に基づくものであるから、特許明細書又は図面の範囲内においてした訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項b、cについて
訂正事項b、cは、特許請求の範囲における訂正事項aの訂正に伴い、特許請求の範囲の記載に対応する発明の詳細な説明の記載の整合を図るためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。また、当該訂正事項は、訂正事項aと同様、特許明細書又は図面の範囲内においてした訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項dについて
訂正事項dは、特許明細書の特許請求の範囲の請求項2及び段落【0007】における「前記活性炭部材と電極部材が炭化珪素または炭化硼素を解して接触」の「解して」を「介して」と訂正するものであり、誤記の訂正を目的とすることが明らかである。また、当該訂正事項は、特許明細書又は図面の範囲内においてした訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

[2-3]まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項ただし書き、及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

[3]本件発明
上述したように、本件訂正は適法なものであるから、本件特許の請求項1、2に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】分離可能なかつ独立して存在する活性炭の繊維からなる活性炭部材とメッシュ形態の電極部材からなり、前記電極部材の間に前記活性炭部材が挟み込まれてこの活性炭部材と電極部材が接触していることを特徴とする、水電解用陽極。
【請求項2】前記活性炭部材と電極部材が炭化珪素または炭化硼素を介して接触していることを特徴とする、請求項1記載の水電解用陽極。」

[4]取消理由の概要
平成16年11月15日付で通知した取消理由の概要は、特許異議申立人松島尚司による特許異議申立の理由及び証拠を用い、訂正前の請求項1に係る発明は、本件の出願前に頒布された下記の刊行物1、2に記載された発明であり、また、訂正前の請求項2に係る発明は、同じく頒布された下記の刊行物3に記載された発明であり、更にまた、同請求項1、2に係る発明は、同刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、同請求項1、2に係る発明の特許は、特許法第29条第1項、及び第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきであるというものである。

刊行物1:特開平4-18982号公報(特許異議申立人 松島尚司の提出した甲第1号証)
刊行物2:「水処理技術 11月号」第22巻、第11号、1981、第55〜64頁、昭和56年11月15日、日本水処理技術研究会発行(同上、甲第2号証)
刊行物3:特開平6-233983号公報(同上、甲第3号証)

[5]刊行物1〜3の記載事項
[5-1]刊行物1(特開平4-18982号公報)には、第1〜4図が示されるとともに、
「(1)カルシウム、マグネシウム及び珪素から選択される1又は2以上の金属のイオンを含有する被処理水を、電圧の印加により分極した三次元電極を有する三次元電極式電解槽に供給し、前記被処理水中の前記カルシウム、マグネシウム及び珪素から選択される1又は2以上の金属イオンをその水酸化物又は酸化物に変換し前記三次元電極上に析出させて前記被処理水から除去する・・・」(特許請求の範囲第1項)、
「本発明の三次元電極電解槽における三次元電極は、前記被処理水が透過可能な多孔質材料、例えば・・・フェルト状、織布状・・・等の形状を有する活性炭、グラファイト、炭素繊維等の炭素系材料から・・・形成された複数個の誘電体から成ることが好ましく、該三次元電極は直流電場内に置かれ、両極に設置した平板状又はエキスパンドメッシュ状やパーフォレーティッドプレート状等の多孔板体から成る給電用陽陰極間に直流電圧を印加して前記誘電体を分極させ該誘電体の一端及び多端にそれぞれ正及び負の電荷が形成されて分極する。」(第3頁右上欄1〜15行)、
「前記誘電体として活性炭、グラファイト、炭素繊維等の炭素系材料を使用しかつ陽極から酸素ガスを発生させながら被処理水を処理する場合には、前記誘電体が酸素ガスにより酸化され炭酸ガスとして溶解し易くなる。これを防止するためには前記誘電体の陽分極する側にチタン等の基材上に酸化イリジウム、酸化ルテニウム等の白金族金属酸化物を被覆し通常不溶性金属電極として使用される多孔質材料を接触状態で設置し、酸素発生が主として該多孔質材料上で生ずるようにすればよい。」(第3頁左下欄6〜15行)、
「第1図は、本発明の電解槽として使用可能な複極型固定床式電解槽の一例を示す概略縦断面図、第2図は、第1図の電解槽を熱交換器の前に設置した状態を示す概略図である。上下にフランジ1を有する円筒形の電解槽本体2の内部上端近傍及び下端近傍にはそれぞれメッシュ状の給電用陽極3と給電用陰極4が設けられている。」(第4頁右下欄8〜15行)、
「該電解槽に供給された冷却水を第1図に矢印で示すように下方から供給しながら通電を行うと、前記各固定床5が図示の如く下面が正に上面が負に分極して固定床5内及び固定床5間に電位が生じ、該電解槽内を流通する冷却水はこの電位により正又は負に分極された固定床5に接触して該冷却水中の黴や細菌の殺菌及びカルシウムやマグネシウムイオンの水酸化物としての析出除去等の改質処理が行われて該電解槽2の上方から取り出されて、第2図に示すように熱交換器に循環され、同様に熱交換器用冷却水の処理が継続される。第3図は、本発明に使用できる複極型固定床式電解槽の他の例を示すもので、該電解槽は第1図の電解槽の固定床5の給電用陰極4に向かう側つまり陽分極する側にメッシュ状の不溶性金属材料7を密着状態で設置したものであり、」(第5頁左下欄1〜16行)、
「第4図は、本発明に使用できる複極型固定床式電解槽の他の例を示すものである。上下にフランジ21を有する円筒形の電解槽本体22の内部上端近傍及び下端近傍にはそれぞれメッシュ状の給電用陽極23と給電用陰極24が設けられている。電解槽本体22は、長期間の使用又は再度の使用にも耐え得る電気絶縁材料特に合成樹脂で形成することが好ましい。前記両給電用電極23、24間には、導電性材料例えば炭素系材料で形成された多数の固定床形成用粒子25と該固定床形成用粒子25より少数の例えば合成樹脂製の絶縁粒子28とがほぼ均一に混在している。該絶縁粒子28は、前記給電用陽極23及び給電用陰極24が完全に短絡することを防止する機能を有している。」(第5頁右下欄11行〜第6頁左上欄5行)が記載されている。

[5-2]刊行物2(「水処理技術 11月号」第22巻、第11号、1981、第55〜64頁、昭和56年11月15日、日本水処理技術研究会発行)
刊行物2には、
「4.複極性固定層電極
4-1 特徴
複極性固定層電極は、第15図に示すように主電極間に他の粒子とは電気的に絶縁した状態にある電気伝導性粒子を充填し,高電圧を印加することによって,粒子の両側でアノード,カソード反応を行わせるという型の電解槽である。第15図に示すように個々の粒子があたかも1個の電解槽として働くので,反応種の移動距離が短く,反応種濃度および電気伝導度が低い電解液の電解を行うことができる。」(第59頁右欄下から14〜5行)、
「活性炭を複極性固定層電極の充てん粒子として用い,下水の中水化処理に適用したプロセスでは,第24図に示すようにNH4+,NO3-などの無機イオンは電気的に活性炭に吸蔵され,有機成分は吸着と同時に酸化分解し,再生が同時に進行する。」(第62頁右欄6〜10行)」が記載されるとともに、第60頁の第15図には、複極性固定層電極の模式図が示され、また、第62頁の第24図には、複極化粒子としての活性炭が図示されている。

[5-3]刊行物3(特開平6-233983号公報)
刊行物3には、
「【請求項1】炭素質三次元電極を電極として収容した三次元電極式電解槽において、前記炭素質三次元電極の陽分極する面に炭化珪素の被覆層を形成したことを特徴とする三次元電極式電解槽。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)、
「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、各種被処理水の処理や各種電解液の電解に使用する三次元電極式電解槽に関し、より詳細には微生物を含有する被処理水例えば養魚用水の滅菌や性能向上あるいは写真処理液からの銀回収等のガス発生を伴いながら電解液の電解処理又は電解を行うのに適した炭素質三次元電極を使用する三次元電極式電解槽に関する。」(段落【0001】)、
「【0008】本発明の三次元電極式電解槽における炭素質三次元電極は、前記被処理水あるいは電解液が透過可能な多孔質材料、例えば・・・フェルト状、織布状・・・等の形状を有する活性炭、グラファイト、炭素繊維等の炭素系材料から・・・形成された複数個の誘電体から成ることが好ましい。該三次元電極は直流または交流電場内に置かれ、両端に設置した平板状又はエキスパンドメッシュ状やパーフォレーティッドプレート状等の多孔板体から成る給電用陽陰極間に直流電圧や低周波交流電圧を印加して前記三次元電極を分極させ該三次元電極の一端及び多端にそれぞれ正及び負の電荷が形成されて分極する。」(段落【0008】)、
「【0009】前記炭素質三次元電極として活性炭、グラファイト、炭素繊維等の炭素系材料を使用して被処理水を処理する場合には、前記三次元電極が陽極反応により発生する酸素ガスにより酸化され炭酸ガスとして溶解し易くなる。これを防止するために本発明では前記三次元電極の陽分極する面に、炭化珪素の被覆層を形成する」(段落【0009】)、
「より以上に前記炭素質三次元電極の溶出を抑制するには該炭素質三次元電極の炭化珪素被覆層が形成された面につまり前記炭素質三次元電極の陽分極する側に、チタン等の基材上に酸化イリジウム、酸化ルテニウム等の白金族金属酸化物を被覆し通常不溶性金属電極として使用される多孔質材料を接触状態で設置し、酸素発生が主として該多孔質材料上で生ずるようにすればよい。」(段落【0010】)、
「図1は、本発明の電解槽として使用可能な複極型固定床式電解槽の一例を示す概略縦断面図である。上下にフランジ1を有する円筒形の電解槽本体2の内部上端近傍及び下端近傍にはそれぞれメッシュ状の給電用陽極ターミナル3と給電用陰極ターミナル4が設けられている。・・・・・・
【0018】前記両給電用電極ターミナル3、4間には複数個の、図示の例では3個の固定床5詰まり三次元電極が積層され、かつ該固定床5間及び該固定床5と前記両給電用電極ターミナル3、4間に4枚の多孔質の隔膜あるいはスペーサー6が挟持されている。各固定床5の前記給電用陰極ターミナル4に向かう面には炭化珪素被覆層7が被覆され、・・・・・・
【0019】図2は、本発明の複極型固定床式電解槽の他の例を示すもので、該電解槽は第1図の電解槽の固定床5の給電用陰極4に向かう側つまり陽分極する側にメッシュ状の不溶性金属材料8を密着状態で設置したものであり、・・・直流電圧が印加された固定床5はその両端部において最も大きく分極が生じ、ガス発生が伴う場合には該両端部において最も激しくガス発生が生ずる。従って最も強く陽分極するつまり最も激しく酸素ガスが発生する固定床5の給電用陰極4に向かう端部には最も速く溶解が生じる。図示の通りこの部分に不溶性金属材料8を設置しておくと、該不溶性金属材料8の過電圧が固定床5を形成する炭素系材料の過電圧より低いため殆どの酸素ガスが前記不溶性金属材料8から発生し固定床5は殆ど酸素ガスと接触しなくなるため、前記固定床5の溶出は図1の場合以上に効果的に抑制される。又該電解槽2に供給された被処理水等は図1の場合と同様に処理され改質が行われる。」(段落【0017】〜【0019】)が記載されており、
また、図1、図2には、上述の内容に対応する装置が図示されている。

[6]対比・判断
[6-1]本件発明1について
上記[5-1]に摘記した事項を総合すると、刊行物1には、「電解槽内にメッシュ状の給電用陽極と給電用陰極を設け、該給電用陽陰極間には、被処理水が透過可能な多孔質材料、例えばフェルト状、織布状等の形状を有する活性炭等の誘電体から成る固定床を積層し、該給電用陽陰極間に直流電圧を印加して上記誘電体を分極させ該誘電体の一端及び多端にそれぞれ正及び負の電荷を形成させ、該電解槽内を流通する冷却水はこの電位により正又は負に分極された固定床に接触して該冷却水中の黴や細菌の殺菌及びカルシウムやマグネシウムイオンの水酸化物としての析出除去等の改質処理を行い、また、固定床の給電用陰極に向かう側つまり陽分極する側にはメッシュ状の不溶性金属材料を密着状態で設置する三次元電極式電解槽の三次元電極」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
そして、本件発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「フェルト状、織布状等の形状を有する活性炭」は、本件発明1における「活性炭の繊維からなる活性炭部材」に相当し、また、引用発明1における「メッシュ状の給電用陽極」、及び「メッシュ状の不溶性金属材料」は、本件発明1における「メッシュ形態の電極部材」に相当し、また、引用発明1における「メッシュ状の給電用陽極」、及び「メッシュ状の不溶性金属材料」、及びそれらの間に挟み込まれる「フェルト状、織布状等の形状を有する活性炭等の誘電体から成る固定床」の「陽分極する側」は、本件発明1における「水電解用陽極」に相当する。
そうすると、両者は、「活性炭の繊維からなる活性炭部材とメッシュ形態の電極部材からなり、前記電極部材の間に前記活性炭部材が挟み込まれてこの活性炭部材と電極部材が接触している水電解用陽極」の点で一致するが、下記(イ)の点で相違する。
(イ)本件発明1では、水電解用陽極の活性炭部材が、分離可能なかつ独立して存在するのに対し、引用発明1における水電解用陽極の活性炭部材は、活性炭部材の陽分極する側の部分がそれに該当するが、該部分は、該活性炭部材の陰分極する側の部分とは分離できず、独立して存在しない点。
そして、本件発明1の相違点(イ)に係る発明特定事項は、水電解用陽極において自明な事項でもないから、本件発明1は、刊行物1に記載された発明ではない。

次に、上記[5-2]に摘記した事項を総合すると、刊行物2には、「電解槽の主電極間に、複極性固定層電極の電気伝導性粒子として多数個の活性炭粒子を充填し、該主電極間に高電圧を印加して個々の上記活性炭粒子の両側でそれぞれアノード,カソード反応を行わせて下水等を処理する複極性固定層電極」の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。
そして、本件発明1と引用発明2とを対比すると、引用発明2における「活性炭粒子」、「主電極」、「アノード,カソード反応を行わせて下水等を処理する」はそれぞれ、本件発明1における「活性炭部材」、「電極部材」、「水電解」に相当し、また、引用発明2における「主電極」の陽極、及び「複極性固定層電極」の陽分極する側は、本件発明1における「水電解用陽極」に相当するので、両者は、「活性炭部材と電極部材からなる水電解用陽極」の点で一致するが、下記(ロ)、(ハ)の点で相違する。
(ロ)本件発明1では、水電解用陽極の活性炭部材が、分離可能なかつ独立して存在するのに対し、引用発明2における水電解用陽極の活性炭部材は、活性炭部材の陽分極する側の部分がそれに該当するが、該部分は、該活性炭部材の陰分極する側の部分とは分離できず、独立して存在しない点。
(ハ)本件発明1では、水電解用陽極の活性炭の繊維からなる活性炭部材が、水電解用陽極のメッシュ形態の電極部材の間に挟み込まれてこの活性炭部材と電極部材が接触しているのに対し、引用発明2では、水電解用陽極の活性炭部材は粒子体であり、水電解用陽極のメッシュ形態の電極部材の間に該活性炭部材が挟み込まれて接触していない点。
そして、本件発明1の相違点(ロ)、(ハ)に係る発明特定事項は、水電解用陽極において自明な事項でもないから、本件発明1は、刊行物2に記載された発明ではない。

次いで、相違点(イ)〜(ハ)について更に検討するに、相違点(イ)、(ロ)は同じものであり、引用発明1、2に共通の本件発明1との相違点といえる。また、刊行物3に記載された三次元電極式電解槽における水電解用陽極の活性炭部材も、下記[6-2]で述べるように、該活性炭部材の陽分極する側の部分がそれに該当し、該部分は、該活性炭部材の陰分極する側の部分とは分離できず、独立して存在するものとはいえない。
そうすると、本件発明1の相違点(イ)、(ロ)に係る発明特定事項は、刊行物1〜3のいずれにも記載されておらず、刊行物1〜3に記載された発明をいかに組み合わせても導き出すことはできない。
そして、本件発明1は、相違点(イ)、(ロ)に係る発明特定事項を具備することにより、陽極の水分解電圧を理論分解電圧近くまで低下させることができるという、訂正明細書に記載されたとおりの効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

[6-2]本件発明2について
上記[5-3]に摘記した事項を総合すると、刊行物3には、「電解槽内にメッシュ状の給電用陽極と給電用陰極を設け、該給電用陽陰極間には、被処理水が透過可能なフェルト状、織布状等の形状を有する活性炭等の炭素系材料から形成された誘電体から成る三次元電極を積層し、該給電用陽陰極間に電圧を印加して上記誘電体を分極させ該誘電体の一端及び他端にそれぞれ正及び負の電荷を形成させ、三次元電極の陽分極する面には炭化珪素の被覆層を形成し、また、三次元電極の陽分極する側にはメッシュ状の不溶性金属材料を密着状態で設置し、該電解槽内を流通する被処理水がこの分極電位により電解処理される、三次元電極式電解槽における三次元電極」の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されているといえる。
そして、本件発明2と引用発明3とを対比すると、引用発明3における「フェルト状、織布状等の形状を有する活性炭」は、本件発明2において引用する本件発明1の「活性炭の繊維からなる活性炭部材」に相当し、また、引用発明3における「メッシュ状の給電用陽極」、及び「メッシュ状の不溶性金属材料」は、本件発明2において引用する本件発明1の「メッシュ形態の電極部材」に相当し、また、引用発明3における「メッシュ状の給電用陽極」、及び「メッシュ状の不溶性金属材料」、及び「フェルト状、織布状等の形状を有する活性炭等の炭素系材料から形成された誘電体から成る三次元電極」の陽分極する側の部分は、本件発明2における「水電解用陽極」に相当する。
そうすると、両者は、「活性炭の繊維からなる活性炭部材とメッシュ形態の電極部材からなり、前記電極部材の間に前記活性炭部材が挟み込まれてこの活性炭部材と電極部材が炭化珪素を介して接触している水電解用陽極」の点で一致するが、下記(ニ)の点で相違する。
(ニ)本件発明2では、水電解用陽極の活性炭部材が、分離可能なかつ独立
して存在するのに対し、引用発明3における水電解用陽極の活性炭部材は、活性炭部材の陽分極する側の部分がそれに該当するが、該部分は、該活性炭部材の陰分極する側の部分とは分離できず、独立して存在しない点。
そして、本件発明2の相違点(ニ)に係る発明特定事項は、水電解用陽極において自明な事項でもないから、本件発明2は、刊行物3に記載された発明ではない。

次いで、相違点(ニ)について更に検討するに、引用発明1、2も引用発明3と同じく、活性炭部材が分離可能なかつ独立して存在するものでないことは、上記[6-1]で述べたとおりである。
そうすると、本件発明2の相違点(ニ)に係る発明特定事項は、刊行物1〜3のいずれにも記載されておらず、刊行物1〜3に記載された発明をいかに組み合わせても導き出すことはできない。
そして、本件発明2は、相違点(ニ)に係る発明特定事項を具備することにより、陽極の水分解電圧を理論分解電圧近くまで低下させることができるという、訂正明細書に記載されたとおりの効果を奏するものである。
したがって、本件発明2は、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

[7]むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1、2の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1、2の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
水電解用電極
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 分離可能なかつ独立して存在する活性炭の繊維からなる活性炭部材とメッシュ形態の電極部材からなり、前記電極部材の間に前記活性炭部材が挟み込まれてこの活性炭部材と電極部材が接触していることを特徴とする、水電解用陽極。
【請求項2】 前記活性炭部材と電極部材が炭化珪素または炭化硼素を介して接触していることを特徴とする、請求項1記載の水電解用陽極。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水の電気分解に用いる、酸素過電圧の低い陽極に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、自動車の排気ガスによる公害及び石油資源の有限性による燃料の長期安定供給が問題となっており、また近年は、化石燃料の燃焼によって排出される二酸化炭素の温室効果による地球の温暖化も問題となっている。そこでこのような問題を引き起こすことのない、化石燃料に替わるエネルギー源として水素が注目されている。
【0003】
この水素の製造方法としては、水電解法が古くより知られている。すなわち水を電気分解することにより、2ファラデー(F)の電気量で下式
H2O → H2+1/2O2
の反応が起こり、陽極に酸素を、陰極に水素を同時に得ることができる。
【0004】
この水の電解法において、設備費、消費電力の低減、高電流密度、低電圧槽を目標として各種研究が行われており、その1つとしてアルカリ電解法が知られている。このアルカリ電解法は、食塩電解に用いられている陽イオン交換膜で仕切られた陽極室に水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液を入れ、陰極室には水又は希アルカリ水溶液を入れ、電解を行う方法である。この方法において陽極としては、アルカリ水溶液に侵されないニッケル等が用いられている。また、陰極としては鉄、ステンレス等が用いられている。
【0005】
ところが、この陽極の過電圧は陰極の過電圧と比較すると数倍高く、省電力化のためにはこの陽極の過電圧を低減することが必要である。そこで、例えば特開昭57-200574号公報及び特開昭60-159184号公報では、上記の水のアルカリ電解法における陽極として、ニッケル、コバルト、銀より選ばれた金属粒子を表面に露出させ、表面に貴金属を付着させた電極や、多孔性電極基体の表面にこれらの金属を付着させた電極が開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような電極においても、いまだ酸素過電圧の低下は十分ではなく、理論分解電圧との間には大きな差がみられた。本発明は、酸素過電圧をさらに低減させ、かつ耐久性の高い、水電解用陽極を提供する。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、上記問題点を解決するために、分離可能なかつ独立して存在する活性炭の繊維からなる活性炭部材とメッシュ形態の電極部材からなり、前記電極部材の間に前記活性炭部材が挟み込まれてこの活性炭部材と電極部材が接触していることを特徴とする、水電解用陽極が提供される。また、2番目の発明では、上記問題点を解決するために1番目の発明において、前記活性炭部材と電極部材が炭化珪素または炭化硼素を介して接触されている。
【0008】
【発明の実施の形態】
上記のように、水分解用陽極として、ニッケル、コバルト、銀等の酸素過電圧の低い金属が用いられていた。ところが、例えばニッケルを単独でこの陽極として用いた場合、その水分解電圧は1570mVであり、水の理論分解電圧、1260mVとはいまだかなりの差があり、酸素過電圧を下げる余地が大きい。本発明者は、この電極部材を活性炭部材と組合せ、かつこの電極部材と活性炭部材とを接触させて用いると、酸素過電圧をさらに理論分解電圧近くまで低下させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明の陽極において、電極部材としては、従来より用いられている各種の電極材料を用いることができ、好ましくは酸素過電圧の低い材料、例えばニッケル、コバルト、銀等を単独でもしくは組み合わせて用いる。また、活性炭部材としても特に制限はなく、各種のものを用いることができる。本発明の陽極では、この活性炭部材と電極部材が接触していることが必要であり、分離させた状態では所定の効果が得られない。この接触は、メッシュ形態の電極部材の間に活性炭の繊維からなる部材を挟み込むことにより行う。
【0010】
本発明の陽極を水電解に用いる場合の対極としての陰極は特に限定されず、従来より水電解に用いられているものを用いることができる。その例としては、鉄、ステンレス、白金等が例示される。
【0011】
本発明の陽極を、イオン交換膜電解に用いる場合、隔膜としては、従来より公知の含フッ素系陽イオン交換膜を用いることができる。
【0012】
図1に、本発明の陽極の一実施態様を示す。この図1において、1は活性炭繊維を、そして2はニッケル製のメッシュを示す。図1(a)に示すように、このニッケル製のメッシュの間に活性炭繊維を挟み込むことによって、図1(b)に示す本発明の陽極が得られる。
【0013】
対極として、白金電極を用い、20%KOH水溶液中で温度20℃において水の分解電圧を測定した。また、比較として、陽極にニッケル、白金、活性炭を用いて同様に水の分解電圧を測定した。この結果を表1に示す。
【0014】
【表1】

【0015】
上記のように、水の理論分解電圧は1260mVであり、陽極としてニッケル、白金を単独で用いた場合には水の分解電圧はこの理論分解電圧とは大きな差があったが、本発明の陽極を用いることにより、理論分解電圧近くまで水の分解電圧を低下させることができた。
【0016】
以上のように、電極部材を活性炭部材と接触させた電極を用いることにより、実験室レベルでは水の分解電圧を大きく低下させることができたが、この分解電圧は通電後10時間ほどで上昇してしまい、実用的には不十分であった。これを防ぐためには、逆反応、すなわち陽極に陰極として通電してやればよいことがわかっているが、実用レベルではこのような作業を行うことができない場合もある。
【0017】
そこで、本発明では、電極部材と活性炭部材との間の接触を、炭化珪素または炭化硼素を介して行うことにより、陽極の耐久性を向上させている。すなわち、活性炭部材に物理蒸着法(スパッタ法、真空蒸着法等)又は化学的成膜法(ゾルゲル法、CVD法等)により炭化珪素または炭化硼素を成膜し、この炭化珪素または炭化硼素の膜面と上記の電極部材を接触させるようにして電極を構成する。こうして得られた陽極は、炭化珪素または炭化硼素を成膜しなかった陽極と同様の特性を有し、かつ長期間、その特性を維持し耐久性が向上した。
【0018】
炭化珪素または炭化硼素を真空蒸着した活性炭を用いることを除き、図1に示すような陽極を同様にして製造した。この陽極を用い、対極として白金電極を用い、20%KOH水溶液中で温度20℃において水の電解を行うと、分解電圧は1300mVであり、炭化珪素または炭化硼素を成膜しなかった活性炭を用いた陽極の場合と同様に理論分解電圧近くにまで分解電圧の低下がみられた。
【0019】
次に、炭化珪素を成膜した活性炭を用いた陽極を用い、対極に白金を用い、隔膜としてイオン交換容量が1.45meq/g乾燥樹脂、厚さ210μmのポリテトラフルオロエチレンとCF2=CF(CF2)2COCH3の共重合体からなる陽イオン交換膜を配置し、水電解槽を組み立てた。そして陽極室に25%KOH水溶液を入れ、陰極室のKOH濃度を20%に維持しつつ、60℃、電流密度70A/dm2で電解を行った。
【0020】
この時の槽電圧は1.49Vであり、30日間電解を行った後もこの槽電圧は変化しなかった。陽極が劣化すればこの槽電圧は上昇するはずであり、槽電圧が一定であったことは、陽極の耐久性がすぐれていることを示している。また、陽極の酸素過電圧は、60℃、電流密度70A/dm2において約0.15Vであった。また、炭化硼素を用いた場合も同様の結果となった。
【0021】
【発明の効果】
本発明において、水電解用の電極として、活性炭部材と電極部材より構成し、かつこの活性炭部材と電極部材を接触させることにより、水の分解電圧を理論電圧近くまで低下させることができる。また、炭化珪素または炭化硼素を介して活性炭部材と電極部材を接触させることにより、耐久性、すなわち使用耐久時間を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の陽極の構成を示す略図であり、1(a)は電極材に活性炭を挟み込む前の図であり、1(b)は挟み込んだ後の図である。
【符号の説明】
1…活性炭繊維
2…電極材メッシュ
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-03-11 
出願番号 特願平9-235030
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C25B)
P 1 651・ 121- YA (C25B)
最終処分 維持  
特許庁審判長 影山 秀一
特許庁審判官 市川 裕司
瀬良 聡機
登録日 2002-11-29 
登録番号 特許第3374713号(P3374713)
権利者 トヨタ自動車株式会社
発明の名称 水電解用陽極  
代理人 鶴田 準一  
代理人 西山 雅也  
代理人 戸田 利雄  
代理人 古賀 哲次  
代理人 石田 敬  
代理人 青木 篤  
代理人 関根 宣夫  
代理人 福本 積  
代理人 島田 哲郎  
代理人 関根 宣夫  
代理人 三橋 真二  
代理人 福本 積  
代理人 廣瀬 繁樹  
代理人 鶴田 準一  
代理人 吉田 維夫  
代理人 三橋 真二  
代理人 廣瀬 繁樹  
代理人 土屋 繁  
代理人 戸田 利雄  
代理人 西山 雅也  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  
代理人 石田 敬  
代理人 土屋 繁  
代理人 吉田 維夫  
代理人 島田 哲郎  

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