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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1156403 |
審判番号 | 不服2005-2906 |
総通号数 | 90 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-06-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-02-18 |
確定日 | 2007-04-26 |
事件の表示 | 特願2002-171325「半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月22日出願公開、特開2004- 22575〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成14年6月12日の出願であって、平成17年1月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年2月18日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年3月15日に手続補正がなされ、その後当審において、平成18年6月2日付けで審尋がなされ、その後同年6月16日に回答書が提出されたものである。 第2 平成17年3月15日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)について [補正却下の決定の結論] 平成17年3月15日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.本件補正の内容 補正前の請求項1を以下のとおり補正するとともに、明細書の0014段落を補正するものである。 「【請求項1】 第1導電層と、 第2導電層と、 前記第1導電層と前記第2導電層との間に形成され、塩素が導入されたシリコン酸化膜とを備え、 前記シリコン酸化膜には、前記塩素に加えて、窒素が1×1020atoms/cm3以上の濃度で導入されており、 前記シリコン酸化膜に導入された前記窒素の濃度プロファイルが最大となる位置は、前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置よりも、前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置するとともに、前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置は、前記シリコン酸化膜の厚み方向の中央部よりも前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置する、半導体装置。」 2.本件補正の内容の整理 補正事項1 補正前の請求項1の「前記シリコン酸化膜に導入された前記窒素の濃度プロファイルが最大となる位置は、前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置よりも、前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置する」を、 補正後の請求項1の「前記シリコン酸化膜に導入された前記窒素の濃度プロファイルが最大となる位置は、前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置よりも、前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置するとともに、前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置は、前記シリコン酸化膜の厚み方向の中央部よりも前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置する」と補正すること。 補正事項2 明細書の0014段落を補正すること。 3.本件補正についての検討 (1)補正の目的の適否について [補正事項1について] 補正事項1については、補正前の請求項1に「前記シリコン酸化膜に導入された前記窒素の濃度プロファイルが最大となる位置は、前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置よりも、前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置する」を、補正後の請求項1の「前記シリコン酸化膜に導入された前記窒素の濃度プロファイルが最大となる位置は、前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置よりも、前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置するとともに、」と補正すること(補正事項1-1)と、 補正前の請求項1の「位置する」の次に「前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置は、前記シリコン酸化膜の厚み方向の中央部よりも前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置する」を追加すること(補正事項1-2)に区分して検討する。 補正事項1-1について 補正事項1-1についての補正は、実質的に、補正後の請求項1の「前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置は、前記シリコン酸化膜の厚み方向の中央部よりも前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置する」を追加することに伴い、補正前の請求項1の「前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置する」を補正後の請求項1の「前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置するとともに、」と補正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、特許法第17条の2第4項第4号に掲げる目的に該当する。 補正事項1-2について 補正事項1-2についての補正は、「前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置」が、「前記シリコン酸化膜の厚み方向の中央部よりも前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置する」と、「前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置」について限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる目的に該当する。 [補正事項2について] 補正事項2については、補正前の請求項1の補正にその内容を整合させるために、明細書の0014段落を補正するものであるから、補正事項2についての補正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 (2)新規事項の追加について [補正事項1について] 補正事項1については、上記「(1)補正の目的の適否について」での検討と同様に、「補正事項1-1」及び「補正事項1-2」に区分して検討する。 [補正事項1-1について] 補正事項1-1についての補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであることは明らかであるから、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。 [補正事項1-2について] 補正事項1-2についての補正において追加された構成である、「前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置は、前記シリコン酸化膜の厚み方向の中央部よりも前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置する」との構成を追加する補正が、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載された事項の範囲内においてなされたものであるか否かについて検討する。 審判請求人が、補正事項1-2についての補正の根拠として主張する図13及び図28について、図13と図28とに区分して検討する。 [図13について] (a)図13には、第1実施形態による高耐圧トランジスタのゲート絶縁膜を形成後、及び熱処理を施した後のSi、O、ClおよびNの濃度プロファイルが示されているだけであり、また、図13に、「前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置は、前記シリコン酸化膜の厚み方向の中央部よりも前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置する」なる構成における、「塩素の濃度プロファイルが最大となる位置」と「前記シリコン酸化膜の厚み方向の中央部」(ただし、「中央部」がどの部分を意味するかは不明りょうである。)との位置関係は示されているとしても、図13のみを根拠として、「前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置」が、「前記シリコン酸化膜の厚み方向の中央部」を境界として「前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側」までの範囲の全てにわたって「位置する」との一般概念までは、図13を含めた当初明細書等に記載されているとは言えない。 (b)図13の各成分元素(Si、O、Cl、N)のゲート絶縁膜の厚さ方向での分布は、熱処理時の温度・時間により変化するものであり、図13のみを根拠として、「前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置」が、「前記シリコン酸化膜の厚み方向の中央部」を境界として「前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側」までの範囲の全てにわたって「位置する」との一般概念が、当初明細書等に記載されているに等しい技術的事項であるとも認められない。 (c)したがって、「前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置は、前記シリコン酸化膜の厚み方向の中央部よりも前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置する」との構成を追加する補正は、本願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものではなく、特許法第17条の2第3項に規定する要件に適合しない。 [図28について] (d)第2実施形態について記載された0054段落において、「熱酸化法」により「スタックトゲート型のフラッシュメモリ」の基板とフローティングゲートとの間に形成する「トンネル絶縁膜24」の具体的な形成条件等について、「図18に示すように、p型シリコン基板21上に、熱酸化法を用いて、塩素と窒素とが導入されたSiO2膜からなるトンネル絶縁膜24を約8nm?約10nmの厚みで形成する。具体的な形成条件としては、基板温度;約800℃、導入ガス;酸素(5SLM?10SLM)、塩素;(10sccm?50sccm)の条件下で、約1nm/minの速度で形成する。これにより、図27に示した濃度プロファイルを有するSiO2膜からなるトンネル絶縁膜24が形成される。その後、RTA法により、約1000℃の酸窒化ガス雰囲気中で約30秒間の熱処理を行うことによって、SiO2膜からなるトンネル絶縁膜24を緻密化するとともに、窒素をさらに導入する。このように、酸窒化ガス雰囲気中で熱処理することによって、トンネル絶縁膜24を構成するSiO2膜の濃度プロファイルは、図28に示すような濃度プロファイルに変化する。」と記載されている。 しかし、上記0054段落には、トンネル酸化膜の導入ガス(原料ガス)として、「酸素(5SLM?10SLM)、塩素;(10sccm?50sccm)」のみが記載されており、「窒素」の原料ガスは記載されていないから、熱酸化法により形成された「トンネル酸化膜」に「窒素」が含まれているとは言えず、「RTA法により、約1000℃の酸窒化ガス雰囲気中で約30秒間の熱処理を行うこと」により「トンネル絶縁膜」と「p型シリコン基板」の界面付近に窒素を高濃度(1×1020atoms/cm3程度)に導入することはできないから、「窒素」の濃度プロファイルが含まれている図27及び図28は、第2実施形態により作成された「トンネル絶縁膜」中での各元素の濃度プロファイルを示したものとは認められない。 (e)仮に、0054段落の「具体的な形成条件」において、「窒素」を含む原料ガスを導入しているとしても、第1実施形態では、「高耐圧トランジスタ」のゲート絶縁膜を減圧CVDで約15nm形成しているのに対して、第2実施形態では、「スタックトゲート型のフラッシュメモリ」のトンネル絶縁膜を熱酸化法により約8ないし約10nm形成しており、絶縁膜の形成方法及び厚さが異なるにもかかわらず、第1実施形態の「ゲート絶縁膜」と第2実施形態の「トンネル絶縁膜」での、形成直後及び熱処理後のそれぞれの濃度プロファイルが全く同じ(図12と図27、図13と図28とは、それぞれ図面全体が完全に一致している)である可能性はなく、少なくとも、図27及び図28については、信頼性は極めて低い。 さらに、高耐圧(MOS)トランジスタに関する第1実施形態での、減圧CVDで形成された「ゲート絶縁膜」の印加電圧に対する「ゲート印加電圧の変動分」の変化特性と、高耐圧(MOS)トランジスタとは動作時の印加電圧及び電圧印加方法が異なる「スタックトゲート型のフラッシュメモリ」に関する第2実施形態での、熱酸化法により形成された「トンネル絶縁膜」の印加電圧に対する「ゲート印加電圧の変動分」の変化特性とが、「従来のSiO2膜」、「窒素が導入されたSiO2膜」及び「窒素と塩素とが導入されたSiO2膜」のそれぞれにおいて、全く同一(図2と図15とは、それぞれ図面全体が完全に一致している)である可能性は極めて低い。 したがって、「前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置」が「前記シリコン酸化膜の厚み方向の中央部よりも前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置する」との構成のみならず、「前記シリコン酸化膜に導入された前記窒素の濃度プロファイルが最大となる位置は、前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置よりも、前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置する」との、「窒素の濃度プロファイルが最大となる位置」と「塩素の濃度プロファイルが最大となる位置」との関係についても、図28を根拠として、当初明細書等に記載されていた、又は記載されているに等しい事項であるとする主張は妥当ではない。 (f)仮に、図28が第2実施形態についての正しい実験結果を示したものであったとしても、前記[図13について]において検討したと同様な理由により、「前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置は、前記シリコン酸化膜の厚み方向の中央部よりも前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置する」との構成を追加する補正は、本願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものではなく、特許法第17条の2第3項に規定する要件に適合しない。 (g)したがって、補正事項1-2についての補正は、本願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものではなく、特許法第17条の2第3項に規定する要件に適合しない。 (3)補正の目的の適否について及び新規事項の追加についてのむすび したがって、補正事項2についての補正については検討するまでもなく、適法でない補正事項1-2についての補正を含む本件補正は、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 仮に、本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる目的に該当し、本願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであって、同法同条第3項に規定する要件に適合するとして、本件補正後の請求項1に係る発明が同法同条第5項で準用する同法第126条第5項に規定される独立特許要件を満たすか否かについて検討する。 (4)独立特許要件について (4-1)刊行物に記載された発明 (a)刊行物1.特開平4-157765号公報 原審の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に日本国内において頒布された特開平4-157765号公報には、第2図、第8図ないし第10図とともに、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 半導体基板上に、ゲート絶縁膜を介して、ゲート電極が配されている構成を有し、上記ゲート絶縁膜内にFまたはClが導入されている絶縁ゲート型電界効果トランジスタにおいて、 上記ゲート絶縁膜内に導入されているFまたはClが、上記半導体基板及び上記ゲート絶縁膜間の界面またはその近傍において極大値を呈しているが、上記ゲート絶縁膜の厚さ方向の中央部において極大値を呈していない濃度分布を有することを特徴とする絶縁ゲート型電界効果トランジスタ。」(特許請求の範囲第1項) 「本発明は、半導体基板上に、ゲート絶縁膜を介して、ゲート電極が配されている構成を有する絶縁ゲート型電界効果トランジスタ・・・に関する。 ・・・ 従来、第8図を伴って次に述べる構成を有する絶縁ゲート型電界効果トランジスタが提案されている。 すなわち、p型を有する単結晶Siでなる半導体基板1上に、SiO2でなるゲート絶縁膜2を介して、導電性を有する多結晶Siでなるゲート電極3が配されている。 この場合、ゲート絶縁膜2内にFまたはClが、第9図に示すように、ゲート絶縁膜2の厚さ方向の中央部において極大値を呈する濃度分布を有して、符号20で示すように導入されている。」(第2頁右上欄第8行ないし同頁左下欄第4行) 「また、従来、第10図を伴って次に述べる絶縁ゲート型電界効果トランジスタの製法が提案されている。 第10図において、第8図との対応部分には同一符号を付して示す。 第10図に示す従来の絶縁ゲート型電界効果トランジスタの製法は、次に述べる順次の工程をとって、第8図で上述した絶縁ゲート型電界効果トランジスタを製造する。 すなわち、予め用意された例えばp型を有する単結晶Siでなる半導体基板1上に、例えばSiO2でなるゲート絶縁膜2を例えば熱酸化法によって形成する(第10図A)。 次に、半導体基板1内へのゲート絶縁膜2を介してのFまたはClのイオンの導入処理によって、半導体基板1内に、そのゲート絶縁膜2側において、FまたはClを符号20′で示すように導入させる(第10図B)。 次に、900℃?1000℃の高い温度での熱処理を施すことによって、半導体基板1内に導入されている符号20′で示されているFまたはClを、ゲート絶縁膜2内に符号20で示すように拡散させる(第10図C). 次に、ゲート絶縁膜2上に、導電性を有する多結晶Siでなるゲート電極3を所要のパターンに形成する(第10図D)。」(第2頁右下欄第1行ないし第3頁左上欄第6行) 「【発明が解決しようとする課題】 第8図に示す従来の絶縁ゲート型電界効果トランジスタによれば、ゲート絶縁膜2内にFまたはClが符号20で示すように導入されていることによって、半導体基板1とゲート絶縁膜2との間に界面またはその近傍にもFまたはClが導入されているので、半導体基板1とゲート絶縁膜2との間の界面またはその近傍における望ましくない準位を減少させている。このため、ゲート絶縁膜2内にFまたはClを上述したように導入させていない場合に比し高いホットキャリア耐性を有する。 しかしながら、第8図に示す従来の絶縁ゲート型電界効果トランジスタの場合、ゲート絶縁膜2内に導入されている符号20で示すFまたはClが、第9図に示すように、ゲート絶縁膜2の厚さ方向の中央部において極大値を呈する濃度分布を有し、このため、FまたはClが、半導体基板1とゲート絶縁膜3との界面またはその近傍において、ゲート絶縁膜3の厚さ方向の中央部よりも低い濃度でしか導入されていない。このため、半導体基板1とゲート絶縁膜2との間の界面またはその近傍における準位を減少させる効果が比較的低く、従ってホットキャリア耐性が十分高いとはいえない、という欠点を有していた。」(第3頁右上欄第6行?同頁左下欄第11行)(「ゲート絶縁膜3」が「ゲート絶縁膜2」の誤記であることは明らかである。) 「本願第1番目の発明による絶縁ゲート型電界効果トランジスタによれば、絶縁膜内に導入されているFまたはClが、半導体基板と絶縁膜との界面またはその近傍において極大値を呈するが、ゲート絶縁膜の厚さ方向の中央部において極大値を呈しない濃度分布を有するので、半導体基板とゲート絶縁膜との界面またはその近傍における望ましくない準位を、第8図で前述した従来の絶縁ゲート型電界効果トランジスタの場合に比し減少させている。このため、第8図で前述した従来の絶縁ゲート型電界効果トランジスタの場合に比し高いホットキャリア耐性を有する。」(第4頁左下欄第18行ないし同頁右下欄第10行) 「・・・本発明による絶縁ゲート型電界効果トランジスタの実施例は、ゲート絶縁膜2内に導入されている、符号20で示されているFまたはClが、第8図で前述した従来の絶縁ゲート型電界効果トランジスタの場合とは異なり、第2図に示すように、半導体基板1及びゲート絶縁膜2間の界面またはその近傍において極大値を呈しているが、ゲート絶縁膜2の中央部において極大値を呈していない濃度分布を有している。」(第6頁左上欄第12行ないし同頁右上欄第1行) 刊行物1には、従来技術としての発明と本願発明が記載されているが、以下では、従来技術としての発明を刊行物に記載されている発明として認定する。 よって、刊行物1には、以下の発明が記載されている。 「半導体基板上に、ゲート絶縁膜を介して、ゲート電極が配されている構成を有し、上記ゲート絶縁膜内にFまたはClが導入されている絶縁ゲート型電界効果トランジスタにおいて、 上記ゲート絶縁膜内に導入されているFまたはClが、上記半導体基板及び上記ゲート絶縁膜間の界面またはその近傍において極大値を呈していないが、上記ゲート絶縁膜の厚さ方向の中央部において極大値を呈している濃度分布を有することを特徴とする絶縁ゲート型電界効果トランジスタ。」 (b)刊行物2. 特開平6-29314号公報 原審の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に日本国内において頒布された特開平6-29314号公報には、第1図、第7図及び、第8図とともに、以下の事項が記載されている。 「【従来の技術】半導体装置を構成する主要な素子の一つにMOSトランジスタがある。このトランジスタの半導体基板とゲート絶縁膜との間の界面には界面準位が存在し、これがしきい値電圧を変動させたり、表面反転層内のキャリアの移動度を低下させたり、また接合のリーク電流を増加させる要因となっていた。」(0002段落) 「【0005】本発明の目的は、絶縁膜の容量を低下させることなく、かつ制御性よく界面準位を低減した半導体装置・・・を提供することにある。 【0006】 【課題を解決するための手段】本発明の半導体装置は、半導体基板と、その上に形成された絶縁膜と、その上に形成された電極とからなり、半導体基板及び上記電極の少なくとも一方並びに絶縁膜に窒素原子が導入された領域を有するものである。また、絶縁膜、半導体基板と絶縁膜の界面・・・には窒素原子と共にフッ素原子が存在していてもよい。 【0007】これらの原子は、半導体基板の深さ方向に濃度分布のピークを持つように導入されることが多い。・・・絶縁膜中にフッ素原子がなく、窒素原子のみがあり、その濃度分布のピークが絶縁膜にあるときは、そのピーク濃度は、1×1018cm?3以上1×1022cm?3以下であることが好ましい。絶縁膜は2nmから20nmの薄い膜が用いられることが多いので、ピーク濃度と窒素原子の濃度はほぼ同じである。絶縁膜中に窒素原子と共にフッ素原子が存在し、その濃度分布のピークが絶縁膜にあるときは、窒素原子及びフッ素原子の濃度は、いずれも1×1018cm?3以上1×1021cm?3以下であることが好ましい。」(0005段落ないし0007段落)(「cm?3」は「cm-3」の誤記である。他の段落においても同様である。) 「【作用】本発明の半導体装置において界面準位が減少することは、原子状の窒素が半導体基板とゲート絶縁膜界面のダングリングボンドを終端した結果と考えられる・・・。」(0010段落) 「【0018】実施例3 図1、図7を用いて、第3の実施例を説明する。・・・P型シリコン基板101上に素子分離酸化膜102を選択的に形成した。その後、温度850℃、100%O2雰囲気中で膜厚8nmのゲート酸化膜103となるシリコン酸化膜を形成する(図1(a))。次に同ゲート酸化膜上に・・・電極となるシリコン膜104を形成した。・・・その後、打ち込みエネルギー160keVで窒素イオン105のイオン打ち込みを行なった。このとき、打ち込まれたイオンの多くは、基板中に存在する。打込み量は、1×1014cm?2である。 【0019】その後、100%窒素雰囲気中で900℃、30分間の熱処理を行なうことにより、イオン打ち込み損傷の回復・・・を図った(図1(b))。なお、このアニール後の窒素原子は、酸化膜中及び基板中に存在し、このときの窒素原子濃度ピークは酸化膜と基板界面付近にあり、ピーク濃度は1×1018?1×1021cm?3である。 ・・・実施例1と同様にして半導体装置を完成する。 【0020】この試料の、容量-電圧測定結果より求めた界面準位密度を図7に示す。窒素打ち込み無しの試料と比較して、界面準位が低減できていることが分かる。しかも、酸化膜容量低下及び膜厚増加は見られなかった。また、絶縁性は劣化しなかった。・・・ 【0021】実施例4 図1、図8を用いて、第4の実施例を説明する。・・・P型シリコン基板101上に素子分離酸化膜102を選択的に形成した。その後、温度850℃、100%O2雰囲気中で膜厚8nmのゲート酸化膜103となるシリコン酸化膜を形成する(図1(a))。次に同ゲート酸化膜上に・・・電極となるシリコン膜104を形成した。・・・その後、打ち込みエネルギー45keVで窒素イオンとフッ素イオン105のイオン打ち込みをそれぞれ行なった。このとき、打ち込まれたイオンの多数はゲート酸化膜中に存在する。打込み量は、各々1×1014、1×1015cm?2である(図1(b))。その後、100%窒素雰囲気中で900℃、30分間の熱処理を行なうことにより、イオン打ち込み損傷の回復・・・を図った。・・・実施例1と同様にして半導体装置を完成する。この時の、容量-電圧測定結果より求めた界面準位密度を図8に示す。窒素打ち込み無しの試料と比較して、界面準位が低減できていることが分かる。しかも、容量低下及び酸化膜厚増加は見られなかった。また、絶縁性は劣化しなかった。 【0022】なお、上記アニール後の窒素原子は、電極中、酸化膜中及び基板中に存在し、また、フッ素原子は酸化膜中に存在し、窒素原子及びフッ素原子の濃度分布はいずれも酸化膜中にピークを持ち、ピーク濃度をSIMS計測により求めると、各々1×1018cm?3以上1×1021cm?3以下であった。・・・ 【0023】また、フッ素イオンの打ち込みエネルギーは上記のままで、窒素イオンの打ち込みエネルギーを160keVに設定して同様の実験を行なった。打ち込まれた窒素イオンの多くは基板中に存在し、また、アニール後は酸化膜中及び基板中に存在し、その濃度分布は酸化膜と基板界面付近にピークを持ち、ピーク濃度は1×1018cm?3以上1×1021cm?3以下であった。フッ素原子については上記と同じであった。この場合も本実施例と全く同様の効果が得られた。 【0024】さらにまた、フッ素イオンの打ち込みエネルギーを25keVに、窒素イオンの打ち込みエネルギーを25、45、160keVの3種類に設定し、同様の実験を行なうと、打ち込まれたフッ素イオンの多数はゲート酸化膜中に存在し、またアニール後もゲート酸化膜中に存在する。アニール後のフッ素原子の濃度分布は、電極と酸化膜の界面又は酸化膜と基板の界面の少なくとも一方にピークを持つ。窒素原子については、上記各実施例の打ち込みエネルギーが25、45、160keVの場合と同様であり、各々の場合のアニール後の窒素原子の濃度分布は上述のように、各々電極中、酸化膜中、酸化膜と基板の界面付近にピークを持つ。これらのフッ素原子及び窒素原子のピーク濃度は、各々1×1018cm?3以上1×1021cm?3以下であった。この場合も、本実施例と全く同様の効果が得られた。」(0018段落ないし0024段落) 「【発明の効果】半導体基板、電極の少なくとも一方及び絶縁膜中に窒素原子を導入すると、導入された窒素原子が絶縁膜と半導体基板の界面でのダングリングボンドを終端するために、界面準位が減少し、半導体装置の界面特性が向上する。このとき、絶縁膜の容量低下、絶縁膜厚増加は伴わない。さらに、絶縁性は劣化しないか又は向上する。窒素原子とともにフッ素原子を導入しても同様である。」(0026段落) (4-2)対比・判断 平成17年3月15日に提出された手続補正書により補正され、上記「1.本件補正の内容」に記載されたとおりの、請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)と刊行物1に記載された発明(以下、「刊行物発明」という。)とを対比検討する。 (a)刊行物発明において、半導体基板上に位置する「ゲート絶縁膜内に導入されているFまたはCl」の濃度分布の「極大値」については、「ゲート絶縁膜」と「半導体基板」との界面からの位置で記載されており、一方、補正発明において、「シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイル」の「最大」については、「シリコン酸化膜」と「第1導電層」との界面からの位置で記載されているから、刊行物発明の「半導体基板」、「ゲート絶縁膜」、「濃度分布」及び「極大値」は、それぞれ、補正発明の「第1導電層」、「シリコン酸化膜」、「濃度プロファイル」及び「最大」に相当する。 (b)刊行物発明において、「半導体基板」と「ゲート電極」の間に「ゲート絶縁膜」が形成されており、一方、補正発明においては、「第1導電層」と「第2導電層」との間に「シリコン酸化膜」が形成されており、上記(a)で検討したとおり、刊行物発明の「半導体基板」及び「ゲート絶縁膜」は、それぞれ補正発明の「第1導電層」及び「シリコン酸化膜」に相当するから、刊行物発明の「ゲート電極」は、補正発明の「第2導電層」に相当し、刊行物発明の「半導体基板上に、ゲート絶縁膜を介して、ゲート電極が配されている構成」を備えること、言い換えると、「半導体基板」と「ゲート電極」の間に「ゲート絶縁膜」を備えることは、補正発明が「前記第1導電層と前記第2導電層との間に形成され」た「シリコン酸化膜」を備えることに相当する。 (c)刊行物発明の「絶縁ゲート型電界効果トランジスタ」が「半導体装置」であることは明らかであるから、刊行物発明の「絶縁ゲート型電界効果トランジスタ」は、補正発明の「半導体装置」に相当する。 (d)刊行物発明において、「ゲート絶縁膜」内に「Cl」が導入され、一方、補正発明において、「シリコン酸化膜」に「塩素」が導入され、さらに、「Cl」が「塩素」を意味することは技術常識であるから、上記(a)を参照すると、刊行物発明の「Clが導入され」た「ゲート絶縁膜」は、補正発明の「塩素が導入されたシリコン酸化膜」に相当する。 したがって、補正発明と刊行物発明は、 「第1導電層と、 第2導電層と、 前記第1導電層と前記第2導電層との間に形成され、塩素が導入されたシリコン酸化膜とを備えた、 半導体装置。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1 補正発明が、「シリコン酸化膜」に「塩素が導入され」ているとの構成を備えているのに対して、 刊行物発明が、「ゲート絶縁膜内にFまたはClが導入されている」との構成を備えている点。 相違点2 補正発明が、「前記シリコン酸化膜には、前記塩素に加えて、窒素が1×1020atoms/cm3以上の濃度で導入されており、」との構成を備えるのに対して、 刊行物発明は、上記構成を備えていない点。 相違点3 補正発明が、「前記シリコン酸化膜に導入された前記窒素の濃度プロファイルが最大となる位置は、前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置よりも、前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置するとともに、前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置は、前記シリコン酸化膜の厚み方向の中央部よりも前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置する、」との構成を備えるのに対して、 刊行物発明が「上記ゲート絶縁膜内に導入されているFまたはClが、上記半導体基板及び上記ゲート絶縁膜間の界面またはその近傍において極大値を呈していないが、上記ゲート絶縁膜の厚さ方向の中央部において極大値を呈している濃度分布を有すること」との構成を備えている点。 以下相違点について検討する。 [相違点1について] 刊行物1には、「第8図に示す従来の絶縁ゲート型電界効果トランジスタによれば、ゲート絶縁膜2内にFまたはClが符号20で示すように導入されていることによって、半導体基板1とゲート絶縁膜2との間に界面またはその近傍にもFまたはClが導入されているので、半導体基板1とゲート絶縁膜2との間の界面またはその近傍における望ましくない準位を減少させている。このため、ゲート絶縁膜2内にFまたはClを上述したように導入させていない場合に比し高いホットキャリア耐性を有する。」(第3頁右上欄第7ないし17行)と記載され、一方、本願の当初明細書等には、「第1導電層と第2導電層との間に、塩素が導入されたシリコン酸化膜を設けることによって、たとえば、塩素が導入されたシリコン酸化膜を、半導体基板(第1導電層)とゲート電極(第2導電層)との間にゲート絶縁膜が設けられた高耐圧の電界効果型トランジスタのゲート絶縁膜として使用すれば、塩素が導入されたシリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜では、ゲート絶縁膜を構成するシリコン酸化膜中のSiのダングリングボンド(未結合手)と塩素とが結合されると考えられるので、ゲート絶縁膜を構成するシリコン酸化膜に電子が注入される初期状態における電子トラップの生成を抑制することができると考えられる。」(0015段落)、「上記第1?第3実施形態では、ゲート絶縁膜またはトンネル絶縁膜を構成するSiO2膜(シリコン酸化膜)に、塩素と窒素とを導入する例を示したが、本発明はこれに限らず、ゲート絶縁膜またはトンネル絶縁膜を構成するSiO2膜(シリコン酸化膜)に塩素のみを導入してもよい。この場合も、同様の効果を得ることができる。」(0086段落)と記載されているから、刊行物発明における「ゲート絶縁膜」に導入された「F」(フッ素)と「Cl](塩素)は、補正発明の「シリコン酸化膜」に導入された「塩素」と同様な作用効果があるものと認められる。 よって、刊行物発明において、同等な作用効果を奏し、択一的に記載された「F」(フッ素)と「Cl](塩素)から、補正発明の「シリコン酸化膜」に相当する刊行物発明の「ゲート絶縁膜」に導入する元素として「塩素」を選択することは、当業者が容易になしえたものである。 [相違点2について] (a)刊行物2には、「MOSトランジスタ・・・の半導体基板とゲート絶縁膜との間の界面には界面準位が存在し、これがしきい値電圧を変動させたり、表面反転層内のキャリアの移動度を低下させたり、また接合のリーク電流を増加させる要因となっていた。」(0002段落)との課題を解決するために、「絶縁膜の容量を低下させることなく、かつ制御性よく界面準位を低減した半導体装置」(0006段落)を提供することを目的とし、課題を解決するための手段として、ゲート「絶縁膜中に窒素原子と共にフッ素原子が存在し、その濃度分布のピークが絶縁膜にあるときは、窒素原子及びフッ素原子の濃度は、いずれも1×1018cm-3以上1×1021cm-3以下である・・・」(0007段落)との構成が記載され、「同ゲート酸化膜上に・・・電極となるシリコン膜104を形成した。・・・その後、打ち込みエネルギー45keVで窒素イオンとフッ素イオン105のイオン打ち込みをそれぞれ行なった。このとき、打ち込まれたイオンの多数はゲート酸化膜中に存在する。・・・容量-電圧測定結果より求めた界面準位密度を図8に示す。窒素打ち込み無しの試料と比較して、界面準位が低減できていることが分かる。」(0021段落)、「フッ素イオンの打ち込みエネルギーは上記のままで、窒素イオンの打ち込みエネルギーを160keVに設定して同様の実験を行なった。打ち込まれた窒素イオンの多くは基板中に存在し、また、アニール後は酸化膜中及び基板中に存在し、その濃度分布は酸化膜と基板界面付近にピークを持ち、ピーク濃度は1×1018cm-3以上1×1021cm-3以下であった。フッ素原子については上記と同じであった。この場合も本実施例と全く同様の効果が得られた。」(0023段落)及び、「窒素原子については、上記各実施例の打ち込みエネルギーが25、45、160keVの場合と同様であり、各々の場合のアニール後の窒素原子の濃度分布は上述のように、各々電極中、酸化膜中、酸化膜と基板の界面付近にピークを持つ。これらのフッ素原子及び窒素原子のピーク濃度は、各々1×1018cm-3以上1×1021cm-3以下であった。この場合も、本実施例と全く同様の効果が得られた。」(0024段落)と記載されている。 言い換えると、刊行物2には、MOSトランジスタの「半導体基板とゲート絶縁膜との間の界面」に存在する「界面準位」を低減するために、「酸化膜と基板の界面付近」に濃度の「ピークを持つ」「フッ素原子」及び「窒素原子」をそれぞれ「1×1018cm-3以上1×1021cm-3以下」導入することが記載されている。 (b)ここで、[相違点1について]において検討したとおり、刊行物1には、「半導体基板1とゲート絶縁膜2との間に界面またはその近傍にもFまたはClが導入されているので、半導体基板1とゲート絶縁膜2との間の界面またはその近傍における望ましくない準位を減少させている。」(第3頁右上欄第10ないし14行)と記載されており、また、刊行物発明における「ゲート絶縁膜」に導入された「F」(フッ素)と「Cl](塩素)が、補正発明の「シリコン酸化膜」に導入された「塩素」と同様な作用効果があるものと認められる。 (c)したがって、「半導体基板1とゲート絶縁膜2との間に界面またはその近傍」の「望ましくない準位」を減少することに関して、「Cl」(塩素)と同等な作用効果がある「F」(フッ素、フッ素原子)とともに「ゲート絶縁膜」に導入して「半導体基板とゲート絶縁膜との間の界面には界面準位」の減少に効果がある「窒素原子」を、刊行物発明の「Cl」が導入された「ゲート絶縁膜」に、さらに導入することは、当業者が容易になしえたものである。 (d)また、刊行物発明の「ゲート絶縁膜」に、刊行物2に記載される「窒素原子」をも導入する際に、刊行物2に記載される「絶縁膜中に窒素原子と共にフッ素原子が存在し、その濃度分布のピークが絶縁膜にあるときは、窒素原子及びフッ素原子の濃度は、いずれも1×1018cm-3以上1×1021cm-3以下である」(0007段落)と記載される「窒素原子」の濃度を「1×1018cm-3以上1×1021cm-3以下」の範囲で適宜、「1×1020cm-3以上1×1021cm-3以下」の範囲に設定することは、当業者が必要に応じてなしえたものである。 [相違点3について] (a)効果について (a1)補正発明の効果について、当初明細書等には、「上記第1?第3実施形態では、ゲート絶縁膜またはトンネル絶縁膜を構成するSiO2膜(シリコン酸化膜)に、塩素と窒素とを導入する例を示したが、本発明はこれに限らず、ゲート絶縁膜またはトンネル絶縁膜を構成するSiO2膜(シリコン酸化膜)に塩素のみを導入してもよい。この場合も、同様の効果を得ることができる。」(0086段落)と記載され、シリコン酸化膜に「塩素」のみを導入した場合にも、シリコン酸化膜に「塩素と窒素」を導入した場合と同様の効果が得られる。 (a2)本願の当初明細書等の図2及び0028段落ないし0030段落には、シリコン酸化膜に「窒素」のみを導入したものと、シリコン酸化膜に「窒素と塩素」を導入したものとにおいて、「ゲート絶縁膜を有する高耐圧トランジスタの電圧印加時間としきい値電圧との関係」について差異があると記載されているが、シリコン酸化膜に「塩素」のみを導入した具体的な実験結果等は、当初明細書等の他の段落又は他の図面にも何ら記載されておらず、シリコン酸化膜に「塩素」のみを導入したものと、シリコン酸化膜に「窒素と塩素」を導入したものとにおいて、「ゲート絶縁膜を有する高耐圧トランジスタの電圧印加時間としきい値電圧との関係」についてどの程度の差異があるか明りょうでない。 (a3)したがって、本願の当初明細書等の記載を参酌しても、本願の当初明細書等の0015段落に記載される「第1導電層と第2導電層との間に、塩素が導入されたシリコン酸化膜を設けることによって、たとえば、塩素が導入されたシリコン酸化膜を、半導体基板(第1導電層)とゲート電極(第2導電層)との間にゲート絶縁膜が設けられた高耐圧の電界効果型トランジスタのゲート絶縁膜として使用すれば、塩素が導入されたシリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜では、ゲート絶縁膜を構成するシリコン酸化膜中のSiのダングリングボンド(未結合手)と塩素とが結合されると考えられるので、ゲート絶縁膜を構成するシリコン酸化膜に電子が注入される初期状態における電子トラップの生成を抑制することができると考えられる。」との効果について、シリコン酸化膜に「塩素」を導入した場合と、シリコン酸化膜に「窒素と塩素」を導入した場合とにおいて、どのように相違するか、当初明細書等に何ら記載されいない。 (a4)また、上記「3.本件補正についての検討 (2)新規事項の追加について」の「[図28について]」において検討したとおり、少なくとも図27及び図28は、補正発明の作用効果を説明するための根拠として妥当ではない。 (b)「窒素の濃度プロファイルが最大となる位置」と「塩素の濃度プロファイルが最大となる位置」との関係について (b1)補正発明は、(b11)「前記シリコン酸化膜に導入された前記窒素の濃度プロファイルが最大となる位置は、前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置よりも、前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置するとともに」、(b12)「前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置は、前記シリコン酸化膜の厚み方向の中央部よりも前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置する」との構成を備えている。 (b2)図13には、第1実施形態の具体的な形成条件及び熱処理条件(「圧力;133×10Pa、基板温度;約800℃、材料ガス;ジクロロシランガス(10sccm?20sccm)、N2Oガス(0.5SLM・・・?1.0SLM)の条件下で、約1nm/minの堆積速度で形成する。」「その後、RTA・・・法により、約1000℃の酸窒化ガス雰囲気中で約30秒間の熱処理を行うこと」(0035段落))により形成された窒素と塩素が導入された「シリコン酸化膜」における、「ゲート絶縁膜(シリコン酸化膜)」及び「p型シリコン基板」の「深さ」(横軸)に対する「N、Cl濃度(atoms/cm3)」(縦軸)が示されている。 (b3)そして、図13には、上記(b2)に記載した形成条件及び熱処理条件により形成されたシリコン酸化膜での窒素及び塩素の濃度分布が記載されているのであって、シリコン酸化膜の形成条件及び熱処理条件を変更した場合に、常に、図13に示すような窒素及び塩素の濃度プロファイル、言い換えると、「窒素の濃度プロファイルが最大となる位置」と「塩素の濃度プロファイルが最大となる位置」との関係について、「前記シリコン酸化膜に導入された前記窒素の濃度プロファイルが最大となる位置は、前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置よりも、前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置する」とは言えず、また、「塩素の濃度プロファイルが最大となる位置」について、「前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置は、前記シリコン酸化膜の厚み方向の中央部よりも前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置する」とも言えず、また、作用効果についても、任意のシリコン酸化膜形成条件及び熱処理条件において、本願の当初明細書等に記載される作用効果が得られるとは認められない。 (c)刊行物2においては、フッ素原子の導入深さを一定として、窒素原子の導入深さを変更することにより、窒素原子の導入位置を変更することが記載されている(0023段落及び0024段落)から、刊行物1において、「Cl」(塩素)と同等な作用効果を奏する「F」(フッ素)の導入位置(導入深さ)に対する窒素原子の導入位置を適宜変更できることが記載されている。 (d)したがって、上記(a)で検討したとおり、シリコン酸化膜に「塩素」に加えて「窒素」を導入することによりどの程度作用効果が改善できるか確認できる根拠は、本願の当初明細書等には何ら記載されておらず、上記(b)で検討したとおり、「窒素の濃度プロファイルが最大となる位置」と「塩素の濃度プロファイルが最大となる位置」との相互の位置関係により、本願の当初明細書等に記載される作用効果がどのように変化するかについても、本願の当初明細書等には何ら記載されておらず、また、上記(c)で検討したとおり、刊行物2には、「Cl」(塩素)と同等な作用効果を奏する「F」(フッ素)の導入位置に対して、窒素の導入位置を適宜変更できることが記載されており、さらに、上記[相違点1について]において検討したとおり、刊行物発明においても、ゲート絶縁膜に「F」(フッ素)又は「Cl」(塩素)を導入することにより、「半導体基板1とゲート絶縁膜2との間の界面またはその近傍における望ましくない準位を減少させている。」(第3頁右上欄第12ないし14行)ことは明らかであるから、「窒素の濃度プロファイルが最大となる位置」と「塩素の濃度プロファイルが最大となる位置」との相互の位置関係は、当業者が必要に応じて適宜設定できるものであり、また、補正発明において、「窒素」が「前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面」付近に導入されていれば、「窒素の濃度プロファイルが最大となる位置」と「塩素の濃度プロファイルが最大となる位置」との相互の位置関係は、格別顕著な作用効果の差異をもたらすものとも言えない。 (e)また、刊行物発明においては、「上記ゲート絶縁膜内に導入されている」「Clが、上記半導体基板及び上記ゲート絶縁膜間の界面またはその近傍において極大値を呈していないが、上記ゲート絶縁膜の厚さ方向の中央部において極大値を呈している濃度分布を有すること」との構成を備えているのであるから、刊行物2に記載される如き、「窒素」を「上記半導体基板及び上記ゲート絶縁膜間の界面またはその近傍において極大値」となるように導入することにより、補正発明の如く、「前記シリコン酸化膜に導入された前記窒素の濃度プロファイルが最大となる位置は、前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置よりも、前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置する」ようにすることは、当業者が容易になしえたものである。 さらに、補正発明の「前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置は、前記シリコン酸化膜の厚み方向の中央部よりも前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置する」点については、「塩素」及び「窒素」の導入条件及び導入後の熱処理条件を設定することにより、適宜設定しえたものである。 よって、補正発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 (4-3)独立特許要件のむすび よって、補正発明を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであり、適法でない補正を含む本件補正は、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 (5)むすび よって、補正事項2についての補正については検討するまでもなく、適法でない補正事項1-2についての補正を含む本件補正は、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 仮に、本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる目的に該当し、本願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであって、同法同条第3項に規定する要件に適合するとしても、補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、補正発明を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであり、適法でない補正を含む本件補正は、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 第3 本願発明 平成17年3月15日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成16年12月24日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載されている事項により特定される以下のとおりのものである。 「第1導電層と、 第2導電層と、 前記第1導電層と前記第2導電層との間に形成され、塩素が導入されたシリコン酸化膜とを備え、 前記シリコン酸化膜には、前記塩素に加えて、窒素が1×1020atoms/cm3以上の濃度で導入されており、 前記シリコン酸化膜に導入された前記窒素の濃度プロファイルが最大となる位置は、前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置よりも、前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置する、半導体装置。」 第4 刊行物記載の発明 刊行物1及び2には、上記「第2 3.本件補正の検討 (4-1)刊行物に記載された発明」の「(a)刊行物1.」及び「(b)刊行物2.」に記載されるとおりの事項が記載され、刊行物1には、以下の発明が記載されている。 「半導体基板上に、ゲート絶縁膜を介して、ゲート電極が配されている構成を有し、上記ゲート絶縁膜内にFまたはClが導入されている絶縁ゲート型電界効果トランジスタにおいて、 上記ゲート絶縁膜内に導入されているFまたはClが、上記半導体基板及び上記ゲート絶縁膜間の界面またはその近傍において極大値を呈していないが、上記ゲート絶縁膜の厚さ方向の中央部において極大値を呈している濃度分布を有することを特徴とする絶縁ゲート型電界効果トランジスタ。」 第5 対比・判断 本願発明と刊行物1に記載された発明(以下、「刊行物発明」という。)とを対比検討する。 (a)刊行物発明において、半導体基板上に位置する「ゲート絶縁膜内に導入されているFまたはCl」の濃度分布の「極大値」については、「ゲート絶縁膜」と「半導体基板」との界面からの位置で記載されており、一方、本願発明において、「シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイル」の「最大」については、「シリコン酸化膜」と「第1導電層」との界面からの位置で記載されているから、刊行物発明の「半導体基板」、「ゲート絶縁膜」、「濃度分布」及び「極大値」は、それぞれ、本願発明の「第1導電層」、「シリコン酸化膜」、「濃度プロファイル」及び「最大」に相当する。 (b)刊行物発明において、「半導体基板」と「ゲート電極」の間に「ゲート絶縁膜」が形成されており、一方、本願発明においては、「第1導電層」と「第2導電層」との間に「シリコン酸化膜」が形成されており、上記(a)で検討したとおり、刊行物発明の「半導体基板」及び「ゲート絶縁膜」は、それぞれ本願発明の「第1導電層」及び「シリコン酸化膜」に相当するから、刊行物発明の「ゲート電極」は、本願発明の「第2導電層」に相当し、刊行物発明の「半導体基板上に、ゲート絶縁膜を介して、ゲート電極が配されている構成」を備えること、言い換えると、「半導体基板」と「ゲート電極」の間に「ゲート絶縁膜」を備えることは、本願発明が「前記第1導電層と前記第2導電層との間に形成され」た「シリコン酸化膜」を備えることに相当する。 (c)刊行物発明の「絶縁ゲート型電界効果トランジスタ」が「半導体装置」であることは明らかであるから、刊行物発明の「絶縁ゲート型電界効果トランジスタ」は、本願発明の「半導体装置」に相当する。 (d)刊行物発明において、「ゲート絶縁膜」内に「Cl」が導入され、一方、本願発明において、「シリコン酸化膜」に「塩素」が導入され、さらに、「Cl」が「塩素」を意味することは技術常識であるから、上記(a)を参照すると、刊行物発明の「Clが導入され」た「ゲート絶縁膜」は、本願発明の「塩素が導入されたシリコン酸化膜」に相当する。 したがって、本願発明と刊行物発明は、 「第1導電層と、 第2導電層と、 前記第1導電層と前記第2導電層との間に形成され、塩素が導入されたシリコン酸化膜とを備えた、 半導体装置。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1 本願発明が、「シリコン酸化膜」に「塩素が導入され」ているとの構成を備えているのに対して、 刊行物発明が、「ゲート絶縁膜内にFまたはClが導入されている」との構成を備えている点。 相違点2 本願発明が、「前記シリコン酸化膜には、前記塩素に加えて、窒素が1×1020atoms/cm3以上の濃度で導入されており、」との構成を備えるのに対して、 刊行物発明は、上記構成を備えていない点。 相違点3 本願発明が、「前記シリコン酸化膜に導入された前記窒素の濃度プロファイルが最大となる位置は、前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置よりも、前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置する、」との構成を備えるのに対して、 刊行物発明が「上記ゲート絶縁膜内に導入されているFまたはClが、上記半導体基板及び上記ゲート絶縁膜間の界面またはその近傍において極大値を呈していないが、上記ゲート絶縁膜の厚さ方向の中央部において極大値を呈している濃度分布を有すること」との構成を備えている点。 以下相違点について検討する。 [相違点1について] 刊行物1には、「第8図に示す従来の絶縁ゲート型電界効果トランジスタによれば、ゲート絶縁膜2内にFまたはClが符号20で示すように導入されていることによって、半導体基板1とゲート絶縁膜2との間に界面またはその近傍にもFまたはClが導入されているので、半導体基板1とゲート絶縁膜2との間の界面またはその近傍における望ましくない準位を減少させている。このため、ゲート絶縁膜2内にFまたはClを上述したように導入させていない場合に比し高いホットキャリア耐性を有する。」(第3頁右上欄第7ないし17行)と記載され、一方、本願の当初明細書等には、「第1導電層と第2導電層との間に、塩素が導入されたシリコン酸化膜を設けることによって、たとえば、塩素が導入されたシリコン酸化膜を、半導体基板(第1導電層)とゲート電極(第2導電層)との間にゲート絶縁膜が設けられた高耐圧の電界効果型トランジスタのゲート絶縁膜として使用すれば、塩素が導入されたシリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜では、ゲート絶縁膜を構成するシリコン酸化膜中のSiのダングリングボンド(未結合手)と塩素とが結合されると考えられるので、ゲート絶縁膜を構成するシリコン酸化膜に電子が注入される初期状態における電子トラップの生成を抑制することができると考えられる。」(0015段落)、「上記第1?第3実施形態では、ゲート絶縁膜またはトンネル絶縁膜を構成するSiO2膜(シリコン酸化膜)に、塩素と窒素とを導入する例を示したが、本発明はこれに限らず、ゲート絶縁膜またはトンネル絶縁膜を構成するSiO2膜(シリコン酸化膜)に塩素のみを導入してもよい。この場合も、同様の効果を得ることができる。」(0086段落)と記載されているから、刊行物発明における「ゲート絶縁膜」に導入された「F」(フッ素)と「Cl](塩素)は、本願発明の「シリコン酸化膜」に導入された「塩素」と同様な作用効果があるものと認められる。 よって、刊行物発明において、同等な作用効果を奏し、択一的に記載された「F」(フッ素)と「Cl](塩素)から、本願発明の「シリコン酸化膜」に相当する刊行物発明の「ゲート絶縁膜」に導入する元素として「塩素」を選択することは、当業者が容易になしえたものである。 [相違点2について] (a)刊行物2には、「MOSトランジスタ・・・の半導体基板とゲート絶縁膜との間の界面には界面準位が存在し、これがしきい値電圧を変動させたり、表面反転層内のキャリアの移動度を低下させたり、また接合のリーク電流を増加させる要因となっていた。」(0002段落)との課題を解決するために、「絶縁膜の容量を低下させることなく、かつ制御性よく界面準位を低減した半導体装置」(0006段落)を提供することを目的とし、課題を解決するための手段として、ゲート「絶縁膜中に窒素原子と共にフッ素原子が存在し、その濃度分布のピークが絶縁膜にあるときは、窒素原子及びフッ素原子の濃度は、いずれも1×1018cm-3以上1×1021cm-3以下である・・・」(0007段落)との構成が記載され、「同ゲート酸化膜上に・・・電極となるシリコン膜104を形成した。・・・その後、打ち込みエネルギー45keVで窒素イオンとフッ素イオン105のイオン打ち込みをそれぞれ行なった。このとき、打ち込まれたイオンの多数はゲート酸化膜中に存在する。・・・容量-電圧測定結果より求めた界面準位密度を図8に示す。窒素打ち込み無しの試料と比較して、界面準位が低減できていることが分かる。」(0021段落)、「フッ素イオンの打ち込みエネルギーは上記のままで、窒素イオンの打ち込みエネルギーを160keVに設定して同様の実験を行なった。打ち込まれた窒素イオンの多くは基板中に存在し、また、アニール後は酸化膜中及び基板中に存在し、その濃度分布は酸化膜と基板界面付近にピークを持ち、ピーク濃度は1×1018cm-3以上1×1021cm-3以下であった。フッ素原子については上記と同じであった。この場合も本実施例と全く同様の効果が得られた。」(0023段落)及び、「窒素原子については、上記各実施例の打ち込みエネルギーが25、45、160keVの場合と同様であり、各々の場合のアニール後の窒素原子の濃度分布は上述のように、各々電極中、酸化膜中、酸化膜と基板の界面付近にピークを持つ。これらのフッ素原子及び窒素原子のピーク濃度は、各々1×1018cm-3以上1×1021cm-3以下であった。この場合も、本実施例と全く同様の効果が得られた。」(0024段落)と記載されている。 言い換えると、刊行物2には、MOSトランジスタの「半導体基板とゲート絶縁膜との間の界面」に存在する「界面準位」を低減するために、「酸化膜と基板の界面付近」に濃度の「ピークを持つ」「フッ素原子」及び「窒素原子」をそれぞれ「1×1018cm-3以上1×1021cm-3以下」導入することが記載されている。 (b)ここで、[相違点1について]において検討したとおり、刊行物1には、「半導体基板1とゲート絶縁膜2との間に界面またはその近傍にもFまたはClが導入されているので、半導体基板1とゲート絶縁膜2との間の界面またはその近傍における望ましくない準位を減少させている。」(第3頁右上欄第10ないし14行)と記載されており、また、刊行物発明における「ゲート絶縁膜」に導入された「F」(フッ素)と「Cl](塩素)が、本願発明の「シリコン酸化膜」に導入された「塩素」と同様な作用効果があるものと認められる。 (c)したがって、「半導体基板1とゲート絶縁膜2との間に界面またはその近傍」の「望ましくない準位」を減少することについて、「Cl」(塩素)と同等な作用効果がある「F」(フッ素、フッ素原子)とともに「ゲート絶縁膜」に導入して「半導体基板とゲート絶縁膜との間の界面には界面準位」の減少に効果がある「窒素原子」を、刊行物発明の「Cl」が導入された「ゲート絶縁膜」に、さらに導入することは、当業者が容易になしえたものである。 (d)また、刊行物発明の「ゲート絶縁膜」に、刊行物2に記載される「窒素原子」をも導入する際に、刊行物2に記載される「絶縁膜中に窒素原子と共にフッ素原子が存在し、その濃度分布のピークが絶縁膜にあるときは、窒素原子及びフッ素原子の濃度は、いずれも1×1018cm-3以上1×1021cm-3以下である」(0007段落)と記載される「窒素原子」の濃度を「1×1018cm-3以上1×1021cm-3以下」の範囲で適宜、「1×1020cm-3以上1×1021cm-3以下」の範囲に設定することは、当業者が必要に応じてなしえたものである。 [相違点3について] (a)効果について (a1)本願発明の効果について、当初明細書等には、「上記第1?第3実施形態では、ゲート絶縁膜またはトンネル絶縁膜を構成するSiO2膜(シリコン酸化膜)に、塩素と窒素とを導入する例を示したが、本発明はこれに限らず、ゲート絶縁膜またはトンネル絶縁膜を構成するSiO2膜(シリコン酸化膜)に塩素のみを導入してもよい。この場合も、同様の効果を得ることができる。」(0086段落)と記載され、シリコン酸化膜に「塩素」のみを導入した場合にも、シリコン酸化膜に「塩素と窒素」を導入した場合と同様の効果が得られる。 (a2)本願の当初明細書等の図2及び0028段落ないし0030段落には、シリコン酸化膜に「窒素」のみを導入したものと、シリコン酸化膜に「窒素と塩素」を導入したものとにおいて、「ゲート絶縁膜を有する高耐圧トランジスタの電圧印加時間としきい値電圧との関係」について差異があると記載されているが、シリコン酸化膜に「塩素」のみを導入した具体的な実験結果等は、当初明細書等の他の段落又は他の図面にも何ら記載されておらず、シリコン酸化膜に「塩素」のみを導入したものと、シリコン酸化膜に「窒素と塩素」を導入したものとにおいて、「ゲート絶縁膜を有する高耐圧トランジスタの電圧印加時間としきい値電圧との関係」についてどの程度の差異があるか明りょうでない。 (a3)したがって、本願の当初明細書等の記載を参酌しても、本願の当初明細書等の0015段落に記載される「第1導電層と第2導電層との間に、塩素が導入されたシリコン酸化膜を設けることによって、たとえば、塩素が導入されたシリコン酸化膜を、半導体基板(第1導電層)とゲート電極(第2導電層)との間にゲート絶縁膜が設けられた高耐圧の電界効果型トランジスタのゲート絶縁膜として使用すれば、塩素が導入されたシリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜では、ゲート絶縁膜を構成するシリコン酸化膜中のSiのダングリングボンド(未結合手)と塩素とが結合されると考えられるので、ゲート絶縁膜を構成するシリコン酸化膜に電子が注入される初期状態における電子トラップの生成を抑制することができると考えられる。」との効果について、シリコン酸化膜に「塩素」を導入した場合と、シリコン酸化膜に「窒素と塩素」を導入した場合とにおいて、どのように相違するか、当初明細書等に何ら記載されていない。 (a4)また、上記「3.本件補正についての検討 (2)新規事項の追加について」の「[図28について]」において検討したとおり、少なくとも図27及び図28は、本願発明の作用効果を説明するための根拠として妥当ではない。 (b)「窒素の濃度プロファイルが最大となる位置」と「塩素の濃度プロファイルが最大となる位置」との関係について (b1)本願発明は、「前記シリコン酸化膜に導入された前記窒素の濃度プロファイルが最大となる位置は、前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置よりも、前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置する」との構成を備えている。 (b2)図13には、第1実施形態の具体的な形成条件及び熱処理条件(「圧力;133×10Pa、基板温度;約800℃、材料ガス;ジクロロシランガス(10sccm?20sccm)、N2Oガス(0.5SLM・・・?1.0SLM)の条件下で、約1nm/minの堆積速度で形成する。」「その後、RTA・・・法により、約1000℃の酸窒化ガス雰囲気中で約30秒間の熱処理を行うこと」(0035段落))により形成された窒素と塩素が導入された「シリコン酸化膜」における、「ゲート絶縁膜(シリコン酸化膜)」及び「p型シリコン基板」の「深さ」(横軸)に対する「N、Cl濃度(atoms/cm3)」(縦軸)が示されている。 (b3)そして、図13には、上記(b2)に記載した形成条件及び熱処理条件により形成されたシリコン酸化膜での窒素及び塩素の濃度分布が記載されているのであって、シリコン酸化膜の形成条件及び熱処理条件を変更した場合に、常に、図13に示すような窒素及び塩素の濃度プロファイル、言い換えると、「窒素の濃度プロファイルが最大となる位置」と「塩素の濃度プロファイルが最大となる位置」との関係について、「前記シリコン酸化膜に導入された前記窒素の濃度プロファイルが最大となる位置は、前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置よりも、前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置する」とは言えず、また、作用効果についても、任意のシリコン酸化膜形成条件及び熱処理条件において、本願の当初明細書等に記載される作用効果が得られるとは認められない。 (c)刊行物2においては、フッ素原子の導入深さを一定として、窒素原子の導入深さを変更することにより、窒素原子の導入位置を変更することが記載されている(0023段落及び0024段落)から、刊行物1において、「Cl」(塩素)と同等な作用効果を奏する「F」(フッ素)の導入位置(導入深さ)に対する窒素原子の導入位置を適宜変更できることが記載されている。 (d)したがって、上記(a)で検討したとおり、シリコン酸化膜に「塩素」に加えて「窒素」を導入することによりどの程度作用効果が改善できるか確認できる根拠は、本願の当初明細書等には何ら記載されておらず、上記(b)で検討したとおり、「窒素の濃度プロファイルが最大となる位置」と「塩素の濃度プロファイルが最大となる位置」との相互の位置関係により、本願の当初明細書等に記載される作用効果がどのように変化するかについても、本願の当初明細書等には何ら記載されておらず、また、上記(c)で検討したとおり、刊行物2には、「Cl」(塩素)と同等な作用効果を奏する「F」(フッ素)の導入位置に対して、窒素の導入位置を適宜変更できることが記載されており、さらに、上記[相違点1について]において検討したとおり、刊行物発明においても、ゲート絶縁膜に「F」(フッ素)又は「Cl」(塩素)を導入することにより、「半導体基板1とゲート絶縁膜2との間の界面またはその近傍における望ましくない準位を減少させている。」(第3頁右上欄第12ないし14行)ことは明らかであるから、「窒素の濃度プロファイルが最大となる位置」と「塩素の濃度プロファイルが最大となる位置」との相互の位置関係は、当業者が必要に応じて適宜設定できるものであり、また、本願発明において、「窒素」が「前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面」付近に導入されていれば、「窒素の濃度プロファイルが最大となる位置」と「塩素の濃度プロファイルが最大となる位置」との相互の位置関係は、格別顕著な作用効果の差異をもたらすものとも言えない。 (e)また、刊行物発明においては、「上記ゲート絶縁膜内に導入されている」「Clが、上記半導体基板及び上記ゲート絶縁膜間の界面またはその近傍において極大値を呈していないが、上記ゲート絶縁膜の厚さ方向の中央部において極大値を呈している濃度分布を有すること」との構成を備えているのであるから、刊行物2に記載される如き、「窒素」を「上記半導体基板及び上記ゲート絶縁膜間の界面またはその近傍において極大値」となるように導入することにより、補正発明の如く、「前記シリコン酸化膜に導入された前記窒素の濃度プロファイルが最大となる位置は、前記シリコン酸化膜に導入された塩素の濃度プロファイルが最大となる位置よりも、前記シリコン酸化膜と前記第1導電層との界面側に位置する」ようにすることは、当業者が容易になしえたものである。 よって、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本願は、請求項2ないし5に係る発明について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-02-26 |
結審通知日 | 2007-02-27 |
審決日 | 2007-03-12 |
出願番号 | 特願2002-171325(P2002-171325) |
審決分類 |
P
1
8・
574-
Z
(H01L)
P 1 8・ 572- Z (H01L) P 1 8・ 561- Z (H01L) P 1 8・ 575- Z (H01L) P 1 8・ 121- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 河口 雅英 |
特許庁審判長 |
河合 章 |
特許庁審判官 |
長谷山 健 今井 拓也 |
発明の名称 | 半導体装置 |
代理人 | ▲角▼谷 浩 |
代理人 | 宮園 博一 |