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審決分類 |
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 G11B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B |
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管理番号 | 1147131 |
審判番号 | 不服2004-15528 |
総通号数 | 85 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2001-12-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-07-26 |
確定日 | 2006-11-09 |
事件の表示 | 特願2000-225094「情報記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成13年12月26日出願公開、特開2001-357534〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成12年7月26日(優先権主張 特願2000-107736 平成12年4月10日)の出願であって、平成15年5月12日付け拒絶理由通知に対して平成15年7月15日付けで意見書及び手続補正書が提出されたところ、平成16年6月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年7月26日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成16年8月25日付けで手続補正がなされたものである。 そして、平成18年3月6日付けで審尋がなされ、平成18年5月11日付けで回答書が提出された。 2.平成16年8月25日付け手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成16年8月25日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] (1)本件補正前及び本件補正後の本願発明 本件補正は、明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするもので、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正前に、 「【請求項1】 トラックが表面に形成された支持体上に記録層と、樹脂層とが少なくとも順次積層され、かつ半径方向に互いに重なることがなく記録再生領域と再生専用領域が形成された円盤状の情報記録媒体であって、 前記記録再生領域と前記再生専用領域との間の最も近接したトラック間隔を25μm以下にし、前記再生専用領域から再生されるプッシュプル信号出力をT1、記録前の前記記録再生領域から再生されるプッシュプル信号出力をT2とするとき、前記再生専用領域及び前記記録再生領域のトラック深さを 0.25≧T1≧0.1、かつ0.45≧T2≧0.1、かつ1.5≧T1/T2≧0.5の関係を有するようにしたことを特徴とする情報記録媒体。」 とあったのを、 「【請求項1】 トラックが表面に形成された支持体上に記録層と、樹脂層とが少なくとも順次積層され、かつ半径方向に互いに重なることがなく記録再生領域と再生専用領域が形成された円盤状の情報記録媒体であって、 前記記録再生領域と前記再生専用領域との間の最も近接したトラック間隔を25μm以下にし、 前記記録再生領域のトラックピッチと、前記再生専用領域のトラックピッチとを共に0.74μmとし、 再生光の波長λが650nm、対物レンズの開口数NAが0.6であり、前記記録再生領域或いは前記再生専用領域で反射された前記再生光を検出する4分割フォトディテクターを有した光ピップアップを用いて、前記記録再生領域及び前記再生専用領域を再生する際、前記4分割フォトディテクターの再生出力の半径方向差分を前記4分割フォトディテクターの再生出力の総和で除したものを正規化プッシュプル信号、前記再生専用領域のピットから再生される正規化プッシュプル信号出力をT1、記録前の前記記録再生領域のグルーブから再生される正規化プッシュプル信号出力をT2、前記再生専用領域のピット深さをd1、前記記録再生領域のグルーブ深さをd2とし、 前記正規化プッシュプル信号出力T1が前記再生専用領域のピット深さd1の関数で表され、前記正規化プッシュプル信号出力T2が前記記録再生領域のグルーブ深さd2の関数で表されるとき、 前記再生専用領域のピット深さd1及び前記記録再生領域のグルーブ深さd2を0.25≧T1≧0.1、かつ0.45≧T2≧0.1、かつ1.5≧T1/T2≧0.5の関係を有するように形成したことを特徴とする情報記録媒体。」 と補正するものである。 両者を比較検討すると、上記本件補正は、請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「トラック」について、「前記記録再生領域のトラックピッチと、前記再生専用領域のトラックピッチとを共に0.74μm」とする点の限定を付加し、同じく「プッシュプル信号」について、「再生光の波長λが650nm、対物レンズの開口数NAが0.6であり、前記記録再生領域或いは前記再生専用領域で反射された前記再生光を検出する4分割フォトディテクターを有した光ピップアップを用いて、前記記録再生領域及び前記再生専用領域を再生する際、前記4分割フォトディテクターの再生出力の半径方向差分を前記4分割フォトディテクターの再生出力の総和で除したもの」に限定して「正規化プッシュプル信号」とし、同じく「再生専用領域及び記録再生領域のトラック深さ」を「再生専用領域のピット深さd1」と「記録再生領域のグルーブ深さd2」に限定するとともに、関数関係は「前記正規化プッシュプル信号出力T1が前記再生専用領域のピット深さd1の関数で表され、前記正規化プッシュプル信号出力T2が前記記録再生領域のグルーブ深さd2の関数で表されるとき」との点を限定したものであり、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に適合するか)否か、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)について以下に検討する。 (2)引用例 原査定の拒絶の理由において引用された、本願の優先権主張の日前の他の出願であって、その出願後に出願公開された特願平11-157406号(特開2000-348388号公報参照)の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、「先願明細書」という。)には、光記録媒体に関して、図面とともに次の技術事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。 (a) 「【特許請求の範囲】 【請求項1】基板上に少なくともランド部とグルーブ部で構成された記録可能領域と、あらかじめ情報が記録されているプレピット領域をもち、これらは、渦巻状あるいは同心円状に配列されており、前記ランド部、グルーブ部のうち少なくともグルーブ部に記録が可能な光記録媒体であって、グルーブ深さ(Dg)とプレピットの深さ(Dp)が、 Dg<(λ/8n) (λ/8n)<Dp<(λ/4n) を満たすように構成されていることを特徴とした光記録媒体。ここでλは、情報信号の記録再生に用いる光の波長、nは基板の屈折率を表わす。 【請求項2】請求項1記載の光記録媒体であって、記録可能領域で得られるプッシュプル信号の大きさと、プレピット領域で得られるプッシュプル信号の大きさが、ほぼ等しくなるようにグルーブ深さとプレピット深さが調整されていることを特徴とした光記録媒体。 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、書き込みもしくは書き換え可能な情報記録媒体、より詳細には光ディスクに関する。 【0002】 【従来の技術】近年では、コンピュータの記録装置や音楽、画像情報等のパッケージメディアとしての書き込みもしくは書き換え可能な光ディスクの高密度化が進んでいる。このような高密度トラックに精度良く、高速アクセスを行うためには、光ディスクの情報記録再生を行う記録媒体面にアドレス情報をもったプリフォーマット信号が必要である。また、消えてほしくない情報は、プリフォーマット信号として、あらかじめ、ディスクに形成しておくことも出来る。プリフォーマット部以外の部位にはグルーブと呼ばれる案内溝が形成された記録可能領域であり、溝であるグルーブと溝ではないランドが存在する。図7(a)(b)は従来のディスクを表わす図であり、(a)は上面図、(b)は斜視図である。(b)ではディスク断面も表示している。Gはグルーブを表わし、Lはランドを表わす。PPはプレピットである。光3はレンズ2で集光された後に基板1を通して入射され、ランドとグルーブではグルーブのほうがレンズ2に近い。ランドやグルーブやプレピット上には、光磁気材料、相変化材料、感光色素等に代表される記録層が形成され(図示していない)、図では、記録マークMはグルーブに書かれる。これはグルーブに書いた方がランドに書くよりも良好な信号品質が得られるためである。この様に案内溝であるグルーブが形成された光ディスクに情報を記録あるいは再生する際には、プッシュプル法でトラッキングがなされ、光ビームスポットは、グルーブ上とプレピット上を追従することとなる。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】ここで、グルーブ深さDgが浅いほど、グルーブに書かれたマークによる信号振幅は大きくなるので、S/Nは良好となる。従って、高密度化されたディスクほど、S/Nのよい信号を得るために、Dgを小さくする。 一方、Dpがλ/4nのとき、プレピットの信号振幅は最大となり、浅いプレピットでは信号振幅が小さくなる。そのため、上述のようにDgとDpを共に浅くすると、プレピットの信号が小さくなってしまい、プリフォーマットしたアドレス情報等の消えてほしくない情報が、読みづらくなるという困難がある。また、浅いプレピット上に誤って記録がなされると、元々あったプレピット信号振幅に比べて、書かれたマークの信号振幅が大きいため、本来ROMとしてプリフォーマットしたはずの情報が読めなくなり、更に悪い状況としてはROM情報が書き換えられてしまい、ディスクの信頼性に重大な欠陥が生じる。また、Dg=Dpのディスクではグルーブ領域のプッシュプル信号に比べて、プレピット領域でのプッシュプル信号が小さいため、グルーブ部にトラッキングのゲインを合わせるとプレピット部ではプッシュプル信号の振幅が小さくなってしまうためトラッキングサーボの制御精度が悪くなる一方、逆にプレピット部にトラッキングのゲインを合わせると、グルーブ部ではプッシュプル信号の振幅が過大となりトラッキングサーボ系が発振してしまう。この様な問題点を解決するには、光ビームスポットがグルーブ・プレピット各部に差し掛かる毎にトラッキングのゲインを切り替えることが考えられるが、これは、回路の複雑化を招き、コストアップの要因となる。本発明は、係る問題を解決するためになされたものであり、少なくともグルーブに記録が行われるプレピット付きの光ディスクにおいて、記録されたマークによる信号も、プレピットによる信号も共に大きな信号が得られるため高い信頼性があり、また、グルーブ部でもプレピット部でも同等のプッシュプル信号が得られるため、正確なトラッキングを行うことが出来、これを使用する記録再生装置の回路の複雑化、コストアップを招くことの無い、信頼性の高い光記録媒体を提供することを目的としている。 【0004】 【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、請求項1の光記録媒体は、グルーブ深さ(Dg)とプレピットの深さ(Dp)が、 Dg<(λ/8n)(λ/8n)<Dp<(λ/4n)を満たすように構成されていることを特徴としている。ここでλは、情報信号の記録再生に用いる光の波長、nは基板の屈折率を表わす。請求項2の光記録媒体は、請求項1の光記録媒体で、グルーブ部で得られるプッシュプル信号の大きさと、プレピット部で得られるプッシュプル信号の大きさが、ほぼ等しくなるようにグルーブ深さとプレピット深さが調整されていることを特徴とを特徴としている。 【0005】 【発明の実施の形態】以下、比較例や本発明を適用した具体的な実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。波長650nmのレーザー光とNA0.6のレンズからなる光学系を用いて、トラックピッチ(グルーブとグルーブの間隔)0.74μmで、様々なグルーブ深さ(Dg)や、プレピット深さ(Dp)をもつディスクに対して実験を行った。グルーブとプレピットの幅は0.5μmである。記録層には相変化材料であるGeSbTeを使用した。線速3.5m/sでディスクを回転させ記録、再生した。」 (b) 図4は「本発明に係る光記録媒体を模式的に示す図」であり、該図4を参照すると、プレピット領域と記録可能領域とが、半径方向に重ならずに設けられている。 これらの記載と図面の記載とを総合勘案すれば、先願明細書には、 「プレピット及びグルーブが形成された基板上に記録層が積層され、かつ半径方向に重ならないプレピット領域と記録可能領域が形成された光ディスクであって、 トラックピッチが0.74μmであり、 波長650nmのレーザー光とNA0.6のレンズからなる光学系を用いて、前記プレピット領域と記録可能領域とを再生する際、前記記録可能領域で得られるプッシュプル信号の大きさと、プレピット領域で得られるプッシュプル信号の大きさが、ほぼ等しくなるように前記記録可能領域のグルーブ深さと前記プレピット領域のプレピット深さが調整されている 光ディスク。」 の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認めることができる。 (3)対比 そこで、本願補正発明と先願発明とを比較する。 (i) 先願発明の「プレピット及びグルーブが形成された基板」、「記録層」、「プレピット領域」、「記録可能領域」及び「光ディスク」は、本願補正発明の「トラックが表面に形成された支持体」、「記録層」、「再生専用領域」、「記録再生領域」及び「円盤状の情報記録媒体」にそれぞれ相当する。そして、先願発明の「プレピット領域」と「記録可能領域」とは半径方向に重ならずに設けられており、この点においても本願補正発明と共通している。 (ii) 先願発明の「トラックピッチが0.74μm」は、プレピット領域と記録可能領域の両者で共通しており、本願補正発明の「前記記録再生領域のトラックピッチと、前記再生専用領域のトラックピッチとを共に0.74μm」に相当する。 (iii) 先願発明の「波長650nmのレーザー光とNA0.6のレンズからなる光学系を用いて、前記プレピット領域と記録可能領域とを再生する際」は、本願補正発明の「再生光の波長λが650nm、対物レンズの開口数NAが0.6」である「光ピップアップを用いて、前記記録再生領域及び前記再生専用領域を再生する際」に相当する。 (iv) 先願発明の「プレピット領域で得られるプッシュプル信号の大きさ」について、該プッシュプル信号はプレピット領域に形成されたプレピットに基づくものであるから、この点において本願補正発明の「再生専用領域のピットから再生されるプッシュプル信号出力T1」に相当し、先願発明の「記録可能領域で得られるプッシュプル信号の大きさ」について、該プッシュプル信号は記録可能領域に形成されたグルーブに基づくものであるから、この点において本願補正発明の「記録再生領域のグルーブから再生されるプッシュプル信号出力T2」に相当する。 (v) 先願発明の「プレピット領域のプレピット深さ」及び「記録可能領域のグルーブ深さ」は、本願補正発明の「再生専用領域のピット深さd1」及び「記録再生領域のグルーブ深さd2」にそれぞれ相当する。 (vi) 先願明細書の図2等を参照すれば明らかなように、先願発明は、前記プレピット領域で得られるプッシュプル信号の大きさが前記プレピット深さに依存し、前記記録可能領域で得られるプッシュプル信号の大きさが前記グルーブ深さに依存していることを前提とするものであり、本願補正発明の「前記プッシュプル信号出力T1が前記再生専用領域のピット深さd1の関数で表され、前記プッシュプル信号出力T2が前記記録再生領域のグルーブ深さd2の関数で表される」と共通している。 そうすると、本願補正発明と先願発明とは次の点で一致する。 <一致点> 「トラックが表面に形成された支持体上に相変化材料からなる記録層が積層され、かつ半径方向に互いに重なることがなく記録再生領域と再生専用領域が形成された円盤状の情報記録媒体であって、 前記記録再生領域のトラックピッチと、前記再生専用領域のトラックピッチとを共に0.74μmとし、 再生光の波長λが650nm、対物レンズの開口数NAが0.6である光ピップアップを用いて、前記記録再生領域及び前記再生専用領域を再生する際、前記再生専用領域のピットから再生されるプッシュプル信号出力をT1、記録前の前記記録再生領域のグルーブから再生されるプッシュプル信号出力をT2、前記再生専用領域のピット深さをd1、前記記録再生領域のグルーブ深さをd2とし、 前記プッシュプル信号出力T1が前記再生専用領域のピット深さd1の関数で表され、前記プッシュプル信号出力T2が前記記録再生領域のグルーブ深さd2の関数で表される 情報記録媒体。」 一方、次の各点で形式的に一応相違する。 (相違点1) 本願補正発明では、記録層上に樹脂層が積層されているのに対し、先願発明では「樹脂層」について明示されていない点。 (相違点2) 本願補正発明では、記録再生領域と再生専用領域との間の最も近接したトラック間隔を25μm以下にしているのに対し、先願発明ではこの点が明示されていない点。 (相違点3) 本願補正発明では、記録再生領域あるいは再生専用領域で反射された再生光を検出する4分割フォトディテクターを有し、前記4分割フォトディテクターの再生出力の半径方向差分を前記4分割フォトディテクターの再生出力の総和で除したものを正規化プッシュプル信号としているのに対し、先願発明ではどのようにプッシュプル信号を検出しているのか明示されていない点。 (相違点4) 本願補正発明では、再生専用領域のピット深さd1及び記録再生領域のグルーブ深さd2を0.25≧T1≧0.1、かつ0.45≧T2≧0.1、かつ1.5≧T1/T2≧0.5の関係を有するように形成しているのに対し、先願発明では、記録可能領域で得られるプッシュプル信号の大きさと、プレピット領域で得られるプッシュプル信号の大きさが、ほぼ等しくなるように前記記録可能領域のグルーブ深さと前記プレピット領域のプレピット深さが調整されているもので上記設定の記載がない点。 (4)判断 形式的な相違点1について: 先願発明のような相変化材料からなる記録層を有する光ディスクにおいて、該記録層上に保護層としての樹脂層を設けることは例示するまでもなく当該技術分野において本願出願前に周知技術であり、先願発明の光ディスクにおいて記録層上に樹脂層を設けることは、単なる周知技術の付加に相当し、かつ新たな効果を奏するものではなく、当業者にとって自明な事項というべきである。 形式的な相違点2について: 先願発明では、プリピット領域と記録再生領域との間の間隔について明示されていないが、該間隔を2つの領域間で円滑なジャンプ動作を行える距離とすることは当業者にとって当然ないしは自明な事項であり、実際にトラック間隔を25μm以下の任意の値とすることも、例えば特開平10-105978号公報の段落0020や、特開平8-22640号公報の段落0044にも見られるように当該技術分野において本願出願前に周知の事項にすぎないものである。したがって、先願発明の光ディスクにおいて、プリピット領域と記録再生領域との間隔を25μm以下の任意の値とすることは、単なる周知技術の付加に相当し、かつ新たな効果を奏するものではなく、当業者にとって自明な事項というべきである。 形式的な相違点3について: 先願発明では、光ディスクの記録可能領域及びプレピット領域からの反射光をどのような検出器により検出しているのか明示されていないが、前記反射光を前記光ディスクの半径方向及びトラック方向に分割線を有する4分割の光検出器(フォトディテクター)により検出することは、例示するまでもなく当該技術分野において本願出願前に慣用されている技術にすぎない。加えて、前記4分割光検出器(フォトディテクター)出力の半径方向差分からプッシュプル信号を検出し、該プッシュプル信号からトラッキングエラー信号を生成して、光学系(光ピックアップ)のトラッキング方向の位置を制御することも、いわゆる「プッシュプル法」として当該技術分野において本願出願前に慣用されている技術である。 更に、前記「プッシュプル法」を採用する場合、プッシュプル信号をそのまま利用してトラッキングエラー信号を生成することも、プッシュプル信号を4分割光検出器(フォトディテクター)の出力の総和で正規化し、正規化したプッシュプル信号からトラッキングエラー信号を生成することも、共に当該技術分野において本願出願前に周知技術であるから、先願発明において、反射光の検出に4分割フォトディテクターを用いるとともに、プッシュプル信号を正規化プッシュプル信号とすることは、単なる周知慣用技術の付加ないしは置換したものに相当し、かつ新たな効果を奏するものではないものというべきである。 形式的な相違点4について: まず、本願補正発明において、再生専用領域のピット深さd1及び記録再生領域のグルーブ深さd2を0.25≧T1≧0.1、かつ0.45≧T2≧0.1とする点について検討すると、T1(再生専用領域のピットから再生される正規化プッシュプル信号出力)及びT2(記録再生領域のピットから再生される正規化プッシュプル信号出力)の上限値は、実際に正規化プッシュプル信号として得られる出力の最大値を特定したにすぎないものであって、当業者にとって自明である。一方、下限値について、正規化プッシュプル信号が小さすぎる場合に、光ピックアップを良好にトラッキング制御することができないことは、当該技術分野における技術常識であるところ、所望の再生特性を有するように正規化等の規格値によりプッシュプル信号出力の大きさを設定することは当業者にとって自明ないしは当然のことである。よって、前記T1及びT2の前記範囲は、必要に応じ当業者が適宜なし得る範囲である。 次に、本願補正発明において、1.5≧T1/T2≧0.5とする点について検討すると、先願発明の「前記記録可能領域で得られるプッシュプル信号の大きさと、プレピット領域で得られるプッシュプル信号の大きさが、ほぼ等しくなるように前記記録可能領域のグルーブ深さと前記プレピット領域のプレピット深さが調整されている」についてであるが、言い換えれば、プレピット深さとグルーブ深さを、プレピット領域で得られるプッシュプル信号の大きさと記録可能領域で得られるプッシュプル信号の大きさとの比がほぼ1となるように設定することであるから、正規化プッシュプル信号とプッシュプル信号という形式上の差異はあるものの、「再生専用領域のピットから再生されるプッシュプル信号出力」と「記録再生領域のピットから再生されるプッシュプル信号出力」との比をほぼ1にする点において両者は共通している。 また、前記2つのプッシュプル信号出力が前述の関係を満たす場合に、先願発明と本願補正発明とでピット深さ及びグルーブ深さを比較すると、前者は Dg(グルーブ深さ)<λ/8n、 λ/8n<Dp(プレピットの深さ)<λ/4n であり、両式を変形すると以下のようになる。 nDg/λ<1/8=0.125 1/8=0.125<nDp/λ<1/4=0.25 一方、後者は本件明細書段落0011において、nd1/λが0.12?0.22、nd2/λが0.02?0.12である旨記載されており、ピット深さ及びグルーブ深さの望ましい範囲が両者の間でほぼ共通している。してみれば、本願補正発明のように「0.25≧T1≧0.1、かつ0.45≧T2≧0.1、かつ1.5≧T1/T2≧0.5の関係を有するように形成」したピット及びグルーブと、先願発明のように「記録可能領域で得られるプッシュプル信号の大きさと、プレピット領域で得られるプッシュプル信号の大きさが、ほぼ等しくなるように調整」されたピット及びグルーブとの間で、深さの点で実質的な差異はないというべきである。 したがって、本願補正発明は、先願明細書に記載された発明と実質的に同一であり、しかも、本願補正発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本願補正発明は、特許法29条の2の規定により特許を受けることができない。 (5)本件補正についての結び 以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条の2の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件手続補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.本願発明について (1)本願発明 平成16年8月25日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成15年7月15日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「トラックが表面に形成された支持体上に記録層と、樹脂層とが少なくとも順次積層され、かつ半径方向に互いに重なることがなく記録再生領域と再生専用領域が形成された円盤状の情報記録媒体であって、 前記記録再生領域と前記再生専用領域との間の最も近接したトラック間隔を25μm以下にし、前記再生専用領域から再生されるプッシュプル信号出力をT1、記録前の前記記録再生領域から再生されるプッシュプル信号出力をT2とするとき、前記再生専用領域及び前記記録再生領域のトラック深さを 0.25≧T1≧0.1、かつ0.45≧T2≧0.1、かつ1.5≧T1/T2≧0.5の関係を有するようにしたことを特徴とする情報記録媒体。」 (2)引用例 原査定において引用された引用例及びその記載事項は、前記「2.[理由](2)引用例」に記載したとおりである。 (3)対比・判断 本願発明は、上記「2.」で検討した本願補正発明から、請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「トラック」について、「前記記録再生領域のトラックピッチと、前記再生専用領域のトラックピッチとを共に0.74μm」とする点の限定を省き、同じく「正規化プッシュプル信号」について、「再生光の波長λが650nm、対物レンズの開口数NAが0.6であり、前記記録再生領域或いは前記再生専用領域で反射された前記再生光を検出する4分割フォトディテクターを有した光ピップアップを用いて、前記記録再生領域及び前記再生専用領域を再生する際、前記4分割フォトディテクターの再生出力の半径方向差分を前記4分割フォトディテクターの再生出力の総和で除したもの」とする限定を省いて「プッシュプル信号」に戻し、同じく「再生専用領域のピット深さd1」と「記録再生領域のグルーブ深さd2」について、単なる「再生専用領域及び記録再生領域のトラック深さ」に戻し、更に「前記正規化プッシュプル信号出力T1が前記再生専用領域のピット深さd1の関数で表され、前記正規化プッシュプル信号出力T2が前記記録再生領域のグルーブ深さd2の関数で表される」点の限定を省いたものである。 そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が,前記「2.」に記載したとおり、先願明細書に記載された発明と実質的に同一であるから、本願発明も同様の理由により、先願明細書に記載された発明と実質的に同一である。更に、本願発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められない。 (4)むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、先願明細書に記載された発明と実質的に同一であり、かつ前記発明の発明者が前記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないから、特許法29条の2の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-09-01 |
結審通知日 | 2006-09-12 |
審決日 | 2006-09-25 |
出願番号 | 特願2000-225094(P2000-225094) |
審決分類 |
P
1
8・
161-
Z
(G11B)
P 1 8・ 575- Z (G11B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | ゆずりは 広行、殿川 雅也、蔵野 雅昭、中野 和彦 |
特許庁審判長 |
片岡 栄一 |
特許庁審判官 |
中野 浩昌 江畠 博 |
発明の名称 | 情報記録媒体 |