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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 A47J
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A47J
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 A47J
管理番号 1159760
審判番号 不服2005-8859  
総通号数 92 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-05-12 
確定日 2007-06-20 
事件の表示 特願2001-352007「熱の移送方法とその装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 5月20日出願公開、特開2003-144329〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年11月16日の出願であって、平成15年11月28日付け(発送日:同年12月24日)で拒絶理由が通知され、これに対し、平成16年2月23日に意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされ、更に、同年7月29日付け(発送日:同年8月24日)で最後の拒絶理由が通知され、これに対し、同年10月25日に意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされ、その後、平成17年3月3日付け(発送日:同年4月12日)で前記平成16年10月25日付け手続補正に対する補正却下の決定がなされるとともに、同日付け(発送日:同年4月12日)で拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月12日に審判請求がなされるとともに、同年6月13日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成17年6月13日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成17年6月13日付け手続補正(以下、「本件補正1」という。)を却下する。

[理由]
(1)本件補正1の内容
本件補正1は、平成16年2月23日付け手続補正により補正された特許請求の範囲を次のとおりに補正するものである。

「【請求項1】
熱源に対面する金属板の受熱面より受熱し、他方の放熱面より放熱して被加熱体を加熱する方法において、前記金属板の受熱面の表面に第二のセラミックス層をプラズマ溶射し、この第二のセラミックス層の上に第一のセラミックス層を溶射して二重構造のセラミックス層を形成しており、前記第一のセラミックス層は、酸化チタンを主体とし、残部を酸化アルミとした組成で構成し、更に前記第二のセラミックス層は、酸化アルミを主体とし、残部を酸化チタンとした組成で構成したことを特徴とする加熱方法。
【請求項2】
熱源に対面する金属板の受熱面より受熱し、他方の放熱面より放熱して被加熱体を加熱する方法において、前記金属板の受熱面の表面に第二のセラミックス層をプラズマ溶射し、この第二のセラミックス層の上に第一のセラミックス層を溶射して二重構造のセラミックス層を形成しており、前記第一のセラミックス層は、酸化チタンを60?35%、残部を酸化アルミとした組成で構成し、前記第二のセラミックス層は、酸化チタンを20?12%、残部を酸化アルミとした組成で構成したことを特徴とする加熱方法。」

(2)本件補正1の適否
ア.本願の出願当初の明細書又は図面には、セラミックス層の具体的な組成について、前記請求項2に記載された「第一のセラミックス層は、酸化チタンを60?35%、残部を酸化アルミとした組成で構成し」の点は記載されているが(出願当初の明細書の第0058段落?第0060段落、及び第0062段落を参照のこと。)、前記請求項1に記載された「前記第一のセラミックス層は、酸化チタンを主体とし、残部を酸化アルミとした組成で構成し」の点は記載されていない。また、出願当初の明細書又は図面の記載からみて、請求項1に記載された前記点が記載されていたに等しいということはできない。

したがって、本件補正1は、出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

イ.本件補正1の前後における各請求項の対応関係は明らかではないが、本件補正1により、とにかく、本件補正1前の特許請求の範囲の請求項1からは「これらのセラミックス溶射層は、所定の温度において放射強度分布曲線をそれぞれ有しており、前記放射強度分布曲線における最大放射強度に対応する波長を比較し、この最大放射強度における短い波長のセラミックス溶射層を前記熱源側に、長い波長のセラミックス溶射層を放熱側に近い側にそれぞれ積層し、前記熱源より受けた熱エネルギーを前記金属板層内を伝導させ、放熱面側に配置された被加熱体に速やかに伝達するように構成した」の点が削除され、また、同請求項2からは前記請求項1と同じ点が削除され、同請求項2について「耐熱ガラス層あるいはセラミックス層」が「金属板」に変更され、しかも、各請求項について、その末尾が「熱の移送方法」から「加熱方法」に変更されている。

更に、本件補正1前の請求項3ないし5は、請求項1ないし2を引用する従属項であり、前記請求項1ないし2と同様の削除ないし変更がなされたといえる。

したがって、本件補正1は、請求項の削除を目的とするものでも、また、特許請求の範囲の減縮を目的とするものでもなく、更に、誤記の訂正を目的とするものでも、明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもないことは明らかである。

ウ.よって、本件補正1は、特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.平成16年2月23日付け手続補正(以下、「本件補正2」という。)について
(1)特許請求の範囲の記載
本件補正2により補正された特許請求の範囲の各請求項は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
熱源に対面する金属板層の集熱面より集熱し、他方の放熱面より放熱して被加熱体を加熱する熱の移送方法において、前記金属板層の集熱面に少なくとも二層の薄いセラミックス溶射層を形成し、これらのセラミックス溶射層は、所定の温度において放射強度分布曲線をそれぞれ有しており、前記放射強度分布曲線における最大放射強度に対応する波長を比較し、この最大放射強度における短い波長のセラミックス溶射層を前記熱源側に、長い波長のセラミックス溶射層を放熱側に近い側にそれぞれ積層し、前記熱源より受けた熱エネルギーを前記金属板層内を伝導させ、放熱面側に配置された被加熱体に速やかに伝達するように構成したことを特徴とする熱の移送方法。
【請求項2】
熱源に対面する耐熱ガラス層あるいはセラミックス層の集熱面より集熱し、他方の放熱面より放熱して被加熱体を加熱する熱の移送方法において、前記耐熱ガラス層あるいはセラミックス層の集熱面に少なくとも二層の薄いセラミックス溶射層を形成し、これらのセラミックス溶射層は、所定の温度において放射強度分布曲線をそれぞれ有しており、前記放射強度分布曲線における最大放射強度に対応する波長を比較し、この最大放射強度における短い波長の持つセラミックス溶射層を前記熱源側に、長い波長持つセラミックス溶射層を放熱側に近い側にそれぞれ積層し、前記熱源より受けた熱エネルギーを前記金属板層内を伝導させ、放熱面側に配置された被加熱体に速やかに伝達するように構成したことを特徴とする熱の移送方法。
【請求項3】
熱源に対面する金属板層の集熱面より集熱し、他方の放熱面より放熱して被加熱体を加熱する熱の移送方法において、前記金属板層の集熱面に二層の薄いセラミックス溶射層を形成しており、これらのセラミックス溶射層は、所定の温度において放射強度分布曲線をそれぞれ有し、前記放射強度分布曲線における最大放射強度に対応する波長を比較し、この最大放射強度における短い波長を持つセラミックス溶射層として酸化チタンを、長い波長持つセラミックス溶射層として酸化アルミをそれぞれ積層したことを特徴とする請求項1記載の熱の移送方法。
【請求項4】
熱源に対面する耐熱ガラス層あるいはセラミックス層の集熱面より集熱し、他方の放熱面より放熱して被加熱体を加熱する熱の移送方法において、前記耐熱ガラス層あるいはセラミックス層の集熱面に二層の薄いセラミックス溶射層を形成し、これらのセラミックス溶射層は、所定の温度において放射強度分布曲線をそれぞれ有しており、前記放射強度分布曲線における最大放射強度に対応する波長を比較し、この最大放射強度における短い波長を持つセラミックス溶射層を前記熱源側に、長い波長持つセラミックス溶射層を放熱側に近い側にそれぞれ積層したことを特徴とする請求項2記載の熱の移送方法。
【請求項5】
熱源に対面する金属板層の集熱面より集熱し、他方の放熱面より放熱して被加熱体を加熱する熱の移送方法において、前記金属板層の集熱面側に複数層からなる薄いセラミックス溶射層を形成し、これらのセラミックス溶射層は、所定の温度において放射強度分布曲線をそれぞれ有しており、前記放射強度分布曲線における最大放射強度に対応する波長は4?6μmの短波長、7?9μmの中波長及び10?12μmの長波長の範囲の順序で熱源に近い方から放熱面に近い方に配置されており、
短波長/中波長、短波長/長波長、中波長/長波長あるいは短波長/中波長/長波長の何れかの順序で積層されていることを特徴とする請求項1あるいは2に記載の熱の移送方法。」

(2)本件補正2の適否
ア.本件補正2により、特許請求の範囲の各請求項に「放射強度分布曲線における最大放射強度に対応する波長」が記載された。

しかし、本願の出願当初の明細書又は図面には、赤外線の「中心周波数」についての記載はあるが、「放射強度分布曲線における最大放射強度に対応する波長」についての記載はない。また、赤外線の「中心周波数」とは、例えば、放射強度分布曲線における高周波数側と低周波数側の強度の積分値が等しくなる周波数の意味にも解せられることから、出願当初の明細書又は図面の記載からみて、当該「波長」が記載されていたに等しいということはできない。

イ.本件補正2により、特許請求の範囲の請求項3に「短い波長を持つセラミックス溶射層として酸化チタンを、長い波長持つセラミックス溶射層として酸化アルミをそれぞれ積層した」点が記載された。

しかし、前記「2.」「(2)」に記載したように、出願当初の明細書又は図面には、短い波長を持つセラミックス溶射層として酸化チタンを60?35%、残部を酸化アルミとした混合体を用い、中波長を持つセラミックス溶射層として酸化チタンを20?12%、残部を酸化アルミとした混合体を用い、長い波長を持つセラミックス溶射層として酸化チタンを5?3%、残部を酸化アルミとした混合体を用いた点は記載されているが(出願当初の明細書の第0058段落から第0060段落、及び第0062段落を参照のこと。)、請求項3に記載された前記「短い波長を持つセラミックス溶射層として酸化チタンを、長い波長持つセラミックス溶射層として酸化アルミをそれぞれ積層した」点は記載されていない。また、出願当初の明細書又は図面の記載からみて、請求項3に記載された前記点が記載されていたに等しいということはできない。

ウ.したがって、本件補正2は、出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

【以下付言する】
審判請求人は、当審からの平成18年5月12日付け審尋に対する同年7月24日付け回答書において、特許請求の範囲を次のとおりに補正することを求めている(以下、「本願補正発明」という。)。

「【請求項1】
鍋や焼調理器などの熱エネルギーを受ける調理器具の下面に、
第2のセラミックス層C2を溶射すると共に、この第2のセラミックス層C2上に第1のセラミックス層C1を重ねてプラズマ溶射して二層のセラミックス層を形成し、
前記第1のセラミックス層C1が熱源から受けた熱エネルギーによって加熱された際に発する赤外線のピーク値の波長と、前記第1のセラミックス層C1より発する熱エネルギーが伝熱により第2のセラミックス層C2が加熱された際に発する赤外線のピーク値の波長を、4?6μmを短波長、7?9μmを中波長、10?12μmを長波長と区別した場合、
短波長/中波長、短波長/長波長、中波長/長波長の何れかの配列であるようにセラミックス層の特性が選定されていることを特徴とする調理装置。」

しかし、原審での平成15年11月28日付け及び平成16年7月29日付け拒絶理由で指摘したにもかかわらず、赤外線のピーク値の波長が短いセラミックス層を熱源側に配置し、長いセラミックス層を放熱側に配置することにより、熱エネルギーの移送が効率的に行われる理由が依然として不明である。

また、物質内部では、熱エネルギーは放射(輻射)ではなく、伝導で伝わることから、例えば、図3(第0049段落参照)に示されように、赤外線が、上側のセラミックス層、下側のセラミックス層、及び母材を通過することにより、熱エネルギーが伝達されるとは考えられない(仮に、そうであるとすると、上側のセラミックス層を通過した特定の波長の赤外線が下側のセラミックス層で通過を妨げられることにより、熱エネルギーの伝達量が低下することになる。)

更に、前記図3(第0049段落参照)では、赤外線が、各層及び母材の内部を通過する間に、その波長を連続的に増大している(同一部材内でも増大している)ことから、本願補正発明において、各セラミックス層が発する波長の違いが、セラミックス層の組成によるものなのか、温度の違いによるものなのか不明確である(セラミックス層が発する波長は、同一組成でも、温度が低くなると当然に増大する。)。

加えて、平成16年2月24日付け手続補足書で追加された、本願補正発明に関する唯一の実験データである「書類作成平成15年4月13日」(本願の出願日は平成13年11月16日)の「実験報告書」には、アルミ製調理用トレーにおいて、裏面にセラミックス層を形成したものの方が、セラミックス層を形成しないものに比べて、熱の伝達が効率的に行われる点が示されている。

しかし、トレーの裏面にセラミックス層Aを形成しその外側にセラミックス層Bを形成したトレー3と、トレーの裏面にセラミックス層Bを形成しその外側にセラミックス層Aを形成したトレー4とでは、実験2(ガスバ-ナによる加熱)ではトレー3が優れるが、実験1(電熱器による加熱)では、「水蒸発までの時間」を除いてトレー4が優れており、また、「実験報告書」の第6頁下から第6行?4行には「これらの結果においてセラミックス処理した各種トレー間における優劣は、微妙なものもあり、実験設備を考慮した場合、測定誤差の範疇にある可能性は完全には排除できない。」と記載されている。

また、下面にセラミックス層を形成した調理器具は従来周知であるが(例えば、特開平9-67529号公報、特開2000-312642号公報、特開2001-190399号公報を参照のこと。)、前記実験報告書による実験結果は、これら周知の調理器具との比較において、熱の伝達が効率的に行われることを示すものでもない。

したがって、赤外線のピーク波長が短いセラミックス層を熱源側に配置し、長いセラミックス層を放熱側に配置することにより、熱エネルギーの移送を効率的に行いうることが実験的に示されているということもできない。

4.むすび
本件補正2は、前記のとおり、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。したがって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-04-04 
結審通知日 2007-04-10 
審決日 2007-04-26 
出願番号 特願2001-352007(P2001-352007)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (A47J)
P 1 8・ 57- Z (A47J)
P 1 8・ 55- Z (A47J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉浦 貴之  
特許庁審判長 水谷 万司
特許庁審判官 新海 岳
間中 耕治
発明の名称 熱の移送方法とその装置  
代理人 野口 賢照  
代理人 斎下 和彦  
代理人 小川 信一  

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