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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E02D |
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管理番号 | 1169332 |
審判番号 | 不服2006-905 |
総通号数 | 98 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-02-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-01-12 |
確定日 | 2007-12-06 |
事件の表示 | 平成8年特許願第182619号「地盤支持力の強化工法」拒絶査定不服審判事件〔平成9年12月22日出願公開、特開平9-328741〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成8年6月9日の出願であって、平成17年12月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年1月12日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。 2.本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年9月15日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「構造物周囲から外方に地盤補強材を傾斜して施工し外方周囲の地盤を強化すると共に 該構造物下の地盤内に形成される主働くさび領域を貫通する様に構造物下の地盤内へと第1層地盤補強材を構造物周囲から内方に傾斜して施工した後、 その結果下方に延びた新たな主働くさび領域を貫通する様に第2層地盤補強材を傾斜して施工していき 複層に地盤補強材を施工する 地盤支持力の強化工法。」 3.引用文献 原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭62-137325号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「地盤支持力の強化工法」に関して、第1図?第11図とともに以下の記載がある。 (ア)「2.特許請求の範囲 …… 2.地盤内に形成される主働くさび領域を貫通する様に構造物下の地盤内に傾斜して複層に地盤補強材を施工する地盤支持力の強化工法」(第1ページ左欄4?10行) (イ)「3.発明の詳細な説明 (産業上の利用分野) 本発明は構造物下の地盤の支持力を向上させる地盤支持力の強化工法に関するものである。 (従来の技術) 例えば既設構造物下の地盤の支持力が何らかの理由で低下したり、既設構造物が負担する荷重が増加したり又は安全等のための基準が変更になつたりした場合には地盤の支持力を向上させる必要がある。 一方従来において構造物下の地盤内に杭を施工する工法は公知であるが、該工法においては構造物と杭を一体にしなければならないため構造物が既設のものの場合には適用出来ない場合が多い。 又第9図及び10図に示す様に多数の杭(15)を構造物(1)の周囲に施工する工法もあるが該工法においては多くの杭(15)を必要とし、仮に本数が少い場合には第11図に示す様に地盤(10)の支持力を負担する地盤(10)内の主働くさび領域(11)、過渡領域(12)及び受働領域(13)の大幅な拡大が期待出来ず地盤支持力の向上につながらない危れがあつた。 (発明が解決しようとする問題点) 本発明は以上の従来の問題を解決し少い本数の地盤補強材で地盤を強化して地盤支持力を向上させるより改良された地盤支持力の強化工法の提供を目的とする。」(第1ページ左欄11行?右欄16行) (ウ)「(実施例) 以下本発明の地盤支持力の強化工法(以下本発明の工法という)を図面に示す実施例に従い説明する。 第1図乃至第3図は本発明の工法を示す、該工法は建物、タンク、橋脚等の構造物(1)下の地盤(10)内に該構造物(1)から離れた場所から傾斜して施工された地盤補強材(3)を有する。 すなわち地盤補強材(3)は無補強状態の地盤(10)内に形成される主働くさび領域(11)を貫通する様に傾斜して施工されるのである。 補盤補強材(3)としては例えば小口径の場所打ち鉄筋補強モルタル又は鉄筋補強セメントミルクパイルを用いることが望ましい。 すなわち地盤補強材(3)に要求されるのは地盤(10)と一体化することであり、このため小口径にして地盤(10)の歪に追随可能にし及び場所打ちにして地盤(10)との付着を良くするのである。 この様に地盤補強材(3)が施工された結果主働くさび領域(11)は下方に延びて拡大され、これに伴い過渡領域(12)及び受働領域(13)はより深く及びより広くなる。 この結果地盤支持力は向上して構造物(1)は十分支持されるのである。 第4図乃至第8図は本発明の他の工法を示し、該工法は第1図乃至第3図のものと比較して次の特徴を有する。 すなわち地盤補強材(3)は第1層地盤補強材(3a)及び第2層地盤補強材(3b)からなる。 第1層地盤補強材(3a)は無補強状態の地盤(10)内に形成される主働くさび領域(11)を貫通する様に傾斜して施工される。 次に第2層地盤補強材(3b)は第1層地盤補強材(3a)による補強の結果下方に延びた新たな主働くさび領域(11)を貫通する様に傾斜して施工される。 この結果主働くさび領域(11)は更に下方に延びて拡大されるのである。」(第1ページ右欄17行?第2ページ右上欄13行) (エ)「(発明の効果) 本発明の地盤支持力の強化工法の実施例は以上の通りでありその効果を次に列記する。 (1) 本発明の工法は特許請求の範囲に記載した構成であり、特に主働くさび領域を貫通して地盤補強材が施工されるため主働くさび領域が下方に延びて拡大され、その結果少い本数の地盤補強材で地盤支持力は大幅に向上される。 (2) 本発明の工法は同上の構成であり、特に主働くさび領域を貫通して複層に地盤補強材を施工した場合には主働くさび領域の拡大が著しく極めて効果がある(第4図乃至第8図のものは杭に(15)の本数が地盤補強材(3)の本数と略等しい第9図乃至第11図のものと比較して1.5?2.0倍の支持力を有する)。」(第2ページ右上欄14行?左下欄8行) これらの記載事項及び図面を参照すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。 (引用発明) 「地盤(10)内に形成される主働くさび領域(11)を貫通する様に構造物(1)下の地盤(10)内に該構造物(1)から離れた場所から傾斜して複層に地盤補強材を施工する地盤支持力の強化工法であって、 第1層地盤補強材(3a)は無補強状態の地盤(10)内に形成される主働くさび領域(11)を貫通する様に傾斜して施工され、 次に第2層地盤補強材(3b)は第1層地盤補強材(3a)による補強の結果下方に延びた新たな主働くさび領域(11)を貫通する様に傾斜して施工される 地盤支持力の強化工法。」 同じく原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭55-136337号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「既設構造物、基礎、地盤等の補強方法」に関して、第1図?第4図とともに以下の記載がある。 (オ)「2.特許請求の範囲 1.構造物、基礎、地盤等に、多数の現場打の鉄筋コンクリートくいを必ずしも互に同じ方向を向かないよう所定深さ挿通するとともに該くいの一端部向志を強固に連結することを特徴とする既設構造物、基礎、地盤等の補強方法。」(第1ページ左欄5?10行) (カ)「3.発明の詳細な説明 本発明は、老朽化した構造物、大重量装置の基礎、建築物の基礎、傾斜地等における地盤等を補強する為の全く新規な方法に関するものである。 …… 大重量装置の基礎、建築物の基礎等においては、大重量を支承し得るようにする為大径の杭を垂直に地面に挿通しており、杭を挿通する際に大径の孔を穿設しなければならないので振動、騒音等が大きくなるのみならず、場所によつては地辷りし易くなり、更には土と杭との付着力が小さく、従つて余り補強の役目を果たし得ないものである。」(第1ページ左欄11行?右欄8行) (キ)「本発明は、必ずしも同じ方向を向かない多数の孔に杭を挿通することにより上記諸欠点を解消したものであり、以下実施例を示す添付図面によって詳細に説明する。 第1図は大重量のコンプレツサー(5)の基礎を耐震安定させる為の実施例を示し、既設或は新設の基礎(4)を貫通させて多数の小径の杭(1)(1)…を設け、該杭(1)(1)…は必ずしも同じ方向を向かず、しかも大地の表面層(2)を貫通して強固な岩盤層(3)にまで到達している。 このようにすることにより、杭(1)(1)…により巻込まれた土塊は杭(1)(1)…と一体となって基礎(4)を支持し、また土塊の慣性抵抗が大きく、しかも弾性は杭(1)(1)…の弾性と著しく異なる為コンプレツサー(5)の振動を充分に減衰させることができる。 第2図は大きな漂石のある河床における基礎の補強を示しており、漂石(6)及び土砂(7)を貫通させて、必ずしも同じ方向を向かない多数の杭(1)(1)…を設け、該杭(1)(1)…の上端部を基礎(8)と一体的に固着している。 このようにすることにより、漂石(6)(6)…が縫い合わされた状態となり、杭(1)(1)…により巻き込まれた土砂(7)が剛性に近づくのである。 第3図は地辷りしやすい地震を補強する場合の実施例を示し、表面の粘土質層(9)を貫通させて必ずしも同じ方向を向かない多数の杭(1)(1)を設け、該杭(1)(1)…の下端部を強固な岩盤層(10)に到達せしめるとともに上端部をコンクリート等(11)にて一体的に連結している。 このようにすることにより杭(1)(1)…により巻込まれた土は剛性構造に近づき、降雨時においても粘土質層(9)の辷りを確実に防止できる。 …… また急な勾配の斜面の崩れを防止する場合には斜面から、崩れやすい不安定層を貫通して安定層に達するよう多数の杭を設ければ良い。 …… 本発明方法は杭と土塊とを一体化することにより強度を著しく向上させることができるのみならず、杭は小径のものでも良い為小径の孔を穿孔すれば良く、特に地すべりの抑止に最適である。」(第1ページ右欄9行?第2ページ右上欄17行) 4.対比 本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「構造物(1)下の地盤(10)内に該構造物(1)から離れた場所から傾斜して複層に地盤補強材を施工する地盤支持力の強化工法であって、第1層地盤補強材(3a)は無補強状態の地盤(10)内に形成される主働くさび領域(11)を貫通する様に傾斜して施工され、次に第2層地盤補強材(3b)は第1層地盤補強材(3a)による補強の結果下方に延びた新たな主働くさび領域(11)を貫通する様に傾斜して施工される」は、本願発明の「構造物下の地盤内に形成される主働くさび領域を貫通する様に構造物下の地盤内へと第1層地盤補強材を構造物周囲から内方に傾斜して施工した後、その結果下方に延びた新たな主働くさび領域を貫通する様に第2層地盤補強材を傾斜して施工していき複層に地盤補強材を施工する」に相当する。 以上のことから、本願発明と引用発明とは、 「構造物下の地盤内に形成される主働くさび領域を貫通する様に構造物下の地盤内へと第1層地盤補強材を構造物周囲から内方に傾斜して施工した後、 その結果下方に延びた新たな主働くさび領域を貫通する様に第2層地盤補強材を傾斜して施工していき 複層に地盤補強材を施工する 地盤支持力の強化工法。」 で一致し、次の点で相違する。 〔相違点〕 本願発明は、構造物周囲から外方に地盤補強材を傾斜して施工し外方周囲の地盤を強化するものであるのに対して、引用発明は、構造物周囲から外方には地盤補強材を設けておらず、構造物の外方周囲の地盤を強化するものではない点。 5.判断 前記相違点について以下検討する。 引用文献2には、地盤等に、多数の現場打の鉄筋コンクリートくいを必ずしも互に同じ方向を向かないよう所定深さ挿通するとともに該くいの一端部どうしを強固に連結する地盤等の補強方法が記載されている(前記3.(オ)参照)。 同じく引用文献2の第1図?第3図を見ると、多数の杭(1)(1)…が、地表又は地表付近で連結され、各杭(1)が鉛直方向に対して傾斜して地盤に挿通されている態様が示されている。前記多数の杭(1)(1)…は、地表のある地点を起点とし、深くなるにつれ全体として広がるような配置になっている。杭(1)のそれぞれを見ると、地表のある地点から深くなるにつれ右側に傾斜するもの、これとは対称的に深くなるにつれ左側に傾斜するものが存在する。 また、引用文献2には、多数の杭(1)(1)…により巻込まれた土塊が杭(1)(1)…と一体となって剛性構造となること、杭(1)を岩盤層(3)(10)にまで到達させていることが記載されている(前記3.(キ)、第1図、第3図参照)。このような構成により多数の杭(1)(1)…が地盤を補強するものである。 そうすると、引用発明と引用文献2に記載された技術とは、杭状の補強材により地盤を補強する技術で共通しているから、引用発明に引用文献2に記載された技術を適用し、引用発明において、構造物下の地盤内へ構造物周囲から内方に傾斜する第1層地盤補強材及び第2層地盤補強材に加え、当該第1層地盤補強材及び第2層地盤補強材とは対称的な方向に傾斜させた、すなわち構造物周囲から外方に傾斜させた地盤補強材を施工するものとすることは、当業者が容易に想到しうるものである。 そして、本願発明の作用効果も、引用発明及び引用文献2に記載された技術から当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものということはできない。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-10-05 |
結審通知日 | 2007-10-09 |
審決日 | 2007-10-22 |
出願番号 | 特願平8-182619 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(E02D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 柴田 和雄、大森 伸一 |
特許庁審判長 |
岡田 孝博 |
特許庁審判官 |
小山 清二 砂川 充 |
発明の名称 | 地盤支持力の強化工法 |
代理人 | 山口 朔生 |