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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  E01B
管理番号 1145292
審判番号 無効2005-80041  
総通号数 84 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-09-12 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-02-09 
確定日 2006-09-04 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3123877号「軌道パッド」の特許無効審判事件についてされた平成17年 7月26日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の決定があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3123877号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯

平成 6年 3月 2日 出願(特願平6-54802号)
平成12年10月27日 特許登録
平成17年 2月 9日 本件無効審判請求
平成17年 4月27日 審判事件答弁書
平成17年 6月13日 審判事件弁駁書
平成17年 6月29日 上申書(請求人提出)
平成17年 9月 5日 訴状
平成17年 9月30日 原告準備書面
平成17年10月31日 被告答弁書
平成17年12月 5日 訂正審判請求書
平成18年 1月10日 差戻決定
平成18年 5月12日 審判事件弁駁書

2.当事者の主張

2-1 請求人の主張
請求人は、本件の請求項1に係る発明の特許を無効とする理由として次のように主張し、甲第1号証ないし甲第10号証を提出した。
無効理由:本件発明は、甲第2号証ないし甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

甲第1号証 特許第3123877号公報(本件特許公報)
甲第2号証 締結装置便覧,軌道材料研究グループ編(昭和52年3月),3〜4頁,85〜90頁
甲第3号証 特開昭57-201402号公報
甲第4号証 特開昭58-17901号公報
甲第5号証 実願昭58-57400号(実開昭59-163603号)のマイクロフィルム
甲第6号証 特願平6-54802号に関する刊行物提出書(平成12年2月3日提出) 甲第7号証 日軌四十年史(昭和62年9月発行)
甲第8号証 「連接軌道」のカタログ,日本軌道工業株式会社
甲第9号証 日軌式連接軌道ブロックの図面(52年度)
甲第10号証 軌道用防振ゴム規格集 昭和56年3月,軌道用防振ゴム協会,目-1〜目-5頁,1頁,229頁,231〜235頁

2-2 被請求人の主張
被請求人は、平成17年4月27日付け審判事件答弁書において、本件の請求項1に係る発明に、請求人主張の無効理由はないと主張した。

3.訂正請求について

3-1 訂正事項
本件特許の願書に添付した明細書及び図面(以下、「特許明細書」という。)の平成18年2月13日の訂正請求(以下、「本件訂正」という。)は、特許法第134条の3第5項の規定により、上記訂正審判の審判請求書に添付された訂正明細書(以下、「訂正明細書」という。)を援用するものであって、次の事項をその訂正内容とするものである。

(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1の
「前記調整パッキンはレール長手方向の両端を前記ゴム板およびタイプレートよりも突出させる一方、」とある記載を、
「前記ゴム板およびタイプレートを、これらのレール長手方向の両端よりも突出した前記調節パッキンのレール長手方向の両端に係合可能にする一方」
と訂正する。

(2)訂正事項b
本件特許明細書の段落【0010】の
「前記調整パッキンはレール長手方向の両端を前記ゴム板およびタイプレートよりも突出させる一方、」とある記載を、
「前記ゴム板およびタイプレートを、これらのレール長手方向の両端よりも突出した前記調節パッキンのレール長手方向の両端に係合可能にする一方」
と訂正する。

3-2 訂正の適否について
(1)訂正事項aについて
(ア)訂正事項aのうち、「前記ゴム板およびタイプレートを、これらのレール長手方向の両端よりも突出した前記調節パッキン」の訂正部分は、調整パッキンを用いてゴム板およびタイプレートの構成を明確にしようとするためになされたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
また、上記訂正部分は、本件特許の請求項1の記載及び明細書の段落【0032】の記載と同様の事項を表現したものといえるから、本件特許明細書に記載した事項の範囲内と認められる。
さらに、上記訂正部分は、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではないといえる。
(イ)また、訂正事項aのうち、「前記調節パッキンのレール長手方向の両端に係合可能にする」の訂正部分は、調整パッキンのレール長手方向の両端と、ゴム板およびタイプレートとの関係につき、係合可能という限定を付加したものであるから、特許請求の範囲の限縮を目的とするものである。
また、上記訂正部分は、本件特許の明細書段落【0032】の記載に基づくものであるから、本件特許明細書に記載した事項の範囲内と認められる。
さらに、上記訂正部分は、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更をするものではないといえる。

(2)訂正事項bについて
訂正事項bの訂正内容は、上記の特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とすることが明らかである。
また、上記訂正事項bの訂正内容は、上述したように本件特許明細書に記載された事項に範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張するものではない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き各号並びに同上第5項の規定において準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

4.本件発明

上記3.のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。

(本件発明)
「レール底面に接触しレール底面に対して摺動可能な金属板と、この金属板の下面に接着されたゴム板とを備え、タイプレートに載せた調節パッキンの上面とレール底部との間に介装される軌道パッドにおいて、前記ゴム板およびタイプレートを、これらのレール長手方向の両端よりも突出した前記調節パッキンのレール長手方向の両端に係合可能にする一方、金属板は前記ゴム板およびタイプレートよりもレール長手方向に長く形成され、タイプレートより突出する金属板のレール長手方向の両端にレールの幅方向へ突出する舌状部を一体形成し、これらの舌状部を前記タイプレートに設けたレール底部ガイド用突壁のレール長手方向の両端縁にそれぞれ係合可能にしたことを特徴とする軌道パッド。」

5.無効理由についての判断

5-1 甲号各証の記載事項
(1)甲第2号証には、次の記載が認められる。
(a)「コンクリートマクラギの使用を可能にするため犬クギの代りにバネとボルトを用い、充分な弾性を有する軌道パッドと共同して二重弾性とした,いわゆる二重弾性レール締結装置が考案され,現在広く実用に供されている。
この,二重弾性レール締結装置の利点としては,(1)レールはマクラギを常に押しているので,その間に衝撃力の生じることはない。(2)ゴムの緩衝効果,振動減衰,音響防止効果を充分に活用することができ,道床振動を減衰し,道床沈下を減ずるから保守周期をのばすことができる。(道床振動加速度は理論的には軌道パッドのバネ定数の2乗根に比例して減少するとされている。)(3)ゴム製の軌道パッドは常に圧縮状態で使用されるので,ゴムの耐用年限を増す。(4)レールとマクラギはバネの作用により常に圧接されているから,その間に働く摩擦力により充分レールのふく進に抵抗でき,アンチ・クリーパーを必要としない。また直結構造,橋りよう等にロング・レールを用いる場合は,レールのふく進抵抗力をある範囲の値におさえる必要があるが,バネの締付力を変えることにより容易にこれを行える。(5)バネ,または適当な方法で容易に横方向に弾性をもたせることができ,横圧を数個のレール締結装置に分散させ,1締結装置に集中的に作用しないようにすることができる。」(第3頁第23行〜第4頁第4行)
(b)「本書は,第I章で,現在国鉄で使用されている締結装置の機能と構造について説明し,又,第II章は,これらの締結装置の図集として構成されている。」(第4頁第7行〜同第8行)
また、第85頁の図面83には、タイプレートA-I形の上に、可変パッドを載せ、前記可変パッドの上面に、軌道パッド、鉄板を順次載せ、その上にレールの底面を載せた構成が記載されていることから、レールの底面と鉄板は接触しており、また、軌道パッドと鉄板により軌道用積層体が構成され、前記軌道用積層体は、可変パッドの上面とレールの底面に介挿されていることは、当業者にとって明らかである。
以上の記載から、甲第2号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「レールの底面に接触した鉄板と、この鉄板の下面側に配置されたゴム製の軌道パッドとを備え、タイプレートに載せた可変パッドの上面とレールの底面に介挿される軌道用積層体。」(以下、「引用発明」という。)

(2)甲第3号証には、次の記載が認められる。
(a)「第1図及び第2図は前記従来の可変パッキングを示し、内部に補強繊維(1)を有し、且つ逆止弁付き注入口(2)及び排気口(3)を具えた袋状体(4)よりなる可変パッキング(a)を、第3図に示す如く、コンクリートスラブ(b)上のタイプレート(c)と軌道パット(d)との間に介装し、硬化剤を添加した液状樹脂を前記袋状体(4)内に注入口(2)より圧入するとともに、同袋状体(4)内の空気を排気口(3)より排出し、袋状体(4)内の空気を完全に排出して排気口(3)をクリップで閉じ、袋状体(4)を樹脂で充填膨張させたのち同樹脂を硬化せしめ、前記タイプレート(c)及び軌道パッド(d)間の間隙を完全に填隙し、袋状体(4)内の補強繊維(1)によつて、硬化物を補強プラスチックとなし、高強度を有する可変パッキングを構成するものである。(第4図参照)」(第1頁右下欄第4-18行)
(b)「即ち従来の可変パッキングにおいては上下2枚のフィルム(4a)(4b)の周辺部を周辺シール部(4c)によって袋状に成型しているので、樹脂注入により第4図に示すよう両端が膨らみ、一応可変パッキングの移動防止効果を発軌する・・・・」(第2頁左上欄第4-8行)
また、第4図をみると、軌道パッド(d)及びタイプレート(c)のレール長手方向の両端よりも突出した可変パッキング(a)を有していること、軌道パッド(d)及びタイプレート(c)を可変パッキング(a)のレール長手方向の両端に係合可能にしたことが認められる。

(3)甲第5号証には、次の記載が認められる。
(a)「1)レール1の下面とレール支持面2との間に挟持される4角形弾性板3であって、レール1の方向との直交辺3a、3aおよび平行辺3b、3bよりなり、両側の平行辺3b、3bのそれぞれの少くとも一端部に外側突出片4、4を設けてなる軌道パット。 2)4角形弾性板3が長方形ゴム板である実用新案登録請求の範囲第1項記載の軌道パット。 3)両側の平行辺3b、3bのそれぞれの両端部に外部突出片4、4を設けてなる実用新案登録請求の範囲第1項記載の軌道パット。」(明細書第1頁第5行〜第15行)
(b)「第5図、第6図では同突出片4、4をタイプレート7の上方突起7aに係合させる。そしてこの突出片4、4は少くとも列車走行方向側(矢印a)の直交辺3aの両側のものを係合させるものである。」(同第3頁第5行〜第9行)
(c)「本案は上述のように構成したので列車走行の反力に対しては上記突出片4、4がゲージブロック10やタイプレート7の上方突起7aに係合して列車走行方向の反対側にずれるおそれがなく保線工事による修正作業を要せず・・・」(同第4頁第2行〜第6行)
また、第5図及び第6図を参照すると、タイプレート7の上方突起7aは、レール底部をガイドしていることは当業者にとって明らかである。

(4)甲第10号証には、次の記載が認められる。
(a)「軌道パッドと鋼板は、加硫接着又は接着剤により、強固に接着し、はがれないようにすること。」(第233頁第7行〜第8行)
(b)第234頁の付図28の下方部分において、軌道パッドとステンレス鋼板を、加硫接着または接着剤による接着をする旨が記載されている。
(c)第235頁の付図29の下方部分において、軌道パッドとステンレス鋼板を、加硫接着または接着剤による接着をする旨が記載されている。

5-2 本件発明と引用発明との対比、判断
(1)対比
本件発明と引用発明とを対比すると、その機能ないし構造からみて引用発明の「レールの底面」、「鉄板」、「ゴム製の軌道パッド」、「可変パッド」、及び、「軌道用積層体」は、それぞれ、本件発明の「レール底面」、「金属板」、「ゴム板」、「調節パッキン」、及び、「軌道パッド」に相当する。
また、引用発明における「鉄板の下面側に配置されたゴム製の軌道パッド」と、本件発明における「金属板の下面に接着されたゴム板」を対比すると、両者とも、「金属板の下面側」に「ゴム板」が配置されている点で共通する。
よって、両者は、
「レール底面に接触する金属板と、この金属板の下面側に配置されたゴム板とを備え、タイプレートに載せた調節パッキンの上面とレール底部との間に介装される軌道パッド」である点で共通し、以下の点で相違する。

<相違点1>
レール底面と金属板の関係において、本件発明では、金属板はレール底面に対して摺動可能とされているのに対して、引用発明では、その点については不明である点。

<相違点2>
金属板とゴム板との関係において、本件発明では、ゴム板は金属板の下面に接着されているのに対して、引用発明では、その点については不明である点。

<相違点3>
調節パッキンを、本件発明では、ゴム板およびタイプレートのレール長手方向の両端よりも突出させ、そのレール長手方向の両端に、ゴム板およびタイプレートを係合可能にしているのに対して、引用発明では、そのような構成になっていない点。

<相違点4>
金属板が、本件発明では、ゴム板およびタイプレートよりもレール長手方向に長く形成され、タイプレートより突出する金属板のレール長手方向の両端にレールの幅方向へ突出する舌状部を一体形成し、これらの舌状部をタイプレートに設けたレール底部ガイド用突壁のレール長手方向の両端縁にそれぞれ係合可能にしたのに対して、引用発明では、そのような構成になっていない点。

(2)相違点についての判断
<相違点1について>
レール底面に接触して配置される金属板が、レール底面に対して摺動可能とされることは、例示するまでもなく従来周知の事項であるから、本件発明の相違点1に係る構成は、引用発明に当該周知技術を適用することにより、当業者が適宜採用し得た設計事項であるといえる。

<相違点2について>
軌道パッドにおいて、ゴム板を金属板の下面に接着することは、例えば甲第10号証にも記載されているように、従来周知の事項であるから、本件発明の相違点2に係る構成は、引用発明に当該周知技術を適用することにより、当業者が適宜採用し得た設計事項であるといえる。

<相違点3について>
調整パッキンを軌道パッドおよびタイプレートのレール長手方向の両端よりも突出させ、そのレール長手方向の両端に、軌道パッドおよびタイプレートを係合可能にすることは、本件の訂正明細書の段落【0005】に従来技術として説示されているように周知の技術である。なお、甲第3号証に記載された可変パッキング(a)は、本件発明の調整パッキンに相当するといえるから、甲第3号証には、上記周知の技術と同様の技術が記載されているといえる。
そして、調整パッキンおよび軌道パッドのレール長手方向の移動を規制するために、引用発明に上記周知の事項を適用し、その調節パッキンを、軌道パッドおよびタイプレートのレール長手方向の両端よりも突出させ、そのレール長手方向の両端に、軌道パッドおよびタイプレートを係合可能にすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。そして、当該周知の事項を適用するに際して、引用発明のゴム板に調節パッキンを係合可能にすることは、周知の技術として例示した甲第3号証において、調整パッキンが、これに接する部材に係合させていることもみれば、格別困難なことではない。
したがって、本件発明の相違点3に係る構成は、当業者が容易に採用し得た事項であるといえる。

<相違点4について>
甲第5号証には、軌道パッドを構成する部材のレール長手方向の両端にレール幅方向に突出する突出片4、4(本件発明の「舌状部」に相当する。以下同様。)を形成し、突出片4、4をタイプレート7のレール底部をガイドする上方突起7a(「レール底部ガイド用突壁」)に係合させる構成が記載されている。そして、引用発明も、甲第5号証に記載された発明も、いずれも軌道パッドという同一の技術分野に属するものであり、甲第5号証に記載された発明を引用発明に適用することに際しては何ら阻害要因を認めることはできない。
そして、軌道パッドのレール長手方向の両端の部分を係合させるのであれば、軌道パッドが、レール底部ガイド用突壁よりもレール長手方向に長くなることは自明のことであるから、仮にレール底部ガイド用突壁がタイプレートと同じ長さであるとした場合、前記軌道パッドを、タイプレートよりもレール長手方向に長く形成すべきこともまた自明のことである。
さらに、軌道パッドがタイプレートよりもレール長手方向に長くなるのであれば、軌道パッドのタイプレートよりも長く形成された部分は、タイプレートとは接触しないことから、前記部分に圧縮力はかからず、前記部分にゴム板を存在させる必要もなくなるのであるから、前記部分にゴム板を設けない構成とすることにより、金属板を前記ゴム板よりも長手方向に長く形成することも、当業者が適宜採用し得た設計的事項といえる。
以上のことから、引用発明において、甲第5号証に記載された発明を適用して、本件発明の相違点4に係る構成とすることは、当業者であれば容易になし得ることいわざるを得ない。

そして、本件発明によってもたらされる効果も、引用発明、甲第5号証に記載された発明、及び周知の技術に基づき当業者が予測できる範囲のものであって、格別なものがあるとは認められない。

したがって、本件発明は、引用発明、甲第5号証に記載の発明、および周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.まとめ

以上のとおり、本件発明は、甲第2号証に記載の発明、甲第5号証に記載の発明、および周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであって、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効にすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
軌道パッド
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】レール底面に接触しレール底面に対して摺動可能な金属板と、この金属板の下面に接着されたゴム板とを備え、タイプレートに載せた調節パッキンの上面とレール底部との間に介装される軌道パッドにおいて、前記ゴム板およびタイプレートを、これらのレール長手方向の両端よりも突出した前記調節パッキンのレール長手方向の両端に係合可能にする一方、金属板は前記ゴム板およびタイプレートよりもレール長手方向に長く形成され、タイプレートより突出する金属板のレール長手方向の両端にレールの幅方向へ突出する舌状部を一体形成し、これらの舌状部を前記タイプレートに設けたレール底部ガイド用突壁のレール長手方向の両端縁にそれぞれ係合可能にしたことを特徴とする軌道パッド。
【請求項2】舌状部の先端側が下方へ折曲されている請求項1の軌道パッド。
【請求項3】舌状部にはレール側方から視認可能な標識が設けられている請求項2の軌道パッド。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、レール底面とタイプレートとの間に介装される軌道パッドに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
軌道スラブやPCマクラギにレールを締結する場合、タイプレートをこれら軌道スラブやPCマクラギに固定し、このタイプレートに調節パッキンおよび軌道パッドを挟んでレールを載せ、レールを保持している。
【0003】
ここに調節パッキンはHMPや可変パッドである。HMPは電熱式調節パッキンであり、電気ヒータにより樹脂を軟化させて高さ調節を行うものである。また可変パッドは、樹脂を注入した袋であり、樹脂の注入量を調節することによりレール面の高さを調整するものである。
【0004】
軌道パッドはこの調節パッキンの上に載せられるものであり、ステンレス板などの金属板の下面にゴム板を接着したものである。このゴムはレールの衝撃を吸収する。また金属板は、その上面に当接するレールが温度変化などにより伸縮あるいは移動する時に、レールを滑り易くするものである。
【0005】
ここに従来の軌道パッドはレール長手方向の寸法がタイプレートとほぼ一致するように作られていた。一方調節パッキンは、その両端がタイプレートおよび軌道パッドのレール長手方向両端より突出するように寸法が決められ、この突出部を軌道パッドおよびタイプレートの縁に係合させて、調節パッキンおよび軌道パッドのレール長手方向の移動を規制するようにしていた。
【0006】
【従来技術の問題点】
この従来の軌道パッドは、調節パッキンから外れてレール長手方向に移動し易いという問題があった。すなわちレールの敷設工事の際には、調節パッキンと軌道パッドをタイプレートに対して正確に位置決め固定するのが困難であり、これらの相対位置がずれ易いからである。特に夜間の工事などでは、この位置合せは一層困難である。
【0007】
このように軌道パッド、調節パッキンの位置合せが不適切であると調節パッキンの両縁の突出部分が、タイプレートおよび軌道パッドに正しく係合しなくなる。このためレールの伸縮により可変パッドが移動し易いという問題があった。
【0008】
またこの軌道パッドは調節パッキンの上に重ねられ、その上にはレールの底部が載ってレールの裏側に位置するため、両者の相対位置を目視しにくい。しかも可変パッドの両縁が軌道パッドの両縁より所定量突出しているように位置合せしなければならないから、その位置の確認は非常に面倒で不正確になり易い。
【0009】
【発明の目的】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、タイプレートと軌道パッドとの間に調節パッキンを介在させる場合に、軌道パッドおよび調節パッキンの位置ずれが発生せず、レール敷設工事が容易になり、軌道パッドの位置ずれが万一発生した場合にはその位置ずれを発見し易くしてレール点検作業を容易にすることができる軌道パッドを提供することを目的とする。
【0010】
【発明の構成】
本発明によればこの目的は、レール底面に接触しレール底面に対して摺動可能な金属板と、この金属板の下面に接着されたゴム板とを備え、タイプレートに載せた調節パッキンの上面とレール底部との間に介装される軌道パッドにおいて、前記ゴム板およびタイプレートを、これらのレール長手方向の両端よりも突出した前記調節パッキンのレール長手方向の両端に係合可能にする一方、金属板は前記ゴム板およびタイプレートよりもレール長手方向に長く形成され、タイプレートより突出する金属板のレール長手方向の両端にレールの幅方向へ突出する舌状部を一体形成し、これらの舌状部を前記タイプレートに設けたレール底部ガイド用突壁のレール長手方向の両端縁にそれぞれ係合可能にしたことを特徴とする軌道パッドにより達成される。
【0011】
【実施例】
図1は本発明の一実施例を適用した軌道スラブのレール締結装置の一例(直結8形一般用)を示す断面図、図2はその要部の分解斜視図、図3はそこに用いる軌道パッドの正面図(A)と平面図(B)と一部断面した側面図、また図4は底面図である。
【0012】
図1において符号10は軌道スラブであり、このスラブ10はレール長手方向に数mの長さを持ったPC(Prestressed concrete)の板であり、路盤に位置決めされて敷設される。このスラブ10には所定位置に予め埋込栓カラー12が埋込まれている。
【0013】
同図において14は鉄製のタイプレートであり、レール長手方向に約18cmの長さを持つ。このタイプレート14は絶縁板16を挟んでスラブ10上に位置決めされて置かれる。このタイプレート14はアンカー用Tボルト18とナット20によってスラブ10に固定される。
【0014】
Tボルト18は下端にT字型のボルト頭18aを持つ。前記埋込栓カラー12はこのボルト頭18aを通すように略ダ円形の平断面形状を持ち、ボルト頭18aをここに上方から挿入して90°回転させることによりボルト頭18aを埋込栓カラー12の底に設けた係合部12aに係合させるものである。
【0015】
ここにTボルト18とタイプレート14とは絶縁カラー22により電気的に絶縁される。この絶縁カラー22は、円筒形のボス部と、このボス部の上端から外径方向へ拡径するフランジ部とを有する。この絶縁カラー22は、例えばガラス短繊維を混入したポリカーボネート樹脂を射出成形することにより製作される。
【0016】
Tボルト18には、図1に示すように、絶縁板16、タイプレート14が通され、さらに鉄製のカバープレート28、絶縁カラー22、座金30、ばね座金32、座金34が通される。そして最後にナット20が螺着され、締付けられる。ここに絶縁カラー22のボス部はカバープレート28およびタイプレート14のボルト孔内へ進入している。このようにしてタイプレート14とTボルト18との間は絶縁カラー22により電気的に絶縁される。
【0017】
図1で36はレールであり、レール高さ調節用の樹脂注入式可変パッド38および軌道パッド40を介してタイプレート14に載せられる。そしてレール36を押える板ばね42は、ボルト44およびナット46によってタイプレート14に締付け固定される。
【0018】
ここにタイプレート14には、レール底部ガイド用の突壁48、48が一体に形成されている。これらの突壁48、48は、レール36の底部36Aの幅にほぼ一致する間隔を空けて起立する。前記可変パッキン38および軌道パッド40はこれら突壁48、48の間に敷かれ、その上にレール36の底部36Aが載せられる。そしてレール36は両突壁48、48により左右方向(幅方向)への移動が規制される。
【0019】
突壁48、48には下方に向って広がった切欠部50、50が幅方向に横断するように形成され、ここに前記ボルト44の略台形に形成されたボルト頭(図示せず)が係合する。
【0020】
次に軌道パッド40の構成を図3、4を用いて説明する。この軌道パッド40はステンレス鋼板で作られた金属板52と、この金属板52の下面に接着されたゴム板54とを有する。金属板52は、タイプレート14のレール長手方向の長さよりも僅かに長く作られ、この部分Lを挟む両端部分が幅方向に突出して舌状部56となっている。4つの舌状部56はその先端部分が下方へ折曲されている。
【0021】
金属板52の両端部分に挟まれた部分Lは、前記タイプレート14の突壁48、48の間隙に入る幅に作られているのは勿論である。ゴム板54はこの部分Lとほぼ同一寸法の長方形であり、強力接着剤によりこの部分Lの下面に接着されている。なおこのゴム板54の両面にはレール長手方向に沿う複数の縦溝58、60が形成されている。これら縦溝58、60は軌道パッド40の厚さ方向の弾力性を増大させて緩衝効果を高める機能を持つ。
【0022】
また金属板52には図3(C)に示すように、ゴム板54側へ突出する複数の突部62がプレス成形される一方、ゴム板54にもこの突部62に対応する凹部(図示せず)が形成されている。このためゴム板54を接着する際にはこの凹部を突部62に位置合せして係合させれば、正確な位置決めができ、作業性が向上する。
【0023】
さらにこのゴム板54の下面には図4に示すように、複数の凹溝60を幅方向に横断する横溝64が形成されている。この横溝64には、前記可変パッド38に樹脂を注入してレール高さ調節を行う際に、可変パッド38の表面が膨張して侵入し、樹脂の硬化により可変パッド38がこの横溝に係合する。このため可変パッド38と軌道パッド40との間の滑りが防止される。
【0024】
このように作られている軌道パッド40は、図2に示すように可変パッド38に重ねてタイプレート14の突壁48、48間に装着される。この時軌道パッド40は、両端部分がタイプレート14の両側へ突出し、舌状部56はタイプレート14の両端面、すなわち突壁48、48の両端面に係合する(図1参照)。このように4つの舌状部56がそれぞれ突壁48、48の両端面に係合するから、軌道パッド40は正確に位置決めされる。すなわちこの舌状部56は軌道パッド40の移動を規制するストッパとして機能する。
【0025】
またこの舌状部56はタイプレート14より突出しているのでレール上方および側方から視認し易い。図5は軌道点検作業の様子を示す図であり、この図で70は路盤下構造物となる高架橋であり、その一側には点検作業用の通路72が作られている。作業者はこの通路からレール36の下に表れる軌道パッド40の舌状部56を容易に目視により確認できる。
【0026】
従来はこの点検は、車両の運行を停止した夜間に各レールの横を歩きながらレールの下をのぞき込むことにより行っていたものであるが、本発明の軌道パッド40を用いることにより通路72から容易に点検できるようになる。このため車両運行中にも点検作業ができ、作業能率が極めて良くなるものである。なお点検作業性をさらに向上させるためには、舌状部56の先端、特に下方へ折曲した部分の外面に蛍光塗料など目視性に優れた標識を塗布しておくのが望ましい。
【0027】
図6は軌道パッドの他の実施例を示す正面図、図7はそのVII-VII線断面図である。この軌道パッド40Aは、金属板52Aの舌状部56Aを折曲せずに水平に延出させたものである。ゴム板54Aは前記実施例と同一のものである。この実施例によれば金属板52Aの加工が簡単になり、コスト低下が図れる。
【0028】
図8はさらに他の実施例を示す正面図、図9R>9はそのIX-IX線断面図である。この軌道パッド40Bは、金属板52Bに上方へ僅かに突出する突部74を多数設けたものである。この円形突部74はレール36の底面に当接してレール36の荷重を受けるものである。
【0029】
この実施例40Bにおけるゴム板54Bは前記実施例と同一のものが使用される。また舌状部56Bは水平に延出させているが、先端を下方へ折曲してもよい。
【0030】
この実施例40Bによれば突部74がレール36の底面に当たるから、レール36の底面と金属板52Bとの間に侵入するゴミ、金属の錆の破片、雨水などが容易に除去される。このためレール36の滑りが良好になる。
【0031】
【発明の効果】
請求項1の発明は以上のように、金属板の両端にタイプレートのレール長手方向の両縁よりも突出してタイプレートの突壁に係合する舌状部を設けたものであるから、軌道パッドがタイプレートに対して正しい位置に位置決めされ、位置ずれが発生しにくくなる。このため敷設工事が容易になる。
【0032】
また調節パッキンはレール長手方向の両端をゴム板およびタイプレートよりも突出させているので、調節パッキンの両端がゴム板とタイプレートの縁に係合し、調節パッキンも確実に保持される。さらに舌状部はレール下面よりも側方へ突出しているから上方あるいは側方から容易に目視可能である。このため万一軌道パッドの位置ずれが発生しても容易に視認でき、レール点検の作業能率が著しく向上する。
【0033】
ここに舌状部の先端部分を下方へ折曲しておけば側方からの視認性が向上し作業性が一層向上する(請求項2)。さらに舌状部に蛍光塗料などの標識を付しておけば、視認性はさらに向上し、夜間作業性もさらに向上する(請求項3)。
図の説明
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の一実施例の適用例を示す軌道締結装置の断面図
【図2】
要部の分解斜視図
【図3】
軌道パッドの正・平・側面図
【図4】
軌道パッドの底面図
【図5】
点検作業の説明図
【図6】
他の実施例の正面図
【図7】
そのVII-VII線断面図
【図8】
他の実施例の正面図
【図9】
そのIX-IX線断面図
【符号の説明】
14 タイプレート
38 調節パッキン(HMPまたは可変パッド)
40、40A、40B 軌道パッド
48 突壁
52、52A、52B 金属板
54、54A、54B ゴム板
56 56A、56B 舌状部
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-07-05 
結審通知日 2006-07-13 
審決日 2005-07-26 
出願番号 特願平6-54802
審決分類 P 1 123・ 121- ZA (E01B)
最終処分 成立  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 柴田 和雄
西田 秀彦
登録日 2000-10-27 
登録番号 特許第3123877号(P3123877)
発明の名称 軌道パッド  
代理人 山田 文雄  
代理人 山田 洋資  
代理人 山田 文雄  
代理人 山田 洋資  
代理人 山田 文雄  
代理人 伊藤 茂  
代理人 山田 洋資  

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