• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1147133
審判番号 不服2004-16721  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-08-11 
確定日 2006-11-09 
事件の表示 特願2000-319615「薄膜磁気ヘッド及び薄膜磁気ヘッドの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 4月26日出願公開、特開2002-123910〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年10月16日の出願であって、平成16年6月18日付けで手続補正がなされ、同年7月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月11日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明について
1.本願発明
本願の請求項1乃至16に係る発明は、平成16年6月18日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至16に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「下部コア層と、前記下部コア層に対向する上部コア層と、前記上下コア層間に設けられて、前記上部コア層に接合する上部磁極層と、該上部磁極層と前記下部コア層間に介在する磁気ギャップ層と、前記上部コア層と前記上部磁極層の接合面高さよりも前記下部コア層側に位置する第1のコイル層と、前記接合面よりも前記上部コア層側に位置する第2のコイル層とを有し、前記第1のコイル層は、コイル導体厚さが、第2のコイル層のコイル導体厚さよりも薄く、前記第2のコイル層のコイル導体間隔は、前記第1のコイル層の導体間隔よりも狭いことを特徴とする薄膜磁気ヘッド。」

2.引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-353616号公報(以下、「引用例1」という。)には、「薄膜磁気ヘッドおよびその製造方法」に関し、次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与したものである。)
(ア)「【特許請求の範囲】【請求項1】 磁気的に連結され、且つ記録媒体に対向する側の一部が記録ギャップ層を介して対向する第1の磁極および第2の磁極を含む少なくとも2つの磁性層と、磁束を発生させるための1層あるいは2層以上の薄膜コイルとを有する薄膜磁気ヘッドであって、前記第1の磁極を含む第1の磁性層と、前記第2の磁極を構成する磁極先端部と、少なくとも、前記磁極先端部および前記記録ギャップ層の前記記録媒体に対向する側の反対面から前記第1の磁性層の一方の面に連続的に形成された第1の絶縁層と、少なくともその膜厚方向の一部が、前記第1の絶縁層が形成されている領域内に形成された少なくとも一層の薄膜コイルと、少なくとも、前記薄膜コイルの巻線間に形成された第2の絶縁層と、前記磁極先端部の前記記録ギャップ層との隣接面の反対面の少なくとも一部に接続されると共に、前記薄膜コイルの少なくとも一部を覆うように形成された第2の磁性層とを備えたことを特徴とする薄膜磁気ヘッド。」
(イ)「【請求項4】 前記薄膜コイルの膜厚方向の全部が、前記第1の絶縁層が形成されている領域内に形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の薄膜磁気ヘッド。」
(ウ)「【請求項10】 前記第2の絶縁層が、前記磁極先端部の前記記録ギャップ層との隣接面の反対面と実質的に同一面となるように形成されていることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の薄膜磁気ヘッド。」
(エ)「【請求項12】 前記第2の絶縁層と前記第2の磁性層との間に、更に、前記第1および第2の絶縁層とは異なる他の絶縁層に覆われて形成された少なくとも1層の薄膜コイルを備えたことを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載の薄膜磁気ヘッド。」
(オ)「【0045】まず、図9(a),(b)を参照して本実施の形態に係る複合型薄膜磁気ヘッドの構成について説明する。(略)」
(カ)「【0047】記録ヘッド部1Bは、この読み出しヘッド部1A上に、MR膜15に対する上部シールド層を兼ねる下部磁極(下部ポール)18および記録ギャップ層19を介して上部磁極を形成したものである。本実施の形態では、上部磁極は2分割されており、トラック面側において記録ギャップ層19上に形成された磁極先端部(ポールチップ)20と、この磁極先端部20に接触すると共にエイペックス部の上面に沿って形成され、ヨーク部を兼ねた上部磁極層(上部ポール)25とにより構成されている。(略)」
(キ)「【0048】本実施の形態においては、下部磁極18が本発明の第1の磁極および第1の磁性層に対応し、また、磁極先端部20が本発明の第2の磁極、上部磁極層25が本発明の第2の磁性層にそれぞれ対応している。」
(ク)「【0049】本実施の形態では、磁極先端部20、記録ギャップ層19および下部磁極18の突状加工部に隣接した領域をコイル形成領域26と称する。すなわち、このコイル形成領域26は、磁極先端部20をマスクにして記録ギャップ層19および下部磁極18の表面をエッチングして形成された凹部18aを含む領域に対応している。このコイル形成領域26の内壁面(底面および側壁面)には絶縁層21aが形成されている。この絶縁層21a上に1層目の薄膜コイル22が形成されている。薄膜コイル22のコイル間、および薄膜コイル22と絶縁層21aとの間は絶縁層21bにより埋め込まれており、この絶縁層21bの表面と磁極先端部20の表面とが同一面を構成するように平坦化されている。よって、この薄膜コイル22の分だけ、後述の薄膜コイル23を含むエイペックス部の段差が低くなっている。なお、絶縁層21aが本発明の第1の絶縁層、絶縁層21bが本発明の第2の絶縁層にそれぞれ対応している。」
(ケ)「【0050】平坦化された絶縁層21b上には2層目の薄膜コイル23が形成されており、この薄膜コイル23は例えばフォトレジストからなる絶縁層24により覆われている。この絶縁層24が本発明の他の絶縁層に対応している。(略)」

これらの記載事項、特に(ア)?(エ)(下線部参照)によれば、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「磁気的に連結され、且つ記録媒体に対向する側の一部が記録ギャップ層を介して対向する第1の磁極および第2の磁極を含む少なくとも2つの磁性層と、磁束を発生させるための2層の薄膜コイルとを有する薄膜磁気ヘッドであって、
前記第1の磁極を含む下部磁極と、
前記第2の磁極を構成する磁極先端部と、
少なくとも、前記磁極先端部および前記記録ギャップ層の前記記録媒体に対向する側の反対面から前記下部磁極の一方の面に連続的に形成された第1の絶縁層と、
少なくともその膜厚方向の一部が、前記第1の絶縁層が形成されている領域内に形成された1層目の薄膜コイルと、
少なくとも、前記1層目の薄膜コイルの巻線間に形成された第2の絶縁層と、前記磁極先端部の前記記録ギャップ層との隣接面の反対面の少なくとも一部に接続されると共に、前記薄膜コイルの少なくとも一部を覆うように形成された上部磁極層とを備えた薄膜磁気ヘッドであって、
前記1層目の薄膜コイルの膜厚方向の全部が、前記第1の絶縁層が形成されている領域内に形成され、前記第2の絶縁層が、前記磁極先端部の前記記録ギャップ層との隣接面の反対面と実質的に同一面となるように形成され、
前記第2の絶縁層と前記上部磁極層との間に、更に、前記第1および第2の絶縁層とは異なる他の絶縁層に覆われて形成された2層目の薄膜コイルを備えた、
薄膜磁気ヘッド。」

さらに、引用例1には、次の記載がある。
(コ)「【0038】(略)最外部の薄膜コイルを覆いエイペックスアングルを規定する絶縁層の傾斜面がなだらかになるように構成することが好ましい。」
(サ)「【0070】(略)このようにエイペックス部がなだらかになることにより、上部磁極層25aをパターニングするためのフォトレジスト膜の微細化が可能になり、よって上部磁極層25の微細化がより容易になる。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された特開平2-257409号公報(以下、「引用例2」という。)には、「薄膜磁気ヘッド」に関し、次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与したものである。)
(ア)「【特許請求の範囲】1)基板と、前記基板の表面に薄膜形成される下部磁性層と、前記下部磁性層上に所定巻数のコイル部を構成するよう薄膜形成された複数の導電層と、前記下部磁性層と磁気的に結合された上部磁性層と、前記各層間に形成される複数の層間絶縁層を有する薄膜磁気ヘッドにおいて、前記複数の導電層を積層構造とし、且つ、各導電層の厚みを互いに異ならしめるとともに、少なくとも一断面における各導電層の断面積を等しくしたことを特徴とする薄膜磁気ヘッド。」
(イ)「第1導電層3a、第2導電層3bおよび第3導電層3cの構造を第2図(第1図中のA-A′線における断面図)を用いて説明する。図中各導電層の最も細い線幅をそれぞれWl、W2、W3、また各導電層の膜厚をそれぞれT1、T2、T3とする。」(第3頁左下欄第14?19行)
(ウ)「各層の線幅は、上部磁性層7の乗り越える段差が緩やかになるように、Wl>W2>W3となるように形成されている。」(第3頁右下欄第8?10行)
(エ)「線幅が上層ほど小さくしてあるので、その厚みは上記の面積の条件を満たすために、Tl<T2<T3としてある。」(第3頁右下欄第15?18行)
(オ)「また、1層当り2巻以上のコイルを形成する方法も考えられる。」(第4頁右下欄第13,14行)

3.対比
本願発明と引用例1発明とを比較する。
引用例1発明の「下部磁極」、「上部磁極層」、「磁極先端部」、「記録ギャップ層」、「1層目の薄膜コイル」、「2層目の薄膜コイル」は、それぞれ、本願発明の「下部コア層」、「上部コア層」、「上部磁極層」、「磁気ギャップ層」、「第1のコイル層」、「第2のコイル層」に相当する。
引用例1発明の「上部磁極層」が接続される「磁極先端部の記録ギャップ層との隣接面の反対面」は、本願発明の「上部コア層と上部磁極層の接合面」に相当する。
引用例1発明の「1層目の薄膜コイル」は、「前記1層目の薄膜コイルの膜厚方向の全部が、前記第1の絶縁層が形成されている領域内に形成され、前記第2の絶縁層が、前記磁極先端部の前記記録ギャップ層との隣接面の反対面と実質的に同一面となるように形成され」ているから、本願発明の「上部コア層と上部磁極層の接合面高さよりも下部コア層側に位置する第1のコイル層」に相当する構成を備えている。
引用例1発明の「2層目の薄膜コイル」は、「前記第2の絶縁層と前記上部磁極層との間に、更に、前記第1および第2の絶縁層とは異なる他の絶縁層に覆われて形成され」ているから、本願発明の「接合面よりも上部コア層側に位置する第2のコイル層」に相当する構成を備えている。
したがって、本願発明と引用例1発明は、
「下部コア層と、前記下部コア層に対向する上部コア層と、前記上下コア層間に設けられて、前記上部コア層に接合する上部磁極層と、該上部磁極層と前記下部コア層間に介在する磁気ギャップ層と、前記上部コア層と前記上部磁極層の接合面高さよりも前記下部コア層側に位置する第1のコイル層と、前記接合面よりも前記上部コア層側に位置する第2のコイル層とを有する薄膜磁気ヘッド。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点) 本願発明は、第1のコイル層は、コイル導体厚さが、第2のコイル層のコイル導体厚さよりも薄く、第2のコイル層のコイル導体間隔は、第1のコイル層の導体間隔よりも狭いと特定しているのに対し、引用例1発明は、第1のコイル層及び第2のコイル層のコイル導体厚さとコイル導体間隔の大小関係について、特定していない点。

4.判断
相違点について検討する。
引用例1発明において、その第1のコイル層及び第2のコイル層のコイル導体の寸法やコイル導体間隔は、薄膜磁気ヘッドの設計に際し、当業者が適宜選択すべき事項であり、第1のコイル層と第2のコイル層のそれぞれの導体厚さや間隔が同じでなければならないという格別の理由もないものである。
ところで、引用例1と同様の薄膜磁気ヘッドに関して、引用例2には、コイルの導電層の寸法等について、下層の導電層の導体厚さを上層の導電層の導体厚さよりも薄くし(上記2.(2)の(ア)(エ)参照。)、上層の導電層の幅を下層の導電層の幅より狭くすることで、上部磁性層の乗り越える段差が緩やかになるようにする技術(上記2.(2)の(ウ)参照。)が記載されている。
また、引用例2には、上記技術が、引用例2の実施例や図面に示されたもののみに限定されるのでなく、導電層が1層当り2巻以上のコイルである場合も対象とするものであることが示唆されて(上記2.(2)の(オ)参照。)いることから、上部磁性層の乗り越える段差が緩やかになるよう、上層のコイル層の全体形状(上層のコイル導体幅やコイル導体間隔の合計)が、下層のコイル層の全体形状(下層のコイル導体幅やコイル導体間隔の合計)より幅狭くなるようにすることが示されているといえる。
そして、引用例1には、エイペックス部をなだらかにする(上記2.(1)の(コ)(サ)参照。)、すなわち、上部磁性層(引用例1発明の「上部磁極層」、本願発明の「上部コア層」に相当するもの。)の乗り越える段差を緩やかにすることが望ましい旨の記載があることから、引用例1発明において、上部磁性層の乗り越える段差を緩やかにするよう、引用例2に記載された技術を採用し、下層である第1のコイル層のコイル導体厚さが、上層である第2のコイル層のコイル導体厚さよりも薄く、上層である第2のコイル層の全体形状が下層である第1のコイル層の全体形状より幅狭くなるよう、第2のコイル層のコイル導体間隔が第1のコイル層のそれよりも狭くするようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

本願発明の作用効果について、審判請求人は、請求の理由において、第2のコイル層のコイル導体間隔が狭いから、磁路長を短くすることによって、低インダクタンス及び高周波記録に適切に対応するという作用効果を奏する旨、主張している。
しかしながら、コイル導体間隔を狭くすることで、磁路長を短くすることができ、低インダクタンス及び高周波記録に対応できることは、薄膜磁気ヘッドにおいて従来より周知の事項(例えば、特開2000-182215号公報(段落【0031】?【0034】の従来技術の説明)、特開2000-011323号公報(段落【0004】?【0005】の従来技術の説明)、特開平11-283216号公報(段落【0015】?【0016】の従来技術の説明)等を参照。)である。
よって、本願発明の作用効果も、引用例1、引用例2及び周知の事項から当業者が予測できる範囲のものである。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用例1,2に記載された発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
他の請求項を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-09-11 
結審通知日 2006-09-12 
審決日 2006-09-25 
出願番号 特願2000-319615(P2000-319615)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 豊  
特許庁審判長 小林 秀美
特許庁審判官 片岡 栄一
吉村 伊佐雄
発明の名称 薄膜磁気ヘッド及び薄膜磁気ヘッドの製造方法  
代理人 野▲崎▼ 照夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ