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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) G11B
管理番号 1144804
判定請求番号 判定2006-60002  
総通号数 83 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 1999-09-28 
種別 判定 
判定請求日 2006-01-23 
確定日 2006-10-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第3360634号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「情報信号記録媒体」は、特許第3360634号発明の技術的範囲に属しない。 
理由
1.請求の趣旨
本件判定請求は、イ号製品説明書に示されるDVD-R記録媒体製品(以下、「イ号物件」という。)は、特許第3,360,634号発明(以下、「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。

2.本件特許発明
本件特許発明は、特許第3,360,634号明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであり、その構成要件を符号を付して分説して示すと次のとおりである。

「(A) セクタアドレスを有する複数のセクタに分割されている周回状の情報トラックを有し、
(B) 2値のデジタル信号列からなる情報信号が1つの巡回符号から得られるスクランブル信号により前記情報トラックのセクタごとにスクランブルされて記録されている情報信号記録媒体であって、
(C) 前記情報トラックの全周回にわたり、隣接する前記情報トラック間における、放射線上に位置する前記セクタ同士において、異なる記録パターンが形成されて、前記情報信号が記録されている
(D) ことを特徴とする情報信号記録媒体。」

3.イ号物件

〔3-1〕イ号物件とDVD-R規格の関係
請求人は、イ号製品(イ号物件)は、ライテック コーポレーションの製造に係るDVD-Rディスク製品であり、イ号物件がDVD-R再生装置において再生されるものである以上、DVD-Rバージョン2.0の規格書(甲第2号証)に適合して製造された製品である旨主張するので、まず、この点について検討する。

請求人が提出した証拠方法によれば、以下の事項が認められる。
i)請求人が提出した甲第3号証(イ号製品購入証明書)、甲第4号証(検甲第1号証概観撮影報告書)によれば、検甲第1号証は、請求人が日本国内において購入したイ号製品である。
ii)また、検甲第1号証は、甲第4号証Photograph2裏面写真をみるとDVD-R規格バージョン2.0に準拠するDVD-Rディスクである。
iii) 甲第5号証(イ号製品測定結果報告書)によれば、検甲第1号証は、コントロール・データ・ゾーン内のプリレコーデッド・フィジカル・フォーマット・インフォーメーション中のブックタイプフィールド(1バイト目ビットb7からb4)において、「DVD-R」(2値“0010”)と記録され、かつ、リードインエリア(Lead-in area)のプリピット・データ・ブロック内のフィールドID3ないしID4に、製造者IDとして、「RITEKG04」の文字列が記録されていることがみてとれる。

上記i)〜iii)の事項より、イ号物件は少なくともDVD-R規格に適合するものであると推測でき、イ号物件はDVD-R規格に準拠するものであるということができる。

また、この点に関して、被請求人も、答弁書の「7 理由(3)」において、イ号製品は、DVD規格準拠のDVD-Rである旨認めているところである。

〔3-2〕イ号製品説明書及び甲各号証に示されている事項
請求人日本ビクター株式会社の提出した判定請求書に添付されたイ号製品説明書、並びに、証拠方法として提出された甲第2号証(「DVD Specifications for Recordable Disc for General(DVD-R for General)Part1 PHYSICAL SPECIFICATIONS Version 2.0 R4.7」)、甲第3号証(イ号参考製品購入証明書)、甲第4号証(検甲1第号証概観写真撮影報告書)、甲第5号証(イ号製品測定結果報告書)、甲第7号証の1(検甲第1号証の裏面拡大写真)、甲第7号証の2(検甲第1号証の裏面拡大写真)、甲第11号証の1(検甲第2号証の裏面拡大写真)、甲第12号証(イ号製品トラック長算出根拠詳細)、及び、検甲第1号証(請求人購入のイ号製品)を検討すると、イ号物件について、以下の事項が認められる。

(1)「情報トラック」について
ア)DVD-R規格における定義
i)「トラックとは、記録されたマーク或いはグルーブの360°回転の連続スパイラルである。」(甲第2号証PH1-11、イ号製品説明書第1頁右欄)
ii)「グルーブとは、ウオブルド・ガイダンス・トラックである。」(甲第2号証PH1-6)
iii)「セクタとは、ディスクの情報領域(Information area)内の最小アドレス可能部分であって、他と独立してアドレス可能な部分である。セクタは、このフォーマットにおいて物理セクタ(Physical sector)と呼ばれる。」(甲第2号証PH1-10)
iv)「セクタ番号とは、ディスク上の物理セクタに割り当てられるシリアル番号である。・・・シリアルに増加する番号は、セクタに、リード・イン・エリアの開始からリード・アウト・エリアまで、割り当てられる。」(甲第2号証PH1-11)
v) (物理)セクタのレイアウトは、各セクタは2064バイト(うち、データは、2048バイト)長を有し(甲第2号証Figure 3.2.1-1)、各セクタに割り当てられるセクタ番号は、ディスクの最内周から外周に向けて増加する(甲第2号証Figure 3.1.4-1) 。
イ)イ号物件は、工場出荷時における、ディスク購入者によるディスクへの記録前にはセクタ番号22FA0hから2FFFFhに位置するリード・イン・エリア(甲第2号証PH3-1、Figure3.1.4-1)内の、セクタ番号2F200hから2FDFFhに位置するコントロール・データ・ゾーン(甲第2号証PH3-27、Figure3.4.1.1-1)のみが、プリレコード又はエンボス加工されている(甲第2号証PH3-27)。

上記ア)、イ)によれば、イ号物件においては、スパイラル(周回)状のトラックが、最小アドレス可能単位である各2064バイトのセクタに分割されており、かつセクタのそれぞれにはセクタ番号つまりディスク内周から外周に向けシリアルに増加するセクタアドレスが付与される。そして、ディスク購入者によりデータ領域への記録がなされる前の状態であるイ号においては、リード・イン・エリア内のコントロール・データ・ゾーンのみに、情報が記録されている、すなわち、セクタに分割され、そのセクタ情報、データ属性等の制御情報と共に、システムで使用されるデータ、例えばDVDディスクの種別、バージョン、最大転送レート、記録密度等が記録されている(甲第2号証PH3-35、Table 3.4.1.4.1-1)。

したがって、イ号物件は、「セクタアドレスを有する複数のセクタに分割されているスパイラル(周回)状の情報トラック」である「コントロール・データ・ゾーン」を有するものである。

(2)「スクランブル」記録方式について
ア)DVD-R規格
i) 各物理セクタ中のデータ部分(Main data)に対して、スクランブル処理されて、スクランブルフレームが形成される(甲第2号証PH3-2、Figure 3.2-1)。
ii)「スクランブルデータは、データフレーム中の2048バイトのメインデータ(Main data)に付加されて、スクランブル処理フレームとなる。」(甲第2号証PH3-2、第6〜7行)
iii) 甲第2号証PH3-7、Figure 3.2.6-1に示されるフィードバックシフトレジスタにより、スクランブル前のセクタ中のメインデータ(2048バイト)の各バイトを、スクランブルする処理:
D’k=Dk +Sk (k=0to 2047) +:論理演算XOR
が、2048回(1セクタ分)行われ、スクランブルバイトが生成される。
イ)甲第2号証PH3-7、Figure 3.2.6-1に示されるフィードバックシフトレジスタから得られる巡回符号多項式は、
X15+X11+1
であることは明らかである。
ウ)イ号物件において、DVD-R規格における上記スクランブル処理を実装していることは容易に推測でき、上記スクランブル処理は、すでにセクタ分割され、情報が記録されたコントロール・データ・ゾーン内の各セクタに対して行われている。

上記ア)〜ウ)によれば、イ号物件は、「1つの巡回符号X15+X11+1から得られるスクランブル信号により前記コントロール・データ・ゾーンのセクタごとにスクランブルされて記録されている」ものである。

(3)記録される情報信号について
ア)イ号物件におけるセクタ長
DVD-R規格によれば、線速度(Reference scanning velocity)は、3.49m/s、ユーザービットレートは、11.08Mbpsである(甲第2号証PH1-2)。また、1セクタのユーザーデータは、2048バイトである。
これより、1セクタ長は、5.16mmとなる。
イ)イ号物件におけるスクランブル長
甲第2号証PH3-7、Table 3.2.6-1に示されるシフトレジスタの初期値テーブルのとおり、セクタID中のセクタ番号(甲第2号証PH3-3、IDフィールドの図)のビットb7からビットb4が、テーブル中の初期プリセット番号に相当するので、連続する16セクタ(セクタ番号下位4ビット0000bから1111bまで)には1グループとして、同じ初期値(例えば、初期プリセット番号が0hの場合は、初期値0001h)がシフトレジスタに割り当てられる。16セクタ分のスクランブル処理ごとに、スクランブル初期値が変更され(初期値プリセット番号が1hとなると、初期値5500h)、このスクランブル初期値は16パターン存在する。そして、このスクランブル16パターンが終了すると、初期プリセット番号0h、初期値0001hから再び上記初期値テーブルに示される初期値割り当てを繰り返す。これより、1スクランブル長は、16セクタ×16パターン=256セクタである。
したがって、1スクランブルのトラック長は、1320.96mm(5.16×16×16)となる。
ウ)イ号物件におけるコントロール・データ・ゾーンの最内周と最外周のトラック長
DVD-R規格によれば、セクタ番号30000hから開始するデータ領域の開始直径は、48.0-0.2mmから48.-0.0mmまでと規定されている(甲第2号証PH2-16、2.1.6.5 データ領域の開始直径)。これに基づき、コントロール・データ・ゾーンの開始半径及び終了半径は、それぞれ、セクタ番号が2F200hから2FDFFhであることより、計算(甲第12号証)により、規格平均のコントロール・データ・ゾーンの開始半径は23.859mm、終了半径は23.937mmとなる。
したがって、コントロール・データ・ゾーンの最内周トラック長は149.910mm、最外周トラック長は150.401mmとなる。

上記イ)、ウ)によれば、イ号物件において、スクランブル長は、コントロール・データ・ゾーンの最内周のトラック長、最外周のトラック長の何れよりも長くなるので、コントロール・データ・ゾーンの全周回にわたり、隣接するトラックのセクタが同じビット(記録)パターンになることはない。

なお、イ号物件において、ディスク購入後、データ領域全域にわたりデータが記録された場合でも、トラックの最外周のトラック長は364.24mmであり、1スクランブルのトラック長1320.96mmより短い。

(4)記録媒体について
イ号物件は、追記型DVDであるDVD-R記録媒体である。

〔3-3〕イ号物件の構成
イ号物件は、上記〔3-1〕及び〔3-2〕に示した事項によれば、分説して示すと以下のとおりの構成を具備するものと認められる。

「(a) セクタアドレスを有する複数のセクタに分割されているスパイラル状の情報トラックであるコントロール・データ・ゾーンを有し、
(b) 2値のデジタル信号列からなる情報信号が1つの巡回符号(X15+X11+1)から得られるスクランブル信号により前記コントロール・データ・ゾーンのセクタごとにスクランブルされて記録されているDVD-R記録媒体であって、
(c) 前記コントロール・データ・ゾーンの全周回にわたり、前記スクランブル信号の巡回周期は、1トラック長より長く、隣接する情報トラック間における前記セクタ同士において、異なる記録パターンが形成されて、前記情報信号が記録されている
(d) DVD-R記録媒体。」

4.対比・判断
そこで、イ号物件の各構成が本件特許発明の各構成要件を充足するか否かについて、以下に検討する。

(1)構成要件Aと構成aについて
本件特許発明の構成要件Aは、「セクタアドレスを有する複数のセクタに分割されている周回状の情報トラックを有し、」というものである。
これに対し、イ号物件の構成aは、「セクタアドレスを有する複数のセクタに分割されているスパイラル状の情報トラックであるコントロール・データ・ゾーンを有し、」というものであり、構成aの「スパイラル」は構成要件Aの「周回」と同義であることは明らかである。
したがって、イ号物件の構成aは本件特許発明の構成要件Aを充足する。

(2)構成要件Bと構成bについて
本件特許発明の構成要件Bは、「2値のデジタル信号列からなる情報信号が1つの巡回符号から得られるスクランブル信号により前記情報トラックのセクタごとにスクランブルされて記録されている情報信号記録媒体であって、」というものである。
これに対し、イ号物件の構成bは、「2値のデジタル信号列からなる情報信号が1つの巡回符号(X15+X11+1)から得られるスクランブル信号により前記コントロール・データ・ゾーンのセクタごとにスクランブルされて記録されているDVD-R記録媒体であって、」というものである。
ここで、イ号物件の構成bにおける「コントロール・データ・ゾーン」は、本件特許発明の構成要件Bの「情報トラック」のことであり、イ号物件の構成bにおける「DVD-R記録媒体」は、本件特許発明における「情報信号信号記録媒体」に相当する。
したがって、イ号物件の構成bは、本件特許発明の構成要件Bを充足する。

(3)構成要件Cと構成cについて
本件特許発明の構成要件Cは、「前記情報トラックの全周回にわたり、隣接する前記情報トラック間における、放射線上に位置する前記セクタ同士において、異なる記録パターンが形成されて、前記情報信号が記録されている」というものである。
これに対し、イ号物件の構成cは、「前記コントロール・データ・ゾーンの全周回にわたり、前記スクランブル信号の巡回周期は、1トラック長より長く、隣接する情報トラック間における前記セクタ同士において、異なる記録パターンが形成されて、前記情報信号が記録されている」というものである。ここで、イ号物件の構成cにおける「コントロール・データ・ゾーン」は、本件特許発明の構成要件Cの「情報トラック」のことである。

本件特許発明の構成要件Cにおける「隣接する情報トラック間における、放射線上に位置する(二つの)セクタ」に関し、本件特許明細書には次の事項が記載されている。
i)「信号の記録方式には、ディスクの角速度が一定な定角速度方式CAV(Constant Angular Velocity)と、線速度が一定な定線速度方式CLV(Constant Linear Velocity)が知られており、CAV方式は各トラックに含まれるセクタ数が等しく、全トラックに関してディスクの中心からの放射線上にセクタの先頭が完全に一致する構造になっている。
また、CLV方式は線速度が一定のため、全トラックのセクタの先頭が一致することはないが、一部の隣接トラックに関してディスクの中心からの放射線上にセクタの先頭が一致する場合がある。このような状況においては、同一内容の情報、例えば画像情報や音楽情報が記録される場合で言えば、曲間、チャプタ間の無音部、無画像区間などを大量に記録する時に、隣接トラックに同一の形状や配置の記録信号が出現しないようにするために、一般的にはスクランブル操作が講じられている。」(段落[0005]〜[0006])
ii)「このスクランブルは情報のセクタの先頭を同期させるための同期信号が、データ中に疑似同期信号として発生しないようにするため及びEFM変調のDSV制御性を向上させる目的で行なうものであり、情報信号とM系列との排他的論理和によってスクランブル信号が発生される。そして、スクランブルに用いられるM系列は、2X -1個の0または1で表現される巡回符号である。
例えば、CD-ROMで採用されている既知のスクランブル手段には215-1=32767周期のM系列が用いられており、各セクタ毎に同一の初期値を用いて行なわれている。」(段落[0007])
iii)「現在の光ディスクの動向では、記録容量の高密度化が図られているが、しかしながら従来のスクランブル手段を用いて前記のような同一内容の情報がディスクの中心からの放射線上にセクタの先頭が一致している場所に記録されると、隣接トラック間でのピットとランドの形状が一致するため、相関性が高まりトラッキング誤差信号の振幅が低下して信号対雑音比(S/N)が低下し、トラッキング制御が安定に行なわれないという問題があった。
本発明は、以上のような問題点に着目し、これを有効に解決すべく創案されたものであり、その目的はスクランブル信号の周期を長くしたり、スクランブル信号の一部を重複して用いることにより隣接トラック間での相関性を除去した情報信号記録媒体を提供することにある。」(段落[0009])
iv)「図2は本発明によるスクランブル手順とM系列の関係を示す図であり、図2(A)に示すようにディスクの如き情報記録媒体5の記録領域に例えばTn番目のトラックとT(n+1)番目のトラックが同心円状或いは螺旋状に記録される。図示例にあってはCLV方式の記録方式を示しており、各トラックのセクタはディスクの中心点Oからの放射線Lを始点としている。図2(B)はこの時の隣接トラックに記録される情報を直線状に書き替えた図を示し、図2(C)はこの時の記録信号の配置を示す。」(段落[0018])
v)「図3(B)に示す記録信号の配置は、図2に示すように実際はディスクの中心点Oからの同心円状または螺旋状に記録信号が配置しているものを、図2のディスクの中心点Oからの放射線Lを始点として隣接トラックに記録される情報を直線状に書き替えた図である。M系列の性質上、たとえ同一の情報を多量に記録する場合でも、最外周に記録される情報量の長さの範囲には異なった記録信号が発生されるので、最内周から最外周までの全てのトラックで、隣接トラックのディスクの中心点Oからの放射線L上には異なった信号が記録されることになるのである。」(段落[0021])

上記記載からすると、CAV方式は全トラックに関してディスクの中心からの放射線上にセクタの先頭が完全に一致する構造になっており、また、CLV方式は線速度が一定のため、全トラックのセクタの先頭が一致することはないが、一部の隣接トラックに関してディスクの中心からの放射線上にセクタの先頭が一致する場合があるので、本件特許発明は、同一内容の情報がディスクの中心からの放射線上にセクタの先頭が一致している場所に記録されると、隣接トラック間でのピットとランドの形状が一致するため、相関性が高まりトラッキング誤差信号の振幅が低下して信号対雑音比(S/N)が低下し、トラッキング制御が安定に行なわれないという課題を解決するためになされたものであることが明らかである。
そうすると、本件特許発明においては、図2に示されているように、ディスクの如き情報記録媒体5の記録領域に例えばT(n)番目のトラックとT(n+1)番目のトラックが同心円状或いは螺旋状に記録され、各トラックのセクタはディスクの中心点Oからの放射線Lを始点とするものであることが前提とされていることは明らかである。
したがって、本件特許発明の構成要件Cの「隣接する情報トラック間における、放射線状に位置するセクタ同士」とは、実質的には、隣接トラックに関してディスクの中心からの放射線上に先頭が一致するセクタのことを規定乃至意味するものと解すべきである。

イ号物件は、DVD-R規格に準拠するものであり、CLV方式を採用していることを考えると、イ号のコントロール・データ・ゾーンにおいては、セクタの長さは一定であり、隣接するトラックに属する二つのセクタの先頭が同一放射線上に位置することはあり得ない。すなわち、トラックはディスク中央から外側へ向かってスパイラル状に径を大きくしていくものであり、隣接するトラック間では、径が異なることから、あるトラック上のセクタの先頭に一致する放射線に対し、隣接するトラック上のセクタの先頭位置は、ずれた状態となることは明らかである。唯一の例外は、トラックの長さがセクタの長さの整数倍となるときであるが、請求人が提示する数値を用いて検証すると、最内周のトラック長(149.910mm)はセクタ長(5.16mm)の29.052倍となり、トラック長はセクタ長の整数倍とはなっていない。これより外側のトラックは、トラック長がセクタ長の29.052倍よりさらに大きくなることは明らかであり、コントロール・データ・ゾーン内のトラックに関しては、外側のトラックのセクタの先頭位置は内側のトラックの先頭位置に対しトラック一周分よりやや手前に位置することになる。また、最外周のトラック長(150.401mm)についても、セクタ長(5.16mm)の29.147倍となり、トラック長はセクタ長の整数倍とはなっていない。

したがって、イ号物件において、「隣接する情報トラック間における、放射線上に位置する(二つの)セクタ」が存在しないことは明らかであるから、イ号物件の構成cは、本件特許発明の構成要件Cを充足しない。

この点に関し、請求人は、検甲第1号証の裏面拡大写真である甲第7号証の1及び甲第7号証の2を提出し、請求書において、本件特許発明の構成要件Cに関し、概要『DVD-R規格上「イ号製品は、スクランブル全長は、コントロール・データ・ゾーンの最内周のトラック長、最外周のトラック長のいずれよりも長く、したがって、コントロール・データ・ゾーンの全周回にわたり、隣接するトラックのセクタが同じビットパターンになることはない」とし、「イ号製品においては、前記コントロール・データ・ゾーンの全周回にわたり、前記スクランブル信号の巡回周期は、1トラック長より長いことにより、隣接する前記情報トラック間における、放射線上に位置する前記セクタ同士において、異なる記録パターンが形成されて、前記情報信号が記録されている。」』旨、主張する。
しかし、甲第7号証の1には、その測定目的が「測定ディスク(イ号製品)がDVD規格書準拠のDVD-Rであることを示すControl-data-zoneの存在を確認する」ことであると記載され、測定内容は、「トラック写真および一部拡大写真の撮影を行い、トラックの状態、トラック数等を写真データとして確認した」と記載されているのみであり、隣接する情報トラック間において、放射線上に位置する二つのセクタを有することについては何ら示されておらず、その説明もされていない。また、甲第7号証の2においても、その測定目的は、「測定ディスク(イ号製品)がDVD規格書準拠のDVD-Rであることを示すControl-data-zoneの存在を確認する」ことであると記載され、測定内容は、「トラックの状態、トラック数等を写真データとして確認した」との記載があるのみで、隣接する情報トラック間において、放射線上に位置する二つのセクタを有することについては何ら示されておらず、その説明もされていない。
したがって、請求人の上記主張は採用することができない。

また、請求人は、弁駁書において、
(ア)本件特許発明の構成要件Cの「隣接する情報トラック間における、放射線状に位置するセクタ同士」とは、セクタの先頭から終端までのいずれかが、基準線である「放射線状に位置する」二つのセクタが互いに隣接するトラック上にそれぞれ存在することを規定しているにすぎない旨、
(イ)CD-ROMのユーザデータ領域において、セクタの先頭が揃う半径を算出し、CLVの場合、最内周(セクタ数9)から最外周(セクタ数22)までの間に、トラック半径の12箇所で、隣接するトラック間でセクタの先頭が一致する旨、
主張するので、この点についても検討する。

上記(ア)に関しては、上記したとおり、本件特許発明の構成要件Cの「隣接する情報トラック間における、放射線状に位置するセクタ同士」とは、発明が解決しようとする課題を考慮すれば、隣接トラックに関してディスクの中心からの放射線上に先頭が一致するセクタのことを実質的に規定乃至意味するものと解すべきであり、発明が解決しようとする課題を離れて、請求人が主張するように、単に、セクタの先頭から終端までのいずれかが、基準線である「放射線状に位置する」二つのセクタが互いに隣接するトラック上にそれぞれ存在することを規定しているにすぎないと解すべきではないことは明らかである。

次に、上記(イ)に関しては、請求人が判定を求めているイ号物件は、イ号製品説明書に示されるDVD-R記録媒体製品についてであり、上記(イ)で主張するCD-ROMについてではないことは明らかである。

したがって、弁駁書における請求人の上記主張は採用できない。

(4)構成要件Dと構成dについて
本件特許発明の構成要件Dは、「情報信号記録媒体」というものである。
これに対し、イ号物件の構成dは、追記型DVDである「DVD-R記録媒体」というものであり、本件特許発明の「情報信号記録媒体」に含まれるものであることは明らかである。
したがって、イ号物件の構成dは、本件特許発明の構成要件Dを充足する。

5.むすび
以上のとおりであって、イ号物件の構成cは本件特許発明の構成要件Cを充足しないものであるから、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。

よって、結論のとおり判定する。
 
判定日 2006-09-27 
出願番号 特願平11-3749
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小松 正  
特許庁審判長 片岡 栄一
特許庁審判官 山田 洋一
江畠 博
登録日 2002-10-18 
登録番号 特許第3360634号(P3360634)
発明の名称 情報信号記録媒体  
代理人 大江 修子  
代理人 福島 栄一  
代理人 小西 恵  
代理人 岩崎 幸邦  
代理人 松岡 修平  
代理人 三好 秀和  

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