• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1146387
審判番号 不服2005-19142  
総通号数 84 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2004-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-10-05 
確定日 2006-11-01 
事件の表示 特願2002-258656「記録ディスク及び記録情報再生装置並びに記録情報再生方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月29日出願公開、特開2004- 30860〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本件審判の請求に係る特許願(以下「本願」という。)は、平成14年9月4日(国内優先権主張:平成14年4月30日 特願2002-128219号)に出願されたものであって、平成17年9月1日付けで拒絶すべきものである旨の査定がなされ、これに対して平成17年10月5日付けで特許法第121条第1項の審判が請求がされ、さらに平成18年8月10日付けで早期審理に関する事情説明書が提出されたものである。
そして、本願請求項1〜8に係る発明は、平成17年8月10日付け手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明は以下のとおりのものである。
「【請求項1】少なくとも1の記録層を有する記録ディスクであって、
前記記録層から得られるプッシュプル読取信号の極性を示す識別情報が記録されている制御データ領域を備え、
前記制御データ領域は、BCA(burst cutting area)であることを特徴とする記録ディスク。」(以下「本願発明」という。)


2.刊行物及びその記載
原査定の拒絶の理由で引用された刊行物である特開平5-151644号公報(以下「刊行物」という。)は、光学的データ記録媒体のもので、図面とともに以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与。)
(2-1)「【0004】光ディスクの記憶容量を増加させるために、多重データ層システムが提案されている。複数のデータ層をもつ光ディスクは、理論上、レンズの焦点位置を変化させることによって異なる複数の層でアクセス可能である。この方法の例としては、米国特許第3946367号、米国特許第4219704号、米国特許第4450553号、米国特許第4905215号、日本の特公昭63-276732号、及びアーター(Arter)らの IBM Technical Disclosure Bulletin, Vol.30, No.2, p.667(July 1987)に所載の論文がある。
【0005】これらの従来技術のシステムの問題点は、2つ以上のデータ層がある場合、記録されたデータをはっきり読み取ることがきわめて困難なことであった。他のデータ層からのクロストーク信号が読み取り能力を大きく低下させる。また、異なる深さで合焦させる点、及びトラッキング信号を発生する点で問題がある。これらの問題を克服する光学的データ記憶装置が求められている。
【0006】【開示の概要】本発明の好ましい実施例では、光データ記憶装置は光ディスク・ドライブ及び多重データ面光媒体を含む。この媒体は、空気ギャップで分離された複数の基板部材をもつ。空気ギャップに隣接する基板部材の表面がデータ面である。これらのデータ面は、反射層を含むこともある最後のデータ層を除き、高度に透過性である。各データ面はトラッキング・マークを有する。」
(2-2)「【0010】光学媒体
図2は媒体12の断面図である。媒体12は基板50を有する。基板50は面板またはカバー・プレートとも呼ばれ、レーザ光線がそこから媒体12に入る。外径(OD)リム52及び内径(ID)リム54が、面板50と基板56の間に取り付けられる。外径リム58及び内径リム60が、基板56と基板62の間に取り付けられる。外径リム64及び内径リム66が、基板62と基板68の間に取り付けられる。外径リム70及び内径リム72が、基板68と基板74の間に取り付けられる。面板50及び基板56、62、68、74は、ガラス、ポリカーボネートまたはその他の高分子物質などの光透過性材料でできている。好ましい実施例では、面板50は厚さ1.2mmであり、基板56、62、68、74は厚さ0.4mmである。別法として、基板の厚さを0.2-0.8mmとすることもできる。内径リム及び外径リムはプラスティック材料製とすることが好ましく、約500μmの厚さである。別法として、これらのリムの厚さを50-500μmとすることもできる。
【0011】これらのリムは、糊、セメントまたはその他の接着法によって面板及び基板に取り付けることができる。別法として、これらのリムを基板内に一体式に形成することもできる。これらのリムは、配置されたとき、基板と面板の間に複数の環状空間78を形成する。スピンドル・アパーチャ80は、内径リムの内側で媒体12を貫通してスピンドル14を受ける。複数の通路82が内径リム内に設けられ、アパーチャと空間78を接続して、空間78とディスク・ファイルの周囲環境(通常、空気である)の間の圧力を均衡させる。空気中の粒子状物質による空間78の汚染を防止するために、複数の低インピーダンス・フィルタ84が通路82に取り付けられる。フィルタ84は水晶またはガラス・ファイバとすることができる。別法として、通路82及びフィルタ84を外径リム上に配置することもできる。
【0012】面90、92、94、96、98、100、102、104はデータ面であり、空間78に隣接する。これらのデータ面は、基板面内に直接形成されたROMデータを含むことができる。あるいは別法として、これらのデータ面を、WORMなど各種の書込み可能な光学的記憶薄膜の1つ、または相変化薄膜や光磁気薄膜など各種の消去可能な光学的記憶薄膜の1つで被覆することもできる。光学的記憶薄膜自体以外のデータ面は、米国特許第4450553号などの従来技術で知られた別個の金属反射層構造(反射率30-100%)なしで作成される。言い替えると、データ面は、ROM面の場合は面自体、またWORM、相変化薄膜または光磁気薄膜の場合は表面と光学的記憶薄膜を含み、それらからなり、または基本的にそれらからなる。追加の非データ記憶性反射層は不要である。その結果、データ面はきわめて光透過性が高く、かつ多数のデータ面が可能である。中間のデータ面は反射層をもたないが、最後のデータ面104からより大きな反射を得るために最後のデータ面104の後ろにオプションとして反射層を追加することもできる。」
(2-3)「【0019】もう1つの代替法は、データ面がROM、WORMまたは消去可能な媒体の組み合わせを含むようにするものである。ROMなど透過率が高い方の表面を光源のより近くに配置し、WORM、相変化媒体、磁気光学媒体など透過率が低い方の表面を一番遠くに配置することが好ましい。WORM媒体及び消去可能な媒体と共に、ROM面に関して上述した誘電体及び反射防止薄膜を使用することもできる。」
(2-4)「【0020】図3は、光学的記録媒体の代替実施例の断面図である。媒体を一般的に参照番号120で示す。媒体12の各要素と類似の媒体120の各要素は、同じ番号にダッシュをつけて示す。媒体120は媒体12のリム及び空間78をもたない。その代わりに、複数の透明な中実部材122で各基板を分離する。部材122は、基板とは屈折率の異なる物質でできている。これは、データ面で多少の反射を得るために必要である。好ましい実施例では、部材122は、光学用セメント製であり、これは基板をまとめて保持する働きもする。部材122の厚さは、約100-300μmであることが好ましい。媒体120はシステム10中で媒体12の代わりに使うことができる。
【0021】図4は、媒体12の好ましいデータ面パターンの誇張した詳細な断面図を示す。このパターンを一般的に参照番号130で示す。面90は螺旋(または同心円)状の追跡溝132のパターンを含む。面90の溝132の間の部分はランド部分134と呼ばれる。面92は螺旋状の逆追跡溝(盛り上がったリッジ)136のパターンを含む。面92の逆溝136の間の部分がランド138である。溝132及び逆溝136はトラッキング・マークとも呼ばれる。好ましい実施例では、トラッキング・マークの幅140は0.6μmであり、ランド部分の幅142は1.0μmである。その結果、ピッチは(1.0+0.6)=1.6μmとなる。
【0022】トラッキング・マークは、媒体12の回転中に光線をトラック上に保つために使用される。これについては後でより詳しく説明する。パターン130に関して、光ヘッド22からの光線144が、どの面に光線が合焦されるかに応じてランド部分134または138を追跡する。記録されたデータはランド部分にある。両面90及び92でトラッキング誤差信号(TES)が同じ大きさであるためには、ランドから反射された光とトラッキング・マークから反射された光の光路差が両面について同じでなければならない。光線144は基板50を通って面90上に合焦されるが、光線144は空間78を通って面92上に合焦される。好ましい実施例では、空間78は空気を含む。ランドとトラッキング・マークの光路長の差が同じであるためには、d1n1がd2n2に等しく(またはd2/d1がn1/n2に等しく)なければならない。ただし、d1はマーク132の深さ(垂直距離)であり、n1は基板50の屈折率であり、d2はマーク136の高さ(垂直距離)であり、n2は空間78の屈折率である。好ましい実施例では、空間78は屈折率1.0の空気を含み、基板50の屈折率は(他の基板と同様に)1.5である。したがって、比d2/d1は1.5に等しい。好ましい実施例では、d1は70nm、d2は105nmである。媒体12の他の表面上でもトラッキング・マークの同じパターンが繰り返される。他の基板入射面94、98、102は面90と同様であり、他の空間入射面96、100、104は面92と同様である。
【0023】トラッキング・マークは螺旋パターンで配列することが好ましいが、別法として同心円パターンでもよい。さらに、螺旋パターンは、各データ面で同じパターンとすることができる。すなわち、すべて時計回り、または反時計回りの螺旋である。また、連続するデータ層上で時計回りの螺旋パターンと反時計回りの螺旋パターンが交互になっていてもよい。この交互の螺旋パターンは、データの連続的追跡が望ましい、たとえばビデオ・データの記憶、映画などある種の応用例にとって好ましいことがある。このような場合、光線は、時計回りの螺旋パターンが内径近くで終わるまで、第1のデータ面上で時計回りの螺旋パターンを内側向きに追跡する。次に光線はすぐ下の第2のデータ面上に再合焦され、外径に達するまで、反時計回りの螺旋パターンを外側向きに追跡する。
【0024】図5は、媒体12の代替表面パターンの誇張した詳細な断面図を示す。このパターンを一般的に参照番号150で示す。パターン150は、面92のトラッキング・マークが逆溝ではなく溝152である点を除き、パターン130と同じである。ピッチ及び比d2/d1はパターン130の場合と同じである。光線144は面90上のランド134を追跡するが、この場合は、面92上に合焦されたとき溝152を追跡する。いくつかの状況では溝132の追跡が望ましいことがある。ただし、後で述べるように、光線144を、面92のランド138を追跡するように電気的に制御することもできる。面94、98、102のトラッキング・マークは、面90と同様であり、面96、100、104は面92と同様である。
【0025】図6は、媒体12の代替表面パターンの誇張した詳細な断面図を示す。このパターンを一般的に参照番号160で示す。パターン160は、面90が溝132の代わりに逆溝162をもち、面92が逆溝136の代わりに溝164をもつ点を除き、パターン130と同じである。ピッチ及び比d2/d1はパターン130の場合と同じである。光線144は、(ランドを追跡するように電子的に切り替えられない限り)面90上に合焦されたとき逆溝162を追跡し、面92上に合焦されたとき溝164を追跡する。面94、98、102のパターンは面90と同様であり、面96、100、104は面92と同様である。
【0026】図7は、代替表面パターンの誇張した詳細な断面図を示す。このパターンを一般的に参照番号170で示す。パターン170中では、面90はパターン160の面90と同様の構造をもつ。面92はパターン130の面92と同様の構造をもつ。ピッチ及び比d2/d1はパターン130の場合と同じである。光線144は、(ランドを追跡するように電子的に切り替えられない限り)面90上に合焦されたとき逆溝162を追跡し、面92上に合焦されたときランド138を追跡する。面94、98、102は面90と同様のパターンをもち、面96、100、104は面92と同様のパターンをもつ。
【0027】パターン130、150、160、170のすべてについて、トラッキング・マークは、製造時に、当技術分野で知られた射出成形またはフォトポリマ・プロセスによって基板内に形成される。上述したように、トラッキング・マークの形成後に光学的薄膜が基板上に付着されることに留意されたい。
【0028】トラッキング・マークの検討を、光ディスクの他の特徴にも適用できる。たとえば、ある種のROMディスクは基板中にエンボスされたピットを使ってデータを記録し、追跡情報を提供する。他の光媒体はピットを使ってセクタ・ヘッダ情報をエンボスする。ある種の媒体は、これらのヘッダ・ピットを使って追跡情報をも提供する。このような媒体を本発明の多重データ面の形で使用する際、これらのピットは、上で検討したトラッキング・マークに類似の形で対応する様々なデータ面上のピットまたは逆ピットとして形成される。ランドとピットまたは逆ピットの間の光路の長さもトラッキング・マークと同様である。ピット、逆ピット、溝及び逆溝はすべてランドから異なる高さ(すなわち、それらとランドの間の垂直距離)にあり、この考察ではすべてマークと呼ぶ。追跡情報を提供するためだけのマークは非データ・トラッキング・マークと呼ばれる。」
(2-5)「【0034】トラッキング誤差回路266は1対の加算増幅器294及び296と差動増幅器298を有する。加算増幅器294は増幅器280及び282に接続され、加算増幅器296は増幅器284及び286に接続されている。差動増幅器298は、双極双投電子スイッチ297を介して加算増幅器294及び296に接続されている。スイッチ297は増幅器298への入力を反転させる働きをする。」
(2-6)「【0040】図13は、スイッチ297がその最初の位置にあるときの、TESと、パターン150の表面92、パターン160の表面90及び92、パターン170の表面90に関するヘッド変位との関係を示すグラフである。この場合、正の勾配の信号がトラッキング・マークの位置で生ずるようになっており、したがって、光線は自動的にトラッキング・マーク上を走り、ランド部分は走らないことに留意されたい。状況によってはトラッキング・マーク上を走らせることが望ましいこともある。
【0041】図14は、インバータ・スイッチ297を切り替えてTES信号を反転させたときの、TESと、パターン150の表面92、パターン160の表面90及び92、パターン170の表面90に関するヘッド変位との関係を示すグラフである。この場合、TES信号はランド位置で正の勾配を有し、光線はトラッキング・マークの代わりにランド部分上を走る。このように、スイッチ297をセットすることによって、制御装置314は溝またはランドを追跡することができる。」
(2-7)「【0044】また起動時に、制御装置314は、どのタイプのディスクを読み取っているか決定する。スイッチ274は、まず反射率を検出するように位置決めされ、スイッチ297は好ましいパターン130のディスクのランド部分を読み取るように設定される。制御装置314は第1のデータ面の第1のトラックのヘッダ情報を探し、それを読み取る。ヘッダは、層の数、各層内にどんなタイプの光媒体があるか(反射率または偏光の検出)、及びどんなタイプのトラッキング・マーク・パターンが使用されているかに関する情報を有する。この情報を使用して、制御装置314は、各データ面を正しく読み取るようにスイッチ274及び297を設定することができる。たとえば、ディスクが4層のROMデータ面、及び2層のMOデータ面をもつことがある。制御装置314は、面1-4では反射率検出、面5-6では偏光検出ができるようにスイッチ274を設定する。
【0045】制御装置314は、第1のデータ面の第1トラックを読み取れない場合(恐らく、第1層が異なるトラッキング・マーク・パターンをもつ)、スイッチ297を別の設定にし、第1データ面の第1トラックを読み取ろうと再度試みる。それでもうまく行かない場合(恐らく、第1データ面が光磁気記録面であり、偏光検出が必要)、制御装置はスイッチ274を偏光検出に設定し、スイッチ297を一方の設定に、次に他方の設定にして再度試みる。要するに、制御装置314は、成功するまでスイッチ274及び297の設定の4つの異なる組み合わせを試みることによって、第1データ面の第1トラックのヘッダ情報を読み取る。制御装置314がこのヘッダ情報を得ると、他のそれぞれのデータ面についてスイッチ274及び297を正しく設定することができる。」

以上の記載事項を総合勘案して、図面とともに整理すると、刊行物には以下の発明が記載されているものと認める。
「複数のデータ層をもつ光ディスクであって、レンズの焦点位置を変化させることによって異なる複数の層にアクセス可能で、各データ面は螺旋または同心円状の追跡溝132のパターンを含み、媒体12の回転中に光線をトラック上に保つために使用される溝132及び逆溝136等のトラッキング・マークを有し、
起動時に、制御装置314は第1のデータ面の第1のトラックのヘッダ情報を探し、それを読み取り、層の数、各層内にどのようなタイプの光媒体があるか(反射率または偏光の検出)、及び、どのようなタイプのトラッキング・マーク・パターンが使用されているかに関する情報を有し、この情報を使用して、制御装置314は、各データ面を正しく読み取るようにスイッチ274及び297を設定し、スイッチ297をセットすることによって、制御装置314は溝またはランドを追跡する記録ディスク。」(以下、「刊行物発明」という。)


3.対比・判断
(3-1)本願発明と刊行物発明を対比すると、
(i)刊行物発明の「複数のデータ層をもつ光ディスク」及び「異なる複数の層にアクセス可能」は、本願発明の「少なくとも1の記録層を有する記録ディスク」に相当する。
(ii)刊行物発明の「起動時に、制御装置314は第1のデータ面の第1のトラックのヘッダ情報を探し、それを読み取り、」であるが、読み取る内容は「層の数、各層内にどんなタイプの光媒体があるか(反射率または偏光の検出)、及びどんなタイプのトラッキング・マーク・パターンが使用されているかに関する情報」とある。そして、この情報に基づき、制御装置は「各データ面を正しく読み取るようにスイッチ274及び297を設定」し、結果として「溝またはランドを追跡」できるものである。
ここで、上記刊行物の「第1のデータ面の第1のトラックのヘッダ情報を探し、それを読み取り」であるが、記録層に制御データを備えているのであるから、この点において、本願発明の「記録層から・・・制御データ領域を備え」に相当する。
また、上記刊行物の「トラッキング・マーク」であるが、溝またはランドを追跡していくマークとなるトラッキングしていく情報である。トラッキング手法は「トラッキング誤差回路266は1対の加算増幅器294及び296と差動増幅器298を有する。」(上記(2-5)の【0034】)とあるように、記録層からプッシュプル読取信号をみて制御している。トラッキング制御に関しては、溝もしくはランド部分の何れでも可能であることの記載が【図13】【図14】を例示的に記載されている(上記(2-6)の【0040】【0041】)。そして、上記のマークに関して「ピット、逆ピット、溝及び逆溝はすべてランドから異なる高さ(すなわち、それらとランドの間の垂直距離)にあり、この考察ではすべてマークと呼ぶ。追跡情報を提供するためだけのマークは非データ・トラッキング・マークと呼ばれる。」(上記(2-4)の【0028】)と記載していて、「トラッキング・マーク・パターン」には少なくとも、溝ないしランドのいずれかでトラッキング情報していくかの極性情報が含まれていることは明らかであるから、上記刊行物発明の記載事項は、本願発明の「記録層から得られるプッシュプル読取信号の極性を示す識別情報が記録されている制御データ領域を備え」に相当する。

結局、本願発明と刊行物発明との〔一致点〕及び〔相違点〕は以下のとおりである。
〔一致点〕
「少なくとも1の記録層を有する記録ディスクであって、
前記記録層から得られるプッシュプル読取信号の極性を示す識別情報が記録されている制御データ領域を備える記録ディスク。」の点。

〔相違点〕
制御データ領域について、本願発明は『BCA(burst cutting area)』であるとしているが、刊行物発明のものはこの構成まで言及していない点。

(3-2)判断
(イ)原査定で、周知例として引用した特開平2002-56544号公報には、
「【0012】BCAデータエリアのコンテンツが各記録媒体を個別に識別する識別情報として読み取られた場合には、とりわけ有効である。というのも、BCAデータエリアは、比較的粗い構造をしており、読み取り装置により極めて簡単に読み取ることができるからである。読み取りのためには、再生装置の対物レンズをフォーカス調整によって大まかにフォーカスするだけでよいのである。BCA情報は、走査ビームに対し、非常に大きく、記録媒体の特定の直径上にあるため、トラッキング調整は必要でない。したがって、BCA情報の読み取りの前に、フォーカスオフセットあるいはトラッキング調整のいかなるパラメータも調整する必要がない。」
「【0016】【発明の実施の形態】図1は、光記録媒体(1)を示したものであり、・・・(中略)・・・。なぜなら、BCAデータエリアは、比較的粗い構造をしており、読み取り装置により、極めて簡単に読み取ることができるからである。光学的読み取りユニット(2)の対物レンズを対応するフォーカス調整によって、大まかにフォーカスするだけでよいのである。BCAデータエリアは、光学的読み取りユニットの走査ビームに対して、非常に大きく、DVD-ROM(1)の特定の直径領域上にあるので、トラッキング調整は不要である。したがって、光学的読み取りユニット(2)の走査ビームが、DVD-ROM(1)の特定の直径領域、好ましくは該領域の中心に当たりさえすればよいのである。」
と、BCAのもつ作用効果として、トラッキングサーボオープン状態であっても再生可能であることが自明であることの記載がある。即ち、試し読み取りが不要であることはBCAに記録しておくことで可能である。

(ロ)また、上記『BCA(burst cutting area)』が多層のディスクに対しても設けられることも周知で(例:特開平11-224434号公報,特開2001-176203号公報,特開2001-222821号公報等を参照)、特段の構成でない。

(ハ)さらに、BCA領域を設けた記録ディスクにおいて、BCA領域に対して特定されたデータでない適宜の補助情報をもたせることも周知である(例:特開2001-189021号公報の「【0026】図3は、図1のBCA106の記録フォーマットを示す図である。図3に示すように、BCA106には、同期コード301、エラー検出コード302、エラー訂正コード303などがBCAデータ304の読み取り率を改善するために記録される。これらの複数のBCAデータ304を連結することによって、ディスク識別情報305が構成される。ディスク識別情報305には、ユーザデータ領域へ記録可能なデータの種別の種別、ユーザデータ領域から再生可能なデータの種別が記録される。BCA106のデータは改ざんが不可能であるため、光ディスク100の製造時に記録されるディスク識別情報により利用者のディスク使用に一定の制限を与えることができる。」さらに【図1】【図3】等を参照),
特開2001-256655号公報の「【0034】図1(b)は、BCA領域102のデータ構造を示している。BCA領域102のデータ先頭にはBCA用途識別子領域106が位置し、後続のBCA用途毎データ領域109のデータの使用目的を示す一意のコードが記録されている。製造者初期化ディスク101の場合、用途識別子には地域設定情報の製造者初期化用であることを示す0001h(hは16進数を示す)が記録されている。BCAバージョン領域107には、BCA用途毎データ領域109に記録されたデータ構造が従う規則のバージョンが記録される。BCAデータ長領域108には、後ろに続くBCA用途毎データ領域109のデータ長が指定される。製造者初期化ディスク101のBCA用途毎データ領域109には、媒体固有コードが記録されている。ここで媒体固有コードは、製造者初期化ディスク101の1枚毎に割当てられた固有なコードである。」さらに【0028】【0032】【0033】及び【図1】等を参照,
特開2001-222821号公報の「【0012】図2に示すBCAあるいは図3又は図4に示す2つのBCAには、種々の情報を記録することができる。すなわち、バーコードとして、ユーザ指定情報、レンタル情報、地域指定情報、言語指定情報、用途指定情報、使用可能期間指定情報、使用可能回数指定情報、使用可能プレーヤ指定情報、分解能指定情報、レイヤー指定情報のうち1つ以上を記録することができる。さらに、これらのBCAにはバーコードとして、著作権者情報、著作権番号情報、製造日情報、製造者情報、販売日情報、販売店情報、販売者情報、製品使用者情報、使用番号情報、使用セット番号情報のうち1つ以上を記録することができる。」さらに【0005】【0039】及び【0043】等を参照)。

以上のことから、刊行物発明においても上記各周知事項を採用して記録デイスクに『BCA(burst cutting area)』を設けるとともに『極性を示す識別情報』を記録する程度のことは当業者が適宜容易に想到できるものである。

そして、上記相違点についての判断を総合しても、本願発明の属する効果は引用文献及び周知技術を組み合わせるた構成から当業者が十分に予想可能なものであって、特に、審判請求人の請求の理由(3)で主張の「本願発明と引用技術との対比」の内容を参酌しても相違点に係る構成が格別なものとはいえないものである。


4.むすび
以上のとおりであって、本願の請求項1に係る発明は、上記刊行物発明及び周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願は、その余の請求項に論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-08-31 
結審通知日 2006-09-04 
審決日 2006-09-19 
出願番号 特願2002-258656(P2002-258656)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ゆずりは 広行  
特許庁審判長 江畠 博
特許庁審判官 片岡 栄一
中野 浩昌
発明の名称 記録ディスク及び記録情報再生装置並びに記録情報再生方法  
代理人 藤村 元彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ