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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C |
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管理番号 | 1156352 |
審判番号 | 不服2004-15836 |
総通号数 | 90 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-06-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-07-29 |
確定日 | 2007-04-23 |
事件の表示 | 平成 7年特許願第180831号「離型フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 1月 7日出願公開、特開平 9- 1573〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成7年6月23日の出願であって、本願の請求項1?2に係る発明は、平成16年1月9日付手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?2に記載された以下のとおりのものと認められる。 「【請求項1】 プラスチックフィルムの両面に、電離放射線硬化型樹脂から形成されてなる鉛筆硬度H以上の離型層を設けたことを特徴とする離型フィルム。 【請求項2】 前記電離放射線硬化型樹脂が少なくとも光重合性プレポリマー、光重合性モノマー、光重合開始剤を含有することを特徴とする請求項1記載の離型フィルム。」 2. 引用文献について 2.1 引用文献の記載 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開平6-246891号公報(以下、引用文献1という。)には、以下の事項が記載されている。 (a)「【請求項1】 基材シートの少なくとも片面にシリコーン皮膜を形成してなるガラスエポキシ積層板用離型シート。」(特許請求の範囲 請求項1) (b)「【産業上の利用分野】 本発明は、ガラスエポキシ積層板用離型シートに関し、更に詳しくは、紙等の基材シートの少なくとも片面にシリコーン皮膜を形成してなり、耐熱性と離型性とを併せ持つため、プリプレグからガラスエポキシ積層板を成型する際に好適に用いられる離型シートに関する。」(段落0001) (c)「本発明は上記事情に鑑みなされたもので、安価で作業性、離型性、耐熱性に優れたガラスエポキシ積層板用離型シートを提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段及び作用】 本発明者は上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、紙等の基材シートの少なくとも片面にシリコーン皮膜を形成してなる離型シートをガラスエポキシ積層板を成型する際にプレスの上下板それぞれとプリプレグとの間に挟んで使用した場合、滑りにくいので作業性に優れ、また、離型性、耐熱性に優れていることを知見し、本発明をなすに至った。」(段落0005?0006) (d)「ここで、基材としてはプラスチックフィルムでもよいが、滑りにくさ、コストの点から紙が好ましい。」(段落0008) (e)「上記基材シートに形成されるシリコーン皮膜は、その反応機構及び塗工形態から分類される各種のオルガノポリシロキサン組成物から形成することができる。例えば、反応機構では縮合型、付加型、紫外線硬化型、電子線硬化型のオルガノポリシロキサン組成物が挙げられ、塗工形態では溶剤型、無溶剤型、エマルジョン型のオルガノポリシロキサン組成物が挙げられ、反応機構と塗工形態のいかなる組合わせのオルガノポリシロキサン組成物をも用いることができる。」(段落0009) (f)「紫外線硬化型シリコーンは、基本的に波長200?400nmの紫外線のエルギーにより硬化するものであり、いずれの硬化機構によるものでもよい。具体的には、-R-OCOCH=CH2基を有するオルガノポリシロキサンに光重合開始剤を加えたアクリルシリコーン系、メルカプト基と不飽和二重結合を有するオルガノポリシロキサンに光重合開始剤を加え、下記式(8)で示すように架橋反応するメルカプト-ビニル付加重合系、熱硬化の付加反応型と同じ白金触媒を用いた付加反応系、エポキシ基を有するオルガノポリシロキサンにオニウム塩触媒を添加したカチオン重合系などがあり、いずれも使用することができる。 (化学式省略) 電子硬化型シリコーンとしては、ラジカル重合性基を有するオルガノポリシロキサンに電子線を照射し、ラジカル重合により硬化させるいずれのものも使用することができる。」(段落0014?0016) (g)「シリコーンは基材シートの片面に塗工しても両面に塗工してもよいが、シリコーンを基材シートに塗工し、硬化させることによって得られる離型シートをガラスエポキシプリプレグの成型の際に用いるときの作業性の点から、基材シートの片面に塗工し、硬化させることが好ましい。」 (段落0018) (h)「このようにして得られる本発明の離型シートは、離型性、耐熱性に優れ、プリプレグをプレスしてガラスエポキシ積層板を製造する際に好適に用いられる。」(段落0023) (i)「[実施例3] シリコーンとしてX-62-7296A・B(信越化学工業(株)製、紫外線硬化型、無溶剤型、A/B=50/50)を用い、オフセット印刷機にて実施例1と同様のグラシン紙に塗工し、80W/cmの高圧水銀灯で10cmの照射距離で10秒間キュアーし、離型シートを得た。シリコーン塗工量は固形分で2.0g/m2であった。 この離型シートに対して実施例1と同様の離型テストを行い、同様の観察を行った。結果を表1に併記する。」(段落0030?0031) 2.2 引用文献1に記載された発明 摘示(a)?(i)から、引用文献1には以下の発明(以下、引用発明という。)が、記載されているものと認める。 「プラスチックフィルムの両面に、紫外線硬化型又は電子線硬化型のオルガノポリシロキサン組成物から形成されてなる皮膜層を設けたガラスエポキシ積層板用離型シート。」(引用発明) 3.対比・判断 本願請求項1に係る発明(以下、本願発明という。)と引用発明とを比較する。 3.1 一致点について 引用発明の「紫外線硬化型又は電子線硬化型のオルガノポリシロキサン組成物」、「皮膜層」及び「ガラスエポキシ積層板用離型シート」は、それぞれ、本願発明の「電離放射線硬化型樹脂」、「離型層」及び「離型フィルム」に相当する。 したがって、本願発明と引用発明とは、次の点で一致する。 「プラスチックフィルムの両面に、電離放射線硬化型樹脂から形成されてなる離型層を設けたことを特徴とする離型フィルム。」である点。 3.2 相違点について しかし、本願発明と引用発明とは、以下の(A)の点で相違する。 (A)本願発明は、離型層の硬度が「鉛筆硬度H以上」であるのに対し、引用発明は、離型層の硬度が規定されていない点。 3.3 相違点(A)についての判断 (1)相違点(A)について 請求人は、審判請求書の請求の理由欄(3-4-2)で、本願明細書の段落0011、0030等の記載に基づき、本願発明における離型層の鉛筆硬度をH以上とすることの主たる効果が、「プレス成形時の熱によっても、フィルムが変形することなく、皺を発生させない」点にある旨主張している。 上記主張の根拠とする明細書の記載は、以下のとおりである。 「このような性能を得るためには、離型層の硬度がJIS-K5400における鉛筆硬度でH以上、好ましくは2H以上は必要である。H以上としたのは、プレス成形時の熱によるプラスチックフィルムの変形を効果的に抑えるためであることにほかならない。」(段落0011) 「【作用】このような構造の離型フィルムは、高温のプレス成形に使用してもフィルムの皺などがほとんどないものである。この熱による皺などの防止は離型層の軟化温度が高く、硬度が高いために抑えられるものと思われる。即ち、プラスチックフィルムを特定の離型層が挟み込むように配置しているため、熱によりプラスチックフィルムが軟化しても、プラスチックフィルムが変形することができないからである。また、この構造がプラスチックフィルムに熱を伝導しにくくしていることも、この現象を抑えるのに作用しているものと考えられる。」(段落0030) しかし、一般的に、プレス成形時における離型フィルムの変形、皺の発生は、離型フィルムの耐熱性不足による、加熱時の異常な伸び、縮み、皺等の発生に起因するものと推測され、離型フィルムが少なくとも充分な耐熱性を有するものであれば、プレス成形時の熱によっても、変形や皺の発生等の不都合は生じないものと認められ、このことは、例えば、特開平5-147052号公報にも示されているとおりである。 そして、表面に皮膜層を有する離型シートの耐熱性は主として皮膜層の架橋密度に依存し、架橋密度の増加は、結果的に皮膜層の硬度も上昇させるものであるから、耐熱性の向上と皮膜層の硬度上昇とは同じ傾向を示すものと認められる。 したがって、引用発明において、耐熱性向上の観点から所定の架橋密度の皮膜層を選択し、結果として所定以上の硬度を有する皮膜層とすることは当業者にとって容易である。 そして、離型層の鉛筆硬度をH以上とすることが、「プレス成形時の熱によっても、フィルムが変形することなく、皺を発生させない」ことの主たる要因であるとは認められないので、そのことによって、格別顕著な効果を奏するものとは認められない。 さらに、離型層である皮膜層の硬度について、別の観点から検討する。 離型フィルムは、プリプレグをプレス成形する際に使用されることから、プリプレグとの接触面に傷のない平滑なフィルムであることが要求されることは明らかである。 そうすると、引用発明においても、離型シート表面に傷が付くのを防止するために、皮膜の硬度を硬くしようとすることは当業者が当然に考えることであり、その際の鉛筆硬度も、基材シートの傷つきやすさ等を考慮して適宜定めうる程度のことと認められる。 そして、本願発明の効果と引用発明の効果とを比較、検討すると、引用発明の離型シートも、本願発明の離型フィルムと同様に、プラスチックフィルムを皮膜層が挟み込む構造のものであり、該離型シートは耐熱性を有するものであるから(摘示(b)、(c)、(h))、本願明細書段落0030の記載等を参酌すれば、プレス成形時に変形や皺を生じない効果を有するものと認められ、このことは、引用発明の離型シートが、実際にプリプレグをプレスしてガラスエポキシ積層板を製造する際に好適に用いられることからも明らかである(摘示(h))。 そうすると、「鉛筆硬度H以上の離型層」の特定要件は、該要件に基づく効果の点からも格別のものとは認められない。 3.4 結論 したがって、相違点(A)は当業者が容易に想到し得る程度のことであるから、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4. むすび 以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そして、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れることはできない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-01-09 |
結審通知日 | 2007-01-30 |
審決日 | 2007-02-13 |
出願番号 | 特願平7-180831 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B29C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 亀ヶ谷 明久 |
特許庁審判長 |
松井 佳章 |
特許庁審判官 |
野村 康秀 川端 康之 |
発明の名称 | 離型フィルム |
代理人 | 松山 弘司 |