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審決分類 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない B29C
審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正しない B29C
管理番号 1141096
審判番号 訂正2004-39208  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-03-30 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2004-08-30 
確定日 2006-08-11 
事件の表示 特許第3116143号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3116143号は、平成3年9月21日の出願に係り、平成12年10月6日に設定登録されたものであって、その後、異議申立人島田妙子により、平成13年5月18日付けで、また、異議申立人氏原さちにより、平成13年6月6日付けで特許異議の申し立てがなされ、平成15年3月17日付けで「訂正を認める。特許第3116143号の請求項1に係る特許を取り消す。」との異議決定がなされ、平成15年5月1日に、東京高等裁判所にこの決定の取消を求める訴えがなされたものであり(平成15年(行ケ)179号)、訴えが東京高等裁判所に提起された後、平成15年8月21日付けで訂正審判の請求がなされ(訂正2003-39173号)、その後該請求が取り下げられ、平成16年1月15日付けで再度訂正審判の請求がなされ(訂正2004-39016号)、その後該請求も取り下げられ、平成16年8月30日付けで本件訂正審判の請求がなされ、これに対して、平成16年11月26日付け(発送日平成16年11月30日)で、訂正拒絶理由が通知され、指定期間内である平成16年12月27日付けで意見書と手続補正書とが提出されたものである。

2.審判請求書の補正の適否
上記平成16年12月27日付け手続補正書による手続補正は、特許第3116143号発明の明細書を、本件審判請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正するというものを、平成16年12月27日付け手続補正書に添付した訂正明細書のとおりに訂正すると補正するものである。

具体的には、該補正は、特許請求の範囲の請求項1を、
「ポリイミド系樹脂と導電性微粉末とを含有し、且つ遠心成形法により得られる単層の転写ベルトとして使用するシームレスベルトであって、該ベルトの各部における体積電気抵抗値が1〜1013Ω・cmの範囲で、且つ体積電気抵抗値の最大値が最小値の1〜10倍の範囲にあり、引張強度が導電性微粉末を含有しないシームレスベルトに比較して75%以上の値を有するものであり、遠心成形前の前記ポリイミド系樹脂と導電性微粉末とからなる混合された液状原材料の粘度が50〜4000cpであり、表面から電荷をかけて内表面にアースを取り、また内表面から電荷をかけることが可能なことを特徴とするシームレスベルト。」
と訂正することから、
「ポリイミド系樹脂と導電性微粉末とを含有し、且つ遠心成形法により得られる単層転写ベルトとして使用するシームレスベルトであって、該ベルトの各部における体積電気抵抗値が1〜1013Ω・cmの範囲で、且つ体積電気抵抗値の最大値が最小値の1〜10倍の範囲にあり、引張強度が導電性微粉末を含有しないシームレスベルトに比較して75%以上の値を有するものであり、遠心成形前の前記ポリイミド系樹脂と導電性微粉末とからなる混合された液状原材料の粘度が50〜4000cpであり、表面から電荷をかけて内表面にアースを取り、また内表面から電荷をかけることが可能な単層転写ベルトとして使用することを特徴とするシームレスベルト。」
と訂正することに補正することを含むものである。(下線は、補正により変更された事項を明確にするために付したものである。)

そこで、この補正が、訂正事項を変更するものであるか、以下検討する。
本件審判請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲についての訂正事項は、i.「遠心成形法により得られるシームレスベルト」を、「遠心成形法により得られる単層の転写ベルトとして使用するシームレスベルト」と限定する訂正事項と、ii.文末の「シームレスベルト」を、「表面から電荷をかけて内表面にアースを取り、また内表面から電荷をかけることが可能なことを特徴とするシームレスベルト」と限定する訂正事項を含むものである。
そして、該訂正事項は、iについて言えば、その「単層の」という語句が、構文上「転写ベルト」、「シームレスベルト」のいずれにも係り得るものであるので、「(他の層を伴う多層の)転写ベルト」に用いる「単層のシームレスベルト」を包含するとも、「単層の転写ベルト」に用いる「(したがって単層の)シームレスベルト」のみを包含するとも、いずれにも解釈可能なものである。
また、該訂正事項は、iiについて言えば、「シームレスベルト」を対象として、その電気的性質を機能的に限定するだけのものであるのか、「転写ベルトとして使用する」との記載を勘案したとき、これが、「転写ベルト」を使用態様について限定するものであって、この要件を満たさない転写ベルトとしてのシームレスベルトの使用を排除するものであるのか、いずれにも解釈可能なものである。
一方、補正に係る訂正事項は、上記iに対応する部分は、「遠心成形法により得られる単層転写ベルトとして使用するシームレスベルト」であって、構文上「単層」が「転写ベルト」に係ることが明らかなものであり、「単層の転写ベルト」に用いる「(したがって単層の)シームレスベルト」のみを包含するものである。
又、上記iiに対応する部分は、「表面から電荷をかけて内表面にアースを取り、また内表面から電荷をかけることが可能な単層転写ベルトとして使用することを特徴とするシームレスベルト」であって、「表面から電荷をかけて内表面にアースを取り、また内表面から電荷をかけることが可能な」が「単層転写ベルト」に係ることが明らかなものであり、「シームレスベルト」としては可能であっても、「転写ベルト」としての使用にあたって、「表面から電荷をかけて内表面にアースを取り、また内表面から電荷をかけることが可能」でない使用を排除するものである。
してみると、この補正は、訂正事項を実質的に変更するものであるので、この手続補正は、審判請求書の要旨を変更するものである。
したがって、上記手続補正は、特許法第131条の2第1項の規定に適合しないので、認めない。

3.請求の趣旨及び訂正事項a
上記2のとおり、上記手続補正書による手続補正は認められないので、本件訂正審判の請求の趣旨は、特許第3116143号発明の明細書を審判請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものである。
そして、本件訂正審判に係る訂正事項の内、訂正事項aは、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1を次のように訂正しようとするものである。

[訂正事項a]
特許請求の範囲の請求項1
「ポリイミド系樹脂と導電性微粉末とを含有し、且つ遠心成形法により得られるシームレスベルトであって、ベルトの各部における体積電気抵抗値が1〜1013Ω・cmの範囲にあり、体積電気抵抗値の最大値が最小値の1〜10倍の範囲にあることを特徴とするシームレスベルト。」
を、
「ポリイミド系樹脂と導電性微粉末とを含有し、且つ遠心成形法により得られる単層の転写ベルトとして使用するシームレスベルトであって、該ベルトの各部における体積電気抵抗値が1〜1013Ω・cmの範囲で、且つ体積電気抵抗値の最大値が最小値の1〜10倍の範囲にあり、引張強度が導電性微粉末を含有しないシームレスベルトに比較して75%以上の値を有するものであり、遠心成形前の前記ポリイミド系樹脂と導電性微粉末とからなる混合された液状原材料の粘度が50〜4000cpであり、表面から電荷をかけて内表面にアースを取り、また内表面から電荷をかけることが可能なことを特徴とするシームレスベルト。」と訂正する。

訂正事項aは、次の訂正事項を含むものである。
1)「且つ遠心成形法により得られるシームレスベルトであって」を、「且つ遠心成形法により得られる単層の転写ベルトとして使用するシームレスベルトであって」に訂正。
2)「引張強度が導電性微粉末を含有しないシームレスベルトに比較して75%以上の値を有する」点を付加。
3)「遠心成形前の前記ポリイミド系樹脂と導電性微粉末とからなる混合された液状原材料の粘度が50〜4000cp」である点を付加。
4)「表面から電荷をかけて内表面にアースを取り、また内表面から電荷をかけることが可能なこと」を付加。

4.訂正拒絶理由の概要
一方、平成16年11月26日付けで当審が通知した訂正拒絶理由の概要は、本件訂正審判の請求は、次の理由A〜Cで平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び、同第3項の規定に適合しないというものである。

[訂正拒絶理由A]
(改正前の特許法第126条第1項ただし書違反:その1.目的制限違反)
この訂正は、特許請求の範囲を不明りょうとするものであるので、特許請求の範囲の減縮を目的としたものとは言えない。
また、この訂正は、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明を目的とするものともいえない。

[訂正拒絶理由B]
(改正前の特許法第126条第1項ただし書違反:その2.新規事項の追加)
請求人が主張するように、「単層の」が「転写ベルト」を修飾すると解した場合、願書に添付した明細書又は図面には「単層の転写ベルト」は記載されておらず、また、転写ベルトであれば、単層であることが自明であると言うこともできない。さらに、請求人が主張するように、明細書に、静電転写方式という特定の転写方式に用いる転写ベルトを意味するものとして、「表面から電荷をかけて内表面にアースを取り、また内表面から電荷をかけることが可能な転写ベルト」が記載されているとも言えないので、本件訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

[訂正拒絶理由C]
(改正前の特許法第126条第3項違反:独立特許要件)
「単層の」が「シームレスベルト」を修飾すると解した場合、訂正事項aは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許請求の範囲の減縮を目的としたものと解することができるが、この場合、本件訂正に係る請求項1の発明は、本件特許出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正発明は、特許法第29条第2項の規定により、出願の際独立して特許を受けることができないものである。

以下、訂正拒絶理由A〜Cについて検討する。

5.訂正拒絶理由Aについて
5-1.上記訂正事項aの、訂正事項1)に係る「単層の」という語句は、構文上「転写ベルト」、「シームレスベルト」のいずれにも係り得るものであるので、「転写ベルト」を修飾して限定するものか、「シームレスベルト」を修飾して限定するものか、いずれであるか不明りょうであり、本件訂正に係る請求項1の発明(以下「本件訂正発明」という。)を明確に把握することができない。また、願書に添付した明細書及び図面には、「単層の転写ベルト」も「単層のシームレスベルト」も明示的に記載されていないので、明細書の記載を参酌して、いずれであるか定めることもできない。
すなわち、本件訂正発明は、「(他の層を付加した多層の)転写ベルト」に用いる「単層のシームレスベルト」をも包含するものであるのか、「単層の転写ベルト」に用いる「(したがって単層の)シームレスベルト」のみを包含するものであるのか、明らかでない。
したがって、この訂正は、特許請求の範囲を不明りょうとするものであるので、特許請求の範囲の減縮を目的としたものとは言えない。
また、この訂正は、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明を目的とするものともいえない。

5-2.上記訂正事項aの、訂正事項4)に係る「表面から電荷をかけて内表面にアースを取り、また内表面から電荷をかけることが可能」という節は、転写ベルトとしての使用態様をさらに限定し、対象となる転写ベルトを実質的に下位概念化することを目的とした節か、「シームレスベルト」を対象として、その電気的性質について、これを機能的に限定することを目的とした節か、不明りょうであって、本件訂正発明を明確に把握することができない。
言い換えると、訂正事項aは、「転写ベルト」、「シームレスベルト」のいずれを対象としたものか明らかでなく、さらに「・・・が可能」と記載されているので、転写ベルトとして使用するにあたって、転写ベルトの「表面から電荷をかけて内表面にアースを取り、また内表面から電荷をかけ」る使用が可能であることが、必須の要件となっているのか、シームレスベルトの状態で「表面から電荷をかけて内表面にアースを取り、また内表面から電荷をかけることが可能」な性質を、シームレスベルトが電気的性質として有してさえいれば、シームレスベルトを加工して転写ベルトとして使用するとき、転写ベルトがその性質を有することを格別要さないのか否かも明りょうでない。
したがって、この訂正は、特許請求の範囲を不明りょうとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものと言うことはできない。
また、この訂正は、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明を目的とするものともいえない。
したがって、本件訂正請求は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書の規定に適合しない。

6.訂正拒絶理由Bについて
6-1.上述のように、訂正事項aは、特許請求の範囲を不明りょうとするものであるが、請求人は、上記訂正事項1)について、本件審判請求書で、本件の転写ベルトは単層である旨主張しているので(例えば審判請求書8ページ15〜17行参照)、「単層の」が「転写ベルト」を修飾するものであるとして、「単層の転写ベルト」が願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否か、以下、さらに検討する。

訂正事項1)に関係する記載として、願書に添付した明細書又は図面には、【0022】段落の次の記載があるが、これ以外に「転写ベルト」に触れた記載は見出せない。
「【0022】本発明に係るシームレスベルトの用途としては特に制限はないが、好ましくは複写機等の感光性ベルト(電子写真感光体)の基材、転写ベルト、定着ベルトやOA機器等各種プリンターの記録体ベルトの基材等、いわゆる機能性ベルトとして特に広範な利用が期待されている。」
上記記載によれば、「転写ベルト」は、「シームレスベルト」の用途の一つとして明細書に例示されたものであることが認められるが、明細書には「単層の転写ベルト」との明示的記載はなく、また、「転写ベルト」の構造等について個別具体的に触れた記載もない。
そこで、「単層の転写ベルト」が、自明の事項として明細書の記載より把握され得るか否かを検討する。

まず、上記【0022】段落の記載において、「基材」にかかる語の範囲は、必ずしも明りょうではなく、次のa,bの2とおりの解釈が成り立つので、これらのそれぞれについて検討する。

a)「転写ベルト、定着ベルトやOA機器等各種プリンターの記録体ベルト」が「基材」にかかると解する場合
ベルトの「基材」と記載されるとき、基材は、それ以外の層の存在を前提とした概念であるから、基材と限定された用途では、多層ベルトを、その対象とするものということができる。そして、実際、転写ベルト、定着ベルト及び記録体ベルトに多層のものがあることは、技術常識的に明らかであり(転写ベルトであれば、例えば、後述する刊行物1である特開昭56-164368号公報参照)、これらのベルトの基材として、本件シームレスベルトを用いることができないとする理由は、明細書の記載からは見出せないので、【0022】段落には、転写ベルトに関して、(多層ベルトである)転写ベルトの基材として、シームレスベルトを用いることが記載されていると解することができる。
してみると、【0022】段落には、シームレスベルトを基材に用いた多層の転写ベルトは記載されているといえるが、「単層の転写ベルト」は記載されておらず、明細書のそれ以外の部分にも、かかる転写ベルトに関する記載は見出せないので、「単層の転写ベルト」は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の事項と言うことはできない。
なお、本件特許のファミリーである、米国特許第6139784号明細書の当該箇所の記載は"substrate materials for image transfer belts, fixation belts, printer recording belts for office automation equipment, etc.,"(第4欄55〜57行)とあり、「転写ベルトのための、定着ベルトのための、OA機器等各種プリンターの記録体ベルトのための基材」と記載されているが、このことは、「転写ベルトのための基材」が明細書に開示されているとする上記解釈の妥当性を、請求人が自らの意志をもって表明していることの、一つの証左であるといえる。

b)「転写ベルト」が「基材」にかからないと解する場合
【0022】段落には、本件シームレスベルトの用途として、「基材」との限定を伴わず、「転写ベルト」と記載されていると解した場合、層構造についてそれを特定する記載は何もないので、論理上、ベルトの層構造という観点から、転写ベルトへの本件シームレスベルトの使用の態様には、次の3つのものが個別化することなく包含されている。
ケースi.シームレスベルトを単層の転写ベルトに用いる場合
ケースii.シームレスベルトを多層の転写ベルトの基材層に用いる場合
ケースiii.シームレスベルトを多層の転写ベルトの基材以外の層に用いる場合
一方、本件出願当時の技術常識を参酌すると、実際、単層の転写ベルトとともに、種々の多層の転写ベルトが存在することが技術常識として知られていたと言うことができ、具体的には、特開昭63-311263号公報に示すような単層転写ベルトとともに、後述する刊行物1である特開昭56-164368号公報や、特公昭46-41679号公報、特開昭59-77467号公報等に示すような、いわゆる押圧転写法用の多層転写ベルトや、特開昭57-8569号公報や特開昭62-156682号公報等に示すような、いわゆる静電転写法用の多層転写ベルトが知られていたから、本件明細書記載の「転写ベルト」という用語は、上記のいずれのケースも排除することなく、かつ、各個別のケースに特有の技術的事項をなんら開示することもなしに、これらの3つの態様を包含する上位概念としてのみ記載されていると解すべきである。
そして、本件シームレスベルトを、かかる多層の転写ベルトに適用できないとする格別の事情は見いだせないとともに、明細書には、転写ベルトへの本件シームレスベルトの使用が、上記3つの態様のうち、特定の1つの態様のみでなされることを自明とするに足る記載もないから、明細書は、いずれかのケースについて個別化し特定した発明を記載しているとは言えない。
したがって、ケースiを選択し、シームレスベルトの使用対象を「転写ベルト」から「単層の転写ベルト」と個別化することは、明細書に記載した事項以外のものを個別化することになるので、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正とは言えない。

結局、上記a,bのいずれであると解しても、「単層の転写ベルト」は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項ではない。

ここで、請求人は、本件シームレスベルトが単層であるのだから、当然、単層のシームレスベルトの用途である転写ベルトも単層であることは明らかである旨主張しているが、上述のように、単層のシームレスベルトを用いた多層の転写ベルトもあるので、該主張は失当である。
請求人は、又、「基材」との記載を欠くことは、「基材」としての使用を排除することを意味するので、「転写ベルト」が単層のものであることは明らかである旨主張しているが、aで述べたように、必ずしも「基材」との限定を欠くとは解せないばかりか、bで述べたように、「基材」との限定を欠くと解した場合でも、「転写ベルト」にはケースi〜iiiのものが包含されるものであり、「単層の転写ベルト」と「多層の転写ベルト」とが個別化されずに含意されるものである。
そして、請求人の主張のように、本件シームレスベルトの使用にあたって、「Aに基材と記載されていればAの基材に用いる」ことを前提として、「Bには基材と記載されていない。したがって、Bの基材には用いない」と結論することは、論理的に誤った推論(前件否定の錯誤)に基づくものであるので、「基材」という記載がないことを直接の論拠とする請求人の主張は、失当であって、採用できない。

6-2.請求人は、訂正事項4)について、本件審判請求書で、本件の転写ベルトは、「表面から電荷をかけて内表面にアースを取り、また内表面から電荷をかけることが可能」な「転写ベルト」であるから、静電転写法に使用するものである旨主張しているので(例えば審判請求書13ページ4〜10行参照)、「表面から電荷をかけて内表面にアースを取り、また内表面から電荷をかけることが可能」が、「転写ベルト」を限定して下位概念化することを目的としたものであり、この訂正事項が実質的に「転写ベルト」を「静電転写法に用いる転写ベルト」に限定しようとするものであるとして、これが願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否か以下検討する。

明細書の【0023】段落には、上記【0022】段落に続けて、次のように記載されている(【0022】段落と併せて示す)。
「【0022】本発明に係るシームレスベルトの用途としては特に制限はないが、好ましくは複写機等の感光性ベルト(電子写真感光体)の基材、転写ベルト、定着ベルトやOA機器等各種プリンターの記録体ベルトの基材等、いわゆる機能性ベルトとして特に広範な利用が期待されている。
【0023】このような機能性ベルトとして用いられる際に、本発明のものは表面から電荷をかけて内表面にアースを取ることが可能で装置そのもののコンパクト化を可能とするし、また内表面から電荷をかけることも可能で多機能性をいかんなく発揮するものである。」

【0023】段落の記載は、要するに、【0022】段落の記載を受けて、複写機等の感光性ベルト用等としての広範な用途を持つ「多機能性ベルト」の使用態様を単に例示したものであって、「本発明に係るシームレスベルトの用途としては特に制限はないが」、「多機能性ベルト」として用いるときには、必要に応じて「表面から電荷をかけて内表面にアースを取」る使い方が可能であり、又、必要に応じて「内表面から電荷をかけ」る使い方も可能であり、さらに当然の前提として、特に電荷をかけない使い方も可能であって、種々の使い方が可能であるからこそ、「多機能性をいかんなく発揮」できる旨、一般的に述べたに留まるものであり、「多機能性ベルト」の使用態様を、「表面から電荷をかけて内表面にアースを取り、また内表面から電荷をかけることが可能」な使用態様のみに制限し、このように電荷をかけることが不要あるいは不可能な用途への使用を、本件発明の対象から積極的に排除しようとする意図で記載されたものとは言えない。
すなわち、【0022】段落に例示されたベルトについて、使用法を検討すると、複写機の感光性ベルトは、表面から電荷をかけたりアースを取ったりして使用するものであり、転写ベルトは、ある種のもの(静電転写法用)は電荷をかけたりして使用するものであるが、ある種のもの(押圧転写法用)は、電荷をかける必要のないものであり、定着ベルトは、使用にあたって電荷をかける必要のないものであり、各種プリンターの記録体ベルトは、ある種のもの(例えばレーザープリンタ)は、表面から電荷をかけたりアースを取ったりして使用するものであるが、ある種のものは、特に電荷をかける必要のないものである。
そして、転写ベルトと記録体ベルトは、具体的な種類がなんら記載されていないから、使用にあたって電荷をかける必要があるとも、ないとも言えるものである。
このように、【0022】段落に例示されたベルトには、使用にあたって表面から電荷をかけたりアースを取ったりする必要のあるものと、必要のないものとが混在しているとともに、いずれの使用法でも使用可能と言えるようなベルトも混在しているが、【0023】段落の記載は、なんら制限的なものではなく、使用にあたって電荷をかけない用途を特に排除するものではないからこそ、種々の用途を例示する【0022】段落の記載と矛盾を生じることなく、記載内容を合理的に理解することができるものである。

そして、「表面から電荷をかけて内表面にアースを取」る使い方をするベルトについて検討すると、【0022】段落に具体的に例示されたもののみを対象としても、上述のとおり、少なくとも、複写機等の感光性ベルト、転写ベルトの一部、OA機器等各種プリンターの記録体ベルトの一部が該当するのであるから、【0023】段落の記載を根拠に、「表面から電荷をかけて内表面にアースを取り、また内表面から電荷をかけることが可能」なシームレスベルトが、【0022】段落記載の「転写ベルト」のみを、その対象とするものであることが自明であると言うことはできない。
また、上述のとおり、「転写ベルト」には、「表面から電荷をかけて内表面にアースを取」る使い方が必要なものも、必要でないものも含まれるので、「転写ベルト」であれば、必ず「表面から電荷をかけて内表面にアースを取」る使い方をすることは自明であると言うこともできない。
結局、【0022】〜【0023】段落に、「表面から電荷をかけて内表面にアースを取り、また内表面から電荷をかけることが可能な転写ベルト」が記載されていることは、自明であると言うことはできない。

なお、請求人は、審判請求書(14ページ5行〜16ページ16行)で、本件「転写ベルト」が単層であることを前提として、単層で、「表面から電荷をかけて内表面にアースを取」って使用することが可能なベルトは、【0022】段落に例示されたベルトとしては、唯一「転写ベルト」のみが該当するから、実質的に静電転写法に用いる転写ベルトが【0022】〜【0023】段落に記載されていることは、自明である旨主張しているが、上記6-1で述べたとおり、「転写ベルト」が単層であるという前提自体が成り立たないので、該主張は根拠に欠け、採用できない。
又、請求人は、審判請求書(18ページ4〜7行)で、「本発明の明細書上、『静電転写法』と転写法を明示した記載はないが、これは、本発明出願当時では、刊行物1のような非静電転写法を使用した複写機等はなく(現在でもない)、静電転写法が当業者間では当然のこととされていたことに起因する。」と、あたかも、「転写ベルト」といえば、「静電転写法用転写ベルト」を意味することが自明であったかのような主張をしているが、上記b-1で例示したように、本件出願当時、押圧転写法も良く知られていたのであるから、かかる主張も失当である。

6-3.以上、要するに、請求人は、【0022】〜【0023】段落の記載内容が、「表面から電荷をかけて内表面にアースを取り、また内表面から電荷をかけることが可能な単層の転写ベルト」を意味することは、自明である旨縷々主張しているが、「本発明に係るシームレスベルトの用途としては特に制限はないが」と前置きしたうえで、感光性ベルト等への用途を列記し、「このような機能性ベルトとして用いられる際に、・・・多機能性をいかんなく発揮するものである。」と結ぶ、上記【0022】〜【0023】段落の記載が、実は、「表面から電荷をかけて内表面にアースを取り、また内表面から電荷をかけることが可能な単層の転写ベルト」のみを本件シームレスベルトの用途として示すものであることが、該記載に接する当業者にとり自明であるとする主張は、主張自体に無理があるとともに、当を得ないものであることは、上述のとおりである。

したがって、「表面から電荷をかけて内表面にアースを取り、また内表面から電荷をかけることが可能な単層の転写ベルト」を、【0022】〜【0023】段落の記載から個別化することはできないので、訂正事項aは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであるとは言えない。

以上のとおりであるので、訂正事項aの内容について、請求人の主張のように解したとしてもなお、本件訂正請求は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書の規定に適合しない。

7.訂正拒絶理由Cについて
上述したように、本件訂正に係る請求項1の記載において、「単層の」という語句は、「転写ベルト」あるいは「シームレスベルト」のいずれを修飾して限定するものか不明りょうであり、また、「表面から電荷をかけて内表面にアースを取り、また内表面から電荷をかけることが可能」という節は、転写ベルトとしての使用態様をさらに限定し、対象となる転写ベルトを実質的に下位概念化することを目的とした節か、「シームレスベルト」を対象として、その電気的性質について、これを機能的に限定することを目的とした節か、不明りょうであるが、願書に添付した明細書から、単層の状態で遠心成形法により製造されるシームレスベルトが把握でき、また、このシームレスベルトは、所定の体積電気抵抗値を持つ導電性のベルトであることが把握できるので、「単層の」は「シームレスベルト」を修飾して限定するものであり、「表面から電荷をかけて内表面にアースを取り、また内表面から電荷をかけることが可能」という節は、「シームレスベルト」を対象として、その導電的な性質について、これを機能的に限定することを目的とした節であると解することが可能である。
このように解すると、訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的としたものと解することができるが、この場合、次に述べるように、本件訂正発明は、独立特許要件に欠けるものとなるので、さらに検討する。

すなわち、本件訂正に係る請求項1の発明は、以下述べるように、本件特許出願前に頒布された下記刊行物1ないし刊行物7に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正発明は、特許法第29条第2項の規定により、出願の際独立して特許を受けることができないものである。

7-1.刊行物
刊行物1:特開昭56-164368号公報(甲第1号証)
刊行物2:特開昭61-110144号公報(甲第2号証)
刊行物3:特開昭61-110519号公報(甲第3号証)
刊行物4:特開昭61-144658号公報(甲第4号証)
刊行物5:特公昭55-18447号公報(甲第5号証)
刊行物6:特開平3-89357号公報(甲8第号証)
刊行物7:特開昭62-58509号公報(甲9第号証)
(なお、甲号証の番号は、本件特許に対してなされた異議2001-71477号における、氏原さちによる異議申立書に添付された証拠の番号を示す。)

(刊行物の記載事項)
刊行物1(特開昭56-164368号公報:甲第1号証)には、図面とともに、「電荷保持体上のトナー像をトナー用中間転写体に転写し、しかる後トナー用中間転写体から複写材へ転写して永久像としてのトナー像を得る画像形成装置において、前記トナー用中間転写体の少なくともトナー像担持体面が導電性であることを特徴とするトナー用中間転写体。」(特許請求の範囲第1項)に関する発明が記載されている。
そして、発明の詳細な説明中には、この発明のトナー用中間転写体は、「無端状ベルトあるいはローラのいずれであってもよく、要はトナー担持面が導電性であればよい。このトナー担持面の電気抵抗は1010Ω・cm以下にすれば充分である。」(3ページ左下欄17〜20行)ことが記載され、実施例3として、「基体自身に導電性を与えた中間転写ベルトを構成した。基体は、重量比でポリイミドワニス3.5部、カーボンブラック1部及びN-メチルピロリドン7部を加え均一化し、これを遠心鋳造によって100℃加熱乾燥し厚み50μの中間転写ベルトとした。この基体上に実施例2と同じ転写層を同じ方法で設けた。表面の転写層の電気抵抗は107Ω・cmで、基体のそれは105Ω・cmであった」ことが記載されている(4ページ左下欄14行〜5ページ2行)。

刊行物2(特開昭61-110144号公報:甲第2号証)には、図面とともに、「導電性支持体上に誘電層を設けてなる静電記録体において、前記導電性支持体が、熱硬化性樹脂をバインダーとして導電性微粉末を分散した分散液を用いて遠心成形することにより形成されたシームレスベルトであることを特徴とする静電記録体。」(特許請求の範囲)に関する発明が記載されている。
刊行物2には、転写型静電記録装置の静電記録体について、「このような静電記録体は均一な膜厚を有するエンドレスベルト状のものであることが不可欠のものである」旨記載されているとともに(1ページ右下欄14〜16行)、刊行物2の実施例1には、静電記録体の導電性のシームレスベルトを製造する方法として、シリコーンゴムの硬化層が形成された円筒型の内面に、「東レ(株)製全芳香族ポリイミド系ワニス35gと東レ(株)製の上記ワニス用溶媒30gとの混合物中に日本イーシー社製ケッチェンブラックEC1.8gをボールミルを用いて分散した分散液を注入し、回転を1000r.p.mに上昇してから加熱し、…回転した。回転を停止し、シリコーンゴムの硬化層から剥離したポリイミド樹脂フィルムの円筒体を、外径120.4mmの円筒状のシリコーンドラムにはめ、300℃で30分加熱して硬化を完了させた。」(3ページ右上欄7〜18行)ことが記載されている。

刊行物3(特開昭61-110519号公報:甲第3号証)には、「熱硬化性樹脂溶液中に、微粉末を分散させた分散液を用いて遠心成形することにより一体成形されて成ることを特徴とする微粉末を含有するシームレスベルト。」(特許請求の範囲)に関する発明が記載されており、熱硬化性樹脂としてポリイミド樹脂が、また微粉末として、カーボンブラック、ケッチエンブラックなどの導電性微粉末があげられ、微粉末として導電性微粉末を選択すれば簡単にシームレスベルトに導電性を付与することができる旨記載されている(2ページ右上欄〜左下欄)。

刊行物4(特開昭61-144658号公報:甲第4号証)には、「導電性支持体上に、感光層を積層してなる電子写真感光体において導電性支持体が、熱硬化性樹脂をバインダーとして導電性微粉末を分散した分散液を用いて遠心成形することにより形成されたシームレスベルトであることを特徴とする電子写真感光体。」(特許請求の範囲)に関する発明が記載されており、熱硬化性樹脂として、ポリイミド樹脂が挙げられ、また導電性微粉末として、カーボンブラック、ケッチェンブラックなどが挙げられている(2ページ右上欄)。

刊行物5(特公昭55-18447号公報:甲第5号証)には、「反応させることにより固体の重合体組成物となる液状成分118重量部に対して、導電性ファーネスカーボンブラック0.5重量部以下を分散せしめた混合物に若干の添加物を混合して固化せしめてなる導電性重合体組成物。」(特許請求の範囲第1項)に関する発明が記載されており、重合体組成物としてポリイミド液状重合体組成物が例示されるとともに(2ページ4欄6〜13行)、試料A(本発明例)及び試料B(従来例)のカーボンブラック入りの導電性重合体組成物の体積抵抗値が、1.26×106Ωcm、2.72×1011Ωcmであったこと、またこれらの表面抵抗値は8.42×105Ω、1.51×1011Ωであったことが記載されている(3ページ6欄40〜44行)。
また、刊行物5には、従来技術に関して、重合体組成物に対して、多量のカーボンブラック粉末や可塑剤等、反応に何等関与しない成分を添加すると、当然に重合体組成物の物理的性能の低下を招来する旨記載されており(1ページ2欄33行〜2ページ3欄3行)、これに対して、少量のカーボンブラック粉末の添加で、物理的性能を低下させることなく、十分な導電性を重合体組成物に与える手段が開示されている。

刊行物6(特開平3-89357号公報:甲第8号証)には、「導電性カーボンを配合したポリカーボネートの継ぎ目のないチューブ状フィルムを軸方向と直角方向に所定長さに切断して得られ、フィルム各部の表面電気抵抗が105〜1013Ω/□の範囲にあり且つ表面電気抵抗の最大値に対する最小値の比が0.01以上の範囲にあることを特徴とする、継ぎ目のない半導電性ベルト。」(特許請求の範囲第1項)に関する発明が記載されている。この発明の半導電性ベルトは、押出し成形により形成され、好ましい表面電気抵抗の最大値に対する最小値の比は0.1以上であること(3ページ左下欄15〜16行)、この発明の方法により製造することにより、「表面電気抵抗値、体積電気抵抗値等のバラツキを少なくコントロールすることができ、かつ、…チューブ状フィルムの製造が可能となる。勿論電気抵抗値、表面精度、寸法精度等にこだわらない場合は、どのようにチューブ状にフィルム化しても自由であるが、複写機器等における映像機能性ベルト、メモリー機能、静電コントロール機能、搬送等に用いる場合は、上記各性能を供えることが望ましい場合が多い。」(4ページ左上欄6〜17行)ことが記載されている。

刊行物7(特開昭62-58509号公報:甲第9号証)には、抵抗値の均一な導電性プラスチックとして、「合成樹脂100重量部に対してカーボンブラック3乃至100重量部を添加した樹脂組成物を主成分とする導電性プラスチックフィルムであって、該フィルムの平均厚みが5μm以上であり、該フィルムの表面に沿った電気抵抗の測定から求めた平均体積抵抗値(VR)が103Ωcm以下、該体積抵抗値の偏差(3σR/VR)が10%以下であることを特徴とする導電性プラスチックフィルム。」(特許請求の範囲第1項)に関する発明が記載されている。合成樹脂としては、ボリエーテルイミド樹脂が例示されており(2ページ左下欄11〜12行)、またカーボンブラックとして、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラックが例示され、ケッチエンブラックが好ましいこと(2ページ左下欄15〜18行)が記載されている。

7-2.対比・判断
本件訂正発明を、刊行物1(特開昭56-164368号公報:甲第1号証)記載のものと比較する。
刊行物1記載の基体は、画像形成装置の中間転写ベルトに用いられるものであり、一方、本件訂正発明のシームレスベルトは、複写機等の転写ベルトに用いるものである。また、刊行物1記載の基体は、遠心鋳造によって作成されることから、単層でシームレスの無端ベルト状をしていることも明らかであるから、刊行物1の基体は、本件訂正発明のシームレスベルトに相当する。
そして、刊行物1の基体は、「重量比でポリイミドワニス3.5部、カーボンブラック1部及びN-メチルピロリドン7部を加え均一化し、これを遠心鋳造によって100℃加熱乾燥し」て作成したものであるが、ポリイミドワニスが、加熱によりポリイミド系樹脂を構成するものであり(例えば刊行物2参照)、カーボンブラックが、導電性の微粉末の一種であることは(例えば刊行物3,4参照)、当業者にとって明らかな事項である。
また、刊行物1記載の基体の体積電気抵抗値は、105Ω・cmであるが、この体積電気抵抗値は、本件訂正発明のシームレスベルトの体積電気抵抗値の範囲内のものであることから、刊行物1記載の基体にあっても、導電性について本件訂正発明のシームレスベルトと同様な性質を有するといえるから、刊行物1記載の基体も、表面から電荷をかけて内表面にアースを取り、また内表面から電荷をかけることが可能な性質を有するものであると言える。

そこで、両者は、次の点で一致し、相違点1ないし相違点3で相違する。

(一致点)
「ポリイミド系樹脂と導電性微粉末とを含有し、且つ遠心成形法により得られる単層の転写ベルトとして使用するシームレスベルトであって、該ベルトの各部における体積電気抵抗値が1〜1013Ω・cmの範囲であり、表面から電荷をかけて内表面にアースを取り、また内表面から電荷をかけることが可能なシームレスベルト。」

(相違点1)
本件訂正発明のシームレスベルトは、体積電気抵抗値の最大値が最小値の1〜10倍の範囲にあるのに対し、刊行物1記載の基体は、体積電気抵抗値の範囲について明らかでない点。

(相違点2)
本件訂正発明のシームレスベルトは、引張強度が導電性微粉末を含有しないシームレスベルトに比較して75%以上の値を有するものであるのに対し、刊行物1記載の基体は、引張強度について明らかでない点。

(相違点3)
本件訂正発明は、遠心成形前のポリイミド系樹脂と導電性微粉末とからなる混合された液状原材料の粘度が50〜4000cpであるのに対し、刊行物1記載のものは、遠心成形前のポリイミドワニスとカーボンブラックとからなる混合された液状原材料の粘度について明らかでない点。

(相違点1についての判断)
刊行物6(特開平3-89357号公報:甲8第号証)には、導電性カーボンを含む樹脂からなる、半導電性のシームレスベルトについて、電気抵抗の変動が小さいことが好ましい旨記載されているとともに、表面電気抵抗及び体積電気抵抗のバラツキを小さくコントロールすることができる旨記載されており、さらに表面電気抵抗の最大値に対する最小値の比が0.1以上であるものが記載されている。
また、刊行物7(特開昭62-58509号公報:甲9第号証)には、導電性プラスチックシートについて、抵抗の均一さが要求されることが記載されているとともに、ポリエーテルイミド等のカーボンブラックを含む導電性プラスチックフィルムについて、平均体積抵抗値が103Ωcm以下、体積抵抗値の偏差が10%以下であるものが記載されている。
さらに、刊行物5には、ポリイミド液状重合体組成物等の重合体組成物にカーボンブラックを含有させて、抵抗値が108Ω以下の、シート等の導電性プラスチック製品を製造するにあたり、カーボンブラックを重合体組成物の液状成分中に均一に分散させる必要性について記載されており(5欄17〜19行)、そのための手段も記載されている。
したがって、導電性プラスチックにおいて、体積電気抵抗値のばらつきを小さくする必要のあることは刊行物5〜7に示すように周知であり、特に体積電気抵抗値の最大値が最小値の1〜10倍の範囲にしたものも刊行物7に記載されるように知られているので、相違点のように構成することは、当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点2についての判断)
基体の成分として、強度に寄与しない導電性微粉末を混合すれば、基体の強度が低下することは、例えば刊行物5にも記載されるように、当業者が当然予測し得た事項であるから、その引張強度をどの程度のものとするかは、必要とされる基体の導電性の程度を勘案して、適宜設定し得た設計的事項である。

(相違点3についての判断)
遠心成形をおこなうにあたり、液状原材料の粘度をどの程度のものとするかは、使用装置、使用材料、成膜条件などを勘案して、当業者が適宜実験により、容易に決定しえた事項であるので、遠心成形前のポリイミド系樹脂と導電性微粉末とからなる混合された液状原材料の粘度を50〜4000cpとした点に、格別の困難性は見いだせない。
すなわち、例えば、原材料の粘度が、水のようにあまりに低い場合、原材料が容易に流れてしまって、原材料を遠心成形のためのドラム内面に適切に塗布することができず、一方、蜂蜜やタールのように粘度が高すぎる場合も塗布が困難であるとともに、原材料の移動が妨げられ、膜厚が均一になり難いことは、当業者が容易に予測し得ることであるから、実験により、両極端を避けて、適当な粘度範囲を見いだすことは、格別の困難なく当業者がなし得る程度の事項である。
実際、50〜4000cpの粘度範囲は、コーン油程度の粘度から、シロップ程度の粘度の範囲をカバーするものであって、この粘度範囲には、ラッカーや、水性ペイント等の通常の塗料の粘度が入るものであることは広く知られており、かかる事情からも、遠心成形シリンダーにポリイミドワニスを塗布するにあたって、かかる粘度範囲が適当なことを当業者が見いだすことに、格別の困難性があったということはできない。

7-3.結論
以上のとおりであるから、訂正事項aの内容について、上記のように解したとしてもなお、本件訂正発明は、刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件審判請求は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しない。

8.むすび
以上のとおり、本件訂正請求は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書又は、同条第3項の規定に適合しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-03-22 
結審通知日 2005-03-23 
審決日 2005-04-26 
出願番号 特願平3-315560
審決分類 P 1 41・ 856- Z (B29C)
P 1 41・ 841- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅野 あつ子  
特許庁審判長 粟津 憲一
特許庁審判官 鈴木 公子
山崎 豊
登録日 2000-10-06 
登録番号 特許第3116143号(P3116143)
発明の名称 シームレスベルト  
代理人 山形 康郎  
代理人 緒方 雅子  
代理人 松本 司  
代理人 橋本 薫  

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