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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1135453
審判番号 不服2004-6323  
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-04-05 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-03-30 
確定日 2006-04-27 
事件の表示 特願2000-286163「シリコンウェーハの熱処理方法及びシリコンウェーハ」拒絶査定不服審判事件〔平成14年4月5日出願公開、特開2002-100584〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年9月20日の出願であって、平成16年2月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月30日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年4月1日付けで手続補正がなされ、その後、当審において、平成17年4月22日付けで審尋がなされ、同年7月11日に回答書が提出されたものである。

2.平成16年4月1日付けの手続補正について
[補正却下の決定の結論]
平成16年4月1日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)手続補正の内容
平成16年4月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、明細書の特許請求の範囲を次のとおりに補正するとともに、0010段落を補正するものである。
「 【請求項1】 空孔型点欠陥が支配的に存在する領域からなるシリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコンウェーハの熱処理方法であって、
熱処理の温度をT(℃)とすると共に熱処理の時間をS(秒)としたとき、以下の関係式;
S≧-2.9T+3490(S>0)
を満たす温度T及び時間Sで前記シリコンウェーハをアルゴンガス、窒素ガス及びこれらの混合ガス等の雰囲気ガス中で熱処理することを特徴とするシリコンウェーハの熱処理方法。
【請求項2】 熱処理により表面に無欠陥層が形成されたシリコンウェーハであって、
請求項1に記載のシリコンウェーハの熱処理方法により前記熱処理が施されたことを特徴とするシリコンウェーハ。」

(2)本件補正についての検討
(2-1)補正事項の整理
・補正事項1
補正前の請求項1の「雰囲気ガス」を、「アルゴンガス、窒素ガス及びこれらの混合ガス等の雰囲気ガス」と補正する。
・補正事項2
明細書の0010段落の「雰囲気ガス」を、「アルゴンガス、窒素ガス及びこれらの混合ガス等の雰囲気ガス」と補正する。

(2-2)補正の目的の適否・新規事項の有無について
本願の願書に最初に添付した明細書の0013段落には、「アルゴンガス、窒素ガス及びこれらの混合ガス等の雰囲気ガス」を用いることが明記されているから、補正事項1は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
しかし、補正事項1は、請求項1に係る発明の構成において、「雰囲気ガス」の成分を、一見、「アルゴンガス、窒素ガス及びこれらの混合ガス」に限定しているようであるが、「等」という記載により、「アルゴンガス、窒素ガス及びこれらの混合ガス」以外の任意のガスである場合も含むものとなっているから、実質的に特許請求の範囲を減縮するものではない。
なお、補正事項2は、補正事項1に整合させて、発明の詳細な説明の欄を補正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

(2-3)独立特許要件について
上記(2-2)のとおり、補正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものではなく不適法であるが、仮に、補正事項1が特許請求の範囲の減縮に該当するものとして、以下に独立特許要件についても検討する。

(2-3-1)本件補正後の発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、上記2.(1)に示した請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

(2-3-2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本件の出願前に頒布された刊行物である特開2000-109395号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】 チョクラルスキー法によって引き上げられた単結晶から製造されたシリコン単結晶ウエハであって、該ウエハ表面に現れるボイドのサイズ分布が、下記条件:ウエハ表面におけるボイドサイズ0.1μm以上のボイド数をボイド総数とし、ボイドサイズ0.1μm以上0.15μm以下のボイド数が、ボイド総数の85%以上、及びボイドサイズ0.20μm以上のボイドが実質的に存在しないことを満たすことを特徴とするシリコン単結晶ウエハ。
【請求項2】 ウエハ表面におけるボイドサイズ0.1μm以上のボイド数をボイド総数とし、ボイドサイズ0.1μm以上0.15μm以下のボイド数が、ボイド総数の85%以上を占め、かつボイドサイズ0.20μm以上のボイドが実質的に存在しないシリコン単結晶ウエハに、
不活性ガス、還元性ガス若しくはこれらの混合ガス雰囲気中、または真空中で、処理温度1100℃以上、かつ、(100/(処理温度-1000℃))×60分以上の処理時間の熱履歴を与えることにより得られ、その酸化膜耐圧が、12MV/cm以上であることを特徴とするシリコン単結晶ウエハ。」(特許請求の範囲の請求項1及び2)
「【請求項7】 ウエハ表面におけるサイズ0.1μm以上のボイド数をボイド総数とし、0.1μm以上0.15μm以下のボイド数が、ボイド総数の85%以上を占め、かつサイズ0.2μm以上のボイドが実質的に存在しないシリコン単結晶ウエハを、不活性ガス、還元性ガス若しくはそれらの混合ガス雰囲気中、または真空中で、処理温度1100℃以上、かつ、(100/(処理温度-1000℃))×60分以上の処理時間、熱処理することを特徴とするシリコン単結晶ウエハの製造方法。
【請求項8】 前記雰囲気ガスが水素、一酸化炭素、アルゴン、ヘリウム、窒素からなる少なくとも1種のガスであることを特徴とする請求項7に記載されたシリコン単結晶ウエハの製造方法。」(特許請求の範囲の請求項7及び8)
「【0002】
【従来の技術】近年、半導体製造工業分野においては、デバイスの高集積化、微細化が進行し、その結果、半導体基板であるシリコン単結晶ウエハに関してもより高度品質のものが要求されるようになってきている。従来、シリコン単結晶ウエハには、一般にCOP(クリスタル、オリジネーテッド、パーティクル)と呼ばれている微細なボイドが存在することが知られている。このCOP(ボイド)がウエハ表面に多数存在すると、該ウエハから製作した製品デバイスの性能に、例えば、酸化膜耐圧特性を劣化させる等の悪影響を及ぼすため、ボイドの存在が問題となっている。
【0003】このシリコン単結晶中に発生するボイドの数(ボイド発生密度)を低減させるための研究開発も精力的に進められ、従前に比較してシリコン単結晶中に発生するボイドは最近ではかなり低減されてきている。しかしながら、今日、ボイドの発生を完全に抑止する技術はもちろん、充分に満足すべき密度にまでボイドを低減できる技術も開発されていない。
【0004】ところで、このCOPと呼ばれるボイドは、通常単結晶育成時に生成し、一般に0.05乃至0.5μm程度のサイズで単結晶ウエハ中に分布する結晶欠陥である。このボイド(COP)の生成原因は、未だ明瞭には解明されていないが、一般に、上記チョクラルスキー法等によってシリコン単結晶を引き上げる時の引き上げ速度によって、その発生数やサイズが変化することが知られている。
【0005】即ち、単結晶の引上速度が速いと、COPサイズは小さくなるがその発生数は増加し、逆に引上速度が遅いと、数は少なくなるがサイズは大きくなることが知られている。そのため、発生するCOP(ボイド)数の低減は、上記引き上げ速度を可能な限り遅くすることで達成できると考えられ、今までの研究開発は、ほとんどが引き上げ速度を可能な限り遅くする方向で進められていた。
【0006】なお、COP(ボイド)は、空孔型の結晶欠陥であることから、OSF(オキシデーション、インディュースド、スタッキング、フォルト)リング(OSF欠陥がリング状に集まった状態のリング状欠陥)の内側に発生する傾向がある。発生するOSFリングの大きさ(半径)は、上記引上速度と相関性があり、低速で引上るほどリング半径は小さくなる傾向がある。ボイド密度低減を、引き上げ速度の低速化により達成しようとする上記の試みは、引き上げ速度を低速化するに伴い、OSFリング半径が小さくなり、ボイド発生面積が縮小することを利用したものである。
【0007】一方、シリコン単結晶の引き上げ速度を速め、発生するCOP(ボイド)数の低減を図る研究は、引き上げ速度を速めた場合、上記したようにCOP(ボイド)数が増加するという理由以外に、引き上げの高速化に伴い単結晶が切れる等の不都合が生じ易く、また理由は未だ不明であるが、このような高速引き上げ単結晶から得られたウエハは、ウエハとして非常に重要な物性である酸化膜耐圧が低下することが知られていたため、なされていなかった。」(0002段落〜0007段落)
「【0010】
【発明が解決しようとする課題】上記したように、今までの研究開発、即ち、前記引き上げ速度を可能な限り遅くする方法によって、COP(ボイド)の発生数を少なくすることができた。しかし、COP(ボイド)を完全に発生を抑止することができず、しかも、発生したCOPのサイズは0.2μmを越える大きなものとなり、製品デバイスの性能に不都合を招くものであった。また、COP(ボイド)は、高温熱処理等の高温加熱下で収縮し、そのサイズを減じることが知られているが、0.2μmを越える大きなものは、後の処理で消滅させることは困難であった。
【0011】本発明者等は、敢えてシリコン単結晶の引き上げ速度を速め、引き上げ速度を速めることによる、COP(ボイド)の発生数が多くなる等の弊害が発生することを是認した上で、生成するボイドのサイズを微小化し、微小化したボイドを消滅させる研究に着手し、種々の研究を重ねた。」(0010段落〜0011段落)

これらの記載事項によれば、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「チョクラルスキー法によって引き上げられた単結晶から製造されたシリコン単結晶ウエハであって、ウエハ表面におけるサイズ0.1μm以上のボイド数をボイド総数とし、サイズ0.1μm以上0.15μm以下のボイド数が、ボイド総数の85%以上を占め、かつサイズ0.2μm以上のボイドが実質的に存在しないシリコン単結晶ウエハを、
アルゴン、窒素からなる少なくとも1種のガス雰囲気中で、処理温度1100℃以上、かつ、(100/(処理温度-1000℃))×60分以上の処理時間、熱処理することを特徴とするシリコン単結晶ウエハの製造方法。」

(2-3-3)対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「チョクラルスキー法によって引き上げられた単結晶から製造されたシリコン単結晶ウエハ」は、本願補正発明の「シリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコンウェーハ」に相当する。
引用発明は「熱処理することを特徴とするシリコン単結晶ウエハの製造方法」であるから、引用発明の「処理温度」、「処理時間」及び「製造方法」は、本願補正発明の「熱処理の温度(T)」、「熱処理の時間(S)」及び「熱処理方法」にそれぞれ相当する。
引用発明の「アルゴン、窒素からなる少なくとも1種のガス雰囲気中」は、本願補正発明の「アルゴンガス、窒素ガス及びこれらの混合ガス等の雰囲気ガス中」に相当する。
また、引用発明の「(100/(処理温度-1000℃))×60分以上の処理時間」は、「処理温度」と「処理時間」との関係式であると言えるから、本願補正発明の「以下の関係式;S≧-2.9T+3490(S>0)」と、熱処理の温度と熱処理の時間との「所定の関係式」であるという点で共通するものである。

よって、本願補正発明と引用発明とは、
「シリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコンウェーハの熱処理方法であって、
熱処理の温度をTとすると共に熱処理の時間をSとしたとき、所定の関係式を満たす温度T及び時間Sで前記シリコンウェーハをアルゴンガス、窒素ガス及びこれらの混合ガス等の雰囲気ガス中で熱処理することを特徴とするシリコンウェーハの熱処理方法。」
である点で一致し、次の点で相違している。

[相違点1]
本願補正発明においては、「空孔型点欠陥が支配的に存在する領域からなるシリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコンウェーハ」を熱処理するのに対して、引用発明においては、「チョクラルスキー法によって引き上げられた単結晶から製造されたシリコン単結晶ウエハであって、ウエハ表面におけるサイズ0.1μm以上のボイド数をボイド総数とし、サイズ0.1μm以上0.15μm以下のボイド数が、ボイド総数の85%以上を占め、かつサイズ0.2μm以上のボイドが実質的に存在しないシリコン単結晶ウエハ」を熱処理する点。

[相違点2]
本願補正発明においては、「熱処理の温度をT(℃)とすると共に熱処理の時間をS(秒)としたとき、以下の関係式;
S≧-2.9T+3490(S>0)
を満たす温度T及び時間Sで」「熱処理する」のに対して、引用発明においては、「処理温度1100℃以上、かつ、(100/(処理温度-1000℃))×60分以上の処理時間、熱処理する」点。

以下、上記の各相違点について検討する。

[相違点1について]
引用発明の「チョクラルスキー法によって引き上げられた単結晶から製造されたシリコン単結晶ウエハであって、ウエハ表面におけるサイズ0.1μm以上のボイド数をボイド総数とし、サイズ0.1μm以上0.15μm以下のボイド数が、ボイド総数の85%以上を占め、かつサイズ0.2μm以上のボイドが実質的に存在しないシリコン単結晶ウエハ」は、「チョクラルスキー法等によってシリコン単結晶を引き上げる時の引き上げ速度によって、その発生数やサイズが変化することが知られている。即ち、単結晶の引上速度が速いと、COPサイズは小さくなるがその発生数は増加し、逆に引上速度が遅いと、数は少なくなるがサイズは大きくなる」(引用例の0004段落〜0005段落参照)という原理に基づき、引用例の0011段落に記載されるように「敢えてシリコン単結晶の引き上げ速度を速め、引き上げ速度を速めることによる、COP(ボイド)の発生数が多くなる等の弊害が発生することを是認した上で、生成するボイドのサイズを微小化」することによって得られるもの、言い換えれば、サイズが微小なCOP(ボイド)を高密度に含有するシリコン単結晶ウエハである。
ここで、チョクラルスキー法によるシリコン単結晶の引き上げ速度を速くした場合において、COP(ボイド)の発生数が多くなる(密度が高くなる)ことと空孔型点欠陥が支配的に存在することとの間に強い正の相関関係があることは、本願の明細書にも「ボロンコフの理論に基づいて領域Vからなるインゴットを成長し、これから切り出したウェーハは、COP(Crystal Originated Particle:結晶に起因したパーティクル)のサイズが小さいと共に密度が高く」(0007段落)と記載されているほか、UCS半導体基盤技術研究会編、シリコンの科学、第1刷、株式会社リアライズ社、1996年6月28日、pp.177-194(以下、「周知例1」という。)に、例えば、「シリコン結晶に含まれるGrown-in欠陥のタイプは,FZシリコンおよびCZシリコンに共通して結晶の成長速度により変化することが知られている。・・・成長速度がクリティカルな速度を越えると,過剰な空孔による2次欠陥・・・が形成される」(第177頁第5〜12行)と記載され、また、第177頁の表1に、空孔型点欠陥が支配的な領域(V dominant region)での欠陥のタイプは、CZシリコンではCOP等であることが示されているように、当該技術分野において周知である。
一方、チョクラルスキー法によるシリコン単結晶の引き上げにおいて、COP(ボイド)の発生数(密度)とサイズとの間に負の相関関係があることも、引用例に、「単結晶の引上速度が速いと、COPサイズは小さくなるがその発生数は増加し、逆に引上速度が遅いと、数は少なくなるがサイズは大きくなる」(0005段落)と記載されているほか、周知例1に、「COP・・・の密度を低下させた時に,それらのサイズは大きくなる」(第193頁第3行)と記載され、また、干川圭吾編、アドバンスト エレクトロニクスI-4 バルク結晶成長技術、初版、株式会社培風館、1994年5月20日、pp.60-70(以下、「周知例2」という。)に、「引上げ速度が速いほどCOPの平均サイズが小さく,数は多い」(第66頁第4行)と記載されているように、当該技術分野において周知であるから、結局、空孔型点欠陥が支配的に存在する領域(領域V)からなるシリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコンウェーハは、サイズが小さいCOP(ボイド)を高密度に含むものとなっていることは、当業者にとっての技術常識である。
そして、本願の明細書にも、「空孔型点欠陥が支配的に存在する領域からなるシリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコンウェーハ」が、このような技術常識から外れて、サイズが小さいCOP(ボイド)を含むものではないとする記載を見いだすことはできない。
したがって、引用発明における、「ウエハ表面におけるサイズ0.1μm以上のボイド数をボイド総数とし、サイズ0.1μm以上0.15μm以下のボイド数が、ボイド総数の85%以上を占め、かつサイズ0.2μm以上のボイドが実質的に存在しない」こと、すなわち、ボイドのサイズが所定の大きさ以下であることをもって規定されたシリコン単結晶ウエハ中の欠陥の分布状態を、これと実質的に同等の状態を表す、空孔型点欠陥の数が多い(空孔型点欠陥が支配的である)ことをもって規定するように変更することは、当業者が適宜なし得たものである。

[相違点2について]
引用発明の「処理温度1100℃以上、かつ、(100/(処理温度-1000℃))×60分以上の処理時間、熱処理する」ことにおいて、例えば、「処理温度」を『1100℃』とすると、「処理時間」は『(100/(1100℃-1000℃))×60分以上=60分以上』、すなわち、『3600秒以上』となる。
一方、本願補正発明の「S(秒)≧-2.9T(℃)+3490(S>0)」のT(熱処理の温度)に、上記の『1100℃』を代入すると、『S(秒)≧-2.9×1100(℃)+3490=300(秒)』となり、「熱処理の温度(T)」が1100℃の場合には、「熱処理の時間(S)」は『300秒以上の任意の時間』となる。
そして、引用発明における処理温度1100℃の場合の処理時間である『3600秒以上』が、本願補正発明の熱処理の温度1100℃の場合の熱処理の時間である『300秒以上の任意の時間』の範囲に含まれることは明らかであるから、引用発明の「処理温度1100℃以上、かつ、(100/(処理温度-1000℃))×60分以上の処理時間、熱処理する」ことは、本願補正発明の「熱処理の温度をT(℃)とすると共に熱処理の時間をS(秒)としたとき、以下の関係式;
S≧-2.9T+3490(S>0)
を満たす温度T及び時間Sで」「熱処理する」ことに含まれる部分を有しているので、相違点2は実質的な相違点ではない。

したがって、本願補正発明は、引用例に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、その特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(2-4)本件補正についての検討のむすび
上記(2-2)のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項に規定されるいずれの事項を目的とするものではなく、仮に、同項に規定される事項を目的とするものであったとしても、上記(2-3)のとおり、同条第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明

(3-1)本願発明の認定
平成16年4月1日付けの手続補正は上記2.のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、本願の願書に最初に添付された明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「空孔型点欠陥が支配的に存在する領域からなるシリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコンウェーハの熱処理方法であって、
熱処理の温度をT(℃)とすると共に熱処理の時間をS(秒)としたとき、以下の関係式;
S≧-2.9T+3490(S>0)
を満たす温度T及び時間Sで前記シリコンウェーハを雰囲気ガス中で熱処理することを特徴とするシリコンウェーハの熱処理方法。」

(3-2)引用例
前出の引用例には、上記(2-3-2)に示したとおりの事項が記載され、上記引用発明が記載されている。

(3-3)対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「チョクラルスキー法によって引き上げられた単結晶から製造されたシリコン単結晶ウエハ」は、本願発明の「シリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコンウェーハ」に相当する。
引用発明は「熱処理することを特徴とするシリコン単結晶ウエハの製造方法」であるから、引用発明の「処理温度」、「処理時間」及び「製造方法」は、本願発明の「熱処理の温度(T)」、「熱処理の時間(S)」及び「熱処理方法」にそれぞれ相当する。
引用発明の「アルゴン、窒素からなる少なくとも1種のガス雰囲気中」は、本願発明の「雰囲気ガス中」に相当する。
また、引用発明の「(100/(処理温度-1000℃))×60分以上の処理時間」は、「処理温度」と「処理時間」との関係式であると言えるから、本願発明の「以下の関係式;S≧-2.9T+3490(S>0)」と、熱処理の温度と熱処理の時間との「所定の関係式」であるという点で共通するものである。

よって、本願発明と引用発明とは、
「シリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコンウェーハの熱処理方法であって、
熱処理の温度をTとすると共に熱処理の時間をSとしたとき、所定の関係式を満たす温度T及び時間Sで前記シリコンウェーハを雰囲気ガス中で熱処理することを特徴とするシリコンウェーハの熱処理方法。」
である点で一致し、次の点で相違している。

[相違点1]
本願発明においては、「空孔型点欠陥が支配的に存在する領域からなるシリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコンウェーハ」を熱処理するのに対して、引用発明においては、「チョクラルスキー法によって引き上げられた単結晶から製造されたシリコン単結晶ウエハであって、ウエハ表面におけるサイズ0.1μm以上のボイド数をボイド総数とし、サイズ0.1μm以上0.15μm以下のボイド数が、ボイド総数の85%以上を占め、かつサイズ0.2μm以上のボイドが実質的に存在しないシリコン単結晶ウエハ」を熱処理する点。

[相違点2]
本願発明においては、「熱処理の温度をT(℃)とすると共に熱処理の時間をS(秒)としたとき、以下の関係式;
S≧-2.9T+3490(S>0)
を満たす温度T及び時間Sで」「熱処理する」のに対して、引用発明においては、「処理温度1100℃以上、かつ、(100/(処理温度-1000℃))×60分以上の処理時間、熱処理する」点。

以下、上記の各相違点について検討する。

[相違点1について]
引用発明の「チョクラルスキー法によって引き上げられた単結晶から製造されたシリコン単結晶ウエハであって、ウエハ表面におけるサイズ0.1μm以上のボイド数をボイド総数とし、サイズ0.1μm以上0.15μm以下のボイド数が、ボイド総数の85%以上を占め、かつサイズ0.2μm以上のボイドが実質的に存在しないシリコン単結晶ウエハ」は、「チョクラルスキー法等によってシリコン単結晶を引き上げる時の引き上げ速度によって、その発生数やサイズが変化することが知られている。即ち、単結晶の引上速度が速いと、COPサイズは小さくなるがその発生数は増加し、逆に引上速度が遅いと、数は少なくなるがサイズは大きくなる」(引用例の0004段落〜0005段落参照)という原理に基づき、引用例の0011段落に記載されるように「敢えてシリコン単結晶の引き上げ速度を速め、引き上げ速度を速めることによる、COP(ボイド)の発生数が多くなる等の弊害が発生することを是認した上で、生成するボイドのサイズを微小化」することによって得られるもの、言い換えれば、サイズが微小なCOP(ボイド)を高密度に含有するシリコン単結晶ウエハである。
ここで、チョクラルスキー法によるシリコン単結晶の引き上げ速度を速くした場合において、COP(ボイド)の発生数が多くなる(密度が高くなる)ことと空孔型点欠陥が支配的に存在することとの間に強い正の相関関係があることは、本願の明細書にも「ボロンコフの理論に基づいて領域Vからなるインゴットを成長し、これから切り出したウェーハは、COP(Crystal Originated Particle:結晶に起因したパーティクル)のサイズが小さいと共に密度が高く」(0007段落)と記載されているほか、上記周知例1に、例えば、「シリコン結晶に含まれるGrown-in欠陥のタイプは,FZシリコンおよびCZシリコンに共通して結晶の成長速度により変化することが知られている。・・・成長速度がクリティカルな速度を越えると,過剰な空孔による2次欠陥・・・が形成される」(第177頁第5〜12行)と記載され、また、第177頁の表1に、空孔型点欠陥が支配的な領域(V dominant region)での欠陥のタイプは、CZシリコンではCOP等であることが示されているように、当該技術分野において周知である。
一方、チョクラルスキー法によるシリコン単結晶の引き上げにおいて、COP(ボイド)の発生数(密度)とサイズとの間に負の相関関係があることも、引用例に、「単結晶の引上速度が速いと、COPサイズは小さくなるがその発生数は増加し、逆に引上速度が遅いと、数は少なくなるがサイズは大きくなる」(0005段落)と記載されているほか、周知例1に、「COP・・・の密度を低下させた時に,それらのサイズは大きくなる」(第193頁第3行)と記載され、また、上記周知例2に、「引上げ速度が速いほどCOPの平均サイズが小さく,数は多い」(第66頁第4行)と記載されているように、当該技術分野において周知であるから、結局、空孔型点欠陥が支配的に存在する領域(領域V)からなるシリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコンウェーハは、サイズが小さいCOP(ボイド)を高密度に含むものとなっていることは、当業者にとっての技術常識である。
そして、本願の明細書にも、「空孔型点欠陥が支配的に存在する領域からなるシリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコンウェーハ」が、このような技術常識から外れて、サイズが小さいCOP(ボイド)を含むものではないとする記載を見いだすことはできない。
したがって、引用発明における、「ウエハ表面におけるサイズ0.1μm以上のボイド数をボイド総数とし、サイズ0.1μm以上0.15μm以下のボイド数が、ボイド総数の85%以上を占め、かつサイズ0.2μm以上のボイドが実質的に存在しない」こと、すなわち、ボイドのサイズが所定の大きさ以下であることをもって規定されたシリコン単結晶ウエハ中の欠陥の分布状態を、これと実質的に同等の状態を表す、空孔型点欠陥の数が多い(空孔型点欠陥が支配的である)ことをもって規定するように変更することは、当業者が適宜なし得たものである。

[相違点2について]
引用発明の「処理温度1100℃以上、かつ、(100/(処理温度-1000℃))×60分以上の処理時間、熱処理する」ことにおいて、例えば、「処理温度」を『1100℃』とすると、「処理時間」は『(100/(1100℃-1000℃))×60分以上=60分以上』、すなわち、『3600秒以上』となる。
一方、本願発明の「S(秒)≧-2.9T(℃)+3490(S>0)」のT(熱処理の温度)に、上記の『1100℃』を代入すると、『S(秒)≧-2.9×1100(℃)+3490=300(秒)』となり、「熱処理の温度(T)」が1100℃の場合には、「熱処理の時間(S)」は『300秒以上の任意の時間』となる。
そして、引用発明における処理温度1100℃の場合の処理時間である『3600秒以上』が、本願発明の熱処理の温度1100℃の場合の熱処理の時間である『300秒以上の任意の時間』の範囲に含まれることは明らかであるから、引用発明の「処理温度1100℃以上、かつ、(100/(処理温度-1000℃))×60分以上の処理時間、熱処理する」ことは、本願発明の「熱処理の温度をT(℃)とすると共に熱処理の時間をS(秒)としたとき、以下の関係式;
S≧-2.9T+3490(S>0)
を満たす温度T及び時間Sで」「熱処理する」ことに含まれる部分を有しているので、相違点2は実質的な相違点ではない。

したがって、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願は、請求項2に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-02-27 
結審通知日 2006-02-28 
審決日 2006-03-13 
出願番号 特願2000-286163(P2000-286163)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 572- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮崎 園子  
特許庁審判長 松本 邦夫
特許庁審判官 瀧内 健夫
河合 章
発明の名称 シリコンウェーハの熱処理方法及びシリコンウェーハ  
代理人 志賀 正武  
代理人 江口 昭彦  
代理人 高橋 詔男  
代理人 村山 靖彦  
代理人 青山 正和  

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