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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E21D
管理番号 1173214
審判番号 不服2005-12286  
総通号数 100 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-06-30 
確定日 2008-02-14 
事件の表示 平成10年特許願第62648号「トンネル掘削機」拒絶査定不服審判事件〔平成11年9月21日出願公開、特開平11-256990〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯・本願発明
本願は、平成10年3月13日に出願されたものであって、平成17年5月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年6月30日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものであり、その後、当審において、平成19年6月7日付けで拒絶理由の通知がなされ、これに対し、請求人から、平成19年8月13日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。
そして、本願の請求項1に係る発明は、平成17年4月4日付け,平成19年8月13日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、平成19年8月13日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】2つの縦坑間でトンネル掘削機を往復させ、四角い枠状に隣接する複数の小型トンネルを掘削形成し、その後、内部の土砂を排出して大型トンネルを構築する際に用いられるトンネル掘削機であって、
筒状の掘削機本体と、該掘削機本体の前部に回転自在に装着されたカッタヘッドと、該カッタヘッドを駆動するカッタヘッド駆動手段と、前記掘削機本体を前進させる推進手段と、前記掘削機本体の外周部に着脱自在に装着された複数のコーナーカッタ装置と、前記掘削機本体に対して前記コーナーカッタ装置を着脱するコーナーカッタ着脱手段と、前記カッタヘッドによって掘削された掘削物を排出する掘削物排出手段とを具えると共に、
前記複数のコーナーカッタ装置は、掘削途中で少なくともその一部が前記小型トンネルの断面形状に応じて交換されることを特徴とするトンネル掘削機。」(以下、「本願発明」という。)


【2】引用刊行物とそれに記載された発明
〔1〕当審における平成19年6月7日付けの拒絶理由の通知で引用され、本願出願前に国内において頒布された刊行物である特開平9-242474号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「シールド工法及びシールド機」に関して、以下の事項が図面とともに記載されている。
(ア)「【請求項3】断面が略長方形のシールド機外殻を有し、かつその外殻の切羽側端部の角部近傍に地盤改良用カッターを装備し、
シールド機の掘進と同時に、前記地盤改良用カッターによりシールドトンネル間の接合部分に当る外殻の角度近傍の地盤を掘削し、地盤改良を行えるよう構成した・・・
シールド機。
【請求項4】請求項2又は3に記載のシールド機において、前記地盤改良用カッタ-を着脱自在式にして、取付位置の変更及び径の異なるカッターとの交換ができるよう構成した・・・シールド機。」(特許請求の範囲、【請求項3】,【請求項4】)
(イ)「【課題を解決するための手段】・・・本発明は、シールド機の切羽側端部であって、シールドトンネル間の接合部分に当たる位置に地盤改良用カッターを装備し、シールド機の掘進と同時に、前記地盤改良用カッターによりシールドトンネル間の接合部分の地盤を掘削し、地盤改良を行うことを特徴とした、シールド工法を提供する。また、シールド機の切羽側端部であって、シールドトンネル間の接合部分に当たる位置に地盤改良用カッターを装備したシールド機を提供する。さらに具体的には、断面が略長方形のシ-ルド機外殻を有し、かつその外殻の切羽側端部の角部近傍に地盤改良用カッターを装備したシールド機を提供する。なお、上記シールド機において、前記地盤改良用カッターを着脱自在式にして、取付位置の変更及び径の異なるカッターとの交換ができるよう構成することも特徴とする。」(段落【0003】)
(ウ)「【発明の実施の形態1】
<イ>シ-ルド機の全体形状
図1?3にシールド機の構造を示す。シールド機の外殻は種々の形状が考えられるが、本実施の形態では略長方形で縦型の外殻1を有する。外殻1の切羽側端部には所定数の掘進用カッター11が配備されている。・・・
掘進用カッター11には面板状やスポーク状などの種々の形状のものが使用できる。・・・」(段落【0004】?【0005】)
(エ)「<ロ>地盤改良用カッター
外殻1の切羽側端部には、シールドトンネル間の接合部分に当たる位置に地盤改良用カッター12を装備する。
本実施の形態では、略長方形の縦型の外殻1の切羽側端部の4つの角部に、それぞれ地盤改良用カッター12を装備した場合を示す。これらの地盤改良用カッター12はシールド機本体から着脱自在式にして、取付位置の変更及び径の異なるカッターとの交換ができるよう構成する。
地盤改良用カッター12には、掘進用カッター11と同様に、面板状やスポーク状などの種々の形状のものが使用できる。・・・」(段落【0006】?【0007】)
(オ)「なお、シールド機内には、掘進用カッター11を回転させる駆動モータ16や地盤改良用カッター12を回転させる駆動モータ17、シールド機に推進力を与えるシールドジャッキ18、その他にシールド機の掘進に必要な排土設備やライナー或いはセグメントの組立装置等を配備する。」(段落【0010】)
(カ)「【施工方法】次に、図4を参照して、上記のように構成したシールド機を用いたトンネルの施工方法について説明する。先ず、先行シールド機によって先行トンネルを掘削する。このとき同時に、地盤改良用カッター12よってトンネル間の接合部分に当たる地盤を掘削し、裏込材注入装置15により掘削土砂に特殊改良材を注入、充填して・・・地盤改良を行う。
次に、後行シールド機によって後行トンネルを掘削する。この場合には、既に先行シールド機によって造成された地盤改良ゾーンを地盤改良用カッター12で切削し、新たな地盤改良ゾーンをラップして造成しながら掘削を行う。これによって、後行トンネルの構築終了と同時に、先行後行トンネル間の接合部分の地盤改良を完了することが可能となる。」(段落【0011】?【0012】)
(キ)「【発明の実施の形態2】図5に示す実施の形態は、掘削用カッター2群の4つの角部に、地盤改良用カッター21、22を配備し、さらにそのカッター21の側部に3練の地盤改良用カッター23を配備した構造のシールド機である。トンネルを施工する場合は、図6に示すように、実施の形態1に記載したシールド機と組み合わせて、上述したように先行、後行の順で地盤改良ゾーンをラップさせて掘削を行う。
【発明の実施の形態3】また、図7に示す実施の形態は、掘削用カッター3群の4つの角部に、地盤改良用カッター31a、31bを配備し、カッター31aの側部に大小2練の地盤改良用カッター32(32aと32b)を配備し、また一方のカッター31bの底部に大小2練の地盤改良用カッター33(33aと33b)を配備し、さらにカッター32と33との中間部に地盤改良用カッター34を配備した構造のシールド機である。
トンネルを施工する場合は、図8に示すように、上記実施の形態1に記載したシールド機と組み合わせて、上述したように先行、後行の順で地盤改良ゾーンをラップさせて掘削を行う。なお、地盤改良用カッターは着脱自在であるため、その取付位置及びカッター径は、上記の実施の形態1?3に限らず、施工に適合させて任意に変更することができる。」(段落【0013】?【0015】)
(ク)「【発明の効果】
<イ>・・・
<ロ>地盤改良用カッターの取付位置の変更及び径の異なるカッターとの交換ができる。そのため、ライナー或いはセグメント間隔の変化や地盤改良ゾーンの大きさの変化に対応することができる。また、シールド機の施工誤差(上下蛇行、ローリング等)を吸収するための地盤改良ゾーンのラップ長を確実に確保できる。」(段落【0016】?【0017】)
(ケ)そして、上記(オ)の記載によれば、「シールド機内には、・・・駆動モータ16や・・・駆動モータ17、・・・シールドジャッキ18、その他に・・・排土設備やライナー或いはセグメントの組立装置等を配備する」のであるから、シールド機の外殻1(シールド機本体、以下同様。)が筒状であることは明らかであり、また、外殻1の切羽側端部の角部近傍に複数の地盤改良用カッター12が着脱自在に装着されるのであるから、外殻1に対して地盤改良用カッター12を着脱するための何らかの着脱手段が具えられていることは明らかである。
(コ)また、上記(カ),(キ)の記載及び図4,6,8の記載によれば、シールド機が、四角い枠状に隣接する複数のトンネルを掘削形成する際に用いられるものであることも明らかである。
これら(ア)?(コ)の記載等を含む刊行物1全体の記載及び図面の記載並びに当業者の技術常識によれば、刊行物1には、以下のような発明が記載されているものと認められる。
「四角い枠状に隣接する複数のトンネルを掘削形成する際に用いられるシールド機であって、
筒状の外殻1と、該外殻1の切羽側端部に回転自在に装着された掘進用カッター11と、該掘進用カッター11を回転させる駆動モータ16と、シールド機に推進力を与えるシールドジャッキ18と、前記外殻1の角部近傍に着脱自在に装着された複数の地盤改良用カッター12と、前記外殻1に対して前記地盤改良用カッター12を着脱するための着脱手段と、シールド機の掘進に必要な排土設備とを具えると共に、
前記複数の地盤改良用カッター12は、地盤改良ゾーンの大きさの変化に対応するためにその取付位置の変更や径の異なるカッターとの交換ができるようになっているシールド機。」(以下、「刊行物1に記載の発明」という。)

〔2〕同じく、特開平9-119290号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「トンネル掘削機」に関して、以下の事項が図面とともに記載されている。
(ア)「【発明が解決しようとする課題】・・・大径のトンネルの構築する場合、この大径トンネルの掘削断面が途中で変化することがある。即ち、各シールド掘削機によって隣接して掘削する小径トンネルの間隔が変わったりことがある。この場合、・・・従来のシールド掘削機にあっては、掘削機本体101にコーナーカッタ装置112が固定されているため、カッタヘッド102及び掘削機本体101によって掘削した小径のトンネルに対して、各コーナーカッタ117によって掘削した各空洞部の位置は予め設定された位置である。そのため、トンネル掘削断面の変化に対応することができないという問題があった。
本発明はこのような問題点を解決するものであって、トンネル掘削途中でのトンネル掘削断面の変化に迅速に対応して連続してトンネル掘削を可能としたコーナーカッタ装置及びトンネル掘削機、トンネル掘削方法を提供することを目的とする。」(段落【0009】?【0010】)
(イ)「図4乃至図6に示すように、本実施例のシールド掘削機において、四角い筒状をなす掘削機本体11の前部には回転筒12を介して円板状のカッタヘッド13が回転自在に取付けられており、このカッタヘッド13に交差して取付けられたスポーク14には多数のカッタビット15が固定されている。そして、このカッタヘッド13と一体の回転筒12にはリングギヤ16が固定される一方、掘削機本体11側には複数の駆動モータ17が取付けられており、この駆動モータ17の図示しない駆動ギヤがリングギヤ16と噛み合っている。従って、駆動モータ17を駆動すると、リングギヤ16及び回転筒12を介してカッタヘッド13を回転駆動することができる。
また、掘削機本体11の前部には内部にカッタヘッド13が掘削した土砂や泥酔等のずりが浸入しないようにバルクヘッド18が形成されており、一端部が・・・泥水処理に延設された送泥管19及び排泥管20の他端部が掘削機本体11の後部から挿通され、このバルクヘッド18を貫通してカッタヘッド13の後方まで延設されている。更に、掘削機本体11の後部には周方向に沿って複数のシールドジャッキ21が並設されると共に、掘削機本体11の後部に固定された支持壁22にはセグメントSを組立てるエレクタ装置23が取付けられている。
更に、掘削機本体11の外周部の四方にはコーナーカッタ装置24がそれぞれ装着されており、各コーナーカッタ装置24は全て同様の構成となっている。」(段落【0025】?【0027】)
(ウ)「図1乃至図3に示すように、掘削機本体11の外周部における角部には前方が開口した円筒状のケース25が配設されており、このケース25は基板26が掘削機本体11の外周部に固定された前後一対のガイド27により、掘削機本体11の周方向に沿って移動自在に支持されている。そして、このケース25内には前部の仕切り壁28に軸受29お詫びシール部材30によって回転軸31の基端部が回転自在に支持されており、この回転軸31の先端部には円板状のコーナーカッタ32が固結され、このコーナーカッタ32の前面に多数のカッタビット33が固定されている。また、ケース25内の仕切り壁28に駆動モータ34が装着されており、この駆動モータ34の出力ギア35は回転軸31の基端部に形成された内歯ギア36に噛み合っている。
また、ケース25の下方に位置する掘削機本体11にはその周方向に沿ってガイド溝37が形成されており、本体がケース25の基板26に固定された油圧シリンダ38が摺動自在に収容されている。・・・
従って、図4及び図5に示すように、駆動モータ17を駆動してカッタヘッド13を回転駆動しながら、シールドジャッキ21を伸長させると、掘削機本体11は既設のセグメントSからの反力により前進し、多数のカッタビット15が前方の地盤を掘削することでトンネルを掘削する。そして、シールドジャッキ21を縮小して形成された既設のセグメントSとの間の空所にエレクタ装置23が新しいセグメントSを装着していくことで、断面が矩形のトンネルが構築される。一方、掘削機本体11及びカッタヘッド13の前進によるトンネル掘削に伴って各コーナーカッタ装置24によって空洞部を形成する。」(段落【0028】?【0030】)
(エ)「図1乃至図3に示すように、掘削機本体11の前進時に、駆動モータ34によって回転軸31を介してコーナーカッタ32を回転駆動すると、多数のカッタビット33が前方の地盤を掘削することで、空洞部を掘削する。即ち、中央部のトンネルに対してその四方にそれぞれ空洞部が形成される。そして、トンネルの掘削途中でトンネル掘削断面が変化した場合には、油圧シリンダ38を往復駆動してケース25と共にコーナーカッタ32を掘削機本体11の周方向に沿って移動することで、このコーナーカッタ32による掘削範囲が変化し、掘削断面が楕円形状となる空洞部を掘削する。
このようにシールド掘削機によって中央部のトンネル及び4つの空洞部を形成し、図7に示すように、この矩形断面のトンネルを連続して形成することで、リング状に形成する。このとき、シールド掘削機の掘削するトンネルの位置によってコーナーカッタ32を固定して円形断面の空洞部(例えばトンネルT_(4))を形成し、あるいは、コーナーカッタ32を移動して楕円形断面の空洞部(例えばトンネルT_(2) )を形成する。そして、隣接するトンネルT_(1) ,T_(2) ,T_(3) ,T_(4) ,T_(5) ・・・の間に形成された空洞部C及びセグメントと周囲の地盤との間の隙間Sに接合シール材を注入することで、各トンネルT_(1) ,T_(2) ,T_(3) ,T_(4) ,T_(5) ・・・のセグメント同士を強固に接合する。そして、このトンネルをリング状に形成してから内部の土砂を排出し、その後、各トンネルT_(1) ,T_(2) ,T_(3) ,T_(4) ,T_(5) ・・・の各内側の接触部分を切断除去することで、各トンネルを連通させ、大径のトンネルを形成する。」(段落【0031】?【0032】)
(オ)「なお、前述の実施例にあっては、油圧シリンダ38によってコーナーカッタ32を掘削機本体11の周方向に沿って移動することで、このコーナーカッタ32による掘削範囲を変化させ、楕円形断面の空洞部を掘削したが、図8に示すように、掘削機本体11の外周部に掘進方向にずれた2つのコーナーカッタ装置51,52を装着することで、楕円形断面の空洞部を掘削可能としてもよい。
このように本実施例のシールド掘削機にあっては、トンネルの掘削途中でトンネル掘削断面が変化した場合でも、コーナーカッタ装置24によって空洞部の掘削断面を変化させることで、1台のシールド掘削機によって変化するトンネル掘削断面に迅速に対応が可能となる。また、トンネルの掘削断面が異なる2つのトンネルもコーナーカッタ装置24によって空洞部の掘削断面を変化させることで、1台のシールド掘削機によって対応が可能となる。」(段落【0033】?【0034】)
これら(ア)?(オ)の記載を含む刊行物2全体の記載及び図面の記載並びに当業者の技術常識によれば、刊行物2には、以下のような発明が記載されているものと認められる。
「リング状に連続する複数の矩形断面の小径トンネルを掘削形成し、その後、内部の土砂を排出して大径トンネルを構築する際に用いられるトンネル掘削機であって、
四角い筒状をなす掘削機本体11と、該掘削機本体11の前部に回転自在に装着されたカッタヘッド13と、該カッタヘッド13を駆動する駆動モータ17と、前記掘削機本体11を前進させるシールドジャッキ21と、前記掘削機本体11の外周部に装着された複数のコーナーカッタ装置24と、前記掘削機本体11に対して前記コーナーカッタ32を周方向に沿って移動する油圧シリンダ38と、前記カッタヘッド13によって掘削された土砂や泥水等のずりを排出する送泥管19及び排泥管20とを具えると共に、
前記複数のコーナーカッタ装置24は、掘削途中でトンネル掘削断面が変化した場合に掘削機本体11の周方向に沿って移動することで、トンネル掘削断面の変化に迅速に対応することができるようになっているトンネル掘削機。」(以下、「刊行物2に記載の発明」という。)


【3】対比・判断
〔1〕本願発明と刊行物1に記載の発明との対比
本願発明と刊行物1に記載の発明とを対比すると、刊行物1に記載の発明の「外殻1」,「切羽側端部」,「掘進用カッター11」,「回転させる」,「駆動モータ16」,「シールド機(の外殻1)に推進力を与えるシールドジャッキ18」,「地盤改良用カッター12」,「外殻1に対して地盤改良用カッター12を着脱するための着脱手段」,「シールド機の掘進に必要な排土設備」,「シールド機」が、本願発明の「掘削機本体」,「前部」,「カッタヘッド」,「駆動する」,「カッタヘッド駆動手段」,「掘削機本体を前進させる推進手段」,「コーナーカッタ装置」,「コーナーカッタ着脱手段」,「カッタヘッドによって掘削された掘削物を排出する掘削物排出手段」,「トンネル掘削機」にそれぞれ相当し、
また、本願発明の「小型トンネル」と刊行物1に記載の発明の「トンネル」とが、ともに、「トンネル」である点で技術的に共通するから、両者は、
「四角い枠状に隣接する複数のトンネルを掘削形成する際に用いられるトンネル掘削機であって、
筒状の掘削機本体と、該掘削機本体の前部に回転自在に装着されたカッタヘッドと、該カッタヘッドを駆動するカッタヘッド駆動手段と、前記掘削機本体を前進させる推進手段と、前記掘削機本体に着脱自在に装着された複数のコーナーカッタ装置と、前記掘削機本体に対して前記コーナーカッタ装置を着脱するコーナーカッタ着脱手段と、前記カッタヘッドによって掘削された掘削物を排出する掘削物排出手段とを具えたトンネル掘削機。」の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
トンネル掘削機について、本願発明では、2つの縦坑間でトンネル掘削機を往復させ、四角い枠状に隣接する複数の小型トンネルを掘削形成し、その後、内部の土砂を排出して大型トンネルを構築する際に用いられるものであるのに対して、刊行物1に記載の発明では、トンネル掘削機(シールド機)が、四角い枠状に隣接する複数のトンネルを掘削形成する際に用いられるものの、2つの縦坑間で往復させて複数の小型トンネルを掘削形成し、その後、内部の土砂を排出して大型トンネルを構築する際に用いられるものであるのか定かでない点。
<相違点2>
複数のコーナーカッタ装置について、本願発明では、掘削機本体の外周部に装着されたものであり、また、それの交換が、掘削途中で少なくともその一部が小型トンネルの断面形状に応じてなされるものであるのに対して、刊行物1に記載の発明では、掘削機本体(外殻)の角部近傍に装着されたものであり、また、地盤改良ゾーンの大きさの変化に対応するためにその取付位置の変更や径の異なるカッターとの交換がなされるものの、それら取付位置の変更や径の異なるカッターとの交換が、掘削途中でなされるものであるのか定かでない点。

〔2〕相違点についての検討
<相違点1について>
刊行物1の上記(カ),(キ)の記載によれば、刊行物1に記載のシールド機(トンネル掘削機)による複数のトンネルの掘削形成は、先ず、先行シールド機によって先行トンネルを掘削形成すると共にトンネル間の接合部分に当たる地盤に地盤改良ゾーンを造成し、次に、後行シールド機によって後行トンネルを掘削形成すると共に先行シールド機によって造成した地盤改良ゾーンに新たな地盤改良ゾーンをラップして造成することで行うとの事項が開示されているのみであり、先行及び後行のシールド機が2つの縦坑間で往復させることや複数のトンネルを掘削形成した後に内部の土砂を排出して大型トンネルを構築することまでは開示されていない。
そこで、刊行物1に記載のシールド機と同一の技術分野に属する刊行物2に記載の発明をみると、当該発明は、「リング状に連続する複数の矩形断面の小径トンネルを掘削形成し、その後、内部の土砂を排出して大径トンネルを構築する際に用いられるトンネル掘削機」に係るものであるところ、当該発明の「リング状に連続する複数の矩形断面の小径トンネル」,「大径トンネル」が、本願発明の「四角い枠状に隣接する複数の小型トンネル」,「大型トンネル」にそれぞれ相当することは明らかであるから、刊行物2に記載の発明には、結局のところ、上記相違点1に係る本願発明の構成のうちの「四角い枠状に隣接する複数の小型トンネルを掘削形成し、その後、内部の土砂を排出して大型トンネルを構築する際に用いられるトンネル掘削機」との構成が開示されているものと云うことができる。
また、上記相違点1に係る本願発明の構成のうちの「2つの縦坑間でトンネル掘削機を往復させ」との構成については、大型トンネルを構築する際に、2つの縦坑間でトンネル掘削機を往復させて複数の小型トンネルを掘削形成し、その後、内部の土砂を排出して大型トンネルを構築することは、例えば、特開平4-309692号公報,特開平4-309694号公報に記載され、また、本願明細書の段落【0007】に、従来の技術に関して、「このようなシールド掘削機101を用いて大型トンネルを構築する場合、図8に示すように、所定距離をもった図示しない2つの縦坑間でこのシールド掘削機101を何回か往復することで、四角い枠状に隣接する複数の小型トンネルT_(1) ?T_(5) を掘削形成し、その後、内部の土砂Aを排出して大型トンネルを構築している。」と記載されていることからみて、当該技術分野において従来から周知の技術にすぎないものと云うことができる。
してみると、刊行物1に記載の発明に刊行物2に記載の発明の技術及び当該技術分野における周知の技術を適用して、本願発明の上記相違点1に係る構成を想到することは、当業者が格別の技術的困難性を要することなく容易になしえたものと云わざるをえない。
<相違点2について>
刊行物2に記載の発明をみると、当該発明は、「四角い筒状をなす掘削機本体11と、該掘削機本体11の前部に回転自在に装着されたカッタヘッド13と、該カッタヘッド13を駆動する駆動モータ17と、前記掘削機本体11を前進させるシールドジャッキ21と、前記掘削機本体11の外周部に装着された複数のコーナーカッタ装置24と、・・・前記カッタヘッド13によって掘削された土砂や泥水等のずりを排出する送泥管19及び排泥管20とを具えたトンネル掘削機」に係るものでもあるところ、当該発明の「四角い筒状をなす掘削機本体11」,「カッタヘッド13」,「駆動モータ17」,「シールドジャッキ21」,「コーナーカッタ装置24」,「土砂や泥水等のずり」,「送泥管19及び排泥管20」が、本願発明の「筒状の掘削機本体」,「カッタヘッド」,「カッタヘッド駆動手段」,「推進手段」,「コーナーカッタ装置」,「掘削物」,「掘削物排出手段」にそれぞれ相当することは明らかであるから、刊行物2に記載の発明には、結局のところ、「筒状の掘削機本体と、該掘削機本体の前部に回転自在に装着されたカッタヘッドと、該カッタヘッドを駆動するカッタヘッド駆動手段と、前記掘削機本体を前進させる推進手段と、前記掘削機本体の外周部に装着された複数のコーナーカッタ装置と、前記カッタヘッドによって掘削された掘削物を排出する掘削物排出手段とを具えるトンネル掘削機」との構成、即ち、複数のコーナーカッタ装置がコーナーカッタ着脱手段を介して掘削機本体に着脱自在に装着されたものではないものの、上記相違点2に係る本願発明の構成のうちの「掘削機本体の外周部に装着された複数のコーナーカッタ装置」との構成が開示されているものと云うことができる。
ところで、本願発明において、「複数のコーナーカッタ装置は、掘削途中で少なくともその一部が小型トンネルの断面形状に応じて交換される」との構成の意味は定かでないが、本願明細書の段落【0026】に、「・・・各シールド掘削機11,61にて、掘削機本体12,62に対して、第1、第2コーナーカッタ装置21,41,81,91がそれぞれ取付ボルトBの締緩によって着脱自在となっており、掘削途中で各コーナーカッタ装置21,41,81,91を交換することで、1台のシールド掘削機で異なる断面のトンネルを掘削できる。即ち、シールド掘削機11によって小型トンネルT_(4)を掘削することができ、シールド掘削機61によって小型トンネルT_(1)を掘削することができる。そして、シールド掘削機61において、第1、第2コーナーカッタ装置81,91を交換することで、小型トンネルT_(2) ,T_(3)を掘削することができる。」と記載されていることからみて、一つの小型トンネルの掘削後にこれに隣接する他の小型トンネルの掘削に移る際(即ち、シールド掘削機の往復移動の転換の際)において複数のコーナーカッタ装置が交換されるとの意味を持つものであると一応想定でき、これは、ひとえに、2つの縦坑間でシールド掘削機を往復させて異なる断面のトンネルを掘削することに由来するものと認められるが、上記<相違点1について>で述べたように、刊行物1に記載のシールド機において、刊行物2に記載の発明の技術及び当該技術分野における周知の技術を適用することで、「2つの縦坑間でトンネル掘削機を往復させ」との構成を含む上記相違点1に係る本願発明の構成を想到することが、当業者にとって容易になしえたものと云えることを考慮すると、刊行物1に記載のシールド機は、「複数の地盤改良用カッター12は、地盤改良ゾーンの大きさの変化に対応するためにその取付位置の変更や径の異なるカッターとの交換ができる」ものであって、「ライナー或いはセグメント間隔の変化や地盤改良ゾーンの大きさの変化に対応することができる」ことや「シールド機の施工誤差(上下蛇行、ローリング等)を吸収するための地盤改良ゾーンのラップ長を確実に確保できる」(刊行物1の上記(ク)の記載を参照。)ようにするものであり、刊行物1に記載のシールド機を往復移動させる際に、上記のような目的でカッターの交換が必要となるのであれば、周知の縦坑において交換しようとすることは、当業者が当然に行うことであると云えるから、上記相違点2に係る本願発明の構成のうちの「(複数のコーナーカッタ装置の交換が)掘削途中で少なくともその一部が小型トンネルの断面形状に応じてなされる」との構成は、刊行物1に記載の発明並びに刊行物2に記載の発明の技術及び当該技術分野における周知の技術から、当業者が容易に想到できたものと云うことができる。
尚、本願発明における、上記「複数のコーナーカッタ装置は、掘削途中で少なくともその一部が小型トンネルの断面形状に応じて交換される」との構成が、個々の小型トンネルの掘削途中において複数のコーナーカッタ装置が交換されるとの意味を持つものであるとしても、刊行物2に記載のトンネル掘削機は、「複数のコーナーカッタ装置24は、掘削途中でトンネル掘削断面が変化した場合に掘削機本体11の周方向に沿って移動することで、トンネル掘削断面の変化に迅速に対応することができるようになっている」ものであるから、上記相違点2に係る本願発明の構成のうちの「(複数のコーナーカッタ装置の交換が)掘削途中で少なくともその一部が小型トンネルの断面形状に応じてなされる」との構成は、刊行物1に記載の発明並びに刊行物2に記載の発明の技術及び当該技術分野における周知の技術から、当業者が容易に想到できたものと云うことができる。
してみると、刊行物1に記載の発明に刊行物2に記載の発明の技術及び当該技術分野における周知の技術を適用して、本願発明の上記相違点2に係る構成を想到することは、当業者が格別の技術的困難性を要することなく容易になしえたものと云わざるをえない。

〔3〕作用効果・判断
そして、本願発明の作用効果も、刊行物1に記載の発明並びに刊行物2に記載の発明の技術及び当該技術分野における周知の技術から当業者が予測できる範囲内のものであるから、本願発明は、刊行物1に記載の発明並びに刊行物2に記載の発明の技術及び当該技術分野における周知の技術から、当業者が容易に想到しえたものと云わざるをえない。


【4】むすび
以上のとおりであり、本願発明は、刊行物1に記載の発明並びに刊行物2に記載の発明の技術及び当該技術分野における周知の技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-12-10 
結審通知日 2007-12-11 
審決日 2007-12-26 
出願番号 特願平10-62648
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (E21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安藤 勝治峰 祐治  
特許庁審判長 伊波 猛
特許庁審判官 石井 哲
砂川 充
発明の名称 トンネル掘削機  
代理人 田中 康幸  
代理人 光石 忠敬  
代理人 光石 俊郎  

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