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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G07C
管理番号 1133586
審判番号 不服2003-7696  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-03-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-05-02 
確定日 2006-03-24 
事件の表示 平成 6年特許願第234392号「車両運行管理システムを使用した排ガス排出量測定方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 3月22日出願公開、特開平 8- 77408〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成6年9月3日の出願であって、平成14年2月8日付けで明細書を補正する手続補正がなされたが、平成15年3月26日付け(発送日:同年4月1日)で本出願について拒絶の査定がなされた。その後、平成15年5月2日に、この拒絶の査定に対して不服の審判が請求され、同年5月23日付けで明細書を補正する手続補正がなされたが、この手続補正は当審において平成17年8月16日付けで却下されるとともに、同年8月23日付け(発送日:同月30日)で拒絶理由通知がなされ、同年10月31日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)は、平成17年10月31日付で補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】 車両側には、当該車両に設けられた速度センサ、エンジン回転数センサ及びギア位置センサによって検出される車両速度、エンジン回転数及びギア位置を走行情報として逐次自動的に採取記録する記録手段を備えた運行管理計が搭載されている一方、管理事務所側には、前記運行管理計の記録手段に記録された前記走行情報を読取装置を介して吸い上げ可能で、かつ、別途に測定したエンジン型式と排ガス量との相関関係を示すエンジン型式毎の排ガス特性データが予め入力されているコンピュータが設けられており、このコンピュータ内において前記吸い上げた走行情報と前記エンジン型式毎の排ガス特性データとを用いて演算することにより、前記車両の走行中の排ガス量を求めることを特徴とする車両運行管理システムを使用した排ガス排出量測定方法。」

3.引用例
当審での拒絶理由に引用した引用例は次の刊行物である。
刊行物1:特開昭62-274488号公報
刊行物2:特開平3-73840号公報
刊行物3:自動車工学全書編集委員会、自動車工学全書 第5巻 ディーゼルエンジン、 p.30〜31、山海堂(昭和56年12月31日発行)

4.引用例の刊行物に記載された事項
刊行物1には、車両運行データ記録装置に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。
・「第1図は本発明の一実施例の構成図である。図において、1は車両の速度に応じたパルス信号1aを出力する第1センサ、2は前記車両におけるエンジン回転数に応じたパルス信号2aを出力する第2センサ、3は複数個のキー4が設けられ、これらキーの操作により運転者の作業内容に応じた信号3aを出力するキーボードである。」(2頁右上欄4行目〜同10行目)
・「処理部5はCPU、ROM、RAM、I/O部を備えたマイクロコンピュータで構成されている。」(2頁右上欄15行目〜同16行目)
・「信号5aには信号1a、2a、3aの各内容が含まれているほか時刻も含まれている。6は信号5aを磁気テープに記録するようにしたメモリカセットである。」(2頁右上欄17行目〜同20行目)
・「第1図においては各部が上述のように構成されているので、走行速度やエンジン回転数等の車両の動作状態が、センサ1、2および信号処理部5を介して車両運行データ信号5aとしてメモリカセット6に自動的に記録される。また運転者の作業内容に応じたキー操作をキーボード3で行うことによっても、前記作業内容が信号処理部5を介して車両運行データ信号5aとしてメモリカセット6に自動的に記録される。そうして、このように信号5aが記録されたメモリカセット6の記録内容はカセットリーダによって容易かつ正確に読み出すことができ、読み出された記憶内容には、上記から明らかなように、車両の動作状態や運転者の作業内容および時刻が含まれている。」(2頁左下欄1行目〜同14行目)
・「またセンサ1,2以外に車両の動作状態に応じた信号を出力するセンサが設けられていてもよい。」(3頁左上欄2行目〜同4行目)

刊行物2には、窒素酸化物排出量測定装置に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。
・「第2図において、1はV型エンジンであり、吸入空気は矢印で示すようにエアクリーナ2より吸気管3を通して各気筒に供給され、燃料は噴射信号Siに基づきインジェクタ4により噴射される。」(3頁左下欄13行目〜同17行目)
・「上記エアフローメータ10、吸気圧センサ12、吸気温センサ13、クランク角センサ14、水温センサ15および酸素センサ16は運転状態検出手段21を構成しており、運転状態検出手段21からの出力はコントロールユニット22に入力される。コントロールユニット22はガス量演算手段としての機能を有し、主にマイクロコンピュータにより構成され、内部のメモリに書き込まれているプログラムに従ってエンジン1の燃焼状態を制御する処理値や所定時間内に排出される排気ガス量の演算に必要な処理値を演算し、各種制御信号を出力するとともに、NOx排出量演算装置23に排気ガス量の演算値を出力する。」(3頁右下欄20行目〜4頁左上欄12行目)
・「エンジン1の運転中に、まずエアフローメータ10の出力から吸入空気量Qairを検出し、このQairとクランク角センサ14の出力に基づいて算出されるエンジン回転数Nから基本噴射量Tpを
Tp=K1・Qa/N
但し、K1:定数
なる式で演算して求め、これから最終的な燃料噴射量QFuelを
QFuel=K2×Tp
但し、K2:定数
として算出する。次いで、Qairを吸気温センサ13の出力である吸気温度によって補正してQair’とし、空気重量を算出する際の精度を上げる。その後、単位時間当たりの排気ガス量(重量)を
Qair+QFuel
mGas
但し、mGas:排気ガスの平均分子量
なる式で演算し、」(8頁右下欄3行目〜9頁左上欄1行目)

刊行物3の「2.4 エンジンの性能曲線と走行性能」には、横軸に、エンジンの回転速度をとり、縦軸に、軸出力、軸トルク、燃料消費率を示した全負荷性能曲線図(図2.15)が、また、横軸に、空気過剰率をとり、縦軸に、燃料消費率、排気煙濃度をとった部分負荷性能線図(図2.17)が、さらに、横軸に車速をとり、縦軸に、各変速比でのエンジン回転速度を示した走行性能線図(図2.19)が、示されている。

5.本願発明と引用例との対比・判断
刊行物1には、上記摘示した事項からみて、次の発明が記載されているものといえる。
「車両側には、当該車両に設けられた車両の速度に応じたパルス信号1aを出力する第1センサ1、車両におけるエンジンの回転数に応じたパルス信号2aを出力する第2センサ2、車両の動作状態に応じた信号を出力するセンサ1、2以外のセンサ、によって検出される車両の動作状態信号をコンピュータで構成される信号処理部5によって信号処理し、その出力の車両運行データ信号5aを時刻とともに自動的に記録するメモリカセット6を備えた車両運行データ記録装置を搭載し、該車両運行データ記録装置のメモリカセット6に記録された前記車両の動作状態は、カセットリーダによって読み出すようにした前記車両の走行中の動作状態を管理する方法。」

そこで、本願発明と刊行物1に記載された発明とを対比して、検討すると、
刊行物1に記載された発明の「車両運行データ記録装置」は、本願発明の「運行管理計」に相当し、刊行物1に記載された発明の「第1センサ1」、「第2センサ2」は、それぞれ本願発明の「速度センサ」、「エンジン回転数センサ」に相当する。また、刊行物1に記載された発明の「車両の動作状態に応じた信号」、「車両運行データ信号5aを時刻とともに自動的に記録する」、「メモリカセット6」、「カセットリーダ」は、それぞれ本願発明の「走行情報」、「逐次自動的に採取記録し、」、「記録手段」、「読取装置」に相当している。さらに、本願発明の「車両の走行中の排ガス量」の情報も、刊行物1に記載された発明の「車両の動作状態」の情報も、その上位概念においては、「車両の走行中の動作情報」ということができるし、刊行物1に記載された「管理する方法」は、車両の動作状態を第1センサ1、第2センサ2等によって車両の速度やエンジン回転数等を検出しているものであるから、「測定方法」ということもできるから、両者は、次の点で一致している。
〈一致点〉
「車両側には、当該車両に設けられた速度センサ、エンジン回転数センサによって検出される車両速度、エンジン回転数を走行情報として逐次自動的に採取記録する記録手段を備えた運行管理計が搭載されて、前記運行管理計の記録手段に記録された前記走行情報を読取装置を介して吸い上げて車両の走行中の動作情報を測定する方法。」

しかし、次の点で相違している。
〈相違点〉
・相違点1
走行情報として、本願発明は、「ギア位置」があるのに対し、刊行物1に記載された発明には、「車両の動作状態に応じた信号を出力するセンサ1、2以外のセンサ」とは示されているが、このようなギア位置は開示されていない点。
・相違点2
「読取装置」は、本願発明は、事務所側に設けられているのに対し、刊行物1には、どこに設置されているのか明示していないとともに、本願発明は、この読取装置で走行情報を吸い上げて、「別途に測定したエンジン型式と排ガス量との相関関係を示すエンジン型式毎の排ガス特性データが予め入力されているコンピュータが設けられており、このコンピュータ内において前記吸い上げた走行情報と前記エンジン型式毎の排ガス特性データとを用いて演算することにより、前記車両の走行中の排ガス量を求めること」を発明の構成要件としているのに対し、刊行物1に記載された発明には、このような構成が示されていない点。
・相違点3
「車両の走行中の動作情報を測定する方法」について、本願発明は、「車両運行管理システムを使用した排ガス排出量測定方法」であるのに対し、刊行物1に記載された発明には、このような排ガス排出量測定方法について何も記載がない点。

そこで、この相違点を検討する。
・相違点1について
刊行物3の図2.19走行性能線図から、「ギア位置」の情報は、車両速度、エンジンの回転数から得られるものであるから、発明の構成上必須の情報というものではなく、当業者が必要に応じて採用し得た事項といえる。
この点について、請求人は、当審の拒絶理由に対する意見書(平成17年10月31日付け提出のもの)において、「走行車両からの排ガス排出量を測定するにあたりましては、「車両速度とギア位置」、「エンジン回転数とギア位置」、「トルク量とギア位置」との三パターンの組み合わせの走行情報のいずれか一つを選択して使用することが必要であり、何れのパターンの走行情報を得る場合も、「ギア位置」の検出は必須不可欠であります。」と主張しているが、出願当初の明細書には、「車両からの排ガス量は、例えば車両のエンジンの型式と、車両速度と、エンジン回転数と、ギア位置またはトルク量とがわかれば決まることがわかっている。」(【0005】)、「車両からの排ガス量は、例えば自動車のエンジンの型式と、車両速度と、エンジン回転数と、ギア位置またはトルク量とがわかれば定まる。」(【0013】)、「上述の実施例においては、車両速度と、エンジン回転数と、ギア位置とを運行管理計2に入力するようにしていたが、前記ギア位置に代えて、トルク量を入力するようにしてもよい。すなわち、ギア位置センサに代えて、トルクセンサを車両3に設け、このセンサ出力を運行管理計2に入力するようにしてもよく、また、これ以外の走行情報、例えばシリンダ圧力、ノッキングセンサ、エンジン内温度、燃料噴射量、空気供給量、エンジンから出た後の酸素濃度などエンジンに関するデータを運行管理計2に入力するようにしてもよい。」(【0024】)と記載されており、「トルク量」を「ギア位置」に代えることも可能なことから、「ギア位置」が必須不可欠な構成要件ということができないし、また、審判請求書では、「ギア位置センサ1cから得られるギア位置が例えば6速であり、速度センサ1aから得られる速度が例えば時速90の場合、図2.19から2000rpmのエンジン回転数が求まります。この2000rpmの場合のエンジン排ガス流量Qexhの求め方はエンジン回転数が1800rpmの場合と同じであります。」(3頁下から6〜3行目)と主張していることからみても、車両速度とエンジンの回転数が必要であって、ギア位置が必須の構成要件であるとは認められない。さらに付記すれば、意見書では、「ギア位置」について、「車両速度とギア位置」、「エンジン回転数とギア位置」、「トルク量とギア位置」との三パターンの組み合わせの走行情報を得るために必要であるとしているが、このような「三パターンの組み合わせの走行情報」は、当初明細書に記載されていない走行情報であり、新規事項であるともいえる。
以上のとおりであるから、ギア位置についての請求人の主張は採用することができない。
・相違点2について
事務所に設置されたコンピュータによって、運行管理計の記録手段に記録された走行情報を処理することは、例えば、特開昭59ー229691号公報、特開平2-281400号公報に示されるように周知の技術である。
また、刊行物2には、マイクロコンピュータにより構成されるコントロールユニット22に排気ガス量演算手段の機能を持たせ、エンジンの回転数N、吸入空気量Qairから燃料噴射量QFuelを演算し、その後、単位時間当たりの排気ガス量(重量)を算出するものが記載されているから、エンジン回転数から排気ガス量が算出し得ること、刊行物3には、図2.15からL6、13.3l、無過給直接噴射エンジンのエンジン回転数と燃料消費率との関係が、図2.17から燃料消費率と排気煙濃度との関係が、示されていること、エンジンの排ガス特性は、例えば、排気量1300ccのエンジン、排気量3000ccのエンジン、ディーゼルエンジン等のエンジン型式によって異なることは明らかであること、刊行物1記載の車両運行データ記録装置(運行管理計)には既に、エンジン回転数、車速等の走行情報を記録する構成を備えていること、コンピュータ処理によって各種情報を多面的に利用することが普通に行われていること、からみて、運行管理計に記録された車両速度、エンジンの回転数等の走行情報を、コンピュータ処理することによって、排ガス量の測定に適用することは容易に想到し得たものいえるし、その処理のために別途測定した処理用のデータ(エンジン型式と排ガス量との相関関係を示すエンジン型式毎の排ガス特性データ)をコンピュータに予め入力しておくことは当然のことにすぎない。
・相違点3について
相違点1、2で検討したように、刊行物1に記載されている車両運行データ記録装置(運行管理計)は、既にエンジン回転数、車速等の走行情報を記録しており、刊行物2、3に記載された事項に基づいて、この運行管理計を利用して排ガス排出量を測定することは、当業者が容易になし得たものといえるから、車両の動作情報のうち注目する情報(排ガス排出量の測定)に発明を特定することは当業者が容易になし得たものといえる。

そして、本願発明の効果も、刊行物1ないし3に記載された発明及び周知技術から、当業者が予測し得たものといえる。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1ないし3に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-12-26 
結審通知日 2006-01-10 
審決日 2006-02-01 
出願番号 特願平6-234392
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大河原 裕  
特許庁審判長 小椋 正幸
特許庁審判官 長浜 義憲
櫻井 康平
発明の名称 車両運行管理システムを使用した排ガス排出量測定方法  
代理人 藤本 英夫  

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