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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H03H
管理番号 1121188
異議申立番号 異議2002-73016  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-12-17 
確定日 2005-08-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第3293671号「弾性表面波フィルタ」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3293671号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
本件特許の請求項1、2に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、本件発明1という。)は、次のとおりである。

【請求項1】
入出力電極が交互に配置される多電極型弾性表面波フィルタの入出力端側の少なくとも一方に、反共振周波数は多電極型弾性表面波フィルタの通過帯域外にあり、かつ通過帯域内においてはほぼ静電容量として動作する少なくとも1個以上の弾性表面波共振器が電気的に直列接続されていることを特徴とする弾性表面波フィルタ。

2.取消理由で引用された刊行物に記載された発明

取消理由で引用された刊行物1(特開昭59-97216号公報、特許異議申立人藤山和宏の提出した甲第1号証参照)には、次のような記載がある。

(イ)「2.特許請求の範囲
弾性表面波フィルタを用いた低損失フィルタにおいて、入出力用すだれ状電極が励振する表面波が伝搬する表面波主伝搬路を除く伝搬路上に通過帯域外表面波信号を励振する不要波励振用すだれ状電極を入出力用すだれ状電極とともに同一圧電基板上に配置し、かつ、少なくとも前記入力または出力用すだれ状電極に前記不要波励振用すだれ状電極を直列または並列接続してなり、通過帯域外の減衰量を特定の周波数域で大きくしたことを特徴とする弾性表面波フィルタ。」(第1頁左下欄第3行〜同欄第13行)

(ロ)「第3図は、本発明による弾性表面波の一実施例を示すブロック図で、圧電基板30上に形成された中央の受信用すだれ状電極35の両側に2個の送信用すだれ状電極34、36を配置し、さらに受信用すだれ状電極35と不要波励振用すだれ状電極37を並列に接続し、またすだれ状電極37はその表面波伝搬路が、送受信用すだれ状電極34、35、36の表面波の主伝搬路と異なった所にあるように配置する。ここで送信用すだれ状電極34、36を内部インピーダンス11を有する高周波電源12に接続して、1つの入力変換器とし、受信用すだれ状電極35を負荷インピーダンス13に接続して出力変換器とし、以上の入・出力変換器によってフィルタを構成している。そして受信用すだれ状電極35に接続する不要波励振用すだれ状電極37の電極指間隔を送受信用すだれ状電極34、35、36の電極指間隔と異ならせ、すだれ状電極37の中心周波数をフィルタの減衰域に置く。…すだれ状電極37の中心周波数付近の電気信号は、すだれ状電極37に伝達され、ここから再び表面波として励信される。…この特定の周波数成分は、電気信号として出力されない。つまりこの特定の周波数域で帯域外減衰量が大幅に改善されることになる。」(第2頁右下欄第1行〜第3頁左上欄第17行)

(ハ)「第5図は、本発明による弾性表面波の別の実施例を示すブロック図で、圧電基板50上に形成された中央の受信用すだれ状電極55の両側に2個の送信用すだれ状電極54、56を配置し、さらに受信用すだれ状電極55と不要波励振用すだれ状電極57を直列に接続し、またすだれ状電極57はその表面波伝搬路が、送受信用すだれ状電極54、55、56の表面波の主伝搬路と異なった所にあるように配置する。ここで送信用すだれ状電極54、56を内部インピーダンス11を有する高周波電源12に接続して、1つの入力変換器とし、受信用すだれ状電極55を負荷インピーダンス13に接続して出力変換器とし、以上の入・出力変換器によってフィルタを構成している。これは第3図に示した実施例で受信用すだれ状電極55(35)と不要波励振用すだれ状電極57(37)を外部負荷と直列に接続したこと以外はまった同じ構成である。このような構成によってもフィルタの帯域以外の不要波はすだれ状電極57から励振され帯域外減衰量増大の効果を持つ。このように不要波励振用すだれ状電極と送・受信用すだれ状電極を信号源及び外部負荷と直列に接続しても帯域外減衰量は増大する効果を持つ。」(第3頁右下欄第2行〜第4頁左上欄第4行)

刊行物1のこのような記載によれば、刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる。

圧電基板50上に形成された中央の受信用すだれ状電極55の両側に2個の送信用すだれ状電極54、56が配置され、送信用すだれ状電極54、56を内部インピーダンス11を有する高周波電源12に接続して、1つの入力変換器とし、受信用すだれ状電極55を負荷インピーダンス13に接続して出力変換器とし、以上の入・出力変換器によってフィルタを構成している弾性表面波フィルタ、及び中心周波数を弾性表面波フィルタの減衰域に置き、中心周波数付近の電気信号を表面波として励振する不要波励振用すだれ状電極57とを同一の圧電基板50上に形成し、少なくとも送信すだれ状電極54、55または受信用すだれ状電極55に、不要波励振用すだれ状電極57を電気的に直列に接続した弾性表面波フィルタ。

また、取消理由で引用された刊行物2(実開昭52-79047号公報、特許異議申立人藤山和宏の提出した甲第2号証)には、次のような記載がある。

(イ)「実用新案登録請求の範囲
弾性表面濾波器と圧電共振子とを1つのパッケージに収納するとともに、両者を直列或いは並列に接続して、一定帯域中での特定の周波数域で減衰特性を示すようにすることを特徴とする弾性表面波濾波器。」(第1頁右欄第1行〜同欄第6行)

(ロ)第1図はビデオ中間波用濾波器の特性曲線を示しており、第3図は、この考案に適用される共振子の周波数特性の一例を示したものであるが、こららの図において、弾性表面波濾波器の周波数特性が第1図の実線であり、弾性表面波濾波器の帯域中の低域側の音声搬送周波数で減衰特性を示す周波数特性が第1図の点線であり、圧電共振子の周波数特性が音声搬送波周波数で反共振点を持つものであることは、技術常識から明らかである。

刊行物2のこのような記載によれば、刊行物2には、次の発明が記載されていると認められる。

弾性表面濾波器と圧電共振子とを1つのパッケージに収納するとともに、両者を直列に接続して、弾性表面波濾波器の帯域中の低域側にある圧電共振子の反共振点で減衰特性を示す弾性表面波濾波器。

また、取消理由で引用された刊行物3(「弾性波素子技術ハンドブック」平成3年11月30日、オーム社発行、P217〜218、特許異議申立人藤山和宏の提出した甲第3号証参照)には、次のような記載がある。

「現在多く用いられている共振器構成は、図3・127のような1端子対形と、図3・128のような2端子対形に大別される。1端子対形は共振空洞内に1個のIDTが配置されており、その電気的等価回路は、従来の板の厚み振動を用いた振動子と同様に、LCRの直列回路と、これに並列接続されたIDTの静電容量CTとによって表される。」(第217頁右欄第11行〜第218頁左欄第6行)

3.対比・判断
(3-1)本件発明1と刊行物1に記載された発明との相当関係
刊行物1の「送信用すだれ状電極54、56」、「受信用すだれ状電極55」は、入力・出力変換器であるから、それぞれ本件発明1の「入力電極」、「出力電極」に相当し、中央の受信用すだれ状電極55の両側に2個の送信用すだれ状電極54、56が配置されることは、入出力電極が交互に配置されているといえるから、刊行物1の「圧電基板50上に形成された中央の受信用すだれ状電極55の両側に2個の送信用すだれ状電極54、56が配置される弾性表面波フィルタ」が、本件発明1の「入出力電極が交互に配置される多電極型弾性表面波フィルタ」に相当することは明らかである。
また、刊行物1の「不要波励振用すだれ状電極57」は、中心周波数を弾性表面波フィルタの減衰域に置き、中心周波数付近の電気信号を表面波として励振するから、本件発明1の「弾性表面波共振器」に相当することも明らかである。

(3-2)一致点・相違点の認定
本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。

一致点
入出力電極が交互に配置される多電極型弾性表面波フィルタの入出力端側の少なくとも一方に、少なくとも1個以上の弾性表面波共振器が電気的に直列接続されている弾性表面波フィルタである点。

相違点
弾性表面波共振器について、本件発明1では、反共振周波数は多電極型弾性表面波フィルタの通過帯域外にあり、かつ通過帯域内においてはほぼ静電容量として動作するのに対して、刊行物1に記載された発明では、中心周波数を弾性表面波フィルタの減衰域に置き、中心周波数付近の電気信号を表面波として励振しているが、通過帯域外に反共振周波数があることや静電容量として動作することが明らかでない点。

(3-3)相違点の判断
相違点について検討するに、刊行物2に記載された発明の圧電共振子の反共振点は、弾性表面波濾波器の帯域中の低域側にあるから、刊行物1に記載された発明の弾性表面波共振器の特性として刊行物2に記載された発明の圧電共振子の特性を採用しても、通過帯域内となり、本件発明のように反共振周波数が多電極型弾性表面波フィルタの通過帯域外にならない。
さらに、刊行物3に記載されているように、1端子対形弾性表面波共振器の電気的等価回路は、従来の板の厚み振動を用いた振動子と同様に、LCRの直列回路と、これに並列接続されたIDTの静電容量CTとによって表されることは周知であり、この電気的等価回路が反共振周波数で高インピーダンスとなり、反共振周波数より低い周波数でほぼ容量素子となるものであるから、刊行物1に記載された発明の弾性表面波共振器の特性を刊行物2に記載された発明の反共振点が弾性表面波濾波器の帯域中の低域側にあるようなものに変更しても、通過帯域内において容量素子となるのは、通過帯域内の一部だけであるから、本件発明のように通過帯域内においてほぼ容量素子となることはあり得ない。
そして、本件発明によれば、弾性表面波共振器を通過帯域では容量素子とし整合回路として動作させ、さらに、所望の周波数に反共振周波数を設定することにより減衰特性を改善することができるため、特性の良好な低損失弾性表面波フィルタとなるという顕著な効果を生じる。

したがって、本件発明1は、刊行物1〜3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(3-3)請求項2に係る発明

本件特許の請求項2に係る発明は、本件発明1を更に限定するものであるから、同様に刊行物1〜3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明を取り消すことができない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-07-21 
出願番号 特願平4-321869
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H03H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 村上 友幸  
特許庁審判長 大日方 和幸
特許庁審判官 治田 義孝
植松 伸二
登録日 2002-04-05 
登録番号 特許第3293671号(P3293671)
権利者 日本無線株式会社
発明の名称 弾性表面波フィルタ  
代理人 千葉 剛宏  

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