• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
管理番号 1121122
異議申立番号 異議2003-72868  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-05-11 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-11-26 
確定日 2005-05-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3409751号「接続材料および接続体」の請求項1ないし12に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3409751号の請求項2、6、9ないし11に係る特許を取り消す。 同請求項1、3ないし5、7、8、12に係る特許を維持する。 
理由 I.手続きの経緯
本件特許第3409751号の発明についての出願は、平成11年10月22日の出願であって、平成15年3月20日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、金田政毅より特許異議の申立がなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成17年1月31日に訂正請求がなされたものである。

II.訂正の適否について
1.訂正の内容
(1)訂正事項a
請求項1中の「被接続部材を固着する複数の硬化型接着剤層中に、一方の被接続部材側に偏在して、加熱により軟化する軟化性接着剤層を」を、
「被接続部材を固着する複数の硬化型接着剤層中であって、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層と、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層との間に、一方の被接続部材側に偏在して、加熱により軟化する熱可塑性樹脂を含む軟化性接着剤層を」と訂正する。

(2)訂正事項b
請求項2中の「被接続部材を固着する複数の硬化型接着剤層中に、加熱により軟化する軟化性接着剤層を」を、
「被接続部材を固着する複数の硬化型接着剤層中であって、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層と、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層との間に、加熱により軟化する熱可塑性樹脂を含む軟化性接着剤層を」と訂正する。

(3)訂正事項c
請求項6中の「硬化型接着剤層が熱硬化性樹脂を含有する接着剤から形成され、」を、
「硬化型接着剤層が、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層と、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層とから形成され、」と訂正する。

(4)訂正事項d
請求項9中の「導電性粒子を接着剤成分に対して0〜40容量%含む」を、「導電性粒子を接着剤成分に対して40容量%以下含む」と訂正する。

(5)訂正事項e
明細書段落【0007】(1)中の「被接続部材を固着する複数の硬化型接着剤層中に、一方の被接続部材側に偏在して、加熱により軟化する軟化性接着剤層を」を、「被接続部材を固着する複数の硬化型接着剤層中であって、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層と、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層との間に、一方の被接続部材側に偏在して、加熱により軟化する熱可塑性樹脂を含む軟化性接着剤層を」と、
同(2)中の「被接続部材を固着する複数の硬化型接着剤層中に、加熱により軟化する軟化性接着剤層を」を、「被接続部材を固着する複数の硬化型接着剤層中であって、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層と、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層との間に、加熱により軟化する熱可塑性樹脂を含む軟化性接着剤層を」と、
同(6)中の「硬化型接着剤層が熱硬化性樹脂を含有する接着剤から形成され、」を、「硬化型接着剤層が、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層と、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層とから形成され、」と、
同(9)中の「導電性粒子を接着剤成分に対して0〜40容量%含む」を、「導電性粒子を接着剤成分に対して40容量%以下含む」と訂正する。

(6)訂正事項f
明細書段落【0014】を、次のとおりに訂正する。
「【0014】 硬化型接着剤には導電性粒子を用いる。導電性粒子としては、はんだ、ニッケル等の金属粒子、高分子核材粒子をメッキ等により導電材で被覆した導電被覆粒子、またはこれらの導電性の粒子を絶縁性樹脂で被覆した絶縁被覆導電粒子などが使用できる。これらの導電性粒子の平均粒径は1〜20μm、好ましくは3〜10μmとすることができる。」

(7)訂正事項g
明細書段落【0015】中の「これらの接着剤成分の合計量に対して0〜40容量%、好ましくは0〜30容量%と」を、「これらの接着剤成分の合計量に対して40容量%以下、好ましくは30容量%以下と」と訂正する。

(8)訂正事項h
明細書段落【0021】中の「軟化性接着剤層の位置は中央部でもよく、またどちらかの被接続部材側に偏位していてもよいが、」を、「軟化性接着剤層の位置は、どちらかの被接続部材側に偏位していているが、」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項a、bは、請求項1、2における「複数の硬化型接着剤層中に」を「複数の硬化型接着剤層中であって、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層と、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層との間に」に限定し、同じく「軟化性接着剤層」を「熱可塑性樹脂を含む軟化性接着剤層」に限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。又訂正事項cは、請求項6における「硬化型接着剤層」を「熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層と、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層」に限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そして、これらの点は明細書段落【0039】、【0040】、【0016】の記載により裏付けられている。
(2)訂正事項dは、請求項9において、導電性粒子を接着剤成分に対して「0〜40容量%」含むことを「40容量%以下」含むことに限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そして、この点は明細書段落【0039】、【0040】の記載により裏付けられている。
(3)訂正事項e〜hは、特許請求の範囲の上記訂正により発明の詳細な説明の記載を訂正事項a〜dの訂正に整合させるものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。

そして、上記訂正事項a〜hは、いずれも願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.特許異議申立について
1.特許異議の申立の概要
特許異議申立人は、証拠として甲第1号証(特開平8-148211号公報)を提出して、訂正前の請求項1〜12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、該請求項1〜12に係る発明の特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、これを取り消すべき旨主張する。

2.本件発明
本件特許の請求項1〜12に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明12」という。)は、平成17年1月31日付訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜12に記載された事項により特定される次のとおりのものである(なお、請求項5に記載の「1記ないし4のいずれかに載の」は、「1ないし4のいずれかに記載の」の誤記であると認められるので、以下の通りに請求項5を認定した。)。
「【請求項1】 対向する電極を有する被接続部材を接続するための接続材料であって、
被接続部材を固着する複数の硬化型接着剤層中であって、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層と、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層との間に、
一方の被接続部材側に偏在して、加熱により軟化する熱可塑性樹脂を含む軟化性接着剤層を中間層として有する接続材料。
【請求項2】 対向する電極を有する被接続部材を接続するための接続材料であって、
被接続部材を固着する複数の硬化型接着剤層中であって、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層と、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層との間に、
加熱により軟化する熱可塑性樹脂を含む軟化性接着剤層を中間層として有し、
軟化性接着剤層が熱硬化性樹脂の成分と反応するエポキシ基、水酸基およびカルボキシル基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する接続材料。
【請求項3】 軟化性接着剤層が40〜120℃で軟化する請求項1または2記載の接続材料。
【請求項4】 軟化性接着剤層が一方の被接続部材側に偏在する請求項2記載の接続材料。
【請求項5】 軟化性接着剤層がリペアしたい方の被接続部材側に偏在する請求項1ないし4のいずれかに記載の接続材料。
【請求項6】 硬化型接着剤層が、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層と、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層とから形成され、軟化性接着剤層が30重量%以上の熱可塑性樹脂を含有する接着剤から形成される請求項1ないし5のいずれかに記載の接続材料。
【請求項7】 軟化性接着剤層が熱硬化性樹脂の成分と反応する官能基を有する請求項1記載の接続材料。
【請求項8】 軟化性接着剤層の厚みが接続材料全体の厚みの1/3以下である請求項1ないし7のいずれかに記載の接続材料。
【請求項9】 硬化型接着剤層または軟化性接着剤層からなるいずれかの層が導電性粒子を接着剤成分に対して40容量%以下含む請求項1ないし8のいずれかに記載の接続材料。
【請求項10】 対向する電極を有する被接続部材を、請求項1ないし9のいずれかに記載の接続材料を介在させて接続した接続体。
【請求項11】 軟化性接着剤層が対向する電極間に存在せず、隣接する電極間に位置する請求項10記載の接続体。
【請求項12】 軟化性接着剤層がリペアを行いたい被接続部材側に位置する請求項11記載の接続体。」

3.当審が通知した取消理由においては、訂正前の請求項1〜12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、又甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該請求項1〜12に係る発明の特許は、特許法第29条第1項、又同第2項の規定に違反してされたものであるとした。
その引用した刊行物には、次の事項が記載されている。

刊行物1:特開平8-148211号公報(甲第1号証)
(1a)「【請求項1】熱可塑性フイルムの片面に導電材料とバインダとからなり、加圧方向に導電性を有する接着層を形成し、熱可塑性フイルムの他の片面に絶縁性の接着層を形成し、両接着層共に前記熱可塑性フイルムより少なくとも接続時の溶融粘度を低くした接続部材。
【請求項2】相対峙する電極列間の少なくとも一方が突出し、請求項1記載の接続部材の導電材料が相対峙する電極間に存在し、且つ突出電極の周囲よりも導電材料の密度が高い状態で存在する電極の接続構造。」(特許請求の範囲)
(1b)「【産業上の利用分野】本発明は、電子部品と回路板、或いは回路板同士を接着固定すると共に、両者の電極同士を電気的に接続する接続部材及びその接続部材を用いた電極の接続構造・接続方法に関する。」(段落【0001】)
(1c)「本発明は・・・、電極上からの導電粒子の流出が少なく、また、接続部に気泡を含み難いことから長期の接続信頼性に優れ、導電粒子と電極との正確な位置合わせが不要なことから作業性に優れた、高分解能の接続部材及び該接続部材を用いた電極の接続構造・接続方法を提供するものである。」(段落【0005】)
(1d)「図1は本発明の一実施例を説明する接続部材の断面模式図である。本発明の接続部材は、熱可塑性フイルム1の片面に導電材料及びバインダからなり、加圧方向に導電性を有する導電性接着層2を形成し、熱可塑性フイルム1の他の片面に絶縁性の接着層3を形成し、両接着層共に前記熱可塑性フイルム1より少なくとも接続時の溶融粘度を低くしたものである。・・・図2及び図3は本発明の他の実施例を説明する接続部材の断面模式図であり、熱可塑性フィルムを複層とした(1、1′)ものである。図2は表面に絶縁性接着層3、3´が存在しており、図3は導電性接着層2、2′が存在している。図2、図3のように、表面の構成は電極の構成に応じて任意に選択できる。また、熱可塑性フイルム1は二層以上に順次形成することもできる。」(段落【0007】)と記載され、図3には、上から順に、導電性接着層2、熱可塑性フイルム1、絶縁性接着層3、熱可塑性フィルム1′、導電性接着層2′の5層からなる接続部材が記載されている。
(1e)「熱可塑性フイルム1は、熱的変態点が50〜350℃のものが好適である。ここに熱的変態点は、融点の明瞭なものは融点を用いるが、・・・熱的変態点を50〜350℃が好適とした理由は、低温側は接続体の信頼性を維持するためであり、高温側は電極接続時における基板等の周辺材料の熱劣化を抑制するためである。このため、熱的変態点は70〜250℃が好ましく、80〜200℃が更に好ましい。熱可塑性フイルム1は、他の接着層2、3との接着性を有することが、信頼性に優れた電極の接続構造が得られるので好ましい。」(段落【0008】)
(1f)「熱可塑性フイルムを限定でなく、例として示すと、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、・・・、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、ポリブタジエン、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーンゴム、ポリクロロプレン等の高分子化合物やゴム類などを挙げることが出来る。」(段落【0009】)
(1g)「加圧方向に導電性を有する導電性接着層2は、図5に示すように導電材料4を含有したバインダ5からなる。ここに導電材料4としては、図5(a)〜(d)のように、バインダ5の厚み以下の小粒径のものが好ましい。この場合、加圧又は加熱加圧手段を講じることでバインダ5の厚み減少によって導電性を得る。」(段落【0010】)、
「バインダ5に対する導電材料4の割合は、0.1〜20体積%程度が、導電異方性が得易く好ましい。・・・導電材料4としては、例えば、図5の(e)〜(g)のように導電粒子で形成することが、比較的製造が容易なことから好ましい。」(段落【0011】)
(1h)「バインダ5は、前記したのと同様な熱可塑性材料や、熱や光により硬化性を示す材料が広く適用出来、接着性を有することが好ましい。これらは接続後の耐熱性や耐湿性に優れることから、硬化性材料の適用が好ましい。中でもエポキシ系接着剤は短時間硬化が可能で接続作業性が良く、分子構造上接着性に優れる等の特長から好ましく適用出来る。」(段落【0014】)
(1i)「図6及び図7において、相対峙する電極12-13間に導電材料4が存在し、且つ、突出電極12の周囲14よりも電極12-13間において導電材料の密度が高い状態で存在し、相対峙する電極列間が接続されている。また、絶縁性接着層3が突出電極12の少なくとも突出する電極の周囲を覆っている。電極12-13間において熱可塑性フイルム1は、接続時の加熱加圧により溶融して消滅しているが、隣接電極12-12間では加圧が不十分のため、導電性接着層2と絶縁性接着層3との境界層として維持されている。本発明の接続部材を用いた電極の接続方法は、接続部材の絶縁性接着層が突出した電極側となるように配置し、熱可塑性フイルムの熱的変態点の近傍で加熱加圧する。熱的変態点の近傍より高温であると、導電性接着層2と絶縁性接着層3との境界層として存在し難くなり、低温であると電極12-13間において接続時の加熱加圧により溶融し難く、導通が得難い。」(段落【0017】)と記載され、実施例2、3に対応する図7、6には、導電性接着層において突出電極と相対峙する電極間が存在し、導電性粒子を介して電極どうしが接続している状態が記載されている。
(1j)「また、本発明の電極の接続方法は、少なくとも一方が突出した電極を有する相対峙する電極列間に、接続部材の絶縁性接着層が突出した電極側となるように配置し、熱可塑性フイルムの熱的変態点の近傍で加熱加圧することで、導電材料が相対峙する電極間に存在し、且つ突出電極の周囲よりも導電材料の密度が高い状態で存在することが可能になる。」(【0018】)
(1k)「接着層は、その目的に応じ例えば電極基板の材質に適合した組み合わせが可能なことから、材料の選択肢が拡大し、やはり接続信頼性が向上する。また、一方を溶剤に可溶性又は膨潤性としたり、或いは耐熱性に差を持たせることで、一方の基板面から優先的に剥離可能とし、再接続する所謂リペア性を付与することも可能となる。」(段落【0019】)
(1m)「実施例1
(1)導電性接着層付熱可塑性フイルムの作製
マトリックスとしてアクリルゴム(ガラス転移点-10℃、分子量50万、官能基としてカルボキシル基1%含有)とマイクロカプセル型潜在性硬化剤を含有する液状エポキシ樹脂(エポキシ当量185)との比率を20/80とし、酢酸エチルの30%溶液を得た。この溶液に粒径5±0.2μmのポリスチレン系粒子にNi/Auの厚さ0.2/0.02μmの金属被覆を形成した導電性粒子を5体積%添加し、混合分散した。この分散液を熱的変態点130℃のフェノキシ樹脂(熱可塑性エポキシ樹脂)のフイルム(厚み10μm)にロールコータで塗布し、110℃で20分乾燥し、マトリックス厚み5μmのシートを得た。
(2)絶縁性接着層の形成及び接続部材の作製
アクリルゴムとマイクロカプセル型潜在性硬化剤含有の液状エポキシ樹脂の比率を10/90とし、導電性粒子を含有しない厚み15μmのシートを前記(1)の導電性接着層の裏面に(1)と同様に形成し、図1相当の接続部材を得た。
(3)接続
ポリイミドフィルム上に高さ18μmの銅の回路を有する二層FPC回路板(回路ピッチは100μm、電極幅50μmの平行回路の電極)と、厚さ1.1mmのガラス上に厚さ0.2μm(ITO、表面抵抗20Ω/□)の酸化インジウムの薄膜回路を有する平面電極との接続を行った。先ず、絶縁性接着層が突出した電極側(FPC回路板)となるように配置し、前記接続部材を1.5mm幅で載置した。この後、ITO回路板と上下回路を位置合わせし、160℃、20kgf/mm2、15秒で接続した。
(4)評価
・・・
本実施例では、平面電極のガラス側の接着力がFPC側に比べて相対的に低いことから、ガラス側から強制的に剥離したとき綺麗に界面剥離し、その後の清浄化が容易であった。このことは、現在同様な構成で多用されている液晶パネルの接続におけるリペア性の付与に好適である。」(段落【0020】〜【0022】)が記載されている。

4.対比・判断
刊行物1には、摘記事項(1a)によれば、熱可塑性フイルムの片面に導電材料とバインダとからなり、加圧方向に導電性を有する接着層を形成し、熱可塑性フイルムの他の片面に絶縁性の接着層を形成し、両接着層共に前記熱可塑性フイルムより少なくとも接続時の溶融粘度を低くした接続部材であって、この接続部材を用いて、相対峙する電極列間の少なくとも一方が突出し、該接続部材の導電材料が相対峙する電極間に存在し、且つ突出電極の周囲よりも導電材料の密度が高い状態で存在する電極の接続構造が記載され、摘記事項(1d)によれば、図3には、上から順に、導電性接着層2、熱可塑性フイルム1、絶縁性接着層3、熱可塑性フィルム1′、導電性接着層2′の5層からなる接続部材が記載されており、又熱可塑性フイルムは、摘記事項(1e)によれば、他の接着層2、3との接着性を有することが、信頼性に優れた電極の接続構造が得られるので好ましいとされ、摘記事項(1f)によれば、エチレン-アクリル酸共重合体、フェノキシ樹脂が例示され、摘記事項(1m)によれば、実施例1としてフェノキシ樹脂(熱可塑性エポキシ樹脂)からなるフイルムが記載されている。更にバインダは、摘記事項(1h)によれば、熱により硬化性を示す材料が広く適用出来、接着性を有すること、中でもエポキシ系接着剤は短時間硬化が可能で接続作業性が良く、分子構造上接着性に優れる等の特長から好ましいことが記載されている。
そうすると、摘記事項(1a)〜(1m)を総合すれば、刊行物1には、
「相対峙する電極列間の少なくとも一方が突出し、接続部材の導電材料が相対峙する電極間に存在し、導電材料と熱硬化性のバインダとからなり、加圧方向に導電性を有する導電性接着層2、接着性を有する熱可塑性フイルム1、絶縁性接着層3、接着性を有する熱可塑性フイルム1′、導電材料と熱硬化性のバインダとからなり、加圧方向に導電性を有する導電性接着層2′の5層からなる接続部材であって、接着性を有する熱可塑性フイルム1、1′がフェノキシ樹脂(熱可塑性エポキシ樹脂)又はエチレン-アクリル酸共重合体からなる接続部材」の発明が記載されていることになる(以下、「刊行物1記載発明」という。)

(1)本件発明2について
本件発明2と刊行物1記載発明とを対比する。
刊行物1記載発明での「導電材料」には、導電性粒子を当然に含むから、「導電材料と熱硬化性のバインダとからなり、加圧方向に導電性を有する導電性接着層2(2′)」は、本件発明2の「熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層」に相当し、刊行物1記載発明での「接着性を有する熱可塑性フイルム」は、熱可塑性フイルムである以上、加熱により軟化するものであるから、本件発明2の「熱可塑性樹脂を含む軟化性接着剤層」に相当し、更に刊行物1記載発明での「接着性を有する熱可塑性フイルム」がフェノキシ樹脂(熱可塑性エポキシ樹脂)又はエチレン-アクリル酸共重合体からなるものであるから、熱硬化性のバインダ樹脂の成分と反応する水酸基(フェノキシ樹脂)、又はカルボキシル基(エチレン-アクリル酸共重合体)を有するものであり、しかも刊行物1記載発明では、「接着性を有する熱可塑性フイルム」が中間層として構成されている。そして、本件発明2では、熱可塑性樹脂を含む軟化性接着剤層が一層のみであるとか、中間層が第1の硬化型接着剤層と第1の硬化型接着剤層に接していると限定されているものではない。
そうすると、両者は、「対向する電極を有する被接続部材を接続するための接続材料であって、被接続部材を固着する複数の硬化型接着剤層中であって、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層と、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層との間に、加熱により軟化する熱可塑性樹脂を含む軟化性接着剤層を中間層として有し、軟化性接着剤層が熱硬化性樹脂の成分と反応する水酸基およびカルボキシル基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する接続材料」の点で一致し、構成において異なる点がない。
したがって、本件発明2は刊行物1に記載された発明である。

(2)本件発明6について
本件発明6は、本件発明1ないし5のいずれかを引用し、更に「硬化型接着剤層が、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層と、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層とから形成され、軟化性接着剤層が30重量%以上の熱可塑性樹脂を含有する接着剤から形成される」点を限定する発明である。
そして、このうち「硬化型接着剤層が、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層と、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層とから形成される」点は、刊行物1記載発明に記載されている。また、「軟化性接着剤層が30重量%以上の熱可塑性樹脂を含有する接着剤から形成される」点は、刊行物1に記載の接着性を有する熱的変態点130℃のフェノキシ樹脂(熱可塑性エポキシ樹脂)のフィルムが、30重量%以上の熱可塑性樹脂を含有する接着剤から形成されていることに相当することも自明である。
したがって、本件発明2を引用する本件発明6は、刊行物1に記載された発明である。

(3)本件発明9について
本件発明9は、本件発明1ないし8のいずれかを引用し、更に「硬化型接着剤層または軟化性接着剤層からなるいずれかの層が導電性粒子を接着剤成分に対して40容量%以下含む」点を限定する発明である。
そして、この「硬化型接着剤層または軟化性接着剤層からなるいずれかの層が導電性粒子を接着剤成分に対して40容量%以下含む」点は、刊行物1に、導電性接着層について、バインダに対する導電材料の割合は、0.1〜20体積%程度が、導電異方性が得易く好ましいこと(摘記事項(1g)が記載されているから、この点も刊行物1記載発明に実質的に記載されていることになる。
したがって、本件発明2、6のいずれかを引用する本件発明9は、刊行物1に記載された発明である。

(4)本件発明10について
本件発明10は、本件発明1ないし9のいずれかに記載の接続材料を、「対向する電極を有する被接続部材を、当該接続材料を介在させて接続した接続体」とした発明である。
そして、この「対向する電極を有する被接続部材を、接続材料を介在させて接続した接続体」は、刊行物1に、被接続部材である電子部品と回路板、回路板どうしの相対峙する電極は、接続部材の導電材料を介して接続することが記載されているから(摘記事項(1a)の請求項2、摘記事項(1b))、この点も刊行物1記載発明に実質的に記載されていることになる。
したがって、本件発明2、6、9のいずれかを引用する本件発明10は、刊行物1に記載された発明である。

(5)本件発明11について
本件発明11は、本件発明10を引用し、更に「軟化性接着剤層が対向する電極間に存在せず、隣接する電極間に位置する」点を限定する発明である。
そして、この「軟化性接着剤層が対向する電極間に存在せず、隣接する電極間に位置する」点については、刊行物1に、熱可塑性フィルムが相対峙する電極間において、接続時の加熱加圧により溶融して消滅しているものの、隣接電極間では加圧が不十分なため、導電性接着層と絶縁性接着層との境界層として維持されていることが記載されているから(摘記事項(1i))、この点も刊行物1記載発明に実質的に記載されていることになる。
したがって、本件発明2、6、9、10のいずれかを引用する本件発明11は、刊行物1に記載された発明である。

(6)本件発明1について
本件発明1と刊行物1記載発明とを対比する。
上記(1)で述べたとおり、刊行物1記載発明での「導電材料と熱硬化性のバインダとからなり、加圧方向に導電性を有する導電性接着層2(2′)」は、本件発明1の「熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層」に相当し、刊行物1記載発明での「接着性を有する熱可塑性フイルム」は、本件発明1の「熱可塑性樹脂を含む軟化性接着剤層」に相当し、更に刊行物1記載発明では、「接着性を有する熱可塑性フイルム」が中間層として構成されている。
そうすると、両者は、「対向する電極を有する被接続部材を接続するための接続材料であって、被接続部材を固着する複数の硬化型接着剤層中であって、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層と、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層との間に、加熱により軟化する熱可塑性樹脂を含む軟化性接着剤層を中間層として有する接続材料」の点で一致するものの、次の点で相違する。
本件発明1の熱可塑性樹脂を含む軟化性接着剤層は、中間層として、「一方の被接続部材側に偏在して」いるものであるが、刊行物1記載発明における「接着性を有する熱可塑性フィルム1、1′」は、そのようなものではない点。

そこで、上記相違点について検討すると、本件発明1は熱可塑性樹脂を含む軟化性接着剤層を一方の被接続部材側に偏在させることにより、対向する電極を有する被接続部材を接続したときに、電極間またはこれと同じ高さに軟化性接着剤層が位置するのを避けることができ、これにより接続信頼性を高くすることができる(特許明細書段落【0028】)とともに、またリペアまたはリサイクルに際して接続体を加熱することにより軟化性接着剤層を軟化させ、被接続部材間に機械力を加えて、リペアしたい側に偏在させた軟化性接着剤層で容易に剥離するようにしたもの(同段落【0025】)である。
一方、刊行物1での接続方法は、摘記事項(1j)によれば、少なくとも一方が突出した電極を有する相対峙する電極列間に、接続部材の絶縁性接着層が突出した電極側となるように配置し、熱可塑性フイルムの熱的変態点の近傍で加熱加圧することで、導電材料が相対峙する電極間に存在し、且つ突出電極の周囲よりも導電材料の密度が高い状態で存在することが可能になると記載され、このことで、接続信頼性を高めたものと推定できる。またリペアに際しては、摘記事項(1k)の記載によれば、接着層は、一方を溶剤に可溶性又は膨潤性としたり、或いは耐熱性に差を持たせることで、一方の基板面から優先的に剥離可能とすること、摘記事項(1m)の「(4)評価」の記載によれば、例えば、接着力の低い一方の面から優先的に剥離できるようにしているとあり、このことは、被接続部材のうちの接着層で剥離することを意味している。
してみると、両者は、剥離させる層自体が異なり、刊行物1の記載では、導電性接着層の一方において突出電極と相対峙する電極どうしが接続しているものの、刊行物1には、熱可塑性フィルムを偏在させて熱可塑性フィルムに電極間が位置するのを避けること、及び熱可塑性フィルムにより剥離すること、即ち接続体を加熱することにより軟化性接着剤層を軟化させ、リペアしたい側に偏在させた軟化性接着剤層で容易に剥離することを示唆する記載は何もないから、上記相違点は刊行物1の記載からは容易に想到し得るものではない。
したがって、本件発明1は、刊行物1に記載された発明ではないし、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(7)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1または2を引用し、更に「軟化性接着剤層が40〜120℃で軟化する」点を限定する発明である。
そこで、この「軟化性接着剤層が40〜120℃で軟化する」点について検討する。刊行物1記載発明での「接着性を有する熱可塑性フィルム」は、フェノキシ樹脂である場合には熱的変態点130℃であること(摘記事項(1m))が記載されており、その軟化する温度は40〜120℃の範囲にあるとはいえず、また、エチレン-アクリル酸共重合体の場合にはこの熱的変態点ないし軟化温度については何も記載されておらず、その軟化する温度が必ず40〜120℃の範囲にあるとはいえない。
そして、本件発明3はこの軟化性接着剤層が40〜120℃で軟化することにより、低温で剥離することができ、リペア等の作業が容易になる(特許明細書段落【0028】)ものであり技術的意義を有するものであるが、刊行物1の記載には低温で剥離することに関する示唆は何れにもない。
そうすると、刊行物1の記載からは、軟化性接着剤層が40〜120℃で軟化するということを容易に想到し得るものではない。
したがって、本件発明3は、刊行物1に記載された発明ではないし、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(8)本件発明4について
本件発明4は、本件発明2を引用し、更に「軟化性接着剤層が一方の被接続部材側に偏在する」点を限定する発明である。
しかしながら、本件発明4の「軟化性接着剤層が一方の被接続部材側に偏在する」点については、上記(6)において説示したとおり、刊行物1の記載からは容易に想到し得るものではない。
したがって、本件発明4は、刊行物1に記載された発明ではないし、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(9)本件発明5について
本件発明5は、本件発明1ないし4のいずれかを引用し、更に「軟化性接着剤層がリペアしたい方の被接続部材側に偏在する」点を限定する発明である。
しかしながら、本件発明5の「軟化性接着剤層がリペアしたい方の被接続部材側に偏在する」ことにおける「軟化性接着剤層がー方の被接続部材側に偏在する」ことについては、上記(6)において説示したとおり、刊行物1の記載からは容易に想到し得るものではない。
したがって、本件発明5は、刊行物1に記載された発明ではないし、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(10)本件発明7について
本件発明7は、本件発明1を引用し、更に「軟化性接着剤層が熱可塑性樹脂の成分と反応する官能基を有する」点を限定する発明である。
しかしながら、本件発明1が刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができない以上、本件発明7で限定する「軟化性接着剤層が熱可塑性樹脂の成分と反応する官能基を有する」点について検討するまでもなく、本件発明7は、刊行物1に記載された発明ではないし、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(11)本件発明8について
本件発明8は、本件発明1ないし7のいずれかを引用し、更に「軟化性接着剤層の厚みが接続材料全体の厚みの1/3以下である」点を限定する発明である。
この「軟化性接着剤層の厚みが接続材料全体の厚みの1/3以下である」点について検討する。
刊行物1の実施例1には、摘記事項(1m)によれば、中間層が一つの熱可塑性フィルムのみの場合、熱可塑性フィルムの厚み(10μm)を、熱可塑性フィルムの両側に導電性接着剤層(5μm)と絶縁性接着剤層(15μm)を有する接続部材全体の厚み(30μm)の1/3とする記載はあるものの、刊行物1記載発明でいう「導電材料と熱硬化性のバインダとからなり、加圧方向に導電性を有する導電性接着層2、接着性を有する熱可塑性フイルム1、絶縁性接着層3、接着性を有する熱可塑性フイルム1′、導電材料と熱硬化性のバインダとからなり、加圧方向に導電性を有する導電性接着層2′の5層からなる接続部材」の場合、熱可塑性フィルムの厚みが接続部材全体の厚みに対してどの程度なのかについては何も記載されていない。
そこで、当該5層からなる接続部材も、刊行物1の実施例1の厚みと同程度であると仮定しても、接着性を有する熱可塑性フイルム1、1′の厚み(20μm)に対し、5層からなる接続部材の厚みは45μmであるから、1/3以下にはなっていない。
そして、本件発明8はこの点により、接続信頼性と剥離性を保つことができ(特許明細書段落【0022】)、剥離性を付与した状態で接続信頼性を高めることができる(同段落【0029】)という技術的意義を有するものである。
そうすると、刊行物1の記載からは、軟化性接着剤層の厚みが接続部材全体の厚みの1/3以下とすることを容易に想到し得るものではない。
したがって、本件発明8は、刊行物1に記載された発明ではないし、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(12)本件発明12について
本件発明12は、本件発明11を引用し、更に「軟化性接着剤層がリペアを行いたい被接続部材側に位置する」点を限定する発明である。
この「軟化性接着剤層がリペアを行いたい被接続部材側に位置する」点について検討する。
刊行物1のリペアに関する摘記事項(1k)と、摘記事項(1m)の(4)評価欄の記載によれば、刊行物1記載発明は、被接続部材のうちの接着層で剥離するものであることが理解できる。そして、刊行物1記載発明でいう「導電材料と熱硬化性のバインダとからなり、加圧方向に導電性を有する導電性接着層2、接着性を有する熱可塑性フイルム1、絶縁性接着層3、接着性を有する熱可塑性フイルム1′、導電材料と熱硬化性のバインダとからなり、加圧方向に導電性を有する導電性接着層2′の5層からなる接続部材」の場合、本件発明12での「軟化性接着剤層」は、上記5層からなる接続部材のうち、接着性を有する熱可塑性フイルム1、1′の2層が相当している。そして、このどちらかで、ないし双方で剥離するものであるが、接着性を有する熱可塑性フイルム1、1′のどこで剥離するものであるかの記載はない。
そうすると、刊行物1の記載からは、この「軟化性接着剤層」に相当する「接着性を有する熱可塑性フイルム」をリペアを行いたい被接続部材側に位置するようにすることの示唆はないものである。
そして、本件発明12はこの点により、軟化性接着剤層をリペアしたい側に設けておくと、その部分が剥離するのでリペアが容易になる(特許明細書段落【0026】)という技術的意義を有するものである。
そうすると、刊行物1の記載からは、軟化性接着剤層がリペアを行いたい被接続部材側に位置するとすることを容易に想到し得るものではない。
したがって、本件発明12は、刊行物1に記載された発明ではないし、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

IV.むすび
以上のとおりであるから、請求項2、6、及び9〜11に係る発明の特許については、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、請求項1、3〜5、7、8、及び12に係る発明の特許については、特許異議の申立の理由及び証拠によっては取り消すことはできないし、他に請求項1、3〜5、7、8、及び12に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
接続材料および接続体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 対向する電極を有する被接続部材を接続するための接続材料であって、
被接続部材を固着する複数の硬化型接着剤層中であって、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層と、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層との間に、
一方の被接続部材側に偏在して、加熱により軟化する熱可塑性樹脂を含む軟化性接着剤層を中間層として有する接続材料。
【請求項2】 対向する電極を有する被接続部材を接続するための接続材料であって、
被接続部材を固着する複数の硬化型接着剤層中であって、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層と、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層との間に、
加熱により軟化する熱可塑性樹脂を含む軟化性接着剤層を中間層として有し、
軟化性接着剤層が熱硬化性樹脂の成分と反応するエポキシ基、水酸基およびカルボキシル基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する接続材料。
【請求項3】 軟化性接着剤層が40〜120℃で軟化する請求項1または2記載の接続材料。
【請求項4】 軟化性接着剤層が一方の被接続部材側に偏在する請求項2記載の接続材料。
【請求項5】 軟化性接着剤層がリペアしたい方の被接続部材側に偏在する請求項1記ないし4のいずれかに載の接続材料。
【請求項6】 硬化型接着剤層が、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層と、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層とから形成され、軟化性接着剤層が30重量%以上の熱可塑性樹脂を含有する接着剤から形成される請求項1ないし5のいずれかに記載の接続材料。
【請求項7】 軟化性接着剤層が熱硬化性樹脂の成分と反応する官能基を有する請求項1記載の接続材料。
【請求項8】 軟化性接着剤層の厚みが接続材料全体の厚みの1/3以下である請求項1ないし7のいずれかに記載の接続材料。
【請求項9】 硬化型接着剤層または軟化性接着剤層からなるいずれかの層が導電性粒子を接着剤成分に対して40容量%以下含む請求項1ないし8のいずれかに記載の接続材料。
【請求項10】 対向する電極を有する被接続部材を、請求項1ないし9のいずれかに記載の接続材料を介在させて接続した接続体。
【請求項11】 軟化性接着剤層が対向する電極間に存在せず、隣接する電極間に位置する請求項10記載の接続体。
【請求項12】 軟化性接着剤層がリペアを行いたい被接続部材側に位置する請求項11記載の接続体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は対向する電極を有する被接続部材を接続するための接続材料、特にリペアが可能な接続材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
相対する電極を有する被接続部材間を接続するために、絶縁性の熱硬化性樹脂を主成分とする異方性導電接続材料が用いられている。この接続材料は半導体素子と回路基板間、あるいは回路基板同士のように対向する電極を有する被接続部材間を機械的に固着することにより、対向する電極を電気的に接続するとともに、隣接する電極間では絶縁性を保つように構成されている。接続材料には機械的固着のための接着剤成分を含むが、電気的接続のための導電性粒子を含む場合と、含まない場合とがある。
【0003】
いずれの場合も接続材料は接着剤成分の機械的固着性を利用して接続が行われ、このために使用される熱硬化性樹脂はいったん硬化すると元に戻らず硬化状態を保つ。特に多官能のエポキシ樹脂のように高Tg、高弾性の樹脂を用いると接着強度が大きくなり、被接続部材を剥離することが困難である。仮に剥離したとしても、再接続のための表面の清浄化は困難で時間を要していた。
【0004】
接続体の中でもMCM(Multi Chip Module)のように基板に多数の半導体素子を実装するような接続体においては、基板は利用価値があるためリペアが必要になる。このほか半導体素子が重要な場合もリペアが必要になる。またリサイクルの面からも被接続体を剥離することが要請される場合があるが、剥離は困難である。
【0005】
剥離性をもたせるために、変性エポキシ基を導入したり、熱可塑性樹脂を配合する試みがなされているが、剥離性の改善は不十分である上、組成物のTgの低下、弾性の低下により接着強度が低下し、接続信頼性が損われるという問題点がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、対向する電極を有する被接続部材を良好に機械的固着および電気的接続して高信頼性を得ることができ、しかも接続後被接続部材を剥離してリペアまたはリサイクルすることが可能な接続材料、接続体を得ることである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は次の接続材料および接続体である。
(1) 対向する電極を有する被接続部材を接続するための接続材料であって、
被接続部材を固着する複数の硬化型接着剤層中であって、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層と、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層との間に、
一方の被接続部材側に偏在して、加熱により軟化する熱可塑性樹脂を含む軟化性接着剤層を中間層として有する接続材料。
(2) 対向する電極を有する被接続部材を接続するための接続材料であって、
被接続部材を固着する複数の硬化型接着剤層中であって、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層と、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層との間に、
加熱により軟化する熱可塑性樹脂を含む軟化性接着剤層を中間層として有し、
軟化性接着剤層が熱硬化性樹脂の成分と反応するエポキシ基、水酸基およびカルボキシル基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する接続材料。
(3) 軟化性接着剤層が40〜120℃で軟化する上記(1)または(2)記載の接続材料。
(4) 軟化性接着剤層が一方の被接続部材側に偏在する上記(2)記載の接続材料。
(5) 軟化性接着剤層がリペアしたい方の被接続部材側に偏在する上記(1)記ないし(4)のいずれかに載の接続材料。
(6) 硬化型接着剤層が、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層と、熱硬化性樹脂および導電性粒子を含有する第1の硬化型接着剤層とから形成され、軟化性接着剤層が30重量%以上の熱可塑性樹脂を含有する接着剤から形成される上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の接続材料。
(7) 軟化性接着剤層が熱硬化性樹脂の成分と反応する官能基を有する上記(1)記載の接続材料。
(8) 軟化性接着剤層の厚みが接続材料全体の厚みの1/3以下である上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の接続材料。
(9) 硬化型接着剤層または軟化性接着剤層からなるいずれかの層が導電性粒子を接着剤成分に対して40容量%以下含む上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の接続材料。
(10) 対向する電極を有する被接続部材を、上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の接続材料を介在させて接続した接続体。
(11) 軟化性接着剤層が対向する電極間に存在せず、隣接する電極間に位置する上記(10)記載の接続体。
(12) 軟化性接着剤層がリペアを行いたい被接続部材側に位置する上記(11)記載の接続体。
【0008】
本発明において接続の対象となる被接続部材は、対向する電極を有する部材であり、半導体、回路基板などがあげられる。半導体としてはICチップのような半導体素子が適しているが、パッケージであってもよい。基板としてはガラス/エポキシ基板、ガラス基板、樹脂基板、フレキシブル基板などがあげられる。これらの被接続部材の接続としては、半導体素子と回路基板の接続のほか、このような半導体素子を実装した回路基板とフレキシブル回路基板の接続のように基板同士の接続もある。本発明では特にリペアまたはリサイクルの必要性のある被接続部材が接続の対象として適している。
【0009】
本発明の接続材料は、このような被接続部材間を機械的に固着することにより対向する電極同士を電気的に接続し、隣接する電極間の絶縁を保つとともに、リペアまたはリサイクル等のために被接続部材間を容易に剥離可能な状態に接続する接続材料である。このような接続材料として本発明では、熱硬化性樹脂を含有する硬化型接着剤層と、加熱により軟化する軟化性接着剤層とを有する接続材料を用いる。
【0010】
本発明の接続材料の硬化型接着剤層に用いる熱硬化性樹脂の主剤樹脂としてはエポキシ樹脂、フェノール樹脂、水酸基含有ポリエステル樹脂、水酸基含有アクリル樹脂など、硬化剤との併用により加熱下またはUV等の光照射下に硬化する樹脂が制限なく使用できるが、特にその硬化温度、時間、保存安定性等のバランスからエポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、エポキシノボラック樹脂または分子内に2個以上のオキシラン基を有するエポキシ化合物等が使用できる。このほかラジカル重合型の樹脂であってもよい。これらの樹脂には市販品がそのまま使用できる。
【0011】
上記の熱硬化性樹脂の主剤樹脂は一般に硬化剤と併用することにより硬化反応を行うことができるが、主剤樹脂に硬化反応に寄与する官能基が結合している場合は硬化剤を省略することができる。硬化剤としてはイミダゾール系、アミン系、酸無水物系、ヒドラジッド、ジシアンジアミド、イソシアネート、これらの変性物など、加熱、光照射等により主剤樹脂と反応して硬化反応を行うものが使用でき、市販品でもよい。このような硬化剤としては潜在性硬化剤が好ましい。
【0012】
潜在性硬化剤は常温における製造、保存ならびに比較的低温(40〜100℃)による乾燥時には硬化反応を行わず、硬化温度における加熱加圧(熱圧着)またはUV等の光照射により硬化反応を行う硬化剤である。このような潜在性硬化剤としてはイミダゾール系、アミン系のマイクロカプセル化したものなどが特に好ましく、市販品をそのまま使用することもできる。熱活性の場合硬化開始温度としては80〜150℃のものが好ましい。
【0013】
硬化型接着剤に塗布性あるいはフィルム形成性を付与するために、樹脂成分中に熱可塑性樹脂を配合することができる。熱可塑性樹脂としてはフェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ブチラール樹脂、NBR、SBR等のゴム系高分子などが使用できる。また硬化型接着剤の粘度その他の物性を調整するために、シリカ等の無機フィラーを配合することができる。
このほか硬化型接着剤成分には界面活性剤、カップリング剤、イオン吸着剤、老化防止剤等の添加剤を配合することができる。
【0014】
硬化型接着剤には導電性粒子を用いる。導電性粒子としては、はんだ、ニッケル等の金属粒子、高分子核材粒子をメッキ等により導電材で被覆した導電被覆粒子、またはこれらの導電性の粒子を絶縁性樹脂で被覆した絶縁被覆導電粒子などが使用できる。これらの導電性粒子の平均粒径は1〜20μm、好ましくは3〜10μmとすることができる。
【0015】
これらの成分の配合割合は熱可塑性樹脂が熱硬化性樹脂に対して0〜50重量%、好ましくは0〜30重量%、無機フィラーは接着剤成分中0〜60重量%、好ましくは10〜50重量%、他の添加剤は接着剤成分中0〜10重量%、好ましくは0〜5重量%とすることができる。導電性粒子の配合割合は、これらの接着剤成分の合計量に対して40容量%以下、好ましくは30容量%以下とすることができる。
【0016】
上記のような硬化型接着剤層と積層する軟化性接着剤層は剥離を行うときの温度である40〜120℃、好ましくは50〜100℃に加熱したときに軟化するように軟化温度を調整するのが好ましい。このような軟化性接着剤として、熱可塑性樹脂を30重量%以上、好ましくは50重量%以上含む樹脂組成物があげられる。
【0017】
このような軟化性接着剤は硬化型接着剤層と積層したときに、硬化型接着剤成分と反応する官能基を含むのが好ましい。このような官能基は硬化型接着剤の主剤樹脂と反応するものでもよく、また硬化剤と反応するものでもよい。これらの官能基を導入する手段としては熱可塑性樹脂に熱硬化性樹脂の主剤または硬化剤を配合してもよく、また熱可塑性樹脂として上記官能基を有する樹脂を用いてもよい。
【0018】
熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、アクリル-スチレン共重合体樹脂、SBR、NBR、ウレタン樹脂、フェノキシ樹脂など、一般的な熱可塑性樹脂が使用できる。このような熱可塑性樹脂に導入する官能基としてはエポキシ基、水酸基、カルボキシル基などがあげられ、これらの基を有する化合物を配合してもよい。
【0019】
これらの官能基の導入量は軟化性接着剤層と硬化型接着剤層とが化合物に結合して剥離を防止するのに必要な量であって、かつ軟化性接着剤の軟化を妨げない量である。熱硬化性樹脂を熱可塑性樹脂に配合する場合は軟化性接着剤中70重量%以下、好ましくは50重量%以下とするのが好ましい。
軟化性接着剤にも硬化型接着剤の場合と同様に、無機フィラー、その他の添加剤、ならびに導電性粒子を配合することができ、それらの配合割合は硬化型接着剤の場合と同様である。
【0020】
本発明の接続材料は、複数の硬化型接着剤層中に中間層として軟化性接着剤層を積層した多層積層体からなる。硬化型接着剤層は2層でも、3層以上でもよく、また軟化性接着剤層も1層でも、2層以上でもよい。それぞれの接着剤層が2層以上設けられる場合、これらは同じ接着剤からなるものでも異なる接着剤からなるものでもよい。
【0021】
多層積層体における中間層である軟化性接着剤層の位置は、どちらかの被接続部材側に偏位していているが、被接続部材を接続したときに、対向する電極間またはこれと同じ高さに位置せず、隣接する電極間に位置するように、一方の被接続部材、好ましくはリペアしたい方の被接続部材側に偏位しているのが好ましい。
【0022】
多層積層体の厚みは被接続体の形状、構造、大きさ等により変わるが、一般的には対向する電極の厚みの合計の0.5〜2倍とすることにより、接続信頼性と剥離性を保つことができ、好ましい。このような多層積層体の中の軟化性接着剤層の割合は、全体の厚みの1/3以下、好ましくは1/3〜1/50とすることにより、接続信頼性と剥離性を保つことができ、好ましい。
【0023】
本発明の接続材料はこのような多層積層体のフィルムの状態で製品とされるが、剥離フィルム上貼布した状態で製品とされるのが好ましい。このような多層フィルムは前記各接着剤を適当な溶媒に溶解して剥離フィルム上に塗布して溶媒を除去することにより製造することができるが、共押出成形その他の方法により製造してもよい。
【0024】
上記の異方性導電接続材料は被接続部材間に介在させて熱圧着することにより、硬化型接着剤が硬化して被接続材料間を機械的に固着し、これにより対向する電極間が直接または導電性粒子を介して接触して電気的接続が得られ、隣接する電極間では導電性粒子が分散して絶縁性が保たれ、異方性導電接続体が得られる。
【0025】
こうして得られる接続体は接着剤層中に軟化性樹脂層が介在しているため、リペアまたはリサイクルに際して接続体を加熱すると軟化性接着剤層が軟化する。この状態で被接続部材間に回転力のような機械力を加えると軟化性接着剤層で剥離する。軟化性接着剤層をリペアしたい側に設けておくと、その部分が剥離するのでリペアが容易になる。
【0026】
剥離した後は、溶剤等により剥離面を洗浄し、本発明の接続材料または通常の異方導電性接続材料を介在させて、熱圧着することにより、リペアを行うことができる。リサイクルを行う場合も同様に行えるほか、さらに分解して有用物を回収することもできる。
【0027】
【発明の効果】
本発明の接続材料は軟化性接着剤層を中間層としているので、対向する電極を有する被接続部材を良好に機械的固着および電気的接続して高信頼性を得ることができ、しかも接続後被接続部材を剥離してリペアまたはリサイクルすることができる。
【0028】
軟化温度を40〜120℃とすることにより、低温で剥離することができ、リペア等の作業が容易になる。
軟化性接着剤層を一方の被接続部材側に偏在させることにより、接続したときに電極間またはこれと同じ高さに軟化性接着剤層が位置するのを避けることができ、これにより接続信頼性を高くすることができる。
そして軟化性接着剤層が熱硬化性樹脂の成分と反応する官能基を有することにより、接続信頼性をさらに高めることができる。
軟化性接着剤層は熱可塑性樹脂を30重量%以上含有することにより、また軟化性接着剤層の厚みを接続材料層全体の1/3以下とすることにより、剥離性を付与した状態で接続信頼性を高めることができる。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は実施形態の接続体を示し、(a)は接続前の模式的断面図、(b)は接続後の模式的断面図である。
【0030】
図1において、1は一方の被接続部材としての回路基板で、電極2を有する。3は他方の被接続部材としてのICチップ等の半導体素子で、電極4を有する。電極2、4は対向位置に設けられている。5は接続材料で、硬化型接着剤からなる第1層5a、軟化性接着剤からなる第2層5b、硬化型接着剤からなる第3層5cの3層が積層された積層体からなる。第1層5aは熱硬化性樹脂を含有する接着剤成分6から構成される。第2層5bは官能基を有する熱可塑性樹脂を含有する接着剤成分7から構成される。第3層5cは熱硬化性樹脂を含有する接着剤成分8および導電性粒子9からなる。
【0031】
第2層5bは接続材料5の厚み(第1層5a、第2層5bおよび第3層5cの合計)の1/3以下の厚さとされ、中間層として接続材料5の中央よりも回路基板1よりに偏位して設けられている。接続材料5の厚さtは電極2の厚さと電極4の厚さの合計の0.5〜2倍の厚さとされている。導電性粒子9は最下層の硬化型接着剤層5cに配合されているが、他の層に配合されていてもよい。10は接続体である。
【0032】
接続方法は図1(a)に示すように、回路基板1の半導体素子3と重なる接続領域よりも若干大きい領域に接続材料5を仮接着し、これを挟むように半導体素子3を対向させて置き、接続材料5を加熱しなから矢印xy方向に加圧して熱圧着する。熱圧着により接続領域の第1〜3層5a〜5cの接着剤成分6〜8は電極2、4が存在しない部分の回路基板1と半導体素子3間の間隙11に流れて硬化する。このとき、第2、3層5b、5cはほぼそのまま流動して回路基板1側に圧着されて導電性粒子9は電極2、4間に残こり、第1層5aの接着剤成分6が間隙11を埋めるように流れる。こうして第2層5bが電極2、4の接続位置またはこれと同レベルの高さに存在せず、回路基板1側に偏在した接続体10が得られる。
【0033】
この状態では接続材料5の接着剤成分6、7、8の接着力により回路基板1と半導体素子3とが機械的に固着し、これにより対向する電極2、4間が導電性粒子9を介して電気的に接続し、隣接する電極2、2または4、4間は導電性粒子9が分散するため絶縁性を保つ。導電性粒子9を含まない場合は電極2、4が直接接触して電気的接続を得る。
【0034】
リペア等のために被接続部材を剥離する場合は、軟化性接着剤層からなる第2層5bを加熱して軟化させ、基板1と半導体素子3とを互に逆方向にスライドまたは回転させることにより軟化した第2層5bで剥離する。
図1の場合は第2層が基板1側に偏位しているため、半導体素子3はほとんど無傷のまま残こるので、基板1をリペアする場合に適している。半導体素子3をリペアする場合は第2層5bが半導体素子3側に偏位するように積層することができる。
【0035】
軟化性接着剤層からなる第2層5bは中間層に積層されるため被接続部材間の機械的固着は主として硬化型接着剤層からなる第1層5aおよび第3層5cで負担されるため接着強度は大きい。特に第2層5bの軟化性接着剤層が官能基を有する場合はその官能基が第1層5aおよび第3層5cの熱硬化性樹脂の成分と反応するため各層間の機械的固着力は大きくなる。
【0036】
剥離後は不備の生じた基板1または半導体素子3を修理または交換し、新しい接続材料で再接続することにより、リペアされた接続体10を得る。再接続に使用する接続材料5としては最初の接続材料と同じ軟化性接着剤層を有するものを用いると再度のリペアが可能になる。軟化性接着剤層を含まない全体が硬化型接着剤層からなる接続材料を用いると、再接続後の接着強度を大きくすることができる。
【0037】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
各例中、部は重量部を示す。
【0038】
実施例1〜10、比較例1〜2
(被接続部材)
被接続部材として次のICチップおよび回路基板を用いた。
IC-1:外径1cm×1cm、バンプ(電極)寸法100μm×100μm、バンプ(電極)高さ20μm、金メッキ。
基板-1:材質ガラス/エポキシ基板、銅(電極)パターンピッチ150μm(電極幅100μm、電極間隔50μm)、電極パターン厚18μm、表面金メッキ。
基板-2:電極パターン厚35μmに変更以外は基板-1と同じ。
【0039】
(接続材料)
接続材料として表1〜2に示す構成の接続材料を製造した。接続材料の第1層および第3層は同じ硬化型接着剤Aを用いた。第2層は次の軟化性接着剤B〜Fを用いた。
【0040】
接着剤A:多官能エポキシ樹脂(エポキシ当量200)50部、無機フィラー(シリカ)100部、イミダゾール系潜在性硬化剤50部を含む接着剤成分に対し、絶縁コート付導電性粒子10容量%含有。
接着剤B:エチルアクリレート・ブチルアクリレート・アクリロニトリル・グリシジルメタクリレート・メチルメタクリレート・ジメチルアクリルアミド共重合体(分子量20万)。
接着剤C:水添ポリブタジエンブロックスチレン系ゴム
接着剤D:水添ポリブタジエンブロックスチレン系ゴムカルボン酸変成品
接着剤E:多官能エポキシ樹脂(エポキシ当量200)25部、イミダゾール系潜在性硬化剤25部、接着剤B50部含有。
接着剤F:多官能エポキシ樹脂(エポキシ当量200)10部、イミダゾール系潜在性硬化剤10部、接着剤B80部含有。
【0041】
(接続方法)
第1〜第3層の接着剤を表1〜2の厚みとなるように剥離フィルム上にコーティングし、第3層から順次回路基板上に80℃、10N/cm2、1秒間の加熱加圧で仮圧着し、ICチップをアライメント後180℃、1N/1バンプ、20秒間の加熱加圧で熱圧着C接続体を得た。
【0042】
(導通信頼性評価)
-25℃と+125℃に各15分間保持するTCT(Thermal Cycle Test)を1000サイクル行った後の隣接するピン間の抵抗値を4端子法にて測定し、100mΩ以下を○、100mΩを超え500mΩ以下を△、500mΩ超を×と評価した。
【0043】
(剥離性評価)
接続体を100℃の熱板上に1分間放置し、治具により接着面と直交する回転軸を中心にしてICチップを回転させ、ICチップが外せるものを○、剥離面が荒れるものを△、ICチップが破壊されるものを×と評価した。
【0044】
(再接続後の導通信頼性評価)
剥離後、ICチップと回路基板をアセトンで洗浄し、
の厚さの接着剤Aを用いて、前記と同条件で再接続し、前記導通信頼性評価と同様にして導通信頼性を評価した。
【0045】
上記の結果を表1〜3に示す。
表1の結果より、比較例1は軟化性接着剤層を含まないため、剥離性および再接続信頼性が悪く、比較例2は軟化性接着剤層が中間層でないため導通信頼性が劣る。これに対して実施例1〜10は良好な結果を示し、特に官能基を有する軟化性接着剤層を全体の1/3以上の厚みで一方の側に偏在した状態で積層し、電極の高さの0.5〜2倍の厚みを有する実施例1〜4の接続材料の優れた結果を示すことがわかる。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【図1】
実施形態の接続体を示し、(a)は接続前の模式的断面図、(b)は接続後の模式的断面図である。
【符号の説明】
1 回路基板
2、4 電極
3 半導体素子
5 接続材料
5a 第1層
5b 第2層
5c 第3層
6、7、8 接着剤成分
9 導電性粒子
10 接続体
11 間隙
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-03-29 
出願番号 特願平11-301460
審決分類 P 1 651・ 121- ZD (H01L)
P 1 651・ 113- ZD (H01L)
最終処分 一部取消  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 市川 裕司
影山 秀一
登録日 2003-03-20 
登録番号 特許第3409751号(P3409751)
権利者 ソニーケミカル株式会社
発明の名称 接続材料および接続体  
代理人 柳原 成  
代理人 柳原 成  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ