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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  E05C
審判 一部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  E05C
管理番号 1152391
審判番号 無効2006-80033  
総通号数 88 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-04-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-03-01 
確定日 2007-01-25 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3015292号発明「両開きドア」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3015292号の請求項1ないし2に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3015292号に係る発明は、平成7年12月15日に特許出願されたものであって、平成11年12月17日にその発明について特許の設定登録がなされたものであり、その後の平成18年3月1日に本件特許の請求項1及び2に係る発明につき無効審判が請求され、これに対して、被請求人より平成18年5月19日に答弁書及び訂正請求書が提出され、平成18年7月20日に弁駁書が提出された。

2.訂正の適否
(1)訂正の内容
平成18年5月19日付け訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正」という。)は、本件の特許明細書を、同上訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであって、その訂正内容は、次のとおりのものである。
(訂正事項1)
特許請求の範囲の【請求項1】を、「枠に両開き可能にドア体を設け、上下動により上記ドア体に突没可能に、かつ、該突没により上記枠に係合離脱可能に設けられる棒体と、一端側を支軸として回動可能とされると共に該回動により上記棒体を上下動させる操作部と、上記操作部の上記回動を上記棒体の上記上下動に変換する変換手段と、を有する固定錠を備え、一方の上記ドア体を通常開かないように上記固定錠により上記枠に固定すると共に、他方のドア体の開きを用心錠により規制するようになし、上記固定錠の上記操作部に外部からの素手による解錠を防止する解錠防止手段を設けたことを特徴とする両開きドア。」と訂正する。
(訂正事項2)
特許請求の範囲の【請求項2】を、「枠に両開き可能にドア体を設け、上下動により上記ドア体に突没可能に、かつ、該突没により上記枠に係合離脱可能に設けられる棒体と、一端側を支軸として回動可能とされると共に該回動により上記棒体を上下動させる操作部と、上記操作部の上記回動を上記棒体の上記上下動に変換する変換手段と、を有する固定錠を備え、一方の上記ドア体を通常開かないように上記固定錠により上記枠に固定すると共に、他方のドア体の開きを用心錠により規制するようになし、上記固定錠の上記操作部にこれを施錠状態にロックし、解錠具でロック解除可能なロック機構を設けたことを特徴とする両開きドア。」と訂正する。
(訂正事項3)
発明の詳細な説明の【0006】を「【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために本発明のうち請求項1の発明に係る両開きドアは、枠に両開き可能にドア体を設け、上下動により上記ドア体に突没可能に、かつ、該突没により上記枠に係合離脱可能に設けられる棒体と、一端側を支軸として回動可能とされると共に該回動により上記棒体を上下動させる操作部と、上記操作部の上記回動を上記棒体の上記上下動に変換する変換手段と、を有する固定錠を備え、一方の上記ドア体を通常開かないように上記固定錠により上記枠に固定すると共に、他方のドア体の開きを用心錠により規制するようになし、上記固定錠の上記操作部に外部からの素手による解錠を防止する解錠防止手段を設けたことを特徴とする。」と訂正する。
(訂正事項4)
発明の詳細な説明の【0007】を「請求項2の発明に係る両開きドアは、枠に両開き可能にドア体を設け、上下動により上記ドア体に突没可能に、かつ、該突没により上記枠に係合離脱可能に設けられる捧体と、一端側を支軸として回動可能とされると共に該回動により上記棒体を上下動させる操作部と、上記操作部の上記回動を上記棒体の上記上下動に変換する変換手段と、を有する固定錠を備え、一方の上記ドア体を通常開かないように上記固定錠により上記枠に固定すると共に、他方のドア体の開きを用心錠により規制するようになし、上記固定錠の上記操作部にこれを施錠状態にロックし、解錠具でロック解除可能なロック機構を設けたことを特徴とする。」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(訂正事項1及び2について)
訂正事項1及び2は、訂正前の請求項1及び2に記載された「固定錠」につき、それぞれ「上下動により上記ドア体に突没可能に、かつ、該突没により上記枠に係合離脱可能に設けられる棒体と、一端側を支軸として回動可能とされると共に該回動により上記棒体を上下動させる操作部と、上記操作部の上記回動を上記棒体の上記上下動に変換する変換手段と、を有する固定錠」と具体的に限定するとともに、訂正前の請求項1に記載の解錠防止手段及び同請求項2に記載のロック機構につき、それぞれ固定錠の「操作部」に設けたものと限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものである。

(訂正事項3及び4について)
訂正事項3及び4は、訂正事項1及び2の特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。

そして、上記訂正事項1?4は、本件の特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものでもないといえる。

(3)まとめ
したがって、上記訂正事項1?4は、特許法第134条の2第1項ただし書きに適合し、同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するから、本件訂正を認める。

3.審判請求人の主張
審判請求人は、本件の請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証?甲第5号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、その特許は無効とされるべきであると主張し、次の証拠を提出している。

(証拠)
甲第1号証:三協アルミ「住宅用建材 総合カタログ’94/’95」玄関・出入口編 表紙、目次頁、60?61頁 奥付け頁(平成6年4月発行)、裏表紙
甲第2号証:特開平6-137014号公報
甲第3号証:実願平5-42923号(実開平7-10323号)のCD-ROM
甲第4号証:実願昭51-38400号(実開昭52-131396号)のマイクロフィルム
甲第5号証:特開平6-2460号公報

なお、請求人は、弁駁書により次の証拠を提出している。
甲第6号証:特開平5-202665号公報

4.被請求人の主張
被請求人は、答弁書において、「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、平成18年5月19日付けで訂正請求書を提出するとともに、訂正後の請求項1及び2に記載の発明は、甲第1号証?甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない旨を主張する。

5.本件発明
本件の請求項1及び2に係る発明は、本件訂正が認められることから、平成18年5月19日付け訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
枠に両開き可能にドア体を設け、上下動により上記ドア体に突没可能に、かつ、該突没により上記枠に係合離脱可能に設けられる棒体と、一端側を支軸として回動可能とされると共に該回動により上記棒体を上下動させる操作部と、上記操作部の上記回動を上記棒体の上記上下動に変換する変換手段と、を有する固定錠を備え、一方の上記ドア体を通常開かないように上記固定錠により上記枠に固定すると共に、他方のドア体の開きを用心錠により規制するようになし、上記固定錠の上記操作部に外部からの素手による解錠を防止する解錠防止手段を設けたことを特徴とする両開きドア。」(以下、「本件発明1」という。)
「【請求項2】
枠に両開き可能にドア体を設け、上下動により上記ドア体に突没可能に、かつ、該突没により上記枠に係合離脱可能に設けられる棒体と、一端側を支軸として回動可能とされると共に該回動により上記棒体を上下動させる操作部と、上記操作部の上記回動を上記棒体の上記上下動に変換する変換手段と、を有する固定錠を備え、一方の上記ドア体を通常開かないように上記固定錠により上記枠に固定すると共に、他方のドア体の開きを用心錠により規制するようになし、上記固定錠の上記操作部にこれを施錠状態にロックし、解錠具でロック解除可能なロック機構を設けたことを特徴とする両開きドア。」(以下、「本件発明2」という。)

6.甲号各証及びその記載事項
(1)甲第1号証の記載事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物であるところの甲第1号証の第60?61頁には、「洋風玄関ドア FXII」の「商品特長・商品構成」と題して、次の事項が記載されている(注;以下の「(マル2)」等は、丸数字で表記されたものである)。
(イ)「商品特長…
(マル2)…ドア・子ドには、すべて合わせガラスを採用。…
(マル4)ドアガードロック ガードアーム錠のサムターンを45°回すだけで、自動的にガードロックがかかる防犯性の高い機能を標準装備しました。…
(マル5)ピポットヒンジ(調整式) ドアの上下、前後、左右へ調整できるピポットヒンジを採用。…
(マル7)ガタツキを解消する新機構フランス落し FXIIシリーズ専用子ドアのすべてに、新機構フランス落しを採用しました。…」(60頁)
(ロ)「商品構成 DH:2200/2408タイプ
6尺間枠(両開き枠)…
4.5尺間対応枠(親子開き枠)…」(61頁)。
(ハ)また、第60頁右上の丸数字が付記された写真、及び第61頁中央の図面に示された3枚の玄関ドアの内の中央の「内付け枠額縁Bタイプ」の玄関ドアには、「枠に対して両開き可能に、向かって右側に親ドア及び同左側に子ドアを設けた形態の玄関ドア」が示されている。

上記記載事項を総合すると、甲第1号証には、次の発明が記載されていると認められる。
「枠に対して両開き可能に親ドア及び子ドアを設けた形態の玄関ドアであって、子ドアに「フランス落し」機構を備えるとともに、親ドアにガードアーム錠を用いた「ドアガードロック」機能を備えた玄関ドア。」(以下、「甲1号証記載の発明」という。)

(2)甲第2号証
甲第2号証には、「ドアガード」に関して、次の記載がある。
「【0002】【従来の技術】ドアガードは、就寝時等における防犯性の向上を意図してドアチェーン等の代わりに設けられるもので、ドア側に水平回動に取付けられるドアガードアームと、ドア枠または子扉(通常は上下のロック錠により閉じておき、引っ越し等の際にドア開口部を大きくするためにロック錠を解錠して開く構造を有する扉)に取付けられて前記ドアガードアームを係止する係止部材とからなる。」

(3)甲第3号証
甲第3号証には、「用心錠」に関して、次の記載がある。
「【0001】【産業上の利用分野】本考案は、玄関扉などのスイング式扉の開放角度を制限させる機能を持った用心錠に関する。」
「【0013】【実施例】以下、本考案の実施例を図面に基づいて説明する。図1は扉枠1に大小二枚の扉2,3を備えた扉構造を示しており、通常は、小扉3は図示しないロック手段によって閉じられたままであって、大扉2だけを開閉して出入りする使用形態がとられる構成のものであり、かつ、大扉2の開閉用把手4は、使い勝手の良さやデザイン性を考慮して上下方向に長く構成されている。」

(4)甲第4号証の記載事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物であるところの甲第4号証には、次の事項が記載されている。
(イ)「本考案は、落とし錠、例えばサッシの両開扉において片方の扉を閉扉状態に係止する為に扉の上部又は下部に取付けて使用する落し錠に関する。」(明細書1頁10?12行)、
(ロ)「従来用いられている落し錠にはフランス落し式のものが多い。」(同1頁13?14行)、
(ハ)「以下図示する実施例に基づいて説明すれば、1はサッシ扉の縦框で、2は下框Aを取付ける端面部、3は該端面部2と中空部Rを形成する前面部、Sは(断面矩形で下方が一部開口…当審注)状を成す前面開口部Sである。4は断面形状を略(逆凸…当審注)状に設けた施錠杆で前記サッシ縦框の前面開口部S内に嵌装する。」(同2頁8?13行)、
(ニ)「9はサッシの中空部Rに嵌装した取付部材で、バーリング部91に雌ネジを設けてあり、それに大径部81に小径部82より成るボルトを螺着する。」(同2頁18行?3頁1行)、
(ホ)「施錠杆4には前記ボルト8の大径部81が嵌合する穴5,6が設けてあり、その穴5,6はボルトの小径部82が通り得る開口部7により連らなっている。」(3頁6?9行)、
(ヘ)「上記の構成より成る本案落し錠の使用方法を述べると、第3図は施錠杆4の先端が床10に設けた受穴12(11の誤記…当審注)に嵌合している施錠状態を示す。この状態で施錠杆を上方に摺動させようとしても、ボルト8の大径部81が施錠杆の溝7部を通過出来ないので、摺動は阻止される。摺動させるには、ドライバー又はコイン等でボルト8を反時計方向に回せばボルトは取付部材9の雌ネジ91に対して螺進し、第3図2点鎖線の位置まで突出して大径部81による施錠杆4の係止は解かれ、小径部82のみが位置するが、この82が通過し得る溝7が設けてあるので施錠杆は摺動し得る、つまり解錠できる。」(同4頁3?14行)、
(ト)「そして施解錠の操作は片方の扉を開けてから前面よりボルトを回動させなければならず、閉扉状態で隙間から不法解錠することは出来ず防犯効果も優れている。」(同5頁18行?6頁1行)。

(5)甲第5号証の記載事項
同じく、甲第5号証には、次の事項が記載されている。
(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、扉等に使用される落し錠に関する。」、
(ロ)「【0007】
【実施例】図1(A)は本発明による落し錠の一実施例を示す側面図、(B)はその平面図、図2はその正面図、図3は該落し錠の主要部材の分解斜視図である。図1?図3において、1はケース、2は落し棒、3は上下端の曲成部3bの孔3aに落し棒2が摺動自在に貫挿される落し棒ガイドであり、該落し棒ガイド3は前記ケース1内に嵌合され、ねじ4等により扉の縦框5にケース1と共に固定される。6は前記縦框5の前記ケース1の下方に位置する箇所に前記同様にねじ4等により固定される落し棒ガイドであり、該ガイド5内に落し棒2の下部が上下動自在に貫挿される。
【0008】前記落し棒2にはその上端部に操作つまみ7(この代わりに後述の係止部材8を操作に使用してもよい)をねじ込みあるいは嵌合により取付け、また、落し棒2の中間部にはピン状の係止部材8を前記操作つまみ7と同方向に向けて水平に取付けている。
【0009】前記ケース1は水平断面形状が矩形をなし、敷地側に向かう面に縦スリット1aを設け、該縦スリット1aの下部には横スリット1bを設けている。また、縦スリット1aの上部には、扉を開閉する際に落し棒2が引き上げられた状態を保持するために、係止部材8を係止しておくための係止用スリット1cが設けてある。前記縦スリット1aおよび横スリット1bは前記落し棒2に取付けた係止部材8が摺動自在に嵌合され、落し棒2が横スリット1bに嵌まり込んだ状態では、落し棒2の上下動が阻止され、扉が閉じ状態に保持される構成を有する。本実施例においては、横スリット1bは、落し棒2が入る扉設置面の孔(図示せず)のケース1に対する施工上の高さのばらつきに対応して落し棒2の高さが好適位置に設定できるように、複数個(図示例は3個)設けてある。
【0010】9は前記縦スリット1aに摺動自在に嵌合されるロック部材であり、図3に示すように、該ロック部材9はその両側に縦スリット1aの縁に摺動自在に嵌まる溝9aを有する。該ロック部材9は、これが縦スリット1aに沿って自由降下することなく、任意の高さに保持されるように、溝9aと縦スリット1aの縁との間で適当な摩擦抵抗を付与している。図1(A)および図2に示すように、該ロック部材9は、前記落し棒ガイド3の下端曲成部3bに当接するまで下降した状態においては、横スリット1bの入口、すなわち縦スリット1aとの交差部1dを閉塞し、横スリット1bに嵌め込まれている係止部材8が縦スリット1a内に戻って落し棒2が上動可能となることを防止するものである。また、該ロック部材9が2点鎖線で示すように最上部まで引き上げられた状態においては、係止部材8がロック部材9に妨げられることなく、係止用スリット1cに係合可能となる。
【0011】本実施例においては、ロック部材9を縦スリット1aと横スリット1bとの交差部1d、または係止用スリット1cと縦スリット1aとの交差部1eにおいて固定されるように施錠、解錠する錠部材10を設けている。すなわち、該ロック部材9の中央には円孔9bを透設し、該円孔9bには錠部材10を回動可能に嵌合する。
【0012】図4(A)は錠部材10およびロック部材9の円孔9bの構造を示す斜視図、(B)は錠部材10を内端側より見た図であり、錠部材10は、鍔10aより内側に長円部10bを有し、該長円部10bは前記縦スリット1aの幅a(図2参照)よりやや小さい幅bを有する。該錠部材10の内端部には前記円孔9bの奥部に設けた内鍔9cに掛けて抜け止めする爪10cを設けている。図3に示すように、横スリット1bと縦スリット1aとの交差部1d、および係止用スリット1cと縦スリット1aとの交差部1eは、錠部材10が回動可能となるように、コーナー部を削除してある。
【0013】該錠部材10は、図2のE-E拡大断面図である図5(A)に示すように、長円部10bが縦向きの姿勢では縦スリット1aに沿って該錠部材10が移動可能であるが、これを回動させて長円部10bを横向きにすると、錠部材10は縦スリット1aを通ることができず、その位置に固定される。
【0014】錠部材10の外面には該錠部材10を回動させるコインやキーを嵌める溝10dを設けている。…この落し錠においては、係止用スリット1cに係止部材8が嵌まり込み、落し棒2が引き上げられた状態から落し棒2を扉設置面の孔に嵌め込む時には、操作つまみ7を指でつまんで係止部材8を縦スリット1aの位置に回し、落し棒2を降ろして前記設置面の孔に嵌め込み、操作つまみ7を横に回して係止部材8を横スリット1bに嵌め込む。さらにロック部材9のつまみ9fを指でつまんでケース1の最下位置に降ろせば、横スリット1bの縦スリット1aとの交差部1dが閉塞されるので、係止部材8が横スリット1bから抜け出ることは不可能となり、落し棒2がロックされる。
【0015】この状態においては、扉の外部からロック解除しようとしても、ロック部材9を引き上げる作業と、落し棒の係止部材8を縦スリット1a側に回す作業が必要であり、この機構の解明と作業が困難であることから、防犯性が向上する。この防犯性は、外部からロック部材9の側面側へ指等が差し込むことが困難である場合には殆どロック解除が不可能となるまで向上する。
【0016】さらに、本実施例においては、敷地内において、錠部材10の溝10dにコインやキー等を嵌め込んで回すことにより、錠部材10を外部から交差部1dより上に引き上げることはできなくなり、外部からのロック解除は不可能となり、防犯性はさらに向上する。」。

(6)甲第6号証の記載事項
同じく、甲第6号証には、次の事項が記載されている。
(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は全体的に掛金装置に関し、特に蝶番付きの扉、パネル等を固定するための摺動式固定装置に関する。」、
(ロ)「【0007】摺動式固定装置10は、扉110上に取り付けられた扉組体12と、フレーム120上に取り付けられた一対の摺動部止め金98とを具備する。摺動部止め金98は、扉110が閉鎖されたときにフレーム120に対して扉110に掛金をかけるように扉組体12によって係合される。
【0008】扉組体12は、図2にその分解斜視図が示されるハンドル組体14を具備する。…
【0009】図2に示されるようにハンドル組体14はハウジング16と、ハウジング16内に旋回可能に取り付けられたレバー組体50とを具備する。」、
(ハ)「【0016】摺動式固定装置10が閉鎖位置にあるときに摺動式固定装置10を錠止するために、従来から知られている鍵ロックシリンダ66がハンドル52の第2端部56内に形成された円筒穴68内に取り付けられる。ロックシリンダ66は、後述のようにレバー組体50をハウジング16内に取り付けるためにロックシリンダ66の下方端部内に形成されたロックスリット67を有する。」、
(ニ)「【0018】レバー組体50はまた、ハウジング16に対してレバー組体50に掛金をかけ及び解放するための押しボタン74を具備する。押しボタン74が第2枢軸ピン76によってハンドル52の第2端部56上に回転可能に取り付けられ、第2枢軸ピン76の両端部は押しボタン74内に形成された一対の整列した穴75を通って延びている。第2のばねまたは第2の付勢手段72がハンドル52の第2端部56と押しボタン74との間を延びており、これにより押しボタン74が上向きに付勢される。フィンガ70は押しボタン74に形成された段部73内を延びており、これにより第2枢軸ピン76回りの押しボタン74の回転の自由が数度程度に制限される。押しボタン74はまた、ハウジング16内に形成された止め金37と係合するように押しボタン74の底部に形成された爪部77を具備する。更に、図3に最も良く示されるように、押しボタン74は爪部77の前方に延びる舌状部79を具備する。この舌状部79は、摺動式固定装置10が閉鎖されかつ錠止されたときにロックシリンダ66の下方端部に当接する。
【0019】ハウジング16の井戸状部40内の突出部43上には振動防止用ばね45が取り付けられ、この振動防止用ばね45は、摺動式固定装置10が閉鎖されたときに押しボタン74の爪部77を止め金37に圧接させる追加の力を付与する。
【0020】摺動式固定装置10が閉鎖されかつ錠止されたときには、図6の背面図に最も良く示されるように、ロックシリンダ66の下方部分および押しボタン74の爪部77がハウジング16の下板30内に形成された穴31内に延び、押しボタン74の舌状部79がロックシリンダ66に当接して、これにより第2枢軸ピン76回りの押しボタン74の回転が阻止される。しかしながら、鍵がロックシリンダ66内に挿入されてロックシリンダ66が90度回転されると、ロックシリンダ66の底部に形成された解放用スリット67が舌状部79に向かう方向に向けられる(この状態は図示しない)。この状態で押しボタン74はオペレータ(操作者)により第2ばね72によって及ぼされる力に抗して押し下げられることができ、押しボタン74は第2枢軸ピン76回りに回転し、第1ばね78がレバー組体50を第1枢軸ピン62回りに回転するように付勢しているので爪部77が止め金37から係合を離脱せしめられる。
【0021】図3から図6に最も良く示されるように扉組体12はまた摺動部組体80を具備し、この摺動部組体80は、基板82と一対の平行な側部84とを有する溝形素材から作られる。摺動部組体80は複数個の支柱130によって、扉110の縁部114の近傍にかつ縁部114に平行をなして扉110の内面117に摺動可能に取り付けられる。…
【0022】摺動部組体80は、両側部84に対して垂直をなして両側部84の間を延びる第1のロッド92を具備する。図3と図5、および図4と図6を比較するとよくわかるように、第1ロッド92は、摺動式固定装置10が開放されていくときには第1カム58の脚部59によって係合され、かつ摺動式固定装置10が閉鎖されていくときには第2カム60の脚部61によって係合されるように位置せしめられる。摺動式固定装置10が図1に示されるように取り付けられたとき、摺動式固定装置10は、上述のように鍵でロックシリンダ66を解錠すると共に爪部77を止め金37から解放するように押しボタン74を押し下げることによって開放され、第1ばね78がレバー組体50を井戸状部40から十分外に出るように回転させ、その結果オペレータがレバー組体50をつかんでレバー組体50を更に上方外方に回転させることが可能となる。レバー組体50が回転されるときに第1カム58の脚部59が第1ロッド92に接触して摺動部組体80を下方に押し下げる。
【0023】…図3と図5を比較することにより良くわかるように、摺動部止め金98の第2の脚部99上にはカム面が形成され、このカム面は、摺動式固定装置10が閉鎖されかつ摺動部組体80が第2カム60の脚部61による第1ロッド92への係合を介して上方に押し上げられたときに、第2ロッド94上のスリーブ96が第2脚部99の下に押し込まれるように形成されており、これにより扉110とキャビネット100のフレーム120との間で扉ガスケットが圧縮されてキャビネット100が密封される。…」。

7.対比・判断
(1)本件発明1について
本件発明1と甲第1号証記載の発明とを対比すると、その機能ないし構造から見て、甲第1号証記載の発明の「枠に対して両開き可能」に設けた「親ドア及び子ドア」が本件発明1の「枠に両開き可能」に設けられた「ドア体」に相当する。 そして、甲第1号証記載の発明の「子ドア」が「フランス落し」機構により通常開かないように固定されるものであることは当業者にとって自明な事項であり、また、甲第1号証記載の発明の「親ドア」が、ガードアーム錠を用いた「ドアガードロック」機能によりその開きを規制するようになっている「用心錠」を備えるものであることも自明な事項であるから、甲第1号証記載の発明の「子ドア」、「親ドア」は、本件発明1の「一方の」「ドア体」、その「開きを用心錠により規制」された「他方の」「ドア体」に、それぞれ相当するということができる。
また、甲第1号証記載の発明における「子ドア」が備える「フランス落し」と称する機構として、一般的に、従来より周知ないし慣用の技術であるところの「上下動によりドア体に対して突没可能となっていて、該突没動作により枠に係合離脱可能な棒体と、一端側を支軸として回動可能とされると共に該回動により当該棒体を上下動させる操作部とを備え、当該操作部の回動を棒体の上下動に変換する変換手段とを備えている固定錠」というものがあることも、当業者にとって自明な事項であるといえる(例えば、実願昭53-129456号(実開昭55-47509号)のマイクロフィルム、実願昭57-106790号(実開昭59-10466号)のマイクロフィルム、実願平1-29096号(実開平2-120384号)のマイクロフィルム等参照)。

そうすると、両者は、
「枠に両開き可能にドア体を設け、上下動により上記ドア体に突没可能に、かつ、該突没により上記枠に係合離脱可能に設けられる棒体と、一端側を支軸として回動可能とされると共に該回動により上記棒体を上下動させる操作部と、上記操作部の上記回動を上記棒体の上記上下動に変換する変換手段と、を有する固定錠を備え、一方の上記ドア体を通常開かないように上記固定錠により上記枠に固定すると共に、他方のドア体の開きを用心錠により規制するようになした両開きドア。」の点で一致し、次の点で相違するといえる。

(相違点)
本件発明1は、「固定錠の操作部に外部からの素手による解錠を防止する解錠防止手段を設けた」ものであるのに対し、甲第1号証記載の発明は、固定錠にこのような解錠防止手段を備えていない点。

なお、答弁書(第4?5頁)によれば、被請求人は、本件発明1と甲第1号証記載の発明とは上記一致点(答弁書記載の「発明特定事項」のA?C及びEの部分)で一致し、上記相違点(同上「発明特定事項」のDの部分)で相違することを認めている。

(相違点の検討)
ところで、上下動によりドア体の枠に係合離脱可能に設けられる摺動体を備えた固定錠において、当該固定錠の解錠防止手段を設けるようにしたものは、例えば、甲第4号証(ボルト8参照)及び甲第5号証(ロック部材9参照)等にも記載されているように、従来より周知の技術であったといえる。
さらに、このような従来より周知の固定錠(解錠防止手段を設けた固定錠)において、一端側を支軸として回動可能とし、該回動により摺動体を上下動させる操作部と、当該操作部の回動を棒体の上下動に変換する変換手段とを具備させると共に、その解錠防止手段を設ける位置として、上記固定錠の操作部を選択したものも、例えば、甲第6号証(鍵ロックシリンダ66参照)や実願昭61-104197号(実開昭63-12575号)のマイクロフィルム(鍵装置17参照)等にも記載されているように、従来より周知の技術であったということができる。
そして、上述の周知技術における解錠防止手段は、素手によって解錠操作するものではなく、いずれも鍵等の解錠具を用いて解錠操作するものであるから、本件発明1の「外部からの素手による解錠を防止する解錠防止手段」に相当するものということができる。
してみると、本件発明1の相違点に係る構成は、甲第1号証記載の発明に上記周知の技術を採用することにより、当業者が容易に想到し得たものといわざるを得ない。

(2)本件発明2について
同様に、本件発明2と甲第1号証記載の発明とを対比すると、両者は、
「枠に両開き可能にドア体を設け、上下動により上記ドア体に突没可能に、かつ、該突没により上記枠に係合離脱可能に設けられる棒体と、一端側を支軸として回動可能とされると共に該回動により上記棒体を上下動させる操作部と、上記操作部の上記回動を上記棒体の上記上下動に変換する変換手段と、を有する固定錠を備え、一方の上記ドア体を通常開かないように上記固定錠により上記枠に固定すると共に、他方のドア体の開きを用心錠により規制するようになした両開きドア。」の点で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
本件発明2は、「固定錠の操作部にこれを施錠状態にロックし、解錠具でロック解除可能なロック機構を設けた」ものであるのに対し、甲第1号証記載の発明は、固定錠にこのようなロック機構を備えていない点。

なお、答弁書(第4、6、10頁)によれば、被請求人は、本件発明2と甲第1号証記載の発明とは、本件発明1と同様に、上記一致点で一致し、上記相違点(答弁書の「発明特定事項」のIの部分)で相違することを認めている。

(相違点の検討)
本件発明1の相違点の検討で説示したのと同様に、上下動によりドア体の枠に係合離脱可能に設けられる摺動体を備えた固定錠において、当該固定錠を施錠状態にロックし、解錠具でロック解除可能なロック機構を設けるようにしたものは、上記甲第4号証(ボルト8参照)及び甲第5号証(ロック部材9参照)等にも記載されているように、従来より周知の技術であったといえる。
さらに、このような従来より周知の固定錠(ロック機構を設けた固定錠)において、一端側を支軸として回動可能とし、該回動により摺動体を上下動させる操作部と、当該操作部の回動を棒体の上下動に変換する変換手段とを具備させると共に、そのロック機構を設ける位置として、上記固定錠の操作部を選択したものも、例えば、甲第6号証(鍵ロックシリンダ66参照)や実願昭61-104197号(実開昭63-12575号)のマイクロフィルム(鍵装置17参照)等にも記載されているように、従来より周知の技術であったということができる。
してみると、本件発明2の相違点に係る構成は、甲第1号証記載の発明に上記周知の技術を採用することにより、当業者が容易に想到し得たものといわざるを得ない。

そして、本件発明1及び2の奏する効果も、甲1号証記載の発明及び従来より周知の技術から当業者が予測し得るものであって、格別なものということができない。

なお、被請求人は、次の(イ)及び(ロ)に記載した主張をしているので、この点について付言すると、以下のとおりである。

(イ)被請求人は、「訂正後の請求項1の発明が有する固定錠は、いわゆる「フランス落とし」である。一方、甲第4、5号証に記載された施錠装置は落とし錠であり、さらにその記載内容から、上下動する軸体を直接上下動操作させることにより動作させる形式の施錠装置である。…かかる観点から甲第4、5号証に記載された形式の落とし錠についてみると、用心錠を適用するような高い防犯性を必要とする両開き扉に対し、当業者はかかる形式の落とし錠を用いることはなく、その適用を考えることもない。…さらに、請求人が提出した甲第4号証の第1頁第13行?第2頁第1行目には、フランス落としを除外する旨の記載があり、当業者にとって甲第4号証に記載の落とし錠と、フランス落としとは本来的に異なる構成及び用途・目的を有するものとして区別されていたことが明確である。従って、甲第4、5号証に落とし錠の解錠防止手段の記載があるからといって、これを甲第1?3号証に適用し、もって請求項1の発明は想到容易であるとして本件特許を無効と主張する証拠として用いることは妥当でない。」旨主張する(答弁書5頁13行?6頁17行)。

上記主張は、甲第1号証は「フランス落し」であるのに対して、甲第4号証及び甲第5号証はこのような「フランス落し」ではない「落とし錠」であるから、このような形式の異なる両者の構成を組み合わせることにより本件発明の「フランス落とし」の固定錠の構成を得ることは当業者が容易に想到できることではない旨を主張したものと解される。
しかしながら、「フランス落し」という用語は、操作部を回動させる形式のものに使用されている(上記した実願昭53-129456号(実開昭55-47509号)のマイクロフィルム(例えば、考案の名称「フランス落し」の記載)、実願昭57-106790号(実開昭59-10466号)のマイクロフィルム(例えば、明細書の第2頁第3行の「フランス落し錠」の記載)、実願平1-29096号(実開平2-120384号)のマイクロフィルム(例えば、明細書の第2頁第5?6行の「フランス落し」の記載)等参照)と共に、操作部を摺動させる形式のものにも使用されており(実願平4-83209号(実開平6-47552号)のCD-ROM(例えば、考案の名称「フランス落とし」の記載)、実願平5-1586号(実開平6-58081号)のCD-ROM(例えば、考案の名称「フランス落しの構造」の記載)、特開平6-307137号公報(例えば、発明の名称「フランス落し」の記載)等参照)、このような両者の形式の落し錠に一般的に使用されている用語であって、いずれか一方の形式のものを限定的に意味する用語であるということができない。
そうすると、甲第4号証及び甲第5号証記載のような操作部を摺動させる「落とし錠」も「フランス落し」錠である点で甲第1号証のものと共通するといわざるを得ないから、「フランス落し」が特定の形式に限定されることを前提とした被請求人の主張は、採用することができない。
また、被請求人は、甲第4号証の第1頁第13行?第2頁第1行目には、フランス落としを除外する旨の記載があるとも主張しているが、当該箇所には、「従来用いられている落し錠にはフランス落し式のものが多い。」と記載されており、フランス落しは「落し錠」の下位概念であることが説明されているに止まり、フランス落しを除外する旨の記載でないことが明らかである。

(ロ)被請求人は、「請求項1の発明は、フランス落としに対して上記構成、すなわち操作部に「解錠防止手段」を適用することにより、従来の落とし錠の解錠防止手段からでは得ることのできない顕著な効果を有するものである。…このように、フランス落としは多くの部材が組み合わされ、複雑な構成を有している。従って、甲第4、5号証に記載されている落としの解錠防止手段のように棒体に直接解錠防止手段を取り付けようとすると、フランス落としを構成する各部材を避けて解錠防止手段を取付ける必要があり、この結果フランス落とし自体を大きくしなくてはならなくなったり、又はより複雑な構造とする必要があったりするという不具合を生じる。…これに対して、請求項1の発明に備えられる解錠防止手段によれば、フランス落としの大きさを変えることなく、また必要以上に複雑な構造とせず簡易的に、当該解錠防止手段を配置することができ、フランス落としの操作性等の利点を維持しつつ防犯性を向上させることができる。これは本発明の構成により始めて実現可能とされるものであり、甲第1号証に甲第4、5号証の解錠防止手段を適用しても奏することができない効果である。」旨主張する(答弁書8頁10行?9頁22行)。

要するに、被請求人は、本件発明は、フランス落としに対して操作部に「解錠防止手段」を適用することにより、必要以上に複雑な構造とせず簡易的に、当該解錠防止手段を配置することができたものであって、従来の落とし錠の解錠防止手段からでは得ることのできない顕著な効果を有するものである旨を主張していると解される。
しかしながら、上記「7.」の(1)及び(2)の各「(相違点について)」で説示したとおり、本件発明1及び2の相違点に係る構成は、甲第1号証記載の発明に上記周知の技術を採用することにより、当業者が容易に想到し得たものといえるのであって、このように容易に得られた本件発明1及び2の構成が奏する効果も、甲第1号証記載の発明及び従来より周知の技術から当業者が予測し得る範囲内のものといわざるを得ない。

8.むすび
以上のとおり、他の証拠を検討するまでもなく、本件発明1及び2は、甲1号証記載の発明及び従来より周知の技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、本件発明1及び2の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号により、無効とすべきである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
両開きドア
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠に両開き可能にドア体を設け、上下動により上記ドア体に突没可能に、かつ、該突没により上記枠に係合離脱可能に設けられる棒体と、一端側を支軸として回動可能とされると共に該回動により上記棒体を上下動させる操作部と、上記操作部の上記回動を上記棒体の上記上下動に変換する変換手段と、を有する固定錠を備え、一方の上記ドア体を通常開かないように上記固定錠により上記枠に固定すると共に、他方のドア体の開きを用心錠により規制するようになし、上記固定錠の上記操作部に外部からの素手による解錠を防止する解錠防止手段を設けたことを特徴とする両開きドア。
【請求項2】
枠に両開き可能にドア体を設け、上下動により上記ドア体に突没可能に、かつ、該突没により上記枠に係合離脱可能に設けられる棒体と、一端側を支軸として回動可能とされると共に該回動により上記棒体を上下動させる操作部と、上記操作部の上記回動を上記棒体の上記上下動に変換する変換手段と、を有する固定錠を備え、一方の上記ドア体を通常開かないように上記固定錠により上記枠に固定すると共に、他方のドア体の開きを用心錠により規制するようになし、上記固定錠の上記操作部にこれを施錠状態にロックし、解錠具でロック解除可能なロック機構を設けたことを特徴とする両開きドア。
【請求項3】
枠に両開き可能にドア体を設け、一方のドア体を通常開かないように固定錠により上記枠に固定すると共に、他方のドア体の開きを用心錠により規制するようになし、上記固定錠の操作部の周辺に操作部を解錠操作するための指は入らないが、解錠具が挿入可能な隙間を設けたことを特徴とする両開きドア。
【請求項4】
枠に両開き可能にドア体を設け、一方のドア体を通常開かないように固定錠により上記枠に固定すると共に、他方のドア体の開きを用心錠により規制するようになし、上記固定錠の操作部を覆い体で隠蔽したことを特徴とする両開きドア。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、防犯性の向上を図った両開きドアに関する。
【0002】
【従来の技術】
両開きドアとしては、枠に両開き可能にドア体を設け、一方のドア体を通常開かないようにフランス落としなどと称する固定錠により上記枠に固定すると共に、他方のドア体の開きをドアチェーン、ドアガード、ガードロックなどと称する用心錠により規制するようになしたものがある。このような両開きドアは、親子ドアなどと称し、玄関ドア等として普及されている。
【0003】
この両開きドアは、通常時には一方のドア体が固定錠の施錠により閉鎖され、他方のドア体のみが開閉可能な片開きドアとして用いられるが、上記固定錠を解錠して両ドア体を両開きにすることで大型家具等の搬入搬出が容易にできるようになっている。また、上記両開きドアは、一方のドア体に対して他方のドア体の開きを小範囲に規制する用心錠が装備され、防犯性の向上が図られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した両開きドアにおいては、用心錠を施錠していたとしても、他方のドア体を開けた場合、一方のドア体の自由端に設けられている固定錠が露出し、この固定錠が外部から素手により不正に解錠され得る状態にあった。そして、固定錠が不正に解錠された場合、両ドア体が小範囲ではあるが両開き様になるため、用心錠が解錠し易くなり、用心錠が解錠される恐れもあり、防犯性が低下ないし損われる恐れがあった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、防犯性を確保することができる両開きドアを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明のうち請求項1の発明に係る両開きドアは、枠に両開き可能にドア体を設け、上下動により上記ドア体に突没可能に、かつ、該突没により上記枠に係合離脱可能に設けられる棒体と、一端側を支軸として回動可能とされると共に該回動により上記棒体を上下動させる操作部と、上記操作部の上記回動を上記棒体の上記上下動に変換する変換手段と、を有する固定錠を備え、一方の上記ドア体を通常開かないように上記固定錠により上記枠に固定すると共に、他方のドア体の開きを用心錠により規制するようになし、上記固定錠の上記操作部に外部からの素手による解錠を防止する解錠防止手段を設けたことを特徴とする。
【0007】
請求項2の発明に係る両開きドアは、枠に両開き可能にドア体を設け、上下動により上記ドア体に突没可能に、かつ、該突没により上記枠に係合離脱可能に設けられる棒体と、一端側を支軸として回動可能とされると共に該回動により上記棒体を上下動させる操作部と、上記操作部の上記回動を上記棒体の上記上下動に変換する変換手段と、を有する固定錠を備え、一方の上記ドア体を通常開かないように上記固定錠により上記枠に固定すると共に、他方のドア体の開きを用心錠により規制するようになし、上記固定錠の上記操作部にこれを施錠状態にロックし、解錠具でロック解除可能なロック機構を設けたことを特徴とする。
【0008】
請求項3の発明に係る両開きドアは、枠に両開き可能にドア体を設け、一方のドア体を通常開かないように固定錠により上記枠に固定すると共に、他方のドア体の開きを用心錠により規制するようになし、上記固定錠の操作部の周辺に操作部を解錠操作するための指は入らないが、解錠具が挿入可能な隙間を設けたことを特徴とする。
【0009】
請求項4の発明に係る両開きドアは、枠に両開き可能にドア体を設け、一方のドア体を通常開かないように固定錠により上記枠に固定すると共に、他方のドア体の開きを用心錠により規制するようになし、上記固定錠の操作部を覆い体で隠蔽したことを特徴とする。
【0010】
【0011】
【0012】
【実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0013】
室内側から見た両開きドアの全体構成を概略的に示す図1において、この両開きドアは、建物の開口に据え付けられる方形の枠1を備えている。この枠1内には、2枚のドア体2,3がヒンジ4を介して両開き可能に設けられる(建て込まれる)。
【0014】
一方のドア体2の自由端には、このドア体2を通常開かないように上記枠1に固定する固定錠5が設けられている。また、ドア体2,3には、一方のドア体2に対して他方のドア体3の開きを小範囲に規制する用心錠6が設けられている。この用心錠6として、図示例では、他方のドア体3に回動可能に設けられた略U字状のアーム部7と、一方のドア体2に回動可能に設けられ、上記アーム部7に摺動可能に係合する受け部8とから主に構成されたいわゆるドアガードが示されている。
【0015】
上記固定錠5として、図示例では、いわゆるフランス落としが示されている。そして、この固定錠5には、図2?図4に示すように外部からの素手による解錠を防止する解錠防止手段として、固定錠5を施錠状態にロックし、解錠具でロック解除可能なロック機構9が設けられている。上記固定錠5は、上記一方のドア体2の自由端側端面に形成された図示しない凹部に収容されてネジ止めにより自由端面と略面一に取付けられる縦長の本体10を有し、この本体10の裏面部に両側の支持部11および両支持部11間に掛け渡された支持ピン12を介して摺動体13が上下方向に摺動可能に設けられている。
【0016】
この摺動体13の一端には、棒体14が螺合等により取付けられ、この棒体14の先端を上記枠1に形成された孔部15に嵌合させることにより、一方のドア体2が閉鎖位置に施錠固定されるようになっている。上記ドア体2には、上記棒体14を摺動可能に支持するガイド16が取付けられる。
【0017】
上記本体10の略中央部には、縦長の開口部17が形成され、この開口部17には前面側から施解錠操作するための操作部である操作レバー18が支軸19を介して上下方向に回動可能に設けられている。この操作レバー18の基端部には、その回動を上記摺動体13の上下動(直線運動)に変換するために上記摺動体13に形成されたシリンダ部20に摺動可能に嵌合する嵌合体21が軸支され、上記シリンダ部20には上記嵌合体21を介して上記操作レバー18を本体10に沿った下向きの位置(解錠位置)もしくは上向きの位置(施錠位置)に付勢するコイル状のバネ22が設けられている。
【0018】
また、本体10には、解錠位置もしくは施錠位置にある操作レバー18を操作すべく指を挿入するための指挿入凹部23a,23bが形成されている。そして、上記本体10の施錠位置の指挿入凹部側23bには、その部分に穿設した孔24を介して上記ロック機構9を構成するツイストロック式のロック体25が回動可能に取付けられている。このロック体25は、上記操作レバー18に形成された長穴26と相似形状の頭部27を有し、この頭部27を施錠位置に回動された上記操作レバー18の長穴26に貫通させて略90度回動することにより、頭部27が操作レバー18に係合してロックするようになっている。
【0019】
上記ロック体25の頭部27には、解錠具である工具(ドライバー)が係合する係合溝28が形成されている。また、上記ロック体25には、本体10の裏面側に摺動体13と干渉しない状態で係止され、ロック体25の振動等による勝手な回動を規制するためのストッパー29が形成されている。
【0020】
以上のように構成された両開きドアによれば、一方のドア体2に設けられた固定錠5にその操作レバー18を施錠位置に固定するロック機構9が設けられ、このロック機構9は解錠具である工具でのみロック解除可能であるため、用心錠6を施錠した状態で他方のドア体3を開けて上記固定錠5が露出しても、その操作レバー18を外部から素手で解錠操作することができない。このため、上記固定錠5が不正に解錠されることが防止され、固定錠5が解錠されなければ用心錠6も解錠されにくいので、防犯性を確保することができる。なお、両ドア体2,3を両開きする際には、上記ロック機構9のロック体25を工具で回動することにより、固定錠5のロックを容易に解除することができる。
【0021】
図5?図15は、本発明の他の実施の形態を示しており、これらの図において上記実施の形態と同一部分には同一参照符合を付してその部分の重複説明を省略する。先ず、図5?図7の両開きドアにおける固定錠5は、摺動体13を施錠位置でロックするロック機構9を設けたものである。
【0022】
特に、図5の固定錠5のロック機構9は、本体10にこれを貫通するように螺合されたネジ体30からなり、このネジ体30を上記摺動体13の摺動面上に突出させて摺動体13の解錠方向への移動を阻止するようになっている。上記本体10の前面部側に露出したネジ体30の端部には解錠具である工具が係合する係合溝28が形成され、操作レバー18には工具を挿入する挿入孔31が設けられている。上記ロック機構9のロックを解除する場合には、図5の(c)のように上記ネジ体30を工具により回動して摺動体13の摺動面から没入させればよい。
【0023】
図6の固定錠5のロック機構9は、一端が本体10の裏面部に固定され、他端(自由端)が施錠位置の摺動体13の端部に当接して解錠方向への移動を阻止すべく係止(ロック)する板バネの如く弾性を有する係止板32からなっている。上記本体10には、この係止板32をその弾性力に抗して押し曲げて係止状態を解除(ロック解除)するためのピンもしくは工具33を挿入する挿入孔34が設けられている。
【0024】
従って、上記係止状態を解除して操作レバー18を解錠方向へ回動すると、摺動体13の端部が係止板32の自由端を越えて解錠位置まで移動する。逆に操作レバー18により摺動体13を解錠位置から施錠位置まで移動させてその端部が係止板32の自由端を越えると、係止板32が自らの弾性力で自動的に復帰して摺動体13の端部を係止する(自動ロックする)。なお、上記係止板13の代わりに剛性を有する係止板を用いてこれを上記本体10の裏面部に回動可能もしくは揺動可能に軸支し、この係止板に復帰バネを設けて摺動体を自動ロックするようにしてもよい(図示省略)。
【0025】
図7の固定錠5のロック機構9は、本体10と施錠位置の摺動体13とに跨がって螺合されるネジ体35からなり、本体10の前面部側に露出した上記ネジ体35の端部には工具が係合する係合溝28が形成されている。従って、上記ネジ体35を工具で回動することにより、摺動体13を施錠位置にロックしたり、あるいはロック解除することができる。
【0026】
図8の固定錠5は、棒体14を施錠位置でロックするロック機構9を設けたものである。このロック機構9は、棒体14のガイド16に、棒体14を締付け固定すべく螺合されたネジ体36からなり、ネジ体36の端部には工具が係合する係合溝28が形成されている。従って、ネジ体36の締付けにより棒体14を施錠位置にロックすることができ、またネジ体36を緩めることによりロック解除することができる。
【0027】
図9の固定錠5は、本体10に施錠位置の操作レバー18を解錠操作するための指挿入凹部23bを形成せず、操作レバー18を外部から素手で解錠操作することができないようにしたものである。本体10には、施錠位置の操作レバー18を収容する操作レバー18と略同一形状の収容凹部37が形成され、本体10と施錠位置の操作レバー18との間には指が挿入可能な隙間は形成されていない。
【0028】
この操作レバー18を解錠操作可能な状態にするために、操作レバー18には工具が係合する係合溝28を有するネジ体38が操作レバー18を貫通して螺合され、このネジ体38を工具で捩じ込むことにより、ネジ体38の先端が本体10を押圧する反力で操作レバー18が図9の(b)の仮想線で示すように本体10から突出して解錠操作が可能になるように構成されている。なお、この固定錠5においては、施錠位置の操作レバー18の先端部と本体10との間に形成された狭隘な隙間39から工具を差し込んで操作レバー18を引き出すようにしてもよい。
【0029】
図10の固定錠5は、本体10に解錠位置の操作レバー18を施錠操作するために形成された既存の指挿入凹部23bに、指が入らないように埋める埋込体40を設け、操作レバー18を素手で解錠操作することができないようにしたものである。上記埋込体40は、接着、係着等の適宜の固定手段で上記指挿入凹部23bに固定される。
【0030】
上記解錠位置の操作レバー18の先端部と埋込体40との間には、工具33が挿入可能な狭隘な隙間39が形成され、この隙間39に工具33を差し込んで操作レバー18を引き出せるようになっている。なお、工具33が挿入可能な隙間39は、施錠位置の操作レバー18の先端に配設されていることが好ましいが、操作レバー18の周辺に形成されていればよい。上記隙間39の代わりに、操作レバー18自体に工具が挿入可能な溝、孔、凹部等を形成してもよい(図示省略)。
【0031】
図11の固定錠5は、本体10の前面部に解錠防止手段として覆い体(カバー)41をネジ42で着脱可能に取付け、外部から素手で施錠位置の操作レバー18を解錠操作することができないようにしたものである。上記覆い体41は、固定錠5の露出部全体を隠蔽するようになっているが、少なくとも施錠位置の操作レバー18を隠蔽するようになっていればよい。
【0032】
図12の両開きドアは、一方のドア体2にこれを上記固定錠5とは別個に枠1に固定する固定手段43を設けたものである。この固定手段43としては、枠1に形成した凹部に棒体を係合させる落とし錠が好ましい。また、上記固定手段43は、一方のドア体2の室内側であって、外部から手の届きにくい位置に設けられていることが好ましい。この両開きドアによれば、一方のドア体2に上記固定錠5とは別に固定手段43を備えているため、たとえ固定錠5が不正に解錠されたとしても、一方のドア体2が開くことがなく、防犯性が確保される。
【0033】
図13の両開きドアは、一方のドア体2に設けられた固定錠5に、操作部を直接設けず、固定錠5から離れた位置に操作部18を設けたものである。この操作部18は、例えばワイヤ、リンク機構等を介して機械的にあるいは電気的に上記固定錠5の施解錠を遠隔操作するように構成されている。上記操作部18は、一方のドア体2の室内側であって、外部から手の届きにくい位置に設けられていることが好ましい。この両開きドアによれば、固定錠5の操作部18が固定錠5から離れた所に設けられてるため、外部から不正に解錠される恐れはない。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
以上、本発明の実施の形態を図面により詳述してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲での種々の設計変更等が可能である。例えば、固定錠としては、フランス落としが好ましいが、単なる落とし錠等であってもよい。また、用心錠としては、ドアガードが好ましいが、ドアチェーン、ガードロック等であってもよい。
【0038】
【発明の効果】
以上要するに本発明によれば、次のような優れた効果が得られる。
【0039】
(1)請求項1?請求項4の発明に係る両開きドアによれば、固定錠が外部から素手により不正に解錠される恐れがなくなり、防犯性が確保される。
【0040】
【0041】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態である両開きドアの室内側から見た全体構成を概略的に示す正面図である。
【図2】図1に示した固定錠を詳細に示す図で、(a)は正面図、(b)は縦断面図である。
【図3】図2のA-A線断面図である。
【図4】図2に示した固定錠のロック状態を示す部分的正面図である。
【図5】本発明の他の実施の形態である両開きドアの固定錠を示す図で、(a)は正面図、(b)は施錠状態の縦断面図、(c)は解錠状態の縦断面図である。
【図6】固定錠の他の変形例を示す部分的断面図である。
【図7】固定錠の他の変形例を示す部分的断面図である。
【図8】固定錠の他の変形例を示す部分的断面図である。
【図9】固定錠の他の変形例を示す図で、(a)は正面図、(b)は施錠状態の縦断面図である。
【図10】固定錠の他の変形例を示す部分的断面図である。
【図11】固定錠の他の変形例を示す部分的断面図である。
【図12】両開きドアの変形例を示す部分的正面図である。
【図13】両開きドアの他の変形例を示す部分的正面図である。
【符号の説明】
1 枠
2,3 ドア体
5 固定錠
6 用心錠
9 ロック機構(解錠防止手段)
18 操作レバー(操作部)
39 隙間
41 覆い体
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-11-28 
結審通知日 2006-11-30 
審決日 2006-12-14 
出願番号 特願平7-347919
審決分類 P 1 123・ 121- ZA (E05C)
P 1 123・ 832- ZA (E05C)
最終処分 成立  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 青山 敏
宮川 哲伸
登録日 1999-12-17 
登録番号 特許第3015292号(P3015292)
発明の名称 両開きドア  
代理人 星野 哲郎  
代理人 星野 哲郎  
代理人 湯田 浩一  

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