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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F24F
管理番号 1159621
審判番号 不服2003-24216  
総通号数 92 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-12-12 
確定日 2007-06-18 
事件の表示 特願2000-205433「空気調和機の防食方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 1月23日出願公開、特開2002- 22207〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明

本願は、平成12年7月6日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成18年10月3日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認められる(以下、「本願発明」という。)。

「アンモニア蒸気やアンモニアを含む凝縮水に晒される環境下に設置される空気調和機を構成する部材の冷媒配管、熱交換器、圧縮機、膨張弁、キャピラリーチューブ及び/又はアキュームレーターの全ての銅製部材の外気露出部分を、耐アンモニア製のエポキシ樹脂を塗布と乾燥を繰り返すことにより膜厚150?250μmで被覆し、該エポキシ樹脂がビスフェノールAジグリシジルエーテルを主成分とし、硬化剤が重付加型のポリアミドアミンであることを特徴とする空気調和機の防食方法。」

2.引用例

当審が平成18年8月14日付けで通知した拒絶理由通知書で拒絶の理由に引用した特開2000-26768号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、冷凍空調用配管や給水給湯用配管等に使用されている銅製配管の腐食を防止するための銅の腐食防止用塗料並びにそれを用いた銅の防食法、フィンチューブ型熱交換器及び給水給湯用銅管に関する。
【0002】
【従来の技術】銅は、優れた耐食性を有し、かつ電気・熱伝導性、加工性に優れているため、工業材料として広く使用されている。このうち、純銅が冷凍空調用配管や給水給湯用配管に使用されている。
【0003】しかし、前記の銅管において、使用環境によっては腐食することが知られている。特に、局部腐食が発生した場合、冷媒ガスや水が漏れる不具合を生じる。このような不具合を生じさせる局部腐食として、蟻の巣状腐食や応力腐食割れ等が知られている。以下にこの2つの腐食について説明する。
【0004】蟻の巣状腐食は蟻酸や酢酸等の有機酸雰囲気で生じ、腐食形態が蟻の巣状の微細孔であることからこの名で呼ばれている。発明者等は蟻酸雰囲気における蟻の巣状腐食の機構について、宮 他:「銅管の蟻の巣状腐食成長メカニズムの研究」(材料、Vol.42、No.479、p917(1993))に記載されているように考察した。その概略を以下に述べる。」

・「【0006】蟻の巣状腐食を防止するために、銅に合金元素を添加した銅合金管が提案されている。例えば、Cu-0.05?1.5%Mn(酸素含有量が100ppm以下)(特開平6-192773号公報)、0.05?10%Zn-0.05?5%Mn-0.05?5%Mgの少なくとも1種以上の成分を総量で0.05?10%含有した銅合金(特開平7-19788号公報)、Cu-0.01?2%Te-0.05?5%Sn-0.05?5%Al-0.005?0.5%(特開平7-90428号公報)等がある。
【0007】これらの銅合金管を例えば、フィンチューブ型熱交換器に適用する場合、従来から使用されている純銅管と比べて、硬さや引っ張り強度等の機械的特性が異なるために、製造工程の変更を余儀なくされる。一方、給水給湯用銅管は保温・保冷のために管外に断熱材(ガラスウール)を被覆して使用されるが、断熱材から溶出するCl-やNH4+等の腐食性イオンによって給水給湯用銅管の外面が腐食する。特にNH4+が溶出した場合、応力腐食割れが生じることが知られている(「銅および銅合金の基礎と工業技術(改訂版)」p527、日本伸銅協会編参照)。給水給湯用銅管の外面腐食を防止するために、Cl-やNH4+等の腐食性物質(腐食性イオン)の溶出の少ない断熱材を選定する必要がある。」

・「【0031】本発明の銅の腐食防止用塗料は、フィルム形成剤とイオン交換性材料からなるものである。腐食性物質(腐食性イオン)が付着する環境に露出する銅の表面に、フィルム形成剤とイオン交換性材料とからなる塗料を塗布する。これにより、例えば、有機酸雰囲気において塗膜中のイオン交換性材料のイオン交換性能によって有機酸が捕捉・除去され、銅の蟻の巣状腐食を防止できる。また、断熱材からCl-やNH4+等の腐食性イオンが溶出される場合でも、塗膜中のイオン交換性材料のイオン交換性能によってアンモニア等の腐食性物質が捕捉・除去され、これによって、銅の腐食を防止できる。
【0032】フィルム形成剤はイオン交換性材料を保持するためのものであり、イオン交換性材料を均一に分散でき、かつ基材への接着性を有していることが好ましく、その種類は特に限定されず、親水性あるいは疎水性いずれでもよい。
【0033】親水性フィルム形成剤としては、例えばカルボキシル基、水酸基、アミノ基などの親水性基を有する親水化されたアクリル樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、セルロース系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂および塩化ビニル樹脂などの少なくとも一種からなるものがあげられる。これらのうち、速乾性および室温硬化の点からアルリル樹脂が特に好ましい。」

・「【0065】塗膜の厚さは幅広い範囲で選べばよいが、厚くしすぎると乾きが遅くなり、また剥がれ易い。一方、膜厚が薄いと塗膜欠陥が発生しやすくなる。作業性及び腐食防止効果という点から、塗膜の厚さは1μm?1mm程度の範囲であればよい。」

・「【0068】
【実施例】実施例1.本発明を冷凍空調用銅管を含むフィンチューブ型熱交換器に適用した例を図1に示す。図1はフィンチューブ型熱交換器を示し、図中の1はフィン(アルミニウム製)、2は銅管、3はヘアピン曲げ部、4は塗膜である。この例のように、大気環境に露出する銅管ヘアピン曲げ部3を塗膜4で被覆する。」

そして、引用例には、次の発明が記載されているものと認められる(以下、「引用例発明」という。)。

「蟻酸や酢酸等の有機酸雰囲気に晒される空気調和機を構成する銅製配管の外気露出部分を、イオン交換性材料と、エポキシ樹脂からなるフィルム形成剤とで被覆し、エポキシ樹脂の膜厚を、剥がれやすさや塗膜欠陥を考慮して、1μm?1mm程度とした空気調和機の防食方法。」

3.対比

本願発明と引用例発明とを対比すると、両者は、次の点で一致し、かつ、相違する。

[一致点]
「空気調和機を構成する銅製部材の外気露出部分を、被覆材で被覆した空気調和機の防食方法。」

[相違点1]
本願発明では、アンモニア蒸気やアンモニアを含む凝縮水に晒される環境下に設置される空気調和機を構成する銅製部材の外部露出部分を耐アンモニア製のエポキシ樹脂で被覆するのに対して、引用例発明では、蟻酸や酢酸等の有機酸雰囲気に晒される空気調和機を構成する銅製部材の外部露出部分をイオン交換性材料とエポキシ樹脂のフィルム形成剤とで被覆する点。

[相違点2]
本願発明では、被覆材で被覆した部材が、空気調和機を構成する部材の冷媒配管、熱交換器、圧縮機、膨張弁、キャピラリーチューブ及び/又はアキュームレーターの全ての銅製部材の外気露出部分であるのに対して、引用例発明では、空気調和機を構成する部材の銅製配管の外気露出部分である点。

[相違点3]
本願発明では、エポキシ樹脂を塗布と乾燥を繰り返すことにより膜厚150?250μmで被覆したのに対して、引用例発明では、エポキシ樹脂の膜厚を、剥がれやすさや塗膜欠陥を考慮して、1μm?1mm程度とした点。

[相違点4]
本願発明では、エポキシ樹脂がビスフェノールAジグリシジルエーテルを主成分とし、硬化剤が重付加型のポリアミドアミンであるのに対して、引用例発明では、そのような限定はない点。

4.判断

上記相違点について検討する。

相違点1について、

銅製部材がアンモニアにより腐食されやすいことは、従来周知である(引用例の前記第0007段落、また、当審の拒絶の理由に引用した特開平2-71098号公報の「従来の技術」の項を参照のこと。)。

また、エポキシ樹脂が耐アンモニア性を有することも従来周知である(前記特開平2-71098号公報の第4頁に記載した「本発明の第2の実施例」に関して「供試管の内面及び端面をエポキシ樹脂で被覆」した点は、エポキシ樹脂が耐アンモニア性を有することを強く示唆している。また、特開昭63-246598号公報(特に2頁右上欄第20行-左下欄第10行)を参照)。

したがって、引用例発明において、空気調和機をアンモニア蒸気やアンモニアを含む凝縮水に晒される環境下に設置した場合に、程度の差があるにせよ、エポキシ樹脂が単独でアンモニアによる銅製部材の腐食を防止しうることは、当業者にとって明らかなことである。

よって、引用例発明において、前記相違点1に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。

相違点2について、

引用例発明において、アンモニアによる銅製部材の腐食を防止するために、銅製部材をエポキシ樹脂で被覆するに際して、銅製配管の外気露出部に限らず、空気調和機を構成する部材の冷媒配管、熱交換器、圧縮機、膨張弁、キャピラリーチューブ及び/又はアキュームレーターの全ての銅製部材の外気露出部分を被覆し、前記相違点2に係る本願発明の構成を採用することは、空気調和機が設置される環境から予測される腐食の程度や必要性に応じて当業者が適宜設定すべき単なる設計事項である。

相違点3について、

塗料等の塗布において、塗布と乾燥を繰り返すことは、従来周知の常套手段である。また、本願明細書には、膜厚を150?250μmとしたことによる臨界的意義を認めるに足る記載もない。

したがって、引用例発明において、アンモニアによる銅製部材の腐食を防止するために、銅製部材をエポキシ樹脂で被覆するに際して、エポキシ樹脂の剥がれやすさや塗膜欠陥を考慮して、塗布と乾燥を繰り返すことによりその膜厚を150?250μmとし、前記相違点3に係る本願発明の構成を採用することは、単なる設計事項である。

相違点4について、

部材の表面をエポキシ樹脂で被覆するに際して、エポキシ樹脂をビスフェノールAジグリシジルエーテルとし、硬化剤をポリアミドアミンとすることは、従来周知である(例えば、特開2000-129168号公報(特に段落【0029】【0031】)、特開平1-283392号公報(特に第2頁右上欄第13行-左下欄第11行)、特開昭62-41273号公報(特に第2頁右下欄第2-5行、第3頁右上欄第14-16行)を参照のこと。)。また、本願明細書には、このような材料を選択したことによる格別の作用効果を認めるに足る記載もない。

したがって、引用例発明において、前記相違点4に係る本願発明の構成を採用することは、単なる設計事項である。

そして、本願発明の作用効果も、引用例に記載された事項、及び従来周知の技術から当業者が予測できた範囲内のものである。

5.むすび

本願発明は、引用例に記載された発明、及び、従来周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-04-13 
結審通知日 2007-04-16 
審決日 2007-05-07 
出願番号 特願2000-205433(P2000-205433)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F24F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近藤 裕之  
特許庁審判長 水谷 万司
特許庁審判官 間中 耕治
新海 岳
発明の名称 空気調和機の防食方法  
代理人 廣澤 邦則  

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