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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1177015
審判番号 不服2005-18879  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-09-29 
確定日 2008-05-01 
事件の表示 平成11年特許願第 45424号「熱電素子チップ作成用形材の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 9月 8日出願公開、特開2000-244025〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成11年2月23日の出願であって、平成17年8月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月29日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けと同年10月31日付けで手続補正がなされ、その後、当審において、平成19年5月11日付けで審尋がなされ、同年7月17日に回答書が提出されたものである。


第2 平成17年9月29日付けと同年10月31日付けの手続補正について
1-1 平成17年9月29日付けの手続補正の内容
平成17年9月29日付けの手続補正(以下、「本件第1補正」という。)は、特許請求の範囲を補正するものであって、以下のとおりである。
補正事項a
本件第1補正前の請求項1ないし4を削除したこと。
補正事項b
本件第1補正前の請求項5の「【請求項5】 多段にわたる成形加工の途中にアニール処理を行うことを特徴とする請求項1?4のいずれかの項に記載の熱電素子チップ作成用形材の製造方法。」のうちの請求項1を引用する部分を、独立請求項として請求項1に繰り上げ、
「【請求項1】 結晶性熱電素子材料を粉砕して得られた熱電素子材料粉末をカプセルに充填密封して成形加工を行い、得られたシース付きの棒材を焼結してシース部金属を除去することで熱電素子チップを切り出すための形材を製造するにあたり、半径方向に外力を加えることで縮径させる成形加工を多段階で行って順次小径化していくとともに、多段にわたる成形加工の途中にアニール処理を行うことを特徴とする熱電素子チップ作成用形材の製造方法。」と補正したこと。
補正事項c
本件第1補正前の請求項5の「【請求項5】 多段にわたる成形加工の途中にアニール処理を行うことを特徴とする請求項1?4のいずれかの項に記載の熱電素子チップ作成用形材の製造方法。」のうちの請求項2?4のいずれかの項を引用する部分を、それぞれ本件第1補正後の請求項1を引用する請求項2?4とし、
「【請求項2】 成形加工として、スウェージング加工を行うことを特徴とする請求項1記載の熱電素子チップ作成用形材の製造方法。
【請求項3】 成形加工として、ロール圧延加工を行うことを特徴とする請求項1記載の熱電素子チップ作成用形材の製造方法。
【請求項4】 成形加工として、ドローイング加工を行うことを特徴とする請求項1記載の熱電素子チップ作成用形材の製造方法。」と補正したこと。
補正事項d
本件第1補正前の請求項6の「【請求項6】 焼結を加圧焼結で行うことを特徴とする請求項1?5のいずれかの項に記載の熱電素子チップ作成用形材の製造方法。」を、請求項5に繰り上げ、引用する請求項を本件第1補正後の請求項1?4のいずれか1項とし、
「【請求項5】 焼結を加圧焼結で行うことを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の熱電素子チップ作成用形材の製造方法。」と補正したこと。

1-2 本件第1補正の補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無についての検討
以下、補正事項aないしdについて検討する。
1-2-1 補正事項aについて
補正事項aについての補正は、本件第1補正前の請求項1ないし4を削除したものであり、請求項の削除を目的とするものに該当するので、補正事項aについての補正は、特許法第17条の2第4項第1号に規定する要件を満たす。
1-2-2 補正事項bについて
補正事項bについての補正は、本件第1補正前の請求項5の請求項1を引用する部分を、請求項1に繰り上げて、独立請求項に補正したものである。
したがって、補正事項bについての補正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当するので、補正事項bについての補正は、特許法第17条の2第4項第4号に規定する要件を満たす。
また、補正事項bについての補正は、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであるので、補正事項bについての補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。
1-2-3 補正事項cについて
補正事項cについての補正は、補正事項bについての補正を行うことに伴い、本件第1補正前の請求項5が請求項2?4を引用する部分を、実質的に内容を変更せずに、本件第1補正後の請求項1を引用するように改めたものである。
したがって、補正事項cについての補正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当するので、補正事項cについての補正は、特許法第17条の2第4項第4号に規定する要件を満たす。
また、補正事項cについての補正は、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであるので、補正事項cについての補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。
1-2-4 補正事項dについて
補正事項dについての補正は、本件第1補正前の請求項6を請求項5に繰り上げたことにより、請求項の引用について、本件第1補正前の「請求項1?5のいずれかの項に記載の」を、本件第1補正後の「請求項1?4のいずれか1項に記載の」と補正したものである。
したがって、補正事項dについての補正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当するので、補正事項dについての補正は、特許法第17条の2第4項第4号に規定する要件を満たす。
また、補正事項dについての補正は、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであるので、補正事項dについての補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

1-3 本件第1補正の検討のむすび
以上のとおり、本件第1補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たし、また、同法第17条の2第4項第1号及び第4号に規定する要件をも満たす。

2-1 平成17年10月31日付けの手続補正の内容
平成17年10月31日付けの手続補正(以下、「本件第2補正」という。)は、明細書の発明の詳細な説明を補正するものであって、以下のとおりである。
補正事項e
本件第2補正前の【0006】段落の「【0006】
【課題を解決するための手段】
しかして本発明は、結晶性熱電素子材料を粉砕して得られた熱電素子材料粉末をカプセルに充填密封して成形加工を行い、得られたシース付きの棒材を焼結してシース部金属を除去することで熱電素子チップを切り出すための形材を製造するにあたり、半径方向に外力を加えることで縮径させる成形加工を多段階で行って順次小径化していくことに特徴を有している。一段の成形加工の加工比を低くすることができるために、加工時の変形抵抗を低減させることができ、最終的な加工比を高くすることができる。また、熱電材料が十分な延性を示す高温化で加工を行う必要がない。」を、
「【0006】
【課題を解決するための手段】
しかして本発明は、結晶性熱電素子材料を粉砕して得られた熱電素子材料粉末をカプセルに充填密封して成形加工を行い、得られたシース付きの棒材を焼結してシース部金属を除去することで熱電素子チップを切り出すための形材を製造するにあたり、半径方向に外力を加えることで縮径させる成形加工を多段階で行って順次小径化していくとともに、多段にわたる成形加工の途中にアニール処理を行うことに特徴を有している。一段の成形加工の加工比を低くすることができるために、加工時の変形抵抗を低減させることができ、最終的な加工比を高くすることができる。また、熱電材料が十分な延性を示す高温化で加工を行う必要がない。しかも多段にわたる成形加工の途中にアニール処理を行うために、加工硬化を低減することができ、最終的な加工比を高くすることができる。」と補正したこと。
補正事項f
本件第2補正前の【0008】、【0025】段落の記載内容を削除し、本件第2補正前の【0009】?【0022】段落の記載内容を、段落番号を1段落ずつ繰り上げて、それぞれ【0008】?【0021】段落の記載内容とし、本件第2補正前の【0024】、【0026】段落の記載内容を、【0023】、【0024】段落の記載内容とし、本件第2補正前の【0025】、【0026】段落の段落番号を削除したこと。
補正事項g
本件第2補正前の【0023】段落の「【0023】
【発明の効果】
以上のように本発明においては、結晶性熱電素子材料を粉砕して得られた熱電素子材料粉末をカプセルに充填密封して成形加工を行い、得られたシース付きの棒材を焼結してシース部金属を除去することで熱電素子チップを切り出すための形材を製造するにあたり、半径方向に外力を加えることで縮径させる成形加工を多段階で行って順次小径化していくために、一段の成形加工の加工比を低くすることができて加工時の変形抵抗を低減させることができ、これに伴ってシース破砕を招くことなく最終的な加工比を高くすることができるものであり、小径化を容易に且つ確実に図ることができ、歩留まりを向上させることができる。また、熱電材料が十分な延性を示す高温化で加工を行う必要がないために、製造も容易となる。」を、繰り上げて【0022】段落とし、
「【0022】
【発明の効果】
以上のように本発明においては、結晶性熱電素子材料を粉砕して得られた熱電素子材料粉末をカプセルに充填密封して成形加工を行い、得られたシース付きの棒材を焼結してシース部金属を除去することで熱電素子チップを切り出すための形材を製造するにあたり、半径方向に外力を加えることで縮径させる成形加工を多段階で行って順次小径化していくために、一段の成形加工の加工比を低くすることができて加工時の変形抵抗を低減させることができ、これに伴ってシース破砕を招くことなく最終的な加工比を高くすることができるものであり、小径化を容易に且つ確実に図ることができ、歩留まりを向上させることができる。また、熱電材料が十分な延性を示す高温化で加工を行う必要がないために、製造も容易となる。しかも、多段にわたる成形加工の途中にアニール処理を行うことから、加工硬化を低減することができて、最終的な加工比を高くすることができ、小径化をさらに図ることができる。」と補正したこと。

2-2 本件第2補正の補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無についての検討
以下、補正事項eないしgについて検討するが、補正事項eないしgは、明細書の発明の詳細な説明の補正であるので、補正の目的の適否についての検討は、要しない。
2-2-1 補正事項eについて
補正事項eについての補正は、本件第2補正前の【0006】段落の「半径方向に外力を加えることで縮径させる成形加工を多段階で行って順次小径化していくことに特徴を有している。」を、「半径方向に外力を加えることで縮径させる成形加工を多段階で行って順次小径化していくとともに、多段にわたる成形加工の途中にアニール処理を行うことに特徴を有している。」と補正し、本件第2補正前の「また、熱電材料が十分な延性を示す高温化で加工を行う必要がない。」の後に、「しかも多段にわたる成形加工の途中にアニール処理を行うために、加工硬化を低減することができ、最終的な加工比を高くすることができる。」を加える補正をしたものである。
そして、これらの補正は、本件第2補正前の【0008】段落の「また、多段にわたる成形加工の途中にアニール処理を行うと、加工硬化を低減することができるために、最終的な加工比を高くすることができる。」という記載を根拠とするものである。
したがって、補正事項eについての補正は、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、補正事項eについての補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。
2-2-2 補正事項fについて
補正事項fについての補正は、本件第2補正前の【0008】、【0025】段落の記載内容を削除した補正であり、その他の補正は、段落番号を変更、又は削除する補正であるから、補正事項fについての補正は、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
したがって、補正事項fについての補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。
2-2-3 補正事項gについて
補正事項gについての補正は、本件第2補正前の【0023】段落の「また、熱電材料が十分な延性を示す高温化で加工を行う必要がないために、製造も容易となる。」の後に、「しかも、多段にわたる成形加工の途中にアニール処理を行うことから、加工硬化を低減することができて、最終的な加工比を高くすることができ、小径化をさらに図ることができる。」を加える補正である。
そして、この補正は、本件第2補正前の【0025】段落の「また、多段にわたる成形加工の途中にアニール処理を行うと、加工硬化を低減することができるために、最終的な加工比を高くすることができ、小径化をさらに図ることができる。」という記載を根拠とするものである。
したがって、補正事項gについての補正は、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、補正事項gについての補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

2-3 本件第2補正の検討のむすび
以上のとおり、本件第2補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。


第3 本願発明について
平成17年9月29日付けの手続補正、及び、同年10月31日付けの手続補正は、上記「第2」で検討したとおり適法であるので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成17年10月31日付けの手続補正書の特許請求の範囲に記載された事項により特定されるものであるところ、本願の請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。
「【請求項1】 結晶性熱電素子材料を粉砕して得られた熱電素子材料粉末をカプセルに充填密封して成形加工を行い、得られたシース付きの棒材を焼結してシース部金属を除去することで熱電素子チップを切り出すための形材を製造するにあたり、半径方向に外力を加えることで縮径させる成形加工を多段階で行って順次小径化していくとともに、多段にわたる成形加工の途中にアニール処理を行うことを特徴とする熱電素子チップ作成用形材の製造方法。」

1 引用刊行物及び該引用刊行物記載の発明
刊行物1.特開平9-321357号公報(原審拒絶理由通知の引用文献1)
刊行物2.特開昭52-29407号公報(原審拒絶理由通知の引用文献3)

本願の出願前日本国内において頒布された刊行物1(特開平9-321357号公報)には、図1?図9とともに、
「熱電素子チップ作製用形材の製造方法」(発明の名称)に関して、
「【特許請求の範囲】
【請求項1】熱電素子チップを切り出すための形材の製造方法であって、結晶性熱電素子材料インゴットを粉砕して得られた熱電素子材料粉末を押し出し加工して所望の形状の形材に成形することを特徴とする熱電素子チップ作製用形材の製造方法。
【請求項2】前記粉末をシース材となるカプセル内に充填して押し出し加工する、請求項1に記載の熱電素子チップ作製用形材の製造方法。
【請求項3】前記カプセルが金属製のものである、請求項2に記載の熱電素子チップ作製用形材の製造方法。
【請求項4】前記カプセルが化学処理によって除去できるものである、請求項3に記載の熱電素子チップ作製用形材の製造方法。」
「【請求項10】前記押し出し加工を温熱加熱下で行う、請求項1から9までのいずれかに記載の熱電素子チップ作製用形材の製造方法。」
「【請求項12】前記押し出し加工で得られた押し出し材を加熱加圧して前記熱電素子材料粉末を焼結体にする、請求項1から11までのいずれかに記載の熱電素子チップ作製用形材の製造方法。」
「【請求項15】前記加熱を前記押し出し加工で得られた押し出し材にシース材が付いている状態で行う、請求項8から13までのいずれかに記載の熱電素子チップ作製用形材の製造方法。
【請求項16】前記形材の形状が棒状である、請求項1から15までのいずれかに記載の熱電素子チップ作製用形材の製造方法。」(特許請求の範囲請求項1ないし4、10、12、15、16)
「【0009】本発明に係る熱電素子チップ作製用形材の製造方法は、以上に述べた経過を経て完成されたものであって、熱電素子チップを切り出すための形材の製造方法であって、結晶性熱電素子材料インゴットを粉砕して得られた熱電素子材料粉末を押し出し加工して所望の形状の形材に成形することを特徴とする。ここで、形材とは、前記棒材となる押し出し加工品をいう。その形状は任意であり限定されず、たとえば、直ちにチップ化できる棒状であることが最も好ましいが、たとえば、板状等であってそれを裁断することによって棒状とするものも含む。」
「【0012】本発明の実施に当たっては、押し出し制御を容易にするため、前記粉末をシース材となるカプセル内に充填したビレットの形で押し出し加工することが好ましい。このビレット化に際しても熱電素子材料の酸化を防止する工夫をするのが良い。前記カプセルへの充填によって熱電素子材料粉末間の密着力が向上し、脆性材料でも押し出し加工ができるようになる。ここで、シース材とは、粉末をカプセルに充填して前記押し出し加工を行うと、カプセルが粉末と一緒に引き延ばされて、得られた押し出し材においてカプセル材料が棒状の熱電素子材料粉末の外周を包む鞘のような形になることを意味する概念である。前記粉末をカプセルに充填しておくと、熱電素子材料表面の汚染と酸化を防止することも出来る。特に、後述する加熱時に熱電素子材料が酸化されることを効果的に防止することが出来る。
【0013】前記カプセルは、アルミニウム合金のような金属製のものであることが出来る。カプセルが金属製である場合、モジュール化の際に除いておく必要があるので、金属製カプセルは化学処理によって除去できるものであることが好ましい。アルミニウム合金は、その融点や押し出し加工時の変形抵抗が熱電素子材料たるSb _(2 )(Te、Se)_(3 )やBi_(2 )(Te、Se)_(3 )に比較的近いため、シース材として好適であり、化学的に溶解除去することも出来るからである。
【0014】シース材の除去方法としては、例えば、化学的除去、すなわち、塩化第2鉄やカセイソーダ等のアルカリ剤によってシース材を構成するアルミニウム合金等を溶解させて除去する方法がある。また、押し出し加工後の熱処理等により押し出し材の機械的強度が向上している場合は、旋盤加工や研削加工のような機械的処理方法によってシース材を除去してもよい。これらの方法を併用することもある。すなわち、シース材除去に用いる溶剤の量を少なくするためにシース材の表層をまず機械的に除去し、この機械的加工により熱電素子材料が損傷されない範囲内で機械的除去を止めて、残るシース材を溶剤を用いて除去するのである。シース材除去の別の方法としては、微細粉末の充填前にカプセル内の粉末充填部内面に離型剤を塗布しておく方法がある。これによって、シース材と熱電素子材料形材の分離を容易にすることができる。
【0015】前記カプセルは電気絶縁性合成樹脂製のものであることができる。合成樹脂としては限定する訳ではないが、熱硬化性樹脂が好ましい。カプセルから得られるシース材が電気絶縁性合成樹脂であると、そのまま用いてモジュール化したときに熱電素子チップの長手方向(軸方向)の電気的短絡が防止できるので、シース材の除去工程を省くことができ便利である。この場合は、シース材として金属材料を用いた場合と同様に加熱処理中の熱電素子材料の酸化を防止できるのに加えて、シース材が熱電素子チップの外周をその軸方向に電気的に絶縁しているので、電気的短絡を防止できると言う効果も得られる。」
「【0017】圧粉体を作製する際の加熱加圧で熱電素子材料の結晶粒成長方向を一方向にそろえて前記圧粉体に配向性を付与するようにすると、チップの熱電気的特性が一層向上する。結晶粒成長方向を一方向にそろえることは、加圧方向を制御することにより行う。前記押し出し加工は、熱電素子材料に延性を付与し潤滑下で脆性材料でも押し出し加工ができるようにするために、温熱加熱下で行うのが良い。前記温熱加熱は、粉末をカプセルに充填して得られるビレットを予備加熱すること、押し出し加工機に昇温手段を付加すること、雰囲気温度を高くすること等で実現することが出来る。
【0018】このような考慮から、押し出し条件としては、熱電素子材料としてp型にアンチモンテルル、n型にビスマステルルを用いた場合、押し出し時のビレットの温度は、前者では300?400°C(温間)、後者では400?500°C(熱間)とし、押し出し比は20?40、ステム速度は5?20mm/sec とすることが望ましい。なお、ビレット内の粉末充填部の熱伝導が良くないため、雰囲気加熱を十分に保持することが望ましい。急加熱すると粉末充填部内の温度分布が悪くなりやすいからである。保持時間は例えば2時間程度が望ましい。」
「【0020】前記押し出し加工で得られた押し出し材は、加熱加圧して熱電素子材料粉末の焼結体にすることが好ましい。この加熱加圧は、押し出し加工前に粉末を加熱加圧して圧粉体にした場合に重ねて行っても良い。押し出し材の加熱加圧により、押し出し材ないし熱電素子材料形材の機械的強度を向上させることが出来る。すなわち、焼結効果を付与するための熱処理は、押し出し材の主体を構成する熱電素子材料粉末間をネッキングする効果により機械的強度を向上させるのである。粉体を固めた熱電素子の場合、その材料密度は熱電気的性能因子であるので、その材料密度が高くなるほど一般に熱電気的特性が良くなる。前記加熱にはこのような意義もある。前記加熱加圧の際に熱電素子材料の結晶粒成長方向を一方向(a軸方向)にそろえて焼結体に配向性を付与するようにすると、熱電素子の熱電気的特性が一層向上する。前記熱処理の条件は、例えば、Sb _(2 )(Te、Se)_(3 )の場合は400?450°C×10hrであり、Bi_(2 )(Te、Se)_(3 )の場合は500?550°C×10hrである。
【0021】圧粉体や焼結体を得るための前記加熱加圧、配向性を得るための前記加熱加圧は、ホットプレス成形を用いて行うことが出来るが、そのための手段としては必ずしもホットプレス成形を用いることに限定されない。圧粉体の作製時の加熱加圧、前記押し出し時の温熱加熱、前記押し出し材の加熱加圧を行う際に、熱電素子材料の酸化による熱電気的特性の劣化を防止するために、前記加熱は非酸化性雰囲気中、すなわち、真空中、還元雰囲気中または不活性雰囲気中で行われるのが好ましい。このような意味では、押し出し材にシース材が付いている場合には、前記加熱はシース材が付いている状態で行うのが良い。
【0022】本発明における形材の形状は、前述のように任意の形状とし得る。形材の形状は、形材使用の便宜等から棒状とすることが好ましいが、棒状以外の板状等にした場合はチップを得るに先立ってこれを裁断し棒状にする必要がある。このようにして得られた熱電素子材料の形材は、複数本束ねてそのまま、あるいは樹脂等で固めたのち、所定の寸法に切断するのが通常であるが、単体を切断したのち、所定の位置に実装する等することもあり、切断方法はモジュールの作製方法に応じて選ばれる。
【0023】
【実施の形態】以下、本発明の好ましい実施の形態を、形材として棒状のものを採り上げ、その具体的な実施例を表す図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
─実施例1─
図1?4は、本発明の熱電素子材料棒材の製造方法を含む熱電素子チップの製造工程の全体を表している。このうち、図1は熱電素子材料粉末作製工程、図2?3は熱電素子材料棒材作製工程(本発明の実施工程)、図4は熱電素子材料棒材切断工程と仕上工程を表している。
○1 熱電素子材料粉末作製工程
図1(a)にみるように、結晶性熱電素子材料インゴット1を乳鉢2と乳棒3を用いて粉砕し、同図(b)にみるように、2.0mm程度の粒径の粗粉末11にした。
【0024】次に、同図(c)にみるように、前記熱電素子粗粉末を遊星ボールミル4に充填し、同図(d)にみるように、この粗粉末を機械的に粉砕し、同図(e)にみるように、0.1mm程度の粒径の比較的微細な粉末12にした。その際、粉末の酸化を防止するため、真空中で粉砕を行った。
○2 熱電素子材料棒材作製工程(本発明の実施工程)
図2(f)にみるように、微細粉末12を後述するシース材(図示省略)となるカプセル5に充填した。このカプセル5は、微細粉末12を充填するための空洞13を有する容器部51と前記空洞を閉ざす蓋部52とを備え、蓋部52は中央に前記空洞13を外部に開放する脱気管53を備えている。この場合、カプセル5はアルミニウム合金を用いて作製されている。
【0025】微細粉末12の充填後、蓋部52を容器部51に溶接で接合して押し出し用ビレット6を作製した。その際、脱気管53から脱気処理を行って容器部51内を真空にした後、脱気管53を密封処理した。これは、押し出し加工中にビレット6内で粉末充填部13の粉末が酸化されるのを防止するためである。カプセル5への粉末充填とビレット6の作製は、微細粉末12の酸化を防止するため、真空中で行った。
【0026】次に、図2(g)にみるように、ビレット6を押し出し加工装置7にセッティングし、図3(h)にみるように、押し出し加工を行い、同図(i)にみるように太さφ5.0mmの押し出し材14を得た。図中、71はダイ部、72はガイド部、73は押圧部、141は熱電素子材料、142はシース材である。押し出し条件は、本実施例では、ビスマステルルを用い、押し出し時のビレット温度は400°C、押し出し比は20、ステム速度は10mm/sec であった。なお、ビレット内の粉末充填部13の熱伝導が良くないため、急加熱すると粉末充填部13内の温度分布が悪くなりやすい。そこで、400°Cの雰囲気加熱を行い、この雰囲気温度を120分間保持した。
【0027】得られた押し出し材14に対しては、焼結効果を付与するために熱処理を施した。この熱処理は、押し出し材14の主体を構成する熱電素子材料141の粉末間をネッキングする効果により機械的強度を向上させた。この熱処理条件は、本実施例では、ビスマステルルなので450°C、10時間、窒素ガス雰囲気中であった。」
「【0029】これらの熱処理は、熱電素子材料141の酸化防止のため、シース材142を付けたまま行った。そこで、焼結処理後に溶解剤として塩化第2鉄を使用してシース材142を除去したところ、図3(j)にみるように、熱電素子材料のみの棒材15を得た。この棒材15は直径1.6mm、長さ1500mmのものであった。
○3 熱電素子材料棒材切断工程と仕上工程
シース材除去後の熱電素子材料形材15を図4(k)にみるように切断して、直径1.6mm、長さ2.0mmのチップ16を得た。」
「【0040】・・・請求項10に記載の発明では、熱電素子材料に延性を付与し、潤滑下で脆性材料でも押し出し加工ができる。・・・」
が、記載されている。
ここで、【0025】段落の「微細粉末12の充填後、蓋部52を容器部51に溶接で接合して押し出し用ビレット6を作製した。その際、脱気管53から脱気処理を行って容器部51内を真空にした後、脱気管53を密封処理した。」という記載によれば、熱電素子材料粉末をシース材となるカプセル内に充填する際に、「密封処理」することが、記載されている。
また、【0026】段落の「押し出し条件は、本実施例では、ビスマステルルを用い、押し出し時のビレット温度は400°C、押し出し比は20、ステム速度は10mm/sec であった。」という記載によれば、「押し出し比は20」であるから、当初のビレットの径よりも押し出し加工後のビレットの径は小さくなっており、また、押し出し時のビレット温度は400°Cである(「前記押し出し加工を温熱加熱下で行う」(請求項10))から、縮径させる押し出し加工を行うとともに前記押し出し加工を温熱加熱下で行うことが、記載されている。
また、【0029】段落の「これらの熱処理は、熱電素子材料141の酸化防止のため、シース材142を付けたまま行った。そこで、焼結処理後に溶解剤として塩化第2鉄を使用してシース材142を除去したところ、図3(j)にみるように、熱電素子材料のみの棒材15を得た。」という記載によれば、「熱処理」を、「シース材を付けたまま行」い、「焼結処理後に」「シース材を除去し」て、「熱電素子材料のみの棒材を得」ることが、記載されている。

以上の記載から、刊行物1には、次の発明が、記載されている。
「熱電素子チップを切り出すための形材の製造方法であって、結晶性熱電素子材料インゴットを粉砕して得られた熱電素子材料粉末をシース材となるカプセル内に充填、密封処理して押し出し加工して所望の形状の形材に成形し、前記形材の形状が棒状であり、前記押し出し材に前記シース材が付いている状態で加熱加圧して前記熱電素子材料粉末を焼結体にし、焼結処理後に前記シース材を除去して熱電素子材料のみの棒材を得るにあたり、縮径させる前記押し出し加工を行うとともに前記押し出し加工を温熱加熱下で行うことを特徴とする熱電素子チップ作製用形材の製造方法。」

本願の出願前日本国内において頒布された刊行物2(特開昭52-29407号公報)には、第1図、第2図とともに、
「チタン棒の製造法」(発明の名称)に関して、
「チタン棒を製造するにあたり、スポンジチタンふるい下粉などのチタン粉を管に充填し、該管をスエージング、圧延又は押出し等の冷間加工により径を縮ませることでチタン粉を半径方向に圧縮すると共に棒状に成形することを特徴とするチタン棒の製造法。」(特許請求の範囲)、
「次に本発明は所要の粒度にしたチタン粉(1)を所要の径と長さの金属又は非金属管(2)に充填する。管(2)は予め内面を水洗、脱脂処理しておき、次いで栓(3)を施すかあるいはスエージングで口端を窄める如くして管(2)の一端を閉鎖し、管(2)の他端から前記チタン粉(1)を充填する。このとき必要に応じて管(2)の周囲から機械的な振動を与え、そして充填後、管(2)の他端に仮柱(3’)を施すなどして軽く閉鎖しておく。なお、中空チタン棒を製造する場合には管(2)内に芯金を挿通し、この芯金と管内面間にチタン粉(1)を充填しておく。
次いで、本発明はチタン粉(1)を充填封入した管(2)をスエージング、圧延又は押出し等冷間による機械的塑性加工手段で径を縮ませる。第2図はこうした管(2)の縮径によるチタン粉の圧縮成形をスエージングで行つている状況を示すもので、チタン粉(1)を充填封入した管(2)を送り手段によりスエージングマシン(4)(この実施例はロータリースエージングマシン)に送入する。このマシンは数個で1組となつたダイス(5)の複数組を目的とする棒径に応ずるように直列に配してあり、管(2)をそれら複数組のダイス(5)(5)に順次通しつつダイス(5)(5)を管の半径方向に往復動させて管(2)を叩くことで管径を縮め、これによりチタン粉末(1)を半径方向に圧縮せしめる。なおスエージング方式としては、ダイスが回転する方式に代え、管を回転させる相打ち鍛造としてもよい。また図示しないが圧延で本工程を行うには、溝径が次第に小さくなるよう一部に遊隙があり一部に圧延部のある溝型ロールスタンドに管を通し、各スタンドのロールにより径を絞つて内容積を減少させるものである。しかしていずれにしても、この工程で管(2)の径を縮めれば、内容積の減縮により内部のチタン粉(1)は半径方向から圧縮され、そして管(2)の半径方向の収縮で管(2)は長手方向に伸長するが、封入されているチタン粉(1)と管(2)の内壁間に強い摩擦作用が働くため、これでチタン粉(1)の長手方向の移動が自然に拘束され、管(2)の長手方向の伸びにもかかわらず高い密度の棒材として連続的に成形されるものであり、しかもチタン粉(1)はその性質が軟かく、ねばさを有しているため上記と相俟ち亀裂等も生じず、真密度に近くまで圧縮成形される。
上述のようにして外皮管付きのチタン棒(6)が得られるので、中空チタン棒の場合は芯金を引抜いた後、旋盤あるいはビーリングマシン等により外皮管(2)の皮剥きを行い、チタン棒(7)を取出す。」(第2頁右上欄第9行?同頁右下欄第19行)
が、記載されている。

2 対比・判断
2-1 本願の請求項1に係る発明について
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)と刊行物1に記載された発明(以下、「刊行物1発明」という。)とを対比する。
刊行物1発明の「結晶性熱電素子材料インゴットを粉砕して得られた熱電素子材料粉末」は、本願発明の「結晶性熱電素子材料を粉砕して得られた熱電素子材料粉末」に相当し、刊行物1発明の「押し出し加工」は、成形加工の一種であるので、刊行物1発明の「熱電素子材料粉末をシース材となるカプセル内に充填、密封処理して押し出し加工」することは、本願発明の「熱電素子材料粉末をカプセルに充填密封して成形加工を行」うことに相当し、刊行物1発明の「押し出し加工して所望の形状の形材に成形し、前記形材の形状が棒状であ」ること、「前記形材の形状が棒状であり、前記押し出し材にシース材が付いている状態で加熱加圧して前記熱電素子材料粉末を焼結体に」すること、「焼結処理後に前記シース材を除去して熱電素子材料のみの棒材を得ること」、「熱電素子チップを切り出すための形材の製造方法」は、それぞれ、本願発明の「成形加工を行い、得られたシース付きの棒材」、「得られたシース付きの棒材を焼結」すること、「焼結してシース部金属を除去すること」、「熱電素子チップを切り出すための形材を製造する」ことに相当するので、刊行物1発明の「熱電素子チップを切り出すための形材の製造方法であって、結晶性熱電素子材料インゴットを粉砕して得られた熱電素子材料粉末をシース材となるカプセル内に充填、密封処理して押し出し加工して所望の形状の形材に成形し、前記形材の形状が棒状であり、前記押し出し材に前記シース材が付いている状態で加熱加圧して前記熱電素子材料粉末を焼結体にし、焼結処理後に前記シース材を除去して熱電素子材料のみの棒材を得ること」は、本願発明の「結晶性熱電素子材料を粉砕して得られた熱電素子材料粉末をカプセルに充填密封して成形加工を行い、得られたシース付きの棒材を焼結してシース部金属を除去することで熱電素子チップを切り出すための形材を製造する」ことに相当する。
また、刊行物1発明の「縮径させる前記押し出し加工を行う」ことは、上記したように「押し出し加工」が成形加工の一種であるので、本願発明の「縮径させる成形加工を」「行」うことに相当する。
してみると、本願発明と刊行物1発明とは、
「結晶性熱電素子材料を粉砕して得られた熱電素子材料粉末をカプセルに充填密封して成形加工を行い、得られたシース付きの棒材を焼結してシース部金属を除去することで熱電素子チップを切り出すための形材を製造するにあたり、縮径させる成形加工を行うことを特徴とする熱電素子チップ作成用形材の製造方法。」の点で一致し、以下の点で相違している。
相違点1
本願発明は、「半径方向に外力を加えることで縮径させる成形加工を多段階で行って順次小径化していく」との構成を備えているのに対して、刊行物1発明は、「縮径させる」「押し出し加工を行う」ものである点。
相違点2
本願発明は、「多段にわたる成形加工の途中にアニール処理を行うこと」との構成を備えているのに対して、刊行物1発明は、「押し出し加工を温熱加熱下で行うこと」との構成を備えている点。
そこで、上記相違点1、2について検討する。
[相違点1について]
刊行物2には、「チタン棒の製造法」であり、「チタン粉を管に充填し、該管をスエージング、圧延又は押出し等の冷間加工により径を縮ませることでチタン粉を半径方向に圧縮すると共に棒状に成形すること」(特許請求の範囲)が、記載されており、「スエージング」「加工」と「圧延」「加工」と「押出し」「加工」が、並列的に記載されている。そして、刊行物2に記載の「管をスエージング、圧延又は押出し等の冷間加工により径を縮ませることでチタン粉を半径方向に圧縮する」(特許請求の範囲)ことは、本願発明の「半径方向に外力を加えることで縮径させる成形加工を」「行って」「小径化していく」ことに相当し、刊行物2には、「管を」「押出し」「加工により径を縮ませることで」「半径方向に圧縮する」ことも記載されており、刊行物2に記載の「押出し」「加工」は、刊行物1発明の「押し出し加工」のことであり、刊行物2に記載の「半径方向に圧縮する」ことは、本願発明の「半径方向に外力を加えることで縮径させる」ことに相当するので、刊行物1発明の「押し出し加工」は、本願発明の「半径方向に外力を加えることで縮径させる成形加工」に相当することが理解できる。
また、刊行物2には、「第2図はこうした管(2)の縮径によるチタン粉の圧縮成形をスエージングで行つている状況を示すもので、」「スエージングマシン(4)」「は数個で1組となつたダイス(5)の複数組を目的とする棒径に応ずるように直列に配してあり、管(2)をそれら複数組のダイス(5)(5)に順次通しつつダイス(5)(5)を管の半径方向に往復動させて管(2)を叩くことで管径を縮め、これによりチタン粉末(1)を半径方向に圧縮せしめる。」(第2頁左下欄第4?15行)ことが、記載されている。そして、この記載のうち、「スエージングマシン(4)」は「ダイス(5)(5)を管の半径方向に往復動させて管(2)を叩くことで管径を縮め」ることは、本願発明の「半径方向に外力を加えることで縮径させる成形加工を」「行」うことに相当し、「管(2)をそれら複数組のダイス(5)(5)に順次通」すことは、本願発明の「成形加工を多段階で行」うことに相当するので、刊行物2に記載の「スエージングマシン(4)」「は数個で1組となつたダイス(5)の複数組を目的とする棒径に応ずるように直列に配してあり、管(2)をそれら複数組のダイス(5)(5)に順次通しつつダイス(5)(5)を管の半径方向に往復動させて管(2)を叩くことで管径を縮め」ることは、本願発明の「半径方向に外力を加えることで縮径させる成形加工を多段階で行って順次小径化していく」ことに相当する。
さらに、刊行物2には、「また図示しないが圧延で本工程を行うには、溝径が次第に小さくなるよう一部に遊隙があり一部に圧延部のある溝型ロールスタンドに管を通し、各スタンドのロールにより径を絞つて内容積を減少させるものである。」(第2頁左下欄第17行?同頁右下欄第2行)と、成形加工の一種であるロール圧延の例が記載されている。そして、この記載によると、「溝径が次第に小さくなるよう」に「各スタンドのロールにより径を絞つて内容積を減少させるもの」、言い換えると、多段の「溝型ロールスタンド」が、示されており、刊行物2に記載の「溝径が次第に小さくなるよう一部に遊隙があり一部に圧延部のある溝型ロールスタンドに管を通し、各スタンドのロールにより径を絞つて内容積を減少させるものである」(第2頁左下欄第18行?同頁右下欄第2行)ことも、本願発明の「半径方向に外力を加えることで縮径させる成形加工を多段階で行って順次小径化していく」ことに相当する。
なお、刊行物2に記載の「管(2)」は、本願発明又は刊行物1発明の「カプセル」又は「シース」に相当する。また、刊行物2に記載の「チタン粉」は、本願発明又は刊行物1発明と同様に、粉末からなる材料である。
すると、刊行物1発明の、「縮径させる」成形加工である「押し出し加工を行う」ものに代えて、材料は異なるものの、同様に材料が粉末からなり、成形加工である「スエージング」「加工」と「圧延」「加工」と「押出し」「加工」が、並列的に記載されている、刊行物2に記載の「スエージングマシン(4)」「は数個で1組となつたダイス(5)の複数組を目的とする棒径に応ずるように直列に配してあり、管(2)をそれら複数組のダイス(5)(5)に順次通しつつダイス(5)(5)を管の半径方向に往復動させて管(2)を叩くことで管径を縮め」ること、あるいは、「溝径が次第に小さくなるよう一部に遊隙があり一部に圧延部のある溝型ロールスタンドに管を通し、各スタンドのロールにより径を絞つて内容積を減少させるものである」ことを適用し、本願発明の如く、「半径方向に外力を加えることで縮径させる成形加工を多段階で行って順次小径化していく」ことは、成形加工による加工比等に応じて、当業者が適宜選択できた程度のことと認められる。
[相違点2について]
刊行物1発明は、「押し出し加工を温熱加熱下で行うこと」との構成を備えている。そして、「アニール処理」は、熱処理一般のことであるから、刊行物1発明の「温熱加熱」は、本願発明の「アニール処理」に相当する。また、刊行物1発明は、押し出し加工を行っている間は、アニール処理を行っていることになる。
ところで、本願の願書に最初に添付した明細書の発明の詳細な説明【0020】段落(平成17年10月31日付け補正書の【0019】段落)には、「ところで、ビレット2を一度に縮径してしまうのではなく、漸次縮径させて小径化させるとはいえ、加工に伴う加工硬化が小径とするにつれて問題となってくる。このために、多段にわたる成形加工の途中にアニール処理を行うとよい。表3は、ロール圧延加工で直径10mmのビレットを□4.3×4.5mmまで小径化するにあたり、途中の□6.3×6.5mmの段階でアニール処理を行った場合を示しており、この場合、シース破砕を招くことなく加工が完了したが、アニール処理を施さなかった場合は、□4.3×4.5mmとした時点でシース破砕が生じた。」と記載されている。すなわち、「ロール圧延加工で直径10mmのビレットを□4.3×4.5mmまで小径化するにあたり、途中の□6.3×6.5mmの段階でアニール処理を行っ」ている。「途中の□6.3×6.5mmの段階でアニール処理を行」うということは、□6.3×6.5mmのロール圧延加工をしている段階でアニール処理を行うということであるから、少なくとも、複数あるロール圧延加工を行う段階の1つの段階でアニール処理を行うことを示している。また、「途中」は、一般には、ものごとの始めから終わりまで間を意味するから、本願発明の「多段にわたる成形加工の途中にアニール処理を行うこと」との構成は、多段にわたる成形加工を行う全段階の始めから終わりまでの間でアニール処理を行うことを意味しているにすぎない。そうすると、本願発明の「多段にわたる成形加工の途中にアニール処理を行うこと」との構成は、発明の詳細な説明の記載を参酌すれば、「多段にわたる成形加工」のうちのどこかの1段でアニール処理を行うことを包含するとともに、「多段にわたる成形加工」の全段階を含む複数の段階でアニール処理を行うことをも包含することになる。
また、刊行物2に記載の「スエージングマシン(4)」「は数個で1組となつたダイス(5)の複数組を目的とする棒径に応ずるように直列に配してあり、管(2)をそれら複数組のダイス(5)(5)に順次通しつつダイス(5)(5)を管の半径方向に往復動させて管(2)を叩くことで管径を縮め」る(第2頁左下欄第7?14行)ことと、刊行物2に記載の「溝径が次第に小さくなるよう一部に遊隙があり一部に圧延部のある溝型ロールスタンドに管を通し、各スタンドのロールにより径を絞つて内容積を減少させるものである」(第2頁左下欄第18行?同頁右下欄第2行)ことによると、刊行物2に記載の「スエージング」「加工」と「圧延」「加工」は、それぞれ多段階で行われている。
そこで、刊行物1発明の「押し出し加工を温熱加熱下で行う」という成形加工の代わりに、成形加工として、「スエージング」「加工」と「圧延」「加工」と「押出し」「加工」が、並列的に記載されている、刊行物2に記載の、多段階で行う「スエージング」「加工」、又は「圧延」「加工」を採用すると、刊行物1発明は、押し出し加工を行っている間は、「温熱加熱」(アニール処理)を行っているので、刊行物2に記載の、多段階の成形加工である「スエージング」「加工」、又は「圧延」「加工」は、多段階の成形加工の全ての段階で「温熱加熱」(アニール処理)を行うことになる。そして、多段階の成形加工の全ての段階で「温熱加熱」(アニール処理)を行うということは、多段階の成形加工の途中の全ての段階で「温熱加熱」(アニール処理)を行うことであるから、本願発明の「多段にわたる成形加工の途中にアニール処理を行うこと」との構成に相当している。
したがって、相違点2に係る、本願発明の「多段にわたる成形加工の途中にアニール処理を行うこと」との構成は、刊行物1及び刊行物2に記載に基づいて、当業者が適宜なし得た程度のものと認められる。
さらに、一般に、多段にわたる成形加工において、「温熱加熱」(アニール処理)を行う場合は、多段にわたる成形加工の全ての段階で「温熱加熱」(アニール処理)を行うばかりではなく、多段にわたる成形加工のうちの「温熱加熱」(アニール処理)が必要な段階で適宜「温熱加熱」(アニール処理)を行うことができるものである。すなわち、「温熱加熱」(アニール処理)は、多段にわたる成形加工のいずれかの段階、あるいは、全ての段階で行うことができるものであるので、「温熱加熱」(アニール処理)は、多段にわたる成形加工の途中のいずれかの成形加工の段階で行うことも、当業者が適宜選択できた程度のことである。
したがって、刊行物1発明において、刊行物2に記載の、多段階で行う「スエージング」「加工」、又は「圧延」「加工」を採用する際に、多段にわたる成形加工の途中のいずれかの1段、又は複数段で「温熱加熱」(アニール処理)を行うことは、当業者が適宜選択できた程度のことである。

なお、審判請求人は、平成19年7月17日に提出した回答書の「【回答の内容】(1)」において、請求項1の記載について、「半径方向に外力を加えることで縮径させる成形加工」を「半径方向に外力を加えることで縮径させる非熱間成形加工」(以下、「補正要望事項1」という。)と、「アニール処理を行う」を「シース破砕防止のためのアニール処理を行う」(以下、「補正要望事項2」という。)と補正をしたい旨、主張している。
しかしながら、上記補正要望事項1についての補正をすることは、本願の最初に添付した明細書の【0006】段落及び【0023】段落に「熱電材料が十分な延性を示す高温化で加工を行う必要がない」という記載があるものの、このような記載では、「熱電材料が十分な延性を示す高温」ではないが、熱をかけた加工を行うことも考えられ、また、本願の願書に最初に添付した明細書には、「非熱間」という用語がないのであるから、補正要望事項1についての補正をすることは、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものではなく、補正要望事項1についての補正をすることは、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たさない。
したがって、上記補正要望事項2についての検討をするまでもなく、請求人の上記主張は、採用することができない。

よって、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明についての検討をするまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-02-26 
結審通知日 2008-03-04 
審決日 2008-03-19 
出願番号 特願平11-45424
審決分類 P 1 8・ 561- Z (H01L)
P 1 8・ 571- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 574- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小田 裕北島 健次  
特許庁審判長 松本 邦夫
特許庁審判官 井原 純
河合 章
発明の名称 熱電素子チップ作成用形材の製造方法  
代理人 西川 惠清  
代理人 森 厚夫  

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