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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1156475
審判番号 不服2003-17417  
総通号数 90 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-09-08 
確定日 2007-05-09 
事件の表示 平成 9年特許願第543030号「共通データセットに対する独立及び同時のアクセスに関する方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年12月 4日国際公開、WO97/45790、平成13年10月 9日国内公表、特表2001-518210〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯
本願は、1997年5月29日(優先権主張1996年5月31日、1997年4月25日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成14年10月4日付で拒絶の理由が通知され、平成15年4月15日付で手続補正書が提出され、平成15年6月2日付で拒絶査定され、その後平成15年9月8日付で審判請求がなされ、平成15年10月8日付で手続補正書が提出されたものである。

2.補正却下の決定

平成15年10月8日付手続補正について、以下のとおり決定する。

[結論]
平成15年10月8日付の手続補正を却下する。

[理由]
(1)手続補正の内容
平成15年10月8日付手続補正(以下「本件補正」という。)は少なくとも特許請求の範囲の請求項1について、これを以下のとおり補正するものである。
「【請求項1】 データが、第1のアプリケーションによってアドレス可能な第1のデータストレージファシリティ(207,210,211,212)にストアされ、第1(OLTP、200)及び第2(DSS、201)のアプリケーションによってデータセットへのアクセスを制御するための方法であって、
A)前記第1のデータストレージファシリティに対応するように第2のデータストレージファシリティ(213,214,215,216)を構成し、
B)第2のデータストレージファシリティを第1のデータストレージファシリティと並列に接続することにより、第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーションと同時で並列に第1のデータストレージファシリティからデータを受け、第1の(ESTABLISH)コマンドに応答して第1のデータストレージファシリティに関するミラーとして第2のデータストレージファシリティにデータセットのコピーを確立させ、
C)第2の(SPLIT)コマンドに応答して、
i)第1のアプリケーションに応答して、独立のオペレーションとして、第2のデータストレージファシリティを第1のデータストレージファシリティから切断し(256?258)、第2のデータストレージファシリティのメモリミラーファンクションを終了させ、
ii)その後、第1及び第2のアプリケーションがそれぞれ、並行に第1及び第2のデータストレージファシリティのデータセットにアクセスすることができるように、第2のデータストレージファシリティをアドレスする第2のアプリケーションを利用可能とするために第2のストレージファシリティを再接続させ(260,261,262)、
D)第3の(ESTABLISH、REESTABLISH、RESTORE,INCREMENTAL,RESTORE(276))コマンドに応答して、第2のコマンドに応答するオペレーションを終了させ、前記確立させ、切断させ、終了させる各オペレーションのアクセスが、第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーションと同時且つ独立して生じる、ステップを有することを特徴とするアクセスを制御するための方法。」

本件補正についてその内容をみると、
ア)請求項1の
「B)第2のデータストレージファシリティを第1のデータストレージファシリティと並列に接続することにより、第1の(ESTABLISH)コマンドに応答して第1のデータストレージファシリティに関するミラーとして第2のデータストレージファシリティにデータセットのコピーを確立させ、前記確立が第1のアプリケーションと、第1のデータストレージファシリティとの間で独立したオペレーションであり、」との特定事項を、
「B)第2のデータストレージファシリティを第1のデータストレージファシリティと並列に接続することにより、第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーションと同時で並列に第1のデータストレージファシリティからデータを受け、第1の(ESTABLISH)コマンドに応答して第1のデータストレージファシリティに関するミラーとして第2のデータストレージファシリティにデータセットのコピーを確立させ、」とするものであって、
補正前の「独立したオペレーション」について、「独立した」を「同時で並列」とし、さらに、「データセットのコピー」について、「第1のデータストレージファシリティからデータを受け、」との事項を付加するものである。

イ)また、請求項1の
「ii)その後、第1及び第2のアプリケーションがそれぞれ、並行に第1及び第2のデータストレージファシリティのデータセットにアクセスすることができるように、第2のアプリケーションによってアドレスされるように第2のストレージファシリティを再接続させ(260,261,262)、」との特定事項を、
「ii)その後、第1及び第2のアプリケーションがそれぞれ、並行に第1及び第2のデータストレージファシリティのデータセットにアクセスすることができるように、第2のデータストレージファシリティをアドレスする第2のアプリケーションを利用可能とするために第2のストレージファシリティを再接続させ(260,261,262)、」とするものであって、
「第2のストレージファシリティを再接続させ」ることに対して、「第2のデータストレージファシリティをアドレスする第2のアプリケーションを利用可能とするために」との事項を付加するものである。

ウ)そして、請求項1の
「ステップを有することを特徴とするアクセスを制御するための方法。」との特定事項を、
「前記確立させ、切断させ、終了させる各オペレーションのアクセスが、第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーションと同時且つ独立して生じる、ステップを有することを特徴とするアクセスを制御するための方法。」とするものであって、
「前記確立させ、切断させ、終了させる各オペレーションのアクセスが、第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーションと同時且つ独立して生じる、」との事項を付加するものである。

上記(ア)?(ウ)は、それぞれ、特許請求の範囲に記載された特定事項について限定するものであるから、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか否か)について、以下に検討する。

(2)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された「IBM Storage Subsystem Library "IBM 3990 Strage Control Reference Fifth Edition", September 1991」(以下「引用例1」という。)には、
「Dual Copy Operations
The 3990 Model 3 can have dual copy volumes. Dual copy allows the user to have two identical sets of data on two different DASD volumes within the same subsystem.
When a host program establishes dual copy and identifies two DASD volumes as a duplex pair, the 3990 model 3 maintains two identical copies of a volume, independent of application-level host programming. See establish Duplex Pair X'12' on page 159 for information on how to specify a primary and a secondary device.」(「デュアルコピー・オペレーション
3990モデル3は、デュアルコピー領域を持つことができる。デュアルコピーは、同じサブシステム内の2つの異なるDASD領域上に、ユーザーが二つの同一のデータセットを保持できるようにする。
ホスト・プログラムがデュアルコピーを確立し、2つのDASDをデュプレックス・ペアであると認識する場合、3990のモデル3はアプリケーション・レベルのホスト・プログラミングと無関係に、領域上の2つの同一のコピーを維持する。159頁の、デュプレックス・ペアの開始 X'12'には、プライマリとセカンダリの装置を指定する方法についての情報が記載されている。
。」)(第14頁第32行?第40行)
「Dual copy has four device states: ・・・略・・・
Duplex: Has two devices, the primary and the secondary. These devices make up the duplex pair. Only the primary device is functional to the host system.
All commands that address the secondary device are rejected, except for the following:
・・・略・・・
Suspended Duplex: A state caused by one of two events:(1)a host program requests the state of the duplex pair be changed to suspended, or(2)the 3990 Model 3 is unable to synchronize the contents of the two devices, and has stopped duplicate writes.」(「デュアルコピーは、4つのデバイス状態を有する: ・・・略・・・
デュプレックス:プライマリとセカンダリとの二つのデバイスを有する。これら二つのデバイスがデュプレックス・ペアを形成する。プライマリデバイスだけがホストシステムに機能的である。セカンダリデバイスをアドレスする命令は次の例外を除きすべて拒絶される。
・・・略・・・
サスペンディドデュプレックス:二つのイベントのどちらかによって起こされる状態:(1)ホストプログラムがデュプレックス・ペアの状態をサスペンディッドに変更するよう要求する、または(2)、3990モデル3は、2つの装置の内容を同期させることができなくなる、ことによって二重書き込みが中断される。」)」(第15頁第10行?第33行)
「Establish Duplex Pair X'12' The order makes a duplex pair from the devices that the parameters specify as the primary and secondary devices. It can also restore a duplex pair from a suspended duplex pair or replace a failed duplex device with another device.When possible it also returns the device to the original channel address.」(「デュプレックス・ペアの開始 X'12' この命令はパラメーターがプライマリ・セカンダリのデバイスとして指定するデバイスからデュプレックス・ペアを作る。さらに、それはサスペンディドデュプレックス・ペアからデュプレックス・ペアを回復するか、あるいは故障したデュプレックスデバイスを別のデバイスに取り替えることができる。さらに可能な場合、それは、デバイスをオリジナルのチャンネルアドレスに戻す。」)(第159頁第1行?第8行)
「6-7 Determine if a copy is required to establish the duplex pair. The values are:
00 Device are syncronized(the data is identical), do not copy to establish the deplex pair.
01 Copy from the primary to the secondary device to establish the duplex pair. The entire volume will be copied to syncronize the two DASD devices.」(6-7 デュプレクスペアを確立すためにコピーが要求されるかどうか決定する。値は次のとおり:
00 デバイスが同期化され(データは同一)、デュプレックスペアを確立するためのコピーを行わない。
01 デュプレックスペアを確立するためにプライマリからセカンダリデバイスにコピーを行う。2つのDASD装置の全領域はコピーされ同期化される。)(第159頁第32表第7行?第11行)
と記載されている。

したがって、引用例1には、
「A)プライマリデバイスに対応するようにセカンダリデバイスを構成し、
B)セカンダリデバイスをプライマリデバイスと並列に接続することにより、アプリケーション・レベルのホスト・プログラミングと無関係に、領域上の2つの同一のコピーを維持し、
デュプレックス・ペアの開始命令に応答して、ホストシステムによって機能するプライマリデバイスに関するミラーとしてセカンダリデバイスにデータセットのコピーを確立させ、
C)
i)ホストプログラムの命令に応答して、セカンダリデバイスをプライマリデバイスから切断し、セカンダリデバイスの二重書き込みを終了させ
ii)サスペンディドデュプレックス状態とし
D)サスペンディドデュプレックス・ペアからデュプレックス・ペアを回復する命令に応答して、デュプレックス・ペアを回復する。」
発明が記載されている。

また、周知技術を示す公知文献として、特開平7-281933号公報(以下「引用例2」という。)には、
「【0004】一方、オンラインシステムのような24時間連続運用するシステムにおいては、ファイル保護の信頼性向上を目的としてディスク装置を多重化、例えば、二重化して運用される。このように、ディスク装置が二重化された計算機システムに関して、バックアップ処理中は図5に示すように、片系のディスク装置を業務処理から切離し、一方の系で運用することにより、切り離されたディスク装置のバックアップを行なう方法がある。
【0005】図5において、バックアップ処理を行うときは、運用管理プロセス101は、副系ディスク装置92を業務処理から切り離すために、業務プロセス102に業務処理を一時中断させる。そのために、業務プロセス102に中断要求を出す。業務プロセス102は、業務処理の適当な区切りにおいて処理を中断し、中断したことを運用管理プロセス101に中断要求に対する応答として返す。該応答を運用管理プロセス101が受け取ると、運用管理プロセス101は、片系閉塞指示を2重化ディスクドライバ105に送り、副系ディスク装置92を業務処理から切り離す。運用管理プロセス101は、その後業務プロセス102に再開を指示する。以後は、2重化ディスクドライバ105とディスクドライバ107との間の、点線の矢印で示すやり取りは行われない。次に運用管理プロセス101はバックアッププロセス104にバックアップ処理の起動を指示する。バックアッププロセス104は、ディスクドライバ107とMT(磁気テープ装置)ドライバ8とを介して副系ディスク装置92の内容をMT94に転送する。バックアップ処理が終了後、運用管理プロセス101は、業務プロセス102を一時中断させて、副系ディスク装置を2重化ディスクドライバ105の管理下に戻させる。」(段落番号[0004]?[0005]、図5)と記載されている。

そして、原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-233162号公報(以下「引用例3」という。)には、
「【0018】
2重化ディスク装置3は、ディスクA12およびB13を2重化ディスク装置として制御する2重化ディスク制御部11,ディスクA12,B13の現在の動作モードを保持するディスクモードテーブル10を具備している。
【0019】
本計算機システムはこのように構成されているので、業務タスク5によって処理データを2重化ディスクとして使用しているディスクA,Bに格納するオンライン業務中に、データ退避の保守タスク6が起動されると、業務タスク5と保守タスク6は1基ずつディスクを専用することにより、業務処理を継続したままディスクAまたはBから磁気テープ4へのデータ退避を並列処理することができる。
・・・途中略・・・
2重化ディスク制御部11は、業務属性のタスク5からのアクセス要求を業務モードの設定されているディスクAに、保守属性のタスク6からのアクセス要求を保守モードのディスクBに対処させる。つまり、タスクの属性とディスクの動作モードのパターンマッチングにより、各タスクがアクセスできるディスクが限定される。各ディスクの動作モードを動的に変更すれば、各タスクがアクセスできるディスクも動的に変更される。したがって各タスクは、アクセス対象のディスクがどれなのかをプログラム上で意識する必要はない。(段落番号[0018]?[0021])と記載されている。

(3)対比・判断
本件補正発明と引用例1に記載された発明とを比較すると、引用例1に記載された「プライマリデバイス」、「セカンダリデバイス」は、2つの冗長データストレージであるから、本件補正発明の「第1のデータストレージファシリティ」、「第2のデータストレージファシリティ」に相当する。
また、引用例1に記載された「デュプレックス・ペアの開始の命令」、「サスペンディドデュプレックスに変更する要求」はそれぞれ、ミラーリング機能の開始、停止を行うものであるから、本件補正発明の「第1の(ESTABLISH)コマンド」、「第2の(SPLIT)コマンド」に相当する。
そして、引用例1に記載された「デュプレックス・ペアの開始の命令」は、ミラーリング機能の再開を行うものであるから、本件補正発明の「第3の(ESTABLISH、REESTABLISH、RESTORE,INCREMENTAL,RESTORE(276))コマンド」に相当する。
加えて、引用例1に記載された「ホストシステム」は、第1のデータストレージファシリティをアドレス可能であるから、本件補正発明の「第1のアプリケーション」に相当する。
したがって、両者は、
「データが、第1のアプリケーションによってアドレス可能な第1のデータストレージファシリティにストアされ、第1のアプリケーションによってデータセットへのアクセスを制御するための方法であって、
A)前記第1のデータストレージファシリティに対応するように第2のデータストレージファシリティを構成し、
B)第2のデータストレージファシリティを第1のデータストレージファシリティと並列に接続することにより、第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーションと同時で並列にデータを受け、第1のコマンドに応答して第1のデータストレージファシリティに関するミラーとして第2のデータストレージファシリティにデータセットのコピーを確立させ、
C)第2のコマンドに応答して、
i)第2のデータストレージファシリティを第1のデータストレージファシリティから切断し、第2のデータストレージファシリティのメモリミラーファンクションを終了させ、
D)第3のコマンドに応答して、第2のコマンドに応答するオペレーションを終了させる、ステップを有するアクセスを制御する方法」である点で一致し、 次の3点で相違している。

(相違点1)
本件補正発明は、第2のデータストレージファシリティを第1のデータストレージファシリティと並列に接続することにより、第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーションと同時で並列に第1のデータストレージファシリティからデータを受けるものであるのに対し、引用例1に記載のものは、第1のデータストレージファシリティからデータを受けるか否かが不明である点。

(相違点2)
本件補正発明は、第2の(SPLIT)コマンドに応答して、
i)第1のアプリケーションに応答して、独立のオペレーションとして、第2のデータストレージファシリティを第1のデータストレージファシリティから切断し(256?258)、第2のデータストレージファシリティのメモリミラーファンクションを終了させ、
ii)その後、第1及び第2のアプリケーションがそれぞれ、並行に第1及び第2のデータストレージファシリティのデータセットにアクセスすることができるように、第2のデータストレージファシリティをアドレスする第2のアプリケーションを利用可能とするために第2のストレージファシリティを再接続させるものであるのに対し、
引用例1に記載された発明においては、ミラーファンクションを終了させるコマンドが、第1のアプリケーションに応答して、独立のオペレーションとして与えられることは示されておらず、また、二つのデバイスが切り離されている状態においては、セカンダリデバイスは直接アドレス可能であることが明らかであるものの、第2のアプリケーションを利用するために、デバイスを接続することは示されていない点。

(相違点3)
本件補正発明は、前記確立させ、切断させ、終了させる各オペレーションのアクセスが、第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーションと同時且つ独立して生じるものであるのに対して、引用例1に記載された発明においてはこの点について明らかでない点。

次に、これらの相違点について検討する。
(相違点1について)
複数のデータストレージに同一のデータを保持するものにおいて、第2のデータストレージファシリティがアプリケーションが書き込み対象とする第1のデータストレージファシリティからアプリケーションの動作と同時で並列にデータを受けるよう構成することは、慣用の技術にすぎない(例えば、特開平7-244597号公報、特開平7-262070号公報を参照。)。
第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーションと同時で並列に、第1のデータストレージファシリティと第2のデータストレージファシリティとに同一の内容を保持するものである引用例1において、本件補正発明のごとく、第2のデータストレージファシリティが第1のデータストレージファシリティからデータをアプリケーションの動作と同時で並列に受けるよう構成することは当業者が適宜なし得るものと認められる。

(相違点2について)
ディスク装置が二重化された計算機システムにおいて、通常二重化されているディスク装置を切り離した状態にして、バックアッププロセス等の処理動作を行うことは、例えば引用例2に記載されているように周知技術と認められる。
ここで、引用例2の前記記載および図5には、「片系閉塞指示」として、業務プロセスに応答して、運用管理プロセスがメモリミラーファンクションを終了させ、その後、業務プロセスが正系ディスクに対して業務処理を行うのと平行して、切り離された予備系ディスク装置に対して、バックアッププロセス104がアクセスを行うことが記載されている。
引用例2の、「片系閉塞指示」は、本件補正発明の、「第2の(SPLIT)コマンド」に相当するものであり、引用例2の「業務プロセス」、「運用管理プロセス」は、それぞれ、本件補正発明の「第1のアプリケーション」「独立のオペレーション」に対応させることができ、二重化されているディスク装置を切り離すことはバックアッププロセスを利用するために行われるから、相違点1における第2のデータストレージファシリティをアドレスする第2のアプリケーションを利用可能とするために第2のストレージファシリティを再接続させることに相当する。
したがって、前記相違点2に相当する事項は、引用例2に記載されるような周知技術のバックアッププロセスと比較して異なるものと認めることはできず、引用例1に記載されたものにおいて、本件補正発明のごとく、第2のコマンドに応答して、
i)第1のアプリケーションに応答して、独立のオペレーションとして、第2のデータストレージファシリティを第1のデータストレージファシリティから切断し、第2のデータストレージファシリティのメモリミラーファンクションを終了させ、
ii)その後、第1及び第2のアプリケーションがそれぞれ、並行に第1及び第2のデータストレージファシリティのデータセットにアクセスすることができるように、第2のデータストレージファシリティをアドレスする第2のアプリケーションを利用可能とするために第2のストレージファシリティを再接続させるよう構成することは当業者が適宜なし得たものと認められる。

(相違点3について)
引用例3には、「業務タスク5によって処理データを2重化ディスクとして使用しているディスクA,Bに格納するオンライン業務中に、データ退避の保守タスク6が起動されると、業務タスク5と保守タスク6は1基ずつディスクを専用することにより、業務処理を継続したままディスクAまたはBから磁気テープ4へのデータ退避を並列処理することができる」、また、「各タスクは、アクセス対象のディスクがどれなのかをプログラム上で意識する必要はない」と記載されている。
ここで、引用例3の「業務タスク5によって処理データを2重化ディスクとして使用しているディスクA,Bに格納するオンライン業務中」、「データ退避の保守タスク6が起動されると、業務タスク5と保守タスク6は1基ずつディスクを専用する」、「業務処理を継続したままディスクAまたはBから磁気テープ4へのデータ退避を並列処理することができる」、「各タスクは、アクセス対象のディスクがどれなのかをプログラム上で意識する必要はない」、との記載は、それぞれ、本件補正発明の「確立」、「切断」、「オペレーションと同時」、「オペレーションと独立」に対応させることができ、前記相違点3に係る、「確立させ、切断させ、終了させる各オペレーションのアクセスが、第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーションと同時且つ独立して生じる」ことは、引用例3に記載された技術と認められる。
したがって、引用例1において、本件補正発明のごとく、確立させ、切断させ、終了させる各オペレーションのアクセスが、第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーションと同時且つ独立して生じるようにすることは、引用例3に記載された技術を付加するものであって当業者が適宜なし得たものと認められる。

なお、多重書き込みは障害の発生に備えることを主要な目的としたものであるから、障害等の発生時においても、通常のアプリケーションの動作に影響を与えることなく、多重書き込みの状態が独立して変更されることはごく普通の技術である。例えば、原査定の拒絶の理由において周知技術として引用された特開平7-121315号には、復旧作業中に通常のアクセス動作が行われることが記載されており、前記相違点3に係る「確立させ、切断させ、終了させる各オペレーションのアクセスが、第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーションと同時且つ独立して生じる」ことは、多重化ディスク装置における障害予備、障害復旧における周知の技術と認めることもできる。

また、相違点1?3に係る技術を組み合わせることによる格別の効果を認めることもできない

(4)むすび
以上のとおり、本件補正発明は、引用例1,3に記載された発明および周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成15年10月8日付手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は平成15年4月15日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】データが、第1のアプリケーションによってアドレス可能な第1のデータストレージファシリティ(207,210,211,212)にストアされ、第1(OLTP、200)及び第2(DSS、201)のアプリケーションによってデータセットへのアクセスを制御するための方法であって、
A)前記第1のデータストレージファシリティに対応するように第2のデータストレージファシリティ(213,214,215,216)を構成し、
B)第2のデータストレージファシリティを第1のデータストレージファシリティと並列に接続することにより、第1の(ESTABLISH)コマンドに応答して第1のデータストレージファシリティに関するミラーとして第2のデータストレージファシリティにデータセットのコピーを確立させ、前記確立が、第1のアプリケーションと、第1のデータストレージファシリティとの間で独立したオペレーションであり、
C)第2の(SPLIT)コマンドに応答して、
i)第1のアプリケーションに応答して、独立のオペレーションとして、第2のデータストレージファシリティを第1のデータストレージファシリティから切断し(256?258)、第2のデータストレージファシリティのメモリミラーファンクションを終了させ、
ii)その後、第1及び第2のアプリケーションがそれぞれ、並行に第1及び第2のデータストレージファシリティのデータセットにアクセスすることができるように、第2のアプリケーションによってアドレスされるように第2のストレージファシリティを再接続させ(260,261,262)、
D)第3の(ESTABLISH、REESTABLISH、RESTORE,INCREMENTAL,RESTORE(276))コマンドに応答して、第2のコマンドに応答するオペレーションを終了させる、
ステップを有することを特徴とするアクセスを制御するための方法。 」

(2)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された「IBM Storage Subsystem Library "IBM 3990 Strage Control Reference Fifth Edition", September 1991」(以下「引用例1」という。)、及び、周知技術を示す参考文献である、特開平7-281933号公報(以下「引用例2」という。)には、前記2.(2)に記載したとおりの技術的事項が開示されている。

(3)対比・判断
本件発明は、前記2.(1)で検討した本件補正発明における、
「第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーションと同時で並列に第1のデータストレージファシリティからデータを受け、第1の(ESTABLISH)コマンドに応答して第1のデータストレージファシリティに関するミラーとして第2のデータストレージファシリティにデータセットのコピーを確立させ、」を「第1の(ESTABLISH)コマンドに応答して第1のデータストレージファシリティに関するミラーとして第2のデータストレージファシリティにデータセットのコピーを確立させ、前記確立が第1のアプリケーションと、第1のデータストレージファシリティとの間で独立したオペレーションであり、」としたものであり、また、「第2のデータストレージファシリティをアドレスする第2のアプリケーションを利用可能とする」点を削除し、さらに、「前記確立させ、切断させ、終了させる各オペレーションのアクセスが、第1のアプリケーションと第1のデータストレージファシリティのデータとの間のオペレーションと同時且つ独立して生じる、」ことを削除したものである。
したがって、本件発明においては、前記2.(3)で検討した「相違点1」が削除され、「相違点2」に対する限定がはずれ、「相違点3」が削除されたものであるから、本件補正発明における「相違点2」が前記2.(3)に記載した理由によって、引用例1に記載された発明および周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる以上、本願発明は、引用例1に記載された発明および周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

3.むすび
以上のとおりであって、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、前記引用例1に記載された発明および周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-03-14 
結審通知日 2005-03-22 
審決日 2005-03-30 
出願番号 特願平9-543030
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
P 1 8・ 575- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤井 浩日下 善之▲吉▼田 美彦  
特許庁審判長 吉村 宅衛
特許庁審判官 東森 秀朋
矢島 伸一
発明の名称 共通データセットに対する独立及び同時のアクセスに関する方法及び装置  
代理人 大塚 文昭  
代理人 今城 俊夫  
代理人 中村 稔  
代理人 村社 厚夫  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 小川 信夫  

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