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審決分類 |
審判 一部無効 2項進歩性 G03B |
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管理番号 | 1176222 |
審判番号 | 無効2007-800182 |
総通号数 | 102 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-06-27 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2007-08-29 |
確定日 | 2008-04-18 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3850973号発明「主灯・増灯両用型の光感応ストロボ及び水中カメラとの光接続システム」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第3850973号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 平成10年 2月19日 特許出願(特願平10-37845号) 平成18年 7月28日 特許査定 平成18年 9月 8日 設定登録(特許第3850973号) 平成19年 8月29日 特許無効審判請求(無効2007-800182号) 平成19年11月16日 答弁書提出 平成20年 1月31日 口頭審理陳述要領書提出(請求人) 平成20年 1月31日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人) 平成20年 1月31日 口頭審理 第2.請求人の主張の概要及び提出した証拠 1.請求人の主張の概要 本件請求項1に係る発明は、甲第1号証および甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、本件特許は無効とすべきものである。 2.証拠方法 (1)甲第1号証: 特開平9-211566号公報 (2)甲第2号証: 特開昭55-36829号公報 第3.被請求人の主張の概要 本件特許発明は、甲第1号証発明および甲第2号証発明の組み合わせに対して進歩性を有する発明であるから、特許法第29条第2項の規定に該当せず、特許法第123条第1項第2号の規定に該当しない。 第4.当審の判断 1.本件発明 本件特許の請求項1に記載された発明(以下、「本件発明」という。)は、分説すると、次のとおりである。 「A.ストロボ外部に透光性防水窓、受光センサー、信号変換回路を備えた光信号入力部を持ち、 B.該光信号入力部は、光信号ケーブルとの接続時には、外界と遮断されてカメラからの発光開始信号、発光停止信号の制御信号を検知して、前記ストロボを主灯として、カメラの求める適正露光量となるように発光させ、また発光を停止させる機能をもち、 C.前記光信号ケーブルとの接続解放時には、外界から主灯ストロボ光の発光開始、発光停止を検知して、前記ストロボを増灯スレーブとして、主灯光、増灯光の総和がカメラの求める適正露光量となるように発光させ、また発光を停止させる機能をもっており、 D.水中撮影用ストロボとして主灯・増灯どちらの使用形態でも、カメラからの発光開始信号に呼応して発光開始し、カメラからの発光停止の信号に呼応して発光停止でき、 E.電気信号ケーブルで繁げなくても、カメラの求める適正露光量の発光が可能に構成された F.主灯・増灯両用型の光感応ストロボ。」 2.甲号証の記載内容 甲第1号証及び甲第2号証は以下のとおりである。 (1)甲第1号証について (ア)甲第1号証(特開平9-211566号公報)には、以下の事項が記載されている。 (i)【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、カメラシステムに関し、詳しくは、外部フラッシュを用いて撮影を行なうことができるカメラシステムに関する。 (ii)【0005】 【発明が解決しようとする課題】したがって、本発明の解決すべき技術的課題は、被写体からの反射を用いずに、カメラの内蔵フラッシュから外部フラッシュの受光部に制御信号を直接送るカメラシステムを提供することである。 (iii)【0037】このフラッシュ撮影システム1は、水中撮影システムであり、基本的には、図1の全体斜視図に示すように、内蔵フラッシュ12(不図示)を有するカメラ10(不図示)と、このカメラ10を密閉する水中ハウジング20と、カメラ10の内蔵フラッシュ12のフラッシュ光に連動して動作する外部フラッシュ50とを備える。 (iv)【0045】外部フラッシュ50は、図1に示すように、連結バー22によって、水中ハウジング20の片側に取り付けられ、水中ハウジング20すなわちカメラ10の斜め上方に位置するようになっている。外部フラッシュ50は、防水構造となっていて、その前面下部には受光部54を、その前面上部には発光部52を有する。外部フラッシュ50の受光部54は、水中ハウジング20の拡散ドーム34を障害なく見通せるように、水中ハウジング20に取り付けられている。 (v)【0047】カメラ10は、水中ハウジング20の前カバー30のカメラ取り付け台板38に固定され、前カバー30と後カバー40とが連結金具46a,46bで気密に結合されることによって、水中ハウジング20内に密閉収納される。フラッシュ撮影時には、カメラ10の内蔵フラッシュ12の発光部14が飛び出し、水中ハウジング20内の導光プリズム32の第1部分32aの入射面32xに対向する。水中ハウジング20のレリーズ操作ボタン36が操作されると、カメラ10のレリーズボタン16が押され、カメラ10の内蔵フラッシュ12が発光する。内蔵フラッシュ12のフラッシュ光は、水中ハウジング20の導光プリズム32によって、水中ハウジング20の拡散ドーム34に導かれ、拡散ドーム34の半球殻部34aを透過して、水中ハウジング20の外部8に進行する。このとき、フラッシュ光は拡散されて、広がる。外部に進行したフラッシュ光の一部は、外部フラッシュ50の受光部54に達する。外部フラッシュ50は、受光部54の受光に基づいて、発光部52が発光する。内蔵フラッシュ12の発光は、外部フラッシュ50の動作に対応して、その発光パターン、たとえば、発光および停止の繰り返し回数、発光および停止の各時間、発光の強弱等を、予め決めておく。 【0048】たとえば、外部フラッシュ50のフル発光によって撮影する場合には、上記のように、カメラ10の内蔵フラッシュ12の発光をトリガーとして、外部フラッシュ50がフル発光するようにする。 【0049】TTL制御によって撮影する場合には、カメラ10の内蔵フラッシュ12の発光に連動して外部フラッシュ50が発光するようにし、カメラ10が撮影レンズ18を通して十分な被写体光量を検知したときに、再び内蔵フラッシュ12が発光して、外部フラッシュ50の発光を停止させるようにする。あるいは、外部フラッシュ50を発光させる間はカメラ10の内蔵フラッシュ12が発光し続ける一方、内蔵フラッシュ12の発光停止に連動して外部フラッシュ50が発光停止するようにしてもよい。 (イ)そうすると、甲第1号証には、 「内蔵フラッシュ12と外部フラッシュ50と導光プリズム32・拡散ドーム34とを有する水中撮影システムであって、 外部フラッシュ50は、防水構造となっており、その前面下部に受光部54を有し、 また、外部フラッシュ50は、内蔵フラッシュ12のフラッシュ光に連動して発光すると共に、カメラ10が撮影レンズ18を通して十分な被写体光量を検知したときに内蔵フラッシュ12の発光停止に連動して発光を停止し、 導光プリズム32・拡散ドーム34を介して、内蔵フラッシュ12のフラッシュ光を外部フラッシュ50に導く水中撮影システム。」 (以下、「引用発明」という。)が開示されているものと認められる。 (2)甲第2号証について (ア)甲第2号証(特開昭55-36829号公報)には、以下の事項が記載されている。 (i)この発明は、シンクロコードを用いることなく、水中カメラと水中ストロボとを連結するようにした接続装置に関する。 (第1頁左欄第12行から第14行) (ii)第1図において、1は水中カメラ、2は水中ストロボ、3は接続用ライドガイドであり、水中カメラ1と水中ストロボ2とを接続する役をなす。 (第1頁右欄第15行から第18行) (iii)9は発光ダイオード(LED)等の発光素子で、カメラ側の窓ガラス7の背後に設けられ、シャッタのX接点に同調して発光する。10はフォトトランジスタ(PT)等の受光素子でストロボ側の窓ガラス7の背後に設けられ、上記発光素子9からの光を受光することによりトリガ回路をトリガしてストロボを発光させる。 (第2頁左上欄第11行から第17行) (iv)発光ダイオードLEDの発光をライトガイド3を通してフォトトランジスタPTが受光すると、電源E2より抵抗R2を通してフォトトランジスタPTに電流が流れるので、ストロボ発光回路のトランジスタTRがベース電位が下がってトランジスタTRがオンとなる。従って、抵抗R4に電流が流れ、コンデンサC1を通してサイリスタSCRのゲートにトリガがかかり、サイリスタSCRがオンとなる。それによって、充電状態にあるコンデンサC2が放電してトリガコイルLがトリガされ、ストロボ放電管Tuが発光する。 (第2頁右上欄第9行から第19行) (イ)また、明示的な記載はないものの、第1図および第2図などから、フォトトランジスタPTは、ライトガイド3を通して発光ダイオードLED9からの発光のみを受光するように構成され、外光からは遮断されているものと認められる。 (ウ)そうすると、甲第2号証には、 「水中カメラ1と水中ストロボ2とをライトガイド3により接続した接続装置であり、 水中カメラ1側には発光ダイオードLED9が、また、水中ストロボ2側にはフォトトランジスタPTが取り付けられ、 フォトトランジスタPTはライトガイド3を通して発光ダイオードLED9からの発光のみを受光するように構成され、 発光ダイオードLED9の発光をフォトトランジスタPTが受光することにより、水中ストロボ2が発光する接続装置。」 が開示されているものと認められる。 3.対比 (1)本件発明と引用発明とを対比する。 (a)本件発明の構成要件Aについて 引用発明においては「外部フラッシュ50」が本件発明の「(光感応)ストロボ」に相当する。そして、引用発明の「外部フラッシュ50」は、防水構造となっており、受光部54を有しており、また、受光部で受けた内部フラッシュ12のフラッシュ光に連動して発光するために光信号処理回路を有しているのは自明のことである。 以上より、引用発明の「外部フラッシュ50」は、本件発明と同様に、ストロボ外部に透光性防水窓、受光センサー、信号変換回路を備えた光信号入力部を持っていると認められる。 (b)本件発明の構成要件Bについて 引用発明は内蔵フラッシュ12と外部フラッシュ50とを光信号ケーブルにより接続するものではない。 したがって、引用発明は本件発明の構成要件Bを備えていない。 (c)本件発明の構成要件Cについて 引用発明では、導光プリズム32・拡散ドーム34を介して内蔵フラッシュ12のフラッシュ光が外部フラッシュ50に導かれる。そして、外部フラッシュ50は、前記フラッシュ光に応答して発光を開始し、また、十分な被写体光量を検知したときに、前記フラッシュ光に応答して発光を停止するものである。 そうすると、引用発明は、前記光信号ケーブルとの接続解放時には、外界からストロボ光の発光開始、発光停止を検知して、前記ストロボをカメラの求める適正露光量となるように発光させ、また発光を停止させる機能をもっている点で、本件発明と共通すると認められる。 (d)本件発明の構成要件Dについて 引用発明は水中撮影用ストロボである点で本件発明と共通し、また、引用発明は、内蔵フラッシュ12のフラッシュ光に連動して外部フラッシュ50を発光・停止させるものであるから、カメラからの発光開始信号に呼応して発光開始し、カメラからの発光停止の信号に呼応して発光停止できる点でも、本件発明と共通すると認められる。 (e)本件発明の構成要件Eについて 既に述べたことから明らかなように、引用発明は、本件発明と同様に、電気信号ケーブルで繁げなくても、カメラの求める適正露光量の発光が可能に構成されていると認められる。 (f)本件発明の構成要件Fについて 既に述べたことから明らかなように、引用発明は、光感応ストロボである点で、本件発明と共通すると認められる。 (2)以上をまとめると、本件発明と引用発明とは、 「A.ストロボ外部に透光性防水窓、受光センサー、信号変換回路を備えた光信号入力部を持ち、 C’.光信号ケーブルとの接続解放時には、外界からストロボ光の発光開始、発光停止を検知して、前記ストロボをカメラの求める適正露光量となるように発光させ、また発光を停止させる機能をもっており、 D’.水中撮影用ストロボとしてカメラからの発光開始信号に呼応して発光開始し、カメラからの発光停止の信号に呼応して発光停止でき、 E.電気信号ケーブルで繁げなくても、カメラの求める適正露光量の発光が可能に構成された F’.光感応ストロボ。」 である点で一致し、 (a)相違点1 光信号ケーブルとの接続解放時において、本件特許は、主灯ストロボ光の発光開始、発光停止を検知したときに、ストロボを増灯スレーブとして、主灯光、増灯光の総和がカメラの求める適正露光量となるように発光させ、また発光を停止させる機能をもっているのに対して、引用発明は、外部フラッシュ50の発光・発光停止を行わせる内蔵フラッシュ12が主灯ストロボとして機能しているのか否かが明確でなく、それに伴い、外部フラッシュ50が、増灯スレーブとして機能しているか否か、また、主灯光、増灯光の総和をカメラの求める適正露光量としているか否かも明確でない点、 (b)相違点2 本件特許は、光信号ケーブルとの接続時には、外界と遮断されてカメラからの発光開始信号、発光停止信号の制御信号を検知して、ストロボを主灯として、カメラの求める適正露光量となるように発光させ、また発光を停止させる機能をもち、それに伴い、ストロボが、主灯・増灯どちらの使用形態でも発光する、主灯・増灯両用型のものであるのに対して、引用発明は、光信号ケーブルを用いておらず、ストロボが主灯・増灯両用型のものでない点、 において両者は相違する。 4.判断 (1)相違点1について (ア)内蔵フラッシュ12が主灯ストロボにあたるかについて (a)「ストロボ」とは、そこから発せられた光が被写体に照射し、その反射光がカメラの撮影レンズに到達することによって、はじめてストロボとしての機能を果たすものであるが、「主灯(ストロボ)」とは、ストロボのうち、カメラからの制御信号により発光を開始し、また発光を停止する外部ストロボ(フラッシュ)であり、「増灯(ストロボ)」とは、ストロボのうち、主灯とは別に設けられる外部ストロボであり、主灯の発光に応じて発光を開始し、主灯の発光停止に応じて発光を停止する外部ストロボ(フラッシュ)であることは、被請求人が主張するとおりであり、これとは異なる事情があるとも認められない。 (b)この点に関して、請求人および被請求人は口頭審理において以下の旨を主張している。 (i)請求人の主張 引用発明の「内蔵フラッシュ12」および「外部フラッシュ50」が、それぞれ本件発明の「主灯(ストロボ)」および「増灯(ストロボ)」に対応する。 (ii)被請求人の主張 引用発明の「外部フラッシュ50」が本件発明の「主灯(ストロボ)」に対応する(言い換えれば、引用発明の「内蔵フラッシュ12」はストロボとして機能していない)。 (c)上記の点をも踏まえて、引用発明を検討すると、甲第1号証には内蔵フラッシュ12からのフラッシュ光が被写体に向けてどのように照射されるかに関連して、以下のような記載がある。 (i)【0008】上記構成において、撮影時には、カメラの内蔵フラッシュが発光する。内蔵フラッシュ光案内手段は、通常は撮影領域に向けて発光されるカメラの内蔵フラッシュのフラッシュ光の少なくとも一部について、その照射方向を変え、カメラの撮影領域の外側に配置された外部フラッシュの受光部に略向ける。つまり、カメラの内蔵フラッシュのフラッシュ光の少なくとも一部は、略外部フラッシュに向けて発光される。 つまり、外部フラッシュは、カメラの内蔵フラッシュからのフラッシュ光を制御信号として受光すると、発光する。外部フラッシュの受光部は、カメラの内蔵フラッシュのフラッシュ光が被写体に当たって反射した反射光ではなく、内蔵フラッシュからのフラッシュ光を直接受光する。 【0009】したがって、このカメラシステムは、被写体からの反射を用いずに、カメラの内蔵フラッシュから外部フラッシュの受光部に制御信号としてのフラッシュ光を直接送ることができる。このカメラシステムでは、制御信号として用いるフラッシュ光は被写体を介さずに直接に外部フラッシュに伝達され、伝達される距離が短くなるので、光の減衰が大きい水中であっても十分に使用できる。 【0010】上記構成において、内蔵フラッシュのフラッシュ光の少なくとも一部分が略外部フラッシュに向けて発光されれば十分であり、内蔵フラッシュのフラッシュ光の他の部分がカメラの撮影領域内に発光されても差し支えない。 (ii)【0047】内蔵フラッシュ12のフラッシュ光は、水中ハウジング20の導光プリズム32によって、水中ハウジング20の拡散ドーム34に導かれ、拡散ドーム34の半球殻部34aを透過して、水中ハウジング20の外部8に進行する。このとき、フラッシュ光は拡散されて、広がる。外部に進行したフラッシュ光の一部は、外部フラッシュ50の受光部54に達する。 (iii)【0052】上記構成において、水中ハウジング20の拡散ドーム34によって、カメラ10の内蔵フラッシュ12からのフラッシュ光は外部8に出射されるとき広がるので、カメラ10の内蔵フラッシュ12からのフラッシュ光が達する領域は広くなる。そのため、外部フラッシュ50を配置することができる領域が広くなる。 (d)以上の記載から、(i)内蔵フラッシュ12のフラッシュ光の少なくとも一部は外部フラッシュ50に向けて発光されること、および、(ii)前記フラッシュ光の他の部分がカメラの撮影領域内に発光されても差し支えないこと、言い換えれば、前記フラッシュ光が被写体に照射されてもよいこと、は認めることができる。 しかし、引用発明において、(i)前記フラッシュ光がストロボとして用いられている、すなわち、被写体に照射された前記フラッシュ光が反射されてカメラの撮影レンズに入射されるように構成されているか、あるいは、(ii)前記フラッシュ光はストロボとして用いられていない、すなわち、被写体を反射した前記フラッシュ光はカメラの撮影レンズに入射されないように構成されているか、については、そのいずれかであることは自明であるものの、いずれの構成を採用したとしても水中撮影システムとしては成立するものであり、そのうちのどちらであるかが明確ではない。 (e)しかし、甲第1号証には、従来の技術に関する記載として、以下の記載がある。 【0002】 【従来の技術】従来、地上の撮影においては内蔵フラッシュの発光を外部フラッシュの制御信号として用いたワイヤレスフラッシュシステムがある。これは、内蔵フラッシュからの制御信号として発光した光を一旦被写体に当てて、その反射光を外部フラッシュが受光して外部フラッシュの発光の開始停止を行うものである。ここで、内蔵フラッシュは、被写体の範囲を照射するように照射角が設定されており、外部フラッシュも被写体の方向からの光を受光するように受光部の指向性が設定されている。この内蔵フラッシュの発光光のうち、実際の制御に使用する成分は、赤外光である。 (f)上記の従来の技術を参酌すると、内蔵フラッシュと外部フラッシュとを有するワイヤレスフラッシュシステムにおいては、一般に、内蔵フラッシュからの発光光は被写体に当たり、その反射光を外部フラッシュが検知できるほどの強度を有するものであったと認めることができる。 そして、ワイヤレスフラッシュシステムにおける内蔵フラッシュの発光光がそのような強度を有することを勘案すれば、内蔵フラッシュから発光して被写体に当たった反射光は、一般に、撮影レンズにも導入されていると解するのが相当であり、また、特に、前記反射光が撮影レンズに入射しないように構成する技術的な必然性があったとも認められない。 してみれば、引用発明における内蔵フラッシュ12についても、それをストロボとして構成することは当業者であれば容易に想到できたといえる。そして、内蔵フラッシュ12は、ストロボとした場合には、その発光に連動させて外部フラッシュ50を発光させるのであるから、主灯(ストロボ)となるのは自明である。 (イ)外部フラッシュ50が主灯・増灯のいずれであるかについて 前記(ア)で検討したように、引用発明における内蔵フラッシュ12を主灯として構成することは容易に想到できたものである。 そして、引用発明における外部フラッシュ50は、内蔵フラッシュ12の発光に連動して発光するものであるから、それに応じて、「増灯」となるのは自明である。 (ウ)主灯光、増灯光の総和をカメラの求める適正露光量とすることについて 引用発明は、「2.(1)(イ)」のとおり、「外部フラッシュ50は、…カメラ10が撮影レンズ18を通して十分な被写体光量を検知したときに内蔵フラッシュ12の発光停止に連動して発光を停止」するものである。 したがって、前記(ア)で検討したように、引用発明における内蔵フラッシュ12をストロボとして構成した場合には、内蔵フラッシュ12(「主灯」に相当)と外部フラッシュ50(「増灯」に相当)とから照射される被写体光量が十分になったとき、すなわち、主灯光、増灯光の総和がカメラの求める適正露光量となるように制御することは、当業者が容易に想到できたことである。 (エ)以上をまとめると、引用発明において、相違点1に係る本件発明の構成要件のように、主灯ストロボ光の発光開始、発光停止を検知したときに、ストロボを増灯スレーブとして、主灯光、増灯光の総和がカメラの求める適正露光量となるように発光させ、また発光を停止させることは、当業者であれば甲第1号証および甲第2号証に記載された事項から容易に想到できたといえる。 (2)相違点2について (ア)甲第1号証に記載された従来の技術ついて 甲第1号証には、従来の技術として、以下の事項が記載されている。 (i)【0002】 【従来の技術】従来、地上の撮影においては内蔵フラッシュの発光を外部フラッシュの制御信号として用いたワイヤレスフラッシュシステムがある。これは、内蔵フラッシュからの制御信号として発光した光を一旦被写体に当てて、その反射光を外部フラッシュが受光して外部フラッシュの発光の開始停止を行うものである。ここで、内蔵フラッシュは、被写体の範囲を照射するように照射角が設定されており、外部フラッシュも被写体の方向からの光を受光するように受光部の指向性が設定されている。この内蔵フラッシュの発光光のうち、実際の制御に使用する成分は、赤外光である。 【0003】ところが、水中においてはこの制御に使用する赤外光の吸収が非常に大きく、被写体に当たって反射する間に制御に使用する赤外光が大きく減衰し外部フラッシュの受光部に届かず制御ができなくなる。 【0004】したがって、上記方式のワイヤレス制御は、内蔵フラッシュを有するカメラと外部フラッシュとをそれぞれ水中ハウジングに入れて水中で使用できるようにしたとしても、極めて狭い範囲や限られた条件下でしか使用できない。そのために、水中で使用する場合には、一般には、カメラと外部フラッシュとをケーブルで結び、制御信号を伝達できるようにしている。 (ii)以上の従来の技術を勘案すると、内蔵フラッシュと外部フラッシュとを有する水中撮影システムにおいては、従来から、内蔵フラッシュからの制御信号を確実に伝達するために、内蔵フラッシュと外部フラッシュとをケーブルで接続していたのが通常であったと認められる。 (イ)(i)また、甲第2号証には、上記「2.(2)(ウ)」のとおり、 「水中カメラ1と水中ストロボ2とをライトガイド3により接続した接続装置であり、 水中カメラ1側には発光ダイオードLED9が、また、水中ストロボ2側にはフォトトランジスタPTが取り付けられ、 フォトトランジスタPTはライトガイド3を通して発光ダイオードLED9からの発光のみを受光するように構成され、 発光ダイオードLED9の発光をフォトトランジスタPTが受光することにより、水中ストロボ2が発光する接続装置。」 が開示されている。 (ii)上記甲第2号証の接続装置は、水中ストロボ2を主灯として用いたものであり、ライトガイド3を通して発光ダイオードLED9からの光信号をフォトトランジスタPTに導くともに、フォトトランジスタPTへ外光が混入しないように構成したものである。 (ウ)以上を勘案すると、内蔵フラッシュと外部フラッシュとを有する水中撮影システムにおいては、(i)内蔵フラッシュと外部フラッシュとを接続するケーブルとして光信号ケーブルを使うこと、(ii)外部フラッシュを、外光から遮断するとともに、内蔵フラッシュからの制御信号に応じて主灯として用いることも、本件特許の出願時においては周知の事項(以下、(i)および(ii)をまとめて、「周知技術」ともいう。)であったことが認められる。 (エ)引用発明に前記周知技術を適用することの動機付けについて (i)甲第1号証には、上記「(ア)(1)」で摘記した従来の技術に関する記載に引き続いて、以下の記載がある。 「しかし、制御信号を伝達するケーブルがあると、ケーブルの取り回しが面倒である。また、ケーブルがあると、ケーブルの接続部分に水が入る可能性がある。また、ダイバーが装着する潜水用の装備にケーブルが絡むことがあり危険である。 【発明が解決しようとする課題】したがって、本発明の解決すべき技術的課題は、被写体からの反射を用いずに、カメラの内蔵フラッシュから外部フラッシュの受光部に制御信号を直接送るカメラシステムを提供することである。」 また、発明の作用・効果に関する事項として、以下の記載がある。 「【0051】…すなわち、上記構成によれば、大きな発光量の外部フラッシュ50を用いて容易に撮影することができ、かつ、外部フラッシュ50とカメラ10との間をケーブルで接続する必要がないので、面倒なケーブルの取り回しが不要となる。このことは、水中での安全の見地からも好ましい。」 (ii)してみれば、引用発明の発明者は、水中での内蔵フラッシュから外部フラッシュへの光制御信号の伝達は減衰が大きいものの、水中におけるケーブルの取り回しの面倒等を考慮して、ケーブルを用いなくても、内蔵フラッシュから外部フラッシュへの制御信号の伝達性能を向上させることを課題として、引用発明を考案したものと認められる。 (iii)この点について被請求人は、引用発明は、カメラと外部フラッシュとを結ぶ水中カメラシステムにおいて、ケーブルを用いることによる不具合(ケーブルの取り回しが面倒、ケーブルの接続部分に水が入る可能性、ダイバーが装着する潜水用の装備にケーブルが絡むことがあり危険)を解消することを主たる技術的目的とするものであるから、引用発明において、カメラと外部フラッシュとを光信号ケーブルで結ぶことは、同発明の技術的課題に反することになる旨の主張をしている。 (iv)しかしながら、進歩性を検討するにあたり判断主体の基準となるのは、引用発明における現実の発明者ではなく、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(いわゆる、「当業者」)である。 そして、引用発明に接した当業者であれば、引用発明は、カメラシステムの操作性に関しては、外部フラッシュの制御にケーブルを用いていないため、前記周知の光信号ケーブルで接続したカメラシステムに比べて、優れていること、一方、引用発明は、制御信号の伝達性能に関しては、従来のワイヤレスフラッシュシステムに比べては優れているものの、前記周知の光信号ケーブルで接続したカメラシステムには及ばないこと、などは容易に認識できたであろうと認めることができる。 したがって、当業者であれば、ケーブルを用いないようにした引用発明においても、水中撮影の現場において制御信号の伝達が不完全・不十分な場面に遭遇した場合など、状況によっては、カメラシステムの操作性よりも、制御信号の伝達の確実性を考慮して、前記周知の光信号ケーブルで接続したシステムを併用する動機付けは、依然として存在していたものと認めるのが相当である。 (オ)引用発明に前記周知技術を適用することの困難性について (i)カメラと外部フラッシュとを光信号ケーブルにより接続することは、甲第2号証にも開示されているように、本件特許の出願時以前より行われてきたものと認められ、そのこと自体に技術的な困難性はないものである。 (ii)また、カメラと外部フラッシュとを接続するケーブルを接続・開放できるように構成する点については、例えば、水中撮影システムにおける技術常識について検討するためにここで参酌する、「水中写真マニュアル」、小林安雅著、 東海大学出版会、1988年7月10日発行、にも、以下の事項が記載されている。 「スレーブ発光機能 スレーブ発光機能を内蔵しているストロボは、メインストロボの発光を感じてコードレスで同調発光することができる。多灯ライティングのときに大変便利な機能だ。 これらの性能以外にも、ニコノスVのTTL自動調光に対応できるかどうか、寸法や重量はどうか、そして価格の問題もある。 またコネクターの形式も数種類あり、カメラに合うものを選ばなければならない。シー&シー製のスーパーコードは水中着脱が可能なため、カメラ2台にストロボを1台もってゆき、水中でつなぎかえて使うことができる便利なものだ。 そして、実際の撮影では、カメラにストロボを付けるためのステイ、アーム、ブラケットなどが、ライティングをするのに使い勝手がよいかどうかも大切である。」 (第40頁から第41頁) 以上の記載から、実際の水中撮影システムにおいて、カメラと外部フラッシュとのケーブル接続を水中で繋ぎかえることも、状況に応じて、本件特許の出願時において普通に行われていたことが認められる。 (iii)実際に、本件特許の明細書および図面を参酌しても、外部フラッシュの機能が切り換えをするために、特別な技術的手段が採用されているとも認められない。 (iv)そうすると、引用発明においても、内蔵フラッシュ12と外部フラッシュ50との間をケーブル接続に切り換え可能な構成とすることは、技術的には格別に高度のものを要することではない。 (カ)(i)なお、被請求人は、状況に応じて、外部フラッシュを、ワイヤレスで使用する場合と、光信号ケーブルで接続する場合とで使い分けたとしても、いずれの場合も外部フラッシュは主灯としての使用になるから、本件発明とは何ら関係がない旨を主張している。 (ii)しかし、外部フラッシュをワイヤレスで使用する場合は、既に「(1)」で述べたように、内蔵フラッシュを主灯とし、外部フラッシュを増灯とするのは、容易に想到できたことである。 また、外部フラッシュを光信号ケーブルで接続する場合には、内蔵フラッシュからのフラッシュ光が信号ノイズとして外部フラッシュに混入しないようにする必要性などがあるため、外部フラッシュに光信号ケーブルからの制御信号以外の外光が入らないように、また、それに伴って、外部フラッシュを主灯として構成するのは、当業者であれば当然に考えたであろうと推認するのが相当である。 (iii)そして、そのように外部フラッシュの機能が切り換えられるように、カメラシステムを構成することは、技術的には格別に高度のものではないことは、(オ)で述べたとおりである。 (キ)以上の事情を総合的に勘案すると、引用発明に、相違点2に係る本件発明の構成要件のように、前記周知の光信号ケーブルで接続したシステムを併用したシステムを構成することには動機付けがあり、適用困難性もなく、さらに、光信号ケーブルとの接続時には、外界と遮断されてカメラからの発光開始信号、発光停止信号の制御信号を検知して、ストロボを主灯として、カメラの求める適正露光量となるように発光させ、また発光を停止させる機能をもたせ、それに伴い、ストロボを、主灯・増灯どちらの使用形態でも発光する、主灯・増灯両用型のもので構成することは当業者にとって格別に困難な事情があったとはいえない。 (3)また、本件発明の作用効果についても、水中カメラに用いられる光感応ストロボという本件発明の技術の性質上、発明の構成自体から当然に予測される範囲のものであり、この点で進歩性があるということもできない。 5.小括 そうすると、本件発明は、甲第1号証および甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 第5.むすび 以上のとおりであるから、本件発明についての特許は、特許法第29条第2項に規定する要件を満たさないから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第162条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものである。 |
審理終結日 | 2008-02-21 |
結審通知日 | 2008-02-25 |
審決日 | 2008-03-07 |
出願番号 | 特願平10-37845 |
審決分類 |
P
1
123・
121-
Z
(G03B)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 越河 勉 |
特許庁審判長 |
末政 清滋 |
特許庁審判官 |
辻 徹二 濱田 聖司 |
登録日 | 2006-09-08 |
登録番号 | 特許第3850973号(P3850973) |
発明の名称 | 主灯・増灯両用型の光感応ストロボ及び水中カメラとの光接続システム |
代理人 | 山本 輝美 |
代理人 | 有賀 信勇 |
代理人 | 有賀 信勇 |
代理人 | 西澤 利夫 |
代理人 | 西澤 利夫 |
代理人 | 大菅 義之 |