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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C01B
管理番号 1164707
審判番号 不服2005-15224  
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-08-08 
確定日 2007-09-19 
事件の表示 平成 6年特許願第 8725号「多結晶シリコンの製造方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 6年12月20日出願公開、特開平 6-345415〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成6年1月28日(優先権主張 1993年5月27日、韓国)の出願であって、平成17年5月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年8月8日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし32に係る発明は、平成16年7月20日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし32に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載されている事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】基板に形成されたa-Si薄膜を再結晶する方法において、
第2光源で基板に備えられた薄膜状のa-Siを溶融点以下に予備加熱する段階と、
第1光源で前記第2光源により予備加熱されたa-Siを加熱して溶融する段階と、
第2光源により溶融されたa-Siを加熱しながらシリコンを再結晶させる段階を含むことを特徴とする多結晶シリコン製造方法。」

3.刊行物記載の発明
(1)刊行物1. 特開平2-226718号公報
原審の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張日前に日本国内において頒布された特開平2-226718号公報には、図1及び図2とともに以下の事項が記載されている。
「1.非単結晶構造の半導体被膜に対し、広い照射面積を有し、第1のエネルギーを有し、均一またはゆるやかなビーム内エネルギー分布を有する第1の光ビームを照射し、前記第1の光ビームにより加熱された非単結晶半導体被膜の温められている間に前記第1の光ビームの照射領域内を前記第1のビームより狭い照射面積を有する第2の光ビームを照射しつつ移動させることにより、前記第2の光ビームが照射された部分の前記非単結晶構造の半導体被膜のキャリアの移動度を向上させることを特徴とする非単結晶半導体の作製方法。」(特許請求の範囲請求項1)(上記「前記第1のビーム」は「前記第1の光ビーム」の誤記であることは明らかである。)
「3.特許請求の範囲第1項において、前記第1の光ビームと前記第2の光ビームとは異なる光源より発光せられていることを特徴とする非単結晶半導体の製作方法。」(特許請求の範囲請求項3)
「『産業上の利用分野』
本発明は薄膜トランジスタ・・・等に応用可能なキャリアの移動度の高い非単結晶半導体の作製方法に関する。
『従来の技術』
最近、化学的気相法等によって、作製された非単結晶半導体薄膜を利用した薄膜トランジスタが注目されている。」(第1頁右下欄第15行ないし第2頁左上欄第2行)
「この従来より知られた薄膜トランジスタの代表的な構造を第2図に概略的に示す。」(第2頁右上欄第1ないし3行)
「この薄膜トランジスタに用いられる非単結晶半導体層は・・・単結晶の半導体に比べてキャリアの移動度が非常に小さ・・・いという問題が発生していた。特に、アモルファスシリコン半導体を用いた時、その移動度は・・・0.1?1(cm2/V・sec)程度で・・・あった。
このような問題を解決するには・・・キャリアの移動度を大きくすることが知られ・・ている。
特に、移動度を向上させることは、従来より種々の方法によって行われていた。代表的には、非単結晶半導体をアニールして、単結晶化又は多結晶のグレインサイズを大きくすることが行われていた。」(第2頁右上欄第18行ないし同頁左下欄第15行)
「『発明の目的』
本発明は・・・低温でより短時間で容易にキャリアの移動度の高い非単結晶半導体を作製する方法を提供することを・・目的とするものである。」(第3頁右下欄第1ないし6行)
「第1図に本発明の光ビームの様子を示します。同図(a)は光ビームの照射面の形状を示し第1の光ビームは(1)のように広い照射面を持っており、第2の光ビームは(2)のように第1の光ビームに比べて狭い照射面を有している。
一方同図(b)は光ビームの持つエネルギー分布の様子を示している。
第1の光ビームは(3)のように均一あるいはゆるやかなエネルギー分布をもっており、第2の光ビームはこれに比べて急峻でとがったエネルギー分布(4)を有しております。
この様な状態の光ビームを用いることにより非単結晶半導体のキャリアの移動度の向上を行うもので、第1の光ビームを非単結晶半導体に照射しこの照射により非単結晶半導体が温められた状態で第2の光ビームを照射することにより非単結晶半導体をアニールし、キャリアの移動度を向上させるものであります。
この時、光ビームの照射時間、エネルギーと非単結晶半導体の関係において、第1の光ビームは非単結晶半導体が溶融されない程度の照射時間、エネルギー量にして、第2の光ビームが照射されたときに初めて非単結晶半導体はアニールされるようなエネルギーが選ばれる。
また、下地基板に耐熱性がなくても、必要な部分だけ短時間で非単結晶半導体のキャリアの移動度を向上させることができるものであります。」(第2頁右下欄第15行ないし第3頁右上欄第1行)
「本実施例においては・・・基板上に公知のプラズマCVD法にて・・・非単結晶半導体被膜を8000Å形成した。
この時の作製条件を以下に示す。
・・・使用ガス SiH4 この被膜形成直後の非単結晶半導体膜のキャリアの移動度は約0.5(cm2/V・sec)であった。この被膜に対しエキシマレーザ光を光学系にて分割し第1の光ビームを照射面として1mm2となるようにし第2の光ビームとして照射面40μm2とし第1の光ビームと第2の光ビームを同時に照射し、第2の光ビームを第1の光ビーム照射領域内を移動して照射した。
この時レーザ光のエネルギーは第2の光ビームが照射された部分が第1の光ビームによって与えられたエネルギーと合わせて約10Jを100μsecの間に被膜に照射するように調整し、この部分の非単結晶半導体がアニールされ、移動度を向上させることができた。
アニール後の非単結晶半導体のキャリアの移動度は約240(cm2/V・sec)程度の値が得られた。・・・
また、本実施例においては、同一のレーザ光を分割して第1の光ビームと第2の光ビームとを構成せしめたが、全く異なる光源を用いてこれら光ビームを構成してもよい。」
(第3頁右上欄第8行ないし同頁右下欄第1行)
ここで、刊行物1の「光ビームの照射時間、エネルギーと非単結晶半導体の関係において、第1の光ビームは非単結晶半導体が溶融されない程度の照射時間、エネルギー量にして、第2の光ビームが照射されるときに初めて非単結晶半導体はアニールされるようなエネルギーが選ばれる。」(第3頁左上欄第13ないし18行)との記載より、第1の光ビームにより非単結晶半導体が照射された状態では、非単結晶半導体が溶融されない温度、言い換えると、非単結晶半導体の「溶融点以下」であること、及び第2の光ビームが照射された状態では、非単結晶半導体は「アニール」されることが明らかである。
また、実施例において「非単結晶半導体被膜」が基板上に形成されていることは明らかである。

よって、刊行物1には、以下の発明が記載されている。
「基板上に形成された非単結晶構造の半導体被膜に対し、広い照射面積を有し、第1のエネルギーを有し、均一またはゆるやかなビーム内エネルギー分布を有する第1の光源から発光された第1の光ビームを照射し、
前記第1の光ビームにより加熱された非単結晶構造の半導体被膜が前記非単結晶構造の半導体被膜の溶融点以下に温められている間に前記第1の光ビームの照射領域内を前記第1の光ビームより狭い照射面積を有し、前記第1の光源とは異なる光源から発光された、第2の光ビームを照射して前記非単結晶構造の半導体被膜をアニールしながら移動させることにより、前記第2の光ビームが照射された部分の前記非単結晶構造の半導体被膜のキャリアの移動度を向上させることを特徴とする非単結晶半導体の作製方法。」(以下、「刊行物発明」という。)
(2)刊行物2.特開平5-21339号公報
原審の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張日前に日本国内において頒布された特開平5-21339号公報には、図5及び図6とともに以下の事項が記載されている。
「本発明は以上のような帯域溶融再結晶化においてレーザ光を加熱源とすることの利点に加えて上述の2種類のレーザ光を使用したことから新たな特徴を有している。
図5に本発明が開示するような方法による帯域溶融再結晶化の様子を示した。絶縁性基板1上に形成されたシリコン層(半導体層)2に上述の第1のレーザ光4および第2のレーザ光5を同時に照射すると第1のレーザ光4はシリコン層2で吸収されここで発熱が生ずる。また第2のレーザ光5は基板1内で吸収され発熱を生ずる。即ちシリコン層2は第2のレーザ光5による予備加熱を受けた状態で第1のレーザ光4により加熱されることになる。この時の2種類のレーザ光での加熱領域の温度プロファイルは図6に示すように第2のレーザ光のビーム径(α2)を大きく、第1のレーザビーム径(α1)を狭くし、2種類のレーザ光の出力を最適化することによりシリコンの溶融領域を形成することができる。」(0009段落)
「第2のレーザは第1のレーザ光と共にシリコン層の帯域溶融再結晶化の熱源として用いられるが、第1のレーザ光での加熱が主としてシリコンを溶融することを目的として用いられるのに対して第2のレーザ光での加熱は溶融シリコンの冷却固化再結晶化過程を制御するために用いられる。そのため第2のレーザ光で加熱される領域は均一な温度プロファイルを示すようにしなければならない。そのために第2のレーザ光のビームは第1のレーザ光のビームに比べて広い領域で均一なパワー密度であることが必要である。」(0012段落)
また、図6には、ビーム径(α2)の第2のレーザ光及びビーム径(α1)の第1のレーザ光が照射されたシリコン層(図5の2)の領域は、融点(1412℃)より高く、ビーム径(α2)の第2のレーザ光のみが照射されたシリコン層(図5の2)の領域では、融点よりわずかに低い温度であることが示されている。

4.当審の判断
本願発明と刊行物発明とについて、以下で対比・検討する。
(a)刊行物1の「この薄膜トランジスタに用いられる非単結晶半導体層は・・・特に、アモルファスシリコン半導体を用いた時、その移動度は・・・0.1?1(cm2/V・sec)程度で・・・あった。」(第2頁右上欄第18行ないし同頁左下欄第6行)との記載、及び刊行物1に記載された実施例において、原料ガスとしてSiH4を用い、プラズマCVD法により形成された「非単結晶半導体被膜」のキャリア移動度が約0.5(cm2/V・sec)であるから(第3頁右上欄第8ないし17行)、実施例において形成された「非単結晶半導体被膜」がアモルファスシリコン半導体膜であることは明らかである。
したがって、刊行物発明において、「第2の光ビーム」を照射する前の「非単結晶構造の半導体被膜」は、実質的にアモルファスシリコン半導体膜である。
したがって、刊行物発明の「基板上に形成された非単結晶構造の半導体被膜」は、本願発明の「基板に形成されたa-Si薄膜」に相当する。
(b)刊行物発明においては、「基板上に形成された非単結晶構造の半導体被膜に対し、広い照射面積を有し、第1のエネルギーを有し、均一またはゆるやかなビーム内エネルギー分布を有する第1の光源から発光された第1の光ビームを照射」することにより「前記第1の光ビームにより加熱された非単結晶構造の半導体被膜が前記非単結晶構造の半導体被膜の溶融点以下に温められて」おり、この工程では、「非単結晶構造の半導体被膜」は「溶融点以下に温められ」ており、また、上記(a)で検討したとおり、刊行物発明の「基板上に形成された非単結晶構造の半導体被膜」は、実質的にアモルファスシリコン半導体膜であって、本願発明の「基板に形成されたa-Si薄膜」に相当するから、刊行物発明の「基板上に形成された非単結晶構造の半導体被膜に対し、広い照射面積を有し、第1のエネルギーを有し、均一またはゆるやかなビーム内エネルギー分布を有する第1の光源から発光された第1の光ビームを照射し、前記第1の光ビームにより加熱された非単結晶構造の半導体被膜が前記非単結晶構造の半導体被膜の溶融点以下に温められ」る工程は、本願発明の「第2光源で基板に備えられた薄膜状のa-Siを溶融点以下に」「加熱する段階」に相当する。
(c)「第1の光源から発光された第1の光ビームを照射」することにより、「前記非単結晶構造の半導体被膜が」「温められている間に」、「前記第1の光源とは異なる光源から発光された、第2の光ビームを照射して前記非単結晶構造の半導体被膜をアニール」する工程において、「前記非単結晶構造の半導体被膜」は、第2の光ビームによりさらに熱せられていることは明らかであるから、刊行物発明の「第1の光源から発光された第1の光ビームを照射し、前記第1の光ビームにより加熱された非単結晶構造の半導体被膜が前記非単結晶構造の半導体被膜の溶融点以下に温められている間に」「前記第1の光源とは異なる光源から発光された、第2の光ビームを照射して前記非単結晶構造の半導体被膜をアニール」する工程は、本願発明の「第1光源で前記第2光源により」「加熱されたa-Siを加熱」「する段階」に相当する。

したがって、本願発明と刊行物発明とは、
「第2光源で基板に備えられた薄膜状のa-Siを溶融点以下に加熱する段階と、
第1光源で前記第2光源により加熱されたa-Siを加熱する段階と、
を含む方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1
本願発明は、「基板に形成されたa-Si薄膜を再結晶する方法」であるのに対して、
刊行物発明は、上記方法であるか否か明らかではない点。
相違点2
本願発明は、「第2光源で基板に備えられた薄膜状のa-Siを溶融点以下に予備加熱する段階」を備えているのに対して、
刊行物発明は、「基板上に形成された非単結晶構造の半導体被膜に対し、広い照射面積を有し、第1のエネルギーを有し、均一またはゆるやかなビーム内エネルギー分布を有する第1の光源から発光された第1の光ビームを照射し、前記第1の光ビームにより加熱された非単結晶構造の半導体被膜が前記非単結晶構造の半導体被膜の溶融点以下に温められ」る工程を備えているが、前記工程が「予備加熱する」段階であるか否か明らかではない点。
相違点3
本願発明は、「第1光源で前記第2光源により予備加熱されたa-Siを加熱して溶融する段階」を備えているのに対して、
刊行物発明は、「第1の光源から発光された第1の光ビームを照射し、前記第1の光ビームにより加熱された非単結晶構造の半導体被膜が前記非単結晶構造の半導体被膜の溶融点以下に温められている間に前記第1の光ビームの照射領域内を前記第1の光ビームより狭い照射面積を有し、前記第1の光源とは異なる光源から発光された、第2の光ビームを照射して前記非単結晶構造の半導体被膜をアニール」するとの構成を備えているが、前記「アニール」する工程が「予備加熱されたa-Siを加熱して溶融する段階」であるか否か明らかではない点。
相違点4
本願発明は、「第2光源により溶融されたa-Siを加熱しながらシリコンを再結晶させる段階を含むことを特徴とする多結晶シリコン製造方法。」であるのに対して、
刊行物発明は、「前記第1の光源とは異なる光源から発光された、第2の光ビームを照射して前記非単結晶構造の半導体被膜をアニールしながら移動させることにより、前記第2の光ビームが照射された部分の前記非単結晶構造の半導体被膜のキャリアの移動度を向上させること」なる構成を備えた「方法」であるが、上記段階を備えた「多結晶シリコン製造方法」であるか否か明らかではない点。

以下で各相違点について検討する。
[相違点1について]
刊行物1にも記載されているように「アモルファスシリコン半導体」である、「非単結晶半導体をアニールして、単結晶化又は多結晶のグレインサイズを大きくすること」(第2頁左下欄第3ないし14行)は従来周知であり、また、刊行物1に記載された実施例において、プラズマCVD法により形成された「非単結晶半導体被膜」を第1の光ビーム及び第2の光ビームを照射することによりアニールした後の「非単結晶半導体」のキャリアの移動度は約240(cm2/V・sec)程度であり、一方、シリコン単結晶の移動度は300Kにおいて1880(cm2/V・sec)程度であることは技術常識であるから、実施例において形成されたアニール後の「非単結晶半導体」が、シリコン単結晶ではなく、多結晶シリコン膜であることは明らかである。
したがって、刊行物発明において、上記(a)で検討したとおり、「第2の光ビーム」を照射する前の「非単結晶構造の半導体被膜」は、実質的にアモルファスシリコン半導体膜であって、また、第1の光ビームを照射して前記非単結晶構造の半導体被膜が溶融点以下に温められている間に、第2の光ビームを照射して前記非単結晶構造の半導体被膜をアニールすることにより、形成される「非単結晶半導体」は多結晶シリコンであるから、刊行物発明の「方法」は、基板に形成された「アモルファスシリコン半導体」をアニールして「多結晶シリコン」とする方法であって、実質的に「基板に形成されたa-Si薄膜を再結晶する方法」であり、相違点1は実質的なものではない。
[相違点2について]
上記(c)で検討したとおり、刊行物発明において、「第1の光源から発光された第1の光ビームを照射」することにより、「前記非単結晶構造の半導体被膜が」「温められている間に」、「前記第1の光源とは異なる光源から発光された、第2の光ビームを照射して前記非単結晶構造の半導体被膜をアニール」するのであるから、刊行物発明の「第1の光源から発光された第1の光ビームを照射し、前記第1の光ビームにより加熱された非単結晶構造の半導体被膜が前記非単結晶構造の半導体被膜の溶融点以下に温め」る工程は、その後「前記第1の光源とは異なる光源から発光された、第2の光ビームを照射して前記非単結晶構造の半導体被膜をアニール」するための予備的な加熱であることは明らかであるから、刊行物発明は、実質的に予備的な加熱をする工程を備えている。
また、予備的な加熱をするための手段である、刊行物発明の「第1の光源から発光された第1の光ビーム」をどのような形状とするかは、当業者が必要に応じて適宜設定し得るものである。
したがって、相違点2は、実質的な相違点ではない。
[相違点3について]
(1)上記「相違点2について」において検討したとおり、刊行物発明においても、「前記非単結晶構造の半導体被膜」は「アニール」する前に「予備加熱」されたものであることは明らかである。
(2)刊行物1の「光ビームの照射時間、エネルギーと非単結晶半導体の関係において、第1の光ビームは非単結晶半導体が溶融されない程度の照射時間、エネルギー量にして、第2の光ビームが照射されるときに初めて非単結晶半導体はアニールされるようなエネルギーが選ばれる。」(第3頁左上欄第13ないし18行)との記載の「アニール」は「溶融されない」状態とは異なるから、「アニール」は「溶融された」状態を意味することは当業者にとり明らかある。
仮に、明らかでないとしても、刊行物2の0009段落、0012段落及び図6には、ビーム径(α2)の第2のレーザ光及びビーム径(α1)の第1のレーザ光が照射されたシリコン層(図5の2)の領域は、溶融点(1412℃)より高く、ビーム径(α2)の第2のレーザ光のみが照射されたシリコン層(図5の2)の領域では、溶融点よりわずかに低い温度であることが記載されており、第1のレーザ光及び第2のレーザ光を用いて、第2のレーザ光により溶融点よりわずかに低い温度にシリコン層を加熱し、第2のレーザ光を照射した状態で第1のレーザ光を照射することによりシリコンを溶融させること、言い換えると、第2のレーザ光で溶融温度以下で予備加熱し、第1のレーザ光の加熱により「溶融」することが記載されているから、刊行物1においても、刊行物2に記載された如く、第2の加熱で「溶融」することは容易になし得ることである。
(3)「第1の光源から発光された第1の光ビームを照射し」て「非単結晶構造の半導体被膜」が「溶融点以下に温められている間」に、「第2の光ビームを照射して前記非単結晶構造の半導体被膜をアニール」するのであるから、「第2の光ビーム」が「前記第1の光ビームの照射領域内」で「前記第1の光ビームより狭い照射面積を有」するものとすることが必要であることは、当業者にとって明らかである。
(4)したがって、刊行物発明は、実質的に「予備加熱されたa-Siを加熱して溶融する段階」を備えるものであるか、仮にそうでないとしても、刊行物発明が、「予備加熱されたa-Siを加熱して溶融する段階」を備えるものとすることは、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものである。
[相違点4について]
(1)上記「相違点3について」の(2)で検討したとおり、「アニール」は「溶融されない」状態とは異なるとともに、「第1の光ビームを非単結晶半導体に照射しこの照射により非単結晶半導体が温められた状態で第2のビームを照射することにより非単結晶半導体をアニールし、キャリアの移動度を向上させるもの」(第3頁左上欄第8ないし12行)であるから、「アニール」は「溶融された」状態を意味することは当業者に明らかである。
また、上記(a)で検討したとおり、刊行物発明の、第1の光ビームを照射する前の「非単結晶構造の半導体被膜」はアモルファスシリコン半導体膜であり、また、上記[相違点1について]で検討したとおり、刊行物発明において、第1の光ビームを照射して前記非単結晶構造の半導体被膜が溶融点以下に温められている間に、第2の光ビームを照射して前記非単結晶構造の半導体被膜をアニールすることにより形成される「非単結晶半導体」は多結晶シリコンであるから、本願発明の、第1の光ビームを照射して前記非単結晶構造の半導体被膜が溶融点以下に温められている間に、第2の光ビームを照射して前記非単結晶構造の半導体被膜をアニールする工程は、本願発明の「第2光源により溶融されたa-Siを加熱しながらシリコンを再結晶させる段階」に相当することは当業者にとって明らかである。
(2)刊行物1には、「この様な状態の光ビームを用いることにより非単結晶半導体のキャリアの移動度の向上を行うもので、第1の光ビームを非単結晶半導体に照射しこの照射により非単結晶半導体が温められた状態で第2のビームを照射することにより非単結晶半導体をアニールし、キャリアの移動度を向上させるものであります。 この時、光ビームの照射時間、エネルギーと非単結晶半導体の関係において、第1の光ビームは非単結晶半導体が溶融されない程度の照射時間、エネルギー量にして、第2の光ビームが照射されるときに初めて非単結晶半導体はアニールされるようなエネルギーが選ばれる。」(第3頁左上欄第6ないし18行)と記載されており、第1の光ビームが照射され非単結晶構造の半導体被膜が溶融点以下に温められた状態で、第2の光ビームが照射されることにより、溶融点以上となり、非単結晶構造の半導体被膜が溶融し、第2の光ビームの照射が終了する、言い換えると、第2の光ビームが非単結晶構造の半導体被膜の特定の部分から隣接する部分に「移動」することにより、特定の部分の非単結晶構造の半導体被膜は「加熱して溶融する段階」を終了するが、第1の光ビームの照射は続いているから、温度は徐々に低下することにより、「多結晶のグレインサイズ」が「大きく」(第2頁左下欄第13及び14行)なり、それに伴い、「キャリアの移動度」が向上する。
(3)一方、本願の明細書には、「再結晶が起こる間に第2光源からのエネルギーが再び供給されているので再結晶の速度は徐々に成される。このように再結晶化速度を遅くすることにより、所望の均一で大きいサイズの多結晶シリコンを得る。」(0030段落)と記載されている。
(4)したがって、刊行物発明も実質的に「多結晶シリコン」の製造方法であるとともに、本願発明の「第2光源により溶融されたa-Siを加熱しながらシリコンを再結晶させる段階」を実質的に備えるものであることは明らかであり、刊行物発明の「前記第2の光ビームが照射された部分の前記非単結晶構造の半導体被膜のキャリアの移動度を向上させること」は本願発明においても同様に奏せられる効果であるとともに、刊行物発明の「非単結晶構造の半導体被膜」のある特定の部分に注目すると、本願発明の「多結晶シリコン」の製造方法であることは明らかである。

よって、本願発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
仮に、本願発明が、刊行物1に記載された発明でないとしても、本願発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

なお、請求人は、平成17年11月4日に補正した審判請求書において、「引用文献2では、2頁左下欄16?同頁右下欄6行目、3頁右下12?14行等に、高温下でアニールするために、高価な基板を使用しなければならず、該基板上全面の非単結晶半導体を単結晶化(引用文献1と同様)または多結晶化するために、処理時間が長くなるという問題があり、低温でより短時間で非単結晶半導体を作製するには瞬時にアニールすることが基板に耐熱性がなくてもアニールでき有用であるとの知見が示されており、本願発明のように、溶融された薄膜状非晶質シリコンをむしろ溶融温度以上の領域で長持間保持するように加熱しながら再結晶させることで(本願図6、図7、図8参照)、薄膜状非晶質シリコンの凝固速度を緩め再結晶化速度を効果的に緩めることができ、その特性を飛躍的に高めることができるとの知見とは相反する知見が示されています。よって、こうした引用文献2に記載の発明からは予見できない、本願発明に固有の効果を得るための上記構成要件を見出すことはたとえ当業者といえども決して容易でないものと思料致します。」と主張している(「引用文献2」は特開平2-226718号(刊行物1)である)。
ここで、本願の明細書においては、「本発明の目的は、600℃の低温下でも均質の多結晶シリコンが製造できる多結晶シリコンの製造方法および装置を提供することである。 また、本発明の他の目的は、ディスプレイ素子において高価の石英でない安価なガラスを基板材料として使用できる多結晶シリコンの製造方法および装置を提供することである。」(0010段落及び0011段落)と記載されており、「600℃の低温下でも均質の多結晶シリコンが製造できる」及び「高価の石英でない安価なガラスを基板材料として使用できる」とは、請求人の主張する「溶融された薄膜状非晶質シリコンをむしろ溶融温度(注:約1400℃)以上の領域で長持間保持するように加熱しながら再結晶させることで(本願図6、図7、図8参照)」における「長時間」が「非晶質シリコン」が溶融温度以上であっても、実質的には、安価なガラス基板が劣化しない程度の「極めて短時間」であると理解するのが妥当である。
一方、刊行物1に、「光ビームの照射時間、エネルギーと非単結晶半導体の関係において、第1の光ビームは非単結晶半導体が溶融されない程度の照射時間、エネルギー量にして、第2の光ビームが照射されたときに初めて非単結晶半導体はアニールされるようなエネルギーが選ばれる。 また、下地基板に耐熱性がなくても、必要な部分だけ短時間で非単結晶半導体のキャリアの移動度を向上させることができるものであります。」(第3頁左上欄第13行ないし同頁右上欄第1行)と記載されており、第1の光ビームは非単結晶半導体が溶融されない程度の温度(溶融温度以下)に温められた状態で、第2の光ビームを照射して非単結晶半導体(アモルファスシリコン半導体)はアニール(溶融)され、第2の光ビームが移動し、非単結晶半導体が第1の光ビームのみによって照射された状態であって溶融温度以下まで低下するまでの短時間に、溶融された非単結晶半導体(アモルファスシリコン半導体)は、非単結晶半導体(多結晶シリコン)となり、「グレインサイズが大きくな」ると共に、「キャリアの移動度が向上」するのであるから、上記非単結晶半導体(アモルファスシリコン半導体)が溶融された時間は、多結晶シリコンのグレインサイズが大きくなるためには十分な時間である。
したがって、刊行物発明における、上記非単結晶半導体(アモルファスシリコン半導体)が溶融されている時間と、本願発明における、「溶融された薄膜状非晶質シリコンをむしろ溶融温度以上の領域で長持間保持する」の「長時間」とが、同等程度の時間であることは、当業者にとって明らかである。
よって、請求人の主張する「効果」は、刊行物発明においても同様に奏せられる程度の効果に過ぎず、本願発明の固有の効果であるとする請求人の主張は、妥当でない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願は、請求項2ないし32に係る発明について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-04-13 
結審通知日 2007-04-17 
審決日 2007-05-07 
出願番号 特願平6-8725
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮崎 園子  
特許庁審判長 河合 章
特許庁審判官 井原 純
齋藤 恭一
発明の名称 多結晶シリコンの製造方法および装置  
代理人 奈良 泰男  
代理人 宇谷 勝幸  
代理人 八田 幹雄  

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