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審決分類 審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する H01L
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する H01L
管理番号 1133135
審判番号 訂正2005-39220  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-06-24 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2005-12-02 
確定日 2006-01-17 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2798570号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2798570号に係る明細書及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。 
理由 1.請求の要旨
本件審判の請求の要旨は、特許第2798570号(平成4年12月1日特許出願、平成10年7月3日設定登録)の明細書及び図面を審判請求書に添付した訂正明細書及び図面のとおり訂正することを求めるものである。

請求人の求める訂正の内容は、訂正個所に下線を付して示すと以下のとおりである。
(1)訂正事項1
本件特許の願書に添付した明細書又は図面(以下、「本件特許明細書」という。)の特許請求の範囲に記載される、
「【請求項1】アルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素を主成分とし、アルミニウム、珪素、酸素、窒素以外の元素量が0.2重量%以下の組成を有し、250℃以上の温度域における体積固有抵抗値が108 〜1013Ωcm、抗折強度が20kg/mm2 以上、耐熱衝撃性ΔTが150℃以上のセラミックス体中に静電電極を埋設してなる静電チャック。」を、
「【請求項1】アルミナ、窒化アルミニウムまたは窒化珪素を主成分とし、アルミニウム、珪素、酸素および窒素以外の元素量が0.2重量%以下の組成を有し、250℃以上の温度域における体積固有抵抗値が108 〜1013Ω・cm、抗折強度が20kgf/mm2 以上、耐熱衝撃性ΔTが150℃以上のセラミックス体中に静電電極を埋設してなる静電チャック。」と訂正する。
上記訂正事項1は、
「アルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素を主成分とし、アルミニウム、珪素、酸素、窒素以外の元素量が0.2重量%以下の組成を有し」を「アルミナ、窒化アルミニウムまたは窒化珪素を主成分とし、アルミニウム、珪素、酸素および窒素以外の元素量が0.2重量%以下の組成を有し」とする訂正事項(以下、「訂正事項1-イ」という。)、
「Ωcm」を「Ω・cm」とする訂正事項(以下、「訂正事項1-ロ」という。)、及び、
「kg/mm2 」を「kgf/mm2 」とする訂正事項(以下、「訂正事項1-ハ」という。)に分解できる。

(2)訂正事項2
本件特許明細書の段落【0013】に記載される「恐れ」を「おそれ」と訂正する。

(3)訂正事項3
本件特許明細書の段落【0017】に記載される、
「アルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素を主成分とし、アルミニウム、珪素、酸素、窒素以外の元素量が0.2重量%以下の組成を有し」を「アルミナ、窒化アルミニウムまたは窒化珪素を主成分とし、アルミニウム、珪素、酸素および窒素以外の元素量が0.2重量%以下の組成を有し」と訂正し(以下、「訂正事項3-イ」という。)、
4個所の「Ωcm」を「Ω・cm」と訂正し(以下、「訂正事項3-ロ」という。)、
3個所の「kg/mm2 」を「kgf/mm2 」と訂正し(以下、「訂正事項3-ハ」という。)、
「ウエハ」を「ウェハ」と訂正する(以下、「訂正事項3-ニ」という。)。

(4)訂正事項4
本件特許明細書の段落【0018】に記載される「W/mk」を「W/(m・K)」と訂正する。

(5)訂正事項5
本件特許明細書の段落【0020】に記載される2個所の「Ωcm」を「Ω・cm」と訂正する。

(6)訂正事項6
本件特許明細書の段落【0024】に記載される、
「kg/mm2 」を「kgf/mm2 」と訂正し(以下、「訂正事項6-イ」という。)、
「W/m・K」を「W/(m・K)」と訂正する(以下、「訂正事項6-ロ」という。)。

(7)訂正事項7
本件特許明細書の段落【0027】に記載される、
「Ωcm」を「Ω・cm」と訂正し(以下、「訂正事項7-イ」という。)、
「セラミック体1」を「セラミックス体1」と訂正する(以下、「訂正事項7-ロ」という。)。

(8)訂正事項8
本件特許明細書の段落【0028】に記載される、
2個所の「Ωcm」を「Ω・cm」と訂正し(以下、「訂正事項8-イ」という。)、
「g/cm2 」を「gf/cm2 」と訂正する(以下、「訂正事項8-ロ」という。)。

(9)訂正事項9
本件特許明細書の段落【0029】に記載される、
「Ωcm」を「Ω・cm」と訂正し(以下、「訂正事項9-イ」という。)、
「g/cm2 」を「gf/cm2 」と訂正する(以下、「訂正事項9-ロ」という。)。

(10)訂正事項10
本件特許明細書の段落【0031】に記載される3個所の「Ωcm」を「Ω・cm」と訂正する。

(11)訂正事項11
本件特許明細書の段落【0034】に記載される、
「まざまな」を「さまざまな」と訂正し(以下、「訂正事項11-イ」という。)、
「ネジ止めで金具とアセンブリ行い」を「ネジ止めで金具とのアセンブリを行い」と訂正する(以下、「訂正事項11-ロ」という。)。

(12)訂正事項12
本件特許明細書の段落【0035】に記載される2個所の「kg/mm2 」を「kgf/mm2 」と訂正する。

(13)訂正事項13
本件特許明細書の段落【0036】の表1に記載される「強度(kg/mm2)」を「強度(kgf/mm2)」と訂正する。

(14)訂正事項14
本件特許明細書の段落【0038】に記載される2個所の「W/m・K」を「W/(m・K)」と訂正する。

(15)訂正事項15
本件特許明細書の段落【0039】に記載される「W/m・K」を「W/(m・K)」と訂正する。

(16)訂正事項16
本件特許明細書の段落【0040】の表2に記載される「熱伝導率(W/mK)」→「熱伝導率(W/(m・K)」と訂正する。

(17)訂正事項17
本件特許明細書の段落【0042】に記載される「不純物とは、珪素(Si)、アルミニウム(Al)、酸素(O)、窒素(N)以外の元素を含む成分のことである。」を「不純物とは、珪素(Si)、アルミニウム(Al)、酸素(O)および窒素(N)以外の元素を含む成分のことである。」と訂正する。

(18)訂正事項18
本件特許明細書の段落【0044】に記載される「Ωcm」を「Ω・cm」と訂正する。

(19)訂正事項19
本件特許明細書の段落【0045】に記載される、
「kg/mm2 」を「kgf/mm2 」と訂正し(以下、「訂正事項19-イ」という。)、
「W/m・K」を「W/(m・K)」と訂正する(以下、「訂正事項19-ロ」という。)。

(20)訂正事項20
本件特許明細書の図3記載される2段書きの「吸着力」及び「(g/cm2 )」を「吸着力(gf/cm2 )」と訂正する。

(21)訂正事項21
本件特許明細書の図4記載される「Ωcm」を「Ω・cm」と訂正する。

(22)訂正事項22
本件特許明細書の図5記載される「吸着力(g/cm2)」を「吸着力(gf/cm2 )」と訂正する。

2.当審の判断
(1)訂正事項1-イ、3-イ、17について
これら訂正事項に係る訂正前の「アルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素を主成分とし」との記載では、アルミナ、窒化アルミニウム及び窒化珪素という3種のセラミックス間の関係が「及び」でつながる関係なのか、それとも「又は」でつながる関係なのか明りょうではなく、同様に、「珪素、酸素、窒素以外の元素量が0.2重量%以下の組成を有し」との記載では、珪素、酸素及び窒素という3種の元素間の関係も明りょうではない。
ところで、当該事項に関して、本件特許明細書には、以下のとおり記載されている。
(i)段落【0021】
「これらのセラミックスは、アルミナ(Al2 O3 )、アルミナの単結晶体であるサファイア、シリカ(SiO2 )、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si3 N4 )を主成分とするものであって、上記体積固有抵抗を示すためには、これらの主成分を85重量%以上含むものを用いる。また、後述するようにウェハへの汚染をなくすためには、アルミニウム(Al)、珪素(Si)、酸素(O)、窒素(N)以外の元素からなる成分(不純物)を合計0.2重量%以下とすることが好ましい。」
(ii)段落【0022】
「例えば、アルミナセラミックスの場合、主成分であるAl2 O3 を85重量%以上含み、残部がSiO2 で、その他のCaやNaなどの成分を合計0.2重量%以下としたもの、または主成分であるAl2 O3 を99.8重量%以上としたものが良い。また、窒化アルミニウムセラミックスの場合は、焼結助剤であるY2 O3 等を焼成時に蒸発させることによって、主成分であるAlNを99.8重量%以上としたものが良い。さらに、窒化珪素質セラミックスの場合は、主成分であるSi3 N4 を85重量%以上含み、残部がAl2 O3 で、不純物を0.2重量%以下としたものが良い。」
上記段落【0022】の当審が下線部を付した記載によれば、セラミックスがアルミナセラミックスである場合にはその主成分がAl2 O3 すなわちアルミナであり、セラミックスが窒化アルミニウムセラミックスである場合にはその主成分がAlN すなわち窒化アルミニウムであり、窒化珪素質セラミックスである場合にはその主成分がSi3 N4 すなわち窒化珪素である。すなわち、いずれのセラミックスの場合でも、「アルミナ、窒化アルミニウム又は窒化珪素を主成分とし」であり、したがって、当該事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものであって、また、アルミナ、窒化アルミニウム及び窒化珪素アルミニウムという3種のセラミックス間の関係を明確にするものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当する。
また、上記段落【0023】の当審が下線部を付した記載によれば、アルミニウム(Al)、珪素(Si)、酸素(O)、窒素(N)以外の元素からなる成分は、不純物であって、主成分であるセラミックスを構成しない元素であるから、「珪素、酸素および窒素以外の元素量が0.2重量%以下の組成を有し」とすることは、本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものであって、また、珪素、酸素及び窒素という3種の元素間の関係を明確にするものであるから、やはり明りょうでない記載の釈明に該当する。

(2)訂正事項1-ロ、3-ロ、5、7-イ、8-イ、9-イ、10、18、19-ロ、21について
「Ωcm」を「Ωc・cm」とすることは、体積固有抵抗値の単位を正しいものにあらためるものであるから、誤記の訂正に該当し、本件特許明細書に記載した事項の範囲以内のものである。

(3)訂正事項1-ハ、3-ハ、6-イ、8-ロ、9-ロ、12、13、19-イ、20、22について
「kg/mm2 」を「kgf/mm2 」とすること、及び、「g/cm2 」を「gf/cm2 」とすることは、抗折強度の単位を正しいものにあらためるものであるから、誤記の訂正に該当し、本件特許明細書に記載した事項の範囲以内のものである。

(4)訂正事項4、6-ロ、14〜16
「W/mk」、「W/mK」及び「W/m・K」を「W/(m・K)」とすることは、熱伝導率の単位を正しいものにあらためるものであるから、誤記の訂正に該当し、本件特許明細書に記載した事項の範囲以内のものである。

(5)その他の訂正事項
訂正事項2の「恐れ」を「おそれ」とすること、訂正事項3-ニの「ウエハ」を「ウェハ」とすること、訂正事項7-ロの「セラミック体1」を「セラミックス体1」とすること、訂正事項11-イの「まざまな」を「さまざまな」とすること、及び、訂正事項11-ロの「ネジ止めで金具とアセンブリ行い」を「ネジ止めで金具とのアセンブリを行い」とすることが、誤記の訂正に該当することは明らかであり、しかも、これら訂正事項は、本件特許明細書に記載した事項の範囲以内のものである。

そして、上記訂正事項は、いずれも特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではない。

さらに、特許請求の範囲の請求項1に係る訂正事項1は、明りょうでない記載の釈明とともに誤記の訂正をも目的とするものであるから、訂正後の請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでならないが、訂正後の請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。

3.むすび
したがって、本件審判の請求は、平成6年改正前特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
静電チャック
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】アルミナ、窒化アルミニウムまたは窒化珪素を主成分とし、アルミニウム、珪素、酸素および窒素以外の元素量が0.2重量%以下の組成を有し、250℃以上の温度域における体積固有抵抗値が108〜1013Ω・cm、抗折強度が20kgf/mm2以上、耐熱衝撃性ΔTが150℃以上のセラミックス体中に静電電極を埋設してなる静電チャック。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、半導体製造装置などにおいてシリコンなどのウェハを固定、搬送するために用いられる静電チャックに関するものであり、特にCVDやPVD装置などの高温下で使用するための静電チャックに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より半導体製造装置においてシリコンウェハの固定、搬送にはクランプリング、真空チャック、静電チャックが用いられてきたが、真空チャックは真空中で使用できず、クランプリングは反り修正能力はなくウェハサイズが大きくなるほど均熱がとりにくくなるなどの不都合があった。そこで、電子ビーム描画装置、ドライエッチング装置、CVD装置、PVD装置等でシリコンウェハの固定、搬送に静電チャックが有効とされている。
【0003】
このような静電チャックは絶縁体中に静電電極を埋設した構造となっており、その吸着力Fは、
F=S/2×ε0×εr×(V/d)2
F:吸着力
S:静電電極面積
ε0:真空の誘電率
εr:絶縁体の比誘電率
V:印加電圧
d:絶縁層の厚み
で表される。
【0004】
したがって、吸着力を高めるためには、この式より
▲1▼高誘電体で絶縁層を形成する
▲2▼高電圧を印加する
▲3▼絶縁層を薄くする
という方法が考えられる。▲1▼の方法を用いたものとして、高誘電体であるチタン酸カルシウムなどを主成分とするセラミックスを絶縁体とする静電チャックを本出願人は既に提案した(特開平4-206948号公報参照)。また、▲2▼▲3▼の方法については絶縁層の絶縁破壊につながり、危険を伴うので実用的でない。
【0005】
さらに、上記▲1▼〜▲3▼以外にアルミナ原料にチタンなどの遷移金属を添加したのち還元雰囲気で焼成し、体積固有抵抗を低下させたセラミックスを用いる静電チャックもあった(特開平2-22166号公報参照)。これは、体積固有抵抗の低いセラミックスを絶縁層とすることによって、電圧印加時に微小な漏れ電流が発生し、この漏れ電流によって吸着力を増強するというものであった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記特開平2-22166号公報にみられるような漏れ電流を利用した静電チャックは、以下に示すようにさまざまな問題点があった。
【0007】
まず、この静電チャックは、電子ビーム描画装置、ドライエッチング装置などの-100〜150℃付近での使用を前提としたものであって、より高温での使用には適さないものであった。即ち、この静電チャックにおいて、絶縁体の体積固有抵抗は温度上昇に伴って低下していくため、CVDやPVDなどの蒸着装置あるいは高温ドライエッチング装置で使用する250℃以上という温度域では漏れ電流が大きくなりすぎてウェハ上に形成した回路の破壊につながってしまうという欠点があった。
【0008】
次に、この静電チャックを構成するセラミックスは、焼成条件によって体積固有抵抗を制御しているため、炉内全体を完全に同じ雰囲気にする必要があり、少しの雰囲気のずれによって体積固有抵抗が異なってくるため、この方法で体積固有抵抗を制御することは困難であり、均一な製品が得られないことから量産性に劣るという欠点があった。
【0009】
更に、上記セラミックスは、アルミナとチタンの混合物であるため、吸着力に時間依存性があり、電圧を印加してもすぐに吸着力が得られないという致命的欠点があった。これはチタンがアルミナ内に均一に分散されていないことや、チタンが酸化されてチタニアが生成され、比誘電率が非常に異なる材質(アルミナ=10、チタニア=46)のものが分散しているためと考えられる。そして吸着力に時間依存性があると半導体製造装置におけるウェハの処理能力の低下につながるという問題点があった。
【0010】
一方、特開平4-206948号公報にみられるような、高誘電体セラミックスを用いた静電チャックは、高誘電体セラミックス自体の機械的強度が低いうえに熱衝撃にも弱いため、250℃以上で使用することは実用性に乏しかった。
【0011】
一般に、静電チャックをCVD装置、PVD装置あるいは高温エッチング装置などの250℃以上という温度下で使用する際には、以下のようないくつかの特性が求められる。
【0012】
▲1▼高吸着力を発揮すること
▲2▼吸着・離脱の応答性がよいこと
▲3▼漏れ電流が小さいこと
▲4▼アセンブリに耐え得る機械的強度を有し、高剛性を有していること
▲5▼ヒ-トショックに強いこと
▲6▼高熱伝導を有すること
▲7▼ウェハに悪影響を及ぼさない材料であること
上記▲1▼については、吸着力が高いことによって静電チャックとウェハの接触性を高め、静電チャックの温度にウェハの温度を近づけられるためにウェハの温度分布が小さくなり、CVDやPVDではウェハ上への均一な成膜が、高温エッチングではパターンの高精度化が可能となるためである。また、▲2▼についてはウェハのスループット能力を向上させるためには不可欠な要素である。
【0013】
▲3▼については絶縁体の性質の1つとして温度上昇に伴う体積固有抵抗の低下があり、それに伴い漏れ電流も大きくなって、漏れ電流が大きすぎるとウェハ上に形成されたパターンの破壊につながるおそれがあるためである。また、▲4▼については、高温における装置への静電チャックの組み込みでは接着剤の使用が困難であり、ネジ等の機械的固定をしなければならないため、ネジ止め時や装置使用時の熱膨張差に耐え得る機械的強度を有していなければならない。また、ウェハ上に高精度のパターンを形成するには静電チャックの表面形状を高精度に仕上げなければならないため、高剛性も必要となってくる。
【0014】
▲5▼については、ウェハ温度のコントロールのために静電チャック下面から冷却する場合や、高温使用時の静電チャック内の温度分布による熱歪みに耐え得ることが必要なため、耐熱衝撃性に優れていなければならない。また、▲6▼については、ウェハ加工時に、ウェハ表面に温度分布ができてしまうと均一な成膜、パターンの高精度化ができにくくなってしまうため、ウェハに接触する静電チャックの材質は熱伝導に優れている方が好ましい。さらに、▲7▼については、静電チャックはウェハと直接接触するため、構成する元素がシリコンウェハの特性劣下につながらないように、シリコンウェハに悪影響を及ぼさない元素で構成されていなければならない。
【0015】
ところが、上記したように、従来のアルミナにチタンを添加したセラミックスを用いた静電チャックでは、漏れ電流が大きく、応答性も悪いものであり、一方高誘電体セラミックスを用いた静電チャックは機械的特性が劣るものであるため、いずれも上記▲1▼〜▲7▼の特性を満たさなかった。
【0016】
そこで、本発明は、上記特性を満たし、250℃以上の高温領域で好適に用いられる静電チャックを得ることを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明の静電チャックは、アルミナ、窒化アルミニウムまたは窒化珪素を主成分とし、アルミニウム、珪素、酸素および窒素以外の元素量が0.2重量%以下の組成を有し、250℃以上の温度域における体積固有抵抗値が108〜1013Ω・cm、抗折強度が20kgf/mm2以上、耐熱衝撃性ΔTが150℃以上のセラミックス体中に静電電極を埋設したことを特徴とするものである。ここで、体積固有抵抗値を108〜1013Ω・cmとしたのは、1013Ω・cmより大きいと、電圧印加時の漏れ電流が小さすぎて充分な吸着力が得られないからであり、一方、108Ω・cmより小さいと漏れ電流が大きすぎて吸着したウェハの回路を破壊するなどの悪影響を及ぼすためである。また、抗折強度を20kgf/mm2以上でかつ耐熱衝撃性ΔTを150℃以上としたのは、抗折強度が20kgf/mm2未満では、静電チャックを装置にネジなどで固定する時や高温域における装置使用時にクラックや割れが生じ、耐熱衝撃性ΔTが150℃未満であると、急速昇温時にセラミックス内に発生する熱歪みに耐えることができず、クラックや割れを生じて破損するからである。
【0018】
なお、上記セラミックスとしては、珪素(Si)、アルミニウム(Al)の酸化物または窒化物から構成され、熱伝導率が10W/(m・K)以上の特性を有するものを用いる。
【0019】
【実施例】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0020】
図1に示すように、本発明の静電チャックはセラミックス体1中に静電電極2を埋設したものであり、この静電電極2と被吸着物3に電圧4を印加することによって吸着力が発生し、吸着面1a上に被吸着物3を固定することができる。上記セラミックス体1は、常温では体積固有抵抗が1014Ω・cm以上と大きく、漏れ電流が非常に小さいため吸着力はほとんど発生しないが、250℃以上の温度域では体積固有抵抗が108〜1013Ω・cmに低下するため、漏れ電流が大きくなって吸着力が発生する。
【0021】
これらのセラミックスは、アルミナ(Al2O3)、アルミナの単結晶体であるサファイア、シリカ(SiO2)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si3N4)を主成分とするものであって、上記体積固有抵抗を示すためには、これらの主成分を85重量%以上含むものを用いる。また、後述するようにウェハへの汚染をなくすためには、アルミニウム(Al)、珪素(Si)、酸素(O)、窒素(N)以外の元素からなる成分(不純物)を合計0.2重量%以下とすることが好ましい。
【0022】
例えば、アルミナセラミックスの場合、主成分であるAl2O3を85重量%以上含み、残部がSiO2で、その他のCaやNaなどの成分を合計0.2重量%以下としたもの、または主成分であるAl2O3を99.8重量%以上としたものが良い。また、窒化アルミニウムセラミックスの場合は、焼結助剤であるY2O3等を焼成時に蒸発させることによって、主成分であるAlNを99.8重量%以上としたものが良い。さらに、窒化珪素質セラミックスの場合は、主成分であるSi3N4を85重量%以上含み、残部がAl2O3で、不純物を0.2重量%以下としたものが良い。
【0023】
そして、これらの組成からなる原料をプレス成形、またはグリーンシートを積層することによって板状に成形し、所定条件で焼成すれば、上記セラミックス体1を得ることができる。また、サファイアで形成する場合は、EFG法などの製法で板状に引き上げた後、所定形状に加工することでセラミックス体1を得ることができる。
【0024】
さらに、上記セラミックスは、抗折強度が20kgf/mm2以上と機械的強度が高く、耐熱衝撃性ΔTが150℃以上とヒートショックに強く、熱伝導率10W/(m・K)以上と熱伝導性の良いものを用いる。また、上記のように、これらのセラミックスは、アルミニウム(Al)、珪素(Si)、酸素(O)、窒素(N)の元素からなるため、ウェハに悪影響を及ぼすことはない。さらに、上記セラミックスは単一主成分からなる材料であるため吸着時の応答性がよく、均質な材料を容易に製造することができる。
【0025】
また、上記実施例では単極型の静電チャックを示したが、静電電極2を複数形成し、これらの静電電極2間に電圧を印加することにより双極型の静電チャックとすることもできる。
【0026】
さらに、本発明の他の実施例を図2に示すように、セラミックス体1中に静電電極2とともにヒータ5を埋設して静電チャックを構成することもできる。この場合は、ヒータ5に電圧6を印加することによって、セラミックス体1を250℃以上に加熱し、このとき静電電極2と被吸着物3との間に電圧4を印加することで、セラミックス体1中に微小な漏れ電流を生じ、吸着力を発生させることができる。このように、ヒータ5を埋設した静電チャックは、所定の吸着力を得られるようにセラミックス体1の温度を制御することが容易であり、より好適に使用することができる。
【0027】
実験例1
本発明の静電チャックは微少な漏れ電流によって吸着力を得るものであり、適正な吸着力を得るためには体積固有抵抗が重要になってくる。そこで常温における体積固有抵抗が1014Ω・cm以上のアルミナをセラミックス体1として用い、図2に示すヒータ5を内蔵した単極型の静電チャックを作製して、10-1Torrの真空中において静電チャックの静電電極2と被吸着物3間に300Vの電圧4を印加し、昇温しながら被吸着物3を垂直に剥すことにより吸着力の測定を行った。
【0028】
その結果、図3に吸着力と温度の関係を示すように、250℃付近で吸着力が急激に大きくなり、400℃でほぼ一定になって、100gf/cm2以上の充分な吸着力を生じることがわかる。この結果を、上記アルミナセラミックスの体積固有抵抗と温度の関係を示すグラフ(図4)と比較すると、温度が250℃以上で体積固有抵抗が1013Ω・cm以下の時に充分な吸着力を発生できることが確認できた。しかし、漏れ電流が大きくなりすぎるとウェハ上の回路を破壊することを考えると体積固有抵抗は108〜1013Ω・cmが好ましく、上記アルミナセラミックス製静電チャックは250〜500℃の温度域で好適に使用できることがわかる。
【0029】
さらに、図4中に窒化珪素、窒化アルミニウムからなるセラミックスの体積固有抵抗と温度との関係を示すように、これらのセラミックスも250〜500℃の温度域において、体積固有抵抗が108〜1013Ω・cmとなる。そして、これらのセラミックスで静電チャックを構成したところ、上記アルミナセラミックスと同様に250℃以上の温度で吸着力100gf/cm2以上の充分な吸着力を生じることが確認された。
【0030】
また、アルミナの単結晶体であるサファイアは、体積固有抵抗が大きいことから、500℃以上の温度域でも充分使用可能である。
【0031】
実験例2
次に、静電チャックの吸着力の時間依存性をみるために、
▲1▼常温における体積固有抵抗が1014Ω・cm以上で、400℃になると1011Ω・cmに低下するアルミナ静電チャック(本発明実施例)
▲2▼アルミナ原料にチタンなどの遷移金属を添加したのち還元雰囲気で焼成し、常温における体積固有抵抗を1011Ω・cmにした静電チャック(比較例)
の2つの静電チャックを用意した。
【0032】
体積固有抵抗の値をあわせるため、▲2▼は常温で、▲1▼は400℃において、それぞれ吸着力の時間依存性の測定を行った(いずれも真空度は10-1Torr、印加電圧は300V)。結果を図5に示すように、▲2▼(比較例)においては所定の吸着力が得られるまで200秒ほど要するが、▲1▼(本発明実施例)においてはわずか1秒ほどで所定の吸着力が得られるという結果となり、本発明の静電チャックは時間依存性がなく、吸着、離脱の応答性が良いことがわかった。
【0033】
これは、前記したように、比較例が複合材料からなるのに対し、本発明実施例は単一材料からなるためである。
【0034】
実験例3
次に、静電チャックの熱応力の面から高温での使用可能性を確認するための実験を行った。表1に示すさまざまな特性のセラミックスを用いて、それぞれヒータを内蔵したφ6インチの静電チャックを用意し、
▲1▼500℃まで50℃/分で急昇温を行う
▲2▼ネジ止めで金具とのアセンブリを行い、500℃までゆっくり昇温を行う
実験を行った。なお、表1中、強度とは常温での抗折強度のことであり、耐熱衝撃性とは水中投下時にクラックを生じる温度差ΔTのことである。
【0035】
結果を表1に示すように、耐熱衝撃性ΔTが150℃よりも小さいもの(試料C、D)は、実験▲1▼でクラックが生じ、また強度が20kgf/mm2よりも小さいもの(試料B、D)は実験▲2▼でクラックが生じた。したがって、高温域で用いるためには、強度20kgf/mm2以上、耐熱衝撃温度150℃以上のセラミックスを用いる必要がある。
【0036】
【表1】

【0037】
実験例4
静電チャックを使用することによる均熱性の向上と均熱に必要な熱伝導率を確認する実験を行った。表2に示すように、種々の熱伝導率をもったセラミックスで、図2に示すヒータ内蔵のφ6インチ静電チャックを用意し、
▲1▼静電チャック中心を300℃まで加熱した後ウェハを静電チャックに載せ、サーモビュア(表面温度計)で表面の温度分布を確認する
▲2▼静電チャック中心を300℃まで加熱した後ウェハを静電チャックに載せ、静電チャックでウェハを吸着してサーモビュア(表面温度計)で表面の温度分布を確認する
実験を行った。結果は表2に示す通りである。
【0038】
ウェハの均一成膜が可能であるのは温度差20℃以内と考えられるが、この表2より、その範囲に入っているのは熱伝導率が10W/(m・K)以上の静電チャック(試料C、D)を用いて吸着させていた場合のみである。したがって、熱伝導率が10W/(m・K)以上のセラミックスを用いれば良い。
【0039】
さらに、好ましくは窒化アルミニウムセラミックスを用いれば、熱伝導率が170W/(m・K)以上と極めて大きいことから、より好適である。
【0040】
【表2】

【0041】
実験例5
静電チャックを構成するセラミックス中の不純物量と、ウェハに対する汚染度の関係を調べる実験を行った。表3に示すように、アルミナを主成分とし、不純物であるNaとCaの量が異なるセラミックスで静電チャックを作製し、NaとCaの量が1ppm以下のシリコンウェハを被吸着物として各静電チャックで吸着させた後、ウェハをチェックして汚染度(NaとCaの含有量)を測定した。
【0042】
結果を表3に示す。この結果より、試料C、Dに示すように、静電チャックを構成するアルミナセラミック中の不純物量が合計2000ppm(0.2重量%)以下であれば、吸着されたウェハに対する汚染度が小さいことがわかる。また、この実験例では、アルミナセラミックスについてのみ示したが、他のセラミックスであっても、同様に不純物量を極めて少なくすることで、ウェハに対する悪影響を防止でき、特にサファイアは好適である。なお、ここで不純物とは、珪素(Si)、アルミニウム(Al)、酸素(O)および窒素(N)以外の元素を含む成分のことである。
【0043】
【表3】

【0044】
【発明の効果】
このように本発明によれば、250℃以上の温度域における体積固有抵抗が108〜1013Ω・cmのセラミックスに静電電極を備えて静電チャックを構成したことによって、CVD装置、PVD装置あるいは高温エッチング装置等の250℃以上の温度で使用しても良好にウェハを吸着することができ、固定、搬送、矯正を行うことができる。
【0045】
また、上記セラミックスとして珪素(Si)、アルミニウム(Al)の酸化物または窒化物から構成され、抗折強度20kgf/mm2以上、熱伝導率10W/(m・K)以上、耐熱衝撃性ΔT150℃以上の特性を有するものを用いることによって、250℃以上の温度で使用しても熱応力に耐えられ、また熱伝導率が高いことによりウェハの全面均熱をはかられ、ウェハの均一成膜、加工パターンの高精度化などが可能となり、またウェハの処理能力を向上することができ、ウェハに対する汚染の問題もなくなるなどの効果をもった高性能の静電チャックを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の静電チャックを示す縦断面図である。
【図2】
本発明の静電チャックの他の実施例を示す縦断面図である。
【図3】
本発明の静電チャックの吸着力と温度との関係を示すグラフである。
【図4】
本発明の静電チャックを構成するセラミックスの温度と体積固有抵抗との関係を示すグラフである。
【図5】
本発明および比較例の静電チャックの吸着力と時間との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1・・・セラミックス体
2・・・静電電極
3・・・被吸着物
4・・・電圧
5・・・ヒータ
6・・・電圧
【図面】



 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2006-01-05 
出願番号 特願平4-322078
審決分類 P 1 41・ 853- Y (H01L)
P 1 41・ 852- Y (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中西 一友松本 邦夫  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 佐々木 正章
鈴木 孝幸
登録日 1998-07-03 
登録番号 特許第2798570号(P2798570)
発明の名称 静電チャック  

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