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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 D04H
管理番号 1156994
審判番号 不服2004-577  
総通号数 90 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-01-08 
確定日 2007-05-10 
事件の表示 特願2000-529487「伸縮性接着不織布及びこれを含む積層物」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 8月 5日国際公開、WO99/39037〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、1999年 1月25日(優先権主張1998年 1月28日、日本国)を国際出願日とする出願であって、「伸縮性不織布及びこれを含む積層物」に関するものと認められる。

2.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
「(理由1)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。



請求項4及び5に対して
発明の詳細な説明には、請求項4及び5に記載の式の誘導過程が記載されておらず、また、従来技術との比較も十分に示されていないから、請求項4及び5に係る発明の技術上の意義を理解することができない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、請求項4及び5に係る発明について、特許法第36条第4項の経済産業省令で定めるところによる記載がされていない。」

3.本願明細書の記載
本願に係る国際出願の国際出願日における願書に最初に添付した明細書又は図面に基づく「再公表特許」(国際公開番号:WO99/39037)(以下、「本願明細書」という。)には、次のとおり記載されている。

ア.「【請求項1】熱可塑性ポリウレタン樹脂を繊維形成してなる伸縮性接着不織布であって、該熱可塑性ポリウレタン樹脂が脂肪族ジイソシアネート、及び/又は芳香族ジイソシアネート、高分子ジオール、及び鎖延長剤からなり、硬さ(JIS-A硬さ)65?98度であり流動開始温度が80?150℃である伸縮性接着不織布。」(特許請求の範囲、請求項1)
イ.「【請求項4】該不織布が実質的に連続したフィラメントをシート状に積層した後、積層されたフィラメントの接触点で該フィラメント自体を自己の有する熱により融着接合されており、剛軟度が式
Y≦0.2X+20
(ただしY=剛軟度(mm)、X=不織布の目付(g/m2))で表され、繊維径が100μm以下である請求の範囲第1項記載の伸縮性接着不織布。」(特許請求の範囲、請求項4)
ウ.「【請求項5】該不織布の通気量Z(cc/cm2/s)が目付X(g/m2)の関数として以下の範囲にある請求の範囲第1項記載の伸縮性接着不織布。
Z≧5700×10-0.019X(但し、10≦X≦100)」(特許請求の範囲、請求項5)
エ.「背景技術
ホットメルト不織布は、該不織布と被着体を積層し、加熱により不織布を溶融して接着させるのに用いられる。・・・
しかしながら、このような不織布は耐薬品性・耐クリーニング性・耐熱性に乏しく、柔軟性に乏しいため積層物の風合を著しく損ねるという問題がある。
これらの問題点を改善する方法として例えば熱可塑性ポリウレタン樹脂をフィルムにして接着材として使用する方法が・・・示されている。
しかしながら、このような熱可塑性ポリウレタン樹脂からなるフィルムは、積層物の通気性を著しく低下させる、もしくは全くなくなると言う問題点があった。
本発明は、これら従来公知技術の問題点を解決して、柔軟性に富み、接着性と通気性に優れた伸縮性接着不織布を提供することを目的とする。」(第3頁5?23行)
オ.「不織布の柔軟性を向上させるという観点から、不織布の剛軟度を適当な範囲とすることは好ましい。本発明の不織布の場合、その剛軟度Y(mm)が不織布の目付X(g/m2)に対してY≦0.2X+20を満たすような範囲であることが好ましい。
また、不織布の繊維径は100μm以下であることが好ましい。更に好ましくは、50μm以下、特に好ましくは30μm以下である。繊維径がこの程度であると、適度な柔軟性を保持できるのでより好ましい。
剛軟度がより小さい伸縮性接着不織布を得るには、脂肪族ジイソシアネート、高分子ジオールおよび鎖延長剤からなる組成で、このうちの少なくとも1成分が分子内にメチル基側鎖を1個以上持つ熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いる事によって得られる。又は/及び熱可塑性ポリウレタンの硬さ(JIS-A硬さ)の低いポリマーを使用する事によっても得られる。しかし硬さの低いポリマーを使用するとコンベアベルトからの剥離性が悪く、コンベアベルトにテフロン等をコーティングしても、安定して生産が出来なくなる。」(第7頁2?15行)
カ.「また、本発明の不織布の通気量Z(cc/cm2/s)は該不織布の目付X(g/m2)に対して、Z≧5700×10-0.019Xを満たす範囲であると、被接着体との接着後の積層物の通気性も良好となり好ましい。」(第8頁1?3行)
キ.「実施例1
・・・該ポリウレタン樹脂は、硬さ(JIS-A硬さ)85度及び流動開始温度104℃であった。このポリウレタン樹脂をその下方20cmを走行するテフロンコーティグ金網のベルトコンベア上に補集し自己の持つ熱で融着させ目付50g/m2の不織布を得た。
この不織布は、・・・剛軟度23mm、通気量830cc/cm2/sのソフトで伸縮性のある接着性不織布であった。」(第9頁25行?第10頁9行)
ク.「又、前記不織布の製造条件を変更し、不織布の通気量と剛軟度を変えたものを製造し、同様の実験を行った(試料B、C)。更に、比較対象としてポリアミド系ホットメルト不織布(日本バイリーン(株)製、50g/m2)、ウレタンフィルム(日本ミラクトラン(株)製、30μm)を用いて同様の測定を行った(試料D、E)。」
ケ.第11頁の[表1]には、「実験」、「試料」、「通気量(cc/cm2/s)」及び「剛軟度(mm)」の欄に、順に、次のとおり、記載されている。
A 本発明品 830 23
B 本発明品 300 21
C 本発明品 1000 35
D ポリアミド不織布 520 58
E ウレタンフィルム 0 17
コ.「実施例2
・・・この樹脂の硬さは90で流動開始温度は120℃であった。これを用いて実施例1と同様な方法により35g/m2の接着性不織布を得た。
この不織布は、・・・剛軟度19mm、通気量1200cc/cm2/sのソフトで伸縮性のある接着性不織布であった。」(第11頁下12行?第12頁2行)
サ.「実施例3
・・・このペレットは硬さ80、流動開始温度97℃であった。これを用いて実施例1と同様にして20g/m2の接着性不織布を得た。
この不織布は、・・・剛軟度16mm、通気量2600cc/cm2/sのソフトで伸縮性のある接着性不織布であった。」

4.当審の判断
上記本願明細書の記載によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願明細書の特許請求の範囲の本願請求項4、5に記載された構成を採用することにより,柔軟性に富み、接着性と通気性に優れた伸縮性接着不織布を製造できることを見いだしたことが記載されていると認められる。
(1)請求項4について
上記摘示イ.の記載によれば、請求項4には、「剛軟度が式
Y≦0.2X+20
(ただしY=剛軟度(mm)、X=不織布の目付(g/m2))(以下、前記式を「式(I)」という。)で表される、請求の範囲第1項記載の伸縮性接着不織布」に係る発明が記載されている。
本願発明は、式(I)を満足することを条件とするものであって、「Y=剛軟度(mm)」及び「X=不織布の目付(g/m2)」は、ともに正数であると解され、式:「Y=0.2X+20」で表される直線の下方と、Y>0とX>0とで囲まれる、X方向に制限がない範囲にあることを意味するものである。
一方、発明の詳細な説明には、上記摘示エ.の記載によれば、本発明は、従来公知技術の問題点を解決して、柔軟性に富み、接着性と通気性に優れた不織布を提供する旨、また、上記摘示オ.の記載によれば、本発明の不織布の「剛軟度(mm)」が「目付(g/m2)」に対して、式(I)を満たすような範囲であることが好ましい旨、記載されているにすぎない。また、上記摘示キ.コ.及びサ.の記載によれば、実施例1ないし3に示される不織布は、式(I)を満たす範囲内にあることは明らかであるが、領域を画する式(I)から大きく離れた、3つの点の値を有する不織布が記載されているにすぎない。
上記摘示ク.及びケ.の記載によれば、熱可塑性ポリウレタン樹脂製不織布であると認められる「試料B、C」について剛軟度の数値が記載されているが、前記両者はその目付(g/m2)が不明であるため、前記各剛軟度が式(I)に定める関係を満足しているか、確認することができない。また、比較例としてポリアミド系不織布(試料D)及びウレタンフィルム(試料E)についても記載されているが、本願発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂を繊維形成したものと素材や形態において基本的に異なるものを比較対象とするものである。
してみると、式(I)を定めてYとXとの関係を規定し、目付に対する剛軟度の範囲を画するべきであるとする臨界的意義を理解するための裏付け、及び式(I)を満足する関係にある範囲にあることが課題を解決できることを当業者において認識できることを裏付ける記載は存在しない。
また、剛軟度が20mmを超え、かつ、目付に対して式(I)に規定される範囲内である不織布は、具体的には、実施例1に記載されているもののみであるから、当該剛軟度及び目付の座標(プロット)の一点から、式(I)に係る、目付に対する剛軟度の範囲を画する上記式(I)で表される直線が導出され得ることを、当業者が理解することができるとはいえないし、上記式(I)を基準として画されるということが、本出願時において具体例の開示がなくとも当業者に理解できるものであったと認めるに足る証拠はない。
さらに、XY平面において、実施例と比較例との間に、式(I)の基準式以外にも他の数式による直線又は曲線を描くことが可能であることは自明であるし、そもそも、同XY平面上何らかの直線又は曲線を境界線として,所望の効果(性能)が得られるか否かが区別され得ること自体が立証できていないことも明らかであるから、上記実施例及び比較例からは、上記式(I)が,所望の効果(性能)が得られる範囲を画する境界線であることを的確に裏付けているとは到底いうことができない。
上記のとおり、発明の詳細な説明には、式(I)を導出した理由ないし根拠、経緯等について、何も説明されていないものと認められる。また、本願請求項4に係る不織布の発明において、その目付に対する剛軟度が、上記式:Y≦0.2X+20で表される直線、X>0、Y>0によって画される、式(I)に係る数値限定範囲を満足すべきであるとする臨界的な技術上の意義について、発明の詳細な説明には、実質上、何も記載されておらず、また、式(I)に係る臨界的な作用・効果についても確認することができない。
そうすると,本願明細書に接する当業者において,熱可塑性ポリウレタン樹脂を繊維形成してなる伸縮性接着不織布の目付(X)と剛軟度(Y)とが,XY平面において,式(I)の基準式を表す直線とX>0、Y>0として画される範囲に存在する関係にあれば,従来の熱可塑性ポリウレタン樹脂を繊維形成してなる伸縮性接着不織布が有する課題を解決し,上記所望の性能を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂を繊維形成してなる伸縮性接着不織布を製造し得ることが,具体例により裏付けられていると認識することは,本出願時の技術常識を参酌しても,できないというべきであり,本願明細書の発明の詳細な説明におけるこのような記載だけでは,本件出願時の技術常識を参酌して,当該数式が示す範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に,具体例を開示して記載しているとはいえない。
よって、上記式(I)の点に関し、発明の詳細な説明は、当業者が、本願請求項4に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第4項の経済産業省令で定めるところによる記載がされているものであるとはいえない。

(2)請求項5について
上記摘示ウ.の記載によれば、請求項5には、「該不織布の通気量Z(cc/cm2/s)が目付X(g/m2)の関数として以下の範囲にある請求の範囲第1項記載の伸縮性接着不織布。
Z≧5700×10-0.019X(但し、10≦X≦100)(以下、前記式を「式(II)」という。)」に係る発明が、記載されている。
式(II)についても、「通気量Z(cc/cm2/s)」及び「目付X(g/m2)」は、ともに正数であると解され、式:「Z≧5700×10-0.019x」で表され、式:X=10である直線(なお、前記指数曲線との交点において、Z=5700/100.19=3680.2)と、式:X=100である直線(なお、前記指数曲線との交点において、Z=5700/101.9=71.8)とで囲まれ、かつ、Z軸方向に制限がない範囲にあることを意味するものである。
一方、発明の詳細な説明には、上記摘示エ.の記載によれば、本発明は、従来公知技術の問題点を解決して、柔軟性に富み、接着性と通気性に優れた不織布を提供する旨が、また、上記摘示カ.の記載によれば、「本発明の不織布の通気量Z(cc/cm2/s)は該不織布の目付X(g/m2)に対して、Z≧5700×10-0.019Xを満たす範囲であると、被接着体との接着後の積層物の通気性も良好となり好ましい」こと、また、上記摘示キ.及びサ.の記載によれば、実施例1及び3には、それぞれ、「目付50g/m2」及び「通気量830cc/cm2/s」(なお、5700×10-0.019×50=5700/100.95=639.6)、並びに、「目付20g/m2」及び「通気量2600cc/cm2/s」(なお、5700×10-0.019×20=5700/100.38=2376.2)の不織布を得たことが記載されている。
ところが上記摘示コ.の記載によれば、「実施例2」とされ、「目付35g/m2」及び「通気量1200cc/cm2/s」の不織布を得たことが記載されているが、前記通気量は、式(II)を満足する範囲内にないから、当該「実施例2」は、本願請求項5に係る発明の実施例には該当しない(なお、5700×10-0.019×35=5700/100.665=1232.7)。
また、上記摘示ク.及びケ.の記載によれば、試料B、C、D及びEについて通気量の数値が記載されているが、上記4.(1)に「剛軟度」に関して記載した理由と同様の理由により、式(II)に係る上記式:「Z=5700×10-0.019X」で表される指数曲線により、(目付に対する)通気量の範囲を画するべきであるとする臨界的意義を理解するための裏付けとなるものとは到底いうことはできない。
してみると、式(II)を定めてZとXとの関係を規定し、目付に対する通気量の範囲を画するべきであるとする臨界的意義を理解するための裏付け、及び式(II)を満足する関係にある範囲にあることが課題を解決できることを当業者において認識できることを裏付ける記載は存在しない。
また、通気量が目付に対して式(II)に規定される範囲内である不織布は、具体的には、実施例1及び3に記載されているもののみであるから、前記各通気量及び目付の座標(プロット)の二点から、式(II)に係る、目付に対する通気量の範囲を画する上記式:「Z=5700×10-0.019X」で表される指数曲線が導出され得ることを、当業者が理解することができるとはいえない。
さらに、XZ平面において、実施例と比較例との間に、式(II)の基準式以外にも他の数式による曲線又は直線を描くことが可能であることは自明であるし、そもそも、同XZ平面上何らかの曲線又は直線を境界線として,所望の効果(性能)が得られるか否かが区別され得ること自体が立証できていないことも明らかであるから,具体例のみをもって,上記式(II)が,所望の効果(性能)が得られる範囲を画する境界線であることを的確に裏付けているとは到底いうことができない。
上記のとおり、発明の詳細な説明には、式(II)を導出した理由ないし根拠、経緯等について、何も説明されていないものと認められる。また、本願請求項5に係る不織布の発明において、その目付に対する通気量が、上記式:「Z=5700×10-0.019X」で表される指数曲線によって画される、式(II)に係る数値限定範囲を満足すべきであるとする臨界的な技術上の意義について、発明の詳細な説明には、実質上、何も記載されておらず、また、式(II)に係る臨界的な作用・効果についても確認することができない。
そうすると,本願明細書に接する当業者において,熱可塑性ポリウレタン樹脂を繊維形成してなる伸縮性接着不織布の目付(X)と通気量(Z)とが,XZ平面において,式(II)の基準式を表す曲線とX>0、Z>0として画される範囲に存在する関係にあれば,従来の熱可塑性ポリウレタン樹脂を繊維形成してなる伸縮性接着不織布が有する課題を解決し,上記所望の性能を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂を繊維形成してなる伸縮性接着不織布を製造し得ることが,具体例により裏付けられていると認識することは,本出願時の技術常識を参酌しても,できないというべきであり,本願明細書の発明の詳細な説明におけるこのような記載だけでは,本件出願時の技術常識を参酌して,当該数式が示す範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に,具体例を開示して記載しているとはいえない。
よって、上記式(II)の点に関し、発明の詳細な説明は、当業者が、本願請求項5に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第4項の経済産業省令で定めるところによる記載がされているものであるとはいえない。

5.むすび
以上のとおり、本件出願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-03-13 
結審通知日 2007-03-14 
審決日 2007-03-29 
出願番号 特願2000-529487(P2000-529487)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (D04H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 利直  
特許庁審判長 石井 淑久
特許庁審判官 鴨野 研一
松井 佳章
発明の名称 伸縮性接着不織布及びこれを含む積層物  

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