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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F25B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F25B
管理番号 1133361
審判番号 不服2004-8833  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-08-06 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-04-28 
確定日 2006-03-16 
事件の表示 平成 7年特許願第 12404号「ヒートポンプ式暖房装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 8月 6日出願公開、特開平 8-200859〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成7年1月30日の出願であって、平成16年3月23日付け(発送日:同月30日)で拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月28日に審判請求がなされるとともに、同年5月26日に手続補正がなされたものである。

2.平成16年5月26日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成16年5月26日付け手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の請求項1に記載された発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のとおりに補正された。

「圧縮機と、凝縮器と、気液分離器と、蒸発器とを順次配置し、凝縮器と気液分離器との間に高圧側膨張弁、気液分離器と蒸発器との間に低圧側膨張弁を配置し、圧縮機は蒸発器からの気体状冷媒の導入のための低圧側導入口に加えて、該低圧側導入口の下流における圧縮経路の途中により高圧の気体状または気液混合状態の冷媒の導入のための高圧側導入口を有し、該高圧側導入口に気液分離器からの気体状または気液混合状態の冷媒の導入通路が接続され、該圧縮機への高圧側の該導入通路への冷媒の流入と、低圧側の該蒸発器への冷媒の流入が常に連続して行われる2段圧縮型ヒートポンプサイクルが採用されていて、高圧側膨張弁は外部信号により開度調節可能であり、かつ前記高圧側膨張弁の開度を暖房負荷に応じて調節する開度調節手段を具備し、該開度調節手段は暖房負荷が大きいときは、前記導入通路への冷媒の流入が増加するように高圧側膨張弁の開度を大きくし、暖房負荷が小さいときは、前記導入通路への冷媒の流入が減少するように高圧側膨張弁の開度を小さくすることを特徴とするヒートポンプ式暖房装置。」

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「高圧側膨張弁の開度を大きくし、」について「前記導入通路への冷媒の流入が増加するように」との限定を付加し、また、「高圧側膨張弁の開度を小さくする」について「前記導入通路への冷媒の流入が減少するように」との限定を付加するものであって、平成6年法律第116号による改正前の特許法第17条の2第3項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用した特開平1-114668号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに次の記載がある。

・「(産業上の利用分野)
この発明は、ガスインジェクションサイクルを有する2段圧縮冷凍サイクル装置に関する。」(第1頁左下欄第15-17行)

・「(発明が解決しようとする問題点)
ただし、上記のような冷凍サイクルにおいては、凝縮器2における過冷却が大きくなると、圧縮機1へのガスインジェクション量が少なくなり、冷凍能力の低下を招いてしまう。この冷凍能力の低下による影響は冷房時よりも暖房時において顕著であり、十分な暖房能力が得られなくなるという問題がある。」(第2頁左上欄第14行-右上欄第1行)

・「第1図において、11は2シリンダ形のいわゆる2段圧縮機で、低段側シリンダ11aおよび高段側シリンダ11bを有し、2段圧縮が可能となっている。しかして、圧縮機11,凝縮器12,第1減圧器であるところの電動式膨張弁13,気液分離器14,第2減圧器であるところの電動式膨張弁15,蒸発器16が順次連通され、冷凍サイクルが構成されている。そして、気液分離器14から圧縮機11の高段側シリンダ11bにかけてガスインジェクションサイクル17が設けられている。
しかして、凝縮器12の冷媒出口側に圧力検知器21および温度検知器22が取付けられている。さらに、蒸発器16の冷媒出口側に圧力検知器23および温度検知器24が取付けられている。
一方、30は空気調和機全般にわたる制御を行なう制御部で、マイクロコンピュータおよびその周辺回路などからなり、外部には運転操作部31、室内温度検知器32、圧縮機11、電動式膨張弁13,15、および検知器21,22,23,24が接続されている。
つぎに、上記のような構成において動作を説明する。
運転操作部31で所望の室内温度を設定し、運転開始操作を行なう。すると、制御部30が圧縮機11を起動する。
圧縮機11が起動すると、その圧縮機11から冷媒が吐出され、それが凝縮器12で液化される。液化された冷媒は電動式膨張弁13で低圧へと膨張され、気液分離器14へ供給される。気液分離器14では膨張過程の段階でガス化した冷媒が分離され、液冷媒のみが送り出される。送り出された液冷媒は電動式膨張弁15でさらに低圧へと膨張され、蒸発器16へ送られる。蒸発器16では液冷媒がガス化し、それが圧縮機1へ吸込まれる。
気液分離器14で分離されたガス冷媒は、ガスインジェクションサイクル17を通り、圧縮機11の高段側シリンダ11bにインジェクションされる。
一方、制御部30は、室内温度検知器32で室内温度を検知しており、その検知温度と設定室内温度との比較により圧縮機11の運転をオン、オフする。これにより、室内温度が設定室内温度に維持される。
また、凝縮器12の出口側の冷媒圧力が圧力検知器21で検知され、冷媒温度が温度検知器22で検知される。制御部30は、検知圧力を飽和状態の温度に換算し、それと検知温度との差Δt1を算出し、つまり凝縮器12の過冷却度を検出し、その過冷却度Δt1に応じて電動式膨張弁13の絞り量つまり開度を制御する。
すなわち、第2図のモリエル線図において、過冷却度Δt1が所定値ΔT1よりも大きくなると(Δt1>ΔT1)、気液分離器14で分離されるガス冷媒の乾き度が×1と小さくなる。このとき、圧縮機11へのガスインジェクション量が少なくなり、冷凍能力の低下を招いてしまう。これに対し、制御部30は、過冷却度Δt1が所定値ΔT1よりも小さくなるように(Δt1≦ΔT1)、電動式膨張弁13の開度を制御する。これにより、分離されるガス冷媒の乾き度はX2(>X1)と大きくなり、圧縮機11へのガスインジェクション量が増え、冷凍能力の低下を抑えることができる。
このように、圧縮機11へのガスインジェクション量を最適な状態に維持することができ、これにより常に安定かつ十分な冷凍能力を得ることができる。特に、暖房運転において、十分な暖房能力を得ることができ、快適性の向上が図れる。」(第2頁右上欄第19行ー第3頁右上欄第7行)

したがって、引用例には次の発明が記載されているものと認められる(以下、「引用例発明」という。)。

「圧縮機と、凝縮器と、気液分離器と、蒸発器とを順次配置し、凝縮器と気液分離器との間に電動式膨張弁13、気液分離器と蒸発器との間に電動式膨張弁15を配置し、圧縮機は蒸発器からの気体状冷媒の導入のための低圧側導入口に加えて、該低圧側導入口の下流における圧縮経路の途中により高圧の気体状の冷媒の導入のための高圧側導入口を有し、該高圧側導入口に気液分離器からの気体状の冷媒のガスインジェクションサイクルが接続され、該圧縮機への高圧側の該ガスインジェクションサイクルへの冷媒の流入と、低圧側の該蒸発器への冷媒の流入が常に連続して行われる2段圧縮型ヒートポンプサイクルが採用されていて、電動式膨張弁13は外部信号により開度調節可能であり、かつ前記電動式膨張弁13の開度を過冷却度に応じて調節する制御部を具備し、該制御部は過冷却度が大きいときは、前記ガスインジェクションサイクルへの冷媒の流入が増加するように電動式膨張弁13の開度を制御するヒートポンプ式暖房装置。」

(3)対比
本願補正発明と上記引用例発明とを比較する。

引用例発明の「電動式膨張弁13」は本願補正発明の「高圧側膨張弁」に相当し、以下同様に、「電動式膨張弁15」は「低圧側膨張弁」に、「ガスインジェクションサイクル」は「導入通路」に、また、「制御部」は「開度調節手段」に相当する。

したがつて、両者は、「圧縮機と、凝縮器と、気液分離器と、蒸発器とを順次配置し、凝縮器と気液分離器との間に高圧側膨張弁、気液分離器と蒸発器との間に低圧側膨張弁を配置し、圧縮機は蒸発器からの気体状冷媒の導入のための低圧側導入口に加えて、該低圧側導入口の下流における圧縮経路の途中により高圧の気体状の冷媒の導入のための高圧側導入口を有し、該高圧側導入口に気液分離器からの気体状の冷媒の導入通路が接続され、該圧縮機への高圧側の該導入通路への冷媒の流入と、低圧側の該蒸発器への冷媒の流入が常に連続して行われる2段圧縮型ヒートポンプサイクルが採用されていて、高圧側膨張弁は外部信号により開度調節可能であり、かつ前記高圧側膨張弁の開度を調節する開度調節手段を具備し、該開度調節手段は、前記導入通路への冷媒の流入が増加するように高圧側膨張弁の開度を制御するヒートポンプ式暖房装置。」の点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
本願補正発明では、高圧側膨張弁の開度を暖房負荷に応じて調節し、暖房負荷が大きいときは、導入通路への冷媒の流入が増加するように高圧側膨張弁の開度を大きくし、暖房負荷が小さいときは、前記導入通路への冷媒の流入が減少するように高圧側膨張弁の開度を小さくするのに対して、引用例発明では、高圧側膨張弁の開度を過冷却度に応じて調節し、過冷却度が大きいときは、導入通路への冷媒の流入が増加するように高圧側膨張弁の開度を制御する点。

(4)相違点についての判断
ヒートポンプ式暖房装置において、暖房能力を暖房負荷により制御することは、従来周知のことである。また、引用例には、過冷却度が大きくなり、圧縮機へのガスインジェクション量(導入通路への冷媒の流入量)が少なくなると、十分な暖房能力が得られなくなることが記載されている。そして、引用例発明において、高圧側膨張弁の開度を大きくすると、冷媒の循環量が多くなり、かつ過冷却度が小さくなることにより、導入通路への冷媒の流入量が増加することは、当業者が予測できた範囲内のことである。

同様に、ヒートポンプ式暖房装置において、暖房能力を暖房負荷により制御する際に、冷凍サイクルの効率を考慮すべきことは、従来周知のことである。そして、引用例発明において、過冷却度が大きいほど、また、これにより、導入通路への冷媒の流入量が減少し、蒸発器への冷媒の流入量が相対的に増加するほど、冷凍サイクルの効率が向上することは、当業者が予測できた範囲内のことである。加えて、高圧側膨張弁の開度を小さくすると、冷媒の循環量が少なくなり、過冷却度が大きくなること、また、これにより、導入通路への冷媒の流入量が減少し、蒸発器への冷媒の流入量が相対的に増加することも、当業者が予測できた範囲内のことである。

したがつて、引用例発明において、暖房能力を制御するために、高圧側膨張弁の開度を暖房負荷に応じて調節し、暖房負荷が大きいときには、十分な暖房能力を得るために、導入通路への冷媒の流入が増加するように高圧側膨張弁の開度を大きくし、また、暖房負荷が小さいときは、冷凍サイクルの効率を向上させるために、前記導入通路への冷媒の流入が減少するように高圧側膨張弁の開度を小さくすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用例に記載された事項、及び従来周知の技術から当業者が予測できた範囲内のものである。

したがって、本願補正発明は、引用例に記載された発明、及び、従来周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成16年5月26日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、同年1月26日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものである。

「圧縮機と、凝縮器と、気液分離器と、蒸発器とを順次配置し、凝縮器と気液分離器との間に高圧側膨張弁、気液分離器と蒸発器との間に低圧側膨張弁を配置し、圧縮機は蒸発器からの気体状冷媒の導入のための低圧側導入口に加えて、該低圧側導入口の下流における圧縮経路の途中により高圧の気体状または気液混合状態の冷媒の導入のための高圧側導入口を有し、該高圧側導入口に気液分離器からの気体状または気液混合状態の冷媒の導入通路が接続され、該圧縮機への高圧側の該導入通路への冷媒の流入と、低圧側の該蒸発器への冷媒の流入が常に連続して行われる2段圧縮型ヒートポンプサイクルが採用されていて、高圧側膨張弁は外部信号により開度調節可能であり、かつ前記高圧側膨張弁の開度を暖房負荷に応じて調節する開度調節手段を具備し、該開度調節手段は暖房負荷が大きいときは高圧側膨張弁の開度を大きくし、暖房負荷が小さいときは高圧側膨張弁の開度を小さくすることを特徴とするヒートポンプ式暖房装置。」

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用した引用例、及びその記載事項は前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から「高圧側膨張弁の開度を大きくし、」の限定事項である「前記導入通路への冷媒の流入が増加するように」との構成を省き、「高圧側膨張弁の開度を小さくする」の限定事項である「前記導入通路への冷媒の流入が減少するように」との構成を省いたものである。

そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用例に記載された発明、及び、従来周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例に記載された発明、及び、従来周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明、及び、従来周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-01-12 
結審通知日 2006-01-17 
審決日 2006-01-30 
出願番号 特願平7-12404
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F25B)
P 1 8・ 121- Z (F25B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川上 佳長崎 洋一  
特許庁審判長 水谷 万司
特許庁審判官 原 慧
櫻井 康平
発明の名称 ヒートポンプ式暖房装置  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 加藤 大登  
代理人 伊藤 高順  
代理人 伊藤 高順  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 加藤 大登  

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